榎本心霊調査事務所(修正版)   作:Amber bird

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第196話から第198話

第196話

 

 一子様が優雅にファッション雑誌を読み、高槻さんがPSPで遊ぶ。亀宮さんは居眠りを始めたが、揺れる体は亀ちゃんが押さえている。

 午後の日差しは暖かく、空には鳶が二匹旋回している。四月後半、今まさに春を感じる季節だ。

 

 僕は天を見上げて呟く……

 

「平和だなぁ……」

 

 その言葉に反応して長机をバンっと叩く桜井さん。ああ、不老不死の秘密を言うに言えずに悶々としてるのね。

 そして呑気な僕が気に入らない訳ですな。彼女をチラ見したが、特に何も言えないのだろう。酷くキツい目で睨み付けるだけだ。

 

「ああ、平和だよね……」

 

 再度空を見上げて呟く。世は並べて事も無し。後は粛々と洞窟を埋めればお終いだからね。

 だから気持ちは楽だ、自ら除霊の前線に出なくて良いから平和なのだ。

 

「榎本さんって結構女性に対してドライなんですね?」

 

 ファッション誌から目を逸らさずに一子様から嫌味が飛んできた。

 

「そうですか?確かに優先順位を付けますからドライかな。でも八方美人は疲れるし相手にも失礼ですよね?」

 

 誰にでも手を差し伸べるなんて聖人位しか出来ないだろうし、僕が出来る事は有限だから、その他大勢はそれなりの対応で良いと思う。

 

「確かにそうね。皆平等よりも他の女と差別を付けてくれた方が嬉しいわ」

 

 ああ、一子様は自分が一番の扱いだと嬉しいタイプなんだな。ある意味、僕は一子様を一番欲している。餌的な意味でだけど……

 

「そうです!大切な人には誠心誠意、それなりの人には普通に、どうでも良い人には適当に。

僕の力程度で皆平等は無理なので、その辺は申し訳なく想います」

 

 誠実な顔で一子様に向き合い頭を下げる。一子様も雑誌から目を僕に向けている。だが、その表情は平坦だ、何も感情が読めない。

 

「人として考え方は普通ね。人権問題で言えば大問題だけど……でもハーレム願望が無いのは好感が持てるわ。

人は身の丈を弁えなければ駄目よ。だからこそ、略奪愛は楽しいの。その人の価値観を私色に塗り替えられるから。

やっぱり榎本さん、ウチに来ない?好待遇を約束するわ。んー、年俸制で3000万円でどう?」

 

 今迄無表情だったのに艶然と微笑まれると、普通の男性ならギャップも相(あい)まって舞い上がるんだろうな。

 それ位に一子様は人の手で作り出した最高の魅力に溢れている。だが僕は鋼の意志(ロリコン魂)が全てを弾き劣化させる。故に心奪われない。

 

「先に亀宮様に出会ってしまったので、叶わぬ事ですね。純粋に嬉しく思いますが……」

 

 御三家の一角のトップに言われたら嬉しいと思うのが普通だろう。あくまでも普通の性癖の男ならと言わせて貰うけどね。

 あと立場的に彼女に強く言えないんだ。

 

「私と亀宮、どちらが魅力的かしら?」

 

 更に笑みを浮かべ瞳術を掛けてきた……らしい。胡蝶の警告か頭の中に響く。

 

「個人的な好みなら亀宮様です。万人受けする美人は有り得ないことと、条件の下での好みですよ。

一子様と亀宮様のどちらが秀でているとかでは有りません。勘違いしないで欲しいのですが、純粋に好みの問題です」

 

 そろそろ話題を切り替えたいのだが、周りの連中は僕等に注目してるし、一子様も未だ話を終える感じはしない。

 誰かに話を振りたいが、女性の美についてだと難しい。同じ女性には振れないし男性でも問題有りそうだ。

 

 亀宮さんは嬉しそうだ……耳や尻尾が有ればパタパタ振り切れる位に。

 

 滝沢さんと高槻さんは興味津々だが、表情には出ていない。だから特に高野さんのニヤニヤがムカつく!

 

「つまり榎本さんにとっては桜岡さんと亀宮さんが大切で、その他は普通なのね?」

 

 うわっ、この女……表情を自在に替えられるんだな。今の涙を浮かべて縋る様な悲しげな表情を向けられると、罪悪感が半端ない。

 だが、此処で妥協すると付け込まれる隙が出来る。周りの男性陣の恨みを一身に背負うが仕方ない。

 

 ズバッと切り捨てるのが、男らしさだ!

