榎本心霊調査事務所(修正版)   作:Amber bird

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第136話から第138話

第136話

 

 まさか僕が桜岡さんと、お付き合いをしてると嘘を吐く日が来るなんて……鋼の意思でロリコン道を貫く僕が信念を曲げて迄、言わなければならない。

 この状況を何とかしなければ、即胡蝶無双が始まってしまう。亀宮さんは優しいから亀ちゃんは抑えてくれるだろう。

 だが亀宮一族を動かしているのは、この連中だから此処で事を構えるのは危険なんだ。

 

 だから仕方の無い嘘なんだよ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「お遊びは其処までだぞ!下がらんか皆の衆」

 

 終始無言だった上座に近い位置に座る老婆が一喝した!腰が曲がった80歳位の婆さんだが、迫力が違う。

 騒然とした場が水を打った様に静かになる……

 

「榎本さんと言いましたな。本当にうちの子達が粗相をして申し訳無い」

 

 そう言って深々と頭を下げられた。正座より胡座の方が緊急時に立ち上がり易いと思い足を崩したが、また正座をし直す。

 

「此方こそ申し訳無いです。皆さんを混乱させるつもりは無く、ただ派閥の一員として加えて頂きたいだけだったんです」

 

 この言葉は優しいが威圧感が半端無いのは、若い頃に付き合いが有ったヤクザの親分に通じている。

 亀宮一族の実質的な権力者は、この婆さんだ!その婆さんが頭を下げたんだ。そう言って此方も深々と頭を下げる。

 

「正明、襖の後ろの連中が離れたぞ。あのババァだが、かなりの力を持ってるな。隙有らば喰いたいぞ」

 

 既に他の連中は口を出さないし、襖の後の連中も下がったのか。思わず右側の襖に目をやってしまう。

 そして胡蝶さんの喰いたい宣言……この婆さんが交渉の肝って訳だ。

 

「ふむふむ、まさか在野にこれ程の御仁が埋もれて様とは……襖の奥の連中も命拾いしたものよ。

亀宮様の慧眼は素晴らしい。一族の連中に爪の垢でも煎じて飲ませたい程じゃ」

 

 良い意味で誤解してるのかな?言葉は優しいが目がね、笑ってないから怖い。

 何故だか嫌な汗が額から流れ落ちた……

 

「いえいえ、それ程でも有りませんよ。僕程度に過大な評価を有難う御座います」

 

「そんな事は有りません!榎本さんは素晴らしい人なんです。

人当たり・責任感・用意周到さ・豊富な経験、そして隠している力。全てが私よりも勝ってるんです」

 

 身を乗り出して力説する亀宮さん!何故、何故なんだ?何故、僕の知り合いの女性は誉めながらハードルを上げてしまうの?

 

 善意だけに辛い、辛過ぎる。

 

「ははははは……亀宮さんは優しいから、皆さん本気にしないで下さいね」

 

 謙遜の様な台詞にムッとする亀宮さん。彼女の中での僕は、どれ位強いんだろうか?

 

「なる程な……後ろ盾無き強き力は本人に災いを呼ぶ。時に榎本さんは、亀宮様に触れる事は出来るかいな?」

 

 触れる?思わず亀宮さんの顔を見る。

 

「確かバスの中で右手の応急処置をしてくれましたよね?その時には確かに亀宮さんと触れていたかな」

 

「そうでしたね。膝の上に乗っても特に亀ちゃんは妨害しなかったわ」

 

 膝の上って、座席の奥に移動する為ですよね?大事な部分の説明が不足してますよ!

 その台詞を聞いた時、婆さんの目がキラリと光ったのは幻覚だと思いたい。

 でも確かに彼女の膝の上に固定され、マキロンをバンバン吹き付けられたんだ。

 

 アレは染みたなぁ……

 

「ほぅ?時に榎本さんは、本当に我等一族の末席で良いのか?

ウチの馬鹿連中の去なし方を見ても、既に我等が一族の上位の力をお持ちだ。望むならば……」

 

「いえ、結構です。僕は一族で無く派閥の末席で良いです。

亀宮さんと敵対する派閥の勧誘のお断り理由に、亀宮さんの派閥へ入りたいと思ったのです。

だから末席で、お願いします。その代わりですが、仕事への強制力も拘束力も無しでお願いしますね」

 

 末端構成員だからって、使い潰されたら大変だ。あの跳ねっ返り連中は、この派閥の中級クラスだと思うからね。

 嫌がらせをされたら面倒臭いし大変だ。

 

「勿論ですよ。榎本さんが敵対しないだけでも我々は充分ですな。いやはや本当に欲が無いが抜け目も無い。

一族でなく派閥で良いなどと……だが本当に亀宮様が困った時は力を貸して下され」

 

 そう言うと、もう一度深々と頭を下げた。

 

「勿論、そのつもりです。亀宮さんとは同業者として信用も信頼もしている。お世話になるのだから、出来るだけの協力はします」

 

