榎本心霊調査事務所(修正版)   作:Amber bird

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第131話から第132話IFルート結衣END

第131話

 

 息子の奇行には普段から悩まされていたんだろう。前にも近隣住民からも強引なナンパのクレームが来ていた筈だ。

 だが、遂に犯罪者になってしまった。泣きながら謝る進藤夫妻……そんな彼等に、僕は傷に塩を塗り付ける様な事を言わなければならない。

 

「その……隠しカメラで撮ったので、彼の行動は全て記録されています。

彼は部屋を物色していますが、目的は金銭的な事じゃなくて、娘の下着類だったみたいです。

箪笥を開けて中の衣類を広げて探してましたから……」

 

 僕のトランクスを広げて捨てたりね。お陰で僕は結衣ちゃんから加齢臭の心配をされている事を知らされたんだ。

 

「嗚呼、あの娘さんの……すみません、本当にすみません」

 

 もう土下座でもする勢いだ。母親は泣き崩れ、父親は真っ赤になって耐えている。

 これ以上は……思わず青木さんを見る。目線が合い黙って頷く。

 

「榎本さんは娘さんの身を守る為に、直ぐに警察に行きたがったが……最初に私の所に相談に来てくれたんですよ。

だから大袈裟にする前に話し合いましょうと止めたんです」

 

 悪くない言い方だ。娘を持つ父親ならば、躊躇無く警察に突き出す所業だ。

 不法侵入+下着泥棒じゃ安心して娘を住まわせられない。

 

「娘を持つ父親としては、直ぐにでも何とかしないと……だがご近所さんですし、実質の被害は無かったですから。

ですが部屋を簡単に行き来されては注意しても再発の可能性も有りますし。一緒に動画を確認した娘は、恐怖から実家の方に籠もってしまいました。

もう、此方の部屋には来たくないと泣いていますので僕としても、それなりな形で収めて貰わないと……」

 

 表情を固くして告げる。此方の本気度を伝える為に……結衣ちゃんには悪いが、恐怖で泣いている事にさせてもらう。

 僕等的には、最悪無償でも良いから引っ越して貰えれば良いのだ。

 

「あの優しそうなお嬢さんを……アナタ、もう仕方無いわ。貴也を警察に」

 

 母親が泣きながら旦那に縋りながら訴える。

 

「お前……だがしかし、あの子の将来の為にも犯罪歴は。いや、そうだな。自分の息子の経歴に傷をつけるのを躊躇っては謝罪にならない」

 

 此方も致し方ないみたいに頷いてるよ?ちょ、ヤバい展開になりそうだ。このまま警察介入は避けたいんだよ。

 まさか、我が子を警察に突き出すとは彼等の責任感と真面目さと誠意を甘く見積もってしまったぞ。

 隣に座る青木さんの膝を突っつく。僕からの妥協案は駄目なんだ。あくまでも大家の青木さんが取り持たないと!

 

「まぁまぁ進藤さんも落ち着いて。榎本さん、この時代で前科持ちは就職も厳しい。

何故ならば経歴書に正直に前科を書かねばならん。まだ進藤君は若い、これからの青年なんだ。

榎本さんの怒りも心配も分かるが、示談で済ませては貰えないかな?」

 

 あの餓鬼の未来は全く気にしてないのだが、こう言われては訴え辛いだろう。

 両親も何となく縋る様な目で見てるし、出来れば息子に犯罪歴は付けたくないよね?少しゴネてから折れるか。

 

「示談?青木さん、お金じゃないんです。もし娘が居る時に彼が侵入したらを考えると怖いんですよ。

僕は仕事で家に居る時間が不特定で短い。そんな時にですよ?彼が……」

 

 腰を上げて怒りを露わにする。あくまでも娘の安心・安全が大切なんだぞ、と。

 

「まぁまぁ、落ち着いて下さい。進藤さん、悪いが引っ越して下さい。穴は此方で塞ぎます。

榎本さんの心配を解消するには、穴を塞ぎ隣から引っ越すしかないでしょう」

 

 話の流れからして警察介入の心配からか、敷金不要で攻める方向だな。もう一回ゴネてから折れるか……

 

「いや引っ越すなら僕の方が短期契約ですよ。それに……」

 

「いや、私も大家として譲れない所です。榎本さん、お願いします。進藤さん、どうですか?」

 

 頭を下げながら提案する。進藤一家にも悪くない提案だ。いよいよ青木さんが纏めに入ったか……

 恩を着せて口を封じ出て行って貰う。確かに下手に金銭に固執すると危険だよな。この切り替えは流石だ。

 

「ふーっ、分かりました。実質被害も無いし彼の未来を潰す必要も無いですよね。

どの道、もう娘を部屋に呼ぶ事も無いし私も来月には引っ越しますから。その条件なら良いでしょう」

 

 当初の敷金を貰う話にもならなかったが、ベストよりベターって事かな。

 

