長い期間をかけてチマチマ書いたせいで文章がおかしいかもしれませんがご容赦ください
まだ冷たさの残る初夏の夜。
海は静かな波音を立てながら空に昇る満月を綺麗に水面に映し出している。
海を見下ろせる崖の上、月明かりに照らされたその場所に俺は立っていた。
あの後、福音を無力化し搭乗員を保護した俺達は旅館へ戻った。勝手に出撃した箒達は織斑先生のお叱りを受け、俺と一夏は厳重なメディカルチェックを受けることとなった。
身体に火傷や打撲の跡が見られたがそれ以外に異常はなく、命に別状はないとの診断だった。
時間が丁度よく夕飯の前に終わったので許可を貰い臨海学校最後の晩餐を頂いた。しかし周りの生徒からは福音の事について質問されたためあまりいい気分にはならなかった。
一般生徒に福音の件を知られている時点でアメリカとイスラエルはおしまいだろう。
一応、福音の搭乗者であるナターシャ・ファイルスは先生に引き渡した。アメリカが彼女の身元を預かる人間を寄越さない事にはもうツッコまない。
「やあ、待たせたね」
「俺も今来たところです」
物思いに耽っているとこちらへ近付き声をかける人物。身体から湯気を立てながら朗らかに笑う浴衣姿の輝さんだ。風呂上がりなのだろう。
「今日は本当にお疲れ様、無事で良かった」
「ええ、皆のお陰です」
温泉の湯が滲みましたね、と苦笑しながら告げれば輝さんも釣られて苦笑する。
「でもまぁ、福音が何とかなって良かったとは思います。テロリストについては予想外でしたが」
目を閉じて思い起こすのはアネモネと名乗る不気味な少女。自然と拳を握る力を強めてしまう。彼女とアラクネの乱入さえ無ければ福音は、と悔やんでも悔やみきれない。
「今回の事で聞きたい事が沢山出来ただろう。鋼夜くんはそれを質問する権利があり、僕達にはそれに答える義務がある」
僕達、と言ったところで輝さんは俺から視線を外す。そして見つめる先から土を蹴り草を踏む音が響く。
「やあやあ、こんばんはー。夜の束さんだよー」
「…………」
いつもと変わらぬ満面の笑みを浮かべて現れる束さん。その一歩後ろから彼女に続くのは銀の髪を靡かせる一人の少女。
「その節はどうも」
その姿を見て俺はそう声を掛け、少女……クロエ・クロニクルは閉じた瞳を開かずにぺこりと頭を下げてそれを返答とした。
「さて、早速話に入ろうか」
「もー、あっくんてばせっかちだなー。ま、この戦いが終わったら話すって約束だったしいいけどね」
束さんは相変わらずのテンションで表情をコロコロと変えながら話す。
ふと、輝さんが俺の方をチラリとみる。
「では、まずは今日の事件について話そうか。乱入してきたテロリスト、
そう前置きして輝さんは静かに語り始めた。
「亡国機業は近年有名になったテロリスト集団だ。組織自体は第二次世界大戦から存在したようだが、目立ってきたのはISが配備されてからだね」
「ISの強奪、ですね?」
「正解。現行で最強、数が限られた兵器を奪えば嫌でも注目を浴びる。まぁ、それでも組織の存在は一部しか知らないけどね」
ISが奪われた、なんてテレビで放送出来る訳が無いので当然か。
「ISを強奪する人員と実力、強奪したISを隠し利用する施設と設備、存在を全く見せない潜伏力……普通のテロリストより厄介さ」
そこまで語り、輝さんは両手を上げて首を横に振る。ラビアンローズも亡国機業の所在までは分からないのだろう。
「そんな亡国機業だが、最近は活発に動いている。今回の福音襲撃と王蜘蛛の強奪の事件が正にそれだ。鋼夜くん、君は見たんだろう?異常な強さを持つISとその搭乗者を」
輝さんの問に黙って頷く。
強化人間と思われる少女と、その少女が駆るあの重武装のIS。確かに福音や王蜘蛛も脅威ではあったが、アレだけは別格だ。
「それらは最近になって亡国機業と手を組んだ組織の仕業だ。僕らはそいつらを『ガーデン』と呼んでいる」
「ガーデン……」
「国からはぐれた研究機関の人間が集まって出来た組織だ。まぁ、国から追い出される人間の集まりだけあって、研究内容の殆どが非人道的な実験さ」
輝さんの口から語られる真実により、ようやく頭の中の謎が解け始める。
「輝様、そこから先は私からお話させて頂けないでしょうか?」
と、ここでクロエが輝さんの話を引き継ごうと訊ねる。輝さんは笑顔でクロエの提案を受け入れた。
「では、僭越ながら。鋼夜様は私の出生についてご存知でしょうか?」
クロエの問いかけに俺は頷く。
「戦闘を目的に人為的に生み出された遺伝子強化兵士……で合ってるか?」
小柄な身体に銀の髪と白い肌。
類似点の多さから、彼女がラウラと同じ試験管ベビーであると予想出来る。
「はい、その通りです。第二次世界大戦時にドイツが残した研究資料の一つに記されていた『遺伝子操作により生み出される最強の兵士』の計画。当時では実現不可能の机上の空論を現代で再現され、産まれたのが私達です」
こちらの世界でもやらかしていた二次戦のドイツなら確かにやりかねない。
大戦……ドイツ……うん、この世界のドイツにバカ強い人外の集団とか居ないよね?黄金の獣とか水銀のニートとか居ないよね?居たら俺は勿論、輝さんや束さんでも勝てないんだが。誰か練炭呼んできてー。
「しかしコストの問題があり、生み出された個体は私を含めてのたった四人。ですが、戦闘教育を受けた私達は優秀な能力を持つ優れた兵士へと成長しました。ISが現れるまでは」
