IS 喜んで引き立て役となりましょう!   作:ゆ~き

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2.美人であろうとそうでなかろうと怖いものは怖い。

 

 

 

 美人であろうがそうでなかろうが怖いものは怖い。

 

 

 

 これがもし自分に向けられていたらどれほどのものだろうと思う。

 その視線は俺を通過して隣の無神経男へと突き刺さっていた。

 少しも動じていないのはさすがは我らが織斑一夏と言うべきか。

 今この男の頭の中は昼飯のことしかないに違いない。

 

「おい智希メシ行こうぜメシ! 学食楽しみにしてたんだよ俺!」

 

 先生達が出て行くと同時に教科書をしまった一夏は嬉しそうに俺の方を向いた。

 もちろん自分に向けられた視線などお構いなしだ。

 その毛の生えた心臓には時々羨ましくさえなる。

 

 もちろん俺も他人に見られること、微妙な視線を受けること自体には慣れている。

 男としてこの日本に生まれてしまった以上、一生偏見の目は付きまとう。

 何しろ日本は世界でも有数の女性上位主義国家であり、また少数の男性の在り方に折り合いを付けられていない社会でもある。

 男なしで子供を作る研究の最前線を突き進み、果ては男性不要論まで唱えられてしまっていたのが少し前までの日本の社会だった。

 ところがその研究はどうにもうまく行かず、欧米は既に男性と共存する方向に舵を切り替えた。

 日本は研究の最前線を行っていたこともあり後ろ髪を引かれて方向転換できず、さりとて研究がうまくいかないのでそのまま突き進むこともできず、思想だけが残ったまま宙ぶらりんな状態に陥ってしまっていた。

 男を馬鹿にしておきながら子孫繁栄のために男を必要とするという矛盾に嵌まり、世界の失笑を買って反面教師になってしまっているのが今の日本である。

 

 だから俺も男として見られる視線は気にならないのだが、今俺の横から飛んでくるレーザーのように鋭い視線はその類のものではないのでどうにも無視できないでいる。

 それは愛憎の入り混じった視線とでも言えばいいだろうか、実に居心地の悪くなる種類のものだった。

 

「どうした智希? 腹減って目が回りそうなのか?」

 

 俺の微妙な顔に気づいた一夏がレーザー視線など物ともせず俺の顔を覗き込んできた。

 きっと一夏自身はそういう種類の視線も受け続けてきたのだろう。何しろ出会う女全てを虜にしていく男だから。

 俺は答えず、自分の顔を一夏とは反対側に振って一夏の視線を俺越しの向こう側へと動かした。

 一夏の視線を向けられた側、長い黒髪をリボンで結んだポニーテールの女生徒は、自分の方を向くとは思っていなかったのか目を丸くする。

 一夏はようやく合点がいったようで、恐る恐る彼女の名前を呼んだ。

 

「箒……でいいんだよな?」

 

 およそ六年ぶりの再会は感動的でも何でもなく、実に締まらないものになったようだ。

 

 

 

 

 

「分かっていたのならなぜ知らない振りをした?」

「だってお前自己紹介の時一瞬で終わらせて有無を言わせない空気全開だったし、同姓同名ってこともあるのかなあと……」

 

 どの口から空気を語るのかと思いつつ白身魚のフライを頬張る。

 さすがは国の金が大量に注ぎ込まれたIS学園、学食の料理一つにしても材料もいい物を使っているようだ。これを外で食べたらこんな値段では済まないだろう。

 

「こんな名前そうそうあるか! だいたい篠ノ之という苗字の時点で分かれ!」

「いやまあその通りだけど……なんかお前よそよそしかったし……」

 

 基本はマイペースを貫く一夏だが、一旦自分のペースを崩されると中々立て直しができない。

 篠ノ之さんの攻勢に対してしばらくは守勢のままだろう。

 相当に鬱憤が溜まっていそうな篠ノ之さんの勢いはとても止まりそうもない。

 

「ねえねえ甲斐田君、ここいい?」

 

 声がした方を向くと三人の女生徒がお盆を持って立っていた。見覚えのある顔だったのでクラスメイトだろう。

 

