榎本心霊調査事務所(修正版)   作:Amber bird

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第142話から第144話

第142話

 

 亀宮総本家に挨拶に行ったが、一族の統制が取れてない組織だった。跳ねっ返りを胡蝶が倒して、ご隠居様なる婆さんと話し合えたので、何とか当初の予定は達成出来た。

 そして現在亀宮さんが抱えている仕事を手伝う為に、彼らの分家を訪ねる途中だ。1人で訪ねる予定が駅まで亀宮さんが迎えに来てくれた……

 そう、袴姿でね。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 流石に妙齢の美人が大正浪漫溢れる格好をしてると、周りからの注目度が半端無い。

 

「そこっ!勝手に携帯電話のカメラで撮るんじゃねぇ」

 

 隙を見て撮影しようとする連中が多過ぎる。全くマナーを学べ!

 

「榎本さんって知的で優しいクマさんのイメージでしたが、結構男っぽいんですね」

 

 先程、名店街で買った文明堂の三笠山どら焼き20個を持ちながら、亀宮さんがご機嫌に応える。女性にだけ、荷物を持たせてませんよ。

 僕は本命のハニーカステラ二本で5000円を持ってますから。それと警戒して辺りを見回している時に、視界の隅に必ず居る黒服。

 尾行なのだろうが、隠す気は無いのか?それともアレかな?

 

 存在する事に意味が有り、護衛本体は他に居るとか……

 

「ん、優しい?こんな筋肉ムキムキが、ですか?亀宮さんの方こそ、本当に優しいですね」

 

 彼女の僕への評価は異常に高い気がする。確かに亀ちゃんや胡蝶と言う特殊なモノに、憑かれている仲間は僕しか居ないからね。

 親近感が有るんだな……ダイエーを出て国道に戻り、東京方面へと歩き出す。暫く進むと警察署と病院が見えた。

 警察署の角を右折して暫く進むと、目的の風巻の分家が有る。角を曲がる時に確認したが、やはり黒服が居ますね。

 怪しい形(なり)で、堂々と警察署の前を通ってます。立哨の警察官は不審者丸出しなのに尋問しなくて良いのか?

 

 気持ちを切り替えて、正門の前に立ち感想を述べる……

 

「見事な位に日本家屋だな……しかし塀から覗く母屋が遠い。つまり庭が広いのか」

 

 立派な正門には風巻と表札が掲げて有る。塀も漆喰塗りで上部が瓦葺き、腰壁から下の部分は石貼りだ。

 

「武家屋敷みたいでしょ?風巻家は遡れば武士の家系なんですよ。古文書とか刀剣とかも有ります。興味が有れば見ますか?」

 

 亀宮家は700年以上続いている名家だ。その特殊性を思えば、時の幕府や政府と繋がりが有ったと思う。

 だけども亀宮の名前は世襲制だから、どの家にもチャンスは有る。だから関連一族全員が、それなりの地位だったんだろうな。

 じゃなきゃ昨日まで町民や下級武士の妻や娘が、いきなり一族のトップになるのを認めない馬鹿も居ただろう……

 亀宮に何代も選ばれない家は、財を成すとかして一族内で地位を確立していったとか。

 ご隠居様なる婆さんが、どうやってトップに君臨したかは分からないが……絶対的な地位を確保してないから、跳ねっ返りが居るのにはそんな背景が有るのかもね。

 僕もまだまだ安心は出来ない訳だ……煩わしいよね、秘密を抱えてると団体行動がさ。

 しかし、刀剣類には興味が有る、男なら分かるはずだ!仕事柄、鉈・山刀・ナイフ等は持ってるけど、純粋な日本刀は無い。

 昔、軍司さんに見せて貰ったのは実用?で使う近代になって造られた物だ。要は壊れても大丈夫な安物ばかり。

 親父さんの部屋に飾ってあったヤツは、流石に触らせてくれなかったし……

 

「そうだね、興味は有るから見せて貰おうかな。じゃ中に入ろうか?後ろの人も一緒にさ」

 

 気付いていて無視するのも何なので声を掛ける。

 

「流石ですね。何時から、気付いてましたか?」

 

「あら?滝沢さんじゃないですか?」

 

 黒服にサングラスと言う、不審者そのものの女性が近付いて来た。亀宮さんが滝沢さんと呼んだのは、彼女は護衛なんだろうな……

 良く見れば、八王子の岱明館に迎えに来た女性だ。

 

「いえ、その……他の方も護衛に就いてると思いますが、バレバレな尾行だと思いますよ」

 

 やはり本人も、このパンダみたいな役割に納得はしてないのだろう。真っ赤になって顔を背けた。

 良く見れば、20代半ばの中々のキツめな美人さんだ。黒髪をボブカットにして、真っ赤な口紅。

 サングラスは薄い黒の為、中の瞳も見える。切れ長の目と右の目元に泣き黒子(ほくろ)。

 胸はスーツの上からでも分かる程のボリューム。手足もスラリと長くて、ヘンテコな衣装の為に残念な美人に成り下がっている。

 街で擦れ違っても関わり合いになりたく無いタイプだ。残念だが、僕の好みには1mmとも掠りともしない。

 だが護衛だけあり、彼女も武道を嗜んでいるのだろう。所作には隙が無いと言うか、綺麗な動きをする。

 

