榎本心霊調査事務所(修正版)   作:Amber bird

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第157話から第159話

第157話

 

 先代岩泉氏の書斎を調べた。出てきたのは大量の日本神話についての著書。

 

 古銭と古い手帳。

 

 胡蝶は手帳と暖炉から禍々しい雰囲気が漏れてると言う。だが、こうも簡単に手掛かりが見付かるのが怪しい。

 掌の中で弄ぶ古銭に刻まれた文字は漢字だが、日本の漢字ではない気もする。

 この古銭も意味有り気だが、造りは大陸製な感じがするし……日本神話・古代中国の古銭の繋がりって何だ?

 イザナギとイザナミに拘る理由は?岩泉氏は何をあの山林に隠しているんだ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「先ずは、この古銭について調べよう」

 

 怪しい手帳の周りには清めた塩で結界を張った。戻した机の上に置いた古銭の裏表を写メに撮り、メールに添付して風巻姉妹に送る。

 送信終了後、直ぐに名古屋の拠点に電話を掛ける。3コール後、直ぐに繋がった。

 

「もしもし、榎本です」

 

「佐和です。どうかしましたか?」

 

 姉の佐和さんが出た。妹の美乃さんよりは理知的で思慮深いから良かったか?

 

「早速だけど調べて欲しい。先ずは携帯の方にメールした添付写真の古銭についてなんだけど……」

 

「携帯メール?ああ、コレね。ふーん、どうしたのコレ?秦代の制銭っぽいけど、本物なら大した価値よ」

 

 秦代?制銭?専門用語が出て来たけど、佐和さんって中国史に詳しい人?

 

「先代岩泉氏が隠していたんだ。その古銭だか制銭だか何だか調べて欲しい。

それと岩泉氏だけど、日本神話を調べていた。日本書記や古事記等、一寸した学者並の蔵書量だ。

彼が何故、これほど迄に調べていたかが知りたい。

報告書には無かったし、僕も調べられなかった。この辺に山林の怪異が関係してると思う」

 

「分かったわ。制銭と先代岩泉氏が何故、日本神話を調べていたか?誰かに協力して貰っていたのか、独学か?

何時からか等、分かる範囲で調べてみる。後は何か有るの?」

 

 流石は亀宮一族の諜報を任されているだけの事は有るね。普段の姿からは分からないけどさ。

 

「一寸待って、亀宮さんに聞いてみる」

 

 一旦通話を止めて女性陣に声を掛ける。何やら手帳と睨めっこしてるが、中身を見なきゃ分からないだろ?ああ、まだ触っちゃ駄目だよ!

 

「佐和さんだけど他に何か有るかって?」

 

 話し掛けるが、首を振ったり手でバッテンしたりと質問をジェスチャーで返してきた。つまり何も無いって事だな。

 

「特に無いって。今日から此方に泊まる事になるかな。明日、一度そっちに戻るから今後の進め方を相談しよう。じゃ宜しく」

 

 そう言って電話を切る。今日は調べられるだけ書斎を調べて、必要な物は全て持ち出そう。

 馬鹿正直に古銭や手帳の事を話す必要は……今は無いな。

 確認はしてないが、共闘・協力の申し入れは無い。なのに我々から情報を公開する義務も無い。

 

「さて、手帳を調べますか……」

 

 此処は僕が手帳に触れるしかない。滝沢さんは霊的防御0に近い素人さんで、亀宮さんは雇用主だ。

 ならば消去法で僕しか居ないのが辛い。

 

「胡蝶さん胡蝶さん。手帳を調べるので守って下さい」

 

 オートガード胡蝶さんにお願いする。

 

「ん?喰えば良いんだな。余り上等とは言えぬが良かろう。早く触れ」

 

 直ぐに頭の中に直接響く声、幼子の様に甲高い声だ。おぃおぃ、何でもかんでも食べないて下さい。調べ物ですよ、胡蝶様。

 

「榎本さん?何を手帳をじっと見て固まってるんですか?」

 

 僕と胡蝶との会話に滝沢さんが割り込んできた。端から見れば固まって動かない僕は不審だよな……

 

「ん?精神統一中。危ないかもしれないからね。注意は必要だ」

 

「すまない、邪魔をした」

 

 取って付けた言い訳に素直に頭を下げられてしまった。手帳を見詰めて如何にも精神統一をしてる風を装う。

 

「胡蝶様、あの手帳は手掛かりなんで食べちゃ駄目なんです」

 

「物理的に喰う訳じゃないぞ。禍々しい邪念が蔓延ってるのだ。それを喰らう。

さすれば正明が手帳に触れても問題無い。早く手帳に手をかざせ」

 

 流石は胡蝶だ。禍々しい邪念も気になるが、今は手帳の中身が知りたい。

 清めた塩の結界の中に置いて有る手帳に左手をかざす……ギュポンって音が聞こえて、手帳から禍々しさが消えた。

 