「別にいいけど、ええと……」

「谷本ですっ!」

「すぐには覚えられないよね、鷹月よ」

「私の名前は布仏本音って言うんだよ~」

 

 鷹月さんには覚えがある。クラス代表のことを織斑先生に質問してた人だ。

 それに最後の袖余りまくりのも……というかこの三人、さっき俺に投票した連中ではないか。

 この三人が一夏へ投票していれば過半数取れて自然に一夏をクラス代表にできたのに、実に余計なことをしてくれた。

 天邪鬼な性質かもしれないので今後は警戒しておこう。

 

「いっただきまーす!」

 

 谷本さんの威勢のいい声に釣られて横目で三人の食べるメニューを見る。

 カツ丼に俺と同じB定食に一夏の選んだA定食。

 見比べて見ると気持ち量が俺よりも少ない気がする。

 食堂の人が気を利かせてくれたのか。よく見れば一夏のA定食も量が多い。

 その一夏は篠ノ之さんの説教から逃げるかのように、一心不乱に箸を動かしていた。

 

「織斑君と篠ノ之さんって知り合いなの?」

 

 と、一夏にではなく俺に鷹月さんが聞いてきた。

 そこは一夏本人に聞くべきだろうに。一夏に話しかけるチャンスだぞ。

 困っている一夏に助け舟を出して好感度アップ狙えたのに、もったいない。

 何のために俺がチラチラと助けを求め続ける一夏の視線を無視してきたというのか。

 やはりまだ初日では一夏への好感度が足りないようだ。

 

「幼馴染だってさ。おりむら、しののの、まあそういうことだよね」

「やっぱり篠ノ之さんってそうなんだ……」

 

 篠ノ之さんは自己紹介の時一夏にすら有無を言わせないオーラ全開だったため、誰もが気になりつつも聞けないでいた。

 鷹月さんも理解したように、篠ノ之箒は、天才にしてISの生みの親、篠ノ之束博士の実の妹である。

 そして篠ノ之束博士は織斑一夏の姉千冬先生の大親友。

 弟一夏と妹箒がお互いをよく知っているのは普通に納得できる話だ。

 

「へー。織斑君たじたじだねー。今度聞いてみよ。それよりさ、どうだった? IS学園初日は?」

「へ?」

 

 それよりというのは、まさか一夏の話がもう終わりなのか。そこはもうちょっと突っ込んで聞いてみるところではないのか。今度ではなく今聞けば済む話だろう。本人が目の前にいるのだし。

 というかどうして誰も一夏を助けようとしない。まさか説教する篠ノ之さんがそんなに怖いのか。

 

「まだ半日だけどさ、女子校に来たようなもんじゃない? やっぱり肩身狭くてつらいのかなーって」

「私は楽しかったよ~」

 

 制服の合っていない布仏さんが箸持った手を上げて、ピントの合ってるんだか合ってないだか分からない発言を挟んだ。

 さすがにご飯食べる時は袖をまくるのか。

 

「女子が多いのは今に始まったことでもないけど……意外と普通だったかな?」

「意外と?」

 

 そう、意外と。

 

「何何? どんなのを想像してたの?」

「いや、クラスのみんなの態度が普通だなって」

「もしかして男子だからいじめられるとか思ってた?」

 

 ISと言えば世界における女性上位主義の象徴。それを操る女はどんな連中だと問われれば自然な話だと思うが。

 

「確かにオルコットさんみたいな人見ちゃうと女子がみんなそういう風に思えるのも無理はないか」

「実際いるしねああいう人」

「みんな仲良くすればいいのにね~」

 

 ふむ、この三人は少なくとも男というだけで突っかかってくるような連中ではないようだ。

 顔だけで一夏に突撃しないという点でもいくらか分別があるのかもしれない。

 

「ちょっと考えれば分かることなんだけど、世の中男子の方が少ないんだから大事にしないといけないよね」

「だいじにだいじに~」

「そうそう、いじめとか論外だよね。むしろ守ってあげないと」

 

 ああ、そういうことか。むしろナチュラルに女の方が上だと思っているのか。

 か弱く数の少ない男は保護すべき存在だと。

 こういうのは悪意のない分かえって厄介かもしれない。

 

