「はい、オシマイ。」
ぱんぱんと手を叩く音がすると、一室に映し出されてた映像が消える。
「あぁん、鷲羽ちゃんのいけずぅ~。延長は?ね、延長はないの?」
鷲羽に食ってかかるのは、アイリだった。
という事でここはGPアカデミーの理事長室である。
「ないね。大体、いたいけな少年を助けるフリして監視してるってだけでもアレなんだ。」
鷲羽が言っているのは、NBの機能の1つである監視カメラの事だ。
「だぁ~って、カレったらワケアリみたいだしぃ~。しかも鷲羽ちゃんと阿重霞ちゃんのお墨付きで地球から来たいうしぃ~。心配じゃない?」
顎に人差し指をあて、昭和年代のブリっ子アイドルポーズを決めるアイリを、鷲羽は腕を組んだままの態勢で見下している。
「ダメだね。第一、アンタ達を信用してるってんなら、一路だって馬鹿じゃぁない、というより賢い方だから事情だって正直に話したろうよ。」
それを全くせずにここまできて事を起こしたというのだから、つまりはそういう事である。
「そう言われてしまうと耳の痛い限りですねぇ。」
御多分に漏れず、アイリの斜め後ろの定位置にいる美守は呟く。
「信用度、とりわけ不信感の99.9%は誰かさんのせいですが。」
「確かに、全員が全員ってワケじゃあなさそうだね。現にコマチ殿には懐いてたみたいだし。」
と、鷲羽はアイリ達に相対した位置にいたコマチに視線を動かす。
「わ、私はただ坊やが望んだ事を出来る限りしただけで・・・。」
子供に懐かれる、信用されるという太鼓判を押してもらえたコマチは、何故だか赤面してしまう。
「だからこそ、最後の最後の一線で迷惑かけたくなかったんだろうよ。そこが明確な違いだなぁね。」
偉そうに述べる鷲羽だが、一路が人を信用する条件・基準というのはある程度理解してはいた。
無条件に近い信頼を一路に寄せるだとか、母性或いは父性を感じ取れる事、他にも一路自身の基準で不快・悪だと判断していない事、云々、等々、エトセトラ・・・。
だが実の所、良好な人間関係を築くにあたって、基礎となるようなモノばかりだったりするのだ。
(ここにいるメンツはちょーっち大人の打算を持ち過ぎてる輩ばかりだからね。仕方ないっちゃ仕方ないか。)
それ相応の権力としがらみを持ってしまえば、誰しもそんな打算を日常的にしてしまう。
「ま、潔癖なところがちょっぴりあるのは、子供らしさという事で。」
それにしてもワウ人の教育係といい、コマチといい、どうしてなかなか一路は目のつけどころがいいと鷲羽は思う。
まぁ、ただ例の天南財閥のボンボンはどうかと思うが。
色んな意味で"普通の打算"を持たないわけだし、何より結果的に異一路のプラスになっているのだから、反論が出来ない。
「子供らしさで済む程度の事ならいいのだが・・・。」
そうぽつりとこぼすコマチに、にぃっと鷲羽は微笑み返す。
「な、何だ?」
鷲羽にしてみれば普通に笑いかけたつもりが、コマチに相当のプレッシャーを与えてしまったらしい。
確かにこの笑みを見て、失禁、発狂寸前に追い込まれる人物は、この銀河のそこらじゅうにいる。
「アンタ、"いい母親"になるよ。」
「なっ?!そ、それはどうも。」
赤面するコマチにうんうんと満足げに頷くと鷲羽は自分が通ってきた亜空間ゲートに足を踏み入れようとして・・・ふと歩みを止めて一同に振り返る。
「あ、そうそう、あの船はこっちできちんと責任を持つけど、あの子の後を追いかけないコトだね。じゃないと"保障"は出来ないヨ。」
念を押す。
保障出来ない範囲は少々、いやかなり怖くて聞き返す事など出来なかったが、これだけは言える。
鷲羽はそれなりの手を打っていて、それを邪魔すると何らかのしっぺ返しが来るという事だ。
「では!坊やに伝えて欲しい。事が済んだら好きなようにしろと、"戻る"のも"帰る"のも。」
コマチが用件を終え、今まさにゲートを通ろうとする背に声を投げかける。
「・・・1つ、訂正するわ。いい母親だけじゃなくて、"いい教師"にもなれるよ、コマチ殿は。」
え?私、ずっとコマチ推しだったよね?(ヲイ)