反抗期も手伝って・・・と言えば言い訳になるだろうか?
そんな事を考えながら、踊りの集団の輪に加わる。
正直、宴にもう興味はなかった。
どうでもいいとさえ思う。
自分はただ、自分のやりたい事をやってきただけだ。
それは昔の自分からしてみれば考えられない程の我が儘で、そしてここまでやって来られたのは、我が儘を我が儘と知りつつも許容してくれた人達がいたから。
(我が儘か・・・僕の宇宙に出てからは、全部それだけなのかな・・・?)
悔しさは確かにある。
全の言うとおり、美化したり、理想を押し付けたり、怒りもあった。
でも、それだけでその一言だけで片付けて、飲み込んだ事にしてよいものだったろうか?
思考が鈍った時、モヤモヤした時にこの剣舞だけは自分の中にあって、こなしてきた。
これは自分にとって、生まれ変わる為の儀式の1つなのかも知れない。
(懐かしいな・・・。)
何かにつけて行ってきた。
こうしていると天地達、柾木家での温かな光景が思い浮かぶ。
それが自分の背を押してきた。
そういえば、ここはあの阿重霞の故郷だった。
これは元々ここから生まれて、阿重霞と同じように地球に旅してきたのだろうか?
人から人を伝って・・・。
自分と逆の道を巡り巡って・・・。
剣舞を押してえてもらい、照れながら動く天地の動画を見て、見よう見真似でずっと練習してきた。
何かを身につける事は嫌いじゃない。
寧ろ、楽しい。
それは変化するという事だから。
変われるという事は、一路にとって最大の命題なのだ。
だから、GPアカデミーは楽しかった。
たとえ嘘をついた偽りの自分の姿だったとしても。
そのうちに思考がどんどんとクリアになっていき、やがて考える事自体をやめ無心へと至る。
観衆の声や視線も気にならない。
だからといって、何処か一点に集中しているでもなく、逆に広がっているような錯覚に陥る。
溶け込んでいくような・・・。
いつしか周囲の皆が静まり、音楽がやんでいる事にも気にしなくなった。
一通り、教えられた最後まで淡々とそれでいて完璧に舞いきる。
「見事だ。まだまだ荒削りだが、基本はしっかりと身についている。」
静まりかえった人々の中でその声はよく通った。
紫紺の長い頭髪に口髭、泰然とした佇まいに威厳を感じるが、力強いその瞳は何処か熱い何かを感じさせる。
皆が礼を取る中、その男はつかつかと一路に歩み寄る。
「聞けば樹雷の生まれではないとか。だがどうだ樹雷の生まれの者、いやそれ以上に舞うとは些か驚いたぞ、客人。」
その男は心底驚いたと口では言うが、顔は驚いても笑ってもいない。
「ありがとうございます。でも、僕に教えてくれた人達に比べればまだまだなので・・・。」
相手が何処の生まれでも物怖じしない、気にしない。
思った事は、事実は曲げない。
柾木家の人はそんな人達だったのを思い出す。
ふと、一路は理解した気がした。
柾木家の懐の異様に広い、あの寛容さこそ、一路の求めている他種族との共存の在り方の根源なのだと。
だとしたら・・・。
「成程。余程良い師なのだろうな。樹雷の外から来た者でも、かく樹雷の様式を持てるというのならば、"王"としては一考せねばらなんな。」
「え゛?」
今、何か聞き捨てならない単語が混ざっていなかっただろうか?
そういえば、リーエルの一般教の勉強の時に樹雷について触れた時、なんとなくこんなような顔をした人物を見たような・・・。
記憶を掘り返し、嫌な汗が背中を伝い流れていったところで、その男は悠然と上座の、その一番最上段の席に着き一路を見下ろす。
「柾木・阿主沙・樹雷だ。」