 言質を取られたが、実際に亀宮さんがピンチなら協力するつもりだ。権利には義務が有り、お世話になるならお返しは当たり前だ。

 

「榎本さん、お詫びを兼ねて今夜は宴会を開きますぞ。是非とも今までの経験談等を教えて頂きたい。

それと今夜は泊まって行って下さい。なに、亀宮様とは別々の部屋ですからご安心を。

明日、車で送らせて頂きます。さぁ亀宮様、榎本さんを時間まで持て成して下さい」

 

 此処は断る事は出来ないな。有り難く申し出を受けよう。あの婆さん、何を考えているのかがイマイチ分からない。

 だが当初の予定通りだから問題無いのか……

 

「有難う御座います。お言葉に甘えさせて頂きます」

 

「さぁさぁ堅苦しいお話は此処までですよ。私の部屋でDVDを見ましょう!」

 

 亀宮さんが僕を部屋から連れ出そうと手を引っ張る。周りが一瞬だが息を呑むのが分かった。

 具現化した亀ちゃんも溜め息をついている。連中の前で、僕が亀ちゃんの妨害無く彼女に触れる事を証明してしまったんだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「御隠居様、あの様な者に寛大過ぎる待遇を!良いのですか?」

 

 血は澱むと劣化する。霊力はそこそこ有れどな。亀宮一族の力を自分達の物と勘違いも甚だしい。

 

「馬鹿め。お前等よりも、あの筋肉坊主の方が頭が回るわ。

アレが終始下手に出てたのはな、今は勝てても組織力で負けるのを理解してるからだ!」

 

 古くから仕えし一族の名家の跡取り連中だが、全く使えん連中よ。あの筋肉の怖さが分からぬとはな。

 

「まだ我等は本気じゃなかった!一斉に掛かれば……」

 

「既に個人では勝てぬと理解しておろう!数で勝つ?馬鹿か貴様は。

お前が暴走したお蔭で術者が10人以上使い物にならん。お前の言う一族最高の体術使いの野田も壊されたぞ」

 

 今回の暴走は男衆を束ねる山名一族の所為だ。確かに我等は女尊男卑の風潮は有れど、実力的には同等。

 汚れ仕事を受け持つ男衆の方が手段を選ばぬ怖さが有る。だが全員が潰された。しかも手加減されてだ。

 

「アレは引き分けです!野田は確かに奴の肋骨数本と右手を壊した……」

 

 漸く気付いたか。あの筋肉、野田の鋼鉄を仕込んだ蹴りを確かに受けた。

 幾ら筋肉の鎧を纏おうが、現実問題として無傷はおかしい。人体が鋼鉄に勝てる訳がないだろう。

 野田も手応えが有ったと言っているのにだ。

 

「殆ど無傷だな。怪我を負わない防御力が有るのか、治癒力が高いのか?

アレは我が一族に取り込めないならば、敵対するならば、殺すしかない程の男だぞ!

それが向こうから来てくれた物を馬鹿をしおって!貴様は謹慎だ。今回の件に関わった全員もな。連れて行け」

 

 連行される男を見て思う。もはや山名一族に未来は無い。底辺からやり直して貰おう。

 

「御隠居様は彼が亀宮様と結ばれる事を望むのですか?」

 

 儂の隣に座る裏実務を取り仕切る風巻(かざまき)一族の長が話し掛けてくる。彼女は一族の中でも優秀で儂の右腕だ。

 

「うむ、それが悩みなのだ。我等と敵対せし勢力は二つ。三竦みと同じ状況だ。

誰かが襲えば勝った方も無傷では無いから、残りが襲えば勝てる。この危うい均衡に奴を放り込む。するとどうじゃ?

我等は一歩抜きん出るが、残りの二つの勢力が結束しよう。だが、それでも互角。

逆に奴が敵側に付けば、我等は負ける。故に奴を逃がしてはならぬ」

 

「ならば一族の年頃の娘を宛てがいましょうぞ。色仕掛けです。調べでは風俗界で有名な精豪らしいですな。ならば……」

 

 儂も独自に調べた。確かに奴は定期的に風俗で遊んでおった。だが桜岡霞と付き合い始めてからはサッパリだ。

 つまり適度に精力を発散させる相手が出来たのだ。だが亀宮様とも満更でも無いが、常識的な為に二股はしない。

 その中に我等が一族の婦女子をけしかける?