「ん、成功だ。手帳にこびり付いていた禍々しい邪念は消えたよ」

 

 白々しく左手で額の汗を拭く振りをする。如何にも僕が蔓延った邪念を祓った事にする為だ。

 

「つまり呪いが解けたのね。榎本さんの凄い所は物に憑いた念を壊さずに祓える事よね。

ウチの壷だって亀ちゃんなら壊してしまうかもって厳重に保管してたのを簡単に祓うんだもの。私達には真似出来ないわ」

 

 さり気なく私達って事は、僕と胡蝶の事を暗に言ってるんだろうな……まぁ僕の指示で胡蝶が動いてると思ってくれた方が良い。

 逆だと恥ずかしいのもそうだが、取り憑かれていると思われたら大変だ。

 制御出来ない強力な存在なんて排除対象と変わらないからね。

 

「さてページを捲るよ……」

 

 そう言うと小さな手帳に三人が覗き込んだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 古い手帳は今で言うシステム手帳と同じだ。一年分のカレンダーには月別に毎日コメントが書ける欄が有る。

 後ろはメモ帳になっている。

 

 因みにカレンダーは1982年の4月から1983年の3月迄だ。

 

「30年近く前ね。私の生まれる前だわ。榎本さんでも幼稚園位でしょ?かなり古いわね」

 

「先ずは4月だけど、この手帳は仕事用なんだな。予定がビッシリだ。

会合・会食・演説・懇親会にゴルフ……忙しいのは忙しいが、飲み食いやゴルフも仕事なんだろうか?」

 

 政治家の実態って……

 

「根回しが出来て一人前の政治家なんです。ただ反対意見や民意を汲んだ発言をしても、実際に法案として通せるかが大切なんです。

舌の根も乾かずに発言を替える連中は、より強い存在に取り込まれただけです。榎本さんは政治にも詳しそうですが、どう思いますか?」

 

 ああ、政治と野球の話は炎上するだけで不毛な話し合いなんだよね……

 確かに公約を守らず罰則もなく、選挙に当選する前後で発言の変わる連中は嫌いだ。

 

「お恥ずかしいですが、政治には疎くて……」

 

 頭を掻きながら笑って誤魔化す。長い話し合いはご遠慮したいですから、はい。

 

「そうなんですか?色々と詳しそうですけど……」

 

 亀宮さんは納得出来ないって顔で話を引き摺っているが、僕は君が話好きなのを水曜どうでしょう?で嫌と言う程に知っている。

 だからシラを切り通す……

 

「それよりも手帳の中身だ。滝沢さん、念の為に扉の鍵を閉めてくれる。遅いかもしれないけど、此処からが事件の本質に関わる筈だからね」

 

 迂闊だったが、戸締まりを確認するのを忘れた。いや、女性同伴で密室に籠もる事を無意識に回避したのだろうか?

 それとも体に染み付いた避難経路確保根性か?兎に角、出入口は一カ所しかないからな。

 

「分かった、はい閉めたぞ」

 

 滝沢さんは、一度扉を開けて廊下の左右を確認してから鍵を閉めた。他の連中に古銭や手帳がバレずに済んでるな。

 

「じゃ改めて手帳を捲るよ。先ずはカレンダーの方だけどメモ欄が小さいから短縮されていて分からないのも有るな……」

 

 会合神楽坂・演説東京駅・下見新潟・懇親会京都等なら何となく分かるし事件には関係無さそうかな?これは仕事関係だと思う。

 

「この◎で時間だけ書いてあるのは何だろう?4月7日15時とか……」

 

「うん、平日の昼間だね。22日は19時だし25日は10時だ。

曜日も時間も不規則なのは何だろう?取り敢えず書き出しておくか……」

 

 一覧にしておけば関連が分かるかも知れない。

 

「ねぇ、この石渡先生会合って怪しくない?他は地名なのに人名が出て来るのは初めてよ」

 

 未だ4月分しか見てないが、固有名詞は初めてだな。

 

「確かにね。だけど名字だけじゃ分からないな……5月を見てみよう」

 

 そう言って手帳を捲る。一時間近く掛けてカレンダー部分を見終わった。

 

 手帳に書かれていた人物は三人。石渡先生・真田・桜井君。

 

 先生は目上、名字のみと君付けは親しい相手か格下か判断がつかない。前後に文が有れば予測はつくけど、名前と時間だけじゃ無理だ。

 後は◎で時間だけ書いてあるのは一年で21回も有った。他は仕事と判断が付かない書き込みばかりだな。

 考え過ぎた為か滝沢さんの頭から湯気が見える気がする程、彼女の疲労度が高い。

 亀宮さんは普通にメモを見詰めて考え込んでいる。お腹の空き具合を考えれば既に夕方だろう。

 窓が無いので分からないが、携帯電話のディスプレイを見て確認する。

 

「亀宮さん、滝沢さん。もう6時前だ……手帳のメモのページを確認したら休憩しよう。

この内容は僕等じゃ調べるのは難しい。風巻姉妹に任せて内容だけは確認しよう」

 

