第160縁:さりとてその旅路は・・・?
何事もない。
とても平穏だった。
それが一路の帰路での感想。
しかし、考えねばならない事が山程あった。
樹雷に残した灯華の事を始め、全に言われた言葉。
地球人である自分と宇宙で出会った人々との価値観。
『で?その後は?』
そう問うてきた瀬戸の言葉の意味。
今までは選択肢などほとんど無かった。
ただガムシャラにやってきたから。
では、今は?
今は勿論、選択肢がそうあるわけではないけれども・・・。
それでも樹雷では"樹を選ばない事を選べた。"
結果は、今形を持って一路の腰の辺りに確かな重みを成している。
自分がこれから成すべき事とは一体何だろう?
瀬戸の口振りからすると、ちょっとばかり知名度が上がるという事だが・・・。
(注:一路は詳しく説明されていない為、"作為的"にそう考えるに至っている。)
となれば、自分のやりたい事に賛同する仲間だとて集められるだろうか?
「眉間にシワ寄っとるで?」
「NB・・・。」
何時の間にか足元に転がっている。
思えばNBはいつも絶妙なタイミングで一路の傍にいて、必ず何かを言ってくれていた。
「・・・NB、ありがと。」
思わず口をついていた。
「ん?あんな坊?そういうんは、最後の最後で言うもんやで?」
「えぇ?そうかなぁ?必要と思ったら伝えるべきだと思うんだけど?」
母にはそれが言えなかったから。
そう言葉を続けるのを控える。
「女やったらな。男同士にそんなんいらんやろ。」
「そういうものかな?」
「そういうもんや。大体な、坊?一人で悩むから、袋小路に入ってこーんな顔になるんやで?」
と、例の太眉の濃い顔でキリとキメる。
「え、嘘だぁ。」
「ま、ええわ。帰ったらぎょーさん"一緒に"考えようや。な?」
「え、あ、うん・・・ありがとう。」
結局のところ、自分の考えや性格を一番把握しているのはNBのような気が一路にはしてきた。
いや、以前からもそう思う事はあったが・・・。
「と・い・う・わ・け・でっ!坊、風呂場でも行こか?丁度いいタイミングに今、アウラはんが入っとるさかいな。」
「う゛ぇっ?!ちょっ、なんでそうなるわけ?!」
というわけでという話題転換も解らないし、何が丁度いいタイミングなのかも意味不明だ。
先程までの自分を理解云々の感動も台無し。
「そこに風呂と美少女がおるからやろ?」
さも当然のように・・・。
「大声で何かあったでゴザるか?」
「あぁ、照輝にプーもいいところに!」
「お、いいところに来おったな・」
二人の登場に一路とNBはそれぞれ別の意味で声を上げる。
「NBがまたお風呂場を覗こうとしてるんだよ!」
「なんなら二人も一緒に行くか?」
「NB!」
そう話題を振られてプーと照輝の二人は顔を見合わせる。
そして微妙に困った顔を向けられた。
「いや、お誘いは嬉しいんだけど・・・。」
「流石に"人の嫁(候補)"相手にそれは遠慮しておくでゴザるよ。」
逆を返せばそうでなければ一緒に行ったのにと言わんばかりの口調に一路は更にげんなりする。
「んまぁ、いっちーが覗く分にはいいんじゃないかな?」
「良くないでしょ!」
一体全体どういう理屈だろうか。
「ま、それならしゃーないな。ほな、坊、ワシ達だけで行こか。」
「だから行かないって!」
日常か?これが返ってきた日常だというのか?
いや、そんなの断じて認めるわけにはいかないぞっ!と一人意気込む一路。
「何を言うとる坊、さっきも言ったやろ?そこに風呂と美少女がおるなら、男として行くのが礼儀や!」
「「うんうん。」」
何を馬鹿なと思う一路を尻目に、NBの言葉に力強く頷く二人。
「もう!・・・確かにあーちゃんが美人なのは認めるけど・・・。」
一路だとて男の子である。
女性に興味がないわけではないし、美醜の感覚もある。
勿論、好みも。
別にアウラの事を嫌いというわけでもない。
周囲の正妻(何故そんな超展開になったか解らないが)という囃し立てを抜きにしても、好ましく思っている。
「私が、何?」
「ふぇっ?!」
そんな一路の考えをよそに至って冷静、どころか話題の内容が内容だけに冷水になりそうな声がかけられる。
「あ、あっ、あーちゃん!」
別にやましい事をしたわけではない。
寧ろ、そういった行為を止めようとした側なのに何故だか声が裏返りそうになった。
「?どうかして?」
風呂上りのせいか、白磁のような肌を心なし桜色に染めてはいるが、相変わらずのクールさにタジタジになってしまう。
「いやな、坊がアウラはんと一緒に風呂に入りたい言うてなー。」
「へ?!」
一瞬にして首謀者に仕立て上げられてしまった事に一路は奇声を上げる。
「お風呂に?」
「いやね、あーちゃん、これはね、NBが勝手に・・・。」
なんとか弁明を試みようと、しどろもどろになりながら一路はアウラに訴えようとするのだが、当のアウラには聞こえていないようだ。
既に思考する事に力を注いでいるのか聞こえているように思えない。
アウラには時折こういった事がある。
プー曰く、思考加速型の身体強化をしているのではないだろうかという事だったが。
「あのね、だから・・・。」
「・・・次からは私が"入る時"に言って。」
「い゛っ?!」
そう告げると、話はこれで終わりとばかりにすたすたと歩き去ってしまった。
「流石、正妻。」
「で、ゴザるな。」
去ってゆくアウラの背を見送りながら、妙に納得する二人に完全停止する一路。
「なーんや、つまらん。」
耳と思われる辺りをほじりながら、思ったより面白い展開にならなかったNBだけはケッと悪態をつく。
「まぁ、坊が好かれてるっちゅーコトが再確認出来ただけでもよしとするかぁ。ほな、解散。」
NBが宣言すると、皆が各々の持ち場に戻る為にその場を離れてゆく。
ただ一人、固まったままの一路を除いて。
異性と入浴というのは、一路にとって刺激が強かったのかも知れない。
というか、章の始まりがこんなんでいいのか主人公!!
天地って(GXP)こんなでしたよねー(笑)