 

「愚問だな。奴は色仕掛けでは靡かぬよ。逆に亀宮様が気を悪くしようぞ。今は誠意を見せるしか有るまい。

楔は亀宮様が打ち込んでくれよう。なに、子が出来れば儲け物程度で良いのだ」

 

 恋愛に疎い亀宮様では略奪愛は無理だ。男自体に免疫が無いからの……だからこそ、あの男は亀宮様に協力を惜しまない。

 無邪気で天然な亀宮様を捨てる事は、あの男には無理なのだ。

 アレは純粋に好意を寄せる者には破格に甘いが、打算で来る者にはドライだ。

 だが桜岡霞・小笠原母娘・霧島晶、タイプは違えど奴に純粋に好意を向ける女には甘い、甘過ぎる。

 

「それでは拘束力が弱くは有りませんか?もっとガチガチに固めた方が良いのでは?」

 

「男はの、余りに周りを固めてしまうと逃げ出す生き物じゃよ。何、奴の周りには見目の良い娘を集めよう。

良く良く言い含めてな。だが此方からは手出しは厳禁じゃ。

もし万が一に、無いと思うが手を出したなら男としての責任を取って貰おう。

亀宮様と桜岡霞の共通点、それはグラマーな美人だ。何人か候補を選出しろ」

 

 小笠原母娘も巨乳だからな。ほぼ間違い無いだろう。あの連中は、見事に容姿の特徴が同じ。

 

 奴は巨乳なお嬢様が好みと見た!

 

 全く男って生き物は、乳がデカければ良いなどと……しかし儂の孫娘で独身は陽菜(ひな)しか居ないが、あの子は未だ中学生だ。

 出来れば儂の一族と結ばれて欲しかったが、無い物ねだりは無理か……だが顔見せ位は良いかも知れぬな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 何とか顔見せを終えて金ピカの亀宮さん私邸に戻って来た。あの婆さんのお蔭で、連中は収まったが逆を言えば未だ暴発は有ると思う。

 大した婆さんだが、末端迄は抑えていない。いや抑えられない。

 何故か最初の応接室でなく二階の私室に案内されてしまった。12畳の和室にドカンと存在感の有るテレビ。

 中央に炬燵がセットされて、日本茶と蜜柑を入れた籠が置いてある。

 亀宮さんは何かDVDを選んでいるが、ブツブツと何か言っているのが怖い。

 

「やはり最初は原点たるサイコロの旅①よね。私的ベストは夏野菜スペシャルとジャングルリベンジ、それにヨーロッパ21ヶ国完全制覇だけど……」

 

「あの、亀宮さん?多分だけど後二時間もすれば夕食だよ。それって全部見るのは無理だよ」

 

 このままでは夜通しテレビ鑑賞みたいで嫌だ。

 

「決めました!サイコロの旅①にします。何事も基本から」

 

「僕の話を聞いてる?」

 

 DVDのdiscをセットして、リモコン片手に炬燵の向かい側の潜り込む。

 

「ええ、スタートしますわ。ふふふ、サイコロの旅①は未だ大泉さんが現役学生の時に、大物歌手にインタビューすると騙されて東京にですね……」

 

 毎夜の電話でも思ったが、変なスイッチの入った亀宮さんは、何を言っても止まらない。つまり話すだけ無駄だ。

 僕は諦めて蜜柑の皮を剥き始めた……

 ニコニコと笑いながら説明してくれる彼女を見て、多分だが亀ちゃんに取り憑かれてから本当の意味での友達は居なかったんだろう。

 力有る者は周りから距離を置かれるからな。気を使わない女友達はメリッサ様位だと思う。

 最初の男友達がオッサンの僕ってのが、彼女にとって良い事なのかは疑問だが……

 流石に高級で美味い蜜柑をモグモグと食べながら、タイミングを見計らい結衣ちゃんに連絡しなきゃと考えている。

 やはり一話が終わって後枠を見た後かな?

 

 

第137話

 

 なる程、確かにサイコロの旅①は原点なんだろう。未だ大泉さんは学生気分が抜けず、テレビに写るのが出るのが楽しいと感じる。

 タレント陣とディレクター陣の会話もぎこちない。呼び方もさん付けだし、あの無駄トークだけで場を繋ぐ不思議空間も無い。

 だが随所にシリーズのネタの原点が有るね。蜜柑を五個食べ終わると、第1話も終わった。

 

「亀宮さん、一旦止めてくれる。自宅に連絡するから」

 

 特に会話するでもなく、向かい側に座り蜜柑を食べてる亀宮さんにお願いする。こんな長閑な時間も良いよね。

 

「分かりました。確か同居してる里子さんが居るんですよね?独りで平気かしら、何ならお呼びしても……」

 

 リモコンを操作しながら提案してくれるが……こんなアウェイな空間に結衣ちゃんは呼べない。

 それに可愛いモノが大好きな亀宮さんなら、結衣ちゃんを抱いて離さないだろう。女性だから亀ちゃんは大歓迎だろうけどね。

 

「明日も学校ですから駄目ですよ。それに僕は仕事柄、夜に家を空ける事が多いので慣れてます。では一寸連絡してきますね」

 

 そう言って携帯電話を片手に外に出る。外と言っても二階のベランダだ。

 セキュリティーの関係で普通に玄関から出ると、僕だけでは中に入れない。

 ベランダに出ると中庭が見渡せる……金ピカ私邸を中心に円形の深い池が有り、周りを日本庭園風な芝やら石やらが配されている。

 所々に黒服連中が見えるのは護衛?巡回?此方を警戒しているのは、何気なく此方に向ける視線で分かる。

 ヤクザの屋敷より警戒が……いや、考えちゃ駄目だ。番号を検索し電話をかける。

 この間、静願ちゃんの画像が写る設定を見られてしまい、彼女の写真も撮らせて貰い設定した。

 彼女は妙に小笠原母娘と張り合う。コール中に写る結衣ちゃんは……リアル獣っ娘です。

 これは他人には見せられないのだが、結衣ちゃんが頑なにコレを望んだんだ。

 

 何故だろう?

