榎本心霊調査事務所(修正版)   作:Amber bird

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第151話から第153話

第151話

 

 神奈川県から愛知県まで車で移動する……新幹線なら二時間も掛からないが、東名高速を使っても一寸した時間だ。

 町田ICから名古屋ICまでは優に300kmは有るから、休憩を入れると5時間はみないと駄目だろう。

 此方の運転は滝沢さんだけだし、途中で交代したいが僕が運転しても任意保険の対象になるのかな?

 所有者から見れば全くの第三者だし、社用車でも登録されてないだろう。

 運転に自信は有るが、事故らない保証も無い。

 

「滝沢さん?」

 

「はっはい!」

 

 ん?何故に慌てる?

 

「名古屋まで長丁場だけど運転平気かい?このベンツ、僕が運転しても万が一の時に保険使える?」

 

「あっああ、運転は私だけで大丈夫だ。だが保険の方は分からない。

このベンツは一族の会社が所有してるので、私は適用されるが保険の契約内容は知らない」

 

 うーん、確かに契約内容までは知らされてないか。滝沢さんも自分が大丈夫なら気にしないだろうし……

 しかし流石はベンツ、車内が広いよな。Sクラスだと幅が1575mmもあるから、僕と亀宮さんが座っても広く感じる。

 

 座高も960mmも有るから、天井に頭が付く事も無い。国産だとアリストに乗った事は有るが、あれも広かった……

 後部座席の広さを堪能してから本題に入る。

 

「こまめに休憩を入れよう。この後の予定は?直接岩泉氏の別荘に向かうの?」

 

「いや、名古屋市内に防犯を重視したマンションを二部屋借りてある。先に寄ってから先方を訪ねる。

岩泉氏の別荘には4時には着きたい。マンションから別荘までは1時間は掛かる」

 

 と言う事は3時にはマンションを出発だから、2時過ぎには名古屋市内か……今は8時30分だから、あと5時間弱。

 朝少し騒いでしまって遅れたが、元々の時間設定に余裕が無くね?携帯を取り出しJH日本道路公団のHPに繋げる。

 物珍しそうに亀宮さんが、僕に寄りかかりながら携帯電話の画面を覗き込む。

 触れる事が分かってから、ちょくちょく触ってくるのだが……スキンシップに飢えていたのかな?

 東名高速の現在の状況を調べると、海老名ICから厚木ICの間が渋滞だ。 

 ここは厚木ICで乗り降りする車が多いから、車線変更やら合流やらで慢性渋滞なんだよな。

 

 御殿場ICから沼津ICもそうだ。

 

 まぁ御殿場ICから4車線から2車線に変わるし、沼津ICはトラックの乗り降りが多い。港から海産物を運ぶトラックのね。

 うーん、御殿場辺りで休憩するかな。

 

「滝沢さん、御殿場辺りで一回休憩しない?それとも手前の海老名辺りが良い?

海老名・厚木間が渋滞らしいし、出来れば御殿場まで頑張った方が良いと思う」

 

 なるべく渋滞の所は通過した方が、残りの時間が読めるからね。

 

「御殿場で大丈夫だ。この携帯で後ろの御手洗に電話して伝えて欲しい。はぐれはしないが、一応知らせておかないとな」

 

 缶ホルダーに差してあった携帯を受け取る。防水性・耐衝撃性の高いタイプで、凡そ女性の持つ物じゃない。

 仕事用なんだろうか?操作がイマイチ分からないが、何とかアドレス帳を開いて御手洗の電話番号を探し出す。

 通話ボタンを押してコール、三回目で繋がった。

 

「なんだ?」

 

 男らしい対応だが、一応名乗ろうよ。

 

「ああ、榎本だ。滝沢さんの電話を借りたんだが、この先一度御殿場で休憩を挟むから、それの連絡だ。

後で僕の携帯からも掛けるから、番号を登録してくれ」

 

「分かった。真後ろを走るから安心しろ。車での尾行は馴れてるから、見えなくなっても心配するなよ」

 

「ああ、じゃ後でな」

 

 通話を終えると「私の携帯にも榎本さんの番号を登録しておいて下さい。今後、必要ですから」と言われたので馴れない手付きで操作していたら、亀宮さんに取り上げられた。

 

「おっきな手では、操作もままならないですわ。私がやりますから……」

 

 世間に疎いと思っていた亀宮さんに、携帯電話を奪われた。手慣れた手付きで、ポチポチと操作をしているが……

 

「ちょっと待とうか?亀宮さん、登録の名前が躾の行き届いたクマさんになってるよ。何故かな?」

 

 彼女は僕の番号を登録しているが、名前をクマさんと打ち込んでいる。

 

「あっ、登録したね!ちょ、駄目だよ他人の携帯電話で遊んじゃ駄目だって……」

 

 亀宮さんから携帯を奪おうとするが、のらりくらりとかわされてしまう。

 狭い車内だから、どうしても携帯電話を奪う為には、亀宮さんにのし掛かる様になってしまうし……

 

「榎本さん、後で直しておきますから」

 

 見かねた?滝沢さんから言われてしまったよ。本当にちゃんと直して下さいね!

