榎本心霊調査事務所(修正版)   作:Amber bird

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第160話から第162話

第160話

 

 書斎での戦利品を早めに持ち出す為に、0時を回っているが名古屋市内の拠点まで移動する事にする。

 建物の外へ出るのは比較的簡単だ。

 

 山荘を護衛する連中も大したレベルじゃない為か、途中で会っても「一寸出掛けるよ」と言うと、すんなり山荘から出してくれた。

 

 まぁ亀宮さん達をニヤニヤして見ていたが、昼間脅された奴の事を知ってる為か我慢出来る程度の視線だ。

 そりゃ頭から喰われるのは嫌だろう……特に問題無く駐車場に停めてあるベンツまで辿り着いた。

 

 実は僕は名古屋市内の地理は詳しい。若かりし頃、狂犬と呼ばれた頃に軍司さんに連れ回されて色々と廻った。

 懐かしい思い出だが、心霊物件をヤクザの若頭と廻るのだから……若気の至りじゃ済まないかな?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 自分が運転すると聞かない滝沢さんを宥め賺してキーを受け取る。基本的に車は国産派なので左ハンドルを運転するのは久し振りだ。

 エンジンを掛けてライトを点けて発進する。良く有るウィンカーとワイパーの誤操作はしない。

 広い駐車場をゆっくりと大回りして出口に向かう。慌てて急発進は印象に残るから、何でもない様に行動しないと駄目だ。

 山荘の敷地から出ても40キロで周りに注意しながら走る。決して外車の運転が不慣れなので慎重に走っている訳じゃないよ。

 

 街灯も疎らな何もない真っ暗な道をひた走る……亀宮さんは、早々に寝てしまった。

 

 扉に寄り掛かりながら、幸せそうに寝ている。

 気分転換にラジオとか聞きたいが注意力が散漫になるし、何より亀宮さんが起きてしまうので我慢だ。

 暫く走ると、滝沢さんが声を掛けてきた。

 

「何故、運転を替わったのですか?ましてや保険適用外かもしれない榎本さんが?」

 

 亀宮さんを気遣い小さな声で話掛けてくるが、周りに音が無いから問題無く聞こえる。

 そう、このベンツは社用車だから僕が事故ると保険が適用されない。昼間、高速道路を走行中に確認した事だ。

 

「うーん、正直に言うと見得かな……運転を任せきりなのが居心地悪いんだ。

夜は対向車も少ないし、僕は名古屋市内には土地勘も有るからね……」

 

 本音は見得だ。滝沢さんばかりに運転して貰うのが嫌だったんだ。下らない男の見得だ。

 

「私の為なら尚更です!調査では役立たずですし、霊力も無い。ならば運転位は役に立ちたいのです」

 

 その小さな声には、しっかりと非難する色が含まれていた。護衛の仕事を奪うなって事だ。

 それは当然だ、僕の我が儘で存在意義を奪われたんだから……

 

「うん、ごめんね。だけど外車を運転してみたかったんだよ」

 

 これは嘘、彼女を納得させる為の分かり易い理由をこじつけただけだ。

 

「榎本さんは、ヤンチャな男の子ね。滝沢さんを困らせてまで外車を運転したいなんて。

普段は冷静沈着で論理的なのに、ふふふ。意外な一面を見れたわ」

 

 何時起きたのか分からないが、亀宮さんも話に参加してきた。いや、最初から起きていて話を聞いていた?

 

「男の子って歳じゃないですよ、もうオッサンだ。でも万が一に運転するかもしれないから練習も兼ねてです。

大丈夫、危なくなったら滝沢さんと運転を替わりますから……って市街地に入ったな。

でも車の数は少ないから平気かな。そうだ!

亀宮さんから風巻姉妹に連絡を入れて下さい。これから手に入れた品々を持ち込むからと」

 

 建て前その2を言って誤魔化す。

 

 それと風巻姉妹への連絡を亀宮一族の当主からして貰う。

 僕からだと間違い無く文句を言うだろうが、当主自らなら深夜に押し掛けても文句は言うまい。

 暫く二車線の県道をひた走るが、街灯以外に人工の灯りが見えない。多分だが民家も殆ど無いのだろう。

 暫く走るとホカ弁のネオンが見えた。しめた、0時過ぎでも営業してるんだな。

 車を店舗の前に停めて後部座席の女性陣に話し掛ける。

 

「夜食、何が良い?多分打合せには時間が掛かるから、差し入れを含めて買って行こうよ」

 

 あの夕飯は不味かった。最近のホカ弁は結構ちゃんとした料理を出すし、このホカ弁チェーン店の唐揚げは絶品だ!

 

「私は榎本さんと同じ物が良いわ」

 

「わっ私はハンバーグが良いかな」

 

 突然の問いだからか、素直に答える。滝沢さんはハンバーグね。亀宮さんは僕と同じと言うが……

 

「亀宮さん、僕は弁当は五個食べるよ。同じは無理だから、滝沢さんと同じハンバーグで良いかな?