「意地の悪い答えだな。私とて、この役割の大切さは理解している。だが、納得はしていない。まぁ入れ」

 

 そう言って正門を開けると、スタスタと先に入って行った。ぶっきらぼうな言葉使いも、照れ隠しだろう。

 

「榎本さん、何故意地の悪いなんですか?こっそり護衛したのに気付いていたから?もしかして知らない振りをしなかったから?」

 

 亀宮さんの優しさが、ビシビシと僕と……多分聞こえている滝沢さんに突き刺さる。意地の悪いとは、それプラス客寄せパンダの役割を皮肉ったからだよ。

 でも真実を教える事は出来ない。

 

「いや、僕が悪いんだ……真面目に亀宮さんの護衛をしてる人を皮肉ったから?」

 

「そうなんですか?でも……」

 

 納得してない彼女の背中を押して中に入る。幾ら自分の関連屋敷とは言え、正門の前で立ち話もないだろうから。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 正門から手入れをされた庭木の通路を抜けると、和風母屋が見えた。玄関は懐かしい硝子の嵌め込まれた木製の引き戸。

 引き戸は既に開いており、風巻のオバサンと滝沢さんが待っていた。

 

「お早う御座います。今日は宜しくお願いします」

 

「良く来られましたな。さぁどうぞ、上がって下さい」

 

 社交辞令を交わし、滝沢さんに三笠山どら焼きを風巻のオバサンに高級カステラを渡す。

 わざわざ済みませんね、とお礼を言われた。玄関を抜けると真っ直ぐな廊下になっており、右側の扉に入ると洋風な応接間になっていた。

 庭に面しており、見事な池が見える。

 

 多分、アレだ。亀ちゃんの眷族の亀が沢山居るんだろうな……

 

 実際何匹かは、池の周りの石の上で甲羅干しをしてるし。ソファーは三人掛け用と一人掛け用が二組。

 計五人が座れるのだが、既に三人掛け用にはご隠居の婆さんが座っている。

 向かい側の一人掛け用に僕と亀宮さんが座り、婆さんの隣に風巻のオバサンが座る。

 滝沢さんが戸口に立って警護するのが、妙にもの悲しくて辛い。

 

 一緒に座れば良いじゃん。

 

「正明、この屋敷に術者は二人居るぞ。後は護衛らしいのが五人か……くっくっく、総本家の手練れは腹下しで動けんからな。随分と程度の低い連中しかおらん」

 

 胡蝶が周辺を探索してくれた。術者は二人……当然、この部屋の連中は勘定に入ってない。

 

「では、用意した契約書の内容を確認して下さい」

 

 正副控えで三部用意した契約書を渡す。基本的な内容は毎回同じだ。

 

 今回、追加で足した項目は

 

 ①基本的に調査が仕事で有り、直接除霊に参加する場合は別途協議とし強制はしない。

 

 ②アウトソーシング、つまり調査に伴い外部機関の興信所や、亀宮の手の者に外注発注する権限と費用は其方持ちの事。

 

 ③使用する拠点・機材・資料諸々は全て其方で用意する事。但し僕も資料類の持ち出し・持ち帰りはしない。

 

 ④僕の扱いは亀宮一族の末席とするが他からの強制は受けず、指示系統は亀宮さんかご隠居の婆さんのみとする。

 

 大体こんな条件を付けた。悪い条件じゃないと思うし、僕だって安全とバックアップは欲しい。

 自分で手配すると、どうしても足が付くし、仮に調べられても僕じゃなくて亀宮一族に辿り着けば良いんだ。

 ペラペラとページを捲りながら、内容をじっくりと読む婆さん。何時の間にか老眼鏡をしていた。

 

「ふむ……妥当だが、費用は基本料金で良いのか?もう少し色を付けても良いぞ」

 

「いえ、其方の負担が多いですし、僕は契約先により料金内容は変えませんから」

 

 施主によって料金を変えるのは、信用に関わる問題だ。その分、別項目で追加費用を貰うから大丈夫。

 

「良いだろう。契約先は儂の経営する若宮不動産で良いかな?なに、購入予定の物件調査にすれば辻褄は合う」

 

 契約書の内容の大筋の了解を貰えた。出された名刺には、若宮不動産㈱となっており本社は横浜のランドマークタワーの中だ。

 だが社長の名前は違うし男性だから雇われ社長か何かかもしれない。ご隠居様の本名は、若宮なのかな?後で調べておこう。

 

「分かりました。今日は社印は無理でしょうから、契約書は預けます。後日頂きますが、宜しいですか?」

 

「いや、大丈夫じゃよ。ちゃんと印紙と実印を用意してある」

 

