神様転生した者だけど毎日が苦痛   作:八雲 紅

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新年あけましておめでとうございます
今年も頑張って更新します


宿泊中の第52話

 

「はぁ……」

 

 

楽しい時間はあっという間に過ぎ、時間は夜へ。

 

俺は部屋についている風呂に入っていた。

 

もうすぐ夕食の時間となり、大宴会場では多数の生徒が夕食をとることになる。

 

 

さて、ここでも問題は発生した。

男子の隣を巡る座席争いである。

 

一定間隔で膳が一列に並べられているこの会場で有利な座席は狙う男子を中心とすれば、それの左隣か右隣か正面だろう。

 

何故か旅館のルールで食べる時は正座でないと駄目らしい。

 

正座が苦手な外国からの留学生用に皆でぐるっと卓を囲めるテーブル席はあるものの、俺はそちらへ行く訳にはいかない。

いや、正直そっちへ行きたいが正座が平気な俺があちらへ行くと色々勘付かれる可能性がある。

 

こいつ私達の気持ちを知ってるんじゃね?といった具合に。

 

そうなってしまうとかなり面倒な事になるので、今回はプレッシャーに耐えるのを覚悟で席に着かなければならない。

……ああ、鬱だ。

 

「……上がるか」

 

俺は風呂から上がり、準備されてあった浴衣に着替える。

夕食は浴衣姿で無いと駄目という謎ルールがもう一つある。

本当に謎だ。

 

着替えが終わった俺は重い足取りで部屋から出た。

夕食はクラスごとに座るから、簪さんとハミルトンさんはどう頑張っても一緒になれない。

 

のほほんさんとラウラと相川さんが座席を争うだろう。

 

……いや、ここはむしろ三人で収まって良かったと考えるべきだろう。絶好のポジションは三つなんだから。

 

ははっ、笑えてくる。

 

 

 

 

「奇遇だな、嫁よ。一緒に行かないか」

 

「数分前から部屋の前の廊下で待ち伏せているのを奇遇とは言わない」

 

 

部屋を出た瞬間、ラウラが声をかけてきた。

少し前から気配を察知していたのでスルーしたかったがダメだった。

 

だいたいの生徒は一夏と俺の部屋へ押しかけようとしたらしいが先生方と同室という事実を知れば織斑先生の狙い通り近付くのを辞めた。

 

だが、例外は居たようだ。

確かにラウラならば織斑先生も山田先生も平気だ。

 

 

「ぶっ」

 

「どうした?」

 

 

くるりと振り向けば浴衣姿のラウラが居た。

それはいいのだが、ラウラの格好に問題があった。

 

「浴衣というものは初めて着たが、なかなかいいものだな!」

 

この言葉から分かる通り、ラウラは浴衣が初めてなのだろう。

 

 

今のラウラの格好は……

 

帯を結ぶ位置をミスしており、前のスリットが全開。

そもそもサイズが合っていないのか、肩の部分がはだけている。

たぶん、はいてない。つけてない。

 

結論

見えそう。

 

 

「お客様の中にシャルロット・デュノア様はいらっしゃいませんかぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

「ど、どうした嫁よ?」

 

いきなり叫ぶ俺を見てラウラが驚くが知らん!

 

どうして一人で浴衣を着せた!こんな姿は誰にも見せられねーよ!犯罪的過ぎるわ!

 

「いいかラウラ、回れ右をして自分の部屋へ帰れ。お前は浴衣の着方を間違えている、シャルロットにセットしてもらえ」

 

「ならば嫁がセットしてくれないか?その方が早いだろう」

 

なんでこんな事を言うんですかねこの子は。

自分の姿がどんなものなのか分かってるの?

