榎本心霊調査事務所(修正版)   作:Amber bird

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亀宮さん(篠原梢)の章
第133話から第135話


第133話

 

 亀宮さん(篠原梢)の章

 

 

 八王子の一件以来、亀宮さんが僕の事を関係者に言い触らしたお陰で、派閥へのお誘いが多くなった。

 亀宮さんが自分と同等と評した為に、彼女の敵対勢力からのお誘いばかり……確かに当世最強と言われる彼女をして、同等と言ってる訳だから。

 敵対勢力としては、是が非でも取り込みたいだろう。基本的に亀宮さんと敵対する意志はない。

 だから苦肉の策で、彼女の派閥の末席に加えて欲しいと頼んだ。

 亀宮さんには、口を酸っぱくして、一族が結束している中枢に他人を入れるな。派閥の末席で構わない、いや寧ろ末席が良い。

 そう言ったのだが、嬉しそうに笑っているばかり……そして、遂に千葉県某所に有る、亀宮家の総本家に呼ばれた。

 絶対に一族総出で待ち構えて居るに違いない。

 

 昨晩、確認の為に電話で話したが……凄いご機嫌だったんだ。

 

 あれをやられては、長年仕えてきた連中は面白くないだろう。まさか襲撃されるとは思わないが、防御面では万全で望もう。

 本日の装備を下から順番に確認する。アーミーブーツ・ワークパンツ・革のジャケット・革の手袋だ。

 手荷物は無い、両手をフリーにする為に。仕込みとしては、脛当てをして革のジャケットも内側には分割した鉄板を縫い込んでいる。

 胴体は弱点だが、思いっ切り刺されなければ、多分だが平気だ。革の手袋は防刃仕様の特注品だから、刃物で襲ってきても掴める。

 

 武器は持たない。

 

 普段ならナイフや特殊警棒・ナックル位は忍ばせるが、今回は派閥に入れて貰う為の挨拶だ。敵対行動と取られる様な物は持ち込めない。

 

 あと、胡蝶さん。

 

 この一般常識をブチ壊す存在こそが切り札で有り、亀宮さんと一族の上位の方々には御披露目しなきゃ駄目な存在だ。

 何と胡蝶さんは、一方通行だが僕に念話紛いの事が出来る!つまり左手首に居ながら、下僕の僕に指示が出来るんですよ。

 いきなり頭の中に話し掛けられた時は、遂に電波を受信しちゃったのか?

 

 厨ニな世界にコンニチハ?そう思い涙した物だ……

 

 感慨に耽る間に乗っていた電車が目的の駅に到着した。ローカル線の鄙びた駅だが、秘密を抱える連中は大体が人目を避ける田舎に本拠地を構えるよね?

 先方から指定された時間は14時丁度。電車は予定通り到着したから、現在時刻は13時16分……何でこんなに早く待ち合わせ場所に居るのか?

 それは次の電車は14時15分到着だから。つまり一時間に一本しか電車が来ない田舎なんだよ!

 10分間隔で電車が来る都会に慣れた人には、田舎に流れる時間は辛いだろう……駅舎は木造平屋建てで待合室には木製ベンチが一脚のみ。

 僕はのんびりと待合室の椅子に座り、自販機で買ったコーラをチビチビ飲む。

 

「うーん、長閑だなぁ……」

 

 眺める景色は青い空・緑の大地・疎らな民家・広大な畑、遠くに見えるのは鋸山かな?まさにスローライフに適した環境だね!

 

「正明、呑気だな。お前を探る連中が何人か居るぞ。それに呪いを掛けてきてるな……

大した呪いでは無いが、腹下し・目潰し・聴覚異常……

ほぅ?禍(わざわい)を引き寄せる呪いかよ。えげつないな……まぁ我には効かぬよ」

 

 オートガードの胡蝶様が、何やら物騒な事を言い出してます。少なくとも監視されていて、四人の術者に呪いを掛けられてる訳だ。

 こりゃ予想通り、亀宮さんは配下の連中を押さえ切れてないんだな。話を聞くと長老だかご隠居だかの一族の古老達が仕切る組織みたいだし。

 

 思わず溜め息をついてしまう。

 

 幸せが逃げるそうだが、僕も物理的に逃げたいです。胡蝶が呪いを跳ね返してる間、のんびりと景色を見てコーラを飲む。

 仰け反りながら空を見ると鳶(とんび)が元気に旋回してる……何か獲物を探してるのかな?

 丁度飲み終わりゴミ箱に空き缶を捨てた時に、駅前に黒塗りのベンツが二台、音も無く入って来た。

 

 漸くお迎えが来たみたいだ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「おい、お前達?大丈夫か、おい?」

 

 少し脅かすつもりで軽い呪いを仕掛けた。最初は腹下しや目眩まし程度の軽いヤツを……だが悉く霧散してしまった。

 相手の力量は計り知れない。私が止める前に、彼等は死に至る呪いを掛けてしまったんだ。

 ヤバいと思った、笑い話では済ませられない失態だ!

