東方従者伝―瀟洒の妹―   作:竜華零

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射命丸文:裏

 文は上機嫌だった、妖怪の山の自宅にて鼻歌など歌ってしまう程には。

 彼女は今、薄暗い空間の中にいた。

 ピンセットで写真を摘み液の中に浸すその姿から、写真の現像作業を行っていることがわかる。

 

 

「ふんふんふふーん♪ いやぁ、今日はツイてましたねぇ♪」

 

 

 弾むような声音で話す彼女の顔は満面の笑顔だ、整った顔立ちがさらに輝きを放って太陽のように美しい。

 彼女は写真家では無く新聞記者、しかし良い写真が無ければ良い新聞が書けないのも事実。

 そう言う意味で、今日の彼女は最高の写真が撮れたと感じていた。

 

 

「ふふふ、よもや滅多に出てこない十六夜白夜に会えるなんて!」

 

 

 あの<永遠に紅い幼き月>レミリア・スカーレットが起こした「異変」、紅霧異変。

 幻想郷全土を妖力の霧で覆い尽くすと言う前代未聞の異変、今代の<博霊の巫女>が解決した最初の異変でもある。

 あの時は、レミリアを筆頭とする紅魔館勢が巫女を迎えたものである。

 

 

 門番、図書館の主と司書、メイド長、主そして主の妹。

 まさに、紅魔館の総力戦だったと言えよう。

 しかしその中にあってただ1人、巫女の迎撃に加わらなかった者がいる。

 それが、あの十六夜白夜だ。

 

 

「おっ、そろそろ先に乾かしていた写真が仕上がりますかね~」

 

 

 巫女の迎撃が出来ない程に弱いのか? いや、どうもそう言うわけでは無いらしい。

 何故なら続く異変にて、彼女は姉について出撃したからである。

 終わらない冬の異変、冥界の姫が引き起こした春雪異変だ。

 まぁ、紅霧にしろ春雪にしろ、詳細については文も知らないのだが。

 新聞記者としては致命的なミスだった、足しげく神社に通う理由の一つはそこにあるのかもしれない。

 

 

(……まぁ、実際、能力含めて謎が多いのだけれど)

 

 

 乾いた写真を指に挟み、ふっと息を吹きかけながら、目を細める。

 その瞳の奥に昏い炎が揺れ、しかし一瞬の後に消える。

 そして浮かぶのは、無邪気にも見える笑顔だ。

 上機嫌に鼻歌など歌いつつ、画像が浮かび上がってきた写真を見る。

 

 

「……あれ?」

 

 

 そして、浮かべていた笑顔が怪訝そうな顔に変わる。

 彼女が手にしている写真には、白夜が映っている。

 間違いなく白夜であって、具体的には左斜め後ろの上から激写したものだ。

 白い肩が露になっており、ぶっちゃけてしまえば着替え中の写真だった。

 

 

 実は文は、あの道で出会うよりも前に白夜を発見していたのである。

 そして、湖から上がり、人気の無い場所で鞄に入れていた衣装に着替えている所をばっちり押さえた。

 もう、ここ数ヶ月間で最も迅速かつ隠密的に行動できたと自負している。

 まさに幻想郷最速、自分で自分を褒めてやりたいくらいだ。

 

 

「ど、どうして写真が白んで……」

 

 

 そう、その渾身の一枚が白んでいる。

 白夜の背中を間違いなくファインダーに収めたはずなのに、何故か肩口から下の部分が白くなっていて、何も見えなくなってしまっていた。

 逆光か何かだろうか、いや、太陽は背にしていたはずだ。

 

 

 ならば何故、と思い立った瞬間、文は他の写真を確認した。

 全て、ダメだった。

 乾いて画像が浮かび上がる先から確認するが、どれもこれも、白んでいて使い物にならない。

 顔はちゃんと映っているが、肝心な部分が白く焼けていて新聞には使えない。

 文は、絶望した。

 

