真・天地無用!~縁~   作:鵜飼 ひよこ。

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オリキャラ同士の絡みなんていらねぇとか言わないでください(><)



第14縁:名前と存在意義。

「何の騒ぎ?」

 

 翌日、学校に登校して教室に入った一路を迎えたのは、机に齧りついている全の姿だった。

 

「お~、いっちー。聞いてくれよ~。」

 

「い、いっちー?」

 

 生まれて初めて呼ばれた。

多分、あだ名だよね?

いきなり呼ばれた事に対応出来ない。

 

「雨木が宿題を写さしてくんねぇんだよ!」

 

「は?」

 

「当たり前でしょう?私は自分で宿題をやったの。その労力を無視して写そうなんて百年早いわ。」

 

 机に齧りつく全の手を芽衣がぺちぺちと叩き落とす。

 

(そういう問題なんだ。)

 

 全の為にならないとかいうのではなく、あくまで何の代償も払わないで宿題を済ませるのが気にくわないという。

 

(結果で見たら間違ってないけど・・・。)

 

 苦笑しながら、自分の席に着き荷物を机の中に移す。

 

「おはよう。ねぇ、漁火さん、あの二人っていつもあんな感じなのかな?」

 

 全は常に欲望フルパワーだし、芽衣は普段はお嬢様然としているのに凄く冷たい。

 

「?漁火さん?」

 

 何の反応も無く無視されたのかと思いきや、彼女はじぃっと一路を見つめていた。

無言で見つめられると結構な威圧感がある。

 

(でも、眼鏡をしているようでしていないと。)

 

 何の幻覚だろうと思うが。

 

「どうして私の苗字を?」

 

 知っているのか。

つまりはそっちの方が一路に質問された事ようり優先されたらしい。

 

「えと、芽衣さんに聞いて・・・。」

 

 何かまずい事だったのだろうか?

いや、しかし、好きに呼べばいいと言ったのは彼女の方だ。

 

「聞いた?私に興味でもあるの?」

 

「へ?」

 

 そう切り返されるとは思ってもみなかった。

隣の席だし、呼ぶ時に不便だからとはいえないない雰囲気。

だが、不思議と自分を見つめる彼女の視線は、先程よりは威圧感を感じない気がする。

 

「お隣さんだし、折角なら仲良くなりたいじゃない?」

 

 当たり障りなく、しかし決して嘘はない答え。

 

「委員長という呼び方ではなダメなの?」

 

「ダメじゃないよ。でも、どうせなら名前で呼びたいかな。受け継いだ名前なんだし。」

 

「受け継いだ・・・面白い事を言うのね。個体を認識出来れば名前なんて記号と変わらないわ。」

 

 特に何の興味も感慨も湧かないというような視線。

 

「な、なんか哲学的だね。でも、それは寂しいかなぁ。」

 

 苗字も名も与えられたものではなく頂いたもの。

自分が存在する証だと一路は思っている。

普段はそんな大した思い入れもなく、彼女の言う通りの、その程度の認識かも知れないが、自分という人生の一歩目なのだ。

 

「寂しい?」

 

「漁火さんは自分の名前は嫌い?」

 

「・・・嫌いでも好きでもないわ。」

 

 一瞬の間だけがあっても、それでも彼女の心が動いたようには感じられなかった。

 

「そっか。でもじゃあ、尚更僕が好きに呼んでもいいよね?僕が君を認識して興味が持てるように。」

 

 とりあえずは相手の言い分を全部否定せずに、相手の土台に沿った会話。

面倒くさい事、このうえないやり取りだが、隣席同士・・・それと、転入したてという事も彼の背を押していた。

それ以上に、柾木家の人々の存在が大きいともいえる。

 

「灯華(とうか)よ。」

 

 一路の強情さに負けたと言わんばかりに吐き捨てる。

 

「ありがとう、灯華ちゃん。」

 

「ッ?!・・・ちゃ、ちゃんはやめて。」

 

 ようやく初めて彼女の表情が大きく動いた。

 

「あ、ごめんごめん。何か灯華さんより、灯華ちゃんの方が呼び易いというか、しっくりきたもんで・・・。」

 

 何故、自分はちゃんと呼んだのだろうと自分でも訝しげに首を捻る。

だが、やっぱり、しっくりくるというしか言葉に出来ない。

そういえば、灯華に関して言えば、こっちに来て出会った人間の中で、一番イメージが湧き難い事に気づく。

もしかして、浮かんだイメージが"さん"ではなく、"ちゃん"なのかも知れない。

 

「て、あれ?好きに呼んでもいいんじゃなかったっけ?」

 

 確か、そんな流れで彼女の名前を知りたいという点に至った気がするような・・・。

 

「でも、それは・・・女の子みたいだから。」

 

 はて?