 

 お嬢様が嬉しそうに話す男に嫉妬し、無断で力試しを挑んだ結果は……一族でも呪いを得意とする連中が、全員でトイレの争奪戦をしている。

 

 嗚呼、一部は間に合わなかったみたいだな。異臭のするトイレから急いで離れながら考える。

 

 榎本正明……

 

 10人掛かりの呪いをコーラを飲みながら去なした男?先行して望遠鏡で監視している連中が、溜め息をつきながらコーラを飲んでいたと報告してきた。

 つまり片手間で、この惨状をつくりだした男。悔しいが初戦は完敗だ。呪術的な力は向こうが一枚上なのだろう。

 だが、だがしかし、これでお嬢様に相応しいと認める訳にはいかないのだ!

 我々は一族の中でも、男だからと蔑まれてきた。亀宮様に同行出来るのは女性だけ。

 つまり花形な除霊は一族の女性が同行し、裏方的な汚れ仕事は男性が行う。女尊男卑が、我ら一族に課せられた現実。

 それをポッと出の男に、亀宮様を盗られてなるものか!迎えに行った連中も我らの仲間が居る。

 

 未だだ、未だ我らは貴様を認めないぞ!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 先頭のベンツの後部扉が開き、亀宮さんが飛び出して来た。真っ白なワンピースに、此方も真っ白な帽子を被っている。

 とても20代後半の女性とは思えない若々しさだ。しかし胸は凶悪で、ブルブル震えている。

 

 思わず苦手意識で目を逸らす程に……

 

 スカート丈が膝下迄で、腰と帽子にアクセントの黄色いリボンが付いている。完璧なお嬢様ルックだ。

 デザインが今風なのがお洒落なのだろう。流石は700年続く名家の当主だけの事は有る。彼女を守る様に数人の女性が周りを取り囲む。

 此方はビジネススーツに身を包んでいる。後方には運転手だろう男性が二人。

 

 とても友好的ではない視線で睨んでます……やはり僕は亀宮さん以外からは、歓迎されてないんだな。

 

「こんにちは、榎本さん。ご無沙汰してますわ」

 

 そんな雰囲気をブチ壊すかの様に親しげに挨拶をする亀宮さん。凄い笑顔だ……

 

「電話では良く話してますが、会うのは八王子以来ですね」

 

 確かに夜に良く電話で話したが、殆どが世間話で今回の派閥に入れて貰う相談はしていない。

 彼女が全面的に任せて欲しいと言ったからだが……もう少し慎重に進めるべきだった、反省。

 ボディーガードが警戒する中、1m位まで近付いた亀宮さんが嬉しそうに話し掛けてくる。

 具現化した亀ちゃんが威嚇しているのが、ご愛嬌?亀ちゃんと目を合わせて、取り敢えず話し掛ける。

 

「亀ちゃん、僕は宿主と敵対しない為に来たんだ。だから威嚇しないで欲しいな……」

 

 嗚呼、左手首からの思念が僕の頭の中に溢れ出た。アレは美味そうだ、食べたい。早く喰わせろ、と……

 考えが通じたのか、亀ちゃんは亀宮さんの中に戻った。僕は左手首だが、亀宮さんは体全体?

 

「では家にご案内しますわ。此方の車に乗って下さい」

 

 二台有る内の先頭の車に案内される。そのまま乗り込もうとしたが

 

「亀宮様、榎本様は後ろの車にて御案内します。警備上の問題ですので、御容赦下さい」

 

 慇懃無礼な態度で若い男が割り込んで来た。つまり信用出来ない僕を亀宮さんと一緒の車には乗せられない訳だ。

 護衛は徹底してるな……

 

「野田?榎本さんが信用出来ないと言うの?」

 

 野田と呼ばれた男は一瞬怯むが

 

「済みません。しかし、それは出来ません。御容赦下さい」

 

 頑なに同乗を拒む。少し不自然だが、此処で揉めても仕方無いだろう。他の連中も僕が亀宮さんと同乗するのは嫌なんだろう。

 静観したままだし……

 

「僕は構いませんよ。此処で揉めても意味は無いですから。僕は後ろの車に乗りますね」

 

 そう言って後ろの車に移動する。

 

「もう……すみません、榎本さん。では後程」

 

 済まなそうな彼女に右手を上げて応え、そのまま後部座席に乗り込む。話を纏めた僕に対し、何も言わず隣に乗り込む野田。

 先程の呪いと良い、亀宮さんは完全に暴走してる手下を御して無い。これは大変だな……

 フレンドリーに会話する必要も無いので腕を組み寝た振りをする。暫くは車内は無言だが、張り詰めた空気が漂う……

 勿論、殺気を放つのは彼等で僕は自然体だ。

 

「俺はお前を認めない……」

 

 押し殺した様に言う野田。全くトップの意向に従えない手下ってどうなんだ?

