榎本心霊調査事務所(修正版)   作:Amber bird

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第148話から第150話

第148話

 

 風巻のオバサンが知らせてきた凶報。それは事前準備・調査をしっかり行う予定だった我々を嘲笑うかの様なモノだった。

 危険を承知しながら、しかし待てないからと我々を呼び出して直ぐに現地調査をしろってか?

 しかも同業者と競わせるらしい。全く権力者ってのは、下々の予定なんて関係無いんだな。

 しかし問題は山積み、僕はその話の前に亀宮さんから散々持ち上げられた。

 

 だから現地調査には同行するしかない、よね?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 調査報告は一旦止めて、今後の対応を話し合う。場所も作業場から応接室に移動した。

 話の中心は、風巻のオバサン・亀宮さん・それに僕だが、風巻姉妹と滝沢さんも同席している。

 取り敢えず気持ちを落ち着ける為に紅茶を配って貰った。大問題故に、ご隠居の婆さんもコッチに向かっているそうだ。

 ある程度は、話を纏めておかねばなるまい。

 しかも現地顔合わせは明日だから、今日中に調べて貰った事を引き継がねばならない忙しさだ。

 

「私達も同行しますよ!」

 

「そうだね、此処で調べるか向こうで調べるかの違いだけだからね」

 

 風巻姉妹も同行を希望してる様だが……

 

「同行は駄目だ。君達は直接先方には会わせないよ。名古屋市内に拠点を設けて、此方の指示で動いて貰う。

現地対応ともなれば、ある程度の危険を自分で対処しなきゃ駄目だろ?今回は、そのある程度がヤバいんだ。

君達には荷が重い。だから亀宮さんと僕、それと……実働部隊を何人かだな」

 

 彼女達は諜報部隊故に、戦闘・防御に向かない霊能力者だ。問答無用で殺しに来る連中には、対抗出来ない。

 

「実働部隊は壊滅しておる。

すまない、榎本さんを責めてはいないが、ウチの一線級の呪術部隊は全員貴方に返り討ちにあい入院中なのです。

武闘派の連中は対人専門ですから、怨霊・悪霊の相手は出来ません」

 

 風巻のオバサンの言葉に、思わず頭を抱える。確かに呪術的な力がないと対処出来ないな。

 胡蝶の下痢地獄は、効力は一週間。しかし下痢で著しく体力を損なった連中が、戦線に復帰するのも同じ位は掛かるだろう。

 

「つまりは、僕と亀宮さんだけか……だけど対人対処に何人か欲しいな。

同業者と競うなら、荒事専門の連中も使い道が有るからね」

 

 お互いライバルだから、話を円滑に進める為にもハッタリの人数は必要だ。そう、僕の盾となる連中が!

 勿論、亀宮さんを守る肉の壁でも有る。

 

「ふむ、肉の盾だな。確かに手駒は必要ですね。分かりました、滝沢を付けます」

 

 いや、全然分かってないですよ。滝沢さんは確かに武術の心得は有ると思う。

 

でも肉の壁には足りない、全く容積が足りない!それに彼女では、僕は非情になりきれない。

 傷付けても良心の痛まない連中が欲しいんです。

 

「文字通りのゴツい連中が欲しいんですよ。滝沢さんでは、圧倒的に筋肉が足りない。僕が欲しいのは、亀宮さんを守る肉の壁です」

 

 それと僕を周りの目から守る生贄です!

 

「肉の壁って自分が適任者じゃない?」

 

「そうです!貴方以上の肉の壁は居ませんって。

何たって鉄板を仕込んだ蹴りを受けて無傷じゃないですか。人間やめてますよね?」

 

 有り難く無い評価を頂きました。やはり、風巻姉妹は僕が嫌いなんだな。

 

「いやいやいや、一寸待て。僕が言ってるのは、対人の守りだ。ライバルが居るんでしょ?

これを機に仕掛けてくるかもしれない。

四六時中、僕が亀宮さんにへばり付くのは無理だし、逆に僕が手を出せば暴行容疑を弱みに引き抜きとかもね。

だから、酷い言い方だけど尻尾切り可能な連中が欲しい。問題を起こしたら、直ぐに引き上げられる連中をね。

勿論、滝沢さんは従来通り亀宮さんの護衛で」

 

 滝沢さんから、凄い怨みの籠もった目で見られた。彼女の仕事を奪う訳にはいかない。亀宮さん付きの護衛だし、女性ならではの場合も有る筈だ。

 

「私は常に亀宮様の傍にいます」

 

 ほら、同行に同意したら表情が柔らかくなった。最悪の場合は本末転倒だが、彼女は亀宮さんが守るだろう。

 

「しかしアレだな。

私達は嬉しいが、アレだけゴネて契約書まで結ばせたのに、いざという時は同行は拒まないのだな。

力は有るのに逃げばかり打つ情けない奴と思っていたが、やる時はやるのだな。見直したぞ」

 

 バンバンと僕の背中を叩く滝沢さん。風巻姉妹も和やかな目で僕を見ているのだが……条件については、改めてご隠居の婆さんと結びますよ。

 

「ヤレヤレ……状況は何時も何時も想定の斜め上だな。

最悪を想定したのに、軽々と飛び越えるし。亀宮さん、頑張ろう」

 

「ええ、私達なら大丈夫ですよ。私と亀ちゃん、それと榎本さんの……」

 

「エヘンエヘン」

 

 亀宮さん、サラッと胡蝶の事をバラそうとしなかったか?エヘッって舌を出して軽く頭を叩く仕草をしても、誤魔化されないぞ!

