榎本心霊調査事務所(修正版)   作:Amber bird

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第163話から第165話

第163話

 

「さて、本題に入るかい」

 

 散々引っ張られたが、漸く本題に入れる。長かった、亀宮さん達を事務所に待たせているから内心は焦っているんだ。

 心の焦りとは裏腹にキャバ嬢の相手をしたり美味しい料理を食べたりと、前段取りで二時間は掛かったぞ。

 だが此方から話題を振る様な事は控える。先方から言ってくる様にしなければ不利になるから……

 

「そうですね。でも久し振りに親父さんや軍司さんと世間話が出来たので楽しかったですよ。

親父さんも六人目の子供が生まれそうだとか。教えて下さいよ」

 

 親父さんは女好きで何人もの愛人が居る。認知する予定の子供が六人目って事だ。場合によっては堕胎させているらしい……

 

「まぁな、産まれたら教えるぜ。しかし女ばっかり生まれるからよ、跡継ぎが居ねぇんだよな」

 

 珍しく少し照れながらお茶を飲む親父さん。やはり自分の子供ネタは気恥ずかしいのか?

 

「親父は未だ現役だ。頑張りゃ平気だぜ」

 

 オッサン三人がははははっと和やかに笑うが、各々の内心は違う。親父さんに男の子が生まれたら……

 ヤクザは世襲制が基本らしいが、この厳しい時代に有能な二世が生まれるとは限らない。

 親父さんには五人の娘が居るから、誰かの婿が組を継ぐのも有りだ。

 既に長女を嫁に貰っている軍司さんは、その最有力候補だ……軍司さんは親父さんの生まれる子供を祝ってるが、内心は分からない。

 

 逆に親父さんも息子が無能なら大変だ。

 親の欲目や贔屓目で無能な息子を組長にとゴリ押しするかもしれない。

 最悪の場合は支える筈の軍司さん達が、反旗を翻すか独立するとかも有り得る。

 一人前の極道になるのに何年掛かるか分からないが、少なくとも一般的に成人する20年位は掛かるだろう。

 其処まで待てるか疑問だから最悪軍司さんが離れた時の保険として、また勢力拡大の為に娘達を他の有力な者に嫁がせるだろう。

 その連中の手綱も引かなきゃならないからな。跡目なんて戦国大名みたいに大変なんだよ。

 

 僕にでさえ、親父さんは末の娘と結婚させる様な事を匂わせている。

 末の娘って所が組は継がせないが今より力は貸せって事だ。取り込みたいんだろうが、権力は渡せないって事だな。

 親父さんの愛人は美人揃いだから娘達も美女・美少女が多い。写真を見せて貰ったが、末の娘は高校生で凄い美少女だ……

 勿論、ロリコンのポリシーを曲げても手は出さない。

 結婚は人生の墓場と言われるが、正に墓場と言うか地獄だろう。

 だから、この会話は非常にヤバいので切り替えたい。たとえ此方が不利になろうが強引にでも……

 

「祝い事の後で何ですが、其方の掴んだ良くない話を教えて下さい」

 

「ん、そうだな。これは極秘なんだがな……」

 

 親父さんが顔を寄せて声を小さく話し掛ける。その表情は真剣だ、余程の内容なんだな。

 

「先代の岩泉氏だがな……有り得ない事だが生きながら火葬された疑いが有る。これは火葬場の職員から聞き出したんだがな……」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 親父さんの話を纏めるとこうだ……

 

 著名人・有名人にしては珍しく葬儀は近親者及び親族のみでしめやかに執り行われた。

 だがお棺を火葬中に異音が聞こえたそうだ。中からガンガンと、まるでお棺を内側から叩く様な……有り得ない、現代で仮死状態で火葬は有り得ない。

 先ず医者が死亡確認をする。その後にお通夜と告別式と数日掛かるのだ。

 季節柄、腐らない様にドライアイスで冷蔵保存してるし、送り人でも知られているが遺体を綺麗にする時に鼻栓したり口を結わいたりもする。

 幾重にも確認する事が出来た筈だ。係員もそう思い中止せずに燃しきった。

 止めても生焼けで確認なんかしたくないし、仮に生きていても全身火傷で瀕死の重傷だ。

 だから、だから係員は止めずに遺族にも話さなかった。だが納骨の時に係員は見てしまった。

 燃え残った骨の形、つまり燃された時の体型が体育座りを横向きにした形だった。しかも手足が縛られた様な跡も確認出来た。

 皮バンドは燃え尽きても金属部分は残るし骨にも違う色が付く。つまり手足を拘束されて生きながら燃やされた……

 それは骨壺に骨を移す時だったので、岩泉氏の親族にも彼の動揺は知られてしまったんだ。

 流石に岩泉氏も死人に口無しとはいかずに、多額の金銭を彼に渡した。

 

 そこに疑問が有る。

 

 親父を拘束して生きたまま燃やす事が出来るのに、目撃者を金だけ渡して黙らせるのは……中途半端に非情に成り切れてないんだ。

 大した脅しもしなかったみたいだし……だから口封じの為に多額の金銭を渡したのに、アッサリと呑んでバラしちゃったんだから最悪だな。

 それを聞いたキャバ嬢が店長に報告、親父さんに話が来たそうだ。んで、軍司さんがソイツに直接聞き込んだ。

 勿論、ヤクザ式な肉体言語を使ったと思う。彼はドSだから、半端無い拷問も平気らしいし……それが先日電話した時に軍司さんが居なかった訳なんだ。

 話を漏らした奴は監禁されたか消されたかな?