「有難う御座います。榎本さん、本当に有難う御座います。

今、息子を呼んで詫びを入れさせます。直ぐに呼びますから、少し待っていて下さい」

 

 そう言って夫婦二人飛び出して行った。向こうも、この条件を変えられる前に纏めたいんだろう。

 息子に詫びを入れさせて、直ぐに逃げ出す様に引っ越して行くだろう。

 

「青木さん、何とかなりそうですね?」

 

「そうだな。深追いは禁物だ。後は詫びを受け入れて終わりにしよう」

 

 進藤夫妻が居ない間に方向性の確認をしておく。青木さんも不安要素が無くなるなら、穴塞ぎの費用を無料(ただ)にしても構わないのだろう。

 この手の交渉は腹を括って最低限の内容を決めておけば成功する率は高い。暫く待つと玄関先が騒がしくなってきたが……

 

 あの餓鬼、まさかゴネてるんじゃないよな?

 

 大人しく詫びて出て行けば不問にするって言ってるんだよ。

 

「ヤダよ、ヤダ。何で謝んなきゃなんないんだよ」

 

「お前、警察に捕まっても良いのか?」

 

「そうですよ。折角先方が譲歩してくれてるの。ちゃんと誠心誠意謝るのよ」

 

「ヤダよ、引っ越しなんて。面倒臭いじゃん」

 

 話が室内に丸聞こえだ……壁の構造云々以外にも、防音性に問題無くね?思わず青木さんと溜め息をつく。

 

「あの餓鬼懲りてませんよ?アレじゃ幾ら鷹揚(おうよう)に許す態度を続けるのは無理じゃないですか?」

 

「確かにアレを許すのは、不自然を通り越して不思議だよな。全く……ここまで阿呆とは情けない」

 

 まさかの罪を犯した奴の我が儘で、纏まる話が怪しい方向に……

 

「馬鹿野郎!」

 

「なっ殴ったな!今まで一度も殴らなかった癖に」

 

「ああ、殴った!お前の馬鹿さ加減にはうんざりだ。警察に行って罪を詫びてくるが良い」

 

 打撲音の後に、変な話になってるぞ?

 

「青木さん?」

 

「マズいな、兎に角部屋に入って貰おう。もう穏便には無理かもな。この騒ぎじゃ周りの住人にも聞かれたな」

 

 廊下で揉める三人を取り敢えず部屋の中に押し込んだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ヤツは両親に挟まれて、仕方無さそうに正座し俯いている。さて、坊主としてヤツを更生……させる気持ちは限り無く薄いのが本音だ。

 

「貴也君だっけ?両親にも話したが、君は犯罪者だ。このまま警察に行けば罪に問われるよ。

まぁ大した罪にはならないだろう、実害も少ない。だが履歴書には正直に犯罪歴を書かねばならない。

君は今はフラフラしているが、今後はマトモな職に就くのは難しい。其処までは理解してるかい?」

 

 なるべく優しく話し掛けた。ヤツは俯いてるが一応は頷いた。我が儘言っても無理だと理解したのか?

 

「僕等だって君の一生に傷を付けるのは忍びない。ご両親も何度も君の為に頭を下げたんだ。だから僕も今回は大袈裟にせずに許すんだ。

もし、もしもだ。

娘が居た時に忍び込んだり、娘の下着を漁っていたら……悪いが君は五体満足じゃなかったぞ!

少なくとも玉は潰した。去勢すれば犬猫だって大人しくなるからな。わざわざ穴まで開けて侵入する奴に情けは要らない」

 

 脅しをかけておかないと、喉元過ぎれば何とやらで懲りないだろうから……

 

「違う!確かに部屋に忍び込んだが、元々あの穴は開けてあったんだ。今回の為じゃない」

 

 慌てて弁解しているが、やはり前の住人に嫌がらせをしたのはコイツか。侵入した事実と証拠を掴めば、僕の仕事は終わりだが……嫌がらせの理由も聞き出せるなら聞き出すか。

 

「嘘だ!前の住人は中年夫婦と一人息子と聞いている。イヤらしい君が、そんな家に興味を持つ訳がない。素直に、ウチの娘狙いだったと認めろよ」

 

 実際に分からなかったんだ。何故、こいつが隣の部屋に侵入し何も盗らずにいた事が……悪戯目的?愉快犯?

 ヤツの両親も真ん中に座る息子に訝しげな目線を送っている。まさかの前科持ちだからだ。

 

「元々は……元々は、アイツを見返してやりたかったんだ!

