榎本心霊調査事務所(修正版)   作:Amber bird

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通算200話達成記念(結衣in沖縄)前編・後編

200話達成リクエスト(結衣in沖縄)前編

 

「当たってる……」

 

 携帯懸賞サイト「わん・くりっく応募」に応募した沖縄旅行が当たった。

 H.I.Sの格安パック、泊まる所も食事無しのホテルの最安値プランだが当りは当りだ。

 

 この手のサイトは片っ端から簡単に応募出来るから、本当に欲しくない物まで応募しちゃった……いざ本当に当たると扱いに困る。

 

「うーん、嬉しいけど正明さんは誘えないかな。パック旅行嫌いだし、きっと不自由な思いをするかもしれないし……」

 

 正明さん、エコノミークラスの座席じゃ狭いしホテルや食事も気に入らないと思う。私が誘えば断らないと思うけど、良い思いはしないから駄目かな?

 

「一緒に旅行行きたいけど、学生なら我慢出来る程度の格安パックは無理だよね」

 

 世間一般より遥かに高額所得者の保護者兼好きな人の体格を思い浮かべる。筋肉ムキムキで巌ついけど優しくて思いやりの有る人だから、私の誘いは断らない。

 でも大きな体をエコノミークラスのシートに押し込むのはやっぱり可哀想だ。

 

「勿体ないけど辞退しようかな……」

 

 サイトでは当選者の簡単な住所と名前、横須賀市の細波結衣としか確認出来ない。

 後日郵送で詳細が送られると思うから、受け取ってから辞退の連絡をすれば良いかな?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 それから一週間程して件の当選通知が来た。平日昼前の時間帯なら正明さんがポストを確認する事は無いから知られずにすんだ。

 学校帰りにポストを確認すれば宅配ピザのチラシと共に当選通知書が届いていた。

 気になって制服も着替えずに居間でソファーに座り封筒を開けた。

 封筒の中身には当選の通知書・規約書・アンケート用紙・手続き方法にパンフレットが入っていた。

 最寄りの旅行代理店に行って手続きするらしい。保護者の口癖である契約絡みのトラブルを避ける為に規約書を読む。

 A4の紙1枚に両面ビッシリ細かい文字が書いて有るのを時間を掛けて全て読んだ。

 一部難しくて意味が分からない所が有るが他人に譲渡は出来ないらしい。しかも同封のアンケートに回答と感想を書いて送らなければならない。

 勿論アンケートは強制ではないが、無料で景品を提供してくれるスポンサーに対しての対価なのかな?

 

「どうしよう……辞退の方法は書いてないから直接運営会社に連絡しないと駄目みたい」

 

 未だ人見知りが完全に治った訳じゃないから、知らない人に連絡するのが怖い。折角当たったのに要らないから辞退するのも失礼なんじゃないかな?

 理由を詳しく聞かれるかもしれないし、怒られるかもしれない……

 

「ただいま、結衣ちゃん。アレ、手紙かい?何々……当選通知書……

おめでとう、前にも飛騨牛すき焼きセットを当てたよね。運が強いな、結衣ちゃんは……」

 

 急に声を掛けられて、ビックリしちゃった。何時の間にか正明さんが帰って来て手紙を見られてしまった。

 しかも大きな手で頭をヨシヨシと撫でられるし……これは好きだけど子供扱いだから嫌いでもある。

 

 優しく微笑む正明さんを見て、ああ本当に応募に当たって喜んでくれているのが分かる。

 正明さんは私に甘い、甘過ぎるし過保護だし、大切にしてくれているのは分かる。でも偶に子供扱いなんだよね。

 大人の女性、1人の女性として扱って欲しいけど私は未だ中学生だし保護者の正明さんから見ればマダマダ子供。

 

 恋人になれる日は遠い。

 

「でも沖縄旅行なんです。格安パックツアーだから正明さんには不自由だと思うから……でも応募したのに当たったら断るのも何だか悪くて……」

 

 知られてしまったら隠さずに正直に理由を話す。正明さんは嘘には厳しいから……ペラペラと書類を読む正明さんをじっと見る。

 携帯電話で何か調べ始めたわ。

 

