「さてっと、んじゃま、こっちはこっちでやる事を決めておこうぜ。」
プー達GP組の前に颯爽と現れた全の開口一番はこうだった。
「いきなり出て来たヤツが仕切るのは、イラっとくっかも知れないが、時間がねぇ。」
一路がよりにもよって樹選びをする事になったのだ。
どう考えても100%そこで事態が大きく動く。
「構わないよ。今一番大事なのは可及的速やかにいっちーのやりたい事をやって退散する事だしね。」
かく言うプーの返事もこんな感じに軽いものだった。
「今更、自己紹介云々というのもなんでゴザるしなぁ。」
全とは海賊相手に互いに乱闘した仲だ。
はっきり言って、もう戦友である。
「せやかてあんさん、さっきの宴会の後始末はどないしたんや?」
先程、全とその親しい者達数名は、剣舞の一団に紛れていざという時に一路を支援しようとしていた。
それはある意味で国家反逆罪に問われかねない行為だ。
「あー、それはまぁ、優秀な部下に任せた!」
胸を張っての責任転嫁宣言。
「あんさんなぁ・・・有能なのか、馬鹿なのかはっきりせんと静竜みたいになってまうで?」
「まぁ、あの人程俺は"振り切れて"ないと思うけどな。って、じゃなくてNB、いいから出来る限りの"高次元領域"までジャミング。」
「アストラルレベルのジャミングは出来へんで?」
早い話、聞かれたくない話をするから、盗聴阻害をしろ、出来れば樹にも聞かれないレベルのと全が言った事に対して、NBは樹とマスターとのリンクは切断出来ないし、少なくとも第2世代、或いは超一級の哲学士相手には対抗出来ないと返したのだ。
「天樹の腹ン中にいる以上、それは仕方ない。」
「あいよ。」
普段、両手・両足が生えてくる蓋が開き、円盤状のユニットが合計4つ出てくると、それぞれが独立して浮遊し、回転を始める。
「準備が出来たみただね。さて、問題は三つ。」
プーが皆に肉球を見せながら、指を三本立てる。
「1つは灯華さんの奪還。もうこれは"最悪諦めなければならない"んだけど・・・。」
「いっちーが許すはずがないわ。」
意外にも真っ先にそう主張したのは、事のなりゆきを沈黙で見守っていたアウラだった。
「ふむ。流石は"正妻候補"、良くお解りで。」
全はアウラを至極真面目にそう評する。
「正妻・・・・・・。」
それっきりアウラは再び沈黙してしまった。
「そこは樹雷には死刑がないから、チャンスはあると言って説得するしかないな。」
たとえそのチャンスが髪の毛一筋程のモノでも。
「二つ目は彼女を奪取した時、或いは出来なかった時に、いっちーがどうしたいのか。」
今後の展開という意味である。
この先、一路が恐らくしでかす、しようと望む事に対しての。
「あとアンタ達もな?」
それはつまり、身の振り方という意味でもある。
「ん~、僕達は、事がうまく進んだらGPに戻るよ。」
GPを出た時は、一路の故郷で逃亡生活でもするかと冗談めかしてはいた。
そんな流れを知らない全としては、それはそうだろうなと思う。
解りやすく例えると、今の一路は新興ベンチャーの上場株なのだ。
それもかなり有望銘柄。
右肩上がりの成長を見込める可能性がある。
反面、大暴落の危機も孕んでいる。
さて、どのダイミングで退くか?
これに関して全は、プー達を咎める事はしないし、出来ない。
大体、遡っていけば原因は自分にあるのだ。
当の全の場合は、もう有り金を一路にベットするしかないから、気楽と言えば気楽な方かも知れない。
少なくとも、もう友情との狭間で悩む事はない分、どう考えてもプー達より気楽だ。
「いっちーの事は心配だけれど、将来GP側からいっちーを支援する存在がきっと必要になる。」
「その為にはなんとしても昇進しなきゃならんでゴザるなぁ。」
それが人種という障害がある二人にとって、どれだけ困難な事かを知っていても。
(へぇ。)
二人のやりとりに全は彼等の評価を改めると共に、心の中で素直に謝罪する。
なんだかんだで、ここまで自分の意思で一路について来ただけの事はある。
「いっちーの事はそこの"本妻"にでも頼む事にするよ。」
「本妻・・・・・・。」
全に続いてプーまでもアウラを茶化し始める。
しかし、正妻にしろ、本妻にしろ、それは第二、第三の妻が現れる事を示唆しているのだが、一夫多妻も認められるこの世界では、アウラは気にもとめていないようだ。
ちなみに、最近の若者の女性達は、大抵反発する傾向にあるので、やはりアウラが特別だという事だけを付け加えておこう。
・・・ただ浮かれていて気づいてないだけやも知れないが。
「三つ目は僕等が如何にいっちーの足でまといにならずにここから抜け出せるかだ。」
「宇宙船はワシがプロテクトをかけておいたさかい、他のヤツは出だしできへん。勿論、こっちからは今すぐにでも起動可や。いつでも動かせるで。」
「抜け目ないでゴザるな。」
「これでも坊のサポートロボットさかいな。」
それがアイデンティティーであるとNBは指を振る。
「それよりも、一番"確率の高い"方の話をせなアカンやろ?」
NBはこっちの方が大問題だと述べる。
「ん?あぁ、まぁ、そうなんだが・・・なぁ?樹雷の人間の俺が言うもなんだけどさ。やっぱいっちー、"選ばれる"よなぁ?」
ほとほと困り果てたような顔で全は皆に向き直る。
出来れば否定して欲しくてだ。
「僕達の方こそ樹雷の人間じゃないし、樹に選ばれる基準っていうのも深く理解しているわけじゃないけど・・・。」
そう前置きしてから、プーは照輝に目配せする。
「拙者もよく解らんでゴザるが・・・いっちーが樹に選ばれたと聞かされても、そうでゴザるか、やはり流石でゴザるな、いっちーは。と、妙に納得するでゴザろうな。」
その言葉に皆がうんうんと頷く。
何処にでもいそうな普通の、だけれど何処を探してもいなさそうな彼の、要はその結果、その姿を想像出来るか否かという点で現実的などうかの判断をすると・・・という事だ。
「第四世代くらいか?出来ればいっそのコト、第二世代くらいまで振り切っちゃって欲しいかもしれん・・・。」
本人がいない事をいいことに言いたい放題である。
「いや、待てよ、逆に上過ぎても皇家の拘束は厳しいか。かといって下過ぎても・・・あ゛ぁ゛~っ!」
樹の世代による力関係は、樹雷の皇位継承順よりも純然としていて解りやすい。
下位過ぎて樹雷の眷属家の者達に見下されるのも、上過ぎて樹雷の政治に組み込まれるのも、どちらにしても癪なのだ。
そう困るのではなく、癪に障る。
今ここにいる誰もが、一路の誇れる友人達であると同時に、彼等にとっても一路は誇れる友人なのだ。
「ともかく、だ。いっちーの精神的なケアは、今は"向こう"に任せるとして、話をどんどん詰めていくか。」