 テヘペロかテヘペロなのか?

 可愛いモノが大好きな彼女は、何とかして胡蝶に触りたいのだろう。これから日本の霊能力者達が集まるんだ。

 余程注意しないと、胡蝶の事が広まる。完全に悪と言うか、善玉な存在じゃないからな。

 バレたら良い事にはならないだろう……

 

「御隠居様が到着致しました」

 

 使用人の方が声を掛けてくれた後、直ぐにご隠居の婆さんがやって来た。あれから1時間も掛かってないから、相当急いだんだな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 打ち合わせは仕切り直しになった。各々に新しい紅茶が配られ、茶菓子として鎌倉銘柄鳩サブレが配られた。

 修学旅行のお土産の定番だが、味は悪くない。バター風味が強く野暮ったいながらも美味な菓子だ。

 ご隠居の婆さんを加えて7人、僕・亀宮さん・風巻のオバサンと姉妹・滝沢さん、そしてご隠居の婆さんだ。

 暫くは紅茶を飲んで、気持ちを落ち着ける。誰が打ち合わせを進行するかだが……

 

「榎本さん、状況が変わったのはご存知だと思いますが」

 

 どうやら、ご隠居の婆さん自ら話を進めるらしい。

 

「ええ、まさかの現地召集ですね。だが、我々は行かねばならない。先程、風巻のオバ……

風巻さんとも話しましたが、召集に応じるのは亀宮さん・滝沢さん・僕と、肉の壁……

じゃなくて武闘派の連中を数人。風巻姉妹は名古屋市に拠点を設けてバックアップ。こんな感じで下話を進めてました」

 

 いかん、本音が微妙に漏れてしまったかな?ほら、オバサンと呼ばれた風巻さんが微妙な表情だ。でも40代後半位か、もう少し上だろ?

 

「物凄く本音が混じってなかったかな?肉の壁とは?いくら我等でも、一族の連中を使い捨てには出来ぬぞ」

 

 やはりソコを突っ付いてきたか……亀宮一族は、本当に結束力が高いんだな。

 不信な顔の風巻姉妹の誤解を解く為にも、本音と建て前を使い分けるか……

 

「文字通り、亀宮さんを守る肉の壁ですよ。今回の召集には、亀宮一族のライバル連中が来るんでしょ?」

 

「ああ、召集された連中の中にはな。我等亀宮は関東から東北から北海道を勢力下においてます。

加茂宮(かもみや)一族が関西から中国地方一帯ですね。新興勢力の伊集院一族は九州を完全に、四国の粗方を勢力下においています。

今回は加茂宮の縄張りなのだが、岩泉の現当主は強欲で有名だ。早くあの地が金に変わる様にしたいのだな。

成功報酬に五億円を提示した。我等御三家以外からも来るだろう」

 

 五億円かよ?

 

 宝くじでも当てないと庶民には関係無い金額だな。だが、強欲だが金払いが良いのが問題だ!

 多分だが、道理も理屈も通じないし除霊にも口出しをするだろう。

 

 最悪の依頼人だ……

 

「それはそれは……ならば尚更な事、他の霊能力者達から亀宮さんを守る為に武闘派の連中は必要だ。

ハッタリでしかないが、対人対応は出来るでしょ?

僕は除霊は協力しますが、派閥・権力争いには干渉しませんよ。もしも巻き込むなら……捨て身で戦うぞ」

 

 最後の部分は念を押しておかないと駄目なので、殺気を込めた。

 そして常に僕の状態を監視中の胡蝶が、左手首の中から凄いプレッシャーを掛けてくれたんだ。

 亀ちゃんが反応して具現化し、風巻姉妹は顔を青くした。実際は否応無しに巻き込まれるだろう。

 相手は僕の事も調べてるだろうし、必ずチョッカイを掛けてくる。

 だが、その責任をご隠居の婆さんに持って貰わねば、良い様に扱われてしまう。

 だから此処は妥協する訳にはいかない。

 僕(と胡蝶)のプレッシャーを正面から受けている、ご隠居の婆さんと風巻のオバサンだが……流石は亀宮一族の裏トップと諜報部隊の長。

 額に汗が浮いているが、見事に耐えている。

 

「正明、奴が否と言ったら喰うぞ!問答無用で喰らってやろうぞ」

 

 頭に響く胡蝶の声に、思わず賛同しそうになる。僕は……ご隠居の婆さんを、亀ちゃんごと……喰いた……い?

