東方従者伝―瀟洒の妹―   作:竜華零

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いつもありがとうございます、竜華零です。
本編前にお知らせです。
次週、リアルで少々都合がありまして、次回の更新についてはお休みさせて頂きます。
皆様にはご迷惑をおかけしますが、何卒ご理解の程、お願い致します。
次回の更新は、6月22日日曜日となります。
それでは本編です、どうぞ。



リグル・ナイトバグ:裏

 リグル・ナイトバグは蟲の王である。

 あまり知られていないことだが、彼女は蟲を通じて幻想郷の全てを把握している。

 まぁ、リアルタイムで全てを把握しているわけでは無く、あくまで蟲達の「噂」を拾って把握している程度でしか無いのだが。

 

 

「ふぅん、人里に新型の蚊取り線香が出回ってるのか。最近は新しいのがどんどん出てきて嫌だねぇ」

 

 

 ぶんぶんと音を立てて周囲を飛ぶ蟲達に指を這わせながら、リグルはふんふんと頷いていた。

 蟲達が持ってくる情報は、リグルにとっては非常に有用だ。

 蟲はどんな場所にも必ず存在する、異相の世界であろうと「蟲」はいるのだ。

 そうして彼女は、幻想郷中の情報を知るのだ。

 

 

 自分より強い妖怪達が、どうしているのか?

 自分より弱い妖怪達が、どうしているのか?

 人間達が今、何をしているのか?

 基本的に蟲の力は弱く、リグルもまたその例に漏れない。

 彼女達は、とても弱い。

 

 

「うーん、やっぱり幻想郷でも蟲は嫌われ者かぁ」

 

 

 弱いからこそ、強かなのだ。

 リグルには人間の友もいる、が、しかし彼女もまた妖怪。

 同胞の蟲達の話を聞き、時として報復することもある。

 ……起き抜けに身体中に蟲刺されがあったなら、それは彼女の報復だ。

 

 

「モーニングサービスもさっぱり申し込みが無いし、殺虫剤撲滅キャンペーンも効果なし。生き難い世の中になったわね」

 

 

 あ、最初からか、と思う。

 ちなみにリグルは妖精と友好度が高い、何故なら自然そのものである妖精は蟲と相性が良いからだ。

 何しろ蟲に関する妖精もいるくらいなのだ、当然ではある。

 チルノ、大妖精と友人関係にあるのは、実はそう言う理由だったりする。

 まぁ、氷精に関しては寒さのせいで少し苦手だが。

 

 

「さぁ、次は妖怪の山の方に行こうかな。あのあたりの蟲達、最近あまり会ってないものね」

 

 

 ふわふわ、ふよふよ。

 風に乗って幻想郷の夜空を飛ぶ、いつの間にか高度も上がってきていた。

 見下ろせば、先ほど紅魔館のメイドと宵闇の妖怪と擦れ違った畦道が見える。

 月と星の光で照らされた畦道の先を歩く1人と1匹の姿が小さく、そしてぼんやりと見える。

 

 

「あの子も随分と大きくなったわね、昔は紅い館の庭を門番と鬼ごっこして遊んでたのに」

 

 

 たまに氷精達と一緒にかくれんぼして遊んだりしたが、基本的に、リグルは白夜に対して決めていることがある。

 それはすなわち、幻想郷中の全ての蟲が守っているルールと言う意味だ。

 

 

「十六夜白夜を刺しちゃダメ」

 

 

 リグルは基本的に、蟲を殺す者が嫌いだ。

 花を踏んだら極太のビームで吹き飛ばす妖怪が幻想郷にはいるが、リグルにはそこまでのことは出来ない。

 先にも言ったが、せいぜいが蟲に刺させるくらいだ。

 

 

 しかし白夜は――人間という条件で限定するなら――実は物心ついてからと言うもの、蟲刺されというものに悩まされたことが無い。

 蜂はもちろん、百足や蛾、ついには蚊や蟻にさえ苛まれたことが無いのだ。

 本人はのほほんとしていて気付いていないが、この10年ほどはそうなのだ。

 

 

「あの子は、紅い館の住人の中じゃ蟲に優しい方だからね」

 

 

 もちろん、生活する上で知らずに蟲を殺生してしまうことはある。

 そう言う時は仕方が無いとリグルも見逃すが、あえて殺生するような行為は許さない。

 例えばもう1人のメイドである咲夜などはワースト1だ、でもアレには仕返しが出来ない、報復が逆に恐ろしいからだ。

 

 

「花壇弄ってて蟲を嫌がらないって言うのは、珍しいからね」

 

 

 あの少女は、門番と共に良く庭の花壇を弄っていた。

 蝶などはともかく、甲虫や百足などの蟲は人里の女の子でも忌避するだろう。

 しかし白夜は違った、手入れの際、蟲を怖がりもどかしも殺しもせず、そのまま手指に這わせるままにしていた。

 そう言う人間は、リグルにとっては貴重だ。

 

 

 蟲に餌を置いてやるような女の子は、他にいない。

 その姿を見て以来、リグルは全ての蟲達に彼女を困らせないよう命令した。

 実は山の肉食の獣から守ったりしたこともあるので、蟲の信義も馬鹿には出来ない。

 ……まぁ、つい美味しそうな野菜に群がって払われることもあるが、そこは愛嬌だろう、多分。

 

 

「紅魔の妹メイドに祝福あれ、ってね♪」

 

 

 最後に「うふふ」と笑って、リグルは闇へと消えた。

 蟲の羽ばたきの音だけを残して。

 




最後までお読み頂きありがとうございます、竜華零です。
そして最後までこのペースです、白夜から見た幻想郷と幻想郷の住人から見た白夜の話のまま最後まで行きます。
異変編として本格的に描くかどうかは、ちょっとわかりませんねー。

そして、今回も東方別視点。
今回は風見幽香の妹、『風見 優花』です(詳細はチルノ・表)


風見幽香の場合:
「おはよう優花、今日も可愛いわね」
「何も心配しなくても良いの、私が貴女を守ってあげる」
「外の世界の何者も、貴女を傷つけることは出来ない」
「さぁ、歌を聞かせて頂戴。命を育む貴女の歌声を……」

その他、優花の目撃証言:
霧雨魔理沙の場合:
「太陽の畑の上空を飛ぶと撃ち落とされるぜ。危ないぜ……ちょっと妹の顔を見ようとしただけなのに」
アリス・マーガトロイドの場合:
「幽香は昔から異常なくらい過保護だからね、私でも優花にはほとんど会えないわ」
八雲紫の場合:
「あの子が生きられる場所を創る。それが契約だものねぇ……うふふふ」

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