何時も何時も比較されて、出来の悪い子供と言われ続けたんだよ。分かるかよ、アンタに?」

 

 逆ギレして話し出した内容を纏めると……

 

 前に住んでいた家族には同い年の息子が居た。彼は小学五年生の夏休み明けに転校してきた。同じクラスで家は隣同士、直ぐに仲良くなった。

 最初は毎日の様に学校から帰ってきたら、二人で遅くまで遊んでいた。だが、中学に進学する時に決定的な差が生まれた。

 彼は私立の中学に進学し、エスカレーター式に付属高校へ進んだ。名前を聞けば私立の中ではランクの低い学校だ。

 だが、コイツにすれば毎日一緒に遊んで勉強なんかしてないヤツが、私立中学に進学するのが許せなかったみたいだ。

 まぁ相手はコイツの知らない内に努力してたんだろうな。それでも中学時代はそれなりに会って遊んでいたらしい。

 更に高校に進学する時、コイツは同じ私立でも有名な偏差値の低い学校。ヤツはエスカレーターで楽して付属高校に進学。

 この頃から両親も周りの連中も二人を比較し出した。義務教育期間は問題無いが、純粋な学力の高校進学は良い比較対象になったんだろう。

 流石に高校生ともなれば、一緒に遊ぶ機会は無くなっていった。ただでさえ、比較されてるのに一緒に遊べないだろう。

 大学への進学を考え始めた二年生の頃、相手も学力の伸び悩みが有ったそうだ。此方は偏差値が低くて進学なんて諦めていた。

 

 その時、相手はヤツに致命的な一言を吐いた。

 

「お前は良いよな。馬鹿だから進学なんて考えなくてさ」

 

 勿論、コイツの言い分だから本当かどうかは分からない。だが逆恨みには十分な理由だ。共に両親は共働きで昼間は不在が多い。

 ヤツも塾や居残り勉強で殆ど居ない。暇に任せて色々と部屋の中を探し回った時に、ユニットバスの点検口に気が付いた。

 面白半分で開けてみれば中に入れるスペースが有り、壁は簡単に壊れそうだ。其処で魔が差したと言うか、子供の頃は仲良く遊んだんだ。

 当然、双方の部屋にも行っている。部屋割りは左右対称だから向こう側もユニットバス。

 つまり隣の部屋に侵入出来る訳だし、不在も確認出来る。最初は好奇心で入っていたらしい。だがヤツの言葉に怒ったコイツは単純な悪戯を始めた。

 

 ヤツの物を動かしたり、隠したり……

 

 ただでさえ、学力が伸びずに悩んでいる精神はガタガタだ。動かした覚えの無い物が頻繁に起こり、物が無くなってトンデモない場所から見付かる。

 遂には鬱病になり引っ越してしまった……これが幽霊騒ぎの原因だ。ヤツが日記で書いた、風呂に入ると外で人の気配がするとかは嘘だったんだ。

 自作自演で人の興味を引きたかったんだろう。それに僕が引っ掛かった訳か……

 

「二世帯に嫌な思いをさせたんです。これから御両親の教育に期待します」

 

 僕と青木さんはコイツの更生は無理と判断。早急な立ち退きを希望した。今回は生きている人間の所為だったが、後味の悪い結果だった。

 元は友人と比較され逆恨みをして相手を精神的に追い詰める。自分は特に努力もせずにだが、僕も人の事は言えない立場だから黙ってた。

 兎に角、依頼は達成だ。後は彼等が引っ越しをした後に、僕も撤収すれは良い。

 勿論、青木さんには進藤さんに念書を書かせるのを忘れない様にお願いした。途中からゴネたり反故したりとかは、結構有る事だから……

 

 

第132話

 

 山崎不動産から依頼された水谷ハイツの件は無事解決した。拘束10日間で94万円だから悪くない結果だった。

 勿論、経費を抜けば利益は減るが充分な稼ぎだろう。そして今回は娘役として手伝ってくれた、結衣ちゃんと静願ちゃんに経過報告と御礼をする予定だ。

 場所は小笠原さんの家で……魅鈴さんが前回のご招待のお礼にと呼んでくれたんだ。しかも夕食を一緒にと。

 なのでキッチンに四人で座りながら食事をしています。

 

 僕と結衣ちゃんが並んで座り向かいには魅鈴さんと静願ちゃん。魅鈴さんが僕の前に座っている。

 うん、和服を多用する小笠原母娘だが、今夜は洋服だ。

 

 しかも料理はイタリアン。具体的に言うとパスタです、はい。

 

「ごめんなさいね、夕食にご招待して簡単なイタリアンで」

 

 エプロン姿の魅鈴さんは、20代の若奥様でも通用する若々しさが有る。よそってくれたのは、明太子クリームパスタだ。

 本格的にホイップクリームを使用しバターの匂いも濃厚、そして山盛り。何でも僕専用にと買い揃えてくれたらしい、大きな食器類を……

 

 これからも招待してくれるって事かな?テーブルに所狭しと並んだ料理は、見た目は中々に美味しそうだ。

 多分だが、カロリーは恐ろしく高い。

 

「このマリネは私が作った。このライスボールフライもそう、中にチーズが入ってる」

 

 静願ちゃんが楕円形のフライを勧めてくる。味付けしたご飯でチーズをくるみフライにした、ライスボールフライだそうだ。

 これにケチャップベースのソースが掛かっている。此方も美味そうだが、お米とチーズを油で揚げる訳だから高カロリーだろう。

 マリネは一見すれば低カロリーだがイカリングや生ハム、イワシのフライ等の具が沢山だ。勿論、ドレッシングも基本はオリーブオイル。

 つまりは油なんだ。しかも手作りピザまで有ります。

 

 此方はシンプルに三種のチーズピザだ。モッツァレラにチェダーに、後は何だろう?小さな点々が見えるからブルーチーズ?

