榎本心霊調査事務所(修正版)   作:Amber bird

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第10話から第12話

第10話

 

 個人情報を安易に公開する馬鹿がいて困る……特に桜岡さんは、今話題の美人霊能力者だからゴシップになりやすいし。

 深夜のファミレスで巫女姿で男と密会なんて、ネタとして最高だろう。

 幸いな事は、twitterで広まったが直接店に来たのは3人だけだ……店員の証言を取っても、僕と特定するのは難しい。

 彼女の周りを調べれば最近接触した関係でバレるが、ソッチ方面からバレたなら仕事帰りの食事で他意は無いでOK。

 只の密会じゃなければ、理由が有れば良いのだ。

 ファミレスから車で移動する際に、連中の車のナンバープレートを撮影しておく。なにか有れば、調べられる様に……

 相手を特定出来れば最悪話題になっても、連中にガセだと証言させれば鎮火も早いだろうし。

 勿論、平和的に証言を求めるつもりは全く無い。色々やり方は有るのだから。

 ドロドロと暗い思考をしていると、携帯から電子音が……僕の着信音は黒電話だ。

 仕事用だから着メロとかは不適切だからね。

 前に坂崎君が打合せの時に、AKB48のヒット曲を鳴り響かせた時は……同席の長瀬社長が、顔を顰めていた。

 最低限の社会人として、また社員として守るマナーが有るからね。

 ディスプレイに表示される番号に見覚えはないが、多分彼女と思い通話ボタンを押す。

 

「もしもし、榎本です……」

 

 ハザードを点けて、車を路肩に寄せる。

 

「桜岡です、先程は有難う御座いました。ウザい連中に捕まらなくて良かったわ」

 

 どうやら彼女も無事に逃げたらしい……

 

「それで打合せは今夜は、もう遅いし無理でしょうね?こんな状況だし、深夜に会うのは疑がわれ易いし……

明日ってもう今日だけど、長瀬社長に説明に行こうと思うんだけど……一緒に行ける?」

 

「私が?何故に?」

 

 一度社長に断られて僕に突っ掛かってきた手前、社長には会い辛いのかな?

 

「桜岡さんも仕事をした訳だし、僕から長瀬社長に正式に君が除霊した方が有効だと説明するよ。

ボランティアって事には出来ないでしょ?だから正式に長瀬社長と契約を結ばないと……勿論、僕も引継ぎをするし継続調査の手伝いはするよ。

責任問題だから、此処は明確にしておかないと僕らが不利だからね」

 

「契約とか不利とかって……貴方って本当に霊能力者っぽくないわ。何て言うか、ジャーマネ?」

 

 ジャーマネって……芸能界に毒されてないかい?彼女の中の霊能力者って、どんなイメージなんだろう?

 

「君の霊能力者のイメージについて、小一時間討論したいね……僕らは仕事を請負うんだよ。そこは最低限でも最初に契約を取り決めないと負けなんだ。

じゃないとズルズルと仕事や責任が追加されるだけだし、請負とは読んで字の如く請けると負けるんだ。だから条件を明確化するのが必要なの!」

 

 別に経営学について講釈を垂れるつもりはないが、仕事を貰う側は立場が弱い。それを逆手にとる連中が多いのは事実。

 長瀬社長は良い人だが、会社の存続に発展した場合は責任を追及されるかもしれない。

 除霊で高額な物を壊したり人的被害を及ぼしたり、弁償や賠償は勘弁して欲しい。ウチみたいな零細企業は一発で倒産だよ。

 だから契約内容はちゃんとしないと駄目なんだ。

 

 ふっと窓の外を見れば、野比海岸が見える。夜の海は暗く、その先に見えるのは千葉の明かりだ……

 木更津辺りの工場群だろうか、人工の明かりはやけに輝いて見えた。

 

「ねえ、聞いてる?長瀬社長に会うのは良いけど、どこで待ち合わせするの?」

 

 朝イチで長瀬社長にアポを取ってから、事前に彼女と打合せをして訪ねるか……

 

「先方の予定が分からないからね。朝イチで連絡して時間を決めるから……そっちは午前午後どっちでも平気かい?