風巻姉妹も同じで良いよね?」

 

 菜食主義とか言われたら幕ノ内弁当位しか無い。基本的に焼く炒める油で揚げるがホカ弁のオカズだ。

 食中毒とか心配だから必ず火を通す。女性陣の了解を取ってから車を降りて店に向かう。

 

「念の為、滝沢さんは運転席へ。ロックは忘れずに、何か有れば僕を置いて逃げろ」

 

「分かった。だが、お二方が居て逃げる程の危険が有るのか?

特に榎本さんについては野田の事も聞いている。自動回復装置付きの重戦車って言われてるぞ」

 

 何じゃそりゃ?だが自動回復装置付きって事は、治療出来る事がバレてると思うべきだな。

 胡蝶の件は亀宮さんにしか教えてないが、あの遣り取りだけで防御力でなく治癒力と判断された。

 やはり亀宮一族は侮れない。

 

「過信は禁物だろ。御三家も絡んでるんだ。用心に越した事はない。じゃ買ってくるよ」

 

 滝沢さんが運転席に移りドアをロックしたのを確認してから店内に入る。

 自動扉を潜ると電子音が鳴り響いて客の来店を知らせるのか。

 

 ピロピロピローンと気の抜けたチャイムの後に、店の奥から「いらっしゃいませー」と声が掛かった。

 

 このホカ弁は対面式で頼む弁当の他にショーケースに出来合いのオカズが並び、自由に取ってグラム売りも出来る。

 ざっとカウンター上のメニューパネルを見るが、当たり前だが近所の店と同じだ。

 奥から出て来たのは50歳位のオバサンだ。パーマに小太り、だが人の良さそうな感じだ。深夜パートで女性は珍しいな……

 

「えっと……煮込みハンバーグ弁当を五個、焼き肉弁当とカツ丼とミックスフライ弁当と唐揚げ弁当と幕ノ内を各一個ずつ貰おうかな。

あとグラム売りの惣菜を貰うから」

 

 途中から驚いた目をしたが、まさか僕一人が食べるとは思ってないだろう。注文をメモ書きしてからレジ打ちを始めた。

 

「はーい、でも作るのに15分位掛かりますよ。大丈夫ですか?それと会計は一緒にするなら惣菜を選んで下さい」

 

 流石に弁当を十個は頼み過ぎか?だが腹が減っては何とやらだからな。

 

「構わないよ」

 

 そう言うとオバサンはテキパキと調理を始めた。

 奥から更にオジサンも出て来たから、どうやら自宅を改装して夫婦で経営なのかな?そんな事を考えながら、惣菜を選んでいく。

 女性が多いので、マカロニサラダと冷製の春雨サラダ、それにデザートのマンゴープリンを五個選びカウンターへ。

 オバサンがレジを打ち、清算する。

 

 合計で8400円也、勿論領収書を上様で貰う。

 

 備え付けのベンチで待つ事10分、全ての弁当が出来上がり受け取る。

 受け取りの際に最近何か変わった事が無いか聞いたが、特に何も無いそうだ。

 まぁ街の弁当屋さん迄が異変を知っていたら大変だからな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ホカ弁屋から15分も走れば、拠点としているマンションに到着した。

 オートロック式のマンションで警備も常駐している、比較的裕福層の為のセキュリティーを重視した賃貸マンションだ。

 その三階の角部屋が今回の拠点だ。5LDKだが、並びの二部屋を借りている。

 今回は亀宮さんと滝沢さん、風巻姉妹に御手洗達と大所帯だ。しかも女性陣が4人も居るから同じ部屋で寝泊まりは宜しく無い。

 玄関の鍵が一階入口の自動ドアの解除キーと同じになっている。

 自動ドアを開けると直ぐに管理人室になっており、小窓からオッサンが顔を覗かせた。

 昼間に挨拶をしてる為か、僕等が目立つ為か、直ぐに住人と分かったのか頭を下げてくれる。

 

 エレベーターに乗り込み三階のボタンを押す。高級マンションだけあり、エレベーターも積載荷重は850キロ。

 御手洗達と一緒の時も全員乗っても平気だった。一応呼び鈴を押して、風巻姉妹の返事を待つ。

 直ぐに返事が有り、中からドアが開けられる。キッチリとした服で出て来るかと思えば……スエット上下で美乃さんが出て来たぞ。

 

「ご苦労様です、亀宮様……うー、眠いです」

 

「美乃!そんなだらしない格好で……申し訳有りません、亀宮様。ほら、美乃着替えて来なさい」

 

 佐和さんが美乃さんの背中を押して寝室の方へ追いやっている。だが寝坊助な諜報部員って、どうなんだろう?

