新年も宜しくお願い致します。
(おかしい・・・。)
バスに乗り、更に歩き始めて数十分。
そして途中から軽い山道での山登りが始まるに至って、ようやく一路は気づく。
この風景が一度見たような気がしてならない事に。
(どう見てもこれって・・・。)
「さぁ、あの、お家ですよ~。」
そして否応無しに答え合わせが始まる。
「やっぱり・・・。」
確認するまでもなく、柾木家である。
(困ったな。)
まさか翌日も訪問する事になるとは・・。
困り果てる。
「砂沙美ちゃんただいま~。」
玄関先で美星が声を上げると、パタパタと置くから足音が聞こえてくる。
「おかえりなさ、美星お姉ちゃん。ごめんね、お買い物頼んじゃって。」
耳の上辺りから生えるように下がる2本の髪、ツインテールに薄桃色の瞳。
背丈は小さく、大体小学生くらいだろうか。
白い割烹着の前掛け部分で手を拭きながら、砂沙美と呼ばれた少女が現れた。
「全く、みんな面倒くさがってお買い物行ってくれないんだもん。今日はノイケお姉ちゃんもいないのに。砂沙美お夕飯の支度あるし、荷物沢山持てないし・・・あれ?お兄ちゃん誰?」
一通りの愚痴を吐いたところで、ようやく一路の存在に気づく砂沙美。
「あ、えと、一路って言います。えぇと・・・阿重霞さんの妹・・・さん?」
「お財布失くして困ってたのを助けてもらったのー。」
名乗った一路にすかさずのフォローを入れる美星。
一路の発言と全く関係ないのが彼女らしい。
「お財布?ここにあるのは?」
玄関の横、靴箱の上に置かれた財布・・・。
「へ?・・・い、い、一路さんっ!お財布ありましたーっ!!」
「は、はは・・・良かったですね。」
かくして美星はお金も持たずに目的の物を手に入れ、しかも1円も失う事なく、一路をピンポイントで一本釣りしてきたという結果になるわけだが・・・。
「一路お兄ちゃん?」
一路の名を確信して見つめる砂沙美。
どうやら、お兄ちゃん・お姉ちゃんという呼び方は、彼女にとって目上の者を"さん"と呼ぶのと同意義の敬称兼親称らしい。
「うん?」
砂沙美の視線に合わせて膝を折る。
彼女もそれはそれは愛らしかった。
「どうして砂沙美が阿重霞お姉様の妹って分かったの?」
そこが不思議だったらしい。
「だって似てるよ?砂沙美さんと阿重霞さん。髪の色とかは違うけど、なんとなく、うん、似てる。」
砂沙美の方が、無邪気さの中にどことなく高貴な感じがするけれどという言葉を一路は飲み込む。
あまりに阿重霞に失礼過ぎる。
「そっか砂沙美似てるのかぁ。砂沙美、最近お姉様に似てるって言われる事ないから。」
確かに髪形も髪の色も違う。
瞳の色も微妙に。
しかし、一路には姉妹に思えたのだ。
自分でも外見が似ているかという風に問われたら、年齢差もあるが似ているとまで断言できないと思うのに、だ。
もっとも、阿重霞はとある事情で髪を染めたり、遺伝子レベルで調整したりしているし、砂沙美は砂沙美で生まれた頃のままと同じ砂沙美ではないのだが、当然ながら一路は知るところではない。
「雰囲気はもう一人のお母様に似てるって良く言われるのになぁ。」
「もう一人のお母様?」
な、なにやら複雑そう。
そう感じた一路は、これ以上深く追求するのをやめる事にする。
少々の反省をしつつ。
しかし、これは一路のちょっとした勘違いで、彼女の国では一夫多妻が許可されているのだが、これも一路の知るところではない。
「んだよ、うっせぇな。オチオチ昼寝も出来やしねぇじゃねぇか。」
さて、どう会話を続けたらいいものかと思案し始めた一路の前に昨夜見た顔が・・・。
「魎呼さん!」
「んぉ?ぬぉっ!一路じゃねぇか!どした~?寂しくなってアタシに会いに来たのかぁん?」
一路の顔を見るなり、寝ぼけ眼を一蹴してアルカイックスマイルで彼を迎え入れる。
(・・・今、魎呼さん、宙に浮いてなかったか?)