 

 兎に角、僕と結衣ちゃんの前には山の様な料理が並んでいる。

 

「凄く美味しそうですね。楽しみです。結衣ちゃんも食べれるだけ食べてね。残りは僕が貰うから」

 

「そっそうですね。私も食べ切れる自信が有りません……」

 

 今は心強い戦友(フードファイター)の桜岡さんが居ないから、少しだけ不安が有る。早く彼女に帰って来て欲しいのだが……

 今度修行の邪魔にならない様にメールしてみよう。料理の説明が全て終わり、僕と魅鈴さんにはワイン。

 

 結衣ちゃんと静願ちゃんにはオレンジペリエが行き渡った所で「「「「いただきます!」」」」食事会が始まった。

 

 先ずはフォークでクルクルとパスタを巻き取ってパクリ。

 

「このパスタ、美味しいですね。アルデンテだと日本人的には少し固いと思いますが、少しだけ柔らかくなってるし……」

 

 実は僕は良く茹でた柔らかいパスタが好きなんだが、これ位の固さなら充分だ。

 

「純粋にイタリアンではなくて、少し日本風にアレンジしてますの。クリームも隠し味には少量の味噌を溶いてます」

 

 魅鈴さんが艶っぽく説明してくれます。うーん、天然お色気系とでも言うのだろうか?どうも苦手なタイプだ……

 

「おとっ……榎本さん、こっちも食べて」

 

 静願ちゃんがライスボールフライを勧めてくる。だが、そろそろ僕をお父さんと呼びそうで怖い。

 この状況だと、僕と魅鈴さんが再婚するのを静願ちゃんが知っていて……まだ入籍前だけど、つい呼んでしまったの!的な流れになりそうで怖い。

 結衣ちゃんが勘違いしない様に、説明しておかないと駄目だな。楕円形のライスボールフライをフォークで突き刺し、一口でパクリ。

 モグモグと味わって咀嚼する……チーズとケチャップのダブル塩気で少ししょっぱいが、それが逆にご飯と合って美味い。

 

「うん、美味しいよ」

 

 ニッコリと静願ちゃんに笑い掛ける。

 

「そう、良かった。頑張って料理した……」

 

 少し照れて目線を逸らす姿が可愛らしい。クールデレ、ご馳走様です!

 小笠原母娘を誉めたからには、結衣ちゃんにもフォローを入れないとね。

 

「結衣ちゃん、今度イタリアン作ってよ。結衣ちゃんは日本食が得意だけど、大抵の料理は美味く作るんですよ。

一度お店で食べると、大体同じ物を作れるんです」

 

 彼女の特技の料理を誉める。家事全般を得意とする結衣ちゃんの一番の特技は料理だと思うんだ。

 フォークとスプーンで器用にパスタを食べていた結衣ちゃんが、ニッコリと微笑む。

 

「誉め過ぎですよ、正明さん。でも今度イタリアンにしますね。パエリアと煮込みパスタを作ります」

 

 満面の笑顔で応えてくれた。

 

「あらあら、榎本さんは結衣ちゃんに甘々ね」

 

「結衣ちゃんズルい。私も今回頑張ったのに」

 

 フォローのつもりが逆だったか?小笠原母娘の突っ込みと言うか、反応が少し怖いです。

 

「はははは……さて、残りの料理を平らげますかな」

 

 食卓が変な雰囲気になり始めたので、強引に話題を変えてモリモリ食べ始める。小笠原母娘と結衣ちゃんは、未だ混ぜたら危険なんだな……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 夕食後、応接間に移動した。家よりも高そうな本皮のソファーセットにドッカリと座る。

 他の人は珈琲だが、僕には酔い醒ましにコーラを出してくれた。

 

 食器を揃えてくれたり、僕用にコーラを用意してくれたりと怖い位の待遇の良さだよね……コーラを一口飲んで、皆を見渡す。

 

「じゃ、今回の仕事のあらましを説明するよ……」

 

 最初から説明を始める。勿論、特定出来る固有名詞はボカシながら……

 

 