出来れば長瀬社長に会う前に、下打ち合わせをしてから訪ねたいんだけど……」

 

 口裏を合わせないとボロが出そうだし。彼女はウッカリ属性が有りそうだし。

 

「良いわ。じゃこの携帯に連絡してくれる?」

 

 それじゃ連絡するよと言って、通話を切る。さて、面倒臭くなってきたな。

 箱が興味の無い生霊だと、彼女頼みで対処するしかないんだが……電話を切ってから暫しボーっとする……

 朝イチだから9時には電話しないとならないが、長瀬綜合警備保障は横浜のスカイビルに有るからね。

 彼女との事前打合せを考えれば、午後にしないと無理かな?昼イチだと、また昼食をご一緒にとかの流れは好ましくないだろう。

 流石に横浜駅周辺だと、彼女の知名度を考えれば大騒ぎだ!

 これは打合せには私服で来いって説得しないと駄目かね?両手で頬を叩いて眠気を飛ばし、車の運転を再開する。

 家に着くのは1時を過ぎるかな……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ガレージに車をとめて家に入ると、居間の電気が点いてる?

 

「ただいま……あれ?結衣ちゃん?」

 

 ソファーで居眠りをしている彼女を見つけた。テーブルにはのり塩味のポテチと、急須と湯呑みが置いてありTVはついていた。

 本当に日本茶党なんだね。そして何を観ていたんだろうか?

 風邪をひかせない為にも、ベッドに移動させないと駄目だね。

 

「結衣ちゃん、起きて、ほら……ほら、結衣ちゃん」

 

 声を掛けるが、全然反応してくれない。

 

「うにゅ……うゆにゅにゅ……うにゅ……」

 

 本当に可愛い寝言を連発している……彼女は実の父親を早くに亡くし実の母親と、その男達に幼い頃から虐待を受けていた。

 その為に常に周りを気にして、自分の意見を抑える大人しい娘に育ってしまった。

 それでも非行に走らなかった優しい娘だ……あの獣憑きのクソ母親と情夫は箱が喰ってしまったが、後悔はしていない。

 最後の肉親で有る祖母が亡くなったのを切欠に、僕が引き取った。

 

 一般的な里親制度だ。

 

 本来は市町村の福祉課に申請し講習や審査が必要だけど、在家だが僧侶である僕は何とかクリアした。これでも宗教関係者だからね!

 お役所関係には、宗教法人は強いんですよ……

 風邪をひかせない為にもベッドに連れて行きたいけど、彼女は異性からの接触を恐れるんだ。

 きっと母親の情夫から、性的な欲望の目に晒されてきた為に過剰に反応するんだろう。

 正しきロリとは、双方合意の上で行為に及ぶものだ!押し付けや強引なのはNGですよ。

 仕方ないので毛布を持ってきて彼女に掛けて、更にエアコンのスイッチも入れる。

 乾燥対策に濡れタオルを吊るせば完璧だね!

 超過保護とは思うが、これ位なら紳士として普通だろう。

 

 一旦居間を出て台所に向かう……思った通り、台所の机の上には夜食が用意して有った。

 チキンクリームシチューに、最近彼女がハマッている酵母パンだ!電子レンジでシチューを温めて、缶ビールを2本持って居間に戻る。

 ソファーを見れば、結衣ちゃんは毛布に包まり本格的にオネム体制だ!

 僕は向かいに座り、彼女の寝顔を見ながらシチューを食べる。

 彼女の作るクリームシチューは最後の味の調整で僕の分には胡椒を多めに入れて、すこしピリリとした味付けにしてくれる。

 鶏肉も余分な脂身は取ってあり、野菜類も人参・ブロッコリー・ジャガイモ・マッシュルームと彩り良く具沢山だ。

 肥満になりがちなオッサンの体に気を使ってくれる。だから僕も、彼女には最大限の配慮をするんだ!