 

「ごめんなさい、もう苛めないで下さい」

 

 長机に両手を付いて頭を下げる。

 

「あら?ふふふ、苛められてたのは私の方でしょ?この話題は終わりにしましょうね」

 

 見惚れる様な笑顔を浮かべてくれたので、周りの男性陣からの殺気が和らいだ……

 カリスマ、人心掌握術、魅了の術等々、彼女の力の根源は太閤秀吉に近いのかもしれない。

 彼女は人たらしと言われた老若男女構わず引き込む術を持っているんだな。

 何故ならば女性としての魅力は感じなかったが、話し終わった後に不快感が無く少しだが楽しいと思ってしまった。

 また話したい、話しても良いという感情は好意と何が違うのか……一旦席を離れた方が良いだろう。

 コーラを入れたクラーボックスを山林に停めてある車に積んでいる。炭酸で一息ついた方が良いだろう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 伐採され鉄板が敷かれ整備された道を急ぎ足にて進む。目的の車は直ぐに見付かった。

 トラックの荷台に乗せてもらっていたクラーボックスを開けて缶コーラを取り出す。プルタブを開けて一気に飲み干すと喉が焼ける様だ!

 

 だが、この刺激が炭酸好きの醍醐味だ。

 

 盛大にゲップをすると空き缶をクシャクシャに丸めてクラーボックスに放り込む。

 

「はぁ、女性って難しいよね。阿狐ちゃんの言った女性が理不尽な生き物って本当だよね。未だ学生なのに本質を突いてるのが凄いや」

 

 年下の女の子に女性の本質を教えられて凹むが、まぁオッサンだから仕方ないと考え直す。

 何と無くリフレッシュして現場に戻ると騒がしいのだが、何か有ったのか?アレ、阿狐ちゃん達が出て来たけど、それだけじゃなさそうだな。

 何故か亀宮さん達が輪になり騒いでいる。小走りで近付くと話の内容が聞こえてきた。

 

 餓鬼を倒した……だが回復中……奥に泉が有った……コンクリートで埋まって……桜井さんが洞窟に……跡を追って……

 

 おぃおぃ、碌でもない単語が断片的に聞こえたぞ。

 

「亀宮さん、伊集院さん!何が有ったの?」

 

 話の輪の中心に居る二人に話し掛ける。一斉に此方を向く二人。

 

「榎本さん、桜井さんが勝手に洞窟内に!それを追って一子さんと高槻さん達が……」

 

「私達が最奥まで行って餓鬼を倒したが、滅し切れずに回復中だと聞いたら突然走りだして……アレは何なんだ?」

 

 不味いぞ、最奥まで危険が少なく行けると思ったな!餓鬼の回復スピードが分からないから後どれ位安全かは不明だが、そんなに余裕は無い。

 僕の想像が正しければ、あの水に浸かったら餓鬼化するぞ。人の身で不老不死なんて無理なんだよ!

 

「僕が迎えに行く。亀宮さんと伊集院さんは待機してくれ。何とか連れ戻す」

 

 見捨てたいのは山々だが、彼女達を何とかしないと洞窟を埋められない。生き埋めは犯罪行為でしかなく、目撃者も沢山居るからね。

 

「私が同行しよう。道案内も出来るし、彼には借りも有る。むざむざと死地に向かわせる訳にはいかない」

 

「防御なら私の出番だわ!彼は私の一族の一員なのだから、私が同行するのが当たり前なの」

 

 どちらの申し入れも嬉しいが、今は一刻を争う!

 

「駄目だ、君達はって……なに走りだしてるの!駄目だって」

 

 亀宮さんと阿狐ちゃんは一瞬だけ見つめ合うと走りだした。

 

「ウチの姫様は全く持って行動派だな」

 

 だが慌てて追いかけて、二人の肩を掴んで引き止める。凄く不服そうな顔で見られましたよ……

 

「君らは駄目だ。あの洞窟内には岩泉氏の秘密が詰まってる。それを暴きに行った桜井さん達は僕が止めるよ。

それも岩泉氏からの要望でも有る。御三家トップが知ってしまうのは不味いんだ。

この行動で一子様は不利になるだろう……悪いが納得してくれ」

 

 そう言って洞窟内に向かって走りだす。懐に仕込んだマグライトを取り出し前方を照らし注意しながら進む。

 元々は自然の洞窟を戦時中に防空壕にした。

 だから最初こそ天井も壁も綺麗に整形されているが、20mも進めば自然の洞窟の姿を取り戻し起伏も激しければ凹凸も凄い。

 

「胡蝶さん、胡蝶さん。彼女等は何処かな?」

 

 走りながら語り掛ける。胡蝶レーダーをあてにするが果たして?

 

『真っ直ぐだ!移動速度は遅いから追い付けるぞ』

 

 やはり胡蝶さんは頼りになる。

 

「有り難う、後ろは付いてきてるかな?」

 

『亀と蛇が追って来てるぞ。その後ろは居ない。二人に止められているのか?全く正明は人気者だな』

 

 ああ、やっぱりね。あの二人が大人しく待つ訳は無いか……だが、そんな人気は要らないです。

 割と足元は平らなので全力で走れる。流石に床面は整地したのだろう。なだらかな下り坂を全力で走る。

 暫く走ると前方の暗闇に灯りが見えたので、追い付いたみたいだな。何やら揉めている様な言い争う声が聞こえてくる。

 

 暫くして僕のライトに一子様達が……

 

「おい、大丈夫か?洞窟から早く出るぞ」

 

 大声で呼び掛けると此方を一斉に見るが、どう言う状況だ?モブ巫女に取り押さえられる高槻さんと、一子様と睨み合う桜井さん。

 高槻さんは悔しそうだが、何故に自分の配下のモブ巫女に取り押さえられてるんだ?