「うん、意外だけどホテルは高級だね、口コミは悪く無い。航空会社もJAL国内線だからエコノミーでも心配無いだろう。

向こうについたらフリープランだし食事も付いてないのは仕方ないね、格安だし。

一泊だから慌ただしいし混雑する時間帯の飛行機にも乗れないか……よし、こうしようか」

 

 正明さんの提案は、当選したチケットは私と静願さんが使う。

 正明さんと魅鈴さんは旅行代理店で手続きする際に同じ飛行機とホテルを手配する。これなら同行するのと同じだ。

 難点はビジネスクラスに魅鈴さんと2人切りで一緒な事だけど、まさか周りに人が居るのに悪さは出来ないだろう。

 でも、何故小笠原母娘なんだろう?霞さんとか晶さんとか誘う相手は他にも居るのに……

 その点だけが釈然としないが、一緒に南国に行けるので我慢した。

 思わず嬉しくて抱き付いたが、背中を軽く叩いてくれるだけ。ギュッと抱き締めてはくれないのが悲しい。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 出発日当日、羽田空港国際線ターミナルで待ち合わせをすれば良いのだけれど、車で空港まで行くとの事で朝から小笠原母娘と一緒。

 だけど助手席は譲らない。迎えに行っても車から降りなかった。

 本当は電車でも良いのに、朝も早いし疲れるからと気を遣って車にした。

 今回は海がメインなので一応水着を用意したけど……

 勿論、学校指定の紺のワンピースタイプじゃない、霞さんに見立てて貰った可愛い感じの桜色のワンピース。

 前はそうでもないけど背中が大胆に開いていて、お尻の上にワンポイントの大きめなリボンが付いている。

 でも今の季節って泳げるのかな?

 

「結衣ちゃん、有り難う。まさか私達を誘ってくれるとは思わなかった」

 

 後部座席に座る静願さんがお礼を言ってくれたが、小笠原母娘を誘ったのは正明さん。私は何もしてない。

 

「ご近所同士、また同じ学校の先輩後輩だから仲良くしましょうって事だよね。

でも格安パックだから行きの便が早朝か午後しかないから早出で大変だけど、一泊だから頑張りましょう。それで観光決めた?」

 

 正明さんは自分の気遣いを私がした様に話す。何時も私の事を思ってくれるのは嬉しい。

 

「折角の沖縄だから初日は海をメインに観光したいです。もし泳げるならば後でシャワーを浴びたいから帰る明日は辛いし……」

 

 帰る日だと慌ただしいし、ホテルはチェックアウトするから部屋のシャワーは使えないし。

 

「海水浴か……今の時期は寒いからホテルに備え付けのプールを使えば?

残波ロイヤルリゾートホテルはプライベートビーチと隣接するプールが有るよ。

チェックインは3時だけど、宿泊客なら早めに利用出来るそうだ」

 

 正明さんは本当に事前調査を怠らない。ちゃんと宿泊するホテルの事も調べてるし、朝食ま夕食もホテル内のレストランに予約済み。

 でもホテルのプールを勧めるって事は、もしかして私(達)の水着姿を期待してる?

 

「榎本さんの言う通り、ホテルのプールを利用しよう。私達、水着持って来てる」

 

「おほほほほ、水着を着るなんて10年振りだわ。若い娘達と比べられるのが恥ずかしいわ」

 

 小笠原母娘が私達の会話に入って来た。魅鈴さんと正明さんを気付かれない様に盗み見るけど……艶然と微笑む魅鈴さんに困った顔の正明さん。

 やはりお色気は苦手なのかな?

 

「「私達、お揃いのビキニなんだよ(なんです)」」何ですってー!

 

 只でさえお色気美女に脱いだら凄いんです美少女なのに……小笠原母娘の水着は封印、海水浴も中止ね。

 正明さんには帰ったら私だけ水着を披露すれば良いわ。

 

「正明さん、私は観光用の潜水艦と船底が硝子で海中が見えるグラスボートに乗りたいです!」

 

 同じ海でも脱がない観光を提案する。

 

「へー、潜水艦に乗れるんだ?面白そうだね。折角沖縄まで来てプールじゃ詰まらないから観光しましょうか?」

 

 少しホッとした感じの正明さんを見て安心する。魅鈴さん達の水着姿を見たい訳じゃ無かった。

 

「それは詰まらないわ。折角だから泳ぎましょうよ」

 

「むぅ、結衣ちゃんの言う事ばかり聞いてる。折角水着姿を見せたかったのに……」

 

 この泥棒猫達は、やはりお色気作戦だったのね!