これは奇妙な事を・・・。

 

「だって、女の子じゃん。あ・・・。」

 

 言ってからしまったと思った。

灯華が物凄い目で、殺気がこもっているかも知れない視線で一路を睨んでいた。

完全に一路が調子に乗り過ぎた結果だ。

でも、一路の中では無愛想だけれでも、ちゃん付けで呼びたくなるような可愛い女の子という事で納得する。

 

「なぁ、いっちーっ。もういっちーでいいから宿題写させてくれよォ~。」

 

 緊迫した(?)二人の空気を読む事なく全が一路の机に齧りついてくる。

子泣きジジイのようにテコでも動かんぞ~と半べそをかいていた。

 

「でいいからとか・・・。」

 

 頼み事をしているとは思えない程、まるで下手に出ていない全に言葉を失う。

 

「いっちー、ダメよ?こんな奴に甘い顔をしては。」

 

「芽衣さんまで・・・。」

 

 このままでは、"いっちー"というあだ名で成立してしまう。

 

「あら、ごめんなさい。全のがうつっちゃって。でも、可愛らしくていいんじゃない?」

 

「あぅ・・・。」

 

 何となく灯華の気持ちが今解りかけた気がしたような・・・。

しかし、灯華は元々女性、僕は男なんだいっと精神を持ち直す。

だが、最も問題なのは半べそをかいて、汚らしくなっている全の方だった。

このままでは毎時間、呪いのように机に齧りつかれそうだ。

妖怪、机齧り?

 

「宿題の提出は5時間目だったよね?それじゃあ、昼休みの途中までは自分でやりなよ。それで終わらなかったら"考えて"あげる。」

 

 上から目線の全の更に上から目線で告げる一路。

これならばある程度は全の為になるだろう。

但し、休み時間毎にきちんとやっている素振りがなければ、芽衣の言う通り宿題を写させるつもりはなかった。

 

「マジでか?!」

 

「マジで。ほら、早くしないと時間なくなっちゃうよ?」

 

 こうしちゃいられんぬぅおぉぉぉぉっと奇声を上げながら全は自分の席に戻り、猛烈にノートと教科書に向かい始めた。

 

「そんなに甘やかさなくていいのに。」

 

 肩を竦め、呆れたというジェスチャーをする芽衣。

彼女は今ひとつ納得していないようだ。

しかし、一路の案が落とし所でもあるというのを認めたのか、それ以上の強い反対はなかった。

 

「芽衣さんこそ、全に厳し過ぎない?」

 

 いくら付き合いが長いからといって・・・。

 

「ずっと子守出来るわけじゃないもの。お馬鹿さんはお馬鹿さんなりに成長してもらわなくっちゃ。」

 

 ミもフタもない断言。

 

「それが芽衣さんなりの愛情表現なんだね。余計な事しちゃったかなぁ・・・。」

 

 一路には幼馴染のような長い付き合いの人間はいない。

だから、それがどんな距離で、絆が深まるとどういう形になるのかなんて見当もつかない。

自分のした事は、そういう形を変に歪ませる要因になるかも知れないと思った。

 

「よして。愛情表現というより調教ね。」

 

(やっぱり全にだけ厳しいんだ、コレは。)

 

 その理由も長い付き合いだからなのだろうか?

 

「それに、やっぱり自分で労力を割いてやったものを写して終わりって楽されるのが嫌なのよね。」

 

「あ、うん。」

 

 実は今回の宿題は一路にとってはそうたいした労力ではなかった。

所詮は復習の範囲。

芽衣が言う程でもない。

彼女もそれほど苦戦したわけじゃないだろうと一路は思う。

 

「ところで、委員長は"ちゃん"づけで、何で私は"さん"付けなのかしら?」

 

 地獄耳。

しっかりと灯華との会話を聞いていたようである。

 

「なんでだろう?」

 

 だが、これに関しては一路にはこれといった具体的な解はない。

 

「芽衣さんはさんってカンジで、灯華ちゃんはちゃんてカンジで・・・う~ん、それがしっくりくる・・・気がする。」

 

 芽衣は悪態をついているように見えても、シャンとしていて、何処か余裕のあるお嬢様然としている気がするのに対して・・・灯華は・・・。

 

(あれだ、血統書付きの室内猫と野良猫の違い?)

 

 もっと正確に表現するならば、雨の日に一緒に雨宿りをした猫。

そんなイメージ。

だが、イメージをそのまま伝えてもきっと芽衣には通じないだろう。

なにしろ、一路本人も何故に猫?と聞かれても答えられないのだからして。

 

「似合う、似合わないの違いなのね?」

 

「え?他に何があるの?あ、呼び易さの違いってのもあるのかも。」

 

 だが、芽衣さんという呼び易さに関して、無愛想な委員長(と皆に呼ばれている)を灯華ちゃんと呼ぶ方が呼び易いというのも、他のクラスメートにとっては理解し難い。

 

「・・・なら、いっか。」

 

 しかし、予想外に芽衣にとっては理解し易かったらしい。

大人しく引きさがった。

 

「私にしてみれば、いっちーにちゃん付けで呼んでもらう方がしっくりくるんだけどな・・・。」

 

 と、意味深にボヤいたところで、担任の教師が入ってきて朝のHRが始まる。

ちなみにこのHRの間中、全は必死に宿題をやっていてこの教師の雷を受けたのだった。

 

「あなたって、随分と変な人なのね。」

 

 灯華にそう突っ込まれて。

しかし、それ以上の何の文句も彼女の口から出てこなかった。

もっともそれは、一路がちゃんづけで呼ぶような会話自体が、これ以上なかったからだったが・・・。

 




そろそろ息切れしてまいりました・・・。
しかし、ようやくなんとなく評価の見方が解ってきたかも知れません。(今更)

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