 

 下剋上?

 

「聞こえてるかい?外に出るぞ」

 

 もう一度、ゆっくりと優しく話し掛ける。

 

「五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い!アンタの所為で霊水が、霊水が湧き出る泉が塞がったのよ!どうしてくれるの、この馬鹿筋肉!」

 

 偉い剣幕だが、洞窟の奥にライトを向ければコンクリートのピラミッドが出来ていた。天井から垂れ下がる鍾乳石の様なコンクリート。

 暖炉擬きから流し込んだが、この上が山荘なのか……意外に近いんだな。流石に200㎥のコンクリートは伊達じゃないぜ!

 だが隅々に餓鬼だった肉塊も散乱しているので、妙に生臭い。早く外に出たいと思わないのかね?

 

「予定通りだな。此処も直にグラウトで充填されるよ。早く出るぞ、隅に居る餓鬼の再生スピードが……もう直に動き出すぞ」

 

 ウネウネ・ウゾウゾと再生を始めている餓鬼達だが、伊集院さん達は奴等をミンチにするまで攻撃したんだな。

 単純な火力ならば御三家一番だろう。新興勢力が御三家まで成り上がった秘密を垣間見れたよ……

 

「ほら、高槻さんを放しなよ。危ないから外へ出るぞ」

 

 そう言って彼女を押さえているモブ巫女を睨む。だが互いにマグライトの灯りが頼りなので、イマイチ視線とか表情が分かり辛い。

 なので高槻さんの腕を掴み引っ張る。嫌々らしく手を放すモブ巫女達。

 

「一子様も良いですよね?ほら、餓鬼達が再生を始めている。早く洞窟を出ないと途中で襲われるぞ」

 

 マグライトで照らされた餓鬼は、既に人型に再生を始めている。あと10分もすれば動き出すだろう。

 

「……分かりました、戻りますわ。皆さん戻りますわよ」

 

 何やら答える迄に10秒程の時間が掛かったが、一子様は納得したみたいだ。その声にモブ巫女達が応える。高槻さん、一子様と仲違いしたのかな?

 

「アハハハハ!馬鹿ね、見逃したわね?此処に僅かながらも霊水が残ってるわよ!

私、私が、私だけが、永遠の若さと美しさを保つの。加茂宮だか亀宮だか知らないけどね、この霊水は私だけのモノよ!」

 

 コンクリートピラミッドの脇に小さな窪地が有り、向けたライトの灯りを反射している。ユニットバスのバスタブ程の大きさだが、確かに水が貯まっている。

 

「お待ちなさい、桜井!」

 

「桜井、独り占めは許さないわよ!」

 

 駆け寄ろうとする一子様と高槻さんを後ろから抱いて止める。

 

「アハハハハ、見てなさい。生まれ変わる私を!見下していた私が、私だけが永遠の若さを得るのよ!」

 

 僕は狂った様に笑いながら巫女服を脱いでいる桜井さんをただ見ているしかなかった……

 

 

第197話

 

「アハハハハ、見てなさい。生まれ変わる私を!見下されていた私が、私だけが、永遠の若さを得るのよ!」

 

 狂った様に笑いながら巫女服を脱ぎだした痴女……もとい桜井さん。見た目普通だが、肉体も普通だ。

 それなりにメリハリが有るが、それなりでしかない。流石に裸の女性に直接光を当てる事は出来ないので、足元に落としたライトは少しずらしている。

 なので余計に陰影で彼女の表情は歪んで見えるから怖い。狂気の籠もった瞳で此方を睨むが、一子様と高槻さんは僕がガッチリホールドしている。

 言い返そうにも拘束され苦しくて無理なのか、何も言わない。あの霊水と言うか、呪いの触媒の水に触れさせる訳にはいかないんだ。

 スッポンポンの全裸になり、此方を指差して狂った様に笑う彼女に対して僕の腕の中の美女達は我慢の限界みたいだ。もがく腕に力がこもる。

 

「立場を考えなさい、桜井さん。貴女の……」

 

「五月蝿い、黙れ色魔!誰にでも色目を使いやがって、私の彼を奪った恨みは忘れないからな!」

 

 あーやっぱりアレか、愛憎絡みの問題か……一子様って略奪愛が好きだって言ってたからな。桜井さんと一子様じゃ特殊な性癖の持ち主か純愛路線の男じゃないと無理かな?