 

「はい、結衣です」

 

「もしもし、榎本です。今電話大丈夫?」

 

 私用携帯の方に掛けたが、周りからの音は聞こえない。つまり自宅かな?

 

「はい、平気ですよ。今は部屋で宿題してましたから」

 

 学校から帰って直ぐに宿題だと?僕の学生時代では考えられないな。

 

「今日だけど予定が変わって帰れなくなったんだ。戸締まりをシッカリ頼むね」

 

「大丈夫ですよ。お仕事大変ですもんね。明日の帰宅時間の予定は何時位ですか?」

 

 夜に独りの時間に慣れさせてしまったのは、僕の失敗だな。だが霊能力者が昼間だけ仕事は、現実的には不可能だ……

 

「昼前に帰るから午後になるね。夕飯は一緒に食べれるよ。あとデザート買ってくから楽しみにしてね」

 

「分かりました。お仕事頑張って下さい」

 

 良く出来たロリだよな。携帯を胸ポケットにしまって振り返ると、亀宮さんが立っていた!

 

「うわっ、脅かさないで下さいよ」

 

 全く心臓に悪いぞ。

 

「まるで奥様と話しているみたいでしたよ。結衣ちゃんって、お幾つなんですか?」

 

 マイロリエンジェルは中学二年生だから「今年で14歳だよ。ウチを空けるのが多いから独りで過ごすのを慣れさせてしまった、反省中」そう言って部屋の中に入る。

 

「あらあら、榎本さんってパパなのね?私も娘が欲しいわ、可愛い娘が」

 

 この問いには実は正解は無い。亀宮さんの状況では養子なら兎も角、自身が妊娠する事は極めて難しい。

 その最短距離に僕は居るが、その気が全く無い。

 

 だってロリコンだから!

 

 そそくさと炬燵に戻る。意味深な目線を向ける亀宮さんを促し、一時停止を解除して番組を見る。

 深夜バス……侮れないな。新宿から博多まで12時間で運んでくれるのか。

 だが、座席に半日ってキツいぞ。画面ではサイコロの目の六を出し、目により交通機関が決定するのだが……

 最悪の目を出した。寝台特急や飛行機等も有るのに、何故に最長時間・距離の深夜バスを選ぶ?

 

 しかも逆方向……

 

 このサイコロの旅とは、東京を出発し北海道に帰る単純な物だ。だが毎回六通りの行き先をサイコロの目で選ぶ。

 そこには各種交通機関の乗り物が書かれているが、何故か逆方向に向かう方が多いんだ。

 

「深夜バスって辛いよね?僕は無理だな、体が大きいし狭い椅子は嫌だ」

 

「そうですよね。私も寝台特急なら乗りたいんですよ。個室で札幌・函館、楽しそうですが、一人旅は許して貰えないと思うし……

榎本さん、北海道で除霊仕事が出たらご一緒しませんか?」

 

 寝台特急は個室も有るが、要は動くホテルだ。対外的に無理だろ、僕は何もしてない・二人共個室だったと言っても、世間は信じてはくれない。

 だから話題を変えよう。

 

「仕事と言えば、前に相談の有った政治家絡みの件はどうしたの?」

 

 あからさまに話題を変えた為か、少し拗ねてる?

 

「もう!此処はご一緒しましょうって場面ですよ。全く真面目なんだから。そうそう、前にお話しした件なんですが……」

 

 

 彼女の話を要約すると……元大臣、現役国会議員からの依頼。

 それは彼の地元に先祖代々受け継ぐ屋敷と山林が有る。その山林は彼の爺さんが亡くなる迄、家族の誰にも入らせない程に大切にしていた。

 大切って言うか、秘密にして近寄らせなかったのが真相だと思う。爺さんが亡くなり遺産整理で、その山林が問題になった。

 何と高速道路のインターの建設予定地の候補だったのだ。広大だが利用価値の無い山林が、インターが出来れば宝の山に化ける。

 測量会社が何組か入ったが、皆行方不明だ。その原因を調べて、問題が有れば祓う。

 

 だがスキャンダルはお断りだ!