兵器として優れた性能を持つISは搭乗する資格さえあれば既存の兵器を上回る戦果を出すことが出来る。
そのため各国の軍では戦車や戦闘機の数を減らし、ISを取り入れようと動いた。その際にリストラされた軍人も数多く存在する。
彼女達もISの影響を受けたのだろう。ラウラの記憶を視た時も、その光景があった。
「優れた能力を持つよう教育された私達ですが、ISを使用すれば通常の軍人でもある程度の動きが出来ると判断され、このままではコスト分の働きが出来ないとされました。そして私達はISのハイパーセンサーを利用した特殊な義眼《ヴォーダン・オージェ》の適合手術を受けることになりました」
その名前には聞き覚えがある。確かラウラの左眼の義眼が同じ名前だった筈だ。
「妹達のためになれば、と私は最初に適合手術を受けることにしました。理論上、不可能はないとされていましたが結果は失敗。私の両眼は光を失いました。この失敗を基に、妹達も手術を受けたらしいですが再び手術は失敗したそうですね」
そう言ってクロエは閉じていた瞳をうっすらと開き、瞼の中に隠されていた金色の瞳と俺の視線が交錯する。
「光を失い、本当の役立たずとなった私はとある研究所へと送られました。そこでは人間の潜在能力を引き出す非合法の実験が行われており、私は実験体として過ごすこととなりました」
一旦そこでクロエは言葉を切った。
彼女にとってみれば研究所での生活は良くないものだっただろう。
「ドイツの研究資料では既に脳波についての理論が発見されており、新たな人類を生み出す計画もありました……その研究所はISを扱える女性を新たな人類、進化した兵士として開発するために身寄りの無い孤児を引き取り実験を繰り返していたようです」
「ニュータイプの存在は昔から示唆されてはいたということか」
俺の言葉にクロエは頷く。
輝さんが居たからか、それとも俺がこの世界に生まれたからか……いや、両方か。少なくともニュータイプなんて超人的な概念は原作には無かった……はず。
「私も数々の実験を受け、苦しみながらもずっと耐えてきました。そんな折に、研究所が束様と輝様により襲撃されました」
「そういえば、研究所を襲撃した理由は何なんですか?」
ふと疑問に思い、輝さんへ訊ねてみる。束さんに誘われて一緒に研究所に乗り込んだ、までは聞いたが理由までは聞いていなかった。
「あぁ、それはね」
「あいつらがちーちゃんのクローンを作ってたからだよ!だから束さんが潰したの」
輝さんの言葉を遮り束さんが奪うように衝撃の内容を語る。
「千冬さんの、クローン?」
「そう!あいつらちーちゃんのデータのコピーどころか遺伝子までコピーして偽者を作ったんだよ。これには流石の束さんも激おこだよ!」
データのコピーというのはラウラの機体に搭載されていたVTSの事だろうか?しかし、まさか千冬さんのクローンを作ろうとするとは……ガンダムでは確かにクローンとかよくある事だったけども。
「それでたまたま近くに来てたあっくん誘って研究所に乗り込んだのはいいんだけどー、肝心のちーちゃんのクローンや資料は既に持ち運ばれてて残ってたのは拉致したばかりで事情を知らないまま放置されてた女の子二人と閉じ込められてたクーちゃんだけだったね」
「こちらの動きが読まれたのか元々放棄予定だったのか……それは分からない。だがまぁ、僕は女の子二人を引き取り束はクロエ嬢をそれぞれ引き取ったのさ」
束さんが怒り心頭で話し、輝さんが補足を入れる。この二人が何の成果も得られない相手とはいったい……。
「鋼夜くんが遭遇した強化人間は間違いなくその研究所で調整を受けた子だろう。あの施設の人間は亡国機業に合流してまだ研究を続けているみたいだ」
「聞けば無人機なんてふざけた物作ってるのもそいつらなんでしょ……本当、束さんも激おこだね!」
と、束さんは「ぷんぷん」とわざわざ口にしながら怒りを露わにしている。だが、無人機について言及している時は怒りを滲ませた表情をしていた……今のは真面目になっていた事を慌てて誤魔化したと考えていいのだろう。
「亡国機業についてはこれで良いとして、そろそろ話してもらおうかな?束の目的を」
輝さんも追求することはなく、二つ目の内容を切り出す。
束さんの目的。今のいままでわからなかったこと。なぜISを作ったのか、なぜISを各国に配布したのか、なぜ製造を途中で辞めたのか。
それが、明らかになるかもしれない。
話を振られた束さんはうんうん頷くと顎に手を当てたポーズを取って話し始める。
「あれは束さんがまだピチピチの中学生、今風に言うとJCの時だった……」
……あれ?これ回想とか入る感じ?
(ピロロロロロ…アイガッタビリィー)
如月鋼夜ゥ! 何故君が男なのにISを装着できたのか
何故輝と会えたのか(アロワナノー)
何故無人機戦の後に頭が痛むのくわァ! (それ以上言うな!)
ワイワイワーイ その答えはただ一つ… (やめろー!)
アハァー…♡
如月鋼夜ゥ!君の人生は全て…神に操られているからだぁぁぁぁ!!
(ターニッォン)アーハハハハハハハハハ
ヴァーハハハハ(無言の胸ぐら)(ソウトウエキサーイエキサーイ)ハハハハハ!!!
鋼夜「俺の人生が……操作されている……?」 ッヘーイ(煽り)
あと二、三話で終わると思います