 

「違うわ、私は見てくれだけの男なんて要らないわ。あの男の勘違いを私の所為にしないで欲しいわね。

男の価値は能力なのよ。例えば私を抱いて放さない榎本さんの様な強い男が必要なの!」

 

 いや、僕は違うぞ。そんな意味で二人を拘束してないから。

 

 もしかしたら桜井さんも被害者かも知れない。一子様に彼氏を奪われ、高槻さんに派閥でパワハラに遭ってとか?

 だが最初に見付けた時には高槻さんが配下のモブ巫女に取り押さえられていた……いや、余り他人の派閥の事を気にしない方が良いな。

 可哀想になったので、水溜まりに近付く桜井さんに警告する。

 

「その水に浸かると後悔するよ。それは不老不死の妙薬なんかじゃないぜ。呪いの触媒でしかない」

 

 彼女は、あと一歩踏み出せば水溜まりに入れる距離まで近付いていた。

 

「黙れ馬鹿肉達磨!そんな女の色香に負けやがって!生まれ変わる私を見ているが良い。私一人分しかない霊水なのだから、お前等の分は無いからな」

 

 そう言って彼女は水溜まりに、躊躇無く飛び込んだ!意外に深かったらしく、しゃがんだ彼女の頭まで水に浸かる事が出来たみたいだ。

 

 当然だが溢れ出す霊水……

 

「ああ、勿体ない!」

 

「無くなってしまうわよ!」

 

 思わず叫んで手を伸ばす二人を抱き留める。そして洞窟内に響き渡る悲鳴……桜井さんが、人で有った彼女の体が、呪いにより変化していく。

 暗闇に映えた滑らかな白い肌が、黒くゴツゴツした岩肌に変化している。水溜まりの中でバシャバシャと暴れる桜井さん。

 もう水溜まりの中に霊水は溢れて殆ど無い。きっと激痛と我慢出来ない痒さに襲われているのだろう……拘束していた腕の力を弱めて二人を解放。

 

 呆然と桜井さんで在ったモノを見詰める彼女達に説明する。

 

「人がさ、弱い人の肉体のままで不老不死になんかに、なれる訳が無いだろ?ましてや自身に強い霊能力が有る訳でもない、強力な加護も無い。

ならば肉体を変化させるしか無い。その結果が餓鬼化だよ。更に不老不死で精神を病まない様に思考力も低下させられる」

 

 のた打ち回りながら肉体を餓鬼に変化させる彼女を見て思う。これが不老不死の秘密とは、何とも救われない。

 

「榎本さんは知っていたの?この洞窟の秘密を……」

 

「それで私達二人をあの水溜まりに近付けない様にしていた?」

 

 二人が桜井さんの悲劇から目を逸らさずに聞いてくる。身長が縮み腹が突き出し、手足は細く長い。

 モブ巫女達は壁ぎわに一塊となり抱き合って怯えているな。一子様は僕の上着の袖を握っているが、出来れば放して欲しい。

 

「幾つかの予測の中で最悪なのが当たったんだ。山荘で餓鬼が現れて水を撒き散らし呪咀に掛かった人を治した時にね。

肉体をも変化させる呪いだったけど、変化した腕が餓鬼そっくりだった。そして奴等のふざけた回復力。ああ、亀宮さん達も来てしまったか……」

 

 二条の光が僕等を照らしている。つまりマグライトを持った亀宮さんと阿狐ちゃんが来たんだな。

 暫くすると御三家当主の二人がやって来た。そして、のたうち回る殆ど餓鬼に変化した桜井さんを見付ける。

 

「これは?」

 

「桜井さんの成れの果てだよ。不老不死と信じて呪いの水に浸かったんだ。それで餓鬼と成り果てた。

だから僕は洞窟は誰にも知られずに塞ぎたかったんだよ。人が人でなくなる所を見せたくなかったんだ……」

 

 もう完全に餓鬼と成り果て、此方を威嚇している。此処で生き埋めとなり何時までも生き続けるのは辛いだろう。

 

『胡蝶さん、彼女を食べてくれる?』

 

『ふん、甘いな正明。だが、カス程の霊能力者だが我の力にはなろう』

 

 左手を餓鬼(桜井さん)に向ける。ギュポン!っと軽い音がして餓鬼は僕の左手(胡蝶)に吸い込まれた。

 

「さて……一般人が周りに沢山居るから、桜井さんが死んでしまったとは言えないな。普通なら警察沙汰だし。伊集院さん」

 

「何かしら?」

 

「悪いが先に出て一族の連中を呼んでくれるかな。そこの巫女さん達を肩を貸して運びだして欲しいんだ。

巫女服を着ていて集団で担ぎ出されれば、一人くらい少なくても誤魔化せるだろ?そのまま山荘に運んでよ。

後は僕が遅れて出ていって確認したけど残っている人は居ないって説明して……この洞窟は埋める。これで伊集院さんへの貸しは無しだ」

 

 モブ巫女も入れれば巫女服は七人、それをマント連中が囲んで移動すれば正確な数は分かり辛い。

 

「いや、貴方への借りは返さない。これは加茂宮への貸しだ。そうだろ、加茂宮一子?」

 

 阿狐ちゃん、そこは空気を読んでー!恨みがましい目で見るが、暗くてイマイチ分からないかな?