 佐和さんの案内でリビングに通され眠気覚ましの珈琲を出して貰った頃、漸く美乃さんが着替えて来た。

 姉妹共にシンプルな白色の長袖シャツにGパンだ。

 

「えっと……亀宮様すみません。夜に弱くて」

 

 ソファーに座るなり亀宮さんに詫びている。どうやら体質的な問題で、本人も自覚は有るのか……

 

「良いです。急に来た私達が悪いのです。では榎本さん、お願いします」

 

 そう言うと優雅に珈琲を飲み始めた。つまり後は任せたなんですか?僕は雇われ霊能力者だから仕方無いけどね。

 

 古銭・手帳・写真・大学ノートをテーブルに並べる。

 

「先代岩泉氏の書斎から見付けた物だよ。古銭と手帳それに写真は執務机の下に隠していた。

写真には良くない類の念も付着していた。大学ノートは書斎の本棚に分散していたのを探したんだ。

中身は未確認だが、このノートのは大祓いの祝詞が書かれてる。

これはコピーを取って持ち帰るが、残りは置いていくので調べて欲しい」

 

 佐和さんが古銭を手に取り調べている。裏表を見て唸ってるが……

 

「これは清朝時代の制銭だと思う。始皇帝が始めた制度で貨幣の統一が有るんだけど、その時代の銅銭かな。

メールを貰った後で調べたけど、実物を見ても本物だと思う」

 

 始皇帝とは大物が出て来たな。始皇帝の時代、まさに日本も大和朝廷の頃だ。

 日本武尊や神武天皇、それに始皇帝と時代的には繋がるけどさ。繋がるけど日本と中国と距離が有り過ぎだろ。

 

「始皇帝時代の制銭と日本武尊やイザナギとイザナミ。関連するのかな?」

 

 実在の皇帝と大和朝廷が祭り上げた神々。関連は何だろう?

 

「普通に考えれば無いわね。制銭については、もう少し調べるわ。他には?」

 

 古銭の件は調べないと分からないだろう。手帳を開いて佐和さんに見せる。

 

「この手帳なんだけど、先代岩泉氏の物だ。中に書かれている内容を調べたい。

ほら、何人か名前が載ってたり時間しか書いてない予定表がかなり有る。この頃の彼の行動が知りたいんだ。

必ず本人以外に相談を持ち掛けた専門家のブレインが居る筈だ」

 

 彼女は手帳を手に取り、パラパラと捲って中を確認する。

 

「1982年か……分かったわ、でも私達二人じゃ足りない。増員をお願いして貰って良いかな?」

 

 調べる事は山積みだから人海戦術しかないか……当初より予定が大幅に狂ってるしな。

 

「ご隠居にも手が足りなければ補充すると言われてるから平気だ。人選は佐和さんに任せる。

朝一番に僕の方からご隠居に連絡しとくね。亀宮さんもそれで良いかな?」

 

 幾らご隠居から下話は貰ってるとは言え、人事決定権は当主の亀宮さんが握っている。建て前上でも立場上でも、彼女の許可を貰わないと駄目だ。

 

「構いません。佐和さんに一任しますわ。榎本さんも全てを任せているのだから、私に断らなくても良いのですよ」

 

 ちょ、おま……全てを任せてって全責任を僕が負うって事?

 

「いやいやいや?それは話が違って……すみません、誰からだ?」

 

 この話を断る時に中断された電話の相手は、軍司さんだった。深夜に電話とは何か問題が有ったのかな?

 

 

第161話

 

 先代岩泉氏の書斎で入手した品々を運び出す為に、深夜だが迷惑を承知で名古屋の拠点を訪ねた。

 その際に責任の所在をハッキリさせようとしてたら、途中で携帯電話が鳴り響き話を中断させられた。

 これはマズい、この話題を再度振るにはタイミングを失ってしまった。

 

 亀宮さんの言った「榎本さんに全てを任せているのだから、私に断らなくても良い」は、全責任を僕が負うって事だ。

 

 絶大な信頼と信用には巨大な責任が伴う。この時にちゃんと断れなかった事を後々後悔しなきゃ良いんだけど……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「もしもし、榎本です」

 

 深夜にも関わらず、軍司さんが電話を掛けてきた。これは珍しい事だ。

 夜は霊能力者の本領を発揮する時間帯だから、ナニかと事を構えているかも知れない、不用意な呼び出し音は術者を危険に晒す事を知っている。

 だから不用意に電話は鳴らさない筈なんだが……

 

「おぅ、榎本先生!久し振りだな。こんな時間に悪いがよ、一寸良くない話を仕入れてよ。早めに教えといた方が良いかと思ってな」

 

 相変わらずデカい声だ。スピーカーから漏れた声が、亀宮さん達にも聞こえたのだろう。一斉に注目している。

 現役ヤクザと懇意にしてると思われても困る。彼女達に手を振り部屋の外に出る。身を切る程の寒さではないが、吐く息は白い。

 このマンションの周辺は低層住宅しかなく、家の灯りは外に漏れてない。

 

 閑静な住宅街だ……

 

「良くない話ですか?」

 

 路上を歩く野良猫を見ながら、嫌な感じをヒシヒシと感じる。

 