 いやいやいや、何を考えているんだ?頭を振って不穏な考えを掻き消す。何故、僕はこんなにも凶暴な考え方を?胡蝶の影響なのか?

 

「そうだ、正明。我と汝は一心同体、我は少しずつ正明に混じり初めておる。故に我の考えに感化されるのだ」

 

 周りを放っておいて、脳内会話を……アレ?胡蝶が応えたぞ!確か念話って一方通行じゃなかったか?

 

「榎本さん、プレッシャーを抑えて下さい。勿論、私達は貴殿を巻き込むつもりは無い。

変更契約書も希望の物にて取り交わしましょう。報酬も半分お渡しします!

ですから、是非とも助力を賜りたい。

その溢れる力!禍々しくも神々しい。流石は亀様が認めた御方だ」

 

 顔を引きつらせながらも、好条件を提示してきた。除霊作業まで含む契約にして欲しいと……こんなにも譲歩するとは、完全に怯えさせてしまったか?

 ヤクザ同然の厳つい僕と、人外の化け物の胡蝶のプレッシャーだ。こんな危険人物じゃ、亀宮さんも……

 

「いや、その……すみません」

 

「大丈夫、大丈夫ですよ。榎本さんが怒るのは当然ですから」

 

 何時の間にか隣に居る亀宮さんが、僕の左腕を握り締めている。亀ちゃんが僕の右肩を甘噛みしている。結構痛いのだが、落ち着けって事なのか?

 

「亀宮さん、有難う。亀ちゃん、落ち着くから噛まないでくれ。結構痛いぞ」

 

 亀ちゃんが、一回口を開けて威嚇してから亀宮さんに巻き付いた。やんわりと亀宮さんの手を離す。とても恥ずかしい状況だ。

 

「ふむふむ、亀宮様と亀様に相当懐かれましたな。いやはや、榎本さんの力の源は……」

 

 ご隠居の婆さんは、僕の左手首を見詰めている。異種の霊力が漏れているから、怪しいと思ったか?

 落ち着く為に紅茶を飲み干す。すっかり冷えた紅茶だが、気持ちを落ち着かせる事は出来た。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「いやはや、あれ程の力を持っているとはな。しかも荒々しい殺気だった。本気で喰われるかと思ったぞ」

 

「全くです。我が娘達に散々弱腰・弱虫とか言われても涼しい顔でしたが、内に秘めた怒りは相当ですな」

 

 先程まで居た男を再評価する。何が躾の行き届いたクマさんなモノか!

 あれは凶暴な人喰い熊だ……明日は名古屋まで行かねばならない。

 なので早めにお開きとし、明日の朝に自宅まで迎えに行く事にした。それ迄に契約書を作り直すそうだ。

 我々は奴の希望通りの契約を結ばねばならぬ。だが、それでも奴の力を利用出来るなら安いものだ!

 

「しかし、亀様の甘噛みですが……アレは気に入った者に対する仕草の筈です。

彼は亀様に認められた。さてさて、どうしますか?」

 

「どうにもならないな。我々が動くと悪影響にしかならん。

だが、加茂宮も伊集院も奴の事を調べてはいるが……あれ程の者とは思うまい。

亀宮様に任せれば、我々が何もしなくとも大丈夫だろう。亀宮様の為なら奴は動く、動かざるを得ない筈だ。

面白くなるぞ。

三竦みのパワーバランスは壊れた。我々が一歩リードしたのだ!」

 

 亀宮様が居る限り、奴は我々と共にあるのだ。これほど力強い事はないな……

 

 

第149話

 

「そうですか?愛知県まで出張除霊とは大変ですね」

 

「榎本さん、最近仕事し過ぎ。少しは休まないと駄目」

 

「私は一人でも大丈夫です。お留守番は慣れてますから……」

 

 上から魅鈴さん・静願ちゃん・結衣ちゃんだ。明日から暫くは愛知県の方に出張除霊だから、留守の間を小笠原さんにお願いした。

 一応社会人の魅鈴さんだから、社会的な大抵の事は大丈夫だから。流石に中学生の結衣ちゃんでは荷が重い事も有るかもしれないからね。

 どんなにしっかり者でも未成年には違いない。更に三人には陰ながら護衛も頼んで有る。

 前回同様に高田調査事務所に頼んだ。前回と違い三人だから人数は多目だけどね。

 ローテーションを考えると五〜六人位になるだろう。今回の件は、派閥・権力争いが関係しそうだ。

 

 だから念には念を入れる。

 

 まさか人質なんて?とか思うかもしれないが、欲望に忠実な連中だと十分に考えられるから……

 美女・美少女ばかりだから、攫われたりしたら大変な事になる。費用は亀宮一族のご隠居の婆さん持ちだ。

 亀宮一族から護衛をって話しも有ったが、彼等自体が信用ならない。

 下部構成員からは、自分達から亀宮さんを奪った奴。権力に固執してる連中からは、自分達の既得権を脅かす奴。

 兎に角、亀宮一族は絶賛僕に敵意を抱き中だ!どこかで回復しないと、致命的な事になると思うが……

 今は亀宮一族の益になる様に実績を積むしかない。

 風巻のオバサンは一応信用してるから、奴等の抑えともしもの時の対応をお願いした。

 