俺か一夏じゃなかったら即エロ同人的展開になるよ。

 

ラウラの場合は襲い掛かっても返り討ちに遭いそうだけど。

 

「男物と女物は違うんだ。俺じゃ無理だ」

 

「む……そうか。それなら仕方ないな、急いで戻って着替えるとしよう」

 

即席でそれっぽい理由を作れば効果覿面。

ラウラは信じたようだ。

 

「よし、急いで帰れ」

 

「また後で会おう」

 

そう言うとラウラは去って行った。

ラウラが角を曲がったのを確認した俺は一目散に駆け出した。

 

 

「あ、こうやん。……どうしたの?」

 

「いや……なんでもない」

 

宴会場へと逃げ込むように入れば、浴衣姿ののほほんさんがいた。

のほほんさんは俺の様子を見て何事かと声をかけてくれるがそれを適当に誤魔化す。

 

危ねえ、別の人に見られてたら本格的に死んでた。社会的な意味で。

 

 

「ねえねえこうやん、どこに座る?」

 

「適当にあそこでいいよ」

 

「分かった~」

 

のほほんさんが座る席を聞いてきたので適当な席を指差せばその右隣の席にのほほんさんが座った。

恐ろしい子!

 

「やっほー、如月くん」

 

「私達も一緒にいい?」

 

席を確保すると相川さんと谷本と夜竹さんと四十院さんがやってきた。

 

「ああ。でも隣はラウラが後で来るからそれ以外な」

 

「そ、そう。分かったよ」

 

そう言うと四人が少しだけたじろいだが直ぐに俺の正面に相川さんを座らせた。

というか対面が四人で埋まった。

 

 

「すまない、遅れた」

 

少し待つとラウラがやってきた。

今度は浴衣を正しく着用している。

 

「隣、とってあるぞ」

 

「すまないな」

 

空けておいた席を示せばラウラはそう述べ敷かれた座布団の上に正座した。

 

「正座、出来るんだな」

 

「うむ、教官がドイツにいた時によくやっていてな。真似をしたら出来るようになった」

 

素直にラウラに感心する。

剣道は座布団無い床で正座だから痛いんだよね。

 

 

周りのみんなと雑談していると夕食の時間になった。

 

 

「いただきます」

 

そう言って箸を取り、料理に舌鼓を打つ。

この時間は食べるのに集中する。

 

小鍋に山菜、刺身に味噌汁にお新香。

普通のメニューだが、よく見れば素材に高級品が混ざっている。

 

正直、学生の宿泊先で出るような飯ではない。

 

 

「おいしいね~」

 

「これはいい素材使ってますねー」

 

「うん、おいしい!」

 

周りの皆からも賞賛の声が上がる。

素直に食事を楽しもう。

 

 

 

「箸、使えたんだな」

 

「教官の影響でな」

 

「らうらうはすごいね~」

 

「そ、そうか?」

 

「すごいよ!今日のビーチバレーやドッジボールも大活躍だったし!」

 

「水着も可愛かったですよ」

 

「あ、ありがとう。褒められるのはあまり慣れないな……」

 

 

……修羅場を警戒していたのだが、思いのほか普通に雑談している。

心配は杞憂だったようだ。

 

 

 

「(アタシもクラスさえ一緒だったらクラスさえ一緒だったらクラスさえ一緒だったら一夏の隣に……)」

 

「(本音……いいなぁ)」

 

「(焦っちゃダメよ、私。まだ慌てるような時間じゃ無いわ。落ち着きなさいティナ・ハミルトン)」

 

 

遠方から感じるこの三つのプレッシャーさえ無ければ、まだ良かったのだが。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「いい湯だな」

 

「ああ」

 

夕食は終わり、皆と解散した後に俺は解放された温泉の方へ向かった。

温泉へ入る旨を告げればみんな納得してくれたので伸び伸びと入ることが出来る。

 

まぁ、途中で一夏が来たけど。

 

 

「海を見ながらの露天風呂とか最高だな!」

 

「前に風呂好きとか言ってたな」

 

「おう、日本人だしな!」

 

よく分からん理由だが、とりあえず一夏が風呂好きでテンションが高いというのは分かった。

 

 

「でもつまらないよな」

 

「何が?」

 

「覗き出来ないじゃん」

 

「のぞっ!?」

 

 

俺の言葉に一夏が過敏に反応した。

女将さんや先生が言っていたが風呂は男女で分かれているのではなく、時間で入る順番を決めている。

なのでいま隣を覗いても誰もいない。

 

 

「覗きは男のロマンだろ?」

 

「いやいやいや!普通に犯罪だから!」

 

俺の言葉に一夏は顔を真っ赤にしながら否定する。

 

「結果ではなく、覗こうという過程に意味があるのだよ。閉鎖された桃源郷を侵すスリルがいいんだよ。パンチラと一緒だよ」

 

「さすがにそれは同意しかねる」

 

「お前ホモかよぉ!」

 

「なんでそうなるんだよ!」

 

 

覗きやパンチラの話に食いつかない奴なんてホモしかいねぇよ!