 明日は新しく出来た水族館を見て国際通りを回ってお土産を買って帰ろう。

 小笠原母娘の文句に苦笑しながらスルーする正明さんの為にも海水浴は阻止する事を誓うわ!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「意外と暖かいんですね。上着、要らないかも」

 

 流石は南国!3月でも既に初夏の陽気だわ。

 

 抜ける様に青い空、白い雲、微かに匂うハイビスカスの香り。成田空港に7時過ぎに到着し、那覇空港に10時前に着いた。

 確かに神奈川は冬の装いだったけど、沖縄はもう暑い。空港のトイレで着替えて荷物を纏めてホテルに送った。

 

 正明さんはチノパンに麻のジャケット、色の薄いサングラスとパッと見は怖いお兄さん。

 

 魅鈴さんは淡い黄緑色のアオザイに着替えて、静願さんはポロシャツにキュロットスカート、それにカーディガンを腰に巻いている。

 

 私は……今年の新作のガーリー系ワンピースだけど、色は流行のクール系パステルカラーのグリーンにした。

 

 小笠原母娘は既に周りの注目を集めている。

 

「お待たせしました」

 

 周りの視線をものともせず正明さんに近付く彼女達を見て、注目していた人達が離れていく。

 流石は肉体派、虫除け効果が半端無いわ。私は正明さんの左手に抱き付いて静願さん達を見る。

 

「早く観光しましょう。潜水艦は人気ですから待つかも知れません」

 

「込み具合を見て昼食を採りますか?沖縄料理って結衣ちゃんの作るチャンプルーやソーキそば位しか知らないんですよね。あと海ブドウ?」

 

 海ブドウは正確には料理じゃないと思うけど……私も沖縄料理って余り知らない、沖縄って海に囲まれているのに魚料理が少ないのが不思議。

 タコライスを作った筈だけど、正明さん沖縄料理と認識してないかも。あとは島豆腐とゆし(寄せ)豆腐くらいかな?

 

「沖縄はお肉が安いって。有名なステーキハウスが何軒も有るよ、ビッグハートとか88グループとか」

 

 反対側の腕に絡み付く静願さんを睨む。睨み返してきたから、バチバチと……

 

「あらあら、娘達はパパが大好きなのね。ではバス乗り場に行きましょう」

 

 まるで夫婦みたいな会話をしてバス乗り場に向かう魅鈴さんの後ろ姿を睨む。

 周りからは「家族だったのか、ヤクザがハーレム旅行かと……」とか「親子にしちゃ似てないが母親に似たんだな」とか失礼な呟きが聞こえた。

 

 やはり小笠原母娘は正明さんを狙ってる、母娘で……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 沖縄の海は素晴らしかった……透明感が有り原色の魚達が沢山泳いでいた。

 前は沖縄の環境破壊問題がピンと来なかったが、美しい自然を見れば納得する。

 

 これは人間の都合で壊してはいけない。

 

 利権問題とか住民の生活とか根深い問題が有るらしいが、この自然を見てしまったら……

 

 

 

 

「あら、結衣ちゃん眠ってしまったわね」

 

「珍しくはしゃいでましたから……今朝も早起きだったし、疲れたのでしょう」

 

 結衣ちゃんが転寝するほど疲れるなんて久し振りだ。僕に寄り掛かり規則的な寝息をたてている。

 途中、何度か魅鈴さん達に可愛い嫉妬を向けていたが、魅鈴さんの思わせ振りな態度が問題か……

 すっかり夫婦と娘達みたいになっている。年齢的にはピッタリだから、周りも疑わないのだろう……

 

「榎本さんは……結衣ちゃんの事をどう思ってますの?」

 

「どうって、別に……」

 

 この問いには何て答えれば良いんだ?普通に考えれば娘みたいだが……

 もし魅鈴さんが僕の性癖に気付いているのならば、別の問題が発生する。

 じゃ結衣ちゃんは恋愛対象外なのねって、言質を取られてしまうんだ。

 

 額から一滴の汗が垂れた…勿論暑さの為じゃない冷や汗がだ。

 

 

200話達成リクエスト(結衣in沖縄)後編

 

 転寝(うたたね)を装い正明さんに体を預けたのだけど、魅鈴さんの質問にドキリとした。

 

「榎本さんは結衣ちゃん(私)をどう思っていますの?」

 

 Niceです、魅鈴さん!これは私が今一番聞きたい言葉です!目を瞑っているので正明さんの表情が分からないのが残念。

 

 暫く沈黙が続く……

 

「そうですね。大切な存在ですよ、家族とは少し違いますが……僕はこの子の幸せを一番に願っています」

 

 私の幸せを一番に願う……私が幸せならお嫁さんにしてくれるの?私の気持ち次第で良いの?