 見詰めていたメモから僕に目線を移す亀宮さん。何時の間にか眼鏡を掛けてますが……

 

「アレ?亀宮さんって近眼?目が悪かった?」

 

「ん?伊達眼鏡ですよ。何となく知力が上がる気がしませんか?」

 

 上目使いで僕を見詰めて眼鏡を鼻の上で押し上げる仕草をする。

 

「ナイスだ!」

 

 グッと右親指を押し上げる仕草をして同意する。亀宮さんが当社比二割り増し位に美人に見える。

 ロリコンフィルターが無ければ五割り増しは固いだろう。眼鏡って魅力を押し上げるアイテムなんだな。

 今度、結衣ちゃんにも掛けて貰おう。知的美少女も良いな。特に結衣ちゃんは大人しい優等生だから、似合うのは間違い無い。

 優しい結衣ちゃんだからクラス委員長や風紀委員とかでなく、図書委員な感じだと思うが……

 

「榎本さんが素直に女性を褒めるなんて……眼鏡フェチなんだ、ドン引きするわー」

 

 僕と亀宮さんが見詰め合っていると、横で滝沢さんが小声で毒を吐いていた。

 このドエムはヤンな気質も持ってそうだな。気を付けないと残念な美人かつ厄介な美人に絡まれそうだ。

 

「まぁアレですよ、その……折角、亀宮さんが振ってくれたボケなんですから。

ちゃんと受けるのが人として当たり前の行動ですよ。実際に知的美人だし問題無いでしょ?」

 

 亀宮一族の派閥の一員として、当主のボケをスルーしちゃ駄目だし。

 

「知的美人!ふふふ、私は知的な美人」

 

 妙に御満悦な亀宮さんから目線を逸らして手帳を捲る。メモのページには余り書き込みは無い。

 だが最初のページに、この二文字が……

 

「暗黒神話、日本武尊……暗黒神話?いきなり胡散臭くなったな。日本武尊ってイザナギとイザナミはどうした?」

 

 あれだけ意味有り気な二柱が無くて日本武尊?それに暗黒神話か……

 違うとは思うが、僕の学生時代にそんな短編漫画が有ったな。確か日本武尊の生まれ変わりが、中学二年生なんだ。

 神の生まれ変わりの14歳なんだ!もう30年以上も前の漫画だが、既に厨二を取り入れていたなんて!なんて先見の明が有ったんだろう。

 

「いくら何でも、それは無いだろうな。暗黒神話ね……古代の神々の負の面の事かな?それとも日本武尊の負の面か?」

 

 日本武尊と言えば景行天皇の皇子で、気性が荒く父親から疎まれた厄介な奴だ。

 わざわざ九州の熊襲と東国の蝦夷に遠征に行かされる位に疎まれていた。だが戦に勝ち続ける事は、英雄と同義だ。

 神の血を引いた天皇の皇子である皇族将軍が、地方の敵対勢力を苦労の末に次々と打ち破る。

 

 大和朝廷としては、軍事面のシンボル的な存在だ。

 

 侵略の正当性を高めたり、その後の平定にも利用出来ただろう。何しろ神の軍団だ。

 国の為、民草の為にと父に疎まれた皇子が、数々の苦難を打ち破り名声を高めていく英雄伝だ。

 後は草薙の剣や弟橘比売(おとたちばなひめ)位しか思い浮かばないな……

 

 

第158話

 

 数々の日本神話の中でも軍記物として有名なのが、日本武尊の東国平定だろう。

 九州の熊襲の平定は、騙し討ちがメインなので東国の方が好まれる。

 二人の妻が出て来るし、弟橘比売(おとたちばなひめ)の悲劇も有る。

 有名な早水の渡り(東京湾)で、荒れた海を鎮める為に弟橘比売が海の神に身を捧げるアレだ。

 それに神器の一つ、群雲の剣(後の草薙の剣)も活躍する。

 最後は己の慢心故に山の神に傷を負わされ死ぬのだが、死して白い鳥となり何処かへ飛び去って行く。

 要約し過ぎだが日本人好みの悲恋絡まる教訓を含んだ話だ……だが日本武尊と暗黒神話が結び付かない。

 確かに若い頃の日本武尊は、現代感覚ではやり過ぎな感じがするやんちゃ坊主だ。

 実の兄の手足を千切り簀巻きにして放り出したり、父親に召された女性を我が物にしたりと散々な悪さをしている。

 九州遠征も殆どが謀略と騙し討ちで敵を殺している。

 単身で敵に勝つには仕方の無い方法だが、決して誉められる事じゃない。

 だが、それらが暗黒神話とまで言われる事は無いんじゃないかと思う。

 

 もっと凄惨な話は良くも悪くも身近に有るのだから……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 書斎の机を囲み悩む男女三人。僕と亀宮さんは色々と考えているが、滝沢さんは思考を放棄したみたいだ。