「最初に山崎不動産から依頼されたのは、取り扱っているアパートから引っ越した家族が居るが……その原因が霊的な事かも知れない。

次の顧客を探すにも原因を突き止めなければ、噂が広がり資産価値が落ちる心配が有るからだ。

先ずは水谷ハイツに関わりの有る人で亡くなった人を探した。次に周辺の地域での死亡事故や不審死をした人を。

最近埋め立てて造成した場所だから、過去の事故・事件は無かった。そんな中で、有るサイトの日記に水谷ハイツで霊的な異常が有ると書き込みが有った。

これは後にガセだと判明したが、取り敢えずその人物にコンタクトを取る事に成功。事件について幾つかの証言が取れた……

この段階では霊的と人的の両方の可能性が有った。此処までが事前調査だよ」

 

 

 一旦説明を止めて周りを見るが、特に質問は無さそうなので話を続ける。

 

 

「次に簡易的な調査だけど、これは静願ちゃんも同行したよね。実際に現地に盛り塩と日本酒を置いたんだ。

これらに変化が有れば霊的な原因だと思われる。もう一つ仕掛けたのは、無断で侵入出来る奴が居るかを調べた。

これは窓を全て内側から施錠し玄関扉の上にシャーペンの芯を置いたんだ。窓を開けるのは外からは無理、ならば玄関しか侵入経路は無いからね。

だが、仕掛けて翌日に確認に行った時に誰も出入りが出来ない筈なのにユニットバスのシャワーカーテンが動いていたんだ。

記憶違いかと思ったが、今度は床に張った塩の結界が乱れていた。これは“ナニ”かが出入りをしている証拠だ。

しかし、僕はこの段階でも霊的な原因を疑った。霊的な“モノ”が触れれば塩は変色する筈だし、何より霊感が何も感じなかったんだ。

現場証拠は霊的な方だが、霊感では人的な方だと思った。確信が持てずに悩んだ時期だったよ」

 

 

 喉が渇いたのでコーラをグビグビと半分程飲む。此処まで話しても、特に質問は無さそうだ。

 

 

「だから次のステップで科学的な機材での記録を取る事にした。但し霊的な“モノ”か人的な“ヤツ”か分からないから隠しカメラを仕掛ける事にしたんだ。

カラッポな部屋にカメラとか仕掛けても、人間だったらバレるからね。だから引っ越しをする真似をして餌を撒いた。

それが結衣ちゃんだ。彼女を伴い周辺住民に引っ越しをアピールしたんだよ。

この段階では隣に住む男が怪しいと思っていた。だから幾つかの仕掛けも施したよ」

 

「結衣ちゃんばかりズルい!最初に手伝ったのは私だよ。何で私に声を掛けないの?」

 

「静願さん、私と正明さんは一緒に住んでますから。もし進展次第で本当に引っ越しをする可能性が有るなら、静願さんでは無理です。

だから正明さんは私と一緒に行ったんです。

それに怪しいと思っていた男……ミンと言うハンドルネームの人物にも、携帯サイトから接触し情報を引き出したのも私です」

 

 結衣ちゃん、確かにその通りだけど……何故に静願ちゃんに対して滅多切り?それに得意気で静願ちゃんを見るの?

 静願ちゃんも悔しそうにハンカチを噛まない。キーッとか聞こえてますよ。

 

「勿論、住むのは最後の手段で一週間はモニターチェックしたよ。

それに携帯サイトからの接触は、これまでの活動が分かるから僕が急に登録して接触しても怪しまれると思ったんだ。

だから結衣ちゃんにお願いしたんだ」

 

「まぁ!一週間も機械的なチェックをしたんですか?それに携帯サイトからも接触したり……

榎本さんは霊能力者よりも探偵か研究者って言われてもおかしくないですね」

 

 魅鈴さんが不思議そうに聞いてくるが、はははっと愛想笑いで誤魔化した。

 

 

「此処からが本格的な調査の開始です。僕の隠れ家の一つの荷物を丸々引っ越しました。

それで隠しカメラを三台、レコーダーを一台仕掛けて一日二回データを回収し確認しました。

辛い単純作業でした……そして遂に不法侵入の現場を捉える事が出来た。

隣の住人が天井裏から侵入して来たんです。ユニットバス周辺の異常はヤツが出入りしてたからですね。

原因が分かれば、相手と交渉するだけの証拠を揃えれば僕の仕事は完了です」

 

 説明を終えて残りのコーラを飲み干す。

 

「その犯人は何故、犯行に及んだんですか?窃盗目的では無いのですよね?悪戯にしては度が過ぎてますし……」

 

 魅鈴さんがワザとボカシた動機を追求してきた。うーん、どんな人間でも持つ心の闇と言うか業と言うか……

 

「「あのニートならやりかねない!」」

 

 結衣ちゃんと静願ちゃんがハモったぞ!言った後に顔を見合わせて頷いてるし……

 

「あのニート、最初に会った時に私を部屋に連れ込もうとした。気持ち悪い奴だった」

 

「私の時も変な目で見てきて嫌でした。しかもネカマで色々と言い寄って来て最低なんですよ」

 

 仲の良くなさそうな二人だが、ヤツの悪行報告で盛り上がってるな。やはり共通の敵は仲違いを纏める力が有るのか?