 

「ほら、滝沢さんもそう言ってますわ。クマさんで分かりますから平気ですよ」

 

 滝沢さんの此方を見ずに差し出す手に、携帯電話を乗せてしまった。全く亀宮さんは楽しそうにクスクス笑っている。

 

「榎本さん」

 

「何ですか?」

 

「榎本さんって何時から筋肉ムキムキだったんですか?」

 

 何時からって……

 

「んー、結構昔からですよ。そうだな……除霊の仕事を始めた頃はね、貧弱なボーイだったよ。

当時は経験も知識も無い、本当に毎日が死にそうな位に怪我をしてたね。無理・無茶・無謀、考え無しの若造だったね……」

 

 軍司さんと仕事を始めた時が、一番酷かったな。胡蝶は今と違い全然協力的じゃなかった。

 ギリギリまで助けてくれなかったから、何時も包帯だらけだったし……

 

「狂犬と呼ばれてたんだろ?本性は人喰い熊だけど普段は優しいから、想像がつかないな」

 

 滝沢さんも会話に参加してきたが、そんなにオッサンの過去話が気になるかい?

 

「狂犬ね……若さ故の過ちって訳じゃないけどさ。当時はパクったバイクで走り出す年頃だったよ。

体中に傷が絶えなかったし。だからかな。肉体を鍛え始めたのは、単純に弱いからだった」

 

 除霊に失敗して逃げ出す時ってさ、グランドを走るみたいに平地じゃない。

 障害物競争と同じなんだよ。物を退かして・飛び越えて・押し出して……持久力は勿論だけど、障害物を何とかするには力がいる。

 ついでに怪我をしない為には、筋肉の鎧を纏うのが分かり易かったんだ。

 

「榎本さんの体って、傷だらけじゃないですか?野田の蹴りは平気だったのが不思議で……だって普通なら大怪我ですよ!

彼にはお見舞いがてら厳重注意をしましたけど、何故か不思議そうでした。手応えは有ったのに、無傷なんて自信がなくなるって……」

 

 野田、奴こそ狂犬だな。いや昔の僕も似た様なモノだったけどさ。

 奴も亀宮さんには弱いんだろうな。見舞いに来て貰って喜んだ奴の姿が、容易に想像出来る。

 

 奴は盲目的に亀宮さんを慕っていた……

 

「うーん、野田の蹴りは結構効いたよ。でも僕も鉄板を仕込んでたからね。今だってほら、腕を触ってごらん」

 

 そう言って右手を亀宮さんに突き出す。因みに亀宮さんは運転席の後ろに座っている。後部座席では、其方の方が安全だから。

 服の上から腕を触ったり、叩いたりして確認する亀宮さん。

 

「本当、その……凄く……大きくて……固いです」

 

 ん?何か不適切な台詞が聞こえた様な?

 

「腹周り、脛に足の先にも鉄板を仕込んでるんだ。あっ、コラ!駄目だよ、それは危ないから……」

 

 亀宮さんが脇の下に仕込んでいた特殊警棒を引っ張り出している。前もケミカルライトや発煙筒を見付けては引っ張り出してたな。

 ルームミラーで確認したのか、滝沢さんも興味津々な様子だが?

 

「本格的ですね。私も特殊警棒とスタンガン、それに痴漢撃退スプレーを持ってます。あと拘束用の針金を……」

 

 針金で拘束って、結構エグいんだな。アレって暴れると肉に食い込んで痛いんだよね。

 流石は亀宮一族の護衛部隊って事かな。綺麗な顔立ちだが、それなりの修羅場を潜ってるのだろう。

 亀宮さんから特殊警棒を取り上げて元に戻す。

 

「僕は後はナックルだけかな。御札や清めた塩は当然持ってるけどね」

 

 実は背中に大振りのナイフを一本、右足の脛にもサバイバルナイフを仕込んで有る。十特ナイフも二本、ポーチとキーホルダーに付けている。

 勿論、最後の手段だが刃物は意外に使う場合が有るから便利なんだ。

 

「確かに榎本さんの防御力の秘密は分かりましたが、それだけでは衝撃は止められないですよね?」

 

 滝沢さんの疑問も当然だ!人間の肉体は、そこまで強固にはならない。

 実際に僕も肋骨や腕の骨が折れたか罅(ひび)が入っていた。メディカル胡蝶が治してくれただけだ。

 

「その辺は秘密だよ。大抵の霊能力者は自身の力を隠すけど、不快に思わないでね。

力が知れ渡ると危険度も跳ね上がるんだ。因果な商売なんだよ」

 

 特に僕はこれからが大変になりそうなんだ……

 

「私なんて業界で日本一自分の能力が知られてますよ。一族当主は亀ちゃんに代々憑かれるから、昔から能力は一緒ですし」

 

 確かに亀ちゃんの能力は知れ渡っている。強力な防御力に除霊方法は喰う、以上!