 

「別に認めて貰う必要は無いよね?僕は亀宮さんと話に来たんだ。トップの意向を無視して動く手下に用は無いよ」

 

 いい加減頭に来たので、つい言い返してしまった。僕とした事が未熟も良い所だ、反省。

 

「なんだと!貴様なんぞに亀宮様は渡せない」

 

 ほら、激情しちゃった……もう何を言っても無駄だ。此方の話を聞く耳は無くなったよ。勿論、元から無いんだろうけど……

 

「おい、聞いているのか?俺はな……」

 

「黙れよ下っ端!今後の事は亀宮さんを交えた上層部との話だ。お前がどうこう言えるのか?」

 

 売り言葉に買い言葉、泥沼だよな、本当にさ。

 

「ぐっ……ふん。お前など御隠居様達が認めるものか!精々媚びを売るんだな」

 

 つまり御隠居様なる連中の中にも否定派が居るのか……これは胡蝶の力を見せ付けないと駄目か?逆に見せたら見せたで面倒臭いか?

 その後もグチグチ文句を言う野田を無視して寝た振りを決め込む。5分も走ると到着したみたいだ……

 窓の外を見ると土塀に囲まれた日本家屋が見えた。広いなぁ、正面の土塀だけでも100m以上は有るぞ。

 徐行しながら正門前に移動、そして停まった。前のベンツから亀宮さんが降りたから、此処からは徒歩なんだな。

 無言でドアを開けて外に出る。

 

 そのまま亀宮さんの近くに移動しようとしたら「亀宮様に近付くな!」と怒鳴られた。

 反対側のドアから降りた野田が、回り込みながら走り寄ってくる。振り向いて無防備な一瞬の隙に、野田の回し蹴りが左脇腹に食い込む。

 甲高い金属音は、僕が防御に仕込んだ鉄板と野田が脛に仕込んだ鉄板がぶつかったからだ。

 助走を付けての蹴りは、幾ら鉄板で防御しても衝撃は伝わる。肋骨の何本かは折れたか?

 

「野田!止めなさい」

 

 亀宮さんの静止も聞かず、今度は回し蹴りで頭を狙ってきた。つまり殺す気だ!咄嗟に右手を上げてガードするが、結構な衝撃だ。

 野田と言う男……スピードは大した物だし、軽い体故の打撃の軽さを鉄板を仕込む事で底上げしている。

 体術も本格的だが、僕とは相性が悪かったな。大した技術もスピードも無い僕は、筋肉の鎧の防御力とタフネスさを鍛えた。

 致命傷にならない弱い攻撃は耐えられるんだ。

 

 そして……

 

「手も足も出ないか、ああ?トドメだ!」

 

 回し蹴りから更に体を捻り、再度蹴りを脇腹に撃ち込んでくる。大した体術だがな!

 

「なっ?蹴り足を掴んだ?」

 

 奴の蹴り業は振り抜いて次の攻撃へと繋げる。スピードを生かしての連撃が、本来のスタイルなんだろう。

 体が軽い野田は、スピードと鉄板と遠心力で威力を高めている。だが蹴りが当たった瞬間は動きは止まる。

 どんなに素早くても、受け止められたら直ぐに引っ込める事は出来ない。だから足首を掴んでしまえば、攻撃は止まる。

 

「悪戯が過ぎたな」

 

 掴んだ足首を力任せに時計回りに捻る。人体は強固だが、本来曲がらない方向に捻られれば堪らない。弱い関節、つまり膝が粉砕した。

 

「ウギャー!足が足がぁ……」

 

 まだまだ此からが反撃だ!

 

 

第134話

 

 亀宮さんの派閥の末席に加えて貰う為に、呼ばれた筈だった。しかし現実は、跳ねっ返りの下っ端から嫌がらせ紛いの事をされている。

 呪いを掛けられたり、不意打ちで蹴られたり……いや、不意打ちについては車内での売り言葉に買い言葉が原因かな?

 つまり僕の所為だ。

 

「正明、あの男の攻撃に合わせて呪いが来たぞ!」

 

 胡蝶さんからの念話が頭の中に鳴り響く。なるほどなー……急な攻撃に呪いを合わせる事は出来ない。

 つまり最初から、このタイミングで仕掛ける事は決まってたのか!

 

 なら遠慮は要らない。未だ足首を掴んでいる野田をジャイアントスイングの要領で振り回す。

 

「ちょ、おま、止めてくれ!痛い痛い痛い痛い痛い……膝、膝がもげるー」

 

 高々60キロ位の人間を振り回す事は、僕には簡単だ。しかも膝が粉砕されたままで振り回されたら激痛だろうな?

 ほら、痛みで気絶して力が抜けたし……そのまま静観していたボディーガード共に向かって放り投げる。

 一応女性ではなく男性側に投げつけた!大の男一人分の重量だが、三人掛かりで何とか地面に落とさずに受け止めたな。

 

「正明、呪いを仕掛けた連中は全員下痢地獄だぞ。しかし甘いな……我らに敵対したんだ。本来なら喰うべきだ!」

 

 胡蝶さんから一方的な念話が来た。呪った奴らの処置も完了か……一応、事前に予想はしたので殺さないで下さいと頼んでおいたのが良かった。

 幾ら何でも人を殺してしまっては和解は無理だ。だけど胡蝶の下痢地獄は、僕の呪いより強力だ!

