会話文が三割増し
学年別トーナメントが終わり、多少のいざこざはあったがIS学園は通常の業務を続けていた。
「ふんふーん♪」
先日、金髪ブロンドの貴公子から金髪ブロンドの恋する乙女へと見事なジョブチェンジを果たしたフランス代表候補生のシャルロット・デュノアは朝早く寮の自室にて、鼻歌交じりに出掛ける準備をしていた。
彼女がご機嫌なのには理由がある。
学園の行事の臨海学校が間近に迫るのだが、それで臨海学校にて着るための水着を買うショッピングに意中の男性である織斑一夏を誘えた事。
いわゆるデートに誘えたのだ。
「まずはラビアンローズに寄らないとなぁ……」
デートの時間は昼で、現地集合という形になっている。
朝は少し彼女に用事があったのだ。
ラビアンローズとは、彼女の友達である如月鋼夜が所属する企業で彼女はそこに呼ばれていた。
と、そこで部屋の扉が開いた。
「むぅ……」
唸りながら部屋へ入ってきたのは長い銀髪に眼帯にパジャマというインパクトのある格好をした女の子。
「おはようラウラ。また鋼夜のとこに行ってたの?」
「うむ。しかしいざ嫁の部屋へ入ろうとしたら嫁が私の存在を察知したらしくな、向こうから扉を開けてきたと思ったらハリセンなる武器で成敗された。次はバレずに潜入しなければ……」
「……鋼夜も大変だなぁ」
この少女はラウラ・ボーデヴィッヒという名であり、シャルロットのルームメイトだ。
最初は近寄り難かった彼女とも、今ではこうして日常会話をするくらいに親しくなった。
恋は人を変えるとはよく言ったものだ。
恋……か。
自身にも当てはまる事に行き当たったシャルロットは顔が赤くなるのを感じ、かぶりを振って思考を追い出す。
「シャルロット。その格好、何処かへ出掛けるのか?」
「え?あっ、うん。ちょっと用事があるんだ」
ラウラにより現実世界へ引き戻されたシャルロットは慌てながら答えた。
ラウラは「そうか」と短く答え、シャルロットの様子には触れなかった。
「ふむ。シャルロットも出掛けるのか」
「も?」
ラウラの言葉が気になったシャルロットはつい返事をする。
「ああ。買い物に誘ったのだが嫁も今日は用事で出掛けるらしくてな。残念だ」
「へぇー」
ラウラはそう言って少し落ち込む様子を見せる。
鋼夜の用事は恐らくラビアンローズからの呼び出しだろうと彼女は予想した。
そして彼女は次の疑問を口に出す。
「ねぇ、ラウラ」
「なんだ?」
「前から気になってたんだけどさ、なんで鋼夜のことを『嫁』って言ってるの?」
先ほどからラウラが言う『嫁』とは如月鋼夜を指す。
ある日突然、彼女は鋼夜のことをそう呼び出したのだ。
ご丁寧にキャラまで変えて。
彼女と鋼夜の間に何があったのか、気になったのだ。
「シャルロットよ、知っているか?」
「何を?」
ラウラはシャルロットの疑問に答えず勿体振った口調になる。
「この国には気に入った者を『嫁』と呼ぶそうだ!部下から聞いた!」
「それ、絶対間違ってると思うよ」
ラウラの言葉を優しい目で否定しながら彼女は思う。
彼女には、ちゃんとした常識を教えてあげよう。
ラウラ・ボーデヴィッヒのルームメイト、シャルロット・デュノアは密かにそう決心した。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
4組のクラス代表でもあり、日本の代表候補生でもある更識簪は寮の自室にて、ルームメイトでもあり親友である布仏本音と話していた。
「……鋼夜くん、出掛けるみたいだね」
「そうだね~。私達の誘いも断られちゃったね~」
「……ボーデヴィッヒさんの誘いも断ってたみたい」
「会社に呼ばれたって言ってたよ~?」
「……はぁ」
「かんちゃーん。元気出しなよ」
「やっぱり、勝ち目なんてなかったのかな……」