 

 この情報は相当ヤバい。

 

 確認が取れても証人としては使えないし使わない。だが情報自体は交渉に使えるし、岩泉氏にも漏らした奴の口封じした恩も着せられる。

 うーん、あの現岩泉当主が俄然怪しくなったが、疑問が沢山有るんだよね。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 話を聞き終わり、温くなった麦茶を一気飲みする。ヤバい情報を教えて貰ったからには見返りが必要だ。

 だが、情報は怪しすぎて此方でも裏を取らないと使えない。なので幾つか質問する。

 

「この話を信じれば猟奇殺人だ。だが穴が有り過ぎませんか?何故、生きたまま火葬場で焼かなければならないのか?

別に殺してしまえば問題無かった筈です。危険を犯す必要が無い。しかも口封じが杜撰過ぎる。

これだけの悪事を行う者が、目撃者を消さない訳が無い。先代は高齢で持病を患い余命幾ばくも無かった。

これは僕も調べたが、一年以内に確実に死ぬと思われていた。急いで殺す必要は無い。

もし、もしコレが事実だとしたら僕等が祓おうとしているのは先代岩泉氏の怨霊かも知れませんね……」

 

 拠点に戻って風巻姉妹に追加調査を頼まないと駄目かもな。

 

「俺も全く同感だ。詰めが甘いなんてもんじゃない。身内を焼き殺す奴が秘密を握った一般人を生かしている時点で怪しい。

だが、喋った奴も嘘は言ってないぜ。懇切丁寧に俺が聞いたんだ。嘘を言えたら大したモンだぜ」

 

 ニヤリと凶悪な笑みを浮かべる軍司さん。やっぱり拷問したな……

 

「今の岩泉先生は確かに馬鹿息子だったぜ。能力的には及第点らしいが、若い頃は結構無茶苦茶してたな。

だが表立っての親子仲は悪くなかったし先代の寿命もそうだ。だが俺等にゃどうでも良い事だ。

あの山林の怪異が無くなれば莫大な金が動く。榎本先生よ、どうなんだ?進み具合はよ?」

 

 そうだった、彼等には犯罪とか親子間の骨肉の争いとか関係無いんだ。

 あの山林の怪異が無くなり、予定通りに高速道路とインターが出来れば良いんだ。

 この情報を教えてくれたのは、解決の手助けであり現当主の悪事を解明する事じゃない。

 

「日本の霊能界の御三家、亀宮・加茂宮・伊集院が揃い踏み。亀宮と伊集院は現当主が、加茂宮も複数当主制の内の三人が来ています。

その他にも関西巫女連合やら密教の団体とかね。解決は出来るが、僕も今回は亀宮に世話になってます。

やはり御三家ともなれば、プライドや柵(しがらみ)も有り単独で早急に解決をする様に依頼されてるんで、頑張りますよ。

それは加茂宮も伊集院も同じでしょう。つまり短期決戦。調査に時間が掛かれば、最悪は突撃除霊ですね」

 

 親父さんの知りたいのは解決出来るのか?その為の連中は誰が?何時解決出来るのか?この辺が知りたい事だろう。

 

 僕から御三家が参加してる事で除霊自体は問題無いと考えただろう。

 しかも共闘でなく競争だから、短期決戦。つまり余り時間は掛からない。

 

「昔の先生を思い出す無謀さだな。なぁ若かりし頃の触(ふ)れれば切れる様な血気盛んな狂犬時代のさ。

今じゃ用意周到な人喰い熊だけどよ」

 

「あの頃の先生は凄かったぞ。どこぞの鉄砲玉みたいな事を平然と連続でやられちゃ、俺等だって一目も二目も置くぜ。

先生が故郷(くに)に帰るって時は、喜んだ奴も少なくねぇ」

 

 がははははって当時の秘密を教えてくれたが、最後の宴会で引き気味な人が居たのはその所為か……確かに訳の分からない奴は嫌だよな。

 義理人情に面子を重んじる連中も鉄砲や刃物の通用しない怨霊は苦手だ。

 しかも恨み辛みを買い捲る連中なら嫌でも僕には一目置くか……確かに怨霊絡みの依頼が多いし、僕としても現世に留まるより成仏した方が良いから祓うからな。

 だから最悪の場合、怨霊を払える僕には繋ぎを付けておきたい。

 しかも親父さんが仕事を沢山回すから実績豊富、それも他の霊能者が敬遠する難易度の高い物ばかりだった。

 漸く分かった、親父さんの同業者も僕に何となく配慮する意味が……つまり心霊関係のドラ○もん?

