静竜は自分の計画を知っていたのだろうか?
しかも具体的なところまで。
理由は解らないが、具体的な事を知っているのは一路とNBだけなので、手を回したとすればNBの方だろう。
何で脅したか解らないが(しか方法はないと思っている)、もし罠だったとしても中止にする事は出来ない。
「坊?」
考え事をしていた一路の傍でNBが呟く。
「あんな、坊。ワシ、坊に言わなアカン事があるんや。」
「NBが?」
何だろうと首を傾げる。
「1個だけな。ワシ、実は大分前から坊の捜し人が海賊におるの知っとってな。研修の1日目にはどの海賊のとこにおるんかも見当がついとった。」
改まって述べるNBの言葉の神妙さ加減に一路は、正座をして向き直る。
「前に海賊社会にも厳然とした格付けあるっちゅう話、したな?」
聞く態勢が整ったのを確認すると、NBもそれにならって器用に足をたたんで正座する。
収納出来るはずの足をきちんと一路に合わせてそうしたのにも真剣さが垣間見えた。
「うん、覚えてるよ。」
「その中でもな、幾つか名の知られたデカいギルドがあるんや。まぁ、代表格っちゅーか、本家みたいなのは壊滅してるトコが大半なんやけど・・・。」
だからこそNBは自分の目を疑ったし、それを告げようか迷った。
心の何処かで、それを告げてしまったら一路は諦めてしまうのではないだろうかと過ぎったからだ。
一路の決意が堅いのは知っている。
でも、それでもどうしようもない事もあるのだ。
サポートロボットとしてのNBは一路に無理をしてもらいたくない。
してもらいたくはないのだが、それでも諦めて欲しくはないという考えが何処かに存在していた。
そうしてしまったら、一路は一路でなくなってしまう気がするのだ。
そして、ここにきてきっと告げたところで何も変わらないのだろうと思い至ったから、ここで白状してしまおうと。
このタイミング以外で言う機会はないから。
「坊も覚えておくとええギルドは3つ。シャンク、バルタ、ダ・ルマーの3つや。」
「シャンク、バルタ、ダ・ルマー。」
噛み締めるように復唱する。
「最大規模のギルドはついこの間までダ・ルマーだった。まぁ、これは例の地球人艦長に壊滅させられとる。シャンクも同様や。」
成程、ふむふむと頷く。
「あれ?バルタは?」
「バルタは特殊でな、本家は樹雷の支援を受けて、一国家として承認されて共和国制を敷いて海賊行為はしとらん。脱海賊や難民の受け入れ先状態やな。それにそこの姫さんは出奔して、例の艦長の"
嫁はんの一人や。」
「えぇっ?!それってありなの?!一体何者なの、その艦長って・・・。」
大きな海賊ギルドを二つも壊滅させて、挙句の果てに一国の元海賊姫をお嫁さんにとか、同じ地球人とは一路には思えない。
「まぁ、今こっちにはおらんから、会う事もないやろし、そこは気にせんでえぇ。」
「き、気にするなって言われても・・・。」
そこまでスケールが大きいと、土台無理な話である。
しかも、対外的には次期樹雷皇だったりするのだ。
最大に困った事に、西南がそんな状況になっても本来の皇位継承者1位と2位が表に出て来ないのだから仕方ない。
この件で大騒動を引き起こすのは数十年後、それも分岐するとされる天地の息子が現れる頃の話である。
「その中で一番ヤバいのがシャンクギルドや。今は随分丸くなった・・・て言うのはアレやが、以前は一番残忍・冷酷なギルドやった。」
事細かくNBが解説する事で、何となく一路の方も気づかせてもらえた。
NBが言いたい事はつまり・・・。
「灯華ちゃんは、そのシャンクギルドの何処かの船にいる・・・。」
「・・・もう聞かんで。」
その為の2週間であったし、その為のアカデミーだった。
「やっぱり行くんやな。命がけやで?」
一路の表情を確認して呟く。
「うん。でもさ、NB。人の命を守るのに命をかけるのは、人間なら誰でも出来る事なんだって僕は思うんだ。」
そう思えるようになれて、本当に良かったなと一路は自分でも思う。
「だってさ、多分、僕の母さんは、僕の為に命がけで僕を生んでくれたと思うから。」
だから、誰かの為に命がけになれるのは当然の事なのだ。
「そか。黙ってて悪かったな、坊。」
「心配してくれてありがとう。いってくるね?」
「はぁっ?坊、行ってくるやないで?ワシも行くんやから。坊はワシから、檜山 一路のサポートロボットっていうアイデンティティーまで奪うつもりかいな。」
何を言ってんだコイツはというリアクションが返ってきた事に一路は笑う。
「そっか。じゃあ行こう、NB。」
「ほいきた。」