 もし、もしも彼女に彼氏が出来て紹介されたら……

 

 笑ってソイツを速攻で呪い殺す自信が有る。僕はそんな欲に塗れた、只の俗物だからね。

 

 用意した食事を粗方食べ終わった辺りで、彼女が「うにゅにゅ……」と言って目を擦りながら起き上がった。

 

「うにゅ……あれ?まさあき……さん?」

 

「おはよう、結衣ちゃん。ベッドに行かないと風邪ひくよ……」

 

 半覚醒の彼女は「ふぁーい、おやすみなさい」と自室へと向かった。

 ズルズルと引き摺る毛布を受け取ると畳んで自室に持ち帰る……今夜は結衣ちゃんの残り香に包まれて寝ようかな……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 心優しいロリっ娘の匂いに包まれて、爽やかに目が覚めた……携帯を開いて時刻を確認すると……朝の7時16分か。

 シャワーを浴びて寝たのが2時過ぎだから、5時間位は寝れたのか。半覚醒の頭をシャッキリさせる為に顔を洗いに下に降りる。

 結衣ちゃんが朝食の用意をしているのだろう、台所の方から良い匂いが漂ってくる……今朝のメニューは何だろうか?

 遅くに夜食を食べたのに空腹感を覚えた。

 洗面所で顔を洗い身嗜みを簡単に整えてからキッチンに向かう。

 

「おはよう、結衣ちゃん。お腹がすいたけど、今日は何かな?」

 

 調理台で何かを調理している結衣ちゃんの後姿を見ながら声を掛ける。

 制服にエプロン……結衣ちゃん、君はスバラシイ!

 

「あっ、お早う御座います正明さん。今朝のメニューは……納豆オムレツにガーリックソーセージを焼いてみました」

 

「うん。美味しそうだね」

 

 彼女と向かい合ってテーブルに座る。彼女が炊飯器から、ご飯をよそっている間に、急須に茶葉を淹れてお湯を注ぐ……

 茶葉が開ききるまで待ってから湯呑みへ。日本茶好きな彼女の為に学んだ手順だ……

 

 朝食の用意が全て整ったら「「いただきます!」」と言ってから食べ始める。

 

 彼女は食材に感謝して食べなければならないと、祖母から躾けられたそうだ。それには同意する。

 しかもロリっ娘の手料理なのだ!

 敬愛する愛染明王様に最大限の感謝をしつつ、料理を味わう。

 因みにウチは毎回ご飯は2合を炊く……お米は国産でブランドや産地は拘らないが、10kgで4000円前後の物を選ぶ。

 その代わり炊飯器は拘っている、勿論彼女がだ……折角だから美味しいお米が炊ける物を買おう!

 そう言ったら、色々と調べてアレコレと説明してくれた。

 

 彼女のお勧めは「お米が踊る!踊り炊き!圧力IH炊飯ジャーが良いです!」そう力説し、今の炊飯器を買う事に決めた。

 

 普段は消極的だが、好きな事はちゃんと自己主張してくれるのは嬉しい。最初の頃は、警戒されてたからなー。

 まぁ確かにオッサンが里親なんて、普通に考えたら良からぬ事を考えていると勘繰るよね……

 彼女の信頼を勝ち取ったのは最近なんだ。

 朝の時間帯は忙しい……モグモグと食べていると、少食な彼女が先に食べ終わり

 

「ご馳走様でした、今日は日直で早いので行って来ますね」

 

 そう言って自分の食器をシンクに運ぶ。食器洗いは僕の仕事だ。

 とは言え、洗濯や掃除くらいしか家事は手伝えないから……

 ほら、ロリっ娘に料理を作ってもらったりアイロンを掛けて貰うんだから、それ位は当然だよね。

 自室に戻りカバンを持って来たのだろうか、キッチンに顔をだして「では、正明さん。いってきます」と行儀良く頭を下げる彼女に手を上げて応えて送り出す。

 さて、もう少ししたら長瀬社長に連絡を入れるか……思考を切り替えて仕事に専念しますかね。

 

 