「その通りよ。だからこそ今いじめられて困っている織斑君を助けてあげないとね!」

 

 とその時、タイミングを見計らったかのように別の声がした。

 声のした方を見ると、外に跳ねた癖毛の女生徒が得意気に立っていた。

 その場の視線を集めた女生徒は、決めポーズを取るかのように胸の前で手に持った扇子を広げる。

 『いじめかっこわるい』と扇子には書いてあった。

 

「だよな! 誰も助けてくれないのはやっぱおかしいよな!」

「ちょっと待ってください! 私は別に一夏をいじめているわけでは……!」

 

 待ち望んでいた救いの手に歓喜の声を上げる一夏、予想外な方向からの横槍に動揺する篠ノ之さん。

 

「お姉さん悲しいわ。白昼堂々いじめが行われてしかも誰もが見て見ぬ振りをしているだなんて……」

 

 女生徒はわざとらしく悲しげな声を出し、顔を背けてよろめくように床に膝をつく。

 それから顔の前で扇子を閉じてまた開くと扇子には『沈痛』と書いてあった。便利だな。

 

「今のっていじめだったんですか?」

「てっきり織斑君が何か悪さして怒られているのかと……」

「かいだーが何も言わないからあれでいいんだと思ってましたよ~」

「えっ!? 俺ってそういう存在なの!?」

「待ってください! ですからこれは決していじめなどではなく!」

 

 めいめいが自分の思ったことを口にする。甲斐田のイントネーションがおかしい気がした。

 床に膝をついた女生徒はしばらく悲しげに肩を震わせていたが、やがて俺の方をチラっと見た。

 ああ、俺のリアクション待ちなのか。

 

「その扇子って便利ですね」

 

 女生徒は盛大に滑って着地失敗した蛙のように床に突っ伏した。

 

「智希!?」

「甲斐田君!?」

「あはは! かいだーおもしろ~い!」

 

 やっぱり甲斐田のイントネーションがおかしい。それでは特撮映画にでも出て来そうな名前だ。

 

「あ、ありがとう……?」

 

 女生徒はよろよろと起き上がり、何に対するものか分からない感謝の言葉を疑問形で口にした。

 納得がいかないようでしきりに首を傾げている。

 

「その扇子便利でいいですね。どこで買えるんですか?」

「えっ!? いや、これは特注だからどこかで買えるものじゃ……」

「そうですか、それは残念だ」

「え、ええ……悪いけどそういうことなの」

 

 一夏がバカみたいに口を開けてこちらを見ている。

 いくら一夏がかっこいいといってもそういうのは絵にならないのでやめて欲しい。

 

「分かりました。じゃあ仕方ないのでそれをください」

「はい!?」

 

 今度は女生徒が口を大きく開けた。

 

「だってそれって特注だから一つしかないんですよね? だからそれください」

「どうして君にあげないといけないの!?」

「くれないんですか?」

「当たり前よ!」

「なんだくれないのか。この人ケチだな」

「ケチ!?」

「だってそれくれないんですよね?」

「どうして私初対面の人からケチなんて言われないといけないの!?」

「でも事実ですし」

 

 女生徒は両手で頭を抱えて頭の上で扇子を開いた。

 『困惑』と書いてある。ちょっとおもしろかった。

 

「お、おい智希……」

「あれおもしろいね一夏。自在に文字を変えられるみたいだ」

「そ、そういうことじゃなくてだな……」

 

 付き合いのある分一夏が最初に再起動した。

 他の面々はフリーズしたままのようだ。いや、袖余りの小さい子は相変わらず爆笑しているか。

 

「ご、ごめん。こいついつもはこんなんじゃないんだけど、たまに変なことを言い出す癖があって……」

「う、ううん。ちょっと、いやかなりびっくりしたけど、大丈夫」

「誰だか知らないけど悪かった。代わりに俺から謝らせてもらう」

「いえいえお気になさらず……え!?」

 

 今度は女生徒が固まった。

 それを一夏は相手が怒り全開にあると解釈したようで、顔の前で両手を合わせて謝罪を続ける。

 

「ほんとごめん! あいつ別に悪気は……きっとないんだ! そう、いわゆる天然ってやつで!」

 