「私はかんちゃんの味方だよ?」
「嘘。本音は昔から油断ならない」
「酷いな~」
しくしく、と泣くふりをする親友を見ながら簪は思い返していた。
「……どうして、こうなったんだろうね?」
「たぶん、みんな同じだと思うよ~……間違いなく」
両者ともにため息をつく。
そして全く同じタイミングで口を開く。
「ボーデヴィッヒさんと鋼夜くんがキスしたのを見て自分の気持ちにいまさら気付いた」
「らうらうとこうやんのキスを見てみんな自分の気持ちにいまさら気付いたと思うよ~」
口調や言葉のスピードに若干の違いはあれど、二人の言ったことは同じだった。
「……はぁ」
「はぁ~」
改めて口に出し、そしてその事実を改めて確認した二人は再びため息をつく。
そう、この二人は同じ異性に恋をしている。
「……いつから?」
簪は短く、本音にそう聞いた。
全て言わずとも、彼女には通じるからだ。
「気付いたら。でも、一番のきっかけはクラス対抗戦の時かなー?」
「…………」
クラス対抗戦、と聞いて簪は息を呑む。
それを知ってか知らずか、本音はそのまま進める。
「えっと……アレが出てきて、いきなり観客席から出られなくなった時にね、みんなパニックになったの。でもこうやんは皆を落ち着かせて、突き飛ばされた私を助けてくれて……うぅ、恥ずかしいよぉ……状況とか雰囲気もあったけど、あの時からかなぁ?こうやんを意識しだしたの」
顔を真っ赤にしながらも、彼女は語り終えた。
そして笑顔で、簪が語るのを待つ。
簪も頷き、話を始める。
「……私も、本音と一緒かな。きっかけはクラス対抗戦だったと思う。それで、機体の練習とか整備とか色々と付き合っていって、次第に意識しだしたのかな。……でも、馬鹿だよね。あんな事が起きないと、自分の気持ちにすら気付かないなんで」
一気に語った後、簪は自嘲気味に笑った。
彼女の言葉に思うところがあるのか、本音は真剣な表情で黙ったままだ。
しばらく沈黙が続くが、その中で簪は唐突に呟いた。
「臨海学校、休もう……」
「……え~、どうしてそうなるの~。一緒に行こうよ~」
シリアスだった雰囲気はどこへやら。
本音は簪の手を引っ張るが、彼女はなかなか動こうとしない。
「いいの、惨めになるだけだから……」
自分と同い年であるハズの親友が自分とは全然違う大きさの、とある部分を見ながら彼女は呟いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「おっはよー。……って、リン。何してるの?」
「あら、起きたのね。おはよう」
カナダからの留学生、ティナ・ハミルトンは目覚めてすぐに出掛ける準備をしているツインテールの少女、ルームメイトの凰鈴音の姿を目にした。
「出掛けるの?」
「一夏が誰かと出掛けるみたいだから、セシリアを引き連れて尾行するのよ」
「……わぁお。なんかリンらしいわね」
平然とストーカー行為の宣言をする友人に呆れ半分、賞賛半分にティナはそう返した。
「これくらいやらなきゃダメよ。ティナもそれくらいの覚悟がないと」
「えっ、私?」
なぜ自分までストーカーまがいにされたのか分からず、疑問符を浮かべる。
その様子を見た鈴はふふん、と鼻を鳴らすと腕を組みながら答えた。
「アンタが鋼夜のことを好きなのは分かってるのよ」
「なん……だと……」
ティナは驚いた。
まさか鈴に自分の恋心がバレているとは思っていなかったからだ。
「アタシの目は誤魔化せないわよ!まぁ、そういうのは置いといて。気になるわね、ティナがアイツを好きになったきっかけ」
そう言うと鈴はジリジリとティナへ近づく。
ティナは逃げようとするが、ここは室内でありあいにくと入り口側に鈴がいるため逃げられない。
「さぁ、白状しなさい!アンタだけ私の恋を知ってるなんて不公平だわ!」