 用意が良い婆さんだな。

 

「印紙は僕の方で負担しますから大丈夫です」

 

 請負金の無い契約書なら、収入印紙は200円だから大した事はない。注文依頼書・請負書の場合も、基本的には僕が収入印紙を貼る。

 まぁ経費に含んでいるから問題無いんだ。収入印紙を貼り、双方の割り印を押して契約書は締結された。

 この間、一時間位は掛かったが他の連中は完全な空気だった。亀宮さん等、僕に寄りかかって寝てしまうし……

 確かに契約とか当事者以外からすれば、関係無いよね。一旦休憩、滝沢さんが皆にお茶を淹れてくれた。

 

 僕にはコーラとコップ、他の方々には紅茶。

 

 先程渡した高級カステラも二切れ程小皿に乗っている。このカステラはバターと蜂蜜がタップリで、底にザラメが敷き詰めてある。

 お茶をしながらの雑談となる……

 

「榎本さんは毎回契約書を交わすらしいが、逆に枷にならんかい?」

 

「メリット・デメリットを考えれば、メリットの方が大きいですよ。基本的に一人親方の弱小企業ですから、契約と言う枷は身を守る為にも必要なんですよ」

 

 幾ら胡蝶が居ようが霊能力を持ってようが、現実社会では意味は薄い。霊能力者なんて、一般じゃ詐欺みたいな連中と同一視されてるからね。

 

「身を守るとな。それだけの力を持っていてもか?

ウチの呪術部隊を全滅させ、更に一族でも手練れの者を半壊する。それでも尚、身を守る為とな?」

 

 やけに絡むな、婆さん……何を意図してるんだ?殆ど一方的に仕掛けて来たのは、そっちだ。文句や釘を刺すのも意味が通らない。

 

「どんなに個人で強くても、数の暴力には負ける。日本は法治国家だし、法に照らし合わせた契約は強い。

それは個人でも多人数に勝てる武器となります。身を守る手段は多い方が良いでしょ?

闇から闇へも……時として必要かも知れませんが、その前に幾つか手段が有りますよね」

 

「破戒僧じゃな。しかし手段を選ばぬ覚悟は有るが、簡単に手を出さぬ常識と理性は必要だ。

流石は名古屋で一時期、狂犬と呼ばれた男。クマとなっても、狂気と牙は衰えてないな」

 

 名古屋?狂犬?このババァ、僕の過去を調べたな!

 

 気持ちを落ち着かせる為に、コップのコーラを一気飲みする。喉に焼け付く炭酸が心地良い……亀宮さんが空のコップにコーラを注いでくれた。

 彼女の顔を盗み見ても普通と言うか、嫌な話だが気にしてない様子だ。

 

「狂犬……懐かしい呼び名ですね。返上してから随分と経ちますが、それと先程の話が何か繋がりますか?」

 

「くくくくく……亀宮様には、過去など関係無い様子ですな、良いでしょう。

紹介したい者が居ます。榎本さんの手足となり、一緒に仕事をして貰う者達です」

 

 婆さんが言うと、滝沢さんが扉を開けた。そこには無表情で外見がそっくりの女性が二人。

 

「佐和と美乃です。風巻の娘達ですぞ」

 

 双子?が無表情に目礼をしてきた。

 

 

第143話

 

 双子?と思われる程に外見が瓜二つな女性。佐和(さわ)と美乃(みの)と言った。

 風巻のオバサンの娘と言うが、正直似てない。何だろう、無表情で此方を伺っている彼女達は正直不気味だ。

 

 容姿が悪いわけじゃない。10人居れば7人は美人と呼ぶレベルだ。肩で切りそろえた黒髪、スレンダーな肢体。

 シンプルな白のブラウスにデニムを着ている。ナチュラルメイクで胸は普通。

 美人なんだが特徴が無い、街中で見掛けても記憶に残り辛い感じだ。普通な美人と言う微妙な評価なんだが……

 

 ただ年相応に大人びているからか、僕の守備範囲から逸脱している。つまりロリコンの好みじゃないのね、コレ大切!

 

「正明、この二人だが……霊力の波動がおかしい。

多分、彼女達の霊能力は互いに互いを似てると感知させる為に使ってるのだ。

昔、身代わりの為に他人に似せる能力者を見た事が有るぞ。試しに霊力を使って覗いて見ろ!」

 

 霊力を使って覗く?所謂アレだ、霊視ってヤツだね。僕の霊能力は、汎用性の悪いのが基本なんだが……

 拙い操作で霊視をする為に、両目に力を入れる。

 

「あれ?」

 

 双子の様に瓜二つと思っていたが、霊力を凝らして見ると別人だ。勿論、血の繋がりが有るので姉妹としてなら似ている範疇だが……

 

「あら、脳筋っぽいのに気付かれたかしら?」

 

「くすくすくす、そうみたいね。初見で見破られるなんて初めてじゃない?」

 

 霊力の制御がぶれると双子に見えてしまう。視覚や知覚に干渉する霊能力者か?