 別室で待機している御手洗達に携帯電話で現状を説明している。

 彼等は脳筋だから、この手帳の内容について検討に参加は無理だろう。

 それに情報漏洩を回避する為に、古銭と手帳は三人だけの秘密だ。

 滝沢さんに口を酸っぱくして頼んだ。一番信用出来ないのが、うっかりな残念美人の彼女だからだ……

 

「日本武尊ですか?結構時代が飛びますね……でも風土記にも載ってますし、可笑しくは無いのでしょうか?」

 

 日本武尊と聞いて風土記って単語が出る位に、亀宮さんは知識を持っている。それは単純に凄いと思う。

 

「軍神の見本みたいな半神半人の英雄ですからね。だけど今回の原因としてはビッグネーム過ぎますよ。

彼が相手なら我々が束になっても勝てない。彼が本気なら、この辺一帯が更地になってる。それ位に凄い神様なんだ。だが……」

 

 手帳の日本武尊と暗黒神話と書かれたページをトントンと指先で軽く叩く。

 

 このページに書いてある日本武尊と暗黒神話。それ以外はページを捲っても何も書かれてない。

 

「暗黒神話ってなんでしょうか?単純に神々の負の側面とか?」

 

 亀宮さんの考えは諸星大先生の漫画の暗黒神話には結び付けてない。まぁ当然だな。

 あの漫画は確か1980年前後の少年ジャンプに連載していた。この手帳のカレンダーは1982年だから、ヤバいな時代的には合うな。

 

「確かに日本武尊の負の側面は有名だ……

仮に肉親の手足をもいで簀巻きにするとか、父親の愛人を奪うとかが負の部分って言われても、今回の事件に関連が有るのかな?」

 

 多分だが結界を破って中に入った測量会社の社員を見せしめに殺して放置した。

 此方から近付かなければ、或いは危害を加えないのかもしれない。だが警告を無視して多数の人間が奴のテリトリーに侵入してしまった。

 問答無用で殺しているが、テリトリーから出て来る気配は無い。

 

 今の所だけど……

 

「日本武尊そのものではなくてですね。彼の逸話に関連する場所とかが関係してるのでは?

例えば彼は、東国平定で最初に伊勢神宮に立ち寄ってます。当時の斎王は彼の叔母である倭姫。

彼女は日本武尊に群雲の剣を授けています。次の尾張の国では最初の妻である、宮ズ姫(みやずひめ)と出会ってますし、彼の最後の地でも有ります。

山の神に倒された場所ですから……」

 

 白い鹿だか猪を神の使いとは考えたが、無視した為に雷だか雹だかに打たれてしまった。その傷が治らずに死んだんだっけ?

 

「うーん、伊勢神宮も尾張の国も近いけど……どうなんだろ?

尾張の国の後は相模の国の賊退治だしな。群雲の剣が草薙の剣と呼ばれる由縁の……」

 

 お互い腕を組んで考え込む……イマイチ名古屋のあの山林と日本武尊が結び付かない。

 何気なく手帳を弄っていると革のカバーの隙間に何かが挟まっているのに気付いた。

 

「何だろう?」

 

 隙間を広げて取り出すと、それは写真だった。古い、それこそ白黒の古い写真だ。

 

「今のプリントサイズより小さいですね。それに白黒なんて久し振りに見ましたよ」

 

 普段よく見る写真よりも二回りは小さな白黒写真。そこには洞窟の入口が写っている。だが周辺が殆ど写ってないので場所の特定が難しい。

 

「洞窟か……あの山林の中に有るのかな?なっ?これは……血だな」

 

 何気なく裏返したが、指紋が張り付いている。べっとりとした血と一緒に……

 

「これが禍々しい気配の正体か?だが、この指紋は小さくて細い。見た感じでは女性か子供だ……」

 

 先代の岩泉氏は写真で見る限りは厳つい感じだった。手だって太く大きかった。

 戦後で苦労した人の働く厳つい手だ。こんなに小さく細くはない。じゃあ誰の指紋なんだ?

 

「警察に指紋照合は頼めませんよね?」

 

 亀宮さんの言葉に、良く刑事ドラマで見る鑑識の人達を思い浮かべる。

 彼等ならデータベースに有れば一発で分かるだろう。だが……

 

「無理だと思う。それに犯罪歴が無ければ指紋は保管してない。

その線は個人情報保護の観点からも教えてはくれないだろうね。

後は先代岩泉氏の周りに居た人の可能性から調べるにしても難しいだろうな」

 

 何かの犯罪の決定的な証拠でもなきゃ警察は動かない。

 仮に現当主の岩泉氏に頼んでも、今の所は事件解決の有力な手掛かりでもないから無理だろうな……

 先ずは写真の洞窟について調べるか。グーグルアースで可能な限り拡大して山林を調べれば或いは……

 

「この写真も風巻姉妹に調べて貰おう。場所を特定したいな。

地形まで分かるかは微妙だが、グーグルアースで山林を調べてみよう。

駄目なら聞き込み、先ずは山林に入らずに調べるだけ調べよう」

 

