「研修、つつがなく終わり何よりだ。」
薄暗い部屋の一室に左京はいた。
片膝をつき、俯いたまま畏まった姿勢で。
それは立体映像だというのに、全身は緊張から硬直しているのがありありと解る。
「とでも私が言うと思ったか?」
映し出されているのは、灰色の顎鬚に覆われた中年の男。
その表情はやはり薄暗いせいかはっきりとは解らない。
だが、顔が見えなくとも威圧感だけはひしひしと伝わってくる。
「お前たっての頼みで貸出した者達を使うまでもなく、"本物の海賊"に出くわしたそうだな。で、それは"当初の予定通り"に処理してみせたのであろう?本物だろうが偽物だろうが、同じ目的に使えるのならば問題はない。」
全て把握されている。
把握されているからこそ、この男は左京に聞いているのだ。
ギリギリと歯をすり合わせ、無言でその屈辱に耐えるしか左京には答える術は無かった。
「私は無駄を嫌う。だが"息子"という事で少々無駄に浪費している部分があるようだな。」
それは左京の存在を許している事を含めてとでも言いたげな。
いや、実際そうなのだろうと左京は思う。
今回も左京が海賊を退けていれば、彼の、ひいては雨木家の株が地味な量で上がるし、自分や父への評価も上がる。
失敗したとしても、自分が大きなヘマをやらなければ、GP艦の信頼は下がる。
それに海賊達の奪った積荷も手に入る事も。
海賊が本物でも偽物でも、左京の成否如何でもある程度の利はあるのだ。
「申し訳ありま・・・。」 「無駄口はいらん。そう言ったばかりだ。」
積荷も手に入らず、家の評価も上がらず、GPの信頼度も下がらず、今回の件は何一つ利がなかったのだ。
父の怒りは相当だろう。
「我が一族は、天木の眷属といえど、分家の分家。本家の前当主も以前の野心の欠片すらない。現当主殿が事を起こさねば、我等は上には上がれぬし、起こす時には目端につく位置におらねばならぬのだ。」
樹雷は4つの家がそれぞれ樹雷皇を支えている。
柾木、神木、竜木、天木の四家だ。
当然の事ながら、樹雷皇もこの四家から選出される。
現樹雷皇は柾木家の出自だ。
そしてその各家に眷属と呼ばれる分家のようなものが存在する。
そこには厳然だる格付けがあり、それがそのまま皇位継承順になるのだ。
例外は唯一つ、樹に選ばれた時のみ。
それも、一足飛びに樹雷皇になる為には、第一世代の樹に選ばれなければならないのだ。
通常、上に伸し上がる為には、本家の養子となるか、本家の誰かと婚姻するくらいしかないが、現在の左京の家格ではそれも可能性が低い。
彼の父が述べているのはそういう事だ。
(GPで名を上げ、樹雷に帰還。闘士になり聖衛艦隊に配属か。)
そこまではほぼ既に確定していたと左京自身もそう認識していたし、問題も障害も特にはなかった。
出来ればGPにいる間に、自分の将来の部下や右腕になる有能な者を発掘したいと思っていた程度だ。
しかし・・・。
(本当に恥をかかせてくれるな、檜山・A・一路。)
あんなのは大事の前の小事、拘る必要もないと思えば良かったのだ。
だが、研修先ではそんな取るに足らない者に庇われた。
庇護される側と思われたのだ。
それが気に入らない。
弱いのならば弱い者らしく、自分の視界の外に引っ込んでいればいいのだ・・・。
「承知しております、父上。もうしばらくすれば研修結果を反映した内示が出ますので、そちらで結果を出してご覧にいれます。」
寧ろ、今の自分にはそれしかない。
「いや、内示はこちらで受けろ。」
「は?」
「一旦、こちらに戻れ。外聞が悪いというのなら・・・そうだな、私の名代を務めねばならぬ事由があるとでも言っておけばよい。」
横暴な。
そう思わないでもなかったが、この男は昔からそういう男なのだと左京も理解している。
嫌というくらいに。
だから・・・。
「解りました、父上。」
そう答える他、選択肢などなかった。
たまには他のキャラを書かないと・・・。