 

 国会議員の所有してる土地に高速道路のインターを造るなんて、実際あくどい事をしてるんだろう。

 そして短期に解決したいので、何組かの霊能力者との共同作業っぽい。問題が世間にバレて候補地から外され、尚且つ候補地に上がっていた事までバレる。

 巨額な利益が貰えるんだ、相手の本気度は高い。だが亀ちゃんは基本的に亀宮さんに憑いている。

 除霊の為に広大な山林を歩き回るのは不可能だし、山登りの技術も無い。

 出来れば断りたいが、その国会議員にはお世話になっているので無理っぽい感じだな。

 うーん、亡くなった爺さんが原因なのは間違い無いんだ……そして家族にすら秘密なんて碌な事じゃない。

 だが既に犠牲者が出てるのに騒ぎ出さないのは口封じした?

 亀宮さんみたいな一大組織じゃないと、除霊しても口封じに殺されかねん。

 

「うーん、難しいよね。これは亀ちゃんの不得意分野だ。広大な山林って亀宮さん、トレッキング出来る?」

 

 どうみてもお嬢様に山登りは無理だろ?そう言えばメリッサ様も山小屋を放火する為に、山登りするんだよな。

 山小屋の除霊は成功したのかな?

 

「えっと、その……トレッキングって山登りですよね?無理だと思います。でも亀ちゃんに乗って飛べば……」

 

「木々の間を縫って飛べるの?山道が整備されてるかも分からないからね。

希望的観測じゃなくて、常に最悪を想定しなきゃ駄目だ。僕等は命懸けの仕事をしてるんだよ」

 

 やはり亀ちゃんに乗って飛べるんだ!最悪の場合は、飛んで逃げれるのは強みだ。30mも高く飛べば殆どの攻撃は通じない。

 亀ちゃんはデカいから甲羅に伏せれば、地上からの狙撃も防げるだろう。僕の胡蝶さんは物理攻撃は一面しか防げないかも。

 呪術的な攻撃は、殆ど防いでくれるんだけど……

 

「うん、分かりました。有難う、榎本さん。流石です」

 

 素直に礼を言う彼女の姿が、桜岡さんとダブった。これってアレか、お嬢様に懐かれるパターンか?

 確か桜岡さんも除霊手順の不手際を教えたら懐かれたんだ。アレ?静願ちゃんも同じだぞ。除霊手順を習いたいんだ。

 

 僕はアレか?同業者に物を教えると懐かれる?

 

「もし仮に仕事を請けるなら手伝うけどさ。僕も亀宮一族の派閥構成員として扱ってね。

それとは別に契約書も取り交わしてさ。権力者の秘密を探るなんて、個人事務所じゃ最悪消されかねん」

 

 国会権力に単身で刃向かうのは無理・無茶・無謀だ……

 

「それは構いませんが、何故ですか?個人事務所名を出せば宣伝になりますよ。消されるなんて映画やドラマの世界みたいだわ」

 

 周りの連中は、この辺の裏側と言うかドロドロした部分は、敢えて亀宮さんには教えてなさそうだ。

 欲望の為に人殺しをする連中なんて、掃いて捨てる程沢山居る。

 僕だって前は胡蝶の言うままに、怨霊や化け物・時には死んだ同業者も贄として捧げたんだ。

 だから分かる、人は自分や大事な物の為なら躊躇はしても他人を踏み台にする。

 

 余程の善人じゃなければね……

 

「勿論、考え過ぎかも知れないけどさ。僕は用心に越した事は無いと思うよ。

この業界で10年以上生きてきたのは、用心深さと事前調査・準備だよ。除霊に臨むのは勝率80%以上になってからだ。

そう思っても、八王子みたいに依頼人の為に無茶をしなきゃならない。因果な商売だよね?」

 

 僕程度の霊能力者じゃ準備に準備を重ねて、更に胡蝶と言う切り札が有るから何とかなってるんだ。

 駆け出しの頃なんて、毎日が失敗して殺されても不思議じゃなかった。良く生きていられたな……いや、胡蝶に生かされてたんだな。

 

「分かりました。多分この仕事は請けざるをえません。

なので榎本さんは私の一族として紹介します。別に亀宮と榎本さんの事務所との契約も交わしますね。

今回は私も私の一族も不安に思ってます。でも調査・準備に精通した榎本さんが協力してくれれば安心だわ」

 

 どの道頼まれたら断るつもりは無いんだ。ならば好条件で請ければ良い。

 出来れば調査には数人のスタッフを借りたいし、外部の興信所にも協力体制を敷いておきたい。

 僕の霊感では、亡くなった爺さんの過去を調べないと原因の特定は無理だと思う。

 家族が知らないとなると、下手したら半世紀以上遡らないと駄目かも知れない。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 夕食は普通に懐石料理だった。

 

 食材も高級品だったし、あの婆さんも同席した。他にも風巻さんと言う腹心っぽい中年の女性。

 この四人だけで会話の少ない食事を終えた。

 食後のデザートにと高級品っぽいメロンを食べながら、亀宮さんが先程の話を振る。

 

「そうですか。あれ程の失礼を働いたにも関わらず御尽力頂けますか。それは感謝しますぞ」

 

 契約の件、除霊作業中の僕の立場も確約してくれた。これならば第一段階は成功だ。

 後は事前準備だが、資料の持ち帰り・持ち出しは危険だし直接僕が調べ回るのも嫌だな。

 

「後は事前に調査をしたいのですが、何処まで調べてますか?」

 

 話を振ると、風巻さんの目がスッと細くなった。どうやら調査は風巻さんの担当か?