 対価は娘二人の安全。

 

 一応、僕預かりになっている諜報部隊所属の風巻姉妹に、危険な事はさせない事で合意した。

 失敗即死亡な今回の除霊は、十分な注意が必要だから……これからの事を頼む為に、小笠原母娘を夕食に招待した。

 お店は葉山の日陰茶屋。平日の為か予約が取れたので、一番高いコースを頼んだ。

 お願い事だから、それなりのお礼を込めてなんだが、結衣ちゃん的には普段と同じだから必要無いと思っていそうだ。

 やんわりとだが、否定の言葉もチラホラだしてるからな……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 流石は日本有数の観光地で有る鎌倉・葉山の近く、高級住宅地に店を構える日陰茶屋!

 料理も本格的だ。食前酒に、あら絞り蜜柑酒。

 先付けが、浸し田楽で具材が冬瓜・茄子・蕗・棒蟹。

 前菜に、石川小芋・海老黄身寿司・鮎南蛮・鬼灯とまと・紫陽花に見立てた煮凝り。

 御造理が、舟盛り。

 金目鯛・まぐろ・甘海老・鯵・イカその他地場の魚数種類。ツマの大根と海藻は、特製ドレッシングで食べる。

 台の物は、金目鯛のしゃぶしゃぶ。

 それに季節の野菜をポン酢と胡麻ダレで食べる。

 煮物が、三人で金目鯛の煮付けを一尾。これは30㎝は超える大物だ!

 

 取り分けは結衣ちゃんが仕切るだろう。何故なら、一番料理上手だからだ。

 

 それに、ご飯・味噌汁・香物が付く。魚尽くしだが、味もボリュームも申し分無いだろう……

 因みに若い二人に和食ばかりでは何なので、葉山牛のカットステーキを300g程追加で頼んだ。

 

「それで今回は愛知県と言う事ですが、何日位を予定してるんですか?」

 

 前菜の鮎南蛮を上品に食事をする魅鈴さん。箸の使い方が艶っぽい。無意識で媚びと言うか、女性らしさを出す人だ。

 僕はロリだから全然大丈夫だけど、普通なら彼女の魅力にクラクラ?物を食べる女性がセクシーだと良く言われるが、なる程と思う。

 所作や口の動きの事なのだろう。流石に和服美人は作法も完璧だ。

 何故か小笠原母娘は着物姿で来ている。何故、食事をするのに着物姿なんだ?

 動き辛いし汚れたら大変だし、帯がキツくて沢山食べれないんじゃないか?

 そこは空気を読んで質問はしていない。きっと見栄……いや、女性の心の機微なのだ!

 

 結衣ちゃんは、桜岡さんが見立てたワンピースを着ている。

 誰を誉めても問題になりそうなので、衣装に関しては全てスルーだ。因みに僕はジャケットにチノパンだ。

 妙に浮いているが気にしない……

 

「今回も前回の八王子同様、複数による除霊作業になります。だけど前回と違い協力体制は無さそうですね。

日本有数の派閥が揃い踏みですから、どちらかと言えば相手を出し抜く感じ?だから出た所勝負ですかね……」

 

 実際に皆さんと顔を会わせないと、どうやって進めるかも謎だ。共闘するか競争するか……

 だが、結衣ちゃんのGWの予定の日程は確保するつもりだ!

 

「加茂宮に伊集院、それに亀宮が揃えば呪術団体の最大手が揃い踏み。御三家は仲が良くないのです。榎本さん、十分に注意された方がよろしいですわ」

 

「そんな危険な仕事なんですか?」

 

「榎本さんなら大丈夫」

 

 魅鈴さんは流石に業界人だけあって詳しいな。もう少し話を聞いてみるか……

 

「仕事は何時も危険だ。そのリスクを減らす努力をしてるんだよ。

勝率が上がる迄は手は出さないから大丈夫。魅鈴さん、他の二家について知ってる事が有れば教えて下さい」

 

 結衣ちゃんに安心だから、大丈夫と声を掛けておく。どちらかと言えば、権力抗争に巻き込まれないか君達の方が心配なんだ。

 だから護衛を付けるんだよ。何気なさを装う為に、料理に手を出す。

 

 うん、鮎南蛮は美味いな。輪切りにした身に、酸味が良く絡まっている。

 

「割と有名ですが、加茂宮は京都を中心として関西圏に根強い勢力を誇っています。

彼等は陰陽師の末裔と言われてます。

現当主は加茂宮保(かもみやたもつ)。式神使いと言われています。ですが、最近になって代替わりをしたみたいですが……

その情報は不明確でして、複数の子供達に譲ったとか?

伊集院は九州と四国を中心とした一族です。此方は戦国武将である島津氏の家臣であった、伊集院一族の末裔らしいです」

 

 島津の伊集院と言えば、信長の野望をプレイした連中なら必ず知っている。武勇に秀でた一族だと思うけど、そんな連中が呪術組織を?