 だが、そんな単純な能力を跳ね返す程に強力過ぎるんだよな。でも乗って飛べるのは知らなかった……

 

「そうだね。霊獣亀ちゃんの力は有名だ……でも乗って飛べるなんて知らなかったよ。

それに防御力が高いのは知ってたけど、断熱性能まで有るなんて羨ましい」

 

 亀に乗って飛ぶ美女って、どうかとは思うけどね。昔、イルカに乗った少年?ってドラマが有ったな。城みちるが主演だっけ?

 でも飛べるのって羨ましい、だって逃走の成功確率が跳ね上がるし。

 

「私は榎本さんが羨ましいです。私だって可愛い方が好きな……」

 

「エヘンエヘン」

 

 胡蝶の事がバレるのは早いかも知れない。柳さんに見られたからには、メリッサ様にもバレてるだろう。

 

「あら、すみません」

 

 エヘッって可愛いらしく舌を出して謝っているが既に二回目だからな、そのテヘペロは……

 

「榎本さんは可愛い系が、その……好きなタイプなのか?

亀宮様も桜岡さんも、どちらかと言えば巨乳系おっとりタイプの美人じゃないのか?」

 

 滝沢さんは桜岡さんと直接は会ってないよな?つまり僕の情報は、亀宮一族に広まっている。

 確かに亀宮さんと桜岡さんは、巨乳・ロング・お嬢様・おっとり系且つ天然……キャラが被ってるな。

 

「まぁ僕も一般的な男子ですから、美人系も可愛い系も大好きですよ。てか嫌いな人は居ないでしょ?特殊な趣味を持ってなければ……」

 

 世間にはデブ専とか老け専とか、特殊な性癖の奴らも居るからな。ロリコンの僕は、確かに可愛い系が大好きだ!

 だから滝沢さんが正解。

 

「特殊な趣味って?」

 

「まぁアレですよ。ブサ可愛いとかキモ可愛いとか、変なのが好きな人が居るらしいじゃないですか。僕には理解出来ませんが……」

 

 微妙に誤魔化して説明する。妙齢の女性達に下ネタや性癖の話はタブーだろ?

 

「ああ、確かにそうですね!不細工なニャンコとかワンコとか、ブサ可愛いですね」

 

「いや、亀宮様。榎本さんは人間に対しての評価を言っています。

アレですよ。世間には、バナナマンの太った方を可愛いって感じる人が居るらしいです」

 

 的確に突っ込む滝沢さん……彼女って、こんなキャラだったか?残念な美人じゃなかったかな?

 

「えっ?あの方を可愛いと?」

 

 亀宮さんが固まったぞ。もしかして、キモ系は苦手なのかな?

 

「世間には稀に奇特な方も居るんですよ。さて、そろそろ東名高速に入るかな?」

 

 横須賀から東名高速町田ICに乗るには、一度横浜横須賀道路を経由して乗り継がねばならない。

 世間話に花を咲かせていたが、乗り継ぎは上手く行った様だ……

 

「そうですね。東名高速に乗ったら、御殿場迄は真っ直ぐ行きます。途中でもう一回、食事休憩を入れましょう」

 

「浜松辺りで食事にしませんか?ICのレストランですが、中々美味い鰻を食べさせますよ」

 

「榎本さんって、本当に食べるのが大好きですよね」

 

 此方の車内は美人二人と同乗しているので、和気あいあいとした雰囲気だった。

 

 

第152話

 

 亀宮さんの派閥に属してから初めての仕事。それは愛知県の山林で起こった惨殺事件の解明だ。

 現役国会議員が絡む曰く付きの事件だが、当初は慎重に調査を進める予定だった。

 しかし現実は何時も非情であり、僕が予想した状況と見通しは簡単に覆った。

 

 顧客の我が儘で直ぐにでも来て調べろ!しかも他にも霊能力者を雇うぞ!だから成功報酬は五億円だ!

 

 こんな方法だと、お金に汚い連中が集まって来る。集まった連中は基本的に味方じゃないから、余計に厄介なんだよね。

 誰だって五億円なんて餌をぶら下げられたら、出し抜きや足の引っ張り合いをするよ。

 

 ヤレヤレだぜ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 町田ICから東名高速に乗り、現在は海老名ICを過ぎて厚木ICの手前辺りだ。

 厚木ICで下りる車が車線変更をしだした。少しずつ車の流れが緩やかになってきた。驚いた事に滝沢さんの運転は繊細で慎重だ。

 

 うん、上手い部類だろう。

 

「そろそろ厚木ICだね。渋滞迄はいかないが、車が多くなってきたね」

 

「ああ、走行車線を走っていれば平気なんだが……覆面パトカーが怖いな」

 

 チラリと速度計を見れば110kmを超えている。急いでいるから仕方ないがスピード違反の範疇だな。

 まぁ渋滞になりつつ有るから、そろそろ減速するだろう。

 