「そうだ!親父から聞いてるだろ。二代目の馬鹿先生の依頼の件だがよ。一寸電話じゃヤバいんだ。

羽生の店に来てくれ。親父と俺とで待ってるからよ」

 

 地元密着型?ヤクザの情報網は馬鹿に出来ない。確か軍司さんも、ソレ関係で外出してた筈だ。

 腕時計で現在時刻を確認すれば、1時59分か……

 

「直ぐには無理ですよ。確かに今は名古屋市内に居ますが、此方も調査の成果が有って此から仲間内で検討なんです」

 

 この嫌な感じは、事件が困難なのか軍司さんの話が嫌なモノか判断がつかない。

 

「じゃ7時に羽生の店に来てくれ。朝飯でも喰いながら相談だ。ウチの店の人気キャバ嬢を呼んどくからよ。じゃな!」

 

 一方的に時間を決められて切られた。キャバ嬢ってのがマズいんだ。彼女達に秘密の話を聞かれる訳にはいかない。

 つまり2時間位は関係無い接待をされるんだ。

 ロリじゃないキャバ嬢なんて邪魔なだけなのに、軍司さんは僕が奥手だと思い毎回女性を宛てがい僕で遊ぶんだよな。

 

 大きく溜め息をつく。冷たい夜風が心地良いくらいだ……

 

「やれやれ、面倒臭い事に……」

 

 早めに相談事を済ますか……

 

「「朝からキャバ嬢とお楽しみなんですか?」」

 

「うわっ?って盗み聞きとは良くないぞ」

 

 佐和さんと美乃さんが後ろに立っていた。しかも二人共、凄い不機嫌そうな顔で……話を聞かれたな。

 両腕を各々に掴まれ室内に連行、ソファーに座らされる。

 目の前には亀宮さんと滝沢さんが座っているが、笑顔なのに怒るという離れ業を披露中だ。

 暖かい暖房の風が辛い、額に汗が滲み出る……なんだ、この浮気がバレた旦那な状況は?

 

「亀宮様、榎本さんですが朝からキャバ嬢を呼んで遊ぶお誘いを受けてましたよ」

 

「しかも朝7時からって、どんだけ女好き?」

 

 最初から聞かれて皆さんにバラされたな。これは……ある程度は真実を話さないと駄目って言うか納得しない。

 頭を掻き毟り深呼吸をして気持ちを落ち着け、説明の大まかな道筋を考える。嘘と本当を半々くらい混ぜるのが良い。

 

「幾ら諜報部員とは言え仲間からの盗み聞きは良くないな。相手は地元のヤクザの若頭だよ。

僕の身辺調査で調べてるんだろ?若い頃にヤンチャして知り合ったんだ。

だが裏に精通した彼等の情報網は馬鹿に出来ない。

キャバ嬢を呼ぶって事は、今夜彼女達が接客した相手からの情報を直接教えるって意味だよ」

 

 半分本当がヤクザ絡みの情報で半分嘘がキャバ嬢だ!キャバ嬢は、軍司さんが僕を困らす事と自分が楽しむ為にしか呼んでない。

 

「若い頃って狂犬の頃のか?でも、そんな連中と付き合っては駄目だぞ。今は狂犬じゃないのだから、早く手を切るべきた!」

 

 滝沢さんの意見は間違ってはいないが、正解でもない。もはや手切れは無理な位に僕等は、表も裏も絡み合ってしまった。

 あとは程良い距離感を保つしかないんだ。

 

 しかし……まさか狂犬ネタが、此処まで引っ張られるとはね。若気の至りって怖いな。

 

「まぁ犯罪行為はしてないからギリギリセーフ?

それに蛇の道は蛇って諺通りに、彼等の情報は裏事情に精通してるからね。無碍には出来ないさ」

 

 不満そうだが、彼女も少しは裏の世界を知ってるのだろう。その表情は理解はしても納得はせずかな?美人が心配してくれるのは素直に嬉しい。

 

「私も同行しますわ」

 

「駄目です、留守番です」

 

「何故即答なんですか!」

 

 亀宮さんが目をキラキラと輝かせてトンでも提案をするけど、ヤクザ達との会食の何が楽しいんだ?

 

「むー、何故ですか?榎本さんが一緒なら危険は無いじゃないですか」

 

 無条件の信頼を得ている様で嬉しいが、御三家の当主がヤクザ達と会食なんてゴシップは笑えない。黒い癒着とか問題が大有りだ!

 

「何を持って安心かは知りませんが、駄目です。ヤクザな世界なんて亀宮さんには知られたくないんです。

それに亀宮さんは亀宮一族の当主なんですから、ヤクザ達と密会やら会食なんて立場的にも駄目です。

もしも付いて来ると言い張るなら、僕は物理的か呪術的に君を拘束しなければならない。具体的には監禁又は下痢地獄……」

 

 勿論、そんな事はしない。最近、意思の疎通が何となく出来る様になった亀ちゃんにお願いすれば良い。

 わざわざ危険な場所に連れて行く必要は全く無いので、ガッチリ拘束してくれるだろう。

 

「亀ちゃんも亀宮さんが仕事でもないのに、危険な場所へ行くなら止めてくれるよな?」

 

 亀宮さんの肩の辺りに話しかければ、物質化した亀ちゃんが彼女を長い首でグルリと一巻きして頷く。

 

 既に拘束済みだ!