 

「あらあら、娘同士は仲良くなりそうですわね。親同士も仲良くしませんか?」

 

 魅鈴さんが冗談で摺り寄ってくるのをやんわりとかわす。

 

「動機は前の住人に彼と同い年の子供が居た。そして相手の出来が良かったんですよ。

常に比較される苦しみから逃れる為に、ノイローゼに追い込んだ。相手の学力が伸び悩んでる時に、色々と悪戯したんだろう。

これは内緒ですよ。個人情報の漏洩ですからね。結果は話し合いにより引っ越して貰う事にしました。

彼等の家族も大家さんも事を大袈裟にしたくなかったんだろうね。だから痛み分けで収めたんだ」

 

 内緒なのは大家側にも過失が有ったから、警察沙汰は避けたかった。まぁコレは教える必要が無い事だ。

 

「さて、事件が解決したから協力してくれた二人にはバイト代だよ」

 

 そう言って結衣ちゃんと静願ちゃんに封筒を渡す。中身は共に一万円だ。

 

「そっ、そんなの要りませんよ。私は正明さんの役に立ちたかったんです」

 

「私も要らない。お金目的じゃないから」

 

 遠慮する二人に強引に封筒を押し付けた。これで、この仕事は終了だ。次は派閥の件で亀宮さんの家に行かなきゃならない。

 

 僕の霊感では悪い予感がヒシヒシしてるんだけど……もうフリーでの行動は難しそうだからね。

 

 

100話達成リクエスト話(IFルート狐っ娘暴走する)

 

 小笠原家の夕食に招かれて、正明さんと二人で出掛けた。和風な母娘なのに料理はイタリアンとギャップに驚いたわ。

 料理自体も美味しかった。素材は決して高い物じゃないし手間暇も、それ程掛かってはいない。

 

 でも美味しかった……

 

 私は正明さんの好みを突いた料理が作れるけど、今後も招待され続ければ、私の優位性は無くなるだろう。

 やはり小笠原母娘は正明さんを狙っているわ。色気が駄目なら食い気で勝負なのは、王道だけど確実だし。

 私も急がないと駄目。このままでは正明さんを盗られちゃう。

 

 ご機嫌に隣を歩く正明さんの腕に抱き付いてみる。

 

「ん?何だい、結衣ちゃん?」

 

 不思議そうな目で見下ろす正明さん。更に力を入れてギュッと抱き付く。私の行動を不思議に思ったのか、足を止める。

 

「ぽんぽん痛い?それとも疲れたかい?」

 

 心配そうに声を掛けてくれる。私は答えの知っている質問を正明さんに聞く。

 

「正明さん、魅鈴さんと結婚するんですか?」

 

 正明さんの目を見ながら聞いてみる。そんな気が無いのは承知してるけど、心配そうな表情で……

 

「僕が?魅鈴さんと?無いな、無い無い全く無いよ!それは有り得ないから」

 

 正明さんが珍しく嫌そうに顔をしかめた。普段は優しくて人の事を思いやれる人なのに珍しい。

 

「そっ、そうなんですか?」

 

 全否定だった。

 

 優しい正明さんにしては珍しくキッパリ・ハッキリと、相手を思いやる成分が0だよ。魅鈴さんがほんの少し可哀想になった。

 あんなに分かり易いアプローチなのに、全く無駄だなんて。正明さんの好みって難しい。

 霞さんみたいな大和撫子的な巨乳美人が好きなら、同系統の魅鈴さんも好みの大枠に入る筈なのに。

 全く興味が無いのは、バツイチ子持ちは駄目?それとも年下趣味?

 

「結衣ちゃんは、僕が魅鈴さんと結婚すると思って心配したのかい?そんな事は無いから安心して良いよ。

勿論、静願ちゃんも対象外だ。彼女達は仕事で知り合ったけど、今は力になりたいとは思ってる。だから下心は無いから安心してね」

 

 私が正明さんの性癖について悩んでいると、抱き付いて無い方の手でクシャクシャと撫でてくれる。

 勿論、私は知っていた。正明さんが魅鈴さんを苦手としてる事を……でも私は正明さんが誰かに盗られない様に牽制したんだ。

 抱き付いていた腕を放して手を握る。はにかみながら見上げれば、笑って歩き出してくれた。

 きっと子供心の嫉妬心位に思ったんだろう。

 

 正明さんの肩越しに綺麗な満月が見える。雲一つ無く、夜道を明るく照らす月。

 

 あの月は私の中の細波家の血を熱くさせる……何か神秘的で原初の力が有るの。

 

「正明さん。ミンさん、いえ進藤さんですが……少しだけ彼の気持ちが分かる気がするんです。勿論、悪い事なのは承知してますけど。

誰かと比較されて自分の位置が守れない。ならば、悪い事でもしちゃうんだって。私、私だって、その……」

 

