『そうならば、彼女は樹雷要人暗殺未遂の容疑で近いうちに"処罰"される。』
兼光からその言葉を聞いた時、一路は頭が真っ白になった。
『なんですか、それ・・・。』
随分と間を空けて、そしてかろうじてそう言うのが精一杯だった。
確かに灯華は海賊だ。
でも、それはそうしか生きていく道が他になかったのだ。
『我等が樹雷筆頭四家の眷属の暗殺未遂という事だな。』
未遂だろうと殺意を以て行動すれば、地球でだって処罰される。
それは一路にも解る。
だが、あの時の最大の被害者は自分だったのだ。
自分は気にしてないとは言い切れないが、少なくとも灯華をどうこうしようという気持ちはない。
『それは・・・重い罪なんでしょうか?』
一瞬、嘆願をする為に、自分もその席に同席させて欲しいという言葉を飲み込んでなんとか耐える。
『重罪かと言われたらばだが、今の樹雷には死刑というモノは存在しない。命まで取られる事はないさ。ただ・・・君とは"2度と"会えなくなる可能性はある。』
冗談ではない!
彼女に会いたくて、その手に自分達との日常を得る為に、連れ戻す為にここまで来たのだ!
そう憤ったとしても、今の自分では何も出来なかった。
「はぁ・・・。」
そんなやり取りを今一度思い出して溜め息をつく。
一通り、灯華を含めた自分達のこれからの予定を連絡事項として説明された一路は手持ちぶたさになって、部屋を出ていた。
ぶらりと歩いてテラスのような所に出た瞬間だった。
ゾワリと自分を"監視するような視線"増す。
確固たる視線というわけではない、濃密な空気のような・・・。
その居心地の悪さに辺りを見回すのだが、それが何処からのモノなのか全く把握出来ない。
「これ、そこのお若いの。」
夢遊病者のようにフラフラと歩き辺りをキョロキョロと見回す一路にかけられる声。
その声と共に、濃密な視線は霧散していた。
「何か面妖な輩にでも取り憑かれたかな?」
見知らぬ男性がいる。
といっても、初めて樹雷に来た一路にとっては大抵が見慣れぬ者なのだが。
全と兼光、そして同級生の顔が浮かぶ。
今にしてみれば、彼の考えはある意味で樹雷に今も残る考えのひとつの側面ではないだろうか?と気づく。
勿論、"ひとつの"というところを強調したくはあるが。
「少年?」
「あ、はい、すみません。ちょっと考え事を、と、その、樹雷に来たのは初めてだったもので・・・。」
「ほほぅ、どうじゃね?良い国とは言い切れんかも知れんが、悪い国でもなかろう?」
良い国ではないと言い切るところに引っかかりを覚える物の言い方だった。
「これでも風通しは随分良くなったんじゃながな。」
「風通し、ですか?」
それが何をさすのかは一路には解らない。
口髭ともみあげの境界が解らない男性は、好々爺な顔を一路に向けて微笑んでいるだけだ。
「そもそも樹雷の樹は争いを好まぬからの。まぁ、今はそういった類いの表面上の争いが、ただ水面下に潜っただけなのかも知れんがの。」
「あ、あの!」
「ん?」
何やら樹雷の実情についてそこそこ詳しそうな人物である。
ここで自分にとって足りない知識を得るには格好の相手ではないだろうか?
そこに至って、一路は思い切って聞いてみる事にした。
「この国では、選ぶ自由すらなかった事でも全ての責任を負わなければならないんでしょうか?」
「ふむ?」
一路の明らかに急過ぎる問いにその男は、はて?と首を傾げるのだった。
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というか、言い訳多くね?自分。