 イメージが合わないな。

 

「島津氏と言えば勇猛果敢な戦国武将として有名ですよね。そんな連中が呪術を操る一族なんて不思議ですね」

 

鬼島津とか薩摩隼人とか、勇猛果敢で無骨なイメージなんだけど……

 

「伊集院一族は、確かに島津氏に仕えていた有力な武将です。しかし本藩人物誌に伊集院忠棟は国賊と書かれてます。

武勇を尊ぶ島津氏の中で、彼は卑怯者・臆病者と書かれてます。

それに忠棟の一族は滅亡したとされていたので、近年迄は誰も調べようが無かったのも災いしたのかと……」

 

 本藩人物誌ってアレか?島津藩の公文書っぽいヤツじゃなかったかな。

 

「卑怯者・臆病者とは随分な言い様ですね」

 

 公文書に記録が有るなんて、伊集院一族は有力な武将を何人も輩出してるし、余程の事をしないと無理じゃないか?

 

「秀吉に早くから降る様に進言したり、軍規違反も多かったとか……実は呪術団体としての伊集院は近年に頭角を表した一族なのです。

だから詳細は不明ですし、本当に伊集院忠棟の末裔なのかも分かりません。自称の域を出ませんが、その力は確かな物です」

 

 箔付けの自称なら問題は無いと思う。何となく思い出したんだが、伊集院忠棟って確か覚えが有るぞ。

 熱心な一向宗門徒で、石川本願寺に乗り込んで親鸞聖人の木像を強奪した困った人だ。

 

 在家には決まりで渡せないから無理と、丁寧に断られると「武士の面目が立たぬ!ならば腹を切る!」と脅して、親鸞聖人の手製とされた木像を貰ったんだ。

 

 すると伊集院の名を継ぐなら、一向宗関係か?

 

「伊集院一族の力とは?」

 

 魅鈴さんに更に聞いてみる。

 

「密教系の術を使うそうです。現当主は、伊集院阿弧(いじゅういんあこ)と呼ばれてます。

ですが、中々人前には現れない様ですよ。但し、その霊力は強力で幾つもの難事件を解決しています。

また新参者故に一族には跳ねっ返りが多く、他の勢力とトラブルも絶えないとか……」

 

「新規参入の上に協調性が無い。但し強い力を持つ、ね……いやはや大変に難儀な一族ですね」

 

 魅鈴さんも呆れてるし、コイツ等は注意が必要かもしれない。

 

「お待たせ致しました。舟盛りです」

 

 大きな舟盛りを見ると、真面目な雰囲気が少し和らぐ。1mは有ろうかと言う見事な木製の舟の上には、綺麗に各種刺身が盛られている。

 金目鯛は尾頭付きだし、伊勢海老も同様に二尾程乗っている。流石は別途注文だけの事は有るな……

 

「凄い、まだ動いてる」

 

「お刺身が沢山……食べ切れるでしょうか?」

 

 それでも箸を構えている二人は、お魚好きなんだろう。魅鈴さんはニコニコ笑っているだけだから、量は食べれないんだな。

 未だしゃぶしゃぶと煮付けも来るし、桜岡さんと一緒の時の癖が出たか?どうにも大量に頼む癖が付いたか?

 

「難しい話は終わりにして、料理を楽しもうか?」

 

 ビールが飲めないのが残念だが、送迎込みだから仕方無いよね。無理をしてでも完食せねば、勿体無いお化けが出てくるから……

 コーラで喉を潤してから、舟盛りに挑む。金目鯛と真鯛は湯引きして身が締まって美味そうだ!

 鮪も中トロ・赤身と有り、外に鯵や鮃と種類が豊富。美少女二人は伊勢海老の活き作りに夢中みたいだ。

 未だ動く触角とかを触っては、嬉しそうに騒いでいる。美女と美少女に囲まれた、楽しい夕食の一時を過ごす……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 楽しい夕食を終えて、夜のドライブと洒落込んだ。

 

 日陰茶屋を出てから逗葉新道を通って横浜横須賀道路に乗り、高速道路をひた走る。

 80kmのスピードで流れる夜景は、それなりに綺麗だ。助手席には、魅鈴さんが座っていた。

 何故ならば、助手席に座るのを結衣ちゃんと静願ちゃんが言い争っている間に、ちゃっかり座ったからだ。

 

 お陰で結衣ちゃんの機嫌が悪い。

 

 うーむ、小笠原母娘と結衣ちゃんは混ぜたら危険なんだが、呪術的な事で頼めるのは桜岡さんが居ない今は……早く帰ってきて欲しい。

 

「榎本さんは、GWのご予定は有るのですか?」

 

 ニコヤカに何かと話し掛けくる魅鈴さん。その度に結衣ちゃんが会話に参加してくる。

 つまり邪魔をしてるのだが、可愛い嫉妬と思い気にしない。

 

「正明さんと私は、旅行に行くんです!温泉でゆっくり日頃の疲れを癒やすんです!ねぇ、正明さん?」

 