 一体この屋敷にトイレは幾つ有るのかな?全員分足りてるのか?下痢で漏らしてしまうのは、大人にとっては屈辱的だ。

 しかも行動は制限され、放っておけば脱水症状で大変な事になる。だが医者に行きたくてもトイレからは離れられない。

 漏らすのを覚悟で病院に行くか、医者に来て貰うか……だが呪いは現代医学では治療は難しい。

 

 きっちり一週間は苦しむだろう……僕は思わず暗い笑みを浮かべてしまった。

 

「亀宮さん?僕達の間では信頼関係は築けている。だが君の配下の連中は違うみたいだ。

僕は駅からずっと呪いを掛けられたりしていたよ。

そして不意打ち紛いの、この襲撃だ。しかも呪いとタイミングを合わせて来た。

これは……僕は亀宮さんとは敵対したくないが、彼等は敵対させたいんだね?」

 

 一瞬の出来事に呆けていた亀宮さんが、再起動する。その表情は真っ青だ。

 

「ちっ違います、違うんです。私は、こんな事は指示してないわ。誰、誰なの?

私は大切なお客様として、榎本さんを招待すると言った筈よ。誰なの、名乗りなさい」

 

 激高した亀宮さんに連動してか、具現化した亀ちゃんも周りの連中を威嚇し始めた。鎌首をもたげて周りを見回す。

 何人かが目を逸らしたが、心当たり有り?その連中の顔を覚える。

 

 男連中は全員、他に若い女が一人か……この様子だと跳ねっ返りの単独行動か?

 

 いや10人以上が関わってるんだ、内部派閥の一つ二つは絡んでるぞ。

 

「亀宮さん、残念だけど日を改めよう。僕も次に何かされたら、我慢出来ないよ。

勿論、僕等の中での信頼関係は揺らがない。僕は君とは絶対に敵対しない。だけど、君以外には分からない……」

 

 ここは一旦帰って出直した方が、双方頭が冷えて良いだろう。それに肋骨数本折れてるみたいだし、蹴りを受けた右腕も痺れだした……

 メディカル胡蝶さんに、早く治療を頼みたい。彼女には世話になりっぱなしだから、帰ったら人形寺ツアーを計画・実施しよう。

 力の底上げになるだろうし、今回も彼女が居なければ田舎駅の待合室で終わっていた。呪いなんて全然気付かなかった……

 ここの連中は強力だ、野田には勝てたが此方の被害もデカい。実際は引き分けに近いだろう。

 ならば賠償問題として貸しを作る為にも、治療して記録を残すかな?

 鈍い痛みに耐えながら、どちらが得か考えてしまう僕は薄汚れてる?

 

「駄目です!今帰られたら、私の気持ちが収まりません。鈴木さん、西原さん!」

 

 僕が思考の海を漂ってる間に、亀宮さんが何か騒いでるぞ。

 

「「はい!」」

 

 若い女が二人、駆け寄って来た。あっ、八王子に同行してた二人だ。

 

「この騒ぎの首謀者を調べなさい、全員です!榎本さんは私の部屋へお通しします。直ぐにお茶の用意を。さぁ榎本さん、此方へどうぞ……」

 

 流石は組織のトップだ。毅然とした態度で周りに指示をだして、それに連中も従ったのか?

 集まっていた連中がバラけていく……あの野田と言う男の膝に添え木をしている時に、奴が仕込んだ鉄板を見た。

 三角形になっている……アレで蹴られたら、普通は骨が折れるか砕けるな。殺傷目的の装備だ。

 

 亀宮一族、気を付けないとコイツ等は相当エグい集団だぞ。

 

「あー、亀宮さん。呪いを仕掛けた連中なら、多分トイレに籠もってるよ。呪いはアレンジして返したから、一週間は治まらないだろう」

 

 鈴木さんと西原さんが、微妙な顔をして頷き合いながら走って行った。トイレに籠もってる連中を尋問するのだろうか?それは臭くて大変だ、ご苦労様。

 

「さぁさぁ榎本さん。此方です」

 

 僕の左手を握り締めて、屋敷の奥へと誘う亀宮さん。

 

「いや、一寸待って下さいって。これが周りを刺激するんですって……」

 

 離れた所で僕を睨み付ける連中が何人も居る。殆どは男だが……憧れの当主に、どこの馬の骨とも分からないオッサンが纏わり付く。

 多分だが嫉妬なんだろうな。気持ちは分かるが、ちゃんと状況を考えろ!僕は亀宮さんとイチャイチャしに来てない。

 僕等が敵対しない様に実績作りに来たのに、そっちからブチ壊すとはな。敵対勢力が喜ぶだけだぞ。

 

「大丈夫、大丈夫ですわ。私は気にしませんから、大丈夫なんです」

 