 

「助けて、ドラ○もーん!」って訳だから悪い印象は与えないわな。

 

「何でぇ、変な顔してよ?ヤクザにも遠慮される奴なんて中々居ないんだぜ」

 

「そうだぜ。この名古屋で榎本先生の名前を言えば、大抵の連中は悪くはしないぜ。

試しに飲み屋や風俗店に行って名乗ってみろよ。待遇が凄い変わるぜ」

 

 ははははは……つまり僕の情報は一部の連中には広まってるんだ。

 用意周到な親父さんだから、僕の写真位は回してるだろう。これはメリットよりもデメリットの方がデカくないか?

 

「安心しろや。偽物なんて早々居ないぜ。筋肉の塊の坊主なんて前提は、そうそう居やしねえって」

 

 バンバン肩を叩いて笑ってるけど居るんですよ。昨日も会いました、筋肉坊主の集団に!

 

「それが結構同業者には居るんですよ。例えば熊野系密教修験者なんて武蔵坊弁慶の集まりですよ。

昨日会いましたから。彼等も市内の飲み屋に繰り出すでしょう。僕と間違えない様にして下さい、トラブルは嫌ですから」

 

「「…………すまねぇ、ちゃんと連絡は回しとくぜ」」

 

 山荘で会った、あの男……名前は忘れたけど密教修験者だった。彼等が飲みに市内に来ない保証は無い。

 人違いで彼等に色々優遇して僕に貸しを作ったとかは無しにして欲しい。滞在時期も同じだし勘違いする確率は高い。

 結局の所、写真と共に情報を系列の飲食店に回す事となった。この事で接待の時に会ったレナと言う外人キャバ嬢から接触が有った。

 とても面倒臭い事に巻き込まれたのだ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 無事?宴会と会合を終えて拠点の名古屋市内のマンションに向かう。

 お店の人がハイヤーを呼んでくれたのだ。メーターを倒しているから賃走じゃない。全て料金は向こう持ちなんだろう。

 後部座席に深々と座って、今日の事を考える。車窓を眺めれば商店街を歩く人の群れが……時刻は11時53分、丁度昼時だが僕は満腹だ。

 親父さんと軍司さんとの会合は謎を増やしただけだった。先代を自分の肉親を生きたまま焼き殺すなんて出来るのか?

 そこまでの恨みを買えるのか?この情報が正しければ、ラスボスは先代岩泉氏だと思う。

 人間が怨霊になるには激しい恨みが必要だが、充分過ぎる恨みだろう。

 でも親子間で骨肉の争いが有ったなんて、事前調査では何も出ていないんだよな。

 どちらかと言えば、親父を敬遠していた様な印象を受けたのだが……亀宮さん達に何て言えば良いか、考えが全然纏まらないや。

 

 ボケーッと車窓を見れば商店街を過ぎて住宅街へ、そして目的地に着いてしまった。

 タクシーを降りる時に清算はと聞けば、既にタクシー券を貰ってるそうだ。立ち去るタクシーを見送り、マンションを見上げる。

 

 三階のベランダから満面の笑みで手を振る亀宮さんを見付けた。

 

 手を振り返しながら、心の中で溜め息をついた……

 

 

第164話

 

 昔知り合ったヤクザとの会食を終えてマンションに戻ってきた。教えて貰った情報は、現場を混乱させる物ばかりだった。

 このネタをどうやって留守番してる女性陣に伝えるか悩み、暫しマンションの入口で立ち尽くしてしまった。

 

「榎本さん、お帰りなさい」

 

 涼やかに掛けられた声に思わず空を見上げれば、三階のベランダから妙齢の美女が笑顔で僕を迎えて手を振ってくれている。

 僕も彼女に手を振って応える。端から見れば帰って来た夫を迎える美人妻だろうか?

 一体彼女はどれだけの時間、ベランダで待っていたんだろう。

 うっかり額に浮かべた井形を見付けてしまってから、僕は背中を伝う汗を止められないんだ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 亀宮さんを待たせる訳にもいかず、僕は急いでマンションに入り階段で三階に向かう。

 廊下を歩き玄関の前で立ち止まり、深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。玄関扉のノブを掴んで回せば、素直に開いた。

 どうやら締め出しはしなかった様だ……

 

「たっ、只今戻りました」

 

 玄関には滝沢さんが立っており、両手の人差し指を天に突き出し頭の上に置くジェスチャーをしている。えっと、鬼の真似だから誰かが怒ってるんだな。

 

「えっと、亀宮さんが怒ってるのかな?」

 

 無言で頷き、廊下を先に歩き居間に行ってしまった。恐る恐る居間に入れば、ソファーに女性陣が座っている。

 三人掛けのロングソファーの真ん中が空いているが、両隣は亀宮さんと滝沢さんだ。

 風巻姉妹は向かい側の一人用ソファーにそれぞれ座っている。亀宮さんは額に井形を作った笑顔、滝沢さんは困惑気味で風巻姉妹は笑いを堪えてる。

 多分だけど黙って出掛けて連絡無く早朝から半日も遊んでいたから?