「覆面パトカーもそうだが、オービスにも気を付けるんだ。未だ先だけど由比PAの手前にはオービスが設置されてるよ」

 

「ああ、由比PA付近のオービスは有名だな。大体の場所は分かるから平気だ。東名高速は何度も走ってるから」

 

 この分なら運転は任せても大丈夫だろう。革張りシートに深々と座り込む。

 流石は高級外車は座り心地も防音性も違うな。車窓を見れば緑の木々に新芽が生えて若草色の……

 

「むぐ?」

 

「ポッキー食べます?」

 

 いや、食べます?って物思いに耽る僕の口に、ポッキー突っ込んだよね?亀宮さん、完璧に僕を友達と思ってるな。

 一応仕事仲間で派閥の一員なんだけど……

 

「ああ、有難う御座います。てか、何時の間にお菓子なんて買ったんですか?」

 

「行きにコンビニに寄ったんだ。後部座席のクーラーボックスに飲み物が有る。良ければ飲んでくれ」

 

 クーラーボックス?ああ、コレか。流石は高級外車、何でも出てくるよね。

 亀宮さんから何本かポッキーを貰いポリポリかじる。呑気なのだが、業界最強の人達だから余裕が有るんだろうな……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 思っていたよりスムーズに走る事が出来た。当初は御殿場で昼食を予定したが、沼津まで足を延ばし昼食&休憩をする。

 厳つい黒服六人に男装の美人とお嬢様な美人。何ともヘンテコな組合せの一団が、テーブルを囲んでいる。

 嫌でも周りからの視線を集めるが、御手洗が威嚇すると大抵は目線を逸らすか立ち去ります、はい。

 

 因みに聞こえるヒソヒソ話が「コスプレか?」「ヤクザのお嬢様か?」が多い。

 

「沼津と言えば漁港!そして静岡と言えば鰻と鮪!魚貝類で有名です」

 

 鰻重を持ち上げて力説する。ビバ鰻、ビバ魚貝類!

 

「榎本さん……だからと言って海鮮丼と櫃まぶし、鰻重は食べ過ぎだと思いますよ」

 

「我々だって鰻重二人前にしてるんだ。三人前は食べ過ぎだぞ。満腹は動きが悪くなるから程々が丁度良いんだ」

 

 滝沢さんと御手洗達から酷い中傷を受けた。

 

「僕の霊能力は燃費が悪いんです!だから食事も仕事の内なんです」

 

 これでも普段より少なくしてるのに……彼等の責める様な目に、思わず体を小さくしてしまう。

 それに周りからも、この一団は注目されている。そんな中で丼片手に力説すれば悪目立ちし過ぎるよね、反省……

 

「榎本さんはフードファイター?並みにお食べになるんです。前も仕事でお世話になった旅館でも、特別待遇だったんですよ。

女将さんが専属で賄いをする位に……ふふふっ、晶さん元気にしてますかね?」

 

 そう言えば、後半は亀宮さんと晶ちゃんは良く話してたな。仲良くなったのか?

 

「ええ、先日花見に誘いましてウチに遊びに来たんですよ。結衣ちゃんと随分と打ち解けて、仲良くなってました」

 

 あれから頻繁にメールの遣り取りをしてるみたいだ。共有の話題の時は、僕と結衣ちゃんにCCでメール送ってくるし……

 

「あらあら、仕事の先々で女性と仲良くなるのね?メリッサも言ってましたよ。

頼りになる筋肉ですって。これからも助言が欲しいって言ってたわね。

山小屋の除霊は成功したみたいよ。当然の如く玉の輿は失敗らしいけど」

 

 凄い良い笑顔で嫌みを言われなかったかな?僕とメリッサ様に……

 美味しいと感じていた櫃まぶしの味が、途端に薄くなった気がしてきたぞ。

 これ以上、ダメージを喰らう前に完食だ!

 

 亀宮さんに愛想笑いを向けてから、目の前の料理に挑みかかった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 時間が押している為に、全員が15分程で料理を完食。食べて直ぐに運転は辛いから、10分程休憩を入れる。

 

 皆さんに珈琲を差し入れして「少し電話してきます。車に直接行きますから」と言って距離を取る。

 

 名古屋に行くなら、軍司さんに連絡を入れておかないとね。近くに来たのに連絡が無いと、不義理だと叱られるからな……

 視界の隅に亀宮さん達を捉えながら、壁際で電話をする。吉澤興業が、親父さんの表の顔の会社だ。

 アドレスを呼び出し、事務所に連絡を入れる。携帯電話は緊急時以外は掛けない。

 もし大事な時に呼び出し音をならしては駄目だからね。

 

 数回のコールで繋がった。

 

「もしもし、吉澤興業っす」

 

 電話番の若い組員だな。

 

「ああ、榎本です。軍司さん、居ますか?」

 

「榎本?あっ、先生、榎本先生っすね!ご無沙汰っす、ヤスっす」

 