こいつ本当にホモなんじゃないのか?

 

 

「なんだろう、すっげえ馬鹿にされた気がする」

 

「覗きやパンチラの話に食いつかない奴なんてホモしかいねぇよ!

こいつ本当にホモなんじゃないのか?」

 

「そんな事を思っていたのかよ!」

 

「だまらっしゃい!」

 

一夏の言葉を掻き消すように俺は風呂桶で一夏にお湯をぶっかけた。

一夏は反撃として頭に乗せていた濡れタオルを投げつけてきた。

 

戦争が始まった。

 

 

 

 

 

「俺達なにやってんだろうな」

 

「いいんじゃないか?もう……」

 

数分間、お湯のかけ合いが続いたが疲れた俺と一夏は再びおとなしく湯船に浸かる。

 

 

「で、実際どうよ」

 

「何が?」

 

「ホモじゃないなら異性の好みとかあるだろ?幸い学園は女子校みたいなもんだし、気になってる奴とか居ないの?」

 

首だけ動かして一夏の方へ向けば、一夏は何やら呟いて考え込む。

 

「うーん……考えつかねぇな」

 

「やっぱりホモじゃないか」

 

「なんでそうなるんだよ……」

 

言い返すのも億劫なのか、一夏はため息をついた。

 

「ぶっちゃけ今はやる事あり過ぎてそんな事考えられないんだよな。というか、自分に彼女が出来るビジョンすら浮かばねぇ」

 

「恋愛の順位が低い……つまり草食系?」

 

やる事あるのにそんな事(・・・・)を無理やり考えさせられるハメになっている俺に喧嘩を売っているのだろうか。

一夏を殴らなかった俺を褒めてほしい。

 

 

「世間一般からみたらそうなるんだろうな。……それに、好みって言っても本当にそんな相手が現れても惚れるかどうか分からないだろ?だから、分からない」

 

「そうか」

 

一夏の話を聞いて、俺はある確信に至った。

 

「つまり織斑先生が一番だと」

 

「なんで千冬姉が出てくるんだよ!?」

 

「姉ちゃんと恋したいんだろ?」

 

「ちげーよ馬鹿!」

 

「はいはい分かった分かった。俺はもう上がるぞ」

 

 

「違うからなー!」と騒ぐ一夏を尻目にして俺は脱衣場へ向かう。

 

「面倒くせぇ……」

 

そこでポツリと呟く。

 

一夏から感じた事をまとめた結果、俺は知ってしまった。

あいつが何故、人の好意に気づかない朴念仁なのか。

 

 

 

一夏はそもそも愛を知らない。

一夏は親が居ない。だから、自分が両親の愛から生まれた事を知らない。

 

織斑先生が一夏の面倒を見ていたらしいが、それだけでは不十分だったのだろう。

一夏から聞いたことがあるがあの人は確か滅多に家に帰らないらしいし。

 

恋愛というのも、客観的に見るものしか分からない。

自分が知らないから。

 

織斑先生という存在も大きい。

大人の姿やら母や家族の姿など、何かしらの影響を一夏に与えているだろう。

 

まぁ……あとは色々あってあんな感じになったのだろう。

元々鈍感だったのかもしれないが……まぁ、一夏の人生は一夏じゃないと分からないから何ともいえない。

 

 

環境が悪かったって事か。

 

……結論から言うと今の一夏は母性に飢えてる。たぶん。

 

 

「……頑張れよ、箒」

 

俺はお前を応援しよう。

 

 




一夏についてあれこれ考察してたらとある作品の意見と被っちゃいました
パクりって言われても仕方ないです
申し訳ありません

一夏をシスコン、ホモ、異常者、実は全部知ってるゲス等という認識の魔の手から逃がすために納得できるような理由はこれしかなかったんだ……

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