第11話

 

 心優しいロリっ娘を見送ってから、暫し自室のパソコンに向かいメールをチェックする。このアドレスを知るものは友人と仕事関係、それに通販関係くらいだ。

 2件ほど、受信が有る。

 

 1件は……

 

 旨い物ドットコムの定期カタログだ。震災関連商品が充実している……

 非常食や飲料水、防災グッズ等マウスをクリックしながら内容をチェック。今回は特に欲しい物は無い。

 

 もう1件は、此方もお得意様である山崎不動産の山崎社長から。

 

 こちらは仕事の依頼ではなく、遊びのお誘いだ。

 山崎社長は風俗の世界では有名な性豪で、横浜のヘルス・川崎のソープでは知る人ぞ知る有名人。僕の師匠であり、お得意様でも有る。

 彼の愛人で社員でもある飯島女史は、巨乳でエロいお姉さまだが色情霊が憑いている気がする。

 だから余り近付かないし、向こうもムキムキなオッサンである僕には興味が無いらしい……金持ちとイケメンが大好物と言っていた。

 嫌われてはいないが、お誘いも無い関係だからちょうど良い。

 

 さて、と……一旦自分の事務所に向かい、それから長瀬社長に連絡を入れるかな。ここは僕の結衣ちゃんの愛の巣だから、仕事は極力持ち込まないのだ!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 榎本心霊調査事務所は、神奈川県の横須賀市に有る京急電鉄の主要駅の近くのマンションの一室を借りている。

 デカデカと心霊調査事務所と看板を掲げるのは、ご近所付合い的な意味で不可だ。心霊など、胡散臭い事この上ない業種?だ。

 

 だから登録は (有)E・P・R としている。

 Enomoto Psychic Research (エノモト サイキック リサーチ)略してE・P・Rだ。

 

 郵便局への登録も同様の名前で申し込んでいるので普通に郵便も届く。

 何故、有限会社にしたかと言えば……責任が有限だから。資本金は300万円でOKだし、社員無しの1人で起業出来る。

 役員の任期も無いし、取締役会も開く必要が無い。

 デメリットとしては、社員数が50人以下だし、銀行から出資保管証明書も貰わなければ成らない。銀行への登録手数料や、登録免許税とか兎に角お金が掛かる。

 銀行の問題は、自分の口座に両親から受け継いだ遺産や生命保険が有るから信用は有る。

 僕は在家だが僧侶の資格も持っているので、社会的な信用は高い。

 有限会社って弱小企業なイメージだけど、商売そのものが目的で無いので除霊で失敗し莫大な負債を抱えても……根こそぎ自己資産を取られる事も無い。

 なので、一応社長業をやれる訳です。

 なんたって大切な扶養家族が居ますから……

 

 電車通勤にて、自分の借りているマンションに到着。直ぐにポストを確認し、郵便物をチェックする。

 水道料金や電気料金のお知らせの他には、宅配ピザのチラシだけ、か……公共料金は、銀行からの引き落としだから問題は無い。

 それらを保管しているファイルに差込む。保管しておかないと確定申告の時に大変だから。

 必要経費は、しっかり計上しないと国に税金をふんだくられるからね。

 ピザのチラシは玄関の電話台の上に置く。たまには出前を取るし、チラシには期間限定のサービス券も付いているからお得だ!

 

 FAXには、特に受信した用紙は無い。

 それらを確認してから冷蔵庫に向かい、中から缶コーヒーを取り出し自分の仕事用デスクに座る。

 備え付けの時計を見れば、午前9時32分だ……長瀬綜合警備保障へ電話をかける。

 3回目のコール音の後に、受付の女性が出たので社長への取次ぎをお願いする。声で分かるが、彼女とも顔見知りだ。

 

「もしもし、長瀬です」

 

 相変わらず渋い声が聞こえた……

 

「お早う御座います、長瀬社長。実は昨夜、現場に桜岡さんが来まして……ええ、どうやら仕事を断られた事が納得出来なかったみたいで……」

 

 暫くの沈黙の後

 

「それで、彼女は問題を起こしたのかい?」

 

 若干だが、彼女が問題を起こしそうな事を予測していた?