 手帳については、大体方針は固まった。次は放置していた暖炉だ。胡蝶は餓鬼の気配が濃厚と言った。

 僕では感じられないが、彼女が感じたなら正しい。

 

 暖炉の前で屈んで調べる……

 

「ん?これ暖炉じゃないな……どっちかと言えばダクトじゃないかな?」

 

 壁に縦50㎝横70㎝の鉄製格子枠が嵌っている。格子の幅は3㎝程度、縦に均等になっている。

 本来の暖炉なら薪や炭を燃やし暖を取る。だが床が無くて穴が開いてるんだよ、コレ。

 上は塞がり下に深い穴が開いている。しかも嵌められた格子は上下左右をボルトでガッチリと固定してある。

 レンチを使わなければ開けられない構造だ。懐からマグライトを取り出して奥を見る。

 

 格子の隙間から届く強力なマグライトの光……

 

「自然石みたいな壁だな。もしかしたら自然に出来た縦穴じゃないか?

それを厳重に塞いでいるのかな?何故だ、何故わざわざ塞いでいるんだ?」

 

 格子に手を当てていた亀宮さんが、自分の髪の毛を一房摘み近付ける。風により僅かに靡く髪の毛……内側から部屋の中に風が入ってきている。

 

「風を感じます。何となくですが、この縦穴と写真の洞窟って繋がっている気がします。勿論、霊感ですが……」

 

 安易な発想だが、実は僕もそれは考えた。だが縦穴は精々が50㎝角だから、調べるとしても人が降りるには難しい。

 ロッククライマーなら可能かもしれないが、僕だと穴に詰まって終わりだ。試しに机の上に置いてあった文鎮を落としてみる。

 

 円形の文鎮を縦の隙間に押し込むと、何の抵抗も無く闇の中に消えていった……数秒後、僅かに金属音が聞こえた。

 

「うーん、思ったより深いな。落下して数秒後に音が聞こえたって事は30m以上有るかな……」

 

「つまりは地下洞窟に繋がってる?それとも空井戸かしら?」

 

 分かった事は餓鬼の気配がする穴は深いって事だ。地獄に繋がってる様で嫌だな……屈んで暖炉みたいな物を見ていても仕方無い。

 立ち上がりパンパンとズボンを叩いて埃を落とす。

 

「さて夕飯を食べに一旦出ましょう。滝沢さん、書斎の鍵は預かってたよね。戸締まりはしておこう。食後にもう少し調べようか?」

 

 短時間で幾つものヒントが見付かった。

 後はパズル宜しくピースを嵌めていくだけだが、原因を特定出来ても解決にはならないんだよな。

 窓が無いので時計でしか時間を判断する術はないが、腹時計は既に6時を過ぎている。

 適当に歩いて使用人を見付けると夕飯の食べれる場所を聞いた。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 山荘には専属のコックが居る。10人位が座れるテーブルが4つ並んでいる本格的な食堂だ。

 白いテーブルクロス、磨き上げられた銀製品の食器。そこに座る美人二人とオッサン五人……御手洗達と合流し、食堂に通されたがメニューは選べないみたいだ。

 

 普通の洋食のコース料理を頂く。

 

 サラダに磨き上げられられた銀のフォークを突き刺す。サニーレタスを頬張るが、残念ながら味は普通だ。

 食器は上等だが料理は普通、全くもって普通だ。それ程新鮮でもないサニーレタスに、市販品らしいドレッシング。

 

 食事付きのビジネスホテルで饗される料理のグレードと言えば分かり易いか……最初の予想通り、ここに集められた連中は失っても惜しくないのだろう。

 

「夕飯を食べたら少し休んで、引き続き書斎を調べよう。何も見付からないじゃ格好悪いからな」

 

 周りに聞こえる様に話す。如何にも書斎では手掛かりが見付からなかったと……

 

「そうですね。榎本さん、調べたら一旦名古屋迄行きませんか?」

 

 何故か箸でサラダを食べる亀宮さんが聞いてきた。確かに敵と言うか信用出来ない連中に囲まれていては、ゆっくり休めないか。

 それに早めに手掛かりを渡した方が良いな。サラダの次に出されたステーキをナイフとフォークで切り分ける。

 肉はそれなりの質だが、焼き過ぎだ。いや、僕の舌が肥えてるだけだろう。

 御手洗達は美味そうに食べているし、お代わりもしている。焼き気味のステーキを一切れ口にいれて咀嚼する。

 

 うーむ、結衣ちゃんの手料理を食べ桜岡さんと気に入った店でフードファイトを繰り返していたツケが来たのかな?