 一夏の口から出る天然という言葉ほど似合わないものはない。

 だが女生徒が言いたいのはそういうことではなく。

 

「知らない!? 誰だか知らない!?」

「えっ? 今初対面って言ってたよな?」

「た、確かに直接会話するのは初めてだけど……私の事知らない?」

「えっ? もしかして君も有名人なのか?」

 

 衝撃を受けたであろう女生徒は涙目になってよろよろと後ずさった。

 数秒ほどして精神を立て直したのか両足を踏みしめ、それから右手を上げて力強く一夏を指差す。

 

「いいわ! 今日はこのへんにしておいてあげる!」

 

 お前はどこの小悪党だと言いたくなる捨て台詞と共に左手で扇子を開いた。

 『覚えてなさい!』と扇子には書いてあった。

 

「俺!?」

 

 自分を指差して驚愕する一夏を他所に、女生徒は後ろを向いて駈け出し去っていった。

 実に見事な負け犬の後ろ姿だった。

 

「いったいなんだったんだ……」

 

 一夏の問いに答える声はなく、食堂は騒ぎを眺めていた周囲の爆笑の渦に包まれた。

 

 

 

 

 

「あの人がここの生徒会長だと!?」

「甲斐田君知ってたの!?」

「だって今朝の入学式で挨拶してたし」

 

 先ほど食堂で自爆した挙句逃げ去った女生徒はこのIS学園の生徒会長だった。

 数日後なら怪しかったかもしれないが、さすがに今日の今日では見覚え聞き覚えがあった。

 

「挨拶?」

「ほら、在校生代表の挨拶で、女ばかりで大変だろうけどやりにくいことがあったら遠慮なく言ってねって、こっちに向けて言ってた人」

「ああ……ごめん、あんま覚えてないわ。どれもこれも似たような話だったし」

「まあそうだろうと思った。だからこそ向こうはショックを受けたんだろうけど」

 

 生徒会長になるような人だからなのか、派手好きお祭り好きな印象だった。

 ただ書かれたものを読むのではなく、壇上でマイク握って動きながらやたらオーバーアクションしていたあたりが特に。

 

「じゃあ何か? 智希お前全部分かっててやったのか?」

「分かっててというか、人をおちょくるのが好きそうな人だったからこっちがおちょくっても罰は当たらないかなと思って」

「素で言ってたんじゃなかったんだ……」

 

 失礼な。初対面の人間に扇子よこせとか意味が分からない。

 もっとも、言った本人も意味が分からないのだから、言われた側にはもっと意味不明だっただろうけれど。

 

「甲斐田君ってそういうキャラかと思った」

「どういうキャラか分からないけど、そっちの方がいい?」

「私達には絶対に止めて。生徒会長はともかく」

 

 鷹月さんに全力で拒否された。だが生徒会長にはいいのか。

 向こうではカツ丼を食べていた谷本さんが食堂での顛末を身振り手振り交えて熱く語っている。

 袖余ってる布仏さんはその隣で爆笑し続けている。いつまで笑っているのかあの人は。

 

「しかし甲斐田、それなら尚更あれは目上の人間に対してあまり褒められた態度ではないと思うぞ」

 

 隣の席の篠ノ之さんが苦言を呈してきた。

 フリーダムな姉を持つと堅物になってしまうのだろうか。姉の篠ノ之束博士は天才過ぎて頭のネジが数十本飛んでしまっていると言われるほど奔放な性格で有名なのだが。

 

「とばっちりで何故か俺が覚えてろとか言われるし……いや扇子に書いてあったから言われたわけじゃないけど」

 

 今度は反対側の隣の一夏が深くため息を吐く。

 元々生徒会長は一夏と篠ノ之さんをいじるつもりだったのだろう。

 篠ノ之束の妹と織斑千冬の弟にして男のIS適合者。

 生徒会長的な立場の人間でなくとも気になるし、二人と接点を持ちたいと考えるのは不思議なことでもない。

 俺によってファーストインプレッションを意味不明に台無しにされても次を取り付けるあたり、生徒会長はちゃっかり、いやしっかりしていたと思う。

 

 とはいえこの二人は説教を邪魔されたこと、助けが来なかったことを根に持っているようで。

 