 

「いえ……彼女は……そうですね。何ていうか素直?いやオダテに弱い?兎に角、昨夜は一緒に現場に向かい生霊と対面。

その霊力は本物でしたが、彼女が言うには完全に除霊は出来なかったみたいなんです」

 

 突然、気配が消えたと言っていたし……最悪は、逃げられたか?

 

「失敗、では無いんだな?それで、榎本君が態々電話してきたのは何故だい?」

 

 いえ、責任の区分をハッキリさせときたくて……

 

「いえ、彼女は有能ですし僕より生霊の対応には慣れています。なので、当初の通りに彼女メインで除霊をさせた方が効果的かと……

勿論、僕も引継ぎや手伝いはしますが、ちゃんと長瀬社長と仕事の契約を結んで欲しいのです」

 

「つまり無責任に介入せずに、ちゃんと最後まで仕事をさせろ、と?」

 

 流石に長瀬さんは話が早い。それと箱の興味が無い生霊なんて、僕には関わる意味が薄いんだ。

 最悪の場合、箱に頼れずに自分で対応して死亡とか嫌過ぎる。

 

「そうです。彼女の能力は本物ですし、この後に仕事を依頼する場合も考えれば悪くないと思います。

勿論、僕への報酬は調査のみの分で構いません。残りの除霊費用は彼女に渡して下さい」

 

 成功すれば、ですけどね。彼女も自信が有りそうだったし、難しい除霊ではなさそうな感じだった。

 

「榎本君が、そう言うなら問題無いだろう。わかった。それで、今後の動きはどうするんだい?」

 

「今日の午後に時間が有れば、彼女を伴い昨夜の説明と今後の話をしたいのですが……そうですね。

2時過ぎに時間は有りますか?」

 

 パラパラと手帳を捲っているのか、暫く無言で待たされた後に

 

「今日は3時半から5時までは開いているよ。その後は、お得意様との飲み会が有ってね。都内まで行かなくてはならないんだ」

 

 話すだけなら、2時間も有れば大丈夫かな……桜岡さんとの契約については、僕は立ち会う必要は無い筈だし。

 

「分かりました。3時半に、そちらにお邪魔します。では、宜しくお願いします」

 

 そう言って、電話を切った……これで引継ぎは問題ないな。

 この仕事が今後長瀬社長から仕事が貰えるかの、彼女への試金石になるだろう。

 でもタレントの仕事でも食べて行けそうだよね、彼女なら。勿論、実力は本物だけど色物だからな……

 怪談の季節の夏は忙しく冬は暇?いやビデオ制作会社と繋がれば、乱立するホラー物に出演出来るか……

 勿論、彼女は霊能力者として働きたいなら芸能界からは離れて堅実に企業との結び付きが必要だ。

 だから、この手の曰く物件に関連する不動産関係や警備関係の会社は重要な役割を果たす。

 個人からの依頼なんて、よほどの信用がないと来ないんですよ。

 

 暇つぶしにインターネットで彼女の名前を入力して検索すれば、出るわ出るわ!色々なサイトがHITした。

 その数、32000件以上だ……

 殆どが、ヌレヌレだかスケスケだかの単語が入っているが注目度は高い。彼女の場合、タレント霊能力者の方が大成しそうな感じがする。

 除霊仕事も立派なビジネスだから、海千山千の連中に立ち向かえるのか?

 まぁ僕が心配する必要はないから、関係ないね!

 

 長瀬社長のアポが取れたので、彼女の方にも連絡をしなければならない。温くなった缶コーヒーを一気飲みして、喉を潤してから携帯の着歴から電話を掛ける。

 名刺を渡したから、この事務所の電話番号も分かっているとは思うけど。折り返し通話の方が、向こうも分かり易いからね!