 

「榎本さん、余り食事が進んでませんが……体調でも悪いんですか?」

 

 向かい側に座っている亀宮さんが心配そうに僕を見ている。ああ、飯が不味いんすよ!とは言えない。

 

「少し考える事が多くて上の空でした。大丈夫ですよ、体調は万全ですから」

 

「なら良いんですが……舌が肥えてる榎本さんですから、料理が気に入らないのかと。何なら外に飲みに行きますか?」

 

「おお、酒ですか!良いですな」

 

「亀宮様、仕事中です。控えて下さい」

 

 顔を引き吊らせている滝沢さんを見れば分かる。彼女は亀宮さんの酒乱気味な絡み酒を知ってるな……

 

「初日ですし、書斎の調査も終わってないですから遠慮しますよ。やる事やって今夜は早めに休みましょう。

明日から本格的に忙しくなりますから」

 

 亀宮さんの気遣いと滝沢さんの心配を天秤に掛けて後者を取る。

 ヘベレケの亀宮さんは無防備で危険だから、加茂宮の連中に彼女の痴態を見せる必要は無い。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 夕食後、少し休んでから再び書斎に来た。御手洗達は来ていない。

 一応礼儀で話を振ったが、知的労働は苦手と言うか……交代で部屋の外を見張って貰っている。

 だが小銭・手帳・写真・暖炉と重要そうなアイテムは既に手中に有る。後は散々調べた的な感じを出せば良い。

 つまり本棚を引っ掻き回したりして多少の演出をするのだ。

 

「榎本さん、適当に本を入れ替えたり出し入れするだけで良いのか?部屋を荒らしているみたいで嫌なんだが?」

 

 滝沢さんから真っ当な意見が来たが、今はカモフラージュも必要なんです!

 

 

第159話

 

 先代岩泉氏の書斎。

 

 此処には彼が何らかの呪術的な関わりが有った事を仄めかす証拠が沢山出て来た。古銭・手帳・写真・色々な関連書物。

 それに胡蝶が餓鬼の残滓がこびり付いていると言った暖炉擬き。

 それらを纏めて考えると、先代岩泉氏は古代の神々の暗黒面の何かと関係している。

 その何かが絞り切れないのだが、イザナギとイザナミに日本武尊が有力だ。

 勿論、そんな神々が相手なら僕等に勝ち目は無い。その関係の何かが問題なんだろう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ねぇ榎本さん。こんなノートが挟まってたんだが……コレって関係有るのだろうか?」

 

 粗方の証拠品は確保出来たのでダミーの為に本棚の書籍類を出し入れし、如何にも入念に調査した形跡を醸し出そうとしたが……

 出るわ出るわ、疑わしい怪しいと思われる品物が!滝沢さんが差し出してきたノートには、ビッシリと祝詞が書かれている。

 パラパラと捲るが、ノートの半分位まで几帳面に万年筆で書かれている。筆跡は手帳に書かれた文字と比べても似ている気がする。

 

「んー……何の祝詞かは調べないと分からないな。関西巫女連合の連中なら分かるかもしれないが、聞くに聞けないな」

 

 亀宮さんは僕からノートを受け取り、熱心に読んでいる。

 

「この祝詞ですが……同じ文章が繰り返し書かれてますね。何か祝詞を覚える為に練習している様な……

ほら、学生時代の記憶術に何度も繰り返し書いて覚えるとかやりませんでしたか?」

 

 漢字の書き取り練習か?だが確かにノート2ページ分の内容が、繰り返し書かれている。

 普通に考えれば、この祝詞を調べれば重要なヒントが分かるのだが……机の上に並べられたノートを見てウンザリする。

 そこには同じ様な祝詞が書かれた7冊の大学ノートが置かれている。

 

「つまり先代岩泉氏は、神主に成りたかった?どれも微妙に違う祝詞だけど……」

 

 試しに胸ポケットから携帯電話を取り出しGoogleに繋ぎ、祝詞の一節を入力し検索する。

 

「科戸乃風(しなどのかぜ)の雨乃八重雲(あめのやえぐも)っと……おっ?検索に引っ掛かったな。

大祓いの祝詞か。しかも現代訳の方だな」

 

 魔を祓う祝詞だ。だが比較的一般的にも知られている祝詞なんだろう。インターネットで検索出来る位だし、秘術でも何でも無い。

 

「分かりました!先代岩泉氏は自ら今回の騒動の原因を祓おうと調べていた。

しかし志半ばで亡くなり、抑えきれないナニかが今回の悪事を働いている」

 

 ポンと手を叩き持論を話す滝沢さん。ドヤ顔だが、それは穴だらけの推理だぞ。亀宮さんも難しい顔をしているし。

 

「それも有るかも知れない。だが、単に良くない物を祓うなら本職に頼めば良い。

自分で祓うリスクの方がデカい。

仮に人に言えない事情が有るなら、信用のおける口の堅い連中を探す。又は口を封じるな。

自らが危険を犯してまでは霊能力者や神職の真似事はしないよ、普通ならね。ましてや岩泉一族は金持ちで権力者だよ」

 