 

「あらあら、意味深なお言葉ですわね。彼女が貴方の事を異性として意識していたら、どうします?」

 

 魅鈴さん、その質問の答えは未だ聞きたくないのです。もっと仕込みや準備が必要なのです。

 

「そうだよ。おとっ、榎本さんと他の女の人が仲良くしようとすると邪魔するし……」

 

 おとっ?お義父さん?やはり魅鈴さんは正明さんと再婚したくて、静願さんもそれを望んでるんだ。

 

「難しい年頃ですし、少し潔癖な所も有る。僕は彼女が望まない結婚をする気は無いんです。もう、この話は止めましょう……」

 

 正明さん、それは再婚したいなら私に認めて貰いなさいって意味だよ。魅鈴さんを否定してないし、私が認めればOKだと取られてしまう。

 

「あら、そうですね。お互い連れ子がいますし、お互いの連れ子が良ければ……うふふ、楽しみですわね」

 

 いえ拒否します、駄目です、お断わりします、一昨日来やがれです!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 あの後、五分ほど寝た振りをしてから起きた。

 微妙な雰囲気だったけど、私は先程の会話は聞いてないのだから自然に振る舞う事にする。

 妙に魅鈴さんが優しくなったけど、私は(再婚相手としては)認めません。

 人として良い人なのは認めるけど、ソレはソレです。

 本日の観光の最後にガラス工芸館に立ち寄り、職人さんの実演を見ながら幾つかのガラス製の小物を買った。

 小さな海亀の置物が可愛くて欲しかったのに、何故か買うのを躊躇ったのが不思議だった。

 

 可愛い青海亀の置物だったんだけど……そしてチェックインする為にホテルに着いた時に事件は起こった。

 

 

 

 

「「ようこそ、残波ロイヤルリゾートホテルへ!」」

 

 

 

 

 双子の女性が笑顔でハモりながら出迎えてくれた。ホテルの従業員ではないと思う、揃いの白いシャツにスラックス。

 不思議と記憶に残らない可愛いのに無個性な感じ……だけど、正明さんの知り合いみたい。

 

 だって珍しく驚いて固まっているもの……

 

「なっ、何故此処に?」

 

 双子さん、ニヤリと悪巧みが成功したような嫌な笑みを浮かべた。

 

「若宮リゾートクラブが出資してるのよ、このホテル。予約時に本家に確認の連絡が来て、御隠居様が……」

 

「榎本さん、亀宮一族の関連施設には貴方の個人情報が回ってるんです。VIP待遇しなきゃ駄目なリストの上から十二番目にです。凄い事なんですよ」

 

 正明さんの左右に移動して見上げながら説明をしてくれた。亀宮一族って最近良く聞く正明さんの入った派閥の名前だったかな?

 確か霊能界の御三家で東日本一帯が勢力圏だとか何とか……正明さん、既にその組織のVIPでNo.12なの?

 

「うん、まぁ何だか分からないけどさ。このホテルに来てるのは風巻さん達だけじゃないよね?正直に言ってごらん、怒らないから……」

 

 嘘、このオーラは本気で怒ってますオーラだよ。双子さんも後退りしてるし、きっと見えない顔は怖いんだろうな。

 

「「かっ、亀宮様がラウンジでお待ちしてますです、ハイ!」」

 

 彼女達が敬礼した、敬礼しましたよ!それに亀宮様?まさか御当主が自ら正明さんを待ってる?

