真・天地無用!~縁~   作:鵜飼 ひよこ。

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第158縁:そして今日も前途多難。

「それで?これからどうするつもりなのかしら?」

 

 舟参と別れ、来た時と同じように道辿って帰る。

 

「アカデミーに一度戻ります。もう除籍されていると思うけれど、宇宙船を勝手に持ち出しちゃったので・・・アイリ理事長と静竜先生に謝らないと。」

 

 やってしまった事は後悔はないが、その行為自体は犯罪なので宇宙船を返却して謝罪し、然るべき処罰を受けなければならない。

灯華と同じようなものだ。

 

「何故、そこで天南の馬鹿息子が出てくる?」

 

 阿主沙の口ぶりからして、先生自身の事は知っているようだったので、その辺りの事は省略し一路は説明する。

教科担当である事、そして半ば騙すように(と、しておいた方が先生の名誉のためにも良いと判断して)宇宙船を手に入れて今に至る事を。

そんな一路の話を聞いて黙り込む阿主沙。

 

「ま、まぁ、その辺はこっちでも穏便に済むようにアイリ殿にもお願いしておくから。」

 

 阿主沙が押し黙り、それが非常に不機嫌だと解る表情をしていると気づいた瀬戸が間に入ると、慌ててフォローを始める。

 

「・・・天南の倅に、瀬戸。その他に色々と・・・少し、"アレ"過ぎはせぬか?」

 

 アレとはどういう事だろうと首を傾げるが、阿主沙の脳裏に浮かんだ人間の名は一路には解らない。

解らないが、これはきちんと言わねばならぬという事だけは解る。

 

「生徒想いのいい先生ですよ?奥さんのコマチさんにもお世話になってますし。」

 

 困った事に一路の方は当然の如く本音を言っているのだから、それを聞いた阿主沙が余計に渋面になるのも無理はない。

最早、病気か変な宗教かと思うばかりだ。

 

「どうやら今回は"天才"の目が出てるみたいねぇ。」

 

 こっそりと耳打ちする瀬戸。

 

「良いか?アレの事で何か不便を感じたのならば、必ず他の"良識ある"大人に言うのだぞ?」

 

 ちなみにその良識的とやらには、瀬戸もアイリも入っていない。

ギリギリ戦闘モードではない時の美守くらいか。

 

「はぁ。」

 

 逆に一路の方はというと今ひとつピンと来ていない。

というより阿主沙の意図が解らなかった。

 

「い・い・な・?」

 

 力強く言われて頷くに至る。

 

「で、穏便に済んだとしてその後はどうするの?」

 

 何らかの罰則はあるだろうが、その後にGPに居続けられるかは別だ。

一路自身、既に学籍・所属は抹消されていても驚かないし、そのつもりでいる。

そもそもアカデミーの入学自体が目的達成の手段であって・・・それが楽しくなってしまった面は確かにあるが。

 

「皆が残れるなら全責任を取って退学になるのは構わないし、戻れなくても仕方がないとは思うんですけど、どうなったとしても一度地球には戻ろうと思ってます。」

 

 自分が突然いなくなった事に関しては鷲羽がどうにかしてくれていると信じきっているので、それ自体は何も心配はしていない。

していないのだが、それでも父の事とか気にならないわけではない。

今や、たった一人の肉親なのだし。

 

「地球を出る時に、天地さんに餞別で貰った木刀を折ってしまったので、謝りに行かないと・・・。」

 

 この木刀がなければ今の自分はない。

感謝してもし足りないのに、それを折ってしまったというショックはそれなりに大きかった。

思わず腰にさしたソレを撫でる。

 

(・・・遙照の・・・"船穂の木刀"か・・・放蕩息子にしては粋な事をすると褒めてやりたいところだが・・・国家機密だぞ、馬鹿者。)

 

 恐らく木刀以上の硬度で彼を守り、能力に関する電波塔のような補助の役割もしてきたのだろう。

 

「全く、何処までも律儀なヤツめ。どれ、もしアカデミーから地球への足がなければ連れていって・・・。」 「阿主沙殿。」

 

 最後まで言わせる事なく瀬戸が阿主沙の言葉を遮る。

樹雷皇自ら船でとなったら、何の軍事行動とも思われかねない。

いや、樹雷の人間というものは生来が宇宙の民というか、風来坊、冒険野郎の気質が抜けないのだ。

阿主沙自身、この地位についてなければ今頃銀河中を旅していただろう。

可愛い愛娘に会いたいというのもあるが。

 

「確かにそれくらいの手段なら用意しましょう。出たくなったら天地殿達がいるのだし、でもそういう事ではなく、もっと後の話ね。」

 

「もっと後?」

 

「どうするつもりなのかしら?ずっとそのままでもいいのだけれど、アナタの周りの人間はそっとしておいてくれないでしょうね。」

 

 嫌な大人の言い回しだな。

数時間前の一路だったらそれだけしか思わなかったかも知れないが、今は違う。

"樹雷の人間"である瀬戸と"地球人"の一路にとって、これは必要なやりとりなのだろう。

なんとなくだがそう思う。

これも説明された自分の能力の一つなのだろうか?