 亀宮さんは機嫌を悪くし、滝沢さんはどちら側も心配して困ってしまい、風巻姉妹は僕のピンチが楽しくて仕方ないんだな。

 女性陣の僕に対する感情が丸分かりだ。滝沢さんの評価が鰻登りなので、彼女には配慮しよう。

 

「えっと、その……そうだ!丁度お昼時だし、皆で櫃まぶしを食べに行かない?

個室を借りてゆっくり食事でもしようよ。勿論、僕の奢りでさ。

亀宮さんは鰻は好きかな?僕は亀宮さんと一緒に外食したいなー」

 

 無言で向けられる四対の瞳を受けて、僕は全力で回避行動に出る。少しだけ亀宮さんの表情が緩んだ。

 

「鰻と言えば冷酒!久し振りに亀宮さんと呑みたいな。前はメリッサ様も一緒で、ゆっくり話せなかったしさ。どうかな?」

 

 亀宮さんの目を見て追撃を入れる。別に悪い事はしてないが、時として女性は理不尽なので常識は通用しない。

 だから話題をすり替えれば良い。多分だが軽い嫉妬みたいな物だから、構えば機嫌は直ぐに良くなると思う。

 

「別に私は鰻を食べたくはないけど、榎本さんが其処まで言うなら良いわ。ねぇ、皆さんも良いでしょ?」

 

「いや、昼間から酒は駄目です。早く山荘に帰りましょう」

 

「そうですよ、亀宮様。今は仕事中なんですから」

 

「お酒は危険だから控えましょう、亀宮様」

 

 滝沢さんも風巻姉妹も亀宮さんの酒乱癖を知ってるんだな。控え目ながら否定的な意見して、何とか飲酒を止めようとしている。

 だが彼女はお酒が大好きなんだよね。だから周りが否定する中で肯定する者を嬉しく好ましく思うんだ。

 

 そして機嫌が良くなる訳。

 

「大丈夫、少しなら平気ですって。滝沢さんは悪いが運転手だから控えてくれ。

僕は少し飲んでるから控えるけど、たまには良いだろ?さぁ支度して出掛けよう」

 

 パンパンと手を叩いて女性陣を急かす。

 

「そうですよね?大丈夫ですよね?さぁ皆さん出掛けますよ。一寸待ってて下さい。今支度しますから」

 

 イソイソと隣の部屋へ行く亀宮さんを見送る。良かった、何だか分からない不機嫌は回復した様だ……

 

「榎本さん、亀宮様は酒乱なのです。昼間から飲酒は危険なんですよ。それを……」

 

 滝沢さんがチクリと嫌みを言ってきたが……いや本当に困ってるんだが、そんな事は織り込み済みだ。

 

「知ってる。前にお供の二人を酔い潰して絡まれたから。だけど洋酒を何本も空けてたから強いし量も多い。だから軽く飲ませて機嫌を回復させるんだよ」

 

 あっ、ビックリした彼女の顔を始めてみたな。中々幼い感じで可愛いぞ。

 

「なっ?その為だけに昼間からお酒ですか!だがしかし……ああ、そうですね。

我々は途中で飲酒を止められないが、榎本さんなら亀宮様も言う事をきくか……全く責任取って下さいよ」

 

 深々と溜め息をつかれた。大丈夫、何となくだが彼女の操縦方法が分かってきたぞ。

 

「つまらない、もっと修羅場るかと思ったのに」

 

「亀宮様も簡単にあしらわれて……不憫です、榎本さん責任取れるんですか?」

 

 風巻姉妹的には御不満な感じ?どんな昼メロを期待してんだよ!取り敢えず放置で、先に鰻屋を抑えなきゃ。

 携帯電話を取り出し何度か通った櫃まぶし専門店「いば昇」へ連絡する。名古屋発祥とされる櫃まぶしを扱う老舗だ。

 

「ちょ、ちょっとスルーって非道くない?」

 

「私達にも配慮しなさいよ!」

 

 風巻姉妹が何か言ってるが無視して個室を予約し上櫃まぶしのコースを頼む。因みに料理としての「櫃まぶし」を考案したのが「いば昇」の三代目。

 現在は兄弟が暖簾分けをして本店・錦店と別の店として微妙に出される櫃まぶしも違う。

 因みに「ひつまぶし」として登録商標したのが「あつた蓬莱軒」なんだ。

 元々は賄い飯として客に出せない鰻を刻んでご飯に混ぜたり、急いで食べる為にお茶漬けの具にしたのが櫃まぶしの原型だ。

 それを「あつた蓬莱軒」がエンターテイメント的に手を加えたのが「ひつまぶし」になった。

 どちらが商売上手かは別として両者に何が有ったのかは気になるが、僕としては両方食べた上で「いば昇」に軍配を上げた。

 「蓬莱」と「名古屋」って単語が何故か気に掛かる、霊感に引っ掛かるのだが……何だろう、凄く嫌な取り合わせに感じるんだ?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 タクシーを二台呼んで亀宮さんと僕と滝沢さん、風巻姉妹とで分乗する。亀宮さんはご機嫌だ。