 

「何時の間に亀ちゃんと意思の疎通が出来る様に?私だって五年も掛かったのに……」

 

 拘束されても器用にうなだれる亀宮さん。滝沢さんや風巻姉妹も頷いている。

 

「何となく……かな。亀ちゃんは亀宮さんが危険な時は言う事を聞いてくれるみたいなんだ。何となくだけどね」

 

 亀ちゃんを見れば首を縦に振っている。つまり、その通りなんだろう……

 

「僕は一人で行くからね。さて、本題に入るよ。先ずは……」

 

 古銭・手帳・写真それに大学ノートを机の上に並べ、各々の顔を見る。皆さん仕事モードに切り替わっているのは流石だな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 一時間位だろうか?深夜の眠い時間帯に説明した割には、調査方針は粗方決まった。

 佐和さんが写真と古銭、彼女曰わく制銭を調べる。美乃さんが手帳の記録を調べる。

 神職に詳しい連中を呼び、大学ノートの内容及び写真を撮った背表紙の蔵書関連を調べる。

 蔵書関連は暗黒神話の事にも触れておいた。

 古い漫画だが題材は神話だし、この周辺の土地と古代神話の関連なんかも調べる様にお願いした。

 これで書斎集めた品々の調査依頼は完了。時間は午前三時だが遅めの夜食?早めの朝食?を食べる。

 資料を片付けて各々のお弁当を並べる。

 

 僕の前には堆(うずたか)く積まれたお弁当!

 

 煮込みハンバーグ弁当・焼き肉弁当・カツ丼・ミックスフライ弁当・唐揚げ弁当・幕ノ内弁当だ。 

 女性陣には煮込みハンバーグ弁当とマカロニサラダに冷製春雨サラダ。デザートにマンゴープリンも用意した。

 

 電子レンジで順番に温めて貰らった。

 

「その……そんなに食べて大丈夫なんですか?食費じゃなくて胃腸の方ですよ」

 

 滝沢さんが煮込みハンバーグに箸を入れた途中で固まっている。何故ならカツ丼が五口で終わったから。

 ワシワシとカツ丼をかっ込むのは、女性陣の前ではマズかったかな?

 

「ん?ああ、山荘で出された夕食がさ。良い食材や器を使ってるのにイマイチだったんだ。

あの山荘に集められた従業員の質は悪い。つまり代わりが利く連中なんだ。分かるかい?」

 

 考え込む女性陣。おずおずと美乃さんが手を上げる。

 

「はい、美乃くん」

 

 此処は学校か?

 

「判断基準が食事内容なのがアレだけど……金持ちの岩泉氏の雇うレベルじゃない。

つまり最悪山荘も襲われる心配も有るから、失っても良い様に今回限りの連中を集めたのか……かな?」

 

 今回限りの連中とは思い浮かばなかった。程度の低い連中を寄せ集めたと思ってたんだ、それなりに事情に詳しい人員も居たから。

 流石は諜報部に所属してるだけの事は有る。事ある毎に突っ掛かってくるが、有能なんだな。

 

 今回限り……まさか口封じをする心算じゃないよね?

 

「前半は僕も思った。あの山荘が安全なんて思えなかったし、逆にそれをネタに執事に強制協力させた。

だが後半は考えなかったな。今回限りにした場合、知られたくない秘密を知ってしまう可能性は高い。

ヤクザ崩れのチンピラも居たし強請や恐喝のネタにならないか?口封じなら我々も対象だ。

だが御三家揃い踏みなんだし、逆に返り討ちだ。加茂宮も伊集院も普通の連中じゃない。

我々だってそうだ。現当主の岩泉氏は現役国会議員だから、公共の場に出なければならない。

完全に身を隠さない限り報復の呪殺は簡単だ」

 

 多分だが守秘義務の徹底してる我々は無事だが、従業員は口封じも……または派遣してる上の連中と懇意にしていて、奴等を抑える事が可能とか。

 

「報復って?」

 

「最悪の場合、僕等を口封じに殺そうとする。僕には護る人が居るからね。

その為に敵側の関係者全員を引き連れて、地獄に落ちるさ。

そして巻き添えにした恨みを地獄で晴らす。閻魔大王の前でボコボコに殴ってね」

 

 ファイティングポーズをとり、冗談みたいに軽く言うのが味噌だ。彼女達もクスクス笑っているから、本気とは思ってない。

 だが仏教の教えを説く僕は、確実に地獄行きだ。ならば残された結衣ちゃんの為に、敵は諸共地獄に道連れにする。

 僕と結衣ちゃんとのハッピーエンドを邪魔した奴等は、地獄の底に堕ちてもボコボコだ!