 素人が学んで自分で何とかしようなんて、それは他に頼む伝手やお金が無い人達の考える事だ。

 自分以外に対応出来る人が居ない時に、仕方無く最後の手段で危険な行為に及ぶ……だが金も権力も有った先代岩泉氏が、自ら危険を伴う除霊をする必要は無い。

 

「確かにそうね……私達だって居るんだし、守秘義務だって有るわ。無ければ仕事なんて請けられない。

私達に依頼してくる方々は大抵が何かしらの後ろ暗い事が有る連中よ。亀宮の700年の歴史を見ても秘密を守る事は周知の事実。

加茂宮も同じ、伊集院は歴史が浅いから分からないけど……」

 

 やっぱり金持ちや権力者の依頼人が多い御三家は色々と有るんだな。其処を詳しく聞くのは避けた方が良いだろう。

 だが幾ら悩んでも三人寄れば文殊の知恵とは限らない。調査は風巻姉妹に頼もう。

 

「今は限られた時間で手掛かりを探す事が大切だ!さぁもう少し頑張ろう」

 

 パンパンと手を叩いて調査の再開を促す。今は悩むより探す方が大切だからね……そして更に二時間程、頑張って色々調べた。

 結局、幾つかの本棚に色々と書き込まれた大学ノートは挟まっていた。

 

 合計12冊の大学ノートには同じ様な祝詞が書かれており、先代岩泉氏は強く神職に惹かれていたと思われる。

 御手洗達を書斎に呼び、大学ノートを分散して隠し持って貰う。僕は一冊だけ隠さずに手に持つ。

 

 手ぶらで調べていた書斎から出て来るのは不自然だ。何かしらの成果が無ければ、朝までの期限の途中で出て来るのは無い。

 普通はギリギリまで調べるから……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 日付が変わろうと言う時間に調査を終了し、執事の徳田を探し書斎の鍵を返し宛てがわれた部屋を教えて貰う。

 無駄に豪華な廊下を歩き客間へと向かうと、途中で高槻さんに出会った。

 まさに彼女達が宛てがわれた部屋の前を通過する直前に、扉が開いてバッタリ。

 勿論、偶然な訳も無く分かっていて部屋から出て来たんだ。廊下を塞ぐ様にキッチリと巫女服を着て此方を見詰める高槻さん。

 無言で歩いていたのにタイミングを合わせられるとは、探査系の術でも使ったのか?それとも扉の内側でずっと気配を探ってた?

 少なくとも扉自体は閉まってたから、覗いていた訳じゃないだろう。

 

「遅くまで御苦労様でしたね。何か分かりましたか?」

 

 ニコヤカに微笑みかけながら、労りの言葉を掛けられたが……目がね、笑ってないんだよね。やはり待ち伏せされてたんだよな。

 

「ふふふ、どうかしら?まぁ秘密って事でお願いしますわ」

 

 亀宮さんは余裕綽々、高槻さんを相手に煙に巻く構えだ。正直眠いから、美女二人とは言え腹芸の応酬は辛いんだよ。

 

「まぁ!手掛かりを独り占めって酷くないですか?ねぇ、榎本さん」

 

 今度は少し非難した表情で僕を見て訴える。関西巫女連合は、桜岡さんが所属する団体。だから無碍な扱いも対応もし辛い。

 だが今の僕は、亀宮さんの派閥の一員だから……

 

「書斎の鍵は執事の徳田に返しましたよ。僕等の調査はお終い。

次が誰かは決めてないでしょ?早く鍵を確保してはどうですか?」

 

 色々と見付けた品々は持ち出した。だが、まだまだ調べればヒントは見付かるだろう。てか、怪しい手掛かりが多過ぎだ。

 僕等の集めた手掛かりだけでも調査に膨大な時間が掛かるだろう。

 

「あらあら、桜岡さんの彼氏は冷たいお方ですね?」

 

 当然だが、やはり其処を突いてくるわな。高槻さんは意外と腹黒いと言うか交渉慣れをしている。

 亀宮さんが駄目なら僕に切り替える辺りが強かな感じがする。だけど、お互い仕事で来ているのだし、情報収集は当たり前なんだけどね。

 

「いやいや、ソレとコレは無関係ですよ。一つ言える事は、先代岩泉氏の蔵書には日本書紀や古事記といった話が多く有ります。

何百冊と言う単位なので全て読む訳にもいかずに、僕等は背表紙の写真を撮りました。

つまり神職の貴女方が有利でしょう。加茂宮や伊集院よりも先に調べればね。

後は怪しい気配のする暖炉擬(もど)きが有ります。私見ですが餓鬼道と思いますので調べてみては?