 

「「女性の顔をマジマジと見詰めるのはマナー違反ですよ」」

 

 この姉妹、良い根性してるな。胡蝶の加護と保護を受けてる僕に干渉してくるとは、それだけ強力なのか……

 だが、胡蝶は弱い霊能力者が二人と言った。ならば胡蝶が敢えて僕に干渉する様にさせてるのか?

 

「初対面の人に、自分達の霊能力を使うのはマナー以前の話じゃないかな?」

 

 言葉を選びながら応える。一緒に仕事をすると説明を受けたんだ。わざわざ関係を悪化させる必要は無いだろ。

 

「まっ、仲良くな。儂は本家に帰るが、亀宮様も早めに頼みますぞ。では滝沢、後を頼むぞ」

 

 もう儂の仕事は終わりだ。後は任せた的な事を言って、ご隠居の婆さんは投げっ放しで帰っていった。

 

 微妙な雰囲気が応接間に漂う……

 

 風巻のオバサンを中心に、左右に佐和さんと美乃さんが座る。どうやら佐和さんが姉で美乃さんが妹らしい。

 滝沢さんが彼女達のお茶を淹れてカステラも出してくれた。僕にもお代わりのコーラを一本、しかも瓶だ。

 栓抜きが無いので、瓶を掴みサムズアップの要領で栓を開ける。

 

 シュポッと、小気味良い音がする。

 

「榎本さんは何故、娘達の能力に気が付かれたのかな?初見でバレたのは、初めてですが」

 

 母親の言葉に、同じタイミングで頷く姉妹。シンクロしてるみたいだ。

 

「最初、屋敷に入った時ですが霊能力者の気配が二人分有ったんです。護衛の方々は五人かな?

僕は千葉の総本家を訪ねた時も散々な対応でしたからね。

何を仕掛けてくるか分からないので、警戒しておいたんです。悪いと思いましたが、最初から疑ってました」

 

 僕の言葉に、ムッとする娘二人。

 

「バリバリ警戒してたんですね!」

 

「最初から女性を疑うってサイテーですよ!」

 

 娘二人から駄目出しを貰いました。無表情だったのは術の関係か、今は表情豊かです。具体的に言うと生意気な感じで……

 

「君ら一族が僕にした事を考えれば、これ位の警戒は当たり前だろ?集団で死ぬ程の呪いに、鉄板を仕込んだ蹴りで急所を狙われたんだ。

僕は最低限、亀宮さんしか信じてない。だから契約書を交わしたんだよ」

 

 今はご隠居の婆さんと風巻のオバサンは信用してるよってフォローした。関係悪化は避けないといけないが、舐められちゃ駄目なんだ。

 最悪、彼女達が協力しなくても構わない。その為の契約だから、外注で興信所を雇えば良い。

 

「佐和、美乃!

榎本さんをからかうのは止めなさい。済みませんね、本当に娘達が失礼ばかり……」

 

 母親が頭を下げたのが堪えたのか二人は大人しくなり、ふて腐されながらカステラをパクつく。

 美乃さんは、見た目よりも年齢制限が大分低そうだ。逆に佐和さんは年相応以上な落ち着き方だな。

 

 何故だろう、霊感が疼く。20代後半な姉と10代半ばの妹のイメージ……

 

 実際二人は近い年齢だから、其処までの開きは無い。この年齢があやふやに感じるのも、彼女達の霊能力か?

 

「さて詳細を詰めても良いですかね?今日は条件だけでも調整しようと思います」

 

 何時までも遊んでいる訳にもいかない。話は早く纏めないと、明日から仕事が始められない。

 

「うむ、構わんよ。それで其方の条件を聞こうか?」

 

 打合せの主導は風巻のオバサンだ。彼女が実質的に条件を飲むか飲まないか決める。いや、決められる。

 

「先ずは仕事部屋を提供して下さい。インターネット接続済みのパソコンにプリンター。

出来ればPDFの取れる複合機が良いです。実際に外回りで調査出来る人員を何人か……助手は、お二方が手伝ってくれるのかな?

時間は9時から5時迄を基本労働時間とし、休憩は昼食1時間で午前午後に各休憩30分位ですかね」

 

 仕事場所の確保と勤務体系の確認をする。一応雇われる身だから、最低限の縛りは必要だ。

 

「ふむ……前にも少し聞いているから用意はしてある。部屋にパソコンと複合機をな。

基本的にデータの管理と保護は我々に押し付ける訳だ。確かに調べる相手が相手だけに、情報漏洩は拙い」

 

 流石は亀宮一族の諜報部門のトップだけの事は有る。此方の保険的な考えなどお見通しなんだろうな……

 

「データは全て、この家で管理して貰います。僕も持ち出しはしません。

後、其方で調べた資料を見せて下さい。それから調査の方針を決めます」

 

 だが、それは承知で僕と契約した筈だ。精々盾として利用させて貰うしかない。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 既に用意した部屋に、パソコンも資料も置いてある。案内に亀宮様、監視に滝沢を付けた。

 あの男から問題は起こすまい。そもそも問題を起こすのは、常に此方だからな。娘達に感想を聞いてみるか……

 

「あの男、どう思った?」

 

 我が娘ながら、霊能力の総量は低いが技術でカバーする二人だ。奴に同調の術はバレたが、切り札は知られてない。

 一族の権力を自分達の物と勘違いをする他の連中と違い、観察眼は鍛えたつもりだが……

 

「そうですね。他の方々から聞いた感じとは違います」

 

「問答無用で攻撃してくる狂犬には見えないね」

 

 チッ、誰だ?そんな嘘を触れ廻ってるのは?

