なんでもないです、では続きをどうぞ。
「まぁ、そりゃそうだろうなぁ。」
全は近場の手すりに背を預けて苦笑する。
「生まれた国が違えば文化が違う。文化が違えば考え方も常識すらも変わる。そうやって溶け込めなかったりする異質なモノが弾かれる。」
一路が今までどうしても無視する事の出来なかった違和感を話すとそんな答えが返ってきた。
「そんなものなのかなぁ?それだけであんな拒否感とか嫌悪感って出てこない気がするんだけど・・・。」
脳裏に浮かぶのは、当然アカデミーにいた樹雷出身の面々だ。
「いっちーは授業で習ったと思うけどさ、元々、この銀河に今住んでいる、まぁ、樹雷も元を正せばだけど、宇宙開拓民だろ?」
確か、そうだったと頷く。
それ以前に住んでいた者達は、各地にその足跡を残してはいるが、よくはっきりとしていないという事も。
朱螺凪耶はそういう方面の調査をよくしていたのを思い出す。
「もし、宇宙を漂流している時に裏切り者がいるって解ったらどうなるよ?」
そんな事は一路にだって一々想像しなくても解る。
地球にだってそのテの映画・ドラマなんて溢れる程になるのだ。
「それは、大パニックだね。」
「そ。たった一人だったとしても自爆覚悟で船体にバカスカ穴を開けちまえば大惨事だし、それが生命維持装置だったら、あっという間にオシマイだ。」
握った手を上に向け開き、ボンッと呟く。
「そう考えると、血族的或いは、家族的な結束のが信頼度が高くて、重要だってハナシ、解るべ?」
異分子の混入は死に直結する。
根底にそういうった心理的背景があったからこそ、今の現状が出来上がってきたのだろうか?
「でもさ、だからって最初からそれ以外の人に攻撃的になったり、威圧的に振舞ったりしていいって事にならないじゃない。」
「・・・いっちー、何怒ってんだよ?」
「怒ってる?僕が?」
「違うのか?」
全の言う通り、自分が怒っているのだろうか?
自分がここに至るまでの事を考え直してみる。
「怒っているってのより、悔しいのかなぁ。だってさ、こんなに凄いんだよ?宇宙を自在に飛び回って何処にだって行けて、僕等よりも遥かに長い寿命を持っていて・・・僕達に出来ない事、行けないトコへ・・・なんだって出来そうなのに。」
「この銀河にだけ拘る必要もないのに、まぁ、やっている事は地球人とたいして変らねぇレベルの低脳さに、か?そうだよなぁ、確かにちっちぇよなぁ。樹雷1つとったってエネルギー問題とか、環境問題とか皆無だしなぁ。」
自分達の境遇、社会問題はさておき、一路の文明レベルからすれば遙か上の神の領域に近い。
まさに次元が違う。
「・・・ん~、いっちーは少し俺達の事を理想、美化し過ぎなトコあんじゃね?」
そういった側面は確かにあるのかも知れないが、今はそういう事を言いたいのではなくて・・・。
「隣の銀河にゃ、"レンザ"っていうのもいるし、厳かな宗教団体様ってのもいるしなあ。なんつーか、規模がデカくなっただけで、何処もたいして変わんないのな。」
「う~ん・・・。」
そう言われると身も蓋もない。
「どした?」
「結局、この銀河の国ってなんなんだろ?全が言った血族的な結束社会?結束だけが至上なのかな?」
全は自分の思考をまとめながらも、言いたい事を何とか口に出そうと悪戦苦闘している一路の言葉を待つ。
今、この友人はとても大事な岐路に立とうとしている。
その考えを手助けするよな情報、参考数値的なものならば出せるが、考えを捻じ曲げてしまうような先入観を植え付けてはいけないと感じたからだ。
「僕が全の言う通り、変な理想を押し付けてて、美化しているのは解る気がする。多分、それだけ僕が子供だって事なんだろうけど・・・・。他の人間を許容しづらい環境だったってのも解るけどさ・・・そんなのは解ろうする努力をしてからだと思うんだ。はなから信用しないで切り捨てるっていうのもさ・・・。」
国というカタチを持つ以上は、自分達を守るのに取らなければならぬ手段だとか態度あるだろう。
思っているよりも外交とは難しいという事も理解出来る。
「ねぇ、全?そんな国に"価値"ってあるのかな?」
あぁ、と全は心の中で溜め息をつく。
一路は"そういう方向"で来たのか、と。
自分達も一度は通った道ではあったが、結局はその社会の中でのし上がる方向になった。
それはある意味で長いモノに巻かれたというカタチになったから。
「僕は"そんな国ならいらない"。う~ん・・・何か話がズレまくった気がするけど。」
「ズレてなんかないぜ?いっちーは今、超大事な事を言った。じゃあ・・・。」
とんっと全は一路の胸元を叩く。
そろそろ自分も変わらなければいけないのかもなと思いながら。
「いっちーはどうしたいんだ?」
後に全は思う。
自分の言った事に後悔するような点はなかったが、自分が思っているよりも遥かにこの地球の友人、檜山・A・一路は純粋過ぎたのだと・・・。