 

「私、本場の櫃まぶしって始めてなんです。凄く楽しみです」

 

 先程の不機嫌は何処に行ったのやら、ニコニコと話し掛けてくる。

 

「これから行く「いば昇」は先代が櫃まぶしを考案した発祥の店ですよ。兄弟で暖簾分けしましたが、基本は継承してます」

 

 女性陣的には「あつた蓬莱軒」の方がお洒落で人気だが、敢えて此方を選んだ。

 

「榎本さんって本当に食べる事が好きですよね。朝から宴会されてたのに、未だ食べれるんですか?」

 

「ははははは、宴会なんてしてません。会食の形式を取った密談ですよ。

こんなダークな部分は亀宮さんには不要ですからね。滝沢さんもほじくり返さないで下さいね」

 

 真面目な彼女はヤクザとの繋がりを嫌がる。当たり前だが、折角亀宮さんが機嫌をなおしてるので余計なお世話なんですよ。

 助手席に座る彼女を睨んでも仕方ないが、一応目線を送る。

 

「そうか……まぁ良いが、ちゃんと会食とやらの結果を教えて下さい」

 

「勿論、食事の後にでもね。先ずは折角名古屋に来たんですから美味しい物を食べましょうよ」

 

 滝沢さんの追求を交わしていると「いば昇本店」に到着した。さて、腹具合は八分目まで回復したから頑張って食べようかな……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 奥座敷に通されて、先ずは乾杯用の瓶ビールを三本頼む。元は鰻屋だからコース料理の他に鰻巻きと鰻の白焼きを二人前ずつ頼む。

 人は美味しい料理を食べれば多少の不満は忘れるからな。亀宮さん滝沢さん風巻姉妹の順位にビールを注いでいく。

 

「先ずは軽く飲みましょう。ビールを空けたら冷酒を頼みますが、此方も軽くですよ。

滝沢さんは運転が有りますから乾杯だけで。後で烏龍茶を頼みますから」

 

「いや、それは構わないが……」

 

 ホストに徹して女性陣の機嫌を良くしていく。因みに「いば昇」の櫃まぶしは、最初からご飯の上に海苔が敷き詰めてあり刻んだ鰻の蒲焼きが散りばめられている。

 薬味は山葵とネギの千切りだけで、お茶でなく出汁で頂く。お茶か出汁かで好みが分かれるが、僕は断然出汁が好きだな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 人間は美味しい料理を食べて満腹になれば、不機嫌さを継続する事は難しい。つまり自然と笑みが零れる訳だ……

 トドメにシャンティーヒラノの窯だしチーズケーキをテイクアウトした。

 これで濃い目の珈琲でも出せば完璧だ。マンションの居間で寛ぎ、各員に珈琲とケーキを配る。

 食べ終わった辺りで本題に入る。先代が生焼けなんて話をしなきゃならないから気を使うよ。

 デザートを完食した所で本題の話を始める。

 

「さて、気分良くなった所で悪いが仕事の話だ。今日聞いた話だが、亡くなった先代の葬儀について嫌な話を聞いた。

火葬場の職員が酔った勢いでキャバ嬢に話したんだが、彼の証言は嘘でも狂言でもない。少なくとも本人は本気で信じていた。

彼の話しでは、火葬の最中にお棺から叩く音を聞いたそうだ。彼は気のせいと思い込んだ。

生きたままなんて実際に有り得ない。昔は仮死とかも有っただろうが、現在は医療が進歩してるから誤診は有り得ない。

しかし焼いた骨を骨壺に納める時に見てしまった。焼かれた骨に拘束の跡が有った事を。

つまり生きたまま縛られて焼かれた疑いが有る。そして職員には口封じの為に多額の金銭が送られている」

 

 皆が半信半疑だ……その表情が嘘だと思っている。まぁ僕だってサスペンスかサイコホラー映画のネタだと思うよ。

 だが僕には、その職員は本当の事を言っているのが分かる。ヤクザの拷問に耐えてまで、嘘を言う意味が無いから。

 

「狂言とか勘違いじゃないの?そんな事は有り得ないよ」

 

「酔客の狂言だよ。嘘だって、どうせキャバ嬢に面白おかしく言ってるだけだよ」

 

 風巻姉妹のダメ出しに残りの二人も頷く。だからどうしようもない真実を言う。

 

「その職員はね……多分だがヤクザに確保されてるよ。

ネタが現役国会議員のスキャンダルだし、高速道路絡みなんて巨額な金が動く。奴らには美味し過ぎるネタだからね。

拷問されたか薬漬けかは分からないけど、彼の証言は真実だろう。嫌な世界だろ?」

 