 ヤスか、未だ生きてたんだな。軍司さんと仕事をする時に居たチンピラの二人の片割れだ。

 ヤスとマサと言って、如何にもな名前だが本名なんだよな。

 渡辺康夫(わたなべやすお)と杉本雅美(すぎもとまさみ)と言う立派な本名も有るのだが、誰からもヤスとマサって呼ばれてるんだよな。

 二人共、十年来の付き合いだが未だに軍司さんの付き人だ。

 

 ヤスは高校を中退、暴走族崩れのチンピラ時代に軍司さんに拾われた。若い時にシンナーのやり過ぎで、前歯の何本かが無いんだ。

 頭も少し悪いが、憎めない奴だ。

 

 マサは格闘家崩れのヤンチャな奴だったが、組との諍いに巻き込まれてズルズルと……こっちも脳筋だが、軍司さんとの特訓を共に行った奴だ。

 だが堪え性が無く不真面目な性格だから効果は薄い。中途半端な筋肉なんだよな。

 

「ああ、久し振りだな。それで軍司さんは居るのかい?」

 

「若頭は出掛けてるっす。親父さんは居るっすよ、代わりますか?」

 

 まぁ普段から余り事務所には居ない人だからな。挨拶だから親父さんに頼んでおくか……

 

「悪いな、繋いでくれ」

 

 暫く待つと久し振りに聞くガラガラな声が聞こえた。

 

「おう、先生。久し振りだな、何でまたコッチに?」

 

 既に70歳に届く筈だが、相変わらず元気だ。

 

「暫く此方で依頼の有った仕事をやりますんで、挨拶ですよ」

 

 ピンで仕事してると思われると、何か頼まれそうだからな。依頼を請けて仕事中だと、ハッキリ言っておかないと駄目だからね。

 

「この時期に名古屋でかい?今コッチは大変だぜ」

 

 この振りは……親父さん、何か情報を掴んでるな。ただの霊能力者の僕が仕事をするのに、内容を聞かずに大変といった。

 つまりは霊能力者として名古屋に来るなら、誰にでも影響が有ると言う事だ。

 素直に聞けば懇切丁寧に教えてくれるが、それだと借りになるからな……カマを掛けてみるか。

 

「多分ですが、その大変に絡んでます。乗り気じゃない依頼ですから……」

 

「何でぇ知ってるのかよ。岩泉の馬鹿息子が、べらぼうな報酬で霊能力者を集めてるぜ。良く無い連中がコッチに流れて来てる。

しかも結構な数の犠牲者が出てるんだ。軍司もソレ絡みで出張ってるんだぜ」

 

 ああ、成功報酬が五億円だからね。腕に自信が有れば、やりたい仕事だろう。何たって人生が買える金額だ。

 だが犠牲者が出てる?最初の犠牲者の他に亀宮の諜報部隊が殺されている。

 だが他の勢力や個人だって調べる可能性を失念してたな。既に何人もの人間が殺されてるのか……

 

「業界最大手の御三家も参加しますから、有象無象は大人しくなりますよ。

僕は今回、亀宮から依頼を請けてます。加茂宮と伊集院とも共同戦線を張るかもです」

 

 これは亀宮さんには伝えておかないと駄目だ。既に当初の調査案は破綻してるな。

 だが、同時に犠牲者が調べた貴重な情報も有るかもしれない。依頼人と会う時に聞ければ御の字か?

 だが正式な依頼を請けて無い連中は無理な突撃とかするし、そもそも管理も共闘も無理だ。

 出し抜かないと駄目なんだから、情報は秘匿するだろう。足並みが乱れる程度なら良いが、下手に相手を刺激すると此方が迷惑だ。

 

「それを親父さんが知ってるのは、参加する気ですか?僕的にはヤバいタイプの相手ですよ。手加減無しの無差別な……」

 

 此処で親父さん率いる堅気でない連中の参入は嫌だな。

 

「うん?いや、俺達は参加はしねえよ。その先を考えてるんだ。

だが、先生が参加するなら安心だ。精々バックアップするからよ。何でも言ってくれ」

 

 そりゃそうだ。お抱えの霊能力者のレベルは低い。親父さんの狙いは成功後の発展する土地の利権狙いか……

 今は同業者達も成功するか・しないかの場所に投資を控えてる。

 だが親父さんは業界の御三家と僕絡みなので、安心して投資を始める。スタートダッシュは新規開拓では有利だ。

 何たって独占状態だからね。

 

「利権狙いですね?良いでしょう、情報は伝えますから協力して下さい」

 

 ギブ&テイクとしては、双方に利が有る。これで風巻一族以外の伝手が出来た。

 そろそろ亀宮さん達の休憩も終わりか?空き缶を片付け始めたから、時間は少ない。

 

「では、また後程に連絡します。これから岩泉氏と会いますので」

 

 直接本人と会える事を匂わせて、話を纏める。

 

「そうだな。久し振りに呑もうぜ。夜が本番の先生だが、俺達は朝からでもバカ騒ぎ出来るんだぜ」

 