 握った掌に力を入れる。でも正明さんの掌は大きくて固くて……

 

「人間ってさ。誰でも弱い所って必ず有るじゃん。自分の力じゃどうしようも無い事なんて、そこら辺に沢山有るんだ。

僕だってそうだよ。足掻きに足掻いたって駄目な時は駄目だ。そんな時だよね、何かに縋ってしまったり道を踏み外したりするのはさ。

確かにアイツは自分の事を棚上げして、相手が弱ってる所を攻めた。結果は鬱病に追い込み引っ越ししていったけどさ。

それで止めれば良かったんだよ。目的を達成したなら、それで止めれば良かったんだ。それで終えればバレなかったんだ。

だけどヤツは、次は楽しいから・面白いから、興味本位で不法侵入してバレた。それは仕方無いよね」

 

 正明さん?悪事がバレなければ良いの?自分の為なら悪い事も肯定するの?理由が有れば悪い事をしても良いの?

 

「正明さんは……悪い事でも必要なら肯定するんですか?」

 

 普段のイメージと違う言葉に、思わず聞いてしまう。

 

「僕は自分と自分の周りの人が大切だからね。綺麗事は言わないよ。それが必要なら、ね。

さぁ家に着いた。

先にお風呂に入ると良いよ。僕は少し腹ごなしの筋トレをするからさ」

 

 そう言って二階に上がる正明さんを見て思った。正明さんも色々と有るんだ。

 私を引き取って育てるには、綺麗事だけじゃ無いんだろうな。ならば私も自分の幸せの為に悪い事をしよう。

 他人には迷惑を掛けないけど、早い者勝ちの精神で抜け駆けをしよう。

 

 だって私の幸せに必要な事だから……

 

「分かりました、正明さん。私も私の幸せの為に、悪い事をイケナイ事をしますね。

でも大丈夫です。誰にも迷惑は掛けないもの。ただ、恨まれるかも知れないけど……」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 正明さんの筋トレは夕食後に少し休んでから始める。有る程度お腹の空いてない時期にタンパク質を取ってから運動すると良いらしいです。

 それと筋トレ後に風呂に入りマッサージして寝ると、超回復で筋肉に良いとか?私には良く分からないけど、正明さんは筋肉鍛錬も科学的に計画し実施しているの。

 

 むぅ、見た目とのギャップが萌えます。

 

 知的で逞しい人って素敵ですものね。でっでも、私の幸せの為に行動するって言っても裸で迫る様な事は無理。

 それじゃ痴女かビッチで嫌だわ。確かに私も発情期には、内緒で布団に潜り込もうとかお風呂に突撃したくなるけど……

 それを実施したら正明さんの私への評価がストップ安まで暴落しそうで嫌。

 

 だから考え抜いた方法は「怖い夢を見て独りじゃ寝れないから、一緒に寝て下さい。お願いします」で逝こうと思います。

 

 うん、手を出されなくても出される迄、何回もお願いすれば良いの。幸いな事に先の一泊旅行で同じ部屋で寝た実績は有るから。

 断られても、その前例で押せば優しい正明さんなら折れると思う。勿論、寝間着はキッチリ着ていくわ。

 初回じゃ正明さんの鋼の意思は折れない。ロリコンじゃないのだから、中々手を出してはくれないし色々と葛藤も有ると思うけど……

 駄目でも一緒の布団で寝てる事実は作れるから、五月蝿い小笠原母娘の切り札になるわ。

 

 では、早速実行しましょう!

 

 時間は丁度0時を回った位……忍び足で正明さんの部屋の前まで来た。軽くノックをするが……返事は無いわ。

 もう寝てるのかな?試しにノブを回すと……開いたわ。

 

「お邪魔します……」

 

 真っ暗な部屋に廊下から差し込む僅かな明かりで正明さんの布団を確認する。うん、丁度良い感じに左側の布団にスペースが有るわ。

 大体の位置を確認して扉を閉める。真っ暗かと思ったけど、壁掛けの電波時計のシグナル受信のLEDランプの明かりが夜目に慣れた視界の助けをしてくれる。

 そっと近付いて添い寝をする。

 

「おやすみなさい、正明さん」

 

 ガッシリした正明さんの大きな体が布団の大部分を占領しているが、僅かなスペースに丸まる様にして横になった。

 明日の朝、正明さんはビックリするかな?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 真夜中に一旦目が覚めた。

 

 半分寝ぼけているのだが、何かが左側で動いている。ああ、また胡蝶が実体化して寝てるのか?