そんな馬鹿な、疲れているのか自分と目をしばたかせる。
そういえば、初遭遇(?)の時も空から落っこちて来た気が・・・今思えば、あれも何だったのだろうか?と。
「どした?何かあったのか?」
さては学校で、今流行りのイジメとやらに遭遇したのだろうかと首を傾げる魎呼の様子に慌てたのは一路の方だ。
「いえ!その、偶然、美星さんと出会って・・・まぁ、その、夕飯に誘われて・・・来ちゃいました。」
話が長くなりそうになったので、簡潔明瞭に前略、中略で結論のみを述べる。
「そうそう、誘っちゃったの。お呼ばれ、ね~?」
るんるん気分で、一路の言葉の補足にすらならない言葉を投げかけて、ね~っと同意を促す。
ただ、同じ事を言ってるだけである。
「みぃ~ほぉ~しぃ~っ!」
突然、低く唸るような声色で、魎呼が呟く。
俯いた顔で表情が見えないが、どう考えても怒っているようにしか思えない。
「はぃ~ッ!!ごめんなさぁ~いっ!!」
理由もよく解らぬまま、魎呼の怒気(?)に負けて美星は思わず直立不動で謝ってしまう。
特に今までの流れで魎呼が怒るような要素は無かったはずだ。
「でぇかしたぁっ!」
「はひぃ?」
半泣き状態の美星が、ぽか~んと呆けながら魎呼を見る。
「今回ばかりは、良くやった。いやなァ、一路が学校でうまくやれてるかアタシも気になっててよ。」
完全に美星の謝り損である。
「それは、心配させてごめんなさい。」
魎呼が気にかけてくれた。
それが一路にとってはこそばゆくて、そしてどんな反応をしたらいいのか解らずに謝ってしまう。
「なぁに、アタシが勝手に気になってただけさ。ま、それはメシをでも食いながらだ。砂沙美~メシは~?」
「まだまだだよ。だって今、美星お姉ちゃんが夕飯のお買い物してきてくれたばっかりだもん。」
「あ~?ちぇ。んじゃ、どうすっかな?」
「あのォ~?」
夕飯までの間、何をして時間を潰そうか思案する彼女の脳裏には、夕飯の準備を手伝おうという気はさらさらない。
そんな魎呼にまたまた恐る恐る美星が手を上げる。
まるで肉食獣を目の前にした草食動物、蛇に睨まれた蛙の如く。
どちかがどちらかかは、説明するまでもないだろう。
「お夕飯が出来るまでの間、一路にはお風呂に入ってもらって待ってもらうってのはどうでしょ~?」
「お風呂?」
夕食後に入浴する派の一路にとっては、予想もしなかった展開だが、当事者であってもこの家の者ではないので、それ以上は何も言わないようにした。
「そうお風呂~。ここのお風呂は大きくてすっごいんですよ~。何たって、お空に浮い゛っ?!」
ずごんッ!
と盛大な音がして、美星の顔が床に打ち付けられた。
いや、めり込んでいるかも知れない。
「りょっ、魎呼さん?!」
突然、魎呼が拳を美星めがけて振り下ろした事に一路は目を白黒させる。
何が起きたか解らない、まさに電光石火の一撃。
「あぅ~。」
殴られた頭を擦りながら、頭を起こす美星の首にすかさず魎呼は腕を回し、ヘッドロック。
そのままの体勢で美星の耳元に囁く。
「ばっか、オメェ、そんな事言ったら、アタシ等が地球人じゃねぇってバレちまうだろ。地球の風呂は空に浮かんでなんかねぇだろうが。」
「え?一路さん、何も?」
「知らねぇよ!」
ごにょごにょと囁き合いながら、魎呼と美星が一路を見ると、何が起きたのか理解出来ていない為に首を傾げている。
「まぁ、なんだ、その風呂に入るのはいいかもな。」
とりあえず、風景だのなんだのは鷲羽がいるからなんとかなるだろう。
他にする事もないのは確かだ。
そう判断した魎呼は、一路に入浴をススメる事にした。
「でしょでしょ。じゃあ、私はお背中を流しぼっ?!」
「ウチは混浴温泉じゃねぇ。」
2発目の鉄拳は頭から煙が出ているように一路には見えた。
音も何やら重く鈍い。
当たってはいけない一撃のように見える程。
「くすんっ。だって魎呼さん何時も天地さんにぃ~。」
「それとこれは別だっ。一路の教育に良くねぇだろ?」
「魎呼さん?」
ぱちくりと瞬きを繰り返しながら、美星は魎呼は見る。
そして同じように彼女を見る視線が・・・。
「りょ、魎呼お姉ちゃんが・・・"変"になっちゃった・・・。」
砂沙美である。
酷い言われようだが、普段の魎呼の言動からしてみれば、十二分に異常な発言なのだ。
「オマエ等なぁ~・・・もういい、ちょっと鷲羽に風呂が大丈夫か聞いてくっから待ってろ。」
宙に浮いている風呂という事実をなんとかしに。
その後ろ姿を美星と砂沙美、一路が見つめる。
二人は訝しげに、一路は首を傾げたまま。
ちなみに魎呼が鷲羽の部屋に入ると、何処かで一部始終を見ていたのか、腹を抱えて笑い転げる鷲羽が彼女を待っていた。
本日も更新予定通り1日2回更新になります。
引き続きお楽しみください。