 嗚呼、前に晶ちゃんにも同じ事を言われた。大丈夫を連呼してもね、実際は大丈夫じゃないんだ。

 

「分かりました……お邪魔しますから手を離して下さい」

 

「駄目です、榎本さん手を離すと逃げ出しそうです。私には分かりますよ」

 

 む?確かに逃げ出したいのだが、何故バレた?屋敷の玄関に通され、靴を脱ぎスリッパを履く。

 8畳以上は有る玄関から畳敷きの廊下を歩く。亀宮家現当主と手を繋いで歩く姿を見た連中は、ビックリした顔で固まっている。

 

 つまり、アレだ。

 

 男嫌いの亀ちゃんが居るのに、何故手を繋いで居られるのか?亀ちゃんも具現化して亀宮さんの背中に貼り付いているが、特に僕を威嚇していない。

 先程の脅しが効いた?暫く歩くと母屋から離れに渡り廊下に出た。廊下と言っても池に架かる橋だ……古風な木造のアーチ型の橋で屋根は瓦葺き。

 池の中には亀が沢山泳いでいるが、多分亀ちゃんの眷属だな。此処は亀ちゃんの結界の中なんだろう。

 しかし中庭?庭園?凄い日本庭園って言うのかな?池の真ん中に二階建ての金閣寺見たいな建物が有る。

 

 アレが亀宮さんの部屋?家だよね?

 

「さぁさぁ渡りましょう。あれが私の私室です。派手なのは私の趣味じゃないですよ。先々代が建てたらしいです……」

 

 確かに成金趣味丸出しな金色の家か……だが周りを良く見れば、発電機室らしい小屋から太い配線が渡ってるし、本物の金閣寺と違い障子でなく鋼製扉だったりする。

 池だって底が見えない位に深い。無断で侵入するのは大変だな。この橋以外だと泳ぐか飛ぶかだが、泳げば亀ちゃんの眷属に襲われる。

 飛ぶと言っても人間は簡単に飛べない。

 

 流石は当主の私室って……私室?

 

「駄目、駄目だって!軽々しく女性の部屋に入る訳にはいかない。ほら、応接室とか客間とかさ。ねぇ、聞いてる?」

 

 幾ら亀宮さんが引っ張っても、僕が止まれば動かない。それだけの力の差が有るし、彼女は懸垂も一回も出来ない程に非力だ。

 それに僕等の後ろには大名行列みたいにピッタリと数人が着いて来てる。彼女等が騒ぎ出す前に、私室訪問は止めるべきだよ。

 

「むぅ……勢いで押そうと思っても駄目ね。榎本さんって本当に常識的だわ。飯島さん、客間の準備を。

榎本さんはコーラが大好きだから忘れずに。さぁ支度が出来るまで、私の部屋で待ちましょう?」

 

 的確な指示を出す亀宮さん。一礼して下がる飯島さんと、その他の連中。

 

「うん、そうだね……」

 

 スタスタと歩く亀宮さんの後ろに付いて行って、橋を渡る。僕等が渡ると池の中の亀達が集まってくる。

 うん、此方を目で追っているのが分かる。この亀達は相当統率されてるな……

 20mは有る橋を渡ると鋼製のドアの脇に指紋認証の防犯装置が……登録者以外は普通でも入れないのか。

 亀宮さんが人差し指をかざすと、電子音の後に鍵が開く音がした。電子錠だと停電時はどうなるんだ?

 亀宮さんが手招きしてるので中に入ると、直ぐに応接室に通された。良かった、別に私室じゃなかったよ。

 

「此方に座って下さい。今、お茶を用意しますから……」

 

 パタパタと応接室を出て行く亀宮さん。多分だが、普通の家の機能も全て有るんだろうな。

 キッチンとかも……ソファーに深々と座り大きく息を吐く。

 

「ふーっ、アレレ?何でナチュラルにこの部屋に居るんだ?自分で駄目だって言ったじゃん!」

 

 何となく勢いに押されて来ちゃったけど、最悪だ。幾ら応接室とは言え、当主のプライベートスペースに二人切りなんて、言い訳がつかないぞ。

 慌てて立ち上がるが、脇腹の痛みで屈み込んでしまう。

 

「ぐっ……脇腹が……」

 

 どうやら痩せ我慢も限界だ……

 

「胡蝶、済まないが頼む……痛みが耐えられない」

 

 左手首の蝶の痣から、流動化した胡蝶さんが現れる。床面に水溜まりを作り、中心から盛り上がる様に人型を形成する。

 良かった、全裸じゃない。今日は古代中国の姫様みたいな衣装だ。

 前にあげたマダム道子の水晶をネックレス風に付けているが、本来のアレは力を抑えるんじゃなかったかい?