 

「冗談でも呪殺とか言うな。榎本さんはウチの呪術部隊を打ち負かしているんだし、本気にしてしまうぞ」

 

 滝沢さんは割と本気に捉えたのかな?彼女も僕への対応が大分軟化したな。前は無言で睨まれるだけだったし……

 

「全員が強力な下痢って、人間の尊厳を踏みにじる行為だよね。彼等が再起出来るか心配なんですけど……」

 

「確かに私なら恥ずかしくて死にそうよ。お漏らしなんて年頃の娘には死よりも辛いわ」

 

 風巻姉妹は相変わらずキツいです。だが、それを踏まえての襲撃の筈だよね。ヤルならヤラれても良い覚悟は有ったと思いたい。

 

「自業自得だよ。死を呼ぶ呪いも有ったんだ。ただ返したら相手が死んでいた。下痢で助かれば儲けモノだろ?」

 

 微妙な顔の女性陣を見ながら焼き肉弁当を食べ終え、ミックスフライ弁当の蓋を開ける。

 レモンを絞りタルタルソースをフライに塗っていく。ヤレヤレ的な感じで女性陣も煮込みハンバーグ弁当を食べ始めた。

 

 何とか誤魔化す事が出来た。夜食を食べ終わり、そのまま隣の部屋に行けば3時間位は仮眠が出来そうだな。

 イカフライに噛み付きながら、この後の流れを考える。

 

 完全徹夜明けの飲み会は辛いからね。

 

 

第162話

 

 料亭羽生(はにゅう)……

 

 名古屋を拠点とした広域暴力団が関与する料亭だ。登記簿的には彼等と無関係なオーナーだが、実は関係者だ。

 暴力団とは法により公言すると色々な制限が付く。

 

 例えば車を買う時も「私は暴力団ではありません」と言う誓約書にサインをしないと売ってくれない。

 

 だから事務所を構えたり出店したりするのは大変だ。この店は親父さんが出資金を幾らか負担し、色々な便宜も図っている。

 つまりオーナーは親父さんに恩が有るわけだ。この恩が曲者で、一般人がヤクザの片棒を担ぐ事になる。

 だが最悪の場合、オーナーは親父さんが暴力団とは知らなかったと言い張るのだろう。

 まぁそれが効果有りかは分からないけどね。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 料亭羽生、高級感溢れる和風建築。地元の名士や有名人なども食事している。

 高級懐石料理がメインで、コースでも10000円からと一般人が気軽に入れる店じゃない。

 全室和室タイプの個室だが、畳の間に絨毯を敷いて椅子・テーブルを配している。

 約束の時間5分前にタクシーで料亭の前に乗り付ければ、見慣れた白のシーマが専用駐車場に停めて有る。

 黒のベンツじゃヤクザ感が丸出しなので、気を使って彼等は白のシーマで来る。

 料金を払い車外に出れば、凄みの有る笑顔を浮かべた軍司さんが立っていた。

 

「おぅ、先生!久し振りだな、元気してたかよ」

 

 ニヤリと笑い片手を上げてくれる。

 

「お久し振りです、軍司さん。わざわざ出迎えなんていらないのに……」

 

 僕は軽く頭を下げる。出会った当時は貧弱ボーイだったが、今は軍司さんと遜色無い肉体を手に入れた。近付いてから更に軽く挨拶をして中に入る。

 

「鍛錬は欠かしてないみたいだな。お前を見ると出会った時を思い浮かべて笑っちまうぜ。

あのヒョロい兄ちゃんが、こんなに厳つくなるなんてな。聞いてるぜ!新しい女が出来たんだろ?」

 

 軽く背中を叩かれた。若い頃は、この軽く叩かれただけで痛かったな。

 

「新しい女?また冗談言わないで下さいよ。周りが誤解しますよ」

 

 誰が新しい女か分からないが、彼等の情報収集能力は侮れない。誤解だが桜岡さんの事でも知られたのかな?

 まさか小笠原母娘じゃないだろうな?

 最近だが女性と知り合う機会が異様に増えているから気を付けないと駄目だ。

 少し警戒心を上げる。さて、勝手知ったる料亭羽生だ。ドンドンと渡り廊下を奥へ奥へと歩いて行く。

 庭園には小さな池も有り、高そうな鯉が泳いでいる。確か大正錦って種類だっけ?

 離れの和室が親父さんのお気に入りだ。

 

「親父!榎本先生を連れて来たぜ」

 

 軍司さんが襖を開けながら声を掛ける。

 

「おぅ、榎本先生よ。久し振りだな」

 

 既に八人掛けのテーブルには料理が並び、中央に親父さんが座っている。

 何時もの作務衣じゃなくて朝からスーツ姿とは珍しい事も有るものだ。

 因みに呼ばれたキャバ嬢達は壁際に並んで、此方を興味深そうに見ている。

 確かに六人全員が美人揃いで煌びやかな衣装だが、毎回メンバーは違うんだよな。

 やはりキャバ嬢って店に定着率が悪いのか?それとも沢山居るから色々呼んでくれるのか?