 

「ふん!流石はドエスのお嬢ちゃんね。良いわ、借りておく。後は彼女の死については私達が工作するから」

 

 そろそろウゾウゾ再生中の餓鬼がヤバいかな?

 

『胡蝶さん、残りの餓鬼達を食べれるかい?元は人だし、生き埋めでも死ななそうだよ』

 

『全く人使いが荒いぞ!まぁ良い、奴等も元はそれなりの霊能力者だからな。纏めて面倒を見ようぞ』

 

 霊能力者?ああ、そうか!この洞窟の最奥の泉に餓鬼をいなして来れる連中は、それなりに力有る同業者なのね。

 

「話は決まった!高槻さんとモブ巫女……いや、配下の方々も良いね?じゃ、早く外へ。僕は残りの餓鬼を祓うから、急いで!」

 

 パンパンと手を叩き行動を促す。

 

「榎本さん、詳細説明は山荘でして下さい」

 

 そう言って小走りに外へ向かう女性陣……後は餓鬼を食ってから、ゆっくりと帰りますか!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「あの……亀宮さんも……」

 

 何故か右腕にしがみ付く彼女。亀ちゃんが発光しながら上空に浮かんでいるので、辺りは仄かに明るい。

 

 亀ちゃん、グッジョブ!

 

「駄目です!加茂宮さんにも腕を掴まれてましたよね?榎本さんは私達の所にずっと居るって約束しましたよね?」

 

 ああ、確かに一子様に袖を掴まれてたな。だから不安になったのか?でも彼女達をホールドしてる所は見られずに済んだのは一安心だ。

 

「胡蝶、頼む。彼等に魂の解放を……」

 

 左手首からモノトーンの流動体が流れだし、蠢く餓鬼達を飲み込んで行く。暗い洞窟の床よりも更に暗い闇に、餓鬼達は飲み込まれていく……

 

「心配しなくても、僕は亀宮一族から離れませんよ。最初に約束したでしょ?僕は君とは絶対に敵対しないと……」

 

 ギユッと掴む腕に力が入った。普通なら彼女を抱き締めてキスをすればハッピーエンドなんだが、生憎と僕はロリコンなので無理だ!

 だから彼女をお姫様抱っこして、ゆっくりと亀ちゃんに乗せる。丁度、胡蝶も食事を終えたらしく人型になりお腹を擦っていた。

 胡蝶も抱き上げて亀宮さんの前に座らせると、直ぐにギユッと抱き締められた。

 

『胡蝶さん、亀ちゃんを食べちゃ駄目だからね。それと亀宮さんが不安になってるから、慰め代わりに抱っこされててね』

 

 バタバタ暴れる前にお願いする。

 

『正明よ……我は便利屋ではないのだぞ!

それに、あの場は押し倒して最後まで逝くのが男だろうに……もう良い、今晩再度女と言う生き物を教えてヤル!』

 

 シュンって表現が似合う様に、うなだれる胡蝶さん。逆に亀宮さんは御満悦で、機嫌が回復したみたいだ。

 

『お手柔らかにね……』

 

「さて、話ながらゆっくり帰ろうか?亀ちゃんも宜しくね」

 

 亀宮さんの背中を押して洞窟の出口に向かって歩きだす。怪しい霊水の湧き出る場所は埋めたし、餓鬼は全て胡蝶が食べた。

 この洞窟は安全だろうな……亀宮さんと胡蝶さんを乗せた亀ちゃんの隣をのんびりと歩くと、壁よりに変な物を見付けた。

 窪みの様な場所に不自然に押し込まれた品々。

 

「何だろう?壺に木片かな……って、これは……」

 

 近付いて見ると、書斎で見付けた古銭やら何か書かれた木片やらが無造作に押し込まれている。

 数枚の古銭を手に取って灯りを照らして良く見るが……

 

「書斎で見付けた古銭と同じだね……ただ保存状態が悪いな。古い物だし、野晒しで放置されたからかな?」

 

 良く見れば木片も腐り殆ど原形を留めていない。

 

「徐福伝説ですが、この場所は彼が見付けた蓬莱山なのでしょうか?歴史的な大発見ですね」

 

 気持ち弾んだ声の亀宮さん。公表すれば歴史的な大発見かも知れないが……

 錆びて一塊の古銭の山を手に取り砕くと、中から程度の良い数枚が現れる。周りの古銭は錆びてボロボロだが、此等は比較的綺麗だ。

 親指で擦ると地金の輝きも見えるね。佐和さんのお土産にでもするかな……

 

「そうすると千年単位の過去の遺産だね。だけど、この洞窟に世間の注目を集める訳にはいかない。

人知れず埋めてしまうのが一番だよ。さぁ早く戻ろう」

 