 問答無用で攻撃したのは此方の方だぞ、事実をすり替えて有耶無耶にする心算か?

 それに狂犬なんて呼び名は、奴の過去を調べた資料でしか知らぬ筈だ。まだまだ尻尾を掴ませない膿みが居るのか?

 

「ほぅ?お前達が聞いた奴の話はどんなのだ?」

 

 顔を見合わせているが……聞くに耐えない内容なのか?ならば面倒だぞ、奴は亀宮様のお気に入り。

 それを貶す連中が居るなど、もし亀宮様のお耳に入ったら、あの入れ込み方を見れば面白くない事になりそうだ。

 

「私達も法螺話と、随分脚色された話と思ってます」

 

 佐和の答えだと、奴の活躍が信じられぬか?

 

「そうです。この目で見ないと信じませんよ、あんな法螺話なんてさ」

 

 自分の目で見た事しか信じないのは良くないな。諜報として集めた情報の真偽を確かめるのも調べるのも必要なのだぞ。

 隠されている真実から、かけ離れてしまうからな。

 

「なる程、確かにな。で?その法螺話とはなんだ?」

 

「はい、山名一族を没落に追い込んだ男。我が一族の呪術部隊を屈辱的に負かした。

荒事専門、武闘派の若手筆頭の野田を半壊した。亀宮様の思い人等々です。笑えませんね」

 

 いや、それは信じたくはないが事実だ。

 

「しかも仕込まれた遠距離呪術攻撃を触媒も術具も使わずに跳ね返すとかさ。

呪術部隊の連中からも、野田からも事実は聞けなかったけど……あの肉達磨には凄い連中が付いてるよね?」

 

 嘘じゃないが、自分達の悪い部分を伝えてないな。全く身内贔屓と言われても文句は言えない。

 手元の湯呑みから、お茶を一口飲む。さて、何から話すか……

 

「先ずは経緯からだな。八王子での除霊の時に、亀宮様と奴は知り合った。

あの色狂いの阿呆が、痴情の縺(もつ)れで元妻の怨霊に襲われた事件だ。最終的には危険度AAA(トリプルエー)となった。

奴はほぼ一人で場を仕切り除霊をした。その手際の良さは、お前達も報告書を読んだろ?」

 

 多少の不手際は有ったが、最終的には依頼人も納得した終わり方だ。我等だけでも可能だったが、亀宮様なら亀様に喰わせて終わり。

 あの様な展開にはならなかっただろう。

 

「そうですね。鈴木さん達にも聞きましたが、中々の手際の良さ」

 

「でも調査に時間掛け過ぎだよ。もっと手早く出来たよ」

 

 確かにな……だが我等と違い奴は個人。

 それが関西で噂の神泉会と真っ向勝負でなく、絡め手で依頼人を巻き込み最終的に勝利した。

 ただ祓うだけなら、単体で廃墟に突撃しても可能だったらしい。

 

「安全と慎重が奴の持ち味だな。だからこそ安定した実績が有るんだ。それとな、奴には仲間は居ない。

正確には霊能力者の仲間は、梓巫女の桜岡霞しか居ないのだ。あれは色物タレント霊能力者だからな。

しかも関西に帰省中だ。実質的に一人で我らが一族の攻撃を凌いだ。

被害は知っての通りに甚大だな。良くもまぁ、我らと手を結ぼうと思ったものよ」

 

 あれだけの仕打ちをされたからこそ、この契約書であり用心深さなのだ。奴が信頼してるのは、亀宮様だけだな。

 契約書のお陰で、私と御隠居様は信用されてるのだ。

 

「嘘だよ。だって10人以上の術者を敵に回して、無事なんて可笑しくない?」

 

「逆に野田については、あの筋肉ですから出来たとしても不思議じゃないわ。呪術と武術が両方トップクラスなんて……」

 

 普通に考えればそうだ。10人以上の術者の一斉攻撃を捌けるなど、天と地程の実力差がなければ無理だ。

 野田についても、奴は少なくとも骨折は負った筈だがピンピンしていた。実際に腹を見せて貰ったが、軽い打撲程度の腫れ。

 奴の能力の特定が出来ない。殆ど万能に近い能力者など……

 

「笑い話にしか思えないが事実だ。多数の術者を去なし、野田を半壊し自身の治癒もこなす。

亀宮様でも不可能だろう。亀様は防御特化だから攻撃方法は喰うしかないし、治癒も出来ない。

そんな化け物が在野に転がってたんだ。だが、奴も組織に勝てない事は理解している。

だから力を隠し、バレたら寄らば大樹の陰で我等の一族の末席を望んだ。分かり易い男なのだが、隠し持った力が謎なのだ」

 

 そう!