 隣で嫌な顔をしている静願さんに聞いてみよう。確か品川のお屋敷で顔合わせしたとか言っていた筈だし……

 

「確か静願さんって亀宮さんに会ってるよね?どんな人なの?」

 

 肘で突いて小声で聞いてみる。

 

「天然巨乳美人で酒乱……」

 

 此方を見ずにボソリと教えてくれたが、そこに尊敬とか親愛とかは全く無い。つまりは敵(泥棒猫)な訳ね……

 

「亀宮さんが居るなら何時ものメンバーも揃ってるんだろ?帰ったらご隠居と話し合いが必要だな。主に個人情報の取り扱いについて……」

 

「違法じゃないぞ。個人情報保護法には抵触しない筈だ」

 

 また新しい女の人が現れた。この暑さの中で黒のスーツにサングラス、皮手袋までしている。

 でも巨乳のクールビューティーだが、衣装が台無しにしてる残念な美人かな。

 

「違法とは言ってない。個人情報の取り扱いについてだよ。

個人情報保護法は個人を特定出来る情報の漏洩、情報管理、その扱い方に違法性が有るかだ。

今回は一族の派閥の一員の個人情報を関連施設に流した事だから、取り扱いについてと言っている。

僕は正式には若宮グループの社員じゃない、契約……うおっ?」

 

 かっ、亀よ、亀が空を飛んで来て正明さんに巻き付いたわ。うわぁ……首が長くて噛み付き亀かスッポンみたい。でも懐かれてるのが分かるわ。

 

「ちょ、コラ、亀ちゃん?締め付けないで、滝沢さんを苛めないから……中身が、中身が出ちゃうから……」

 

 スリスリしてるけど、端目から見れば巨大生物に襲われている人間だよね。

 

「亀ちゃん?もしかして亀宮さんって完全獣化能力者?あの亀が本人さん?」

 

 お婆ちゃんから聞いた事が有る。細波一族も血を強く受け継いだ者は、完全に狐の姿になれたって……

 

「流石は御三家の当主さんですね。空飛ぶ亀さんに変身出来るなんて……」

 

「結衣ちゃん、それ勘違い。あの亀ちゃんは亀宮さんの使い魔みたいな存在」

 

「亀宮だから亀使い?」

 

 ズルズルとラウンジに引き摺られていく正明さんの後を慌てて追い掛けた。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 流石はリゾートホテルのラウンジだわ。高級そうなソファーセットに毛足の長い絨毯。

 三階層吹き抜けで天井には豪華なシャンデリア。

 ソファーには凄いユルフワ巨乳美人が座り、後ろに黒服さんが並んでいる。

 

 その前に跪く正明さん……

 

 あっ!亀ちゃんが美人さんの体の中に入っていったわ。

 

「亀宮さん、一緒に来たいなら言ってくれ!こんなドッキリは嫌だぞ。それにVIP扱いって聞いてないし」

 

「榎本さんは御隠居衆の次席らしいです。

風巻のおば様も諜報部隊の副長ならば、これ位の地位じゃないと一族内の調整もままならないからって、御隠居様と決めたそうですわ。

他部門に依頼するのも序列が有るのが亀宮一族なのです。

全く……本来ならば榎本さんは私と同列なのですが、あの五月蝿い連中が……あんなの悉く滅べば良いのです」

 

 後半の台詞、ボソボソ小声だったけど所々は危険な単語が聞こえた。それに目が逝っちゃってて病んでる感じが……

 

 もしかして、ヤンデレさん?

 

 正明さん、私と結ばれたら二人一緒にNice BoatなBad End直行?何とも言えない引き吊った笑みを浮かべるしかなかった……

 まさか1日で正明さんを取り巻く新たな泥棒猫を知る事になろうとは。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 屈辱的な敗北……なし崩し的展開でホテルのプライベートプールに連行された、しかも貸し切り。

 このプール、凄い豪華でプールの中にバーラウンジ?が有るの。

 足をプールに浸けながらお酒やジュースが飲めるんです。私は水着を濡らさない様にバーラウンジの椅子に座る。

 椰子の実を器にしたトロピカルカクテル(勿論ノンアルコール)を飲んで、目の前に並ぶ醜い肉の塊を見詰める。

 

 亀宮さん、白のハイレグビキニ。

 

 小笠原母娘、黒地に菖蒲をあしらった和風かつ際どいビキニ。

 

 滝沢さん、黒のビキニ。

 

 全員ビキニで巨乳美女・美少女だ。

 