 

「い、いったい何故……カメラの不調? そんな……」

 

 

 天狗、いや河童――妖怪の山に住む、幻想郷最強の技術者集団――が作ったこのカメラに限って不調などありえない、長年付き合ってきた相棒だ。

 ならば、他にどんな可能性があるのか。

 まさか魔法でも仕込んであるわけでもあるまい、まさか――。

 

 

 ――いずれにしても、予定していた十六夜白夜特集は没だ。

 諦める他無い、文はさめざめと涙を流した。

 心なしか、羽根までしょんぼりとしているように見える。

 

 

「文様――、どちらに……あ、やはりこちらにおいででしたか」

 

 

 その時だ、誰かが暗室に入って来た。

 外の灯りで見せるその姿に、文は当然見覚えがある。

 山伏帽子を乗せたショートの白髪に赤い瞳、華奢と言うよりシャープな身体を覆う白赤の山伏衣装。

 

 

 犬走椛、妖怪の山の白狼天狗だ。

 主に山の見回り等の雑務が仕事で、ここに来たのもその一環だろう。

 文の家の中に普通に入ってきているのは、そうしなければ文が出てこないことを知っているからだろう。

 しかし彼女は、さめざめと泣いている文を見つけると、ぎょっとした表情を浮かべて。

 

 

「ど、どうしたんですか、文様。いったい何事ですか」

「も、椛……」

「は、はい?」

「もみじいいいいいいいいいいいぃぃぃっっ!!」

「え、ちょ……ふぁああああああああぁっっ!?」

 

 

 どたばたと文の家が揺れるほどの騒動が発生し、その後静かになるまでしばらくかかった。

 その中で、一枚の写真が机の上からひらりと落ちた。

 ほとんどの写真が白んで使い物にならない中、その写真は不思議ときちんと映っていた。

 

 

 ――――温かそうな日差しの中、深い紺色の和服に身を包み、不思議そうにこちらを見上げる白夜の姿が。

 





最後までお読み頂きありがとうございます、竜華零です。
あやもみ!
いえ、特に意味は無いです。
それでは、今回の妹シリーズです。


ラングリフ様(小説家になろう)
・水橋ハシュト
 種族:橋姫
 能力:ときめきを操る程度の能力
 ※他者のときめきを己の力とし、またときめきを煽ることもできる。
 二つ名:ときめき妖怪
 容姿:金髪三つ編み眼鏡、エキゾチックなペルシアンスタイル。
 テーマ曲:拙者にときめいてもらうでござる
 キャラクター:
 ときめきを操る妖怪、ハシュト。嫉妬を操る姉パルスィと違って温かなイメージを感じるかもしれないが、ところがどっこい、姉よりタチが悪い妖怪である。
 他人を見かけたらとりあえずときめかせ、そのときめきを喰らって自分の力とする。
 相手に恋人がいようが夫がいようが妻がいようが愛人がいようがときめきを煽るため、浮気と不義の象徴として人妖を問わず嫌われている。
 地底で言うと鬼である勇儀と仲が悪く、そして何故かさとりと仲が良い。

 ときめきが無ければ生きていけない
 ハシュトはときめきを操る妖怪であり、四六時中他の人妖をときめかせている。
 別に自分が対象である必要は無いが、彼女にとってときめきとは食糧であり、自然と色恋ある所に出現することになる。
 橋姫であるため橋近くでの目撃例が多いが、恋ある所全てに彼女が現れる可能性がある。
 まぁ、早い話が恋バナフリークである。

 主な台詞:
「私にときめいてもらうわ」
「ときめきは何にも代えがたい調味料、生きていくための糧。ああ、何て素敵な地底生活!」
「ところで姉さん、姉さんからはときめきを全く感じなかったんだけど」
「妬ましい妬ましい言ってないで、どこかでいい人でも……あ、何なら私にときめいてもら(目が覚めたら1週間が経っていました)」

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