 皆が沈黙する、事の重大さを噛み締めている。人が監禁されて拷問を受けているのに、知らん振りするんだから……

 これが裏世界の情報ってヤツなんだよ。

 

「さて情報が真実として、僕は先代岩泉氏の怨霊が今回の原因と思う。

生きたまま焼かれれば怨みは凄いだろう。怨霊になる条件は十分だ」

 

 親父さんに話を聞いてから考えていた事を話す。周りの反応は……

 

「確かに先代の死後から怪異が始まったと思えば納得するけど、安易じゃないかしら?」

 

 安易過ぎる為に否定的な意見が出ました。

 

「そう、安易だ。これは根拠も何もない霊感でしかない。だから調べよう。

先代岩泉氏が何をしようとしていたのかを何故息子は父親を殺す程の恨みが有ったのか?事前調査では関係有る事は何も出ていない」

 

 事前調査をしたのに上手く誤魔化されたのか?相手の方が上手で有り、僕等は最初から騙されていた可能性も有る。

 

「つまりは昨夜話し合って決めた調べる事に、何も変わりは無い?」

 

 情報が追加されたが、実は選択肢が増えただけで原因究明にはイマイチなネタだ。ぶっちゃけ依頼人への疑いが深まっただけだし……

 

「そうだね、でも依頼人が信用出来ないって事が分かっただけでも大収穫だろ?これは与えられた情報は全て疑わないと危険だよね」

 

「依頼人が腹黒くて信用出来ないなんて珍しくないですからね。さぁ佐和さん達は調査に掛かって下さい。私達は山荘に戻りますよ」

 

 意外な程に動揺の無い亀宮さんの言葉で、僕等は行動を開始した。

 

 

第165話

 

 山荘に着いた時は、既に太陽が沈みかけていた。山間部で見る夕日も味が有るな。

 例えば海で見る夕日は地平線の彼方へ沈むが、山間部で見る夕日は山と山の間に沈んで行く。

 その時に山の影が長く長く伸びるんだ。海じゃ障害物なんて無いから影も生まれない。

 

 結構神秘的な眺めだ……駐車場に車を停めて、三人で暫し夕日が沈むのを眺めた。

 

「榎本さんってロマンチストなんですか?急に夕日を見ようなんて。でも確かに綺麗……」

 

 右側に立つ亀宮さんも顔を夕日で真っ赤にしながら見詰めている。

 

「本当に綺麗ですね。働き初めてから夕日をゆっくり見るなんて無かったから新鮮ですよ」

 

 左側の滝沢さんも魅入っているが、此方は護衛として周囲に気を張る仕事だが景色迄は気にしなかったのだろう。

 僕自体は別に夕日に思い入れは無いけど、逆に女性陣が好きかと思って話題を振ったんだよね……まぁ効果が有り二人の機嫌も大分回復したな。

 だが美女を左右に侍らせてロマンチックに夕日なんて見てれば、端から見れば僕はとんだリア充野郎と思われるだろう。

 実際、入口付近で警備していた連中に口笛を吹かれたりニヤニヤされたり大変だったけどね。

 だがお前達の嫉妬は間違いだぞ。僕はロリコンだから彼女達に対してエロさは微動だにしないのだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 山荘内の割り当てられた部屋に入り、留守番の御手洗達と情報交換をする。部屋は広いが男女七人、しかも筋肉の塊が五人も居れば暑苦しい。

 滝沢さんが備え付けの冷蔵庫から飲み物をグラスに入れて配る。女性ならではの気遣いが嬉しい。

 残念な美人だがムキムキのオッサンに茶を勧められるよりは嬉しいだろ?

 ソファーセットには五人しか座れないが、残り二名はドアと窓の前に立って警戒してくれている。

 流石は護衛専門だけあって警備配置は慣れてるな……配られたグラスの中身を一口飲めば烏龍茶だった。

 こう言う場合は冷えた飲み物の方が落ち着く。一番は炭酸飲料だが、冷蔵庫の中には無かったんだ。

 

 次に街に出たら買っておこう。

 

「昨夜集めた証拠の品々は風巻姉妹に預けた。名古屋市内待機組で調査をして貰う。それと帰りが遅くなったのは、僕独自の情報網への接触をしたからだ」

 

「滝沢から定時連絡は貰っている。だが予定変更の場合は相談してくれ」

 

 御手洗から尤もな意見を貰った。怒っている感じはしないが、これからは注意しよう。

 

「すまない。だが信頼できる筋の情報によると、先代岩泉氏は殺された可能性が高い。

それと犯人は現当主の岩泉氏が怪しい。僕は今回の事件は、殺された先代岩泉氏の怨霊の可能性が高いと思う。

最初から不思議だったんだ。この山荘の従業員の質の悪さ。わざわざ御三家を集めたのに、スピーチは五分位で直ぐに帰ったし。

彼は、この山荘に長居はしたくない。何故ならば危険だから……」

 