 

「ふむ、服を捲れ。どれどれ……肋骨に罅(ひび)が入ってるな。だが内蔵は傷付いてないから安心しろ」

 

 ペタペタと手で触りながら、いや触診?状況を説明してから、小さな赤い舌でペロペロと舐めてくれる。

 非常にくすぐったい。

 

「ほら右腕もだ……ふむ、此方も罅(ひび)が入ってるな。

あの野田と言う男。それなりの達人だったんだな。

次に襲えば問答無用で喰うぞ。我の愛しい下僕を傷付けたのだ。二度目の慈悲は無い」

 

 そう言って腕も舐めてくれる。基本的に胡蝶の治療は舐める。触るだけでも治せそうだが、必ず舐める。

 治療を終えて左手首に戻るかと思えば、ソファーに座る僕の膝の上に座った。

 

「あの……そろそろ亀宮さんが戻ってくるけど」

 

 彼女は僕を見上げて「ああ、どうせ顔見せするんだ。早い方が良かろう?」と、ご機嫌な胡蝶さん。

 

 彼女は緒五里(ちょごり)に似た服を来て、金色の冠を被っている。最近瞳が金色になってきた故か、神秘性が上がったような……

 

「榎本さん、お待たせしました。まぁ!あらあらあら、その子が榎本さんのパートナー?」

 

 お盆に乗せた飲み物を素早くテーブルに置いた。氷を入れたグラスの縁に輪切りのレモンが差してある。

 並々と注がれたコーラにはチェリーが浮いている。昭和の喫茶店のコーラだ……彼女はオレンジジュースだが、此方は氷だけ。

 どうにも亀宮さんの感性が分からない。

 

「ええ、そうです」

 

「霊獣亀の宿主よ。宜しく頼むぞ。但し我等に刃向かうなら、悉く喰らってやろう」

 

 ちゃんと挨拶の出来た胡蝶を偉いと思う。

 だが、目をキラキラとさせ両手をワキワキさせながら寄って来る亀宮さんを僕は心の底から怖いと思った。

 僕にしがみ付いてきた胡蝶も同じ気持ちらしい……

 

 

第135話

 

 千葉県某所、亀宮一族総本家に招かれた……筈だった。しかし僕は当主の亀宮さん以外からは、招かれざる客だったみたいだ。

 確か八王子の時に、お供の二人からは歓迎っぽい事を言われたと思ったんだが……子孫繁栄、産めよ育てよ的な?

 だが実際は、最寄り駅に着いた途端に呪いを掛けられ屋敷に着いた途端に暴力を振るわれた。

 しかも結構な重傷を負ったんだ。メディカル胡蝶が居なければ、即入院クラスの。

 

 これは一部の跳ねっ返りだけじゃ無い筈だ。

 

 奴らは連携してるし人数も多いから、ある程度の組織的な計画だ。派閥の一つ二つは絡んでいる。

 少なくとも胡蝶は10人以上の呪いを跳ね返してトイレに直行させた……

 その後、唯一僕を歓迎してくれた亀宮さんの私室と言うか、私邸に招かれてしまった。

 金閣寺ばりの成金ピカピカな私邸だが、先代の亀宮さんが建てたらしい。

 そして胡蝶を紹介し、彼女が胡蝶に何故か襲い掛かろうとしているのが現在の状況だ!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 何事にも動じない胡蝶さんが、珍しく後ずさっている。

 

「正明、アレは何か分からないが怖いぞ。性的な意味で悪戯されそうだが……」

 

 掌をワキワキと変な動きをしてる亀宮さんは、僕から見ても不審者だ。とても分別のついた成人女性の行動じゃない。

 

「亀宮さん……少し落ち着こうよ。ね、取り敢えず深呼吸してからソファーに座ろう」

 

「榎本さん、私可愛いモノが大好きなんです!是非、その子を抱かせて下さい」

 

 ジリジリと距離を詰める、その目は真剣だ……静止を聞かずに抱き付こうとした時に、亀ちゃんが具現化して亀宮さんの首を甘噛みして引っ張った?

 そのままソファーへストンと座らせる。ナイスだ亀ちゃん!

 首を伸ばして亀宮さんを一巻きしてホールドしている亀ちゃんは、もしかしたら嫉妬か?又は胡蝶の本性を恐れて彼女を守ったのか?

 膝に座る胡蝶を見ても、特に亀宮さんを排除する意志は無さそうだ。

 

「もう、亀ちゃん離して。あの子を触らせて、お願いだから……」

 

 体をくねらせて亀ちゃんの首から脱出しようと頑張る亀宮さん。先程までの遣り取りが、嘘の様に穏やかな時間だ……

 折角なので用意してくれたコーラを飲む。うむ、これはPepsiだ。僕はどちらも好きだが、敢えて言えばCoca-Cola派かな。

 胡蝶も亀宮さん用のオレンジジュースを飲んでいる。どうやら亀宮さんも諦めたみたいだな。

 亀ちゃんに抱かれながらぐったりしている。

 

「亀ちゃんは嫉妬してるんだよ。近い存在だからね」

 

「もう!榎本さん、その子のお名前は?」

 

 コーラを飲み終え、膝に座る胡蝶のお腹の部分を両手で抱き締める。

 

「ん、我の名前か?我は胡蝶!700年に渡り正明の一族に憑いている化け物だよ」

 