 

「ご無沙汰してます、親父さん。何やらネタを掴んだみたいですね?」

 

 親父さんが目の前に座る様に手で示す。僕が親父さんの向かいに座り右隣に軍司さんが座る。

 

「おぅ、姉ちゃん達。榎本先生はな、俺らの大切な客人だから粗相するなよ」

 

 親父さんが声を掛けると、ワラワラと隣に座り込んでくる。親父さんの両脇には黒髪ロングのお嬢様タイプ。

 軍司さんの両脇にはケバく色っぽいタイプ。僕の両脇には今時の茶髪ショートの元気娘と……金髪スレンダーな外人さんだ。

 どちらも美人だが年齢は20代後半であり、僕の守備範囲外だな。

 

「榎本さんって言うんだ。先生って政治家?」

 

「初めまして、レナです」

 

 いきなり質問する茶髪ショートに自己紹介する外人。好感度は外人に軍配が上がる。

 

「ん?僕が政治家?まさか!僕はただの僧侶だよ」

 

 どうせ二時間位は本題は始まらず、彼女達の相手をしなければならない。

 苦痛だが親父さん達の顔を潰す訳にはいかないので、このキャバクラ遊びに付き合わねばならない。

 

「えー、僧侶?武蔵坊弁慶みたいじゃん。冗談キツいよ」

 

「私の国でも聖職者はマッスルでは無いよ。キャプテンアメリカみたい」

 

 女性陣は冗談と思ったらしい。日本語が上手いがレナと言う外人さんはアメリカ人なんだな。

 キャプテンアメリカとは懐かしいアメリカンヒーローだ。

 

「ほら、榎本先生よ。麦酒で良いんだろ?全く度数も値段も安い酒だぜ、麦酒なんてよ」

 

 向かいに座る親父さんがビール瓶を突き出してくる。アサヒのスーパードライだ。テーブルの上のコップを取って差し出す。

 

「有難う御座います。どうにも洋酒も日本酒も駄目でして。ビールが好きなんですよ」

 

 別に最初から麦酒党じゃなかった。彼等と飲むと必ず奢りなんだ。

 洋酒とかって普通にドンペリとか一本30万円とかするんだ。高い酒は奢られると、それだけ借りを作った気持ちになる。

 だから幾ら高くても精々が千円前後の国産の麦酒を飲む事にした。これなら酒代はタカが知れてるから気持ちも楽だし……

 

「じゃ返盃を。親父さんは何を飲みますか?」

 

 テーブルには瓶ビールと硝子のボトルに入った冷酒が有る。まぁ冷酒だろうな……

 

「ああ、冷酒だよ。和食にゃ日本酒が一番だぞ。

まぁ食えよ、沢山頼んであるし後から蟹も丸茹でしたのも神戸牛のステーキも来るぜ。先生なら喰い切れるだろ?」

 

 これが恩を売るヤクザテクニックだ。大食いの僕の為に、高級懐石料理が売りの此処では有り得ない料理を出す。

 茹で蟹丸ごととか巨大ステーキは懐石料理でも何でもないから……それを理解しておかないと、後で大変なんだ。

 

「蟹と神戸牛とは嬉しいですね。折角名古屋に来たのに美味い物を食べてないんですよ」

 

 親父さんの差し出すグラスに冷酒を注ぐ。そう言えば昼飯は静岡県だったから、名古屋に来て食べたのはマズい山荘の夕飯にホカ弁の夜食兼朝食だったからね。

 目の前に並んだ料理は本当に美味そうだ。

 

「聞いてるぜ。先生が仕事に誰かを同行させるのも珍しいが、綺麗どころを侍らせているらしいじゃないか?」

 

「全くだ、俺らだって送迎だけで実際の現場にゃ同行させて貰えなかったぜ」

 

 早速前菜に手を伸ばした時に、ジャブを入れられた。軍司さん達を除霊現場に同行させなかったのは、未だ「箱」だった頃の胡蝶を見せない為だ。

 勿論、彼等の安全の為でも有るけど……だが女性同行となると、八王子の件か今回しかない。

 

「軍司さん達は霊能力者じゃないですからね。それに現場に無防備で居られたら危険ですし。

最近ですよ。義理や柵(しがらみ)で同業者と合同除霊を初めたのは……」

 

 ビールを一気に煽る。親父さん達が、どちらの件を言ってるのかが分からないが……多分だが八王子の件だな。

 今回は亀宮一族の末端としての参加だし、現当主の亀宮さんを侍らすと言う表現はおかしい。

 八王子には、お鶴さんもといメリッサ様や高野さん。それにモブなお供が四人も居たからな。侍らすって表現なら、男一人に女性が七人だ。

 

「榎本さんって霊能者なんですね。いや僧侶さんですから当たり前なのかしら?」

 

