『絶妙にブサイク顔になってるよ、艦長?』
ほんの数刻前、全は腕を組んだままの態勢でとある船の艦長席にいて・・・そして、爆発した。
「あ゛~っ!!!」
奇声を上げて頭を掻き毟る。
見る見る間に全の髪型がボサボサに逆立ってゆく。
そんな全の姿に、周囲の人間は突っ込む事はしない。
我が艦長殿は何時もながら変だと思うくらいである。
「なぁ?」
自分一人で全く解決に到達しなかったのだから、全は素直に白状するしかない。
「オマエ等、子供ン時約束した事、覚えてっか?」
「孤児のオレ達には身寄りもなければ、何の後ろ盾もない。たった一人じゃどうやったって"持ってる"ヤツ等には敵わない。」
すると自分に声をかけてきた副官が笑顔のまま諳んじた。
彼も、いや、この船にいるほとんどの人間が孤児院の出身だ。
「皇族、血統主義が未だに残る樹雷じゃ、一生下級のままで上にはいけない。」
もう一人、長身痩躯、短髪の男が続いて呟く。
以前、左京の父が言っていたように、全達の生まれた樹雷では家格が物を言う。
上に行く為には、どうにしかしてそういう家の籍を手に入れるしかない。
他の手段としては、戦士として名を上げてそういう家とのパイプを持つなりなんなりだが、一昔前ならまだしも、"表面上"の大きな諍いがなくなり、更に海賊が激減した今では戦いの場、それ自体が少ない。
「だから、オレ達はここにいる。遠い昔の、大航海時代じゃないんだ。血だとかそんな事は関係ない。ここでのし上がって、こんな馬鹿げた仕組みの社会を変えてみせるんだってな・・・思ってたんだけどよぉ。あ、いや、今でも思ってるぜ?」
そこで全は溜め息を吐いて一息区切る。
「はぁ、困ったね、ウチの艦長は。何でもかんでも拾って来て一人で考え込む。」
やれやれと肩を竦める副官の柔和な笑み。
「・・・どうしても今すぐ助けたいヤツがいる。ソイツはさ、一度挫折して、社会から爪弾きにされちまった。それもちょっとした、誰にで起こるような事でだ。それでも、今のまんまじゃダメだってやり直そうと踏ん張ってる。」
「それで?」
幸いにも全には闘士としての才能があった。
そのお陰で一般市民水準の生活は余裕で出来ている。
ここまで順風満帆とはいかなかったし、一路と比べれば自分の方が遥かにきつくて辛い人生だっただろう。
それは無論、この船にいる全員がそうだ。
しかし・・・。
「我慢比べとか、不幸自慢とか、そういうハナシじゃねぇんだ。オレはアイツを助けたい。自分が逆の立場だったらならアイツは、いっちーはどんなに辛くても笑って助けに行くヤツだから・・・。」
一路ならばきっとそうする。
そういう人間だと全は知っている、確信している。
「オレはな、一度助け損ねてる。そのせいで余計に辛いメに合わせちまった・・・。」
負い目もある。
あれを一路の自業自得というには、余りにもあんまりだ。
だが、今ここで全が飛び出してしまえば、何らかの懲罰が待っているだろう。
軍属とはそういうものだ。
そして、その影響は部下にだって及ぶ。
何の後ろ盾もない者達だ、下手をしたらもう二度と出世は望めないかも知れない。
「・・・艦長の、全の友達ってんならしょうがないね。」
「は?」
「オマエの友ならば、自分達の友だ。」
場の皆がその言葉に笑っている。
どうやら聞くまでもなく満場一致のようだ。
「友達を見殺しにする艦長なんて願い下げだよ。あと、全以外の艦長もね。」
言いたい事は互いにそれで終わりだった。
あとは鷲羽にあらかじめ教えてもらっていた座標に一目散に移動。
移動先にいたGP艦に通信をつなぎ(応対した美少女を見て、いっちーは何時も美人に囲まれてんなぁと思いつつ)突入したというワケである。