 

「樹選びに成功したか失敗したかは関係ないわ。樹雷の人間以外の者が樹選びに参加しただけでそれはそれは優秀な人間と認識されるの。そりゃそうよねぇ、樹と契約した人間が樹雷の、それも何処の所属でもないとしたら、それこそたぁっいへ~ん♪」

 

 何が大変だ、この鬼ババア。

それを言ったら山田西南がモロそうではないか、本人に確認も取らずに結婚式の準備すらしてたクセに。

阿主沙は今も銀河中を飛び回ってる青年を不憫に思う。

 

「何か・・・面白いですね、そういうのって・・・。」

 

 一路は一人微笑む。

 

「樹と契約したかどうかは関係なくて、ましてや僕の人格なんてのも重要じゃなくて、どっちかっていうとどうでもいい事で・・・大人になるってそういう事なんですかね?」

 

 名前とか人格とかそういうモノではなく、記号みたいに。

社会の歯車とは日本でもよく例えたりするが・・・そういう扱いは一路が地球で学校に行かなくなった時の大人達と近いものがある。

その辺りは、意外と冷静に一路の中で処理できているのだが、なんだろうか、それと同じような感覚が宇宙に出てもあるというのは・・・。

以前に指摘された通り、少々の幻想や理想が自分の中にあったのやもと認めざるを得ない。

 

「そうだな。大人というとなにかとメンツ、メンツだ。ワシもそうだ。子供の頃にそんなもんの洗礼を浴びた結果が"コレ"だ。」

 

 それで樹雷皇というのはそれはそれで凄いんじゃないかと思えるが・・・。

 

「守る者が増えるのはな、失う可能性も増えるという事だ。そしてそれを失う事や傷つく事に対しての恐怖は総じて増す。それこそ保身に狂うくらいにな。全く愚かであろう?そして哀れにも思う。大人などと大層な事を子供に言っていても実際はそんなものだったりするものだ・・・まぁ、娘には言うなよ?」

 

 非常にぶっちゃけた等身大の皇様というのもいないだろう。

だが、だからこそ樹雷皇になれたんじゃないかと一路は妙に納得した。

なんだかんだいって、一路がたどり着いたあの場所で、第一世代と契約できたのだ。

そこに尊敬の念はある。

 

「そういう大人には正々堂々正面切ってクソババアと言ってやればよい。なぁに、一度やってのけたのだ、もう怖いものはないだろう。」

 

「コラコラ阿主沙ちゃん?特定個人になってるでしょ、ソレ。」

 

 特定個人である瀬戸が阿主沙を睨む。

その様子に一瞬だけ視線を泳がせた後。

 

「ただ信じるに値する大人もいる事を忘れないでもらいたい。それと、これはワシ個人の意見というか願いなのだが・・・。」

 

 コホンと咳払いを一つする阿主沙は、切なそうに口を開く。

 

「カタチはどうであれ、親の愛情だけはどうか疑わんでくれ。」

 

「確かに、方向性はともかくね。」

 

「折角、話を上手くまとめようとしておるのに!」

 

「阿主沙ちゃんには前科があるから。」

 

 前科とは阿重霞を樹雷に連れ戻す為の強制見合いの件だ。

ちなみに相手は天南 静竜だったのが黒歴史たる所以である。

 

「とーにかく、変な勧誘があったとしてもいい?昔からアナタも言われてきたでしょ?"変なオトナ"について行っちゃダメよ?」

 

「瀬戸、それこそオマエがソレを言うのか?」

 

 "変なオトナ"の部類の筆頭を挙げろと言われれば、この樹雷では大抵は瀬戸が入る。

一路の場合、既に鷲羽→静竜→アイリ→瀬戸と、山田 西南と同じフルコースで既に手遅れと言ってもいい。

少なくとも、この名前のどれかしらに誰かが震え上がるのは間違いない。

そう思うと本当に本当にほんっとーにっ心の底から不憫だ。

いっそのこと各種被害者友の会の案内を取り揃えて送ってやり、本気で入会をすすめるべきだなと阿主沙は思う。

ただでさえこれから巻き込まれるであろう様々な懸念事項の他にも、一路に関して特筆すべき出来事があるのだから・・・。

 

 

 

 




次回で、樹雷編をしめたいと思います。
というより、ある意味で西南君のより状況が悪化してないか?

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