「そうだね。GW中、三日間位は休みを取ろうと思う。だから近場だけど、何処か温泉に行く予定なんですよ」

 

 日程が決められないので、宿の予約は未だだ。だが基本料金の高い高級旅館やプランは、未だ空きが有る。

 只でさえ行楽シーズンで割高なのに、更に高い料金設定だが結衣ちゃんの為なら平気だ。

 

「まぁ温泉!良いですわね。私達も丁度温泉にでもと話してまして。ねぇ、静願?」

 

「うん、温泉大好き!榎本さん、一緒に行こう」

 

 親子でコンビネーションアタック?いや、しかし……

 

「駄目です。私達の邪魔はしないで下さい。正明さんには癒やしが必要なんです。小笠原さん達と一緒では、気が休まりませんから」

 

 申し分なさそうな感じだが、バックミラーで確認する結衣ちゃんの顔は無表情……少し怖いです、はい。

 

「まっ、まぁアレですよ?その、男1女3では部屋割りも大変ですからね」

 

「四人一部屋でも良いよね、お母さん?」

 

「あら、保護者と子供達で二部屋でも良いですわ」

 

「駄目です、余計に駄目!特に魅鈴さんは独身なんですよ。そんな男女が同じ部屋なんて駄目です」

 

 確かに世間的に未婚の男女が同部屋は駄目だ。例えバツイチでも世間からみれば、大変宜しく無い。

 僕は全く魅鈴さんに女性としての魅力を感じてないが、状況証拠は真っ黒。責任を取れって言われたら、反論は出来ない。

 

「結衣ちゃん、意地悪だ。私も榎本さんと旅行に行きたい」

 

「あらあら、静願?実の母親の前で大胆ね。婚前旅行は認められないわよ。貴女は未だ学生なんだから」

 

 ヤバい、車内がグダグダになって来たぞ……

 

 

第150話

 

 愛知県の除霊現場に行く為に、留守番の結衣ちゃんの事を魅鈴さんに頼んだのだが……話がGWの過ごし方に変わり、しかも車内の雰囲気が悪いです、はい。

 聞かれたので、結衣ちゃんが一緒に旅行へ行くと教え、小笠原母娘が同行を申し出た。それに結衣ちゃんが猛反発!

 理由は僕が気疲れして、折角の休みなのに休めないから。それと、多分に嫉妬心も有るのだろう。

 彼女は小笠原母娘に僕が盗られる事を心配している。頼る人が僕しか居ない彼女にとって、それは譲れないのだろう。

 

「まっ、まぁその……アレです。予定は未定ですし、実際に休めるかも分かりませんから……」

 

 はははって笑って誤魔化す。結衣ちゃんには悪いが、多分小笠原母娘と一緒に日帰り旅行はしないと駄目だろう。

 結衣ちゃんと静願ちゃんが学校でGWの話題に取り残されない様に、ディズニーランド辺りが無難だな。

 日帰りにすれば、チケット位は未だ取れるだろう。駄目なら富士急ハイランドとか、兎に角話題になる場所へ行くしかない。

 

「正明さん、弱腰です!ここは駄目って言わないと」

 

「榎本さんは優しい。だから断らない」

 

「あらあら、お休みが決まったら連絡下さいね。私達は何時でも大丈夫ですわ」

 

 魅鈴さんに纏められて、結局は一緒に出掛ける事となった。

 

「日帰りでディズニーランドに行きましょう。混むかも知れませんが、結衣ちゃんと静願ちゃんが学校でGWの話題に取り残されない様にね」

 

 そろそろ佐原インターの出口だ。ウィンカーを出して左側に寄せて、そのまま出口に向かう。

 結衣ちゃんには、小笠原母娘と出掛けた後に二人で出掛ければ良い。その方が喜ぶ筈だが、日数の関係でお泊まりは無理だな……残念だが仕方無いか。

 

「もう!別にGWに何処にも出掛けなくても平気ですよ。友達だって出掛けない人も居ます」

 

「それが榎本さんの優しさ。私、ディズニーランド初めて」

 

「あらあら、私も初めてだわ。楽しみにしてます」

 

 ETCだから料金所も楽々通過出来る。そのまま国道134号線に合流し自宅方面に向かう。

 最近出来たステーキガストを横目に、和食も良いけど肉が食べたいと思う。駄目だ、食の親友である桜岡さんの顔がチラつく。

 早く修行を終えて帰って来て欲しい……

 

 小笠原母娘はディズニーランドが初めてらしい。凄い喜び様だ!

