真・天地無用!~縁~   作:鵜飼 ひよこ。

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これでこの章は最後です。
次回からそろそろ風呂敷を畳み始めようかと思います。
・・・できるのか?


第132縁:2度あるコトは何度だってある。

「・・・ぁ?」

 

 またコレだ。

一体見知らぬ天井との遭遇は何回目になるだろう。

相変わらず記憶が曖昧なのだが。

もういい加減情けなく思う事もなく、呆れて苦笑する事も出来ない程のレベルに到達してしまった。

 

「あ、起きた?」

 

 ふと自分が意識を失う寸前に聞いたような声が聞こえて顔を向ける。

 

 

「キミ、面白いね。まさか立ったまま気絶するとは思わなかったよ。」

 

 ふんわりとした髪を揺らしながら・・・そういえば"彼"でいいんだよな?と思いつつ柔和な笑みをしている彼を見る。

どうやら、自分は魎呼の激励の後、立ったままで気絶してしまったらしい。

 

「ぜ・・・ん・・・。」

 

 全は?灯華はどうなった?と声に出そうとしたが出ない。

それどころか身体に力が入らない。

 

「まだ麻酔が効いてるから動かないで。ごめんね、ウチ、ショボい治療設備しかなくて未だに普通に麻酔使ったりするんだよね。」

 

 やっぱり少年だよな?とマジマジと見ながら、それよりも聞きたい事が聞けない事の方がもどかしかった。

どうにかしてコミュニケーションを取れないだろうか。

 

「あ、ちなみに艦長なら元気だよ。殺しても死なないから、アレ。」

 

 アレ呼ばわりしつつ彼こと晶は、自分とは反対側を指さすのを目線だけ動かして、そこでようやく一路は安堵した。

 

「殺したって死なないって、オマエね。オレ、これでも艦長、一応上司なんだけど?」

 

「そこで、"これでも"とか"一応"とかつけちゃうのが全らしいよね、うんうん。」

 

 そう言って屈託なく笑う晶を見て、そういえば全と仲が良いんだなと思う。

随分と遠慮というものがない。

 

「まぁいいや。ここはオレ様の船の中だ。勿論、"委員長"のヤツも無事だぜ。あっちの船に回収されてる。友達も全員一緒だ。」

 

 委員長。

実際はそんなに時間が経っているわけでもないのに、全の口から出たフレーズが酷く懐かしく感じた。

あっちの船とは続く全の言葉の内容からして、自分達が乗ってきた船の事だろう。

どうやら無事に帰って来られたようで心底ほっとする。

 

「全く、いつからそんなに男前になったんだ?んー?」

 

 茶化すように笑う全に、一路はふと違和感を覚えた。

 

「ぜん・・・どした、の?」

 

 少しばかり麻酔が抜けてきたのか、声をさっきよりも絞り出せた。

 

「ん?あ、まぁ、色んな人間に助けを借りたとはいえだ、目的を達せられたのはいい事なんだが、な。」

 

 そういえば気絶する前に魎呼の声を聞いたはずだ。

魎呼が来たという事は、恐らく鷲羽も助けてくれたという事だろう。

 

「ちょっとてんこ盛りに盛り過ぎなんじゃね?」

 

「?」

 

 何の事だろう?

首を傾げる。

何度も説明をする事になるが、一路は魎呼が宇宙海賊であった事を知らない。

彼にしてみれば、今し方戦っていた者達と魎呼が同様の存在であるとは想像もつかない。

鷲羽にしたって功績記念館での鷲羽の姿は知っているが、被害者達の存在は知らぬというか、知らぬが仏なのである。

 

「魎呼さんの宇宙船はまだ解るとして、何だ?あのデッカい宇宙船。巫薙さんとか言ったか?」

 

「はひ?」

 

「何か、『義によって助太刀致す!』とか何とか暴れまわってたし、ほんでもってトドメは瀬戸様の水鏡。何?何のお祭り騒ぎなん?」

 

 水鏡?何それ?どういう事?

そう聞きたくとも声にならない。

以下、音声のみで簡単に説明するとこうである。

 

『あ、巫薙!てめ、何美味しいトコ持ってこうとしてんだよ!』

 

『そんなつもりはありません。私はどちらかというと弥七というか、そういう裏で動く役が好みですので。』

 

『それが美味しいって言ってんだよ!どけっ、アタシがやる!』

 

『あ、ズルいです!私だってちょっとくらいは!』

 

『へっへ~ん、こういうのは早い者勝ちだ!』

 

『たかが2隻の海賊船にアンタ達張り切り過ぎじゃぁなぁい?』

 

『うわっ、出やがったな鬼ババ。』

 

『誰が鬼ババよ。全員まとめてZZZブチカマすわよ?』

 

『どうしてこう暴力で解決しようとするのかしら、野蛮です。』

 

『人のコト言えないでしょうに。』

 

『あ゛ーっ!もうめんどくせぇっ!しゃらくせぇっ!魎皇鬼やっちまえ!』

 

 誰が誰だというのは、最重要機密扱いなので、伏せておくことにするが・・・。

 

「まさか、本当に来るとはねぇ。」

 

 全が先程見た悲惨な光景を思い出しながら、ぽんっと一路の腹に何かを置く。

 

「大事なんだろ、ソレ。ずっと握り締めてたもんな。」

 

 置かれたのはひと振りの木刀、その成れの果て・・・中程からぽっきりと折れたそれは握り手の部分がうっすらと朱色がかっている。

 

(?・・・こんな色合いだったっけ?)

 

 一路は木刀の風合いが違うような気がして、再び首を傾げる。

 

「でな、いっちー、こっからが本題なんだけどな?」

 

「ん?」

 

 急にしおらしく、神妙な顔つきになる全。

これはあれだ、良くない事が起きるパターンだとすぐに解った。

 

「悪いが、これからオレ等は"樹雷"に行く事になる。」

 

(樹雷?)

 

「オレだってよ、色々と準備してたんだぜ?いっちーと委員長をこっそり地球に"捨てて"来るにはどうしたらいいかってよぉ、それなのにそれなのに、こんなのってあんまりだ!」

 

 天を仰いで万歳と両手を上げる全の姿は滑稽というしかない。

 

「流石に瀬戸様の水鏡、しかも聖衛艦隊までついて来ちゃったしね、こっそりもなにも蟻の子一匹すら逃げ場がないよ。」

 

 つまり、全としては何事もなかったかのように秘密裏に処理しようとしていたのだ。

捨てるという言葉にそこはかとなくアレな感じがするが、確かに地球に逃げ込んでしまえば、建前上であれ不可侵。

一路が考えていたのと同じような事を全も考えていたのだ。

 

「すまん・・・本当にこればっかりはオレじゃどうにもできん。」

 

「・・・・・・ありがと。」

 

 それでもだ。

助けてもらったのは事実だ。

麻酔のせいで礼以外の感謝の言葉を紡げないのがもどかしい。

いいだろう、樹雷でも何でも行ってやる。

そう腹を括るしかない。

 

「もしかしたら、オレはいっちーを余計に追い込む事になったのかも知れない。」

 

 全はちらりと一路の手元の木刀に視線を移す。

 

(瀬戸様はオレの艦を追ってきたんじゃない・・・恐らくきっと・・・。)

 

「だいじょうぶ。」

 

「いっちー・・・勿論、オレも樹雷までこの船で一緒に行くからな?あっちの船にも悪いが一緒に来てもらう事になると思う。これはオレから伝えておくから。」

 

 そう言うだけが精一杯だった。

 

 




次回!樹雷編!

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