「つまりは復讐の為に先代の怨霊が山荘に来るからか?可能性は有るが、イマイチな感じだぞ。

先代は高齢で病も患っていた。放っておけば死ぬ相手だろ?」

 

「それに他殺されたなら検死官が黙ってない。死因は病気って報道されていた。

いくら現役国会議員とは言え警察沙汰だぞ。揉み消しは不可能だろ?」

 

「仮に病死に見せ掛けたとしても、元々病人だし急いで殺す意味もないだろ?」

 

 脳筋な連中からマトモな意見がきて吃驚した!確かに僕も数ヶ月待てば死ぬのに待てない意味と理由が分からない。

 まだ言ってないが、火葬場の職員への対応も杜撰過ぎるし……早合点だったかな?

 一応、火葬場の職員の話もしてみたが反応はイマイチだ。先代怨霊説は穴が有り過ぎるか。

 

「うん、御手洗達の言う事も尤もだな。先代怨霊説は頭の片隅に置いてくれれば良いよ。

可能性としては有りだと思ってくれ。それと依頼人の言動・行動には注意が必要だ。大事な事を黙ってたりされたら大変だからね」

 

 皆が頷くのを見て、此方の話は終わりにする。今は穴だらけでも調査によっては違う展開も有り得るからね。

 

「貴方達の方はどうでしたか? 他の方々の動きとかは有りましたか?」

 

 亀宮さんが留守番組の報告を促す。留守番組が一斉に御手洗を見るが、何か有ったのかな?

 

「亀宮様が出発された後、関西巫女連合の連中が書斎を調べてました。午後からは熊野の密教団体が調べてます。

加茂宮と伊集院は今の所、これといった動きはないです。但し此方の動向に注意を払ってますから……

多分ですが、我々に調べさせて横槍を入れる感じがします。あと加茂宮の七郎が、亀宮様の事を執拗に聞いて来ました」

 

 今回呼ばれた霊能力者の団体は御三家に続き、関西巫女連合と熊野系密教集団が大手だ。

 他にも数グループ居たが覚えていない。加茂宮と伊集院が書斎には興味が無いとなると、高槻さんと厳杖(げんじょう)だっけ?

 あの似非武蔵坊弁慶集団が調べ終われば、誰が調べるかな?調べ尽くされたと思って誰も調べないかな?

 

「榎本さん、加茂宮の七郎さんですが……誤解しないで欲しいのですが、私とは何も関係は有りませんよ。

前に共同で除霊に当たる事が有ってから、妙に馴れ馴れしいのです。勿論、言い寄ってきても亀ちゃんがぶっ飛ばしてますが懲りなくて……」

 

 本当に困ったみたいな嫌な顔をしている。天然ポヤポヤの彼女にしては珍しい。

 七郎の行動を考えると、直ぐにでも僕に接触してくるな。勿論、文句と言うか言い掛かりを付けに。

 あの激情家で短絡思考なら、高い確率で殺しに来るだろう……

 

「そうだ、正明!誘う様に独りになれば、奴は喰い付いてくる。10秒有れば跡形も無く喰えるから安心しろ。勿論周りも警戒するから大丈夫だぞ」

 

 久し振りに胡蝶からの脳内通話が来た。しかも内容は物騒だし、お願いしてる隠蔽工作もバッチリだ。これは断れない……

 

「分かった。だが、あくまでも正当防衛だぞ。奴の行動は把握出来るのか?ばったり二子や五郎、伊集院の連中に会ったりバレたら厄介だぞ」

 

 せめて不意打ちじゃなく明確な敵意を感じてから胡蝶に頼みたい。自分勝手な自己満足でしかないが、僕が人としての心を無くさない最後の矜持だ。

 端から見れば笑い話だけどね。

 

「大丈夫だ。この山荘内なら誰が何処に居るか把握出来る。正明はアレだ、監視カメラに注意しろ。我にはメカは感知出来ぬ」

 

 監視網か……徳田に言って警備状況を調べるか。

 お前達を守る為には警備体制を知りたいし、連絡をどうするのか警備の連中と話したいとか言って誤魔化すか。

 

「どうしました?難しい顔をして。大丈夫ですわ、七郎については私は無視しますから安心して下さいな」

 

 しまった、慣れない脳内会話は周囲から見れば黙り込んだ様にしか見えない。まさか守護霊と会話してましたでも、タダの電波中年でキモいだけだ!