それはリンが勝手に言い出して自爆したこと、という言葉が喉まで出るが何を言っても無駄と判断したティナは大人しく喋る事にした。
「最初はね、如月くんより織斑くんの方が気になってたの」
「ほう」
「でもさ、クラス対抗戦の時に如月くんって私達をアレから守ってくれたじゃない?それで、なんかカッコ良く見えてさ……その時からかなぁ、意識しだしたの」
「なんかの物語か!ってくらいベッタベタね」
ティナの話を聞いた鈴は率直な感想を述べた。
自分もそうだろ、とツッコんではいけない。
それに対してティナは「言わないでよ」と顔を赤くした。
「学年別トーナメントの事は残念だったなぁ。ねぇ、鈴?」
「そうよね、せっかくティナと組んで今まで練習してたのに全部パーになっちゃった」
そして二人は先日の出来事を思い出す。
トーナメントで優勝した組は織斑一夏と如月鋼夜と付き合える。
これを知ったティナは真っ先に利害が一致しており、実力も高い鈴をパートナーに選んだ。
鈴も、狙っていた一夏が既に(まだ男として過ごしていた)シャルロットと組んでいたため、快く彼女の申し出を受けた。
結局、トーナメント自体が中止になったことで全てが潰れた訳なのだが。
「学年別トーナメントの時の如月くん、カッコよかったなぁ」
「いやー、アイツがあんなに強くなってるとは思わなかったわ」
ティナの言葉に心当たりのある鈴はトーナメントや練習の時の様子を思い出した。
「全体的に……なんというか、予測射撃とかが上手くなってるのよね。相手の動きや思考が分かってるような、変な戦い方よね」
そういえばクラス対抗戦の練習に鋼夜とよく一緒に練習していた鈴は彼の変化に驚いていた。
「……クラス対抗戦の後くらいかしらね」
あの変な金ピカに乗った日くらい。
「そうだよねー。クラス対抗戦の後くらいに如月くんって時々、物憂げな表情を見せるようになったよねー」
「ん?」
「あーあ、もっと早くアプローチしとけばよかったなぁ。そしたらドイツの子に先を越されることもなかったのかもしれないし」
微妙に話が噛み合ってない事に気付いた鈴はふとティナを見た。
「でもでも、あの考え込む姿とか、妙に達観してるとことか、たまらないよねー。母性本能がくすぐられちゃう!」
「はいはーい、アタシからふっかけといてアレだけど戻ってきなさーい」
鈴が暴走したティナを元に戻すのには、しばらく時間がかかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
一組のクラスには何故か周りとは独立した一つの派閥がある。
それは織斑一夏を想う女子で構成されるグループ。
織斑千冬の弟であり、世界で最初にISを起動させた男である織斑一夏はその恵まれたルックスも合間って非常に人気が高い。
現に、数人の女子が想いを寄せる程だ。
後は残り多数の女子となるのだが、一組には近々もう一つの派閥が出来上がる。
「YOU、答えちゃいなよ!」
「うぇっ!?」
「とぼけちゃって」
「貴女が如月くんを想っているのは誰が見ても明白かと」
IS学園、一年一組、出席番号一番の相川清香は寮にある談話室で同じ一組のクラスメイトに囲まれていた。
「そ、そそそんな、いったい何を……」
「ボーデヴィッヒさんが如月くんにキスした時に清香、めちゃくちゃ反応してたじゃん」
清香は否定しようとするが、谷本癒子の指摘により彼女は固まる。
「清香が何かしら如月くんを気にかけていたのは分かりますからね」
「アレで気付くなって方が無理だと思うよ」
続く四十院神楽と夜竹さゆかの追撃により清香は逃げ場が無い事を悟った。
「……そんなに、わかりやすかった?」
「「「とっても」」」
三人のタイミングぴったりな返答を受けて清香は項垂れた。
僅かに見える耳が真っ赤になっている。