 初めて会った時も、早朝から料亭で上がりのキャバ嬢を呼んで騒いだっけ……遠い記憶を思い出していると、亀宮さんが近付いてくるのが見えた。

 

「ははは、お手柔らかに。では手が空いた時点で連絡します」

 

「おう!綺麗どころを用意すっから、偶には羽目を外せや」

 

 ロリじゃないから適当に相手してるからな。親父さんは僕を奥手位に思ってるんだろう。

 丁度電話を切った時に、亀宮さんが隣に来た。

 

「そろそろ出発しますよ。楽しそうでしたけど、誰に電話してたんですか?」

 

 愛知県を根城とした広域暴力団です、とは言えない。

 

 曖昧な笑みで「昔、駆け出しの頃に知り合った人です。近くに行くので連絡を入れないと不義理でしょ?調査期間中ですが、一度挨拶に行こうかと……さぁ滝沢さんが睨んでるから車に行きましょう」と暈かす。

 

 亀宮さんの背中を軽く押して、滝沢さんの方へ誘導する。嬉しそうに隣を歩く亀宮さんを見て、スキンシップが無かったんだなと思う。

 少なくとも男性とは……亀ちゃんも人前で分別無く現れる事は無いしね。ベンツの前まで行くと、全員が車に乗らず待っていた。

 

「すまない、少し話が長くなってしまった。だが幾つかの情報は得られたよ。

今、名古屋には日本中から霊能力者が集まってきてる。

噂を聞いて勝手に調べてる奴が居る。これは短期決戦じゃないと、世間の噂になって失敗するな」

 

 その話を聞いて、皆が顔をしかめた。状況は最悪の二歩くらい手前だ。

 

「ヤレヤレだな。だが、先ずは先方に会わねばなるまい。

榎本さん、風巻様に情報を教えて下さい。向こうにも対策を考えて貰いましょう」

 

 滝沢さんのお願いに頷く。対応を考えるのが上司の仕事だからね……

 

 

第153話

 

 現職国会議員、岩泉氏の依頼の為に名古屋に向かっている。しかし途中からポロポロと良くない報告が知らされてくる。

 どうみても汚職スレスレの自分の土地に税金投入で潤わせる仕組み。それを成功させる為に、危険な除霊を大金で何とかさせようと場当たり的な対応。

 既に大金に目が眩み、命を落としている同業者が多数居るらしい。しかも正式な依頼を要請されているのは、御三家と言われる連中だ。

 一癖も二癖も有る連中をだし抜かればならない。

 

 これは厄介だ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 沼津IC付近で昼食を取り、名古屋に向かっている。外車は余り好きではないが、流石にベンツSクラスは静かだ。

 亀宮さんはお腹が膨れた所為か居眠りモード。うつらうつら始めた。

 

 亀ちゃんが半分具現化して体を支えてるんだぜ。凄いよ亀ちゃん!

 

 僕は先程の内容をメールに纏めている。

 

 ①既に同業者達が聞きつけて無謀な除霊に挑み、殆どが返り討ちになっている。

 

 ②当然だが、世間に噂が漏れ始めた。

 

 亀宮一族だけで解決するなら短期決戦だが無謀だ。

 

 ③今後の方針を決めねばならない。

 

 これらをもう少し説明を入れて肉付けして、ご隠居の婆さんと風巻のオバサンに送信した。さて、単独解決か他勢力と共闘か?

 様子見でお茶を濁すか……僕なら調査は独自で進めて、勝率を上げてから挑む。

 周りの連中が先に解決しても構わないスタンスで行きたい。

 だが、色々な柵(しがらみ)や見栄・プライドが渦巻く古き一族が、その提案を飲むとは思えないな。

 なまじ力有る連中だから、僕の能力を基準とした判別じゃないだろう。

 

 自分の勢力の力に自信も有るだろうし……10分ほど考えに耽っていたら、手の中の携帯が振動した。

 ご隠居の婆さんの方から返信が来たか……指示の記録を残す為にメールにしたんだ。

 つまり婆さんからの返信は、一族の総意と思って良い。

 

メールを開く……

 

「報告の件、吟味させて頂いた。状況は残念でならないが、我等亀宮の一族は受けた依頼は達成せねばならない。

信用問題も有るしプライドも有る。榎本さんには申し訳無いが、独自に解決する方向で動いて欲しい。

共闘はしない、他の連中は信用出来ない。バックアップが必要ならば、私の携帯に直接連絡して欲しい」

 

 文章を読み終えてから画面を閉じる。目を瞑り座席に倒れ込む様に深く座る……予想してたが、最悪の方向だ。

 単独解決を望むなら短期決戦しかない。

 

 他の連中も……加茂宮も伊集院も、同じ考えだと思う。

 

 しかも共闘を禁じられたから、彼等と競いながら解決しなければならない。どうする?