 

「それは逆に榎本さんは亀宮様から話を聞いて、どう調べますか?」

 

 質問に質問で返されたぞ。此方の能力調査でも有るんだろうな、この質問は……

 

「先ず問題の山林は後回しにして、亡くなった爺さんと測量して消えた連中を徹底的に調べます」

 

「ほぅ?確かに私達も亡くなった先々代については調べてますが、何故そう思われる?それに測量会社の社員は被害者だろうに」

 

 風巻さんが体ごと此方に向けてきたぞ。このオバサンも爺さんが元凶だと思ってるんだな。

 

「家族にも内緒となれば、先祖代々何かを守ってるんじゃなくて自分がナニかを隠してた。

じゃなきゃ次代の息子や孫に引き継ぐ。それをしないのは、自分が元凶なんだと思う。

だから隠したいし、それなりに抑えは用意してた。それが破られたのは、測量の連中が何かしたんじゃないですかね?

生き残りが居れば詳しい話が聞けると思いますよ」

 

 腕を組んで考え始めた風巻のオバサン。何か思い付いたんだろうか?

 

 

第138話

 

 ご隠居様と風巻さん、それに僕と亀宮さんだけの夕食……だが実際は亀宮一族の重鎮連中だ。

 亀ちゃんを纏う亀宮さんに一族を実質的に束ねる婆さん。それに諜報担当っぽい風巻さん。

 後は実働部隊の長が居れば全員揃うんじゃね?

 食後の日本茶を啜りながら、何となく仕事の話を振ってみた。

 今日は泊まりだし、余りに早く引き上げるとDVD鑑賞会の夜の部が始まってしまう。

 だから21時近く迄話し込んで、入浴→就寝にしたい。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「榎本さんの言われた測量会社の社員だが……公にはなってないが労災事故として処理された。

獣に襲われたとな。実際に遺体の損壊は激しかったそうだ」

 

 風巻さんが淡々と話す。最近でも東北のクマ牧場で似たような被害が有った。だから決して可笑しくは無い理由だが……

 

「そもそも問題の屋敷と山林って何処なんです?」

 

「愛知県の山岳部ですね……」

 

 愛知県か……駆け出しの頃に暫く厄介になった親分さんが居るな。

 出来れば付き合いは最低限にしたい類の商売の方が……具体的には広域指定暴力団の方が。

 でも軍司さんには、お世話になりっぱなしだ。筋肉の師匠でも有るし、一度挨拶に行くかな。

 彼等は義理には篤く不義理には厳しい。季節の挨拶は勿論だが、近くに来た時も連絡はする。

 

「愛知県で人間を襲う獣……情報操作されたんですね。まぁ其処は触れない方向で。

それで発見場所は?捜索隊は何処まで山林に入り込めたんですか?」

 

 発見場所が惨殺場所なら原因の特定にも役立つ。そして捜索隊が何故無事だったのか?また彼等に当時の話を聞けるのも重要だ。

 

「犠牲者は山林の麓で発見されたそうだ」

 

 淡々と惨劇の経緯を語る風巻さんも大したものだ。だが亀宮さんはどうかな?彼女を見れば無表情だが……

 

「亀宮さん、辛いなら席を外しても良いよ。情報交換したら要約して報告するから」

 

 人が死ぬ過程や結果なんて知りたくも無いだろ?

 

「平気ですよ。確かに気分の良い物じゃないですが、これも私の仕事ですから……」

 

 気丈に言うが、それでも慣れずに辛いんだ。その白く細い指をギュッと握ってるのを見れば分かるよ。

 

「余り無理しないでね。さて気持ちの悪い話だが続けるよ。現場には血痕とか事件の手掛かりは残されてましたか?」

 

 風巻さんが目を逸らして首を振る。この先はタブーなんだな。つまり痕跡を残さず処理されたんだ。

 

「話を変えますが、既に葬儀も終えたんですよね?司法解剖とかのデータも手に入りませんか?」

 

 事件性が有れば警察だって普通の手順を踏む。目撃者の居ない死亡は、事件だろうが事故だろうが司法解剖をする筈だ。

 此方も静かに首を振った。相手は警察にも手を伸ばせるんだな、全く厄介だ。

 

「そうですか……傷だけでも見れれば色々と分かったんですけどね。まぁ残念だけど仕方無いか……」

 

 黙って聞いていたご隠居の婆さんがお茶を飲みながら、何気なく質問してきた。

 

「遺体から情報を得るとはな。余り良い物じゃないぞ」

 

 湯呑みで表情を隠しながら……僕だって好きで調べたい訳じゃないよ。だが情報量が生死を分けるなんてザラだろ?

