真・天地無用!~縁~   作:鵜飼 ひよこ。

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第129縁:ちょっとくらい私怨があってもいいじゃないか。

「しかし、不思議な事があるものだ。」

 

「あん?」

 

 対峙したままの変わらぬ距離のまま、構えようともせずにアラドが呟く。

 

「あの小娘一人にそれほどの価値があるとは思えん。何せ、血縁を結ぼうとしているこの私にとってもそれ程価値が高いわけではないのでね。生かしてやっても良い・・・それくらいのものだ。」

 

アラドは心底不思議であると真剣に首を傾げる。

確かに自分にとって必要としてはいる、一時的な踏み台程度にしか過ぎないが。

だが、そんな小娘の為に海賊艦2隻に特攻をしかけてくる程のものだろうか、と。

 

「はぁ?知らねぇよ、んなもん。」

 

 長い溜め息というか、完全に呆れ果てた声で全は答える。

 

「全くもって解んねぇな。"自分を刺し殺した女"に会いに、しかも助けるに来るいっちーの気持ちなんてな。大体、人間の心ん中なんて解るわけねーじゃんよ。ただオレはいっちーがそれを必要とするなら、自分のすべき行動だと思ったってんなら手助けするだけだ。」

 

 つまり、そんな疑問を持つ事それ自体がナンセンスなのだと言い返す。

 

「んでもって、いっちーをあんなにバッチくしたのは気に喰わねぇし、そういう女の扱いをするのも気に喰わねぇ。よって、諸々含めてブッ飛ばす。」

 

 どうあってもブン殴ると宣言した全は腰元に下げていたものを素早く両手に装着する。

拳全体を覆うガントレット、文字通り殴る為の物だ。

 

「珍しいな。」

 

 銃でも剣でもない殴打、撲殺用の武器を携える全の姿に僅かに眉が動く。

 

「オレは変わりもんでね、こっちの方が性に合ってるらしい。」

 

 以前、地球の学校での剣道の授業時間に一路に述べた通りである。

樹雷でも闘士の基本的な戦闘スタイルは剣か槍が主流だ。

一路が覚えていた舞いが樹雷の皇族の剣の構えである事からも、それは伺える。

 

「さて、一応名乗っといてやる。樹雷は第七聖衛艦隊所属、闘士的田 全。」

 

 ま、この戦いが終わったら懲罰か下手したらクビなんだけどなーと心の中で苦笑しつつ、全は眼前で拳をぶつけて気合を入れる。

そして吶喊すべく地を蹴った。

両者が激突してまず最初にガキッっと鈍い音が辺りに響く。

全の拳がアラドの肩口辺りを正確に撃つ。

 

「確かに噂に違わぬ樹雷の闘士、早いな。」

 

 その状態でも余裕の表情を崩さないアラド。

自分が殴られたにも関わらず余裕の笑みのままなのは、その拳が届いてないからだ。

 

「ガーディアンシステムね。」

 

「卑怯かい?」

 

「うんにゃ、海賊に卑怯云々を口にするのが間違ってるだろうよっ。」

 

 更に肩口を押し、その反動で距離をあける全。

全自身も吶喊した瞬間に相手の余裕が崩れていない、ましてや避ける気配もない時点でそのくらいの事は解っていた。

"解っていたからこそ確かめた。"

 

「けど、そのガーディアン粗悪品じゃねぇの?ダメだぜ、自分の命預ける物をケチっちゃ。」

 

 ニヤリと笑う全。

その瞬間、ピシリとアラドの肩に罅が入る。

アラドもその様子をシステムの警告画面で理解した。

 

「なるほど。」

 

「こんな攻撃、卑怯だとか言わないよなぁ?」

 

「言うと思うか?」

 

「うんにゃ。」

 

 小手調べは終わりだ。

次は簡単に決めさせてはくれないだろう。

出来る事なら今の一撃で全も終わりにしたかったが、そうそう上手くいくはずがない。

もっとも、一路の受けた痛みの半分・・・どころか3倍返しで返してやりたくはあるというのが全の本音だが。

全の中の友情というモノは、ハムラビ法典よりも重いのだ。

 

「じゃ、次のはどうかなっ!」

 

 本格的な戦闘、その開始である。

 

 




ごめんなさい、今回は体調が思わしくないのでこの辺りの長さで。
次回からはいつも通りの長さに戻ると思います。
あと3、4話程で今章もメドがつく事になるかと思います。
そこから先は少し考えようかなと、ちょっとダラダラと長くなりすぎた感もありますし。

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