「リアルゴーストバスター?凄いんですね!」

 

 レナさんがビールを注いでくれる。濡れたコップの周りを拭いて渡してから注ぐ仕草が、流石現役キャバ嬢か……

 

「現世に彷徨う霊を導くのも僧籍に身を置く者の勤めだからね。ゴーストバスターとは古い映画を思い出すよ。そう言えば名前聞いたっけ?」

 

 四半世紀(25年)位前に流行ったアメリカ映画に有ったな。何かビームだかプラズマみたいなモノで霊を捉えるヤツが……

 

「私?梓だよ。コッチはレナ、苦学生だから夜の仕事してるんだって」

 

 人のプライバシーをベラベラ喋っちゃ駄目だろ!苦学生って事は二十歳過ぎか?実年齢より年上に見えるんだな。

 

「そうなんだ。日本って物価が高いから大変でしょ?」

 

 当たり障りの無い会話をして時間が過ぎるのを待つ。料理は上手いが親父さん達の探りを誤魔化しながらキャバ嬢の相手は想像以上に気を使うぜ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 二時間程、食事を楽しみキャバ嬢との会話に気を使った。漸く接待宴会?を終えて本題に入れる。

 既に女性陣は引き払ったが、強引に名刺を貰わされた。梓とレナは予想通り親父さんが経営するキャバクラに勤めていた。

 何回か連行された「洒落偉奴(しゃれいど)」って店だ。

 昔のヤンキーみたいな当て字の店だが、元は英語のcharade(シャレード)でジェスチャーゲームの名前らしい。

 

 酔い覚まし用に出された冷えた麦茶を飲む。漸く本題だ……

 

「楽しんで貰えたかい、先生よ?」

 

 先程までキャバ嬢二人と楽しそうに遊んでいた老人には見えない。顔つきが仕事モードだ。

 

「ええ、美味しい料理に綺麗なお嬢様方でしたね」

 

 やはり自分達も楽しんでいたが、僕用の接待のつもりだったんだな。

 

「その割にしては、姉ちゃん達につれなかったな。まぁ良いけどよ……」

 

 親父さんの突っ込みが入る。僕に恩を着せる為に呼ぶ女性陣は毎回外れだからな。本人としても悔しいのだろう。

 つれないと言うか守備範囲外だから熱が入らないと言うか、ねぇ?

 

「全くだぜ。アレでもウチの店じゃ指名上位なんだぜ。若い頃から俺等が呼ぶ女にゃ興味無いみたいにしてよ。

堅気の女が好きなのか?素人遊びはリスクがデカいから気を付けろよ」

 

 堅気とか素人以前に年が逝ってるんですよ、彼女達は。僕は自覚有る紳士的なロリコンだが、彼等も未成年者を僕に宛てがう心算はなかろう。

 だから女性で籠絡される心配は無い。

 

「あー、まぁアレですよ。こんな商売ですし素人の女性にはね……色々有るじゃないですか?」

 

 脱線しまくりだが、早く本題に入らないと亀宮さん達との合流が遅れてしまうぞ。

 

「素人って、そっちかよ。霊能力者の女性を宛がう訳にはな……全く、だから亀宮か?」

 

「いや、親父。桜岡だぞ、巫女が好きたぁ破戒僧だなぁ……」

 

 どうやら彼等は僕の事を良く調べている。表情には出さないが、警戒を一段階上げた。

 さて、情報提供の他に何を言ってくるのか厄介なのがヤクザってか……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ねぇ、あの坊さんの事をどう思う?」

 

「胡散臭いわよね。でも組長と若頭があれだけもてなすのよ。絶対普通じゃない」

 

「どっちにしてもヤクザにもてなされる奴なんて普通じゃないわ。でもイヤらしくはなかったわ。

私達、何をされても絶対に我慢しろって店長に言われてたじゃない」

 

「そうだね。随分気を使ってた。レナもそう思ったでしょ?」

 

 送迎のワンボックスの中でガールズトークが炸裂中だ。

 

「そうね。あの人は私達に興味が無かったわ。組長達に気を使ったんでしょ」

 

「何で?」

 

「接待して貰ったのに気に入らないじゃ、ホストの面目丸潰れじゃない。だから普通に接してくれた。

でも私達だって接客のプロだから、楽しんでないのは分かった」

 

「なる程ね。だからレナ、頑張ってたんだ。珍しく積極的だったのはプロ根性だ」

 

「違う。その道のプロなら兄さんの事が分かるかなって」

 

「レナのお兄さんって霊能力者で、あの山林の怪異に関係有るんだっけ?ヤバいんでしょ、一杯人が死んでるって噂じゃん」

 

「うん、大金を手に入れて私を学業に専念させるって……でも、そんな事より無事で居て欲しい」

 

「音信不通なんだっけ?あの坊さんが同業者なら知ってるかな?」

 

「多分、今名古屋に居るなら関係有る筈なんだけど……」

 

 


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