 最近彼女は良く実体化して同じ布団で寝る癖が有る。だから左側は必ず少しスペースを空けてるんだけど……

 抱き枕として胡蝶は丁度良いので、そのまま抱き寄せる。身じろぎをした彼女は珍しく服を着ていた。

 真っ裸がデフォなのに珍しいな……

 

「おやすみ……」

 

「おっ、おやすみなさい、正明さん」

 

 珍しく返事をしてくれた胡蝶を軽く抱き締めながら眠りに落ちる。何故がミルクの様な香りがする。

 それに正明さん?結衣ちゃんみたいだな。まさか彼女は布団に潜り込む訳は無いし、眠いから面倒臭いし……もう良いや、おやすみなさい。

 

 そして意識を手放した事を翌朝、後悔した。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 午前6時50分、毎日規則正しく目覚まし時計は僕を起こしてくれる。7時迄は二度寝を楽しみ、顔を洗い身支度を整えて食卓に行くのは7時10分に……

 

 アレ?左腕が重いぞ。まだ胡蝶は寝てるのか?

 

 枕元に置いてあるリモコンを掴みスイッチを押す。眩しい光に目を慣らす為に擦りながら左を見ると……何故か、結衣ちゃんが寝ていた。

 

「ゆ、ゆゆゆ、結衣ちゃん?」

 

 ウニャウニャと身じろぎをして左腕に擦り寄ってくるけど?アレ?ナンデ結衣チャンガ寝テルノカナ?

 

「うにゅ、うにゅにゅ……んー、お早う御座います。正明さん」

 

 寝ぼけ眼で両手で目を擦る姿は大変愛らしいです。思わず結衣ちゃんをマジマジと見るが……Tシャツにホットパンツと何時もの寝間着姿だ。

 衣服に乱れも無いし僕は下半身に疲労も無い。

 スンスンと匂いも嗅ぐが淫靡な匂いでは無く、甘いミルクの香りがする……残念いや大丈夫、一線は越えてない筈だ。

 ゴソゴソと動きだす結衣ちゃん。両手を上げて欠伸とかしてリラックス状態?

 

「なっ、何で結衣ちゃんが僕の布団に?何時?何故?どうして?」

 

 布団の上に女の子座りをする結衣ちゃんに説明を求める。

 

「怖い夢を見たんです。それで一緒に寝て欲しいって頼んだら……正明さんがガバッと抱き付いて押し倒して、おやすみって。覚えてないんですか?」

 

 おやすみ?抱き付いて?押し倒した?何故だろう?何となく昨夜は胡蝶が来たと思って、そのまま抱き枕にしたような……

 

「いや、その……何となく寝ぼけてて、そんな記憶も無きにしも非ず……」

 

 完全に否定出来ないのが辛い。

 

「いきなり押し倒すんですから、ビックリしましたよ。ちゃんと責任取って下さいね?」

 

 ニッコリと微笑まれてしまった。直ぐにご飯の支度をしますね!そう言ってパタパタと部屋から出て行く結衣ちゃんの後ろ姿を見て思う。

 嫌がって無いのは何故なんだろう?それに責任って、どうやって取れば良いんだ?

 

 朝食を食べる時に、それとなく聞いたが教えてくれなかった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 残念、声を掛けた時に抱き締めてくれたから……そのまま一線を越えるのかと思ったのに、まさかの寝ぼけて抱き枕とは思わなかったわ。

 でも、流石にそれ以上の進展は恥ずかしいし……暫く様子を見てから、もう一度チャレンジしてみよう。

 

 今度は獣化してみようかしら?

 

 

 

 あれから一週間が過ぎた。

 

 明日は土曜日でお休みだから丁度良い。正明さんにも夕食の時に麦酒を普段より多く勧めた。

 明日は休みだから少し位は大丈夫だって……数珠を外し、ゆっくりと精神を集中する。

 四つん這いになって体を震わせれば、獣化の完了ね。でも毎回尻尾がパンツを押し下げてしまうのは困ります。

 

 さて、逝きましょうか……

 

 時刻は深夜1時過ぎ。今回も軽くノックをするが……返事は無い、ただの熟睡の様ね。

 

「お邪魔します……」

 

 そっと扉を開けて中を確認する。獣化の時は夜目が利くから暗闇でも平気。今回も何故か布団の左側にスペースが?丁度良いから体を丸めて潜り込む。

 

「おやすみなさい、正明さん」

 

 あと何回、布団に侵入すれば手を出してくれるんだろう?でも、コレはコレで幸せを感じるわ。

 丁度寝返りを打って此方を向いた正明さんの胸元に顔を埋める。嗅覚も強化されてるから、咽せる様な男臭さも何故か安心するの……ああ、これが群のリーダーの匂いなんだ。

 スリスリと頬を擦ると、くすぐったいのか私を抱き締めてきた。

 

「うん、安心する……おやすみなさい、正明さん。ずっと私を離さないで下さいね」

 

 明日の朝、正明さんが私に気付いた後のドタバタ騒ぎを考えて可笑しくなる。もう何回か潜り込んだら、理由を教えてあげようかな?

 


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