「うーん、そうですか?歴史的発見は闇の中に、真相を知るのは私達だけなんですね」

 

 秘密の共有をする相手としては、亀宮さんはウッカリさんで怖いけど……

 

「そうですね。人類の秘宝かもしれませんが、仕方の無い事です。二人だけの秘密ですね……」

 

 古代の浪漫、歴史的発見!人類共通の宝を私的な目的で埋めてしまう、か……

 

「ふふふふ……胡蝶ちゃん、榎本さんって隠し事が多いのよ。酷いと思わない?」

 

 亀宮さんの機嫌は完全に回復したな。会話の内容はアレだが、口調は楽しそうだ。

 漸く念願の胡蝶に会えて、抱っこして会話してるのだからな。胡蝶様々だ!

 

「全くだな。それに約束も中々守らないのだ。早く子供を産ませろと言うのにフラフラと……どうだ?お前でも良いぞ、早く正明と子を為せ」

 

 折角、胡蝶に感謝していたのに、要らない入れ知恵が来やがった。

 

「ちょ、おま、ナニを言ってるんだ!」

 

「あら、私で良いなら直ぐにでもOKよ。胡蝶ちゃんのお願いなら仕方ないもの」

 

「ふむ、我の願いが叶うのも近いな。ではバンバン生んで貰おうか!」

 

「えっと、胡蝶ちゃんは双子か三つ子が良いの?男の子?女の子?」

 

「ふむ、やはり最初は直系男子が良いな」

 

「男の子ね?分かったわ、頑張ってみるね」

 

 ヤバい方向に会話が進んでる。空を飛ぶ亀ちゃんが、僕の肩に手を置いて首を左右に振った。諦めろって事か?

 

 この日を境に、急速に亀ちゃんと心が通い合った気がした……

 

 

第198話

 

 不思議なガールズトークを聞きながら洞窟内を歩いていると、外からの差し込む光が見えた。

 

「胡蝶、そろそろ中へ。出口が近い」

 

「む、そうか?では頼んだぞ、榎本一族増員計画を……」

 

「胡蝶ちゃんと亀ちゃんの二枚看板なら平気よ!日本一の大家族になるわ」

 

 バシャりとした音を立ててモノトーン色の流動体に変わると、スルスルと僕の左手首の蝶の痣へと吸い込まれていく。

 だけど僕の身体の色々な所から出入り出来るんだよな……七郎の時は腹から飛び出したし、メリッサ様の時は背中に生えたらしいし。

 それに何やら明るい家族計画が進行するらしい。

 僕には無理だから後で個別にお願いしておくか、無理ですって……暗い洞窟から太陽の光を見ると、目がショボショボするな。

 その場で暫く目を擦り明るさに視力を馴染ませる。隣を見れば亀宮さんも同じく両手で目を擦っていた。

 

「さて、外に出たら説明してから亀宮さんは山荘か拠点に戻ってね。僕は一応、彼等の警備の為に残るから。

彼等には危険な餓鬼を封じる為に洞窟を埋めるって説明してるし、怪しい品々も証拠品も処分の為に埋めなくてはならない。

何か問題が発生しても直ぐに判断出来る人が居なきゃだからさ」

 

 未だ同業者連中だって諦めてないかも知れない。それに桜井さんの事がバレたら大変だから、速やかにグラウトを流し込まなければ駄目だ。

 一子様と高槻さんが何とかするって言うが、イマイチ信用出来ないんだよね。

 モブ巫女さんとか人数も多いし、巫女ズは関西巫女連合の所属だから加茂宮の力が何処まで通用するかに掛かっている。

 洞窟から外へ出ると、作業員達が休憩していた。グラウトの材料は順調に山積みになっているし、給水車も何台も停まっている。

 入口で周りを見回していると、小俣さんが近付いて来た。少し遅れて、滝沢さんや御手洗達も走ってくる。

 高野さんは休憩スペースでお茶を飲んでいて、目が合ったら軽く手を上げてくれた。

 流石は悪友、この距離感も、また良いよね。

 

「榎本さん、大丈夫ですか?」

 

 額に汗をかいている小俣さんが、何故か小声で聞いてきた。不安にさせてしまったのかな?

 

「お待たせしました。帰りにチェックしましたが、中に残された人は居ないですよ。予定より早いですが、作業を初めて下さい」

 

 周りにも聞こえる様に、大きな声で説明する。

 

「残された人は居ません。餓鬼達が弱っている内に埋めてしまいましょう」

 

 亀宮さんに念を押された為だろうか?遠巻きに此方を伺っている作業員達も、安堵の声が漏れる。

 周りの雰囲気に安心したのか、小俣さんが矢継ぎ早に作業員に指示を出す。

 

「発電機動かしまーす」の掛け声と共に発電機が回しプラントが動き出した。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 市内のプラントからもミキサー車が、ひっきりなしに入ってくる。

 それでも往復の時間が有るが、そこは仮設プラントで練ったグラウトを休みなく流し込んでいく。

 あの洞窟は下へ下へと伸びているから、流れ込んだグラウトは最奥まで流れ込むだろう。

 不老不死の霊水、呪いの水は二度と見付かる事は無い。これで岩泉氏からの依頼は達成した!