「いいか、どこかの誰かのように無知であることも失礼だが分かってやるのはもっと失礼な話だぞ」

「次あの人来たらお前が相手してくれよな」

 

 俺に八つ当たりを始めた。

 

「どこかの無知蒙昧な馬鹿ならともかく、どんな相手であろうと初対面の相手であればそれ相応の敬意をもって接するべきだ。冗談というものは親しき仲に通用するものであってな……」

 

 もしかして篠ノ之さんは説教好きなのだろうか。さりげ……でもなく一夏を罵倒しつつ滔々と語り始めた。

 自己紹介では簡潔にして冗長な言葉を好まない古き良き侍のような印象だったが、一夏の時といい喋り出すと長い人だ。

 

「というかさ、お前どうして食堂で俺のこと無視して飯食いながら楽しそうに喋ってたりすんの? お前ってそういう薄情な奴だったの? 俺お前のこともうちょっと優しい奴だと思ってた」

 

 反対側では一夏がここぞとばかりに食堂での恨みつらみをぶつけてくる。

 うん、誰かがお近づきになろうと一夏へ話しかけてくるに違いないと思っていた。

 ところが実際は周りから遠巻きに眺めるくらいで、足を踏み入れたのは生徒会長だけだった。

 俺の態度が普通だったのもよくなかったみたいだ。もう手が付けられません的な焦りを見せておけばよかったと思う。一夏の要求する意味ではないけれど、反省。

 

「聞いているのか甲斐田!」

「聞いてんのか智希!」

 

 聖徳太子は十人纏めて聞き分けたそうだが、実際同時にやられると二人も無理ではないかと思う。

 こちらとしては特に聞く気もないのでどうでもいいといえばどうでもいいが。

 

 と、そんなことを考えていたら急に二人の喋りが止んだ。

 先生でも来たのかと思い顔を上げると、いつの間にか一夏と篠ノ之さんが睨み合っていた。

 

「一夏、私は今甲斐田と話をしている。悪いが邪魔をしないでもらおうか」

「箒こそ俺の邪魔すんなよ。今智希と話してんのは俺だ」

 

 どちらも会話などではなく一方的にまくし立てていただけではないかと思うが、というかこの二人は文句を言えれば誰でもいいのだろうか。

 もう目に入るものは全部潰すとばかりにお互いをターゲットにしてしまっている。

 

 そうじゃない、そこは意気投合して一緒に俺を責めるところだろう?

 敵の敵は味方の論理で同盟を組み、仲間意識を作って仲良くなるところではないのか。 それがどうしてお互いに不倶戴天の敵を見つけた的な顔するような展開になってしまう。

 

「どうやら先程の話では不十分だったようだな。いいだろう、お前の弱い頭に合わせて分かりやすく説明してやろう」

「ていうかそもそも悪いのは箒だろ? お前が余計なことしなけりゃ俺はおいしく昼飯食えたのにさ」

 

 幼馴染という気のおけない間柄な分、遠慮もどこかへ飛んでしまったようだ。

 俺の頭の上で罵詈雑言が飛び交う。

 

 もう誰かが間に入れるような状況ではないよなと思いつつ、一縷の望みをかけて後ろを見る。目の前で手を出すに出せなくなった鷹月さんが右手を宙に浮かせておろおろしていた。

 それから一夏の後ろ、鷹月さんの前の席の眼鏡の子と目が合う。両手を胸の前で握って、がんばれ、という無言のエールを送ってきた。そういうのは一夏に向かってやって欲しかった。

 他にこちらへと向けられているのは優しい目、生暖かい目、単純に面白がっている目で、あらぬ方向を見ていて妄想の世界に旅立ってしまっているのもいる。

 オルコットはものすごい眼力で睨んできた。

 

 おかしい。俺の計画ではクラスはまず相川さんのような一夏派とオルコットのような反一夏派の二つに分かれ、一夏派からは熱い眼差しが送られ、頬を赤くして一夏に話しかける女子の姿が見られるはずだったのだが。

 

 

 

 結局この混沌とした状況は、聖剣シュッセキボの二振りによって終止符を打たれることとなった。

 

 


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