どんな人間にも、イメージと言うものがある。
例えばレミリアのイメージが「カリスマ」、咲夜のイメージが「完璧」であるように、だ。
紅魔館の地下、大図書館の主パチュリー・ノーレッジにも当然それはある。
それは――――……。
「……ああ、来たのね」
大図書館の古びた扉を開けると、無数の……いや、無限の本棚が白夜を迎えた。
漏斗状にぐるぐると広がる壁には、一部の隙間も無く本棚が並んでいる。
そして本棚の一つ一つに、びっしりと分厚い本が詰め込まれていた。
白夜が本の世界の中を慣れた足取りで進んでいると、ちょうど中央の空間に1人の少女がいた。
「…………」
「ちょっと待っていなさい、ちょうどキリの良い所なのよ」
(呼び出しといて本から顔を上げないとか)
内心で呆れるが、この少女――パチュリーはそう言う人物なのだ。
何しろ、種族「魔女」と言う生粋の人外である。
少女のように見えて、齢は実に100歳を越えている。
長い紫の髪先をリボンで纏め、三日月の飾りがついたナイトキャップのような帽子を頭に乗せている。
服装は全体的にゆったりとしていて、薄紫を貴重としたそれはどこかネグリジェのようにも見える。
今は大きな革の椅子に背中を預け、机に積まれた本の壁の向こう側、膝に乗せたやたらに大きい古書に視線を落としていた。
趣味は読書、大図書館に住み着き外に出ないこと幾十年。
(ついた二つ名は、『動かない大図書館』……!)
って、ただの引き篭もりじゃねーか!
と幼少の頃よりツッコミまくって幾数年、って、それこそ何の話だ。
「……ふぅ。すまないわね、待たせてしまって」
(そうですね、とりあえず人が来たら本から顔を上げるくらいのことはしても良いと思いますよ)
「何しろこの本、章の途中で読むのを中断すると近くにいる人間をページの中に封じ込める妖怪本らしいから」
(へー、人間を。って、人間って私だけじゃん!?)
知らない間に命の危機に陥っていた、全くもって洒落にならない。
ただ何を思ったのか、パチュリーは白夜のぴくりとも変化しない顔を見つめると。
「……つまらないわね、少しくらい慌ててくれるかと思ったのだけれど」
(あなたの目は節穴ですか?)
紅魔館随一の思慮深さを誇るパチュリーだが、白夜は時々、ただ抜けているだけなのでは無いかと疑うことがある。
だがそんな邪念も、顔を上げたパチュリーがクスリと微笑むことで消えてしまう。
口元に手を当てて、表情を僅かに緩めるその笑い方。
その笑顔を見せられると、白夜としては何とも言えないむず痒さを感じてしまうのだ。
何故かと言われると、ある事情から白夜はパチュリーに弱いのだ。
理由は、パチュリーが白夜を呼んだ理由を聞けばわかるだろう。
「そこに次の課題を積んであるから、3日後までにレポートにまとめて持ってきなさい」
(うえぇ……またこんな分厚い本ばっかり)
机に積まれていた本は、何と白夜のために用意されたものだった。
表の顔は少しも変わらないが、内心ではげんなりとしていた。
実はパチュリー、幼少時より十六夜姉妹の家庭教師を務めているのだ。
「前のレポートは貴女も咲夜も素晴らしい出来だったから、今回も楽しみだわ」
褒めてくれるのは嬉しいのだが、1000ページ近い本を山と詰まれると流石に遠くを見たくなる。
自分の従者に相応しい教養を、と言うレミリアのスパルタ方針の下、白夜と咲夜はパチュリーの教鞭を受けてきたのである。
とはいえ最初はパチュリーも面倒だったのか、ほとんど放置で文字も碌に教えてくれなかった。
それがいつからだろう、親身にいろいろと教えてくれるようになった。
文字、算術、理論、どれもこれも最高級かつ最上級の知識、幻想郷の人間でここまで知的環境に恵まれている者はそうはいないだろう。
白夜にしてみれば、毎晩毎晩、姉の咲夜に宿題をやらされ続けるだけだったのだが。
(と言うか、私の課題って半分以上は咲夜姉がやってるような物なんだけど……)
そうは言っても、それを口にするのも憚られる。
咲夜にかなり叱られるだろうし、それに何よりも。
「今度の課題はね、複数の定理を同時に証明しないと理解できない、私でも少し手が止まってしまいそうな――――」
楽しそうな顔で課題を説明するパチュリー「先生」に、そんな情け無いことは言いたくなかった。
白夜だって人間だ、誰かを慕い尊敬することだってある。
そしてそんな相手に見栄を張りたい、そう思うのは、おかしなことだろうか。
皆様こんにちは、竜華零です。
さてさて、今回も2人目の妹キャラ紹介ですよ!
あ、でもその前に……誤解されてはいけないので、確認です。
この「東方従者伝―瀟洒の妹―」に登場するオリキャラは、白夜のみです。
後書きで紹介する「東方妹シリーズ」が本編に登場することはありませんので、ご理解下さい。
それでは2人目は、東方の奇跡少女、早苗の妹です!
投稿者:東雲 秋葉様(小説家になろう)、てむこ様(小説家になろう)
・東風谷 美稲(こちや みいね)
種族:人間
能力:常識を語る程度の能力
※常識の中に彼女がいるのではなく、彼女の語る言葉こそが常識なのだ。
容姿:緑髪(ボブカット)に深緑の瞳、幼めの顔立ちに眼鏡、青白のセーラー服、そして貧乳。
テーマ曲:常識は弱き人間の為に
キャラクター:
「現人神」早苗の妹、現役女子高生。京都の大学付属高校に通っており、1人暮らし中。
巫女してた姉と違って神様の声とかは聞こえない、と言うか妖怪とかオカルトは信じていない。
良いから勉強しろ、オーケー? な性格。でも怪談とお化け屋敷が天敵。愛称はミーネ。
秘封倶楽部の特別メンバー。
オープンスクールで知り合ったメリー(マエリベリー・ハーン)経由で蓮子とも知り合い、結果として秘封倶楽部の特別メンバーに。
目下の目標は、メリーと蓮子を更正させること。
※秘封倶楽部と原作本編の時系列関係が微妙だった気がしますが、ある程度無視しました。
主な台詞:
「良いですか先輩方、この世の中――――不思議なんて物は無いんですよ!(くわっ)」
「空が飛べる? 飛行機でもヘリでも持ってくれば良いんですよ。病気を治せる? 病院って何のためにあるか知ってますか? テレパシー? 携帯電話って便利ですよね。日本の原風景? 田舎に行きましょうそうしましょう……奇跡? 常識の前にはゴミ箱行きです」
「だ、だだだだだだ、だから! 境い目とか裂け目とか意味わかんないこと言わないで下さ……何か目が一杯あるうううううううううぅぅぅ!?」
「あ、はい。姉が1人……現人神、もとい巫女さんやってますが何か?」