 クスクス笑う亀宮さん。胡蝶の化け物発言を信じてないみたいだ。

 彼女は一皮剥けば、確かに鰐(わに)みたいな存在なんだけどね。

 

「胡蝶ちゃんて言うの。榎本さん、こんな可愛い子を秘密にしてるなんて悪い人だわ。

でも守護霊と会話出来るなんて素敵ね。私が亀ちゃんと意志の疎通が出来る様になるまで5年近く掛かったのよ」

 

 具現化した亀ちゃんの顎を撫でながら、昔を懐かしむ様な目をする。確かに言葉を使わず、表情や仕草で意志の疎通は難しい。

 それが簡単なら大勢の飼い主とペットも会話出来るだろうし……

 

「ふん、我と正明が打ち解けるのは10年以上掛かったぞ。コイツは中々我の事を理解しなかった。最近だな、我等が一心同体になったのは……」

 

 うん、確かに八王子の事件で丹波の尾黒狐を倒した時にヒントが貰えたんだ。それまでは罰と称して一族を殺し捲ってたからな……

 本当に良かった、理由を知る事が出来て。

 

「あら?それは大変だったのね。胡蝶ちゃんはジュースが飲めるなら食事も出来るの?

お菓子とか食べる?亀ちゃんは霊とかしか食べないから、大変なのよ」

 

 うちの子は人間も霊も化け物すら食べます。

 

「まぁ我も似たような物だよ。我は悪食だがな……」

 

 暫くは亀宮さんからの質問責めだった。会話出来る守護霊なんて貴重な存在だろう。

 古代の呪いとかも知ってるらしいし、教えを請おうかな……応接室に通されてから15分位だろうか?

 インターホンで呼び出しが掛かった。但し呼び出し音が変だったんだ。

 

 チャーンチャッチャチャチャラリラーって、散々亀宮さんから教えて貰った水曜どうでしょう?のオープニング曲だ。

 

 何処まで水曜どうでしょう?のファンなんだ?良く見れば装飾棚の中に簡易onちゃんが有るぞ。

 それに大泉洋主演作品第二段「喧嘩太鼓(偽)」のポスターに、カントリーサイン212市町村の地図まで……

 

「はい、分かりました。それと次に榎本さんに無礼な事をしたら、本気で怒りますからね」

 

 僕が隠れグッズを探してる間に話は終わったみたいだ。一応、僕に対しての対応を注意してくれたが……当てには出来ないかな?

 

「榎本さん、母屋の方で準備が出来たみたいです。行きましょう」

 

 そう告げる彼女は、先程とは違い真面目な顔だった。いよいよご隠居様だか長老様だかと、ご対面って事なんだな。

 金ピカの私邸を出て廊下を渡ると、黒服の一団が待っていた。

 男女共にスーツに黒ネクタイってさ、men in black じゃ無いんだから不自然だと思うんだ。

 

「此方へどうぞ」

 

 鈴木さんと西原さんだっけ?に誘導されながら、母屋の奥へと進む。因みに胡蝶さんは左手首の中に入って貰っている。

 彼女は次に襲われたら躊躇い無く相手を殺(や)るだろうから、内心ビクビクだ。上手く僕等の関係を認めさせなければならない。

 僕が求める恩恵は、他の勢力からの勧誘を断る口実。相手は僕が敵対しない・除霊作業に協力する事。

 悪くは無い条件だと思うのに、こうも一部から武力行使されるのが気に入らない。暫く畳敷きの廊下を進むと中庭に面した大部屋に通された。 

 先程と違い池こそ無いが、見事な庭園だ……亀宮一族は、除霊の他にも事業に手を出してるっぽいな。

 調べなかったのは手落ちだが、此処までの資産は除霊の報酬だけでは無理だ。きっと当主に決定的な権限が無いのは、その辺が絡んでるんだろう。

 表の当主は亀ちゃんが選ぶから特定は難しい。

 だが裏で組織を維持・管理し、資金面でのサポートもするご隠居様だか長老様が連綿と続いているんだ。

 彼等に僕が不利益にならない事を理解させれば、自ずと跳ねっ返りも抑えてくれる筈だ。中庭を見ながら廊下を少し歩くと100畳位の和室に通された。

 

 何だろう、この配置は……

 

 上座に一つだけ置いてある座布団は亀宮さんが座る筈だ。その両側には5人ずつ並んで座っている。

 右側は老人達、左側は壮年の男女。多分右側がご隠居か長老で左側が現在の運営を管理してる連中か?

 

 そして僕は下座だな。

 

 まぁ組織の末席に加えてくれってお願いしたんだから、順当な席次だ。慣れているのだろう、亀宮さんが上座に座る。

 僕も下座に座る。

 

「正明、右と後ろの襖の向こう側に結構な連中が居るぞ。先程、呪いを掛けてきた連中よりも強いな。

こいつ等が本来の主力の連中だろう……アレは前に我等を探っていた連中も混じってるぞ。まぁウザいから一人喰ってからは来なかったのだが……」

 

 ナンダッテー?