 

 後は細かい調整と説明だけだ……

 

 既に時刻は深夜1時を過ぎたが、夜通し作業は続く。

 

「高野さん、わざわざ残らなくても良かったのに」

 

 夜になり冷え込んだので、急遽ドラム缶を用意して焚き火をした。その火の前に座り込む彼女に声を掛ける。

 

「まぁ最後まで付き合うわよ。それに洞窟が埋まったら、最後に結界を組み換えるわ。

今のは中から外へ出ない様にだけど、今度は人避けに変えるわよ。その方が効果的でしょ?」

 

 両手を焚き火に当てながら、そんな提案をしてくれた。だけど……皆には言ってないが、あの洞窟に居た餓鬼は祓った。

 だが、水を介して呪いを掛けてきた“ナニ″かは放置したんだ。暖炉擬きから流し込んだコンクリートのピラミッドの奥は、まだ続いて居た。

 徐福の時代から連綿と続いている呪いの大元は残っているんだ。

 

「何よ?難しい顔して?」

 

 この秘密は墓場の中まで持っていくつもりだ。

 

「うん、除霊は成功したけどさ。山荘に帰って説明するのがね……気が重いんだよ。

滝沢さんの連絡では、伊集院も加茂宮も残っているらしい。つまり、僕は御三家に説明した後で岩泉氏にも説明に行くんだよ。

胃がね、キリキリと痛いんだよね」

 

 そう言って苦笑いを浮かべる。確かに説明は大変だ、真相を誤魔化し嘘を言わねばならないから……

 

「ふーん、大変ね。もう一つ大変かも知れないわよ?高槻さんの所属は関西巫女連合。

そして所属していた桜井さんが行方不明。桜岡母娘からも質問が来るかもね?」

 

 ニヤリとトンでもない事を言われたが、確かに有り得る話ではある。高槻さんは桜岡さんの姉弟子みたいな事も言っていたからな。

 

「むーん、憂鬱だな……」

 

 右手で頭をガシガシと掻く。

 

「でも榎本さん、お金持ちになるでしょ?今回の成功報酬は五億円らしいじゃない?小原さんの時の百倍よ!亀宮から幾ら貰うのよ?」

 

 焚き火に当たっていたのに、わざわざ僕の隣ににじり寄って来たぞ。しかも目が¥マークになってます。

 

「毎回の事だけど、僕は事前に契約書を取り交わしてるからね。そんなに貰えないよ。それに成功報酬には掛かった経費も含まれる。

この工事だって亀宮の御隠居様の若宮建設を通して払われるんだ。実費だけでも一億円位は掛かるだろう。

僕が直接請ければ経費分は儲かるが、生憎と特定建設業の許可は持ってないから無理だ。高野さんには500万円位を予定してるよ。

今回の除霊のキモだからね。それ位は払える。僕も大体同額位かな……」

 

 御隠居様は成功報酬の半分とか言うが、それは無理だ。裏金か使途不明金扱いにでもしないと、表立って僕には支払えない。

 僕だって困る、莫大な収入が有って支出が極端に少なければ不自然な利益計上しなくてはならない。

 すると税金で殆ど持ってかれてしまう。税金を払うのが嫌なら設備投資をするとか……個人事業主だって大変なんだよ。

 

「真面目よね、毎回思うけど……でも500万円なら文句は無いわよ。アフターサービスもしてあげるわ」

 

 そう言ってニッコリと微笑む高野さん。

 

「アフターサービスって?」

 

 結界のアフターサービスは閉鎖しちゃうし不要だろ?

 

「榎本さんが女性陣に言い訳する時に協力してあげるわよ。一人より二人の証言の方が信用されるわよ。

例えば、貴方が加茂宮一子にデレデレしてたって言われても、私が否定してあげるわ。

加茂宮一子もそうだけど、伊集院阿狐や高槻さんだっけ?今回も美女塗れじゃない、大変よ」

 

 馬鹿な、そんな事が……有り得るかも……

 

「…………うん、理不尽だけど有り得るな。その時は宜しく頼むよ」

 

 少し嫌な笑みを浮かべている彼女にお願いする。

 

「任せなさい、上手く誤魔化してあげるわよ。だから何か奢りなさい。ミクニナゴヤでも良いわよ?」

 

 ミクニナゴヤって最初に食べたレストランだろ!駄目だ、ケツの毛までむしられそうだ。

 協力的になっても悪友でも、高野さんは高野さんか……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「漸く終わりましたね……」

 