 亀ちゃんと胡蝶、両方が揃えば強力だ。特に胡蝶は他の連中の力を測る事が出来るし、単純に火力を見ても凄い。

 彼女が喰えると判断すれば、間違い無いだろう。

 

 だが、それは相手を目の前にしての事……全く原因が分からず、相手の素性も分からない。

 慣れない山登りを亀宮さんが出来るのか?御手洗達を連れて行く事になるが、彼等を守りながら戦えるか?

 

 何を持って除霊成功と言うのか?敵の全滅?原因の解明?駄目だ、今迄とは違う進め方だから全く分からない。

 

「榎本さん、難しい顔をして考え込んでますが……私と榎本さんなら大丈夫ですよ」

 

 居眠りをしていた筈の亀宮さんが、僕の膝に左手を置きながら見詰めている。

 

「ん?ああ、そうだね。勿論大丈夫さ」

 

 最近、女性から良く大丈夫って言われるけどさ。大抵は大丈夫じゃないんだよな。でも女性は強いって事か。

 今から悩んでも疲れるだけだし、先ずは先方との顔合わせ次第か。

 

「そうです。悩むと余計に禿げますよ?」

 

「えっ?」

 

 思わず突頂部を押さえてしまう。余計にって、僕って実は薄くなってるの?

 最近抜け毛が少し多いかなって思ったり、髪の毛自体が細くなってきてるとも……

 

「未だ大丈夫ですよ。私は禿げとか気にしませんから、全然大丈夫です」

 

「僕は気になる年頃です!」

 

 ヤバい、加齢臭は未だだが禿げの心配が出てきたぞ。アレだ、アポジカとかリアップとかだっけ?

 この仕事が終わったら育毛を検討すると心に誓う。結衣ちゃんと結ばれる迄は、若々しくなければ駄目だ!

 

「亀宮様も榎本さんも、もう少し緊張感を持って下さい。それに榎本さんは薄くなってませんから。短髪は地肌が見えやすいだけですよ」

 

 滝沢さんからフォロー貰いました!有難う、滝沢さん。残念な美人と評してご免なさい。今なら気遣い美人と言わせて頂きます。

 

「えへんえへん。気持ちを切り替えて話を進めるね。ご隠居様は、一族の総意として単独解決を望んだ。

他勢力との共闘は無し。何でも信用出来ないそうだが……

僕としては、顔合わせで相手の様子を見ながら進めていくしか無いと思う。無闇やたらと現地に突入するのは愚策だ」

 

「それは何とも玉虫色の進め方だな。つまり慎重かつ臨機応変と言う事か……」

 

 確かに周りに合わせて自分達の行動を決める。だけどさ。

 単発で除霊しにきてやられる連中と違い、幾ら共闘しないとは言え拠点が同じなら情報は入るだろ。

 それに最低限の情報共有はする様に提案してみよう。

 御三家の加茂宮や伊集院は無理かもしれないが、その他勢力なら話は別だ。

 亀宮のネームバリューに喰い付く輩も居るだろう。

 孤高の精神も素晴らしいけど、使える物は何でも使わないと……最悪は死ぬ。

 

「方針はご隠居様のメール本文と共に滝沢さんと御手洗、それに亀宮さんにも送るね。

情報は共有しないと駄目だから。序でにCCでご隠居様と風巻のオバサンと姉妹にも送っておくか……」

 

 携帯電話を操作し、今迄の話を纏めて本文を作る。ああ、この携帯だと送信先は五人迄か……

 ならば風巻姉妹には転送する様に頼むか。メールを送信すると結構良い時間が過ぎていた。

 

 僕に寄りかかり完全に熟睡している亀宮さん。小細工に奔走する僕と違い、大した度胸だな。

 余裕が出来て周りを確認したりしてると、アップダウンが増えてきたのが分かる。そろそろ相良牧の原ICが近いのだろう。

 

 オービスの多い由比PA付近は既に通過したのか……

 

 此処を過ぎれば浜松迄は比較的、平らで道幅も広いから楽な筈だ。途中もう一回位、休憩を挟めば名古屋迄は予定通りに付くだろう。

 この間に胡蝶さんと意見を纏めて、いやお願いをしておく。後部座席に深く座り目を閉じる。

 

 前にドサクサで有耶無耶になったが、確かに念話が成立してたんだ。僕と混じり合った為に可能になったとか、危険な単語が有った様な……

 

「胡蝶、胡蝶聞こえるかい?」

 

「何だ、正明。隣に纏わり付く亀を喰って良いのか?」

 

 何故か亀宮さんがビクッと動いたけど、魘された?まさか感知してないよね?

 

「いや、今後だけど……このまま行くと昔の除霊みたいに無闇に突撃コースなんだけどさ。胡蝶は相手を感知するのに距離はどれ位必要かな?」

 

 彼女の感知能力の限界を知りたい。八王子の時は山登りの途中から感知出来たけど、あれは相手が天候操作をしたからだ。

 相手が力を使わない、または隠密な時はどうなんだ?

 

「ふむ、我の知覚能力か?相手から仕掛けてくれば、距離は問わぬ。

だが、何もしてない時の特定は精々が500mだな。それ以上は分からぬよ」

 

 500mか……凄いんだが微妙な距離だ。今回の相手は実体が有るタイプだが、これが獣系だったら?

