真・天地無用!~縁~   作:鵜飼 ひよこ。

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第102縁:その足音はひたひたと。

「いやぁ、非常に有意義な研修期間だったねぇ。」

 

 両手を上げ伸びをするのはプーだ。

ワウ人だけあって、その構図は動物園にいてもおかしくはない。

 

「久々のシャバの空気は美味いでゴザるな。」

 

「ホントよね、有意義なトイレ掃除だったわ。」

 

 照輝の言葉にげんなりしながらもえマリーが呼応する。

 

「まぁ、仕方ないじゃない?いっちーと違って、僕等は命令違反なんだし。」

 

「本当、誰かさんの言葉を真に受けたばっかりに。」

 

「ごめん。」

 

 やりとりを聞いていた一路は思わず謝る。

あの場にいた三人には、待機命令が出されていた。

にも関わらず、勝手に行動してしまった。

完全な命令違反である。

軍属はないので、それ程厳しい罰はなかったが、代わりに研修期間が終わるまでの間、トイレ掃除(GPの伝統的な罰ゲームである)が待っていた。

 

「いっちーが謝る事はないわよ。」

 

「そうだよ。僕達が自分でやった事なんだからね、自己責任ってヤツさ。」

 

「アンタ達、元気よねぇ。どんだけ体力馬鹿なの?」

 

 トイレ掃除という罰に最近慣れつつあるプーと照輝は、元々体力があった事もありケロリとしている。

 

「罰は仕方ないわ。でも、雨木君達の方が問題。」

 

 一路の隣をちゃっかりしっかりとキープしたアウラがぽつりと呟く。

 

「そうよ!ソレ!何なのアレは!」

 

 燃料を投下したかのようなその呟きが、えマリーんを一層激しく爆発させる。

 

 

『彼等がどんなに黒に近い行動をしたとしても、海賊の襲撃自体は本物だ。彼等の直接関係があったという証拠もない。』

 

 そう告げたのは、一路と共にブリッジに戻ってきた副官だ。

 

『つまり、現状は待機命令違反以上の裁きは与えられん。』

 

 副官の言葉と同様に処分の命令を下した本人であるコマチも同じだった。

別に一路はそれに対しては何の反論もなかった。

実に冷静で艦長の鏡たる人だと思ったくらいだ。

お陰で無駄な混乱は一切艦内で起きていない。

ただ、もし本当にエマリーに言う通りの、彼等がこの艦に乗る者達を危険に晒そうとしていたのなら、それは許し難い行為だとしか。

 

『だが、君のやった事やその勇気は無駄ではない。それは胸を張っていい。自分達と訓練した甲斐があったな。』

 

 そう言ってくれた副官も、やはり副官の鏡たる人だと感じ入った。

 

(・・・本当に僕は成長してるんだろうか。)

 

 灯華を連れて逃げおおせるくらいに。

実感し難い部分もある。

 

「いっちー?」

 

 思考が落ち込みそうになる寸前で一路を掬い上げる声。

 

「どうかして?」

 

 真横でアウラが首を傾げていた。

 

「なんでもないよ、ありがとう。」

 

「怪我は大丈夫なんでしょう?」

 

 同じように心配げに自分を見るエマリー。

 

「うん、大丈夫。エマリーもごめんね。心配かけて。」

 

 しょぼんと謝る一路に何故かエマリーの方が赤面する。

 

「別に心配はっ!何よ、皆、その目は?!」

 

 エマリーを眺める皆の生温かい視線。

 

「ツンデレだな。」 「ツンデレでゴザるな。」 「ツンデレ。」 「いっちー、飴ちゃん食べる?」

 

 最後の黄両以外が、皆、ほぼ同じリアクションでエマリーを見つめる。

 

「な、何よソレ!いっちー違うからね!」

 

「えと、何が?」

 

 何がどう違うというのだろうと一路は首を傾げる。

 

「な、何って・・・はぁ・・・ともかく、皆、研修お疲れ様でした!はい!この話オシマイ!」

 

「自分で話題振っておいて、ソレとは・・・。」

 

「理不尽でゴザるな。」

 

「何よ!」

 

「何でもないでゴザる。」

 

「うんうん。」

 

「いっちー飴ちゃんはー?」

 

 全くとりとめのない光景。

黄両から飴を受け取り、今にもプーと照輝に食ってかかりそうなエマリー。

それをなだめるアウラ。

その様子をケラケラと無邪気に笑う黄両。

 

(そういえば、皆いつの間に仲良くなったんだろう?う~ん・・・。)

 

 そんな風に考えながら。

 

「坊、大丈夫か?」

 

「大丈夫だよ、NB。ただ、僕がいなくなったら、皆どう思うかな?」

 

 巫薙から情報がもたらされた時、自分はここを離れる。

この輪の中には、皆とはいられなくなる。

 

「・・・やめてもえぇんやで?それで誰も坊を責めたりはせん。」

 

「やめないよ。それに、それは僕が僕を責めし、許せないから。」

 

 誰も知らないからこそ、それは尚更。

 

「ま、GPから追われるっちゅーコトはないから安心せぇ。」

 

 毎年、何人かは離脱者、脱走者が出てくる。

主に遊び半分の金持ちの子息が大半だが。

 

「そっか。」

 

「何なら坊が在籍してた記録自体消せるで?」

 

「そんな事したら捕まって分解されちゃうよ?」

 

「ワシがそんなヘマするかいな。」

 

「どうだか。」

 

 一路はっほえむ。

少なくともNB、彼は自分に最後まで付き合うと述べているのだから。

 

「大丈夫や坊。オマエの敵はワシの敵や。」

 

「ありがと。」

 

 素直に礼を口にする一路。

彼はまだNBとのこのやりとりの意味を、そして自分を取り巻く悪意に気づいていはいなかった。

以前、鷲羽が天地に言っていた"本当の悪意は直前まで表には現れてこない"という事を。

 

 


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