 見渡すと既に太陽位置は頭の上に来ている。約20時間、グラウトを流し込み続けた。

 使用グラウト量は約2400㎥、コンクリートポンプ車を二台付けで時間当たり60㎥ずつ休みなく流し込み続けた。

 漸く入口付近迄埋まったので型枠を組み、グラウトからコンクリートとに切り替えて入口際まで充填した。

 高野さんの結界を人避けに切り替えて外部に面している部分は、鉄骨で門型を組み分厚い鉄板を溶接。これで簡単には侵入出来ないだろう。

 残り二ヶ所の出入口も同様に塞いだ、長い作業も漸く終わったのだ。

 

「高野さん、お疲れ様。先に山荘に戻って休みなよ。御手洗に連絡して迎えを頼むから」

 

「そうね、お願いするわ。榎本さんはどうするの?」

 

 ラジオ体操の要領で体を動かすと、骨がゴキゴキと鳴る。最近徹夜が辛くなってきたな……

 

「撤収まで付き合うつもりだ。もう大丈夫だが、一応ね。金に目が眩んだ同業者が来るかも知れない。

もう少ししたら親父さんの、畑中組の連中が見張りに来るから説明して帰るよ。亀宮さん達には説明は明日以降って言っておいてね」

 

 仮設プラントの解体が始まった。ラフターでブロック別に分解されてトラックに積み込まれて行く。

 コンテナハウスと発電機だけは残され、暫く畑中組の若い連中が待機するだろう。グラウトか完全硬化するのは約一週間。

 余り意味は無い待機巡回だが、念には念を入れる。ポケットに手を突っ込むと金属の感触が複数……パクった古銭と、レナさんのお兄さんのドッグタグだ。

 素直に形見として渡すか、行方不明として希望を持たせるか……辛い選択だが、恨まれても事実を伝えるべきか?

 餓鬼化は言えないが、大量の血で汚れた地面に落ちていたと死を匂わすしかないだろう。

 

 辛い報告だよね……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 全ての撤収作業が終わり畑中組の若い連中が来た時には、空が赤くなっていた。最後の搬出車両を見送ってから、小俣さんにお礼と労いの言葉を掛ける。

 緊急で大量の物資や人員を手配してくれたのだ。彼が居なければ、まだ何日かは拘束されていた筈だからね。

 多分だが親父さんが盛大な打ち上げを催すだろう。

 その時に再度お礼を言えば良いか……居残りの連中に状況を簡単に説明して、乗って来た車で山荘迄送って貰う。

 睡魔と戦いながら、何とか居眠りせずに辿り着いた時には時計の針は8時を差していた。

 

「腹減った、夕飯残ってるかな?」

 

 そう心配だったが、山荘に着くと直ぐに食堂へ通された。

 広い食堂に長テーブルに真っ白なクロスが掛けられており、定番なのかステーキセットが用意されている。

 山盛りボールサラダ、ラーメン丼みたいなコーンスープ。ステーキは三人前焼かれており、ライスは炊飯器が置いてある。

 

「これは嬉しいけど……皆さんは食事はこれからかな?」

 

 長テーブルの長辺中心に座る僕と、向かい側に一列に座る女性陣。右から一子様・亀宮さん・阿狐ちゃん・高槻さん、そして高野さん。

 尋問みたいな配置だが、何故?

 

「はい、大盛りってコレ位で良いの?」

 

 高野さんが平皿に山盛り、富士山みたいにライスを盛ってくれた。一番端の彼女が、わざわざライスをよそってくれた。

 だがニヤニヤと楽しそうなのが恨めしい。

 

「えっと、頂きます」

 

 空腹には勝てずにサラダから食べ始める。レタスに胡瓜の千切り、それに彩りでプチトマト。ドレッシングは中華風だ。シャキシャキとサラダを食べる。

 

「うん、普通だ……ドレッシングは市販品かな?」

 

 独り言の様に呟くが、誰も反応してくれない。サラダを食べ終えて、コーンスープに取り掛かる。

 おタマみたいなスプーンが用意されており、熱々なスープを啜る。粒々コーンの食感が嬉しいが、味は普通だ。自販機のコーンスープと変わらない。

 

「寒い夜は温かいスープが美味しいですよね?」

 

 又も無言だ……チラリと亀宮さんを盗み見るが、楽しそうに微笑んでいる。阿狐ちゃんも不機嫌じゃない。ならば何故、何も反応しないのだろうか?

 

 メインデッシュのステーキを切り分ける。分厚い肉に目玉焼き、付け合わせの野菜はジャガイモにインゲン。

 ソースはバーベキュー味で肉質は良いが焼き過ぎかな?切り分けたステーキとライスを交互に口に運ぶ。機械的な食事はお腹は満たしたが、心は疲労困憊だ!

 

「ご馳走様でした……」

 

 30分程掛けて、辛い食事が終わる。食器が片付けられ珈琲が全員に配られる。僕は理解した!これから皆さんに説明を始めなきゃ駄目なんだね……

 


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