 

 奴の行動は自身の保身と亀宮様への友愛で動いている。打算的だが、亀宮様の受け取り方は違う。

 常に自分と敵対しない事を前提にしてくれる、初めて自分と同等の力を持つ者と会えたのだ。

 しかも諦めていた自分の番(つがい)になれる可能性が有る初めての男。

 

 依存せねば良いが……

 

「それ程の男が、一族の末席で満足するのかな?実行部隊の殆どを敵に回して勝った奴だよ」

 

「しかも亀宮様との関係は良好過ぎる。200年以上も現れなかった直系子孫が生まれる可能性が高い、高過ぎですよ。

気を付けないと駄目です」

 

 娘達も、これがまかり間違えれば一族崩壊の危険性を孕んでいる事は理解してるみたいだな。ならば大丈夫だろう。

 

「勿論だ!だが、必要以上に警戒しても利は無い。信用させれば良い駒……

いやビジネスパートナーになるぞ。分かってるな?無駄に衝突をせずに上手く付き合うのだぞ」

 

「「はい、お母様」」

 

 しかし、しかしだ。確かに亀宮様からすれば、頼りがいが有り気さくで自分との関係悪化を懸念する態度を見せる相手は……

 自分に好意的に見えるだろう。

 

 

第144話

 

 金沢八景の風巻分家が、これからの調査の拠点となる場所だ。そこで風巻のオバサンの二人の娘と出会った。

 霊力は低いが、癖のある嫌らしい力の使い方をする。どちらかと言えば、苦手なタイプの姉妹だった。

 実社会で働くならば、ロリとの出会いは極端に少ない。

 

 何故ならば社会人としか仕事をしないからだ!

 

 霊能力者としてでなく、教員として働いていればパラダイスだったろう。だが僕に職業選択の自由は無かった。

 それにマイエンジェル結衣ちゃんにも出会えなかっただろう。

 だから霊能力者で有る事が正解だったのだが……最近デメリットの方が多くないかな?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「榎本さん、あの子達を双子と思ったんですか?そんなに似てないのに、皆さん双子みたいに扱うんですよ」

 

 用意された机に座り、山と積まれた資料をより分ける。読むのは仕分けが終わった後だ。

 仕分け作業中の僕に、亀宮さんが色々と質問をしてくる。用意された部屋は10畳程の洋間。

 事務机が三つ有り、各々にノートパソコンが置いてある。部屋の隅に複合機もセットされていた。

 書棚も二つ用意されている。引き出しを開ければ、基本的な文房具も用意されている。

 

「最初は双子かと思ったけどさ。彼女達は自らを相手に似せる能力者なんだろ。

実際に諜報部隊なら、素顔を隠せる事はメリットになる。僕は、まぁ……体つきが特殊だから、隠密行動は無理だよね」

 

 あの姉妹は仕える亀宮さんには、能力を使ってないのだろう。僕はムキムキのオッサンだから、周りの風景に溶け込むのには無理が有る。

 要は目立つし、一度会うと相手は絶対に忘れない。

 

「筋肉を鍛えすぎた為に、諜報が出来にくい体つきになったんですね。でも過去の仕事では、色々と自分で調べていたではないですか?」

 

 この分だと八王子の件以前の僕の仕事振りも調べられてるんだろうな。亀宮さんにも報告が上がってると思った方が良い。

 

「諜報と調査は違うよ。前者は秘密裏に、後者は表立って行うんだ。僕は現役の坊主だし、説法とかで話し方を学んでる。

だから会話自体に問題は少ないけど、第一印象が悪いらしい。僕ってそんなに厳つくて怖いかな?」

 

 良く言われるのが、厳つい・怖い・ヤクザ・オッサン……いや、最後のは違うけど大抵の場合、第一印象は良くない。凄い警戒される事も有る。

 しかも笑いかけると、相手は恫喝と思うから悲しいんだ。

 

「んー、確かに私も第一印象は怖い人でした。だって何回も怒られましたもん」

 

 ましたもんって……最初の頃の亀宮様も、第一印象は困った人でしたよ。直ぐにメリッサ様と喧嘩するし、酒癖悪いし。

 

「まぁ話してみれば印象が変わるって事ですよ。お互いにね?」

 

「お互いって、私の印象も悪かったって事ですか?そうなんですか?亀だから、亀憑きだからですか?」

 

 えっ?其処に食い付くの?思わず資料を仕分けるのを止めて彼女を見る。

 

 ヤバい、彼女は涙目だ!