 確かに宮城県からだと大変だよな。それこそ前日に乗り込んで近くに泊まり、翌日を丸々遊ぶ計画をしないと廻り切れない。

 粗方の方針が決まった頃に、小笠原家に到着。魅鈴さんと静願ちゃんを降ろす。

 

「では明日から暫く頼みます」

 

 窓越しに声を掛けて別れた。騒がしかった車内が急に静かになる。結衣ちゃんはちゃんと助手席に移動している。

 

「まぁアレだよ。ご近所付き合いだし、上手くやっていこう。それに結衣ちゃんとは別の日に二人で出掛ければ良いだろ?」

 

「むう?私が我が儘な女の子になってませんか?正明さん、最近忙しいからゆっくりして欲しかったんです」

 

 少し拗ねているが、幾分気分が回復したみたいだ。ムッツリしてるが口元は笑っている。もう一押しすれば大丈夫だな。

 

「伊豆に新しく出来た水族館に行こうよ。

シーラカンスの標本や大王具足虫とか、変わった物が展示されてるよ。三島で鰻でも食べてさ。日帰りドライブに行こうよ」

 

「シーラカンス?大王具足虫?それは楽し……いやいやいや、それじゃ正明さんが休めません!

駄目です、日帰り温泉でゆっくりします。走水に新しく出来たspaが有ります。

昼間でもお部屋で休憩出来ますし、お食事もインターネットで調べた限りですが美味しそうでしたよ」

 

 自宅に付いたので、車庫のゲートを開けて駐車する。

 

「うん、それも良いかもね。もう遅いから先にお風呂に入ると良いよ。僕は明日の支度をするから……」

 

 玄関扉の鍵を開けてカードキーで機械警備を解除する。先に彼女を家に入れて直ぐに玄関の鍵を閉める。

 勿論、機械警備も開始する。明日は8時に亀宮さんが迎えに来る。一週間は泊まれる様に準備をしなければ。

 後は装備は最高の物を持って行く。顔合わせ自体が波乱含みだし、対人装備も必要だと思うんだ。

 

「分かりました。そうだ!後でマッサージしますね」

 

 そう言って返事も聞かずにパタパタと走って行ってしまった。最近の結衣ちゃんは、良くマッサージをしてくれる。

 

 獣っ娘の姿で……

 

 確かにムキムキな筋肉を解すのには力が要るから、間違いではない。だが、プリプリお尻とモフモフ尻尾の凶悪コンビネーションに、僕の理性がヤバいのだ。

 最近は般若心経を心の中で唱えて耐えている。愛染明王の真言?

 

 アレは愛欲を否定してないから、逆にヤバいんだ!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 翌朝8時キッカリに、自宅前に黒塗りのベンツが二台停まった。

 少しは御近所様の事も考えて欲しい。これじゃ、ヤの付く商売の方々みたいだ。

 

「お早う御座います、榎本さん。あら?あらあら?今日は珍しい服装ですね」

 

「ああ、まるで私達みたいだが?似合ってるから、質(たち)が悪いな……」

 

 滝沢さんが運転手、後部座席に亀宮さんが乗っているのが先頭のベンツ。

 後ろには広い車内にミチミチに乗り込んでいる、肉体派の肉の壁……もとい護衛の方々。

 

 そして僕は黒のスーツに黒のサングラス。白いYシャツに黒ネクタイ。法事じゃないよ、カチコミだよ的な本職顔負けの格好だ!

 

「おはよう、亀宮さん。僕は亀宮一族の派閥の末席だからね。護衛なら、この格好でしょ?」

 

 そう言って微笑むが、滝沢さんはドン引きだ。逆に亀宮さんは、ご機嫌な感じだ。

 

「「「「「ふむ、良い筋肉だな!鍛えた肉体を見れば人となりが分かるぞ。ようこそ榎本、歓迎しよう」」」」」

 

 ゾロゾロとベンツから降りてくる肉体派は、気持ちの良い連中みたいだ。

 

「此方こそ宜しく頼む」

 

 ひとしきり各々の肉体を叩きあっては、筋肉の付き具合を確認する。皆さん見せ掛けでない実用的な筋肉を備えている。

 ボディービルダーの様な見せる筋肉でもなく、一点のみを鍛えてもいない。筋肉は重いから、スピードを考えれば体重は100kg前後が限界。

 それに長時間の行動に耐える為に、筋持久力も必要だ。彼等はバランスの取れた筋肉の付き方をしている。

 

 つまり荒事専門の実戦派だ。野田みたいに戦闘狂でもないし、まともな連中だと思う。

 

「正明、この肉達磨達は本当に肉の壁だぞ。霊力の欠片もない。美味くもない連中だ……」

 

 頭の中に響く声にも馴れた。胡蝶さんの評価は低い。

 確かに霊獣亀ちゃんを擁する亀宮一族の中で、霊力無しは立場的に弱いんだろうな……

 

「俺がリーダーの御手洗だ!お前は滝沢と一緒に、亀宮様に付いていろ。周りは我等が固める。何か有れば我等を見捨てても亀宮様を守れ」

 

 そして彼等は自分達の役割を理解し、犠牲を厭わない。

 

「任せろ!なに、我々なら大抵の相手は粉砕出来る。筋肉を鍛えた時間が自信となり、日々の努力が我々を勝利に導くだろう」

 

 リーダーの御手洗とガッシリと握手をする。全員の肉体と面構えを見れば分かる。

 捨て駒の肉の壁として頼んだのだが、亀宮一族に信用出来る漢達が居たのが嬉しくなった。彼等を見殺しにはしない。

 

「俺達には霊力は無い。だが鍛え上げた肉体は誰にも負けないぜ」

 

「ふふふふ、悪いが筋肉で負けるつもりは無い。思い知らせてやるぜ、肉体派霊能力者の力って奴をな」

 

 ハッハッハ、と笑い合う筋肉同盟。

 

「あの……そろそろ出発しませんか?時間が押してますから」

 

 何故か敬語の滝沢さんを訝しんで見るが、目を逸らされた?