 

「いや本当に獣かなって?傷を見れば刃物の傷か爪や牙の傷か分かる。

歯形でも有れば動物の特定も可能だし、最悪個体の数や大きさも推測出来る。

何より二人以上の人間を殺して運ぶ連中だ。人か獣かだけでも分かれば調べる事は減る」

 

 知恵ある獣は凶悪だし、人の怨霊だってそうだ。特に思考力の有る悪霊・怨霊なら、相当手強いぞ。

 

「何故、被害者が二人以上だと?」

 

 アレ?こんな簡単なことを聞いてくるかな?思わず変な顔でご隠居の婆さんを見る。向こうも訝し気な顔で此方を見る。

 本当に皺クチャな婆さんだな、目とか細くて皺と区別がつかないよ。

 

「いや測量作業は二人一組でしょ?今はGPSとかで座標を入力すれば測量出来るらしいけど、普通は単独作業はしないと思いますよ。

ましてや街中じゃなくて山林だし、危険じゃないですか」

 

 遺体を麓に運んだのは警告だ。相手は人並みの知恵が有るのは間違い無い。先入観は厳禁だが、僕は怨霊か悪霊の類だと思うね。

 

「そうですね、私も同感です。ご免なさい、相手から其処までの情報は引き出せないの。私の部下も現地に送ったけど行方不明なのよ」

 

 サラリと爆弾発言をしやがったぞ。既に調査で失敗してるんかい?

 

「私聞いてませんよ!一族から犠牲者が出てるなんて?」

 

 僕が何か言う前に亀宮さんが叫んだ!本気で怒ってるのが分かる。彼女は基本的に善人だから、身内から被害が出たのが許せないんだろう。

 だが悪手だよ其れは……

 

「それは大問題ですね。最初の測量会社の社員の死体を麓に運んだのは、多分だが警告だと思いますよ。

それを無視して人を送った。相手は怒ってる。問答無用で殺す位にね」

 

 既に敵意剥き出しの相手に、どう挑むかな……ハードルが高いな、それこそメリッサ様に言った様に山火事を起こして一気に解決したい。

 

「言い訳をさせて貰えるならば、私は直接乗り込む指示はしてなかった。周辺の調査を命じたのですが、定時連絡で近くまで行ってみると……」

 

 辛そうな顔の風巻さんだが、確かに自分の部下を亡くしたんだ。辛いのは当然だよね。

 だけど亀宮一族って除霊事故で死んだら保証有るのかな?契約書には、その辺もシッカリと記載しなきゃ駄目だな。

 気持ちを切り替え様とお茶を飲むが、知らない内に湯呑みの中は空だった。湯呑みを覗いていた為か、亀宮さんがお茶を注いでくれた。

 

「ん、有難う。さて、夜も更けましたし一旦お開きにしますか?僕も今日は疲れたので、出来れば風呂に入って寝たいです。

続きは明日の午前中にしましょう。僕は明日、一旦帰って契約書を作りますから、実際の仕事は契約締結後に……」

 

 余り根を詰めて話し合っても無駄だろう。先ずは契約、次に調査の為の環境と手伝ってくれる人を紹介して貰おう。

 今回は相手がヤバいから直接調査に人員を出して欲しいし、調べ物に使うパソコンも用意して欲しい。

 僕個人のアカウントとか知られたくないし、相手が何処まで警戒してるか分からない。だから僕は極力表に出ない方法を取らないとね。

 

「そうでしたね。榎本さんは母屋に部屋を用意してます。風呂は部屋にも有りますが、大浴場も用意出来ますぞ」

 

 悪くなった雰囲気を変える為か、風巻さんが明るく言ってくれた。

 

 大浴場!素晴らしい響きだが、僕専用じゃないだろう。

 

 裸なんて無防備な所を晒すのは、未だ信用も信頼もして無いから嫌だな。

 

「流石ですね。でも早く寝たいから部屋風呂で十分です」

 

「あら、母屋の大浴場は総檜の湯船なんですよ。それに露天風呂も有りますし、今夜は月が綺麗ですよ。のんびりと入られて月見でもどうです?」

 

 何故、そんなに勧めるんだ風巻さん?嫌な予感しかしない……

 

「実は昼間の蹴られた部分が染みますので、湯船には浸かれないんです。だからシャワーで軽く汗を流したいなと……」

 

「そうですよ!怪我を見せて下さい。全然痛くなさそうだから安心してたのに、染みるなんて治療しなきゃ」

 

 亀宮さんが脇腹を見ようとシャツを捲ろうとするが……婦女子が男性を脱がすのは痴漢行為じゃないですか?