「だからさぁ、白状しちゃいなよ」
「私達は清香の味方だよ?」
「うぅ……分かった。笑わないでね?」
若干、癒子が不安ではあるが清香は顔を上げて三人に話す。
自分が、如月鋼夜に惹かれた理由を。
「一目惚れ、なんだ」
「「「え?」」」
「な、何よその反応!」
「アッハイ、続けて下さい」
三人は思った。意外に普通だ、と。
と同時に、色々と納得した。
「な~るほど。確かに今思えば清香って何気に如月くんを気にしてたよね」
うんうんとさゆかは改めて納得した様子で頷く。
「で、なんやかんやあってどんどん如月くんを好きになっていくけど恥ずかしくて言い出せずにいたらこの間のボーデヴィッヒさんの行動でショックを受けた、ってとこ?」
「…………」
「図星のようですね」
癒子が言った予想が見事に当たっていた清香は再び顔を赤く染めた。
「確かに如月くんって織斑くんと比べると色々劣ってるように見えるけど、最近はそうでもないよ?」
「えっ?」
「クラス対抗戦や学年別トーナメントでの一件で注目されているようですね。この間、上級生の先輩方と話しているのを見ましたわ」
「見たところ本音は完全にアレだし、聞いたところによると四組のクラス代表も如月くんを狙ってるらしいよ」
次から次へと入ってくる衝撃の事実に清香は目を回す。
女子の情報網というのはなかなか侮れない。
「頑張れ、清香」
癒子が親指を立てていい笑顔で清香にエールを送った。
「大丈夫、清香は可愛いから。絶対いけるって、応援してるから」
さゆかも、清香を応援する。
「あんまり遅いと、如月くんは私が頂戴しちゃいますよ?」
「止めて、それだけは超辞めて」
「冗談です。応援してますわ」
神楽の心臓に悪い冗談に清香は素のトーンで返した。
しばらく悩んだのちに彼女は決心した。
「……そうだよね。ありがとう、みんな。私がんばってみるね」
「よっしゃ、その意気だよ!」
「そうと決まればさっそく今から行動開始!」
「そういえば静音から聞いたんですが、今日のお昼に篠ノ之さんが織斑くんと買い物に行くそうです」
「「それだ!」」
神楽の言葉にさゆかと癒子が食いつく。
当の本人である清香より張り切っているように見えるのは気のせいではない。
「もうすぐ臨海学校だよね?」
「寮の購買ではなく、わざわざ街に出てまでするこの時期の買い物と言えば当然……」
「「「水着!」」」
癒子、さゆか、神楽の三人の声が重なる。
「ま、まさか……」
清香は嫌な予感を感じ、三人を見る。
三人は満面の笑みで頷いた。
「そのまさかよ清香」
「如月くんを誘うのよ!」
「あわよくば最後まで行っても構いませんわ」
清香は予想通りの答えにため息をつくと共に、神楽ってこんなキャラだったっけ?という疑問が浮かんだがそれをすぐに頭の片隅にやる。
しばらく三人は計画を立てるなど盛り上がったが、鋼夜が会社へ行くという事を聞いた途端に真っ白になっていた。
一組に新たな派閥が生まれるのは、もうすぐだろう。
10月22日はとっくに過ぎたのに隣の家に戦術機が降って来ないんだが
前回、会長がニュータイプとかいう感想をもらいましたが
鈴がIS使った反応が出たので監視カメラ覗いて泣いてる簪を発見しただけです
ティナや簪が廊下にいたのは鈴のせいということで
今回はヒロインが鋼夜に惚れた経歴をざっと書きましたがどうですかね?
だいたいの人が自分の気持ちに気付かずに過ごしていたがラウラが鋼夜にしたキスによって自分の気持ちを自覚する、って感じですね
こうして見ると皆が好意を自覚するとこがギャルゲーの鈍感主人公みたいなパターンですね
手元から離れかけて、やっと気付くってとこが
こうしてみると鋼夜のポジションがヒロイン……
はっ、まさかこの作品のヒロインは鋼夜だった……?(錯乱)
こんなヒロインとか絶対嫌だけど