 

 何かが彼女のトラウマにでも触れたのか?もしかして亀憑きって禁句だった?

 

 

 ラッ、ライフカードオープン!

 

 

 ①いや、最初は近寄り難いお嬢様だったけど、話すと気さくな感じで好感が持てますよ。

 

 ②噂で聞いていたよりも、ずっと美人さんで話し易いから驚いた。

 

 ③最初は困ったチャンだったでしょ?直ぐにメリッサ様と喧嘩するし、酒癖悪いし。

 

 ④お互い似た環境だったんだなって。同じ霊獣・守護霊を憑けていても、最初は立場も考え方も違うと思ってたから。

 

 ⑤静かに歩み寄って、黙って抱き締める……

 

 

 なっなんだ、このライフカードは?

 

 ①②は一見すれば正解だ!だが、これを選ぶと違う恋愛ステージに進みそうなんだが……

 

 ③は本音だが、僕は空気が嫁る、いや読める筋肉だ!選べる訳が無い。

 

 ④うーん、これも僕達は他とは違うんだ。二人だけが特別なんだ!って取られないかな?

 

 ⑤意味不明だ。滝沢さんの監視の中で、破廉恥行為に及ぶ?まさかのバッドエンドだ。

 

 どれもこれも危険な選択肢じゃねえか!だが、急がないと何かを選ばないと駄目じゃん!

 

「おっ、お互い似た環境だったんだなって。

同じ霊獣・守護霊を憑けていても、最初は立場も考え方も違うと思ってたから。今は違うよ!

でもほら、僕は一般ピープルだけど、亀宮さんは凄いお嬢様じゃないですか!」

 

「まぁ!そんな風に思ってたんですか?」

 

 パッと表情が明るくなった。どうやら正解に近かったようだ……

 

「話の中で旧華族とか財界人・政界人の名前もチラホラと出てましたよね。顧客層も全然違いますから……」

 

 アレ?少し表情が曇ったぞ。これは失敗だったのか?

 

「いっ今は全然そんな感じじゃないですよ。僕等は互いに似た境遇だし、親近感が有りますよね?ね?」

 

「そうですよね?私達、似た者同士ですよね?榎本さんは、初めて出来た大切な友人です。隔意を持たれるのは悲しいですわ」

 

 はっはっは、そんな事は欠片も思ってませんよ。笑いながら、どうやら機嫌は回復してくれたんだと思った。

 いや、焦った。泣かれるとは思わなかったんだ。亀宮さんは、初めて出来た同類の僕に突き放されるのが嫌なんだな。

 仲間意識を持ってくれたんだろう。ならば特別扱いはせずに、一緒の扱いにすれば良いのかな?

 

 機嫌を回復し、ニコニコしている彼女に見えない様に溜め息をつく。

 

 何故なら滝沢さんの目が怖いから……ウチのお嬢を何泣かせてんだゴラァ!

 昔、付き合いの有ったヤンチャな連中を思い出す。嗚呼、軍司さん元気かな?

 僕の事を先生・先生と呼んで纏わり付いていた、良く有る名前の下っ端のヤスとサブは生きてるかな?

 暫し意識を飛ばして、心のバランスを取る……古めかしい壁掛けの時計を見れば、もう12時に近い。

 

 トリップし過ぎたかな?

 

 アレは骨董品の類だろうか、毎時ボーンボーンと鳴るタイプかな?念の為、携帯を開いて時間を確認しても11時52分。

 

 お昼時だ。

 

「亀宮さんは食事どうするの?僕は明日から本格的に始めるから、今日はこれで帰るけど」

 

「亀宮様の食事は用意してある。榎本殿の分もだ」

 

 亀宮さんに聞いたけど、滝沢さんから答えが来た。流石は護衛を任されているだけはある。秘書的な仕事も含まれてるのかもね。

 だが、外食とか買い出しって考えは無いのか。毎回用意されるのも気が引けるよね。

 案内されて別の部屋に行けば、和室に高そうな絨毯を敷いて机と椅子を置いた食堂が……既に僕と亀宮さんの分が向かい合わせに用意されている。

 上座を亀宮さんに座らせ、僕も向かい側に座る。

 テーブルの上には仕出し弁当だと思うが、所謂松花堂弁当と呼ばれる物が置いてある。

 

「失礼します」

 

 直ぐに温かい味噌汁とお茶が出された。

 

「すみません、有難う御座います」

 

 お礼を言う時に確認したが、初めて見るオバサンだ。分家の人か雇っている使用人の人か、判断はつかない……

 松花堂弁当の蓋を開けると、色彩豊かでヘルシーなオカズと瓢箪の形の御飯。微妙に量が少ない。

 

「「いただきます」」

 

 挽き肉と刻みネギの餡が掛かった高野豆腐をパクリ。モグモグと咀嚼し飲み込む。

 

 うむ、美味い。

 

 他のオカズは……季節野菜の煮物・野菜天麩羅・湯葉の刺身・茄子の煮浸し・甘鯛の照り焼き・鰤大根・なます・茶碗蒸しだな。

 野菜天麩羅は、銀杏・茗荷(みょうが)・アスパラ等、一般では余り食べれられない具材だな。

 この辺の高級仕出し弁当だと、料亭小松か割烹荒井あたりか?味良く品良くボリューム無し!