 彼女の手を掴み、やんわりと押し返す。既に亀ちゃんは、僕が亀宮さんに触るのは容認らしい。

 

 具現化すらしないし……

 

「女性が男性の服を脱がしちゃ駄目でしょ!怪我は平気だよ、心配は嬉しいけどね」

 

「でも野田に本気で蹴られたんですよ。彼は10㎝位の丸太を蹴りで折れるのです。だから……」

 

 結構頑固な所が有るよな。散々炬燵で寛いでるんだし、心配無いのは分かるだろうに。

 仕方無くシャツを捲り脇腹を見せる。腹筋に力を入れるのは男の見栄だが内緒だ!

 

「ほら、少し違和感が有る程度だから打撲だよ。余り見せる体じゃないんだ。僕は傷だらけだから、女性は気を悪くするだろ?」

 

 そう冗談っぽく言う。何故か女性全員が、オッサンの腹をガン見だ。

 

「何ですか?」

 

「「「いえ、何でもないです」」」

 

 何故ハモるんだ?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 亀宮様に手を引かれて、客間に向かう小山の様な筋肉を見て思う。

 

「やはり男なら逞しい方が良いな」

 

「そうですね。荒事も必要ですし、男は女を守ってナンボですよ」

 

 ムキムキに割れた腹筋、そして新旧大小の傷。彼の半生が決して順風満帆で無い事が分かる。

 

「先程の話だが、どう思う?諜報部隊の長として?」

 

「そうですね。悪くない進め方です。彼は優先順位を付けてから、順番に調べるのでしょう。

しかも安全性を確保しながら……

私は手足が多いので、同時に調べてしまった。結果は私の方は失敗し、部下を無駄に亡くした。

現地入りする前段階で、もっと詳しく調べるべきでしたね。それと彼の考察も大体私と一緒でした」

 

 ほう、風巻が誉めるとは中々だな。それにしても、彼の能力が限定出来ない。

 あの蹴りを喰らいながら、ほぼ無傷な事。襲撃直後は脇腹や腕を気にしていたそうだ。

 つまり回復力か治癒術が得意なのだろう。

 

 自動回復機能付きの重戦車とは厄介だが、何故新旧大小の傷も有るのだ?

 

 呪術部隊を全滅させる事も片手間で行える。実際に最初はコーラを飲みながら嫌そうに、次は野田の襲撃を去なしながらだ。

 亀宮様の話では左腕を振るうだけで、強力な怨霊を祓えるらしい。亀宮様が自分と同等以上と太鼓判を押すのが理解出来たよ。

 敵対せずに済んだのは、不幸中の幸いだな。

 

「彼は契約書を取り交わさないと、仕事はしないと言いましたね。抜け目無い事ですな。良い様には使えないかも知れません。

私は彼に諜報部隊の有望な若手を同行させようと思います。良い刺激になるでしょう」

 

 風巻一族の精鋭部隊を奴と同行させるか……ふむ、悪くない。

 アレの除霊手順が生で分かるのはな。

 

「それは良い考えだ。風巻を信用してない訳ではないが、他の霊能力者の手の内を知るのも良い経験になるだろう。して、誰を付けるのだ?」

 

「私の娘二人付けようかと……」

 

 二人、奴と合わせて三人チームか……だが必ず亀宮様が入るだろう。

 

「佐和と美乃をか?調査といえども亀宮様も加わるだろうな。

あの感じでは……護衛に滝沢を付けるか」

 

 佐和も美乃も実戦力としては弱い。奴と亀宮様が守りに廻れば問題無いとは思うが、用心に越した事は無い。

 それに、あの二人は良い意味でも悪い意味でも変人だ。常識ある人間を付けねば、奴からの評価が落ちる。

 問題児を押し付けたとか思われたくは無い。

 

「分かった、それで良かろう。ふふふ、楽しみよな……」

 

 同等の力を持ちながら亀宮様には我等が居た。だが奴は家族と師匠を立て続けに亡くしている。

 正反対の位置に居た二人が交わるとは、何とも神様は残酷じゃないか!

 

 まるで現場からの叩き上げとエリート士官だな。

 

「御隠居様、榎本さんですが本当に信用なさるので?」

 

「何か気になるのか?」

 

 信頼じゃなく信用か……奴の言う契約書を交わせば、逆に奴も枷を負う。信用しても良いだろ?

 

「その、報告では駆け出しの頃に暴力団と交流が有ると……現在でも定期的に連絡を取り合い、仕事も請けているそうです」

 

 くくくく、我等とてヤクザと変わらぬ者達から仕事を請けてるではないか!国会議員など、一皮剥けばな。

 ハマコーなど自分で昔はヤクザだと吹聴していたぞ。

 

「ああ、儂も調べたぞ。名古屋に拠点を持つ奴等の事だろ?昔、まだ亀宮様も駆け出しの頃にほんの二ヶ月位だが噂になった事が有ってな……」

 

 それは狂犬と呼ばれていた男の話だ……

 


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