よろしくお願いします。
第133縁:思えば遠くに来たもんだ。
飾り付け前のデカいクリスマスツリー。
樹雷という星に初めてきた一路がまず抱いた印象がそれだ。
この星はその1本の樹、【天樹】そのものといって過言ではない。
なにしろ、建物の全てはその天樹を素材に使っているのだから。
特に皇宮は生きたままの樹をそのまま使っているというのだから驚きである。
「天樹か・・・。」
樹雷に着いて早々に案内された一室で、一路は一人呟く。
『いいか?瀬戸様、あの鬼ババア相手にだけは一切の弱みも妥協も見せるなよ?』
別れ際の短い間に全に言われたのはそれだけだった。
そもそも、今の自分がどういう待遇・扱いでここにいるのかも解らない。
ただ早く皆と合流してさっさと帰りたいというのが本音だ。
「そういえば、出だしも木だったなぁ。」
全ての出会いは、柾木神社の御神木に触れようとしたところから始まった。
そう思うと、自分の人生は随分と賑やかになったものだとも思う。
果てにはこんな所まで来て・・・前言撤回、賑やかどころの騒ぎではない。
「誰?」
ふと、気配を感じて声をあげる。
頼りない状態になってしまったが、折れた木刀をすぐさま握り締めた。
気配はかなりの数だ。
「いやぁ、すまんすまん。驚かせてしまった。しかし、それにしてもよく気づいたものだ。」
体格の良い男が柔和な笑みを浮かべてノックもせずに部屋に入って来るのを見て、一路は首を傾げる。
「一体、どんな人物なのかと気になってしまってな。気になると、どうにも確かめずにはいられん性分なの・・・だ?ん?どうかしたのかい?」
訝しげに自分を迎えた一路の様子を気にかけてか、男は心配そうに眉を顰める。
「あ、あの、お一人ですか?」
「ん?あぁ、外の扉には衛兵が二人立ってはいるが、自分一人だ。」
おかしい。
一路の感じた気配は3人どころではなかったし、もっと沢山の、そして不躾でまるで自分を監視しているようなそんな・・・。
「・・・そうですか。」
確かにそんな風に感じたのだが、今のやりとりのうちに消えてしまっていた。
(気のせいかな・・・まだ緊張と疲れが取れてないのかも。)
「ふぅむ。見れば見る程普通の少年じゃないか。」
一路を上から下まで眺める男の視線も観察している事には変わりないのだが・・・。
「いや、すまん。あの鬼ババアと全が気にする程の人物がどんなものかと思ってね。いや、誠にすまん。」
「いえ、僕は普通の人間ですよ。だから全に助けてもらう事になっちゃって。全はどうしてますか?僕の仲間は?」
相手の名を尋ねるよりも先にその言葉が口に出た。
それを聞いた男は、きょとんとした表情で固まるのを見て、一路の不安が募る。
「・・・なんと・・・普通の反応。しばらくぶりな感じがしてしまうところが、毒されている気がしてしまう。あ、全は多少の懲罰があるが大丈夫。お仲間はこちらで賓客待遇で扱っているから問題ない。」
「良かった。」
姿を見て確かめたわけではないが、一路はほっと安堵する。
その辺りの一路の反応を見た男の表情も微妙だったが、一路としては相手の言葉は信用出来る気がしたのだ。
「俺の名前は平田 兼光。全の上司にあたる。君は?」
「檜山・A・一路です。」
「すまんが、檜山殿は何故海賊とあんな所に?」
兼光の問いに一路は一瞬で考える。
目の前の男は信用出来るタイプの人間である事は"解る"。
だが、何処まで正直に話していいかというのはまた別で・・・。
「・・・海賊に友人が捕まっていて・・・それで、それを助けたくて・・・。」
あれ?もしかして尋問されてる?と思いつつ。
「友人?」
兼光が表情を変える事なく淡々と言葉を返すのを見て、やっぱり尋問されてるのかなぁと考えながら一路は言葉を続ける。
「そうです。その友人を助けようとしたら、あんな事になって、それで全は僕を助けようとして・・・。」
「檜山殿?」
「あ、一路でいいです。」
「では、一路殿」
殿はいらないのになぁと思ったが、兼光が真剣な眼差しでこちらを見つめてきたので口を噤むしかない。
そこにはうむを言わせぬ、歴戦の強者めいた雰囲気があって・・・。
「友人というのは、あの"暗殺者"の事かな?」
「え・・・?」
「そうならば、彼女は樹雷要人暗殺未遂の容疑で近いうちに"処罰"される。」
あぁ、あと私、今日誕生日なんスよ(関係ない)
いや、お祝いの言葉とか、うん、いいのよ、無理しなくても(いい加減にしろ)