 人間は全力疾走をしても精々が100mで15秒、しかも相手は山林だから時間はもっと掛かる。

 僕や亀宮さんなら平気かも知れないが、滝沢さん達の為に遭遇したら逃げる時間を稼がねばならない。

 

「いや、相手も感知出来るとは限らぬぞ。少なくとも我は正明を守る事は出来る。あの亀も同様にな。

守りならば亀の方が優れていよう。

ならば我が敵を喰らう間、正明は亀女に抱き付いていれば良い。序でに孕ませろ」

 

 ご免なさい、無理です。性的にも興奮しないし、それって胡蝶が戦っている間にニャンニャンしろってか?

 

「馬鹿者!誰が露出趣味や野外趣味を持てと言った。アレは正明が押せば落ちるぞ。

なに、奴の五月蝿い一族は我が悉く喰らえば良い。問題は何も……」

 

 考えが読まれてるのは困る、今のは心の声です!ちょっと待て、いや待って下さい胡蝶様。その物騒な考え方は不味いっす。

 

「それをやったら僕は日本中の霊能力者から注目されるよ。しかも敵意を持つ者が増える。

少なくとも御三家のパワーバランスが崩れるから、他の二家が黙って無い。吸収か最悪は……滅ぼされるぞ」

 

「ふむ、ならば穏便に行くか……」

 

 胡蝶さんの過激思想が収まったみたいだ。良かった、幾ら胡蝶でも数の暴力には勝てない。

 

「正明、亀女を口説いて連れ合いにしろ。そうすれば奴らの一族が丸々手に入る。

一部を粛清しても外圧に耐える数は残せる。其処を拠点として、力有る女達を沢山妾にすれば良い」

 

 無茶振りキター!

 

 それは前に駄目出しした、軒先を借りて母屋を盗る?だろ!

 

「いや、榎本一族増員計画は考えてますから。その戦国武将みたいな考え方は、現代日本では難しいのです、ハイ」

 

 実際に政略結婚とか今でも有るみたいだけどさ。それは別世界の話で、一般ピープルな僕としては恋愛結婚がしたいのです。

 

「なんだ、つまらんな。正明、今回の敵は我に捧げよ。喰わねば腹の虫が納まらんぞ。

全く、この男は非常識なエロ野郎の癖に体裁だけは……」

 

 胡蝶がブツブツと文句を言い出した……だが、亀宮一族の吸収とかは無理だって。

 暫く考えに耽っていた所為で気付かなかったが、亀宮さんは僕にもたれ掛かり熟睡中だ。

 周りの景色も随分と変わっている。此処は、どの辺だろう。

 高速道路の標識を見れば、名古屋50kmとなっている。

 

「ごめん、滝沢さん。随分と寝てしまったけど、休憩は平気かい?」

 

 亀宮さんを起こさない様に、若干抑えた声で聞く。寝てはいないが、目を瞑って動かなければ寝てたも同然だ。

 

「ん、平気だ。このまま拠点に向かう。

向こうで少し休めるだろうし、最悪は後ろの連中に運転を変わって貰う。

私と榎本さんが亀宮様と同行する事になるからな。疲れは集中力を鈍らせる」

 

 御手洗達は最悪は同行するが、別室で待機か?確かに大人数で話すよりは、代表だけの方が良い。

 だが、亀宮程の一族なら当主だけは有り得ない……実質的な霊能力者は僕と亀宮さんだけだし、僕に任せきりは駄目だ。

 だから三人で行くんだな。

 

「了解、いよいよ御対面か……さてさて、どうするかね」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 岩泉氏の別荘は、それはそれはデカかった……ログハウス風の造りだが、四階建ての豪邸だ。

 思わず見上げて零してしまう。

 

「金持ちって居る所には居るんだな。どれ位広いのか想像がつかないや……」

 

 周りには鉄格子の塀が張り巡らせてあり、専用駐車場は30台以上は停められる。

 警備員は護衛を兼ねたSPなのだろう。妙に厳つい連中ばかりだが、ヤの付く方々の匂いがする。

 様は堅気な感じがしない、やさぐれた連中だ。むぅ、親父さんに聞いてみるか。

 何系の暴力団かによっては、協力出来るか敵対するか違ってくる。

 僕は一時期は、親父さんのお抱え霊能力者みたいだったし。情報は広まってるかもしれないからね。

 

「榎本さん、惚けてないで行きますよ」

 

 流石は亀宮さんだ。こんな状況も慣れているのだろう、毅然としている。

 遠巻きに此方を伺う連中を無視して、建物の方へ歩き出した。慌てて左右を僕と滝沢さんで固める。

 後ろには御手洗達が並んで歩く。周りから値踏みする様な視線が鬱陶しいし、亀宮さんを見る目が嫌らしい。

 この警備の連中は程度が宜しく無いな。

 

 これは岩泉氏の評価を下げないと駄目だ……

 


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