 風巻姉妹さんは辞退した。何でも正明さんは異性として見ていないで頼れる上司なんだって。

 あの双子のお姉さん達とは仲良くなれそう。

 そしてお目当ての正明さんは、自分の体に付いた大小の傷を見せると私達が気分を悪くするからと部屋に籠もってしまったわ。

 

 普通だったら嫌らしい目で女性陣を見ても許される状況なのに、本当にストイックなんだから……

 呆然とする巨乳軍団だが、折角だからと水着に着替えてプールを楽しむ事となった。何て切り替えの早い人達なんでしょう。

 

 ごめんなさい、正明さん。

 

 正明さんの傷だらけの体が私の自傷とダブって考えてしまって……でも正明さんは、こんな醜い肉の塊なんて見なくても良いの。

 胸なんて飾りなんです、それがエロい人達には分からないのです。今度私が水着を着てマッサージしてあげます。

 丁度尻尾の部分まで背中が開いてるし、狐耳と尻尾付き水着美少女のマッサージだから良いですよね?よね?

 年甲斐もなく無邪気に水を掛け合い遊ぶ年上の美女・美少女を見て溜め息をつく……

 

「何を食べたら、あんなにデカくなるのかしら?」

 

 相手の胸を見て自分の胸元を確認し、再度ブルブル震える双房を見る。悉くモゲれば良いのにと思う。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 結局プールは不愉快でしかなく、先に部屋に戻る。私の部屋は1201号室で榎本さんが1200号室。亀宮さん達が1202号室で小笠原母娘が1203号室。

 私と榎本さんは一人部屋なんです。だから私は抜け駆けします。実は水着を着たままで上からワンピースを羽織った。

 つまり私はワンピースを脱げば水着姿になれる。どうしても正明さんに水着姿を見て欲しくて部屋を訪ねた。軽くノックをして声を掛ける。

 

「正明さん、居ますか?」

 

「結衣ちゃんかい?どうしたのかな?」

 

 直ぐに応えてくれて扉を開けてくれた。寝ていたのだろうか、少し髪の毛が乱れている。

 

「皆さんプールで楽しそうにしてるので邪魔しないように戻って来ました」

 

 不自然な言い訳をしながら部屋の中に入ろうとするが、正明さんは体を退けてくれた。

 

「凄い夕陽ですね……地平線が燃えているみたい……」

 

 窓から見える景色は、今まさに太陽が地平線に隠れ様としている。部屋の中も真っ赤に燃えているみたい……

 

「もう直に夕食だよ。皆が……」

 

「お疲れの正明さんにマッサージしてあげます!さぁさぁ横になって下さい」

 

 正明さんの言葉を遮(さえぎ)り強引にベッドに引っ張る。純粋な力ではビクともしないけど、私に遠慮してか渋々ベッドに俯せになる。

 正明さんが目を瞑っているのを確認してからワンピースのボタンを一つ一つ外して……パサリとワンピースを脱いで精神を統一し獣化を念じる。

 

 ブルブルと体を振れば水着獣っ娘の完成よ!

 

「正明さん?」

 

「何だいって、うわっ?結衣ちゃん、何で水着姿になってるの?」

 

 体を起こして驚く正明さんの為に、クルリと回って水着をアピールする。自分の頬が熱いから多分顔は真っ赤になってると分かる。

 

「せっ、折角水着を買ったから見て欲しかったんです……に、似合いますか?」

 

 体を少し斜めに向けて手を後に組んで胸を強調し、はにかみながら聞いてみる。正明さんも真っ赤になってるけど、これは夕陽の赤じゃないよね?

 

「うん、良く似合ってるよ。可愛いよ……」

 

「有り難う、嬉しいです。私……私は……」

 

 

 

 その日、乱入してきた静願さん達に私が狐憑きだとバレてしまった……同業者(霊能力者)と知られてしまったが、全員そうだから気にしないわ。

 あの時、正明さんは私に視線が釘付けだった。つまり、私にも十分チャンスが有る事が分かった。

 あの後、皆に詰め寄られたが正明さんの背中にピッタリと張り付いて難を逃れた。正明さん、慌ててマッサージをしてくれただけだって言い訳してたけど……

 

 私が後ろから舌を出して挑発してたから効果は無かったと思う。

 

 これが新しい泥棒猫の皆さんに対しての、私なりの宣戦布告なんです!

 


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