 

「ああ、すみません。この山荘の警備体制を調べておかないと、いざという時に困るなと色々考え込んでしまいまして……

御手洗、すまないが一緒に警備体制の確認に行かないか?執事に話せば、自分達の安全の為に教えられる範囲で教えてくれるだろう」

 

 単独行動は怪しまれるから、なるべく自然に仲間を誘う。

 

「そうだな、口約束とは言え山荘の連中も出来る範囲で守るのだからな。良かろう、同行しよう」

 

 流石だ……出来る範囲って優先度が下がってるよ。彼等は亀宮さんが一番だから、彼女が危険なら奴等は無視なんだろうな……

 勢い良くソファーから立ち上がる。皆が注目したので配置を考える。我々に宛てがわれた部屋は二部屋だから……

 

「亀宮さんと滝沢さんは同じ部屋に、男女別れよう。男衆は交代で不寝番だ。入口前を張ろう。

滝沢さんは窓に注意だよ。対人警戒の為の進入口は、窓と扉だけだからね」

 

「その配置で良いが、男衆はベランダの外に警戒の為に立て。並びの部屋だし隣も警戒範囲だろう。

人が居るだけで随分違うからな。さて行くぞ、榎本」

 

 言い終わってから御手洗の仕事を奪ったのに気付いたが……更に配置を増やしたが御手洗達は四人居るから二交代で頑張るそうだ。

 僕が警備のローテーションに入ってないと言ったが、滝沢さんと僕は亀宮さんと行動を共にするので不要だと叱られてしまった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 内線で執事室に連絡を入れて警備強化の提案をした。案の定、自分達の安全に関するので中央警備室なる場所を教えてくれた。

 スムーズに警備員と話をする為に徳田に部屋まで来て貰い、そのまま中央警備室まで同行させる。

 客室ゾーンを過ぎると裏方のスペースだ。当然だが内装は豪華でなく、簡素で無機質な感じだ。

 僕と御手洗、それに徳田の三人は病院みたいな通路を歩いている。注意して周りを見るが、此方には監視カメラは無い。

 

 リノリウムの床を歩くと、コツコツと音が響く……

 

「榎本さん、この山荘は危険なんですか?」

 

 暫く歩くとイケメン執事が脅えながら聞いてくる。女性霊能力者なら萌えるかもしれないが、我々は男色の趣味は無い。

 

「最初の被害者が発見された後にも何人も殺されている。最初の犠牲者をわざわざ境界まで運んだのはね。

相手は何かを我々に伝えているんですよ。僕は警告だと考えている。

だが我々は警告を無視して何人もの霊能力者を送り込み、悉く返り討ちにあった。

相手は怒り狂ってるぞ、警告を無視したんだ。そんな相手が大人しくしてるなんて思うか?」

 

「奴等が一定の地域から出ないのは我々の仮定に過ぎない。根拠も証拠も無いからな、注意に越した事はない」

 

 ムキムキなオッサン二人に脅されて、塞ぎ込むイケメン。脅かし過ぎたか?暫く歩くと鋼鉄製の厳つい扉が現れた。

 

 これが中央警備室か?

 

「此処です。おい、徳田だ。開けてくれ」

 

 ノックをして呼び掛けると、覗き穴から確認した上でロックが外れた。少し扉が開くが未だドアチェーンは掛かったままだ。

 中々の警戒心だし、此処には監視カメラも有る。出入りは記録されるか……

 

「何の用だ?それと、その二人は?」

 

 ドアの隙間から覗く男は意外にも若い。まだ20代じゃないかな?黒のスーツを着込み眼鏡を掛けている。

 我々もそうだが、ベタベタでワンパターンな格好で恥ずかしいな。

 

「ああ、此方の霊能力者の方が山荘の連携の為に警備体制を知りたいとの事です。万が一の時に我々を守ってくれる約束です」

 

 胡散臭さげに此方を見る。僕も負けじと睨み返す。暫く睨み合っていたが、意外にも先方が折れたのかドアチェーンを外してドアを開けてくれた。

 

「入ってくれ。あんた、榎本さんだろ?畑中組の切り札、お抱え霊能力者のアンタが出張るなんて大事だな。で、何が聞きたいんだ?」

 

 畑中とは親父さんの名字で有り、広域指定暴力団の名前だ。親父さんの言った通り、僕の情報は愛知県では結構広まってるのか。

 初見の奴にまでバレてるって事は、写真とプロフィールは知れ渡ってると思った方が良いな……

 部屋の中に入ると10畳程の広さが有り、モニターが三列三段で九面。無線設備も有るし中々の設備だ。

 隅に簡素な椅子テーブルが有り、そこに座る。

 

「俺は警備副隊長の八重樫だ。とは言え隊長は常に不在だがな。アンタが出張るって事は、此処はヤバいんだな?」

 

 僕が出張るとヤバいってのが前提なのか?確かに何時も何時も胡蝶が喜ぶ仕事しか、親父さんは回してこないけどさ。

 

「榎本さん、貴方は亀宮様の配下ではないのですか?出張るとヤバいとは、どう言う事です?」

 

 パニクる徳田をどう宥めるか悩むが、何か言わないと御手洗にも不信感が芽生えそうだ。

 

「畑中の親父さんとは駆け出しの頃に世話になったから、非合法で無い仕事は請けているだけだ」

 

 苦しい言い訳だが、致し方あるまい。では本題に移るかな……

 


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