それまで読んでくださる方はいらっしゃるのかしら・・・。
視線が痛いとはこの事だろう。
職員室へ出向いた一路と鷲羽を迎え入れた担任は、どう考えても胡散臭げに鷲羽を見ている。
上から下まで。
そして、一路に視線を向ける。
向けられても、一路にはどうも言いようもない。
しかし、担任はそれ以上深く追求することなく彼等を先導して別室へと移動する。
非常に息苦しい。
それが一路の感想。
「えぇと、とりえず彼の成績ですけれど・・・。」
二人が席に着くと担任はそのまま何事もなく面接を始めた。
一路が息を撫で下ろしたのは言うまでもないが、まだ面接は始まったばかりなのだ。
鷲羽相手では、何がどうなるかは解ったものじゃない。
「私の手元にあるものは、2年生の時のものですが、可もなく不可もなくってところですね。」
「中の中の、ど真ん中ってトコかしら?」
「いえ、上の中ってところです。苦手な教科はしいて言えば社会かしら?」
「あ、そのものは嫌いじゃないんですけれど、暗記が・・・。」
正確には流れの伴わない単語の暗記がである。
その証拠に歴史物語は好きだ。
物語形式ならば覚えられる。
「まぁ、お受験用の暗記は作業だからねェ。その辺は諦めるしかないね。」
何でも一瞬で覚えられる鷲羽には、そもそも暗記という概念がない。
システムだろうがなんだろうが、天才鷲羽ちゃんにとっては、忘れたら新たに構築すればいい。
それだけの話だ。
彼女にはそれが出来てしまう。
「そうね。臨機応変というのは大事よ。問題は苦手意識、それを持たない事ね。授業にはついていけてる?」
「あぁ、それは。」
「なら、成績に関しては特に言うべき事はないわ。」
閻魔帳を眺めながら頷く。
「手のかからないコでいいね。ウチなんか手のかかる娘が・・・あ、話題がズレたね、コリャ。」
ぽりぽりと頭を掻きながら足を組む鷲羽。
手のかかる娘とは誰なのかは最早言わずもがな。
「それで進路の方なのだけれど、進学でいいのかしら?」
進学。
つまり高校受験だ。
担任の教師は一路のここに来る前の成績を得ているという事は、彼の事情も知っているという事だ。
そのうえでの問い。
(そう考えると僕は、素行不良扱いなのかな?)
色んな意味での問題児に含まれるのかも知れないのではないかという思い。
内容はどうあれ、一括りにするとそのように分類されてしまう。
「高校進学と一口に言っても、商業・工業・他にも高専とか普通科以外にもあるからね・・・。」
「あの、僕は・・・。」
高校進学。
ここからどんどん人生の岐路は増えてゆく。
それは解っているし、選ばなければいけないというのも・・・しかし、だ。
「その、今は、一日一日を大事にしたいというか・・・精一杯生きたいというか・・・。」
将来を踏まえて考えなければいけない。
そうなのだが、一路は環境を変えてやり直しを始める事に今は精一杯。
しかも始まったばかりなのだ。
「センセ、この子はもう一度頑張り直そうと始めたばかりなんだ。いずれ決めなきゃいけないって事は本人も重々承知してるサ、ね?」
自分の言いたい事をうまく言葉に出来ずに、もどかしく思ってるのを見兼ねた鷲羽の言葉に一路は頷く。
「それにサ、先生。今、高校進学って決めたとしても、先の事は誰にも解らないよ?来年になったら、もしかして地球を飛び出して宇宙にいるかも知れないじゃないか。」
「宇・・・。」
「・・・宙。」
鷲羽の言葉に二人は唖然とする。
突拍子もない事、このうえなく。
それこそ地球を飛び出す程にブッ飛んでる。
「なんてね、例えだよ、例え。」
片目を瞑ってウィンクをしても全然可愛くも、お茶目にも見えない。
それくらい鷲羽の発言は一路にしてみれば驚きだった。
「例え・・・ですか。確かに慌てて決める事ですから、じっくり考えてくださって構わないのですが、なるべく夏くらいまでには・・・。」
担任の教師にだって都合や仕事がある。
一路が進学すると決めた場合には、用意しなければならない書類だとてあるだろう。
「ま、それはそうだろうねェ。一路、無理せずに頑張るんだよ。」
教師の手前、保護者の代理として名前を呼び捨てにして微笑む鷲羽。
その鷲羽に何故だか、また母のイメージを強く抱く。
全然、これっぽちも母に似てないというのに・・・。
でも、一路はその言葉に頷いた。
次回は、シーン割りの都合上、文字数が少なくなっていましそうです。
ご容赦を。