 僕なら三人前位は食べたいが、多分5000円位するだろうから無理は言えない。帰りに何か食べて帰ろう。

 桜岡さんと同じ様に、女性らしく上品に食べる亀宮さんを見て思う。いかに桜岡さんが、僕に近しいフードファイターだった事を……

 彼女の圧倒的な食べる速さは、僕では絶対勝てなかった。

 嘘とはいえ付き合ってると言ってしまった以上、理由を説明しておかないとボロが出るな。

 後で事務所に帰ったら連絡をするか……

 

「榎本さん、足りましたか?何ならお代わりを頂きましょうか?」

 

「いえ、大丈夫ですよ。普段は普通の量でも大丈夫なんです。ほら、僕の霊能力は燃費が悪いので」

 

 胡蝶の事を誤魔化す為に適当な事を言う。実際、彼女にやる気を起こさせるのは大変だから、嘘では無いと思う。

 

「そうなんですか……私の亀ちゃんとは違うんですね」

 

 何やら考え込む亀宮さん。松花堂弁当を食べ終わり、デザートのカットメロンを食べる。

 時期はずれだが、ハウス栽培の高級品なのだろう。糖度が高く、甘くて美味い。

 

「「御馳走様でした!」」

 

 今回は亀宮さんが居るから、高い食事が食べられたのだろう。明日からは、コンビニで買ってから来るかな。

 食後のお茶を飲みながら、暫し亀宮さんと雑談をする。

 中でもメリッサ様の相談事で、セントクレア教会に行った事を話したら驚いていた。

 仲が悪い様で実際は定期的に連絡を取っているらしい。

 例の山小屋の除霊は教えた方法で成功したらしいが、僕から聞いた事は亀宮さんに教えず自慢したらしい。

 今度有ったら嘘を暴いてあげますわ!とか意気込んでいたので、程々にと言っておいた。

 腹も膨れたし、亀宮さんと楽しい話も出来たから帰るかな。明日から来る旨を伝え、風巻分家からお暇(いとま)した。

 

 明日から忙しくなるぞ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「漸く帰った様だな……明日からは頼むぞ。奴の手伝いをしてやってくれ。何か学ぶ事も有るだろ」

 

 別室だが、彼らに出した物と同じ松花堂弁当を食べながら我が子達に頼む。奴が大食いなのは知っていたので、余分に頼んでおいた分だ。

 だが一人前で済んだので、こうして我々も食べている。霊能力の燃費が食事?そんな事が有るのか?

 確かに空腹では力が出ないが、それはコンディションで有り、霊能力と言うスキルとは無関係ではないか?

 

「分かってます。だけどやり方が拙かったら、文句は言うよ!私達だって、それなりに調べたんだから」

 

「そうですわ。調査資料の仕分けはしてたけど、どんなやり方をするのかは楽しみね」

 

 やり方か……前に聞いたが、亡くなった先代について可能な限り調べて欲しいと言われていたな。

 公式な記録については、殆ど調べがついている。だが半世紀以上の前の出来事だし、戦後のゴタゴタで分からない部分も多い。

 

 謎の多いのも事実。特に森については、殆ど分からなかった。

 

「でも桜岡さんと言う、梓巫女と付き合ってる割には、亀宮様との仲を進展させてませんか?」

 

「そうそう!泣かせた後に優しくするとかさ。端から見れば、誰でも亀宮様がオッサンに好意的だと思うよ」

 

 まだまだ我が子達に男女の機微は分からぬか?

 

「アレは奴が根性無しなのだ。八方美人な対応をしては、亀宮様の誤解が増すばかりだぞ。まぁ我々は、その方が都合が良いがな」

 

「えー、亀宮様とアレが結ばれるのを認めるの?」

 

「私も当主の連れ合いが、ムキムキなオッサンは嫌ですよ。そりゃ悪い人ではなさそうだし、力も有るみたいですが……生理的に嫌!」

 

 ほぅ、娘達には奴は不人気か……幾ら亀宮様に匹敵する力を持っていても、若い娘には関係無いのか?

 私も奴に義母さんとか呼ばれるのは、抵抗が有るから丁度良いが……娘達の男性談義を脇で聞きながら、胸を撫で下ろした。

 だが、娘達の興味が若手俳優やらアイドルやらと聞いていると不安も有る。憧れと結婚相手は別物なのだ。

 風巻家を継ぐ姉妹が、アイドルの追っ掛け紛いの気持ちでは困るのだよ。

 

「はぁ……家を継がせるとなれば、力有る種を持つ奴が良いのだがな。侭ならぬ物だな」

 

 家の存続と娘の幸せは別問題だから。

 


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