僕が言えるのは此処までですね。後はお互い頑張るしかないでしょ?」

 

 首を傾げて少し考えている高槻さん。渡された情報を整理してるのだろう。

 

「その手に持っている大学ノートは何ですか?まさか書斎から持ち出したのですか?」

 

 僕が小脇に挟んだ大学ノートを指差す。12冊の大学ノートは御手洗達に分散して渡してある。

 彼等は各々が隠し持っているが、僕はダミーで一冊だけ持っているのだが……それに喰い付いたな。

 

「ええ、書斎の本棚に挟まってました。

筆跡を調べなければ分かりませんが、先代岩泉氏の直筆だと思います。内容はこれから調べますがね……」

 

 大学ノートを弄びながら高槻さんの質問に応える。彼女の目がスッと細くなった。

 

「重要な証拠品を独占するのは駄目ですよ?」

 

 スッと大学ノートを彼女に渡す。一瞬ポカンとしたが、直ぐに受け取り中を見る。

 

「これは……」

 

「大祓いの祝詞ですね。何回も練習なのか同じ内容を書き写してます。

その祝詞自体に意味が有るのか書体や何かに意味が有るのかは……これから調べますがね。

どうですか?特殊な祝詞ですか?」

 

 ノートを凝視して考え込む彼女。突然の情報提供と質問に悩んでいるみたいだな。

 

「この祝詞は……この最初の科戸乃風(しなどのかぜ)のとは、シナツヒコノカミを表します。

風の神ですが、永遠不死の神なのです。無碍自在の最高の威神力を持つ風の。この祝詞を岩泉氏が学ぶのは……」

 

 流石は巫女だ。祝詞の持つ意味と内容を知っているんだな。

 そして情報を教えるのは、彼女なりの情報提供に対する誠意なんだろう。

 

「彼は不死を望んで居たと?」

 

「いえ、そうとは言えません。風の祓いは天津の罪を祓うのです。ですから、魔を祓うと言う意味でしたら可笑しくは無いのです」

 

 とうの昔に死んだ人間が不死を願う……のは些か乱暴な推理か?だが現在進行形で人が死んでるんだ。

 その原因と不死を繋げるにはピースが足りない。逆に見せてない11冊に書かれた祝詞との関連も考えなきゃ駄目だな。

 

「流石は巫女と言う事ですね。有難う御座いました。十分参考になりました」

 

 廊下の真ん中で立ち話も無いし、他の連中から要らぬ茶々が入る前にお開きにするか。

 

「ええ、お互いに。私は徳田さんに鍵を借りに行きます。やはり桜岡さんの思い人は優しいですね。では……」

 

 一礼して僕等が来た廊下の先に歩いていく。その後ろ姿は……巫女さん好きには堪らないんだろうな。

 

「高槻さんのヒントは重要だね。残りの祝詞も意味を調べてみよう。

共通点が見付かれば、何かが分かるかもねって……亀宮さん、もしかして不機嫌?」

 

 分かり易く頬を膨らませている彼女を見て、何か気に障る行動をしたかなと考える……

 高槻さんに渡した情報も大した物はなく、逆に専門家の意見も聞けた。ノートを見せてしまったが、渡してないし問題無いと思う。

 序でに彼女にデレデレもしていない。

 

 困って滝沢さんや御手洗を見るが、目を逸らされたりニヤニヤされたり……何だろう、この状況は?

 まぁ良いか、だが高槻さんが徳田に鍵を借りたら直ぐにでも調べ始める。遅くとも明日の朝には皆にバレて一寸した騒ぎになる。

 その時に持ち出した品々を持ってるのは不味い。直ぐにでも名古屋の拠点に運ぶべきだな。

 

「亀宮さん……」

 

「何です?」

 

 まだ不機嫌ですね。

 

「高槻さんに情報は流れた。彼女は直ぐにでも書斎を調べるだろう。

明日の朝には皆が知る事になるから、僕等にチョッカイ掛ける奴が居る筈だ。

持ち出した品々をその時も持ってるのは不味い。僕は此から直ぐに名古屋の拠点に行くよ。

出来れば亀宮さんも一緒に来て欲しい。僕と亀宮さんが居なければ、誤魔化す事は出来る。

御手洗達は護衛専門だから知らぬ存ぜぬで通せるし、逆に誰も居ないじゃ不自然だ。

岩泉氏に全員で引き揚げたと思われるのも良くない」

 

 ニパっと笑顔になった。機嫌が良くなったんだな、分かり易い感情の変化だ。

 

「私が車で送ります」

 

「我々が待機するんだな。なるべく不在を知られない様に朝飯は部屋に届けさせる。

不在がバレたら早朝に出掛けたとでも言うさ。留守は任せろ。榎本も亀宮様の護衛を任せたぞ」

 

 良い対応だ。兎に角、見付けた品々を風巻姉妹に渡して調べて貰う。

 物が無ければ何とでも言えるし、高槻さんに見せた大学ノートだけコピーを取って持っていれば良い。

 最悪は一冊だけ大学ノートを渡せば良いのだから、調査に支障は出ない。

 

「頼んだ。さぁ亀宮さん、眠いけどもうひと頑張りしようか」

 

「深夜のドライブ、楽しみですね」

 

 あーうん、そうだね。僕等って仕事で来ているんだけど、亀宮さん忘れてないよね?

 


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