 

 既に御一人様を美味しく頂いちゃってるんですか?そりゃ敵対視もするぞ。

 胡蝶さんに、その辺を問い詰めたいが如何せん僕からは話し掛けられない。この念話は一方通行なんだよね……

 さて、位置取りの確認をする。

 正面の上座に亀宮さん、右側は老人達で後ろの襖に人が居るが老人の護衛も兼ねてるな。

 僕が何かしたら飛び出してくるだろう。左側は壮年の人達で後ろは廊下だ。

 此方は長老かご隠居予備軍だから、有事の際は自分で対応出来そうな感じだ。

 多分だが全員が霊能力者だと思う。僕は下座で後ろの襖の奥にも連中が居る。僕が何かすれば襲ってくるのだろう……

 正に袋の鼠と言うか、まな板の上の鯉だ。

 

 全員が座ったのを確認したら、左側の一番手前のオッサンが此方を向いて「ご苦労だったな。榎本君と言ったか……」と結構な上から目線で君付けで労われた。

 

 ご苦労様なのは、お宅らの所為なんだが……

 

「色々と勉強させられましたし、迷惑も掛けたみたいですね。さて、今日の訪問の趣旨を確認しても宜しいでしょうか?」

 

 話し掛けてきたオッサンじゃなく、右側の老人達に向かって話し掛ける。女性四人、男性一人。

 やはり女性が優位なんだろう、男性は一番手前の下座に座ってるし。

 

「ほう?此方も勉強させて貰ったが、被害も大きかったぞ。で、訪問の趣旨を聞こうか?」

 

 右側手前の老人が応えてくれた。左側のオッサンは、ムッとした顔をしたが何も言ってこないか……

 当然だが、僕が襲撃された事は知っていて被害も知ってるんだな。

 

「亀宮さんが僕の事を色々と持ち上げてくれた為に、貴方達の敵対勢力からの勧誘が多いんです。

僕は亀宮さん個人と敵対するつもりは全く無い。だが、これからフリーの立場で仕事を続けるのも難しい。だから……」

 

「だから亀宮様の婿になりたいと?それは無理だな、此方にも都合が有る」

 

「全く違う!勧誘を断る口実に、亀宮さん所の派閥の末席に加えてくれってお願いしたんだ!」

 

 アレ……座が固まったよ?

 

「ウチの者に言わせると、除霊現場で亀宮様と随分と仲が良くなったとか。しかも亀様をも抑えての事。

プライベートでも毎日の様に夜な夜な電話で話しているそうだが……

それで我が一族の末席に加えるだけで満足とな?俄には信じられぬぞ」

 

 僕は座布団に正座していたが、足を崩して胡座をかいた。つまり僕が何を言おうと、此までの行動を考えたら信じられないのか……

 亀宮さんを見ても呆れた顔をしている。

 全く権力を握る連中だから御輿の亀宮さんに急接近の僕は都合が悪いってか?

 確か亀ちゃんを抑えて歴代当主と結ばれて生まれた子供は、強力な力を持つというが……

 昔は当主の力が強かったが、今は取り巻きの方が権力を握っていて予備軍も居る。

 そんな時に現当主の力を増やす事は困るとか、そんな理由だろうな。八王子の時にお供が言った事も本当なんだろう。

 だが末端の連中は単純に喜んだが、此処に居る連中には嬉しく無い。ならば不安要素を無くせれば良いだろう……

 

「大分誤解してるみたいですね。

こんな何処の馬の骨とも分からないオッサンが、当世最強の亀宮さんと結ばれる訳も無いでしょうに……

勿論、友人として仕事仲間として僕は彼女を大切に思ってますよ。

だから変な派閥に入り彼女と敵対する事が無い様に頼んだんですが、何か誤解が有りましたか?」

 

 僕はロリコン、美女で巨乳の亀宮さんは恋愛対象外です。だから変な事は考えていないんです。

 

「あら?私は別に榎本さんでも構わないわよ。

どちらにしても亀ちゃんが居るから、私の相手は現実的に榎本さんしか居ないんですよ。

勿論、榎本さんが桜岡さんとお付き合いしてるから、実際は無理なんでしょうけど……」

 

 亀宮さん、空気を読んでー!当人が否定しちゃ駄目じゃん。最初の方の長い台詞は要らないよね?

 ほら、何となく納得しそうな雰囲気ブチ壊しだ!壮年組なんて僕を敵対視してるぞ。

 

「正明!後ろの連中が呪いを掛ける準備を始めたぞ!もう面倒だし殺るか?」

 

 何が連中の襲撃のキーワードだったんだ?胡蝶さんも殺る気満々だ。

現状は一気に加速しちゃったぞー!

 

「そう!僕にはもう、お付き合いしている人が居るから、その申し出は無理なんです!」

 

 ゴメン、桜岡さん!もう桜岡さんをダシに使わないと、胡蝶vs亀宮一族の戦いが止められないよー!

 この偽りの付き合ってます発言の影響が、一体どうなるかは分からないが……

 


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