 

「ふん、滝沢は華奢だからな。だが、我等では同行出来ぬ場所も有る。仕事が終わったら飲もうぜ、プロテインを」

 

「プロテインか?マダマダだな、アレは大量に飲んでも意味が無い。そもそも一日で身に付く筋肉量はだな」

 

 トレーニング方法では、まだまだ話し合う必要が有りそうだ。筋肉とは科学的に根拠の有る方法を……

 

「そこの肉達磨!早く車に乗れ、直ぐに出発するぞ」

 

筋肉談義に花を咲かせていると、若干切れ気味に叱られた。

 

「全く滝沢は……だから肉体が貧弱なんだ。怒りっぽいならカルシウムを喰え」

 

 御手洗がそう言って、シリアルバーを彼女に差し出した。

 

「いや女性は筋肉でガチガチは嫌だ!御手洗だって恋人や妻は柔らかい方が良いだろ?それは譲れない」

 

「むう、確かにな。だが滝沢だぞ?アレは五月蝿いし男勝りだしな」

 

 アッハッハ、女とは思えないぞと皆で笑っている。真っ赤になって怒りを我慢してるが、そろそろヤバそうだ。

 

「そうかい?滝沢さんは美人だと思うぞ。まぁ美人は三日で慣れるみたいだから、一緒に居ると忘れがちだかな。余り時間も無いし出発しようぜ」

 

「なっ?」

 

 真っ赤になって慌てている滝沢さんだが、元から慌ててるので気にしない。御手洗の肩を叩いて後ろのベンツに押しやる。

 

「お待たせ、亀宮さん。滝沢さん、荷物を積むからトランクを開けてよ」

 

「ああ、分かった」

 

 ベンツのトランクは広い。そこに清めた塩20kgに大量の愛染明王の御札の束を放り込んでいく。

 

「そうだ、これを渡しとくよ」

 

 ペットボトルに小分けした清めた塩を人数分と、愛染明王の御札の一束渡す。

 

「清めた塩は、霊に向かって撒けば良い。円形に撒いて中に籠もれば、簡易的な結界となる。

御札は懐に入れておけば、護符として効果が有る。握って相手を殴れば、実体の無い奴等にも効く。だが、劇的な効果は無いから過信するなよ」

 

 そう言って残りの荷物を積み込み、車に乗った。御手洗達も嬉しそうに配っているが、亀宮さんの所って装備品を配らないのかな?

 隣に座る亀宮さんに聞いてみる。

 

「亀宮さんの所ってさ、装備品とか配らないの?呪術者が沢山居るんだし、御札とか霊具とか用意出来るよね?」

 

「さぁ?滝沢さん、どうなんですか?」

 

 アレ?運転席に座る滝沢さんに丸投げ?運転中の為に後ろを向かないが、何となく話し辛そうな雰囲気だけど……

 

「亀宮一族は、それぞれに派閥が有るのです。有力な家と、その取り巻き達が派閥を作ってます。

横の繋がりは薄い。亀宮様が除霊を行う時は選抜しますが、普段は各々の派閥単位で動くのです」

 

 嗚呼、そう言う事か……御手洗の派閥は霊力の無い肉体派の集まり。

 つまり呪術的な物は自分達では作れない、だから持てないのか……

 

「僕って、亀宮一族の中ではどの派閥に属してるんだろう?一応、末席ってお願いしたんだよね」

 

「榎本さんは御隠居様の直属です。御隠居様は諜報部隊の風巻一族の他に、自身の若宮一族を擁してます。

若宮は仏教系の呪術団体です」

 

 ご隠居の婆さん直属か……確かに跳ねっ返りを抑えるなら、実務トップの婆さんの直属は都合が良い。

 僕にチョッカイを掛ける事は、婆さんの一族に刃向かう事だ。

 

「派閥を超えての協力はマズいのかな?」

 

「榎本さん、私達に話す時と御手洗さん達に話す時とでは口調が違いますよ。御手洗さん達と話す方が楽しそう」

 

 え?亀宮さん、突っ込み部分ってソコなの?違うよね?今は同じ一族なのに協力しないの?って事を話し合ってるんだよね?

 少し拗ね気味な彼女を見て、ハブられるのが嫌なの?御手洗達と同じ扱いが良いの?

 

「ほら、亀宮さんと滝沢さんは美人だからね。ムキムキのオッサン達と同じ扱いには出来ないよ」

 

 少しでも亀宮さんの機嫌が良くなる言い方をする。まぁ普通に考えても、美人とオッサンなら扱いが違うのは当たり前だろ?

 


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