 こちらは8回目のコールの後に繋がった……繋がった後に少し間が空いてから

 

「もしもし……」

 

 何だろう?随分と不機嫌な声だけど……

 

「あの、榎本ですけど桜岡さん?」

 

 ガサガサと音が聞こえた後に

 

「あっああ……えーと。おはよう。榎本さん、早いわね?」

 

 えーと……まだ寝てたな、コイツ……

 

「もしかして、寝てました?」

 

「いえ、ちゃんと起きてましたよ。ええ、起きてましたから大丈夫です」

 

 慌てて否定してるけど、寝てたんだろう……年頃の娘さんが、朝寝坊とは頂けないですよ。

 結衣ちゃんの爪の垢でも煎じて飲ませた方が良いだろうか?

 

「……長瀬社長と連絡が取れまして、先方に3時半に向かいます。だから1時間前には合流して打合せをしたいんだけど、どうかな?」

 

 「んー2時半に横浜ね。待合わせ場所はどうするの?」

 

 横浜東口だと、待合わせの定番は……横浜そごうの大時計の下とかだけど、彼女の知名度を考えると面倒臭い事態になりそうだ。

 あまり人目に付かないで、それでいて怪しくない場所と言うと……地下街ポルタ内の丸善BOOKSの中で時間を潰していようかな。

 

「じゃ、地下街ポルタの中の本屋知ってる?そこの店内に居てくれれば、こちらから声を掛けるよ。

合流したら、近くの喫茶店で打合せしよう」

 

 本屋なら最悪、少し待たせても苦にならないだろう……

 

「分かったわ。じゃ2時半に本屋に居れば良いのね?」

 

 後一つ、大切な事を言わなければならない。

 

「桜岡さん……」

 

「なっ何よ、改まって?」

 

「服装だけど、巫女服は駄目だよ。それとサングラスかマスクで変装してね。僕は見分けが付くと思うし、分からなければ携帯に電話するから」

 

 逆に凝った変装は注目され易くバレ易い。しかしサングラスやマスクならば、花粉症の時期だけに結構同じ格好の連中が居る。

 僕が分からなければ、大した変装能力だし分からなくても携帯に連絡すれば店内なら気付くだろう……

 

「わっ私だって何時も巫女服は着てません!昨夜は仕事現場に行くから着てたの!」

 

 怒鳴られてしまった……でも昨夜の様子だと、彼女にはウッカリな属性が垣間見えるんだよなー!

 

「そうなの?じゃ私服姿を楽しみにしてるからね!」

 

 そう言って携帯を切る。あれだけ言えば、それなりな服装で来るだろう。プライドが高そうだから、ブランドスーツで決めてくるかもね!楽しみだ。

 僕は、量販店の吊しスーツで十分だけど……男って、こう言う場合は凄く楽だ!

 何たって背広とネクタイと革靴が有れば、大体オーケーだからね!

 

 

第12話

 

 今日は午後から桜岡さんと待ち合わせをしてから、長瀬綜合警備保障に行く。先に待ち合わせの彼女とは横浜で二時半だから……事務所を一時半過ぎに出ても間に合う。

 一応、女性との待ち合わせだから先に着いてなくては紳士を名乗れないだろう。勿論、頭に「変態と言う名の」が付くけどね……

 まだ暫く時間が有るので、今後の流れを考える。

 

 生霊……

 

 つまり生きて生活している相手が居るんだ。執念か怨念かは知らないが、奴はマンションに固執している。

 桜岡さんは準備とか調査とか段取りには無縁な霊能力者だと思う……

 多分だが、番組が探してきたり直接依頼があったりした案件しか対応した事が無いのか。または出たとこ勝負で解決してきた力と自信が有るのか。

 少ししか一緒に行動してないけど、プライドが高いけど素直で乗せられ易い性格だと思う。

 根っこは善人で優しい娘さんで、本当に人を助けたいと思っているタイプだ。つまり自分の霊能力で人助けをしたい、稀有な人材だ。

 僕は自分の宿痾を解決する為に箱に縛られて、この仕事を続けている。他には詐欺紛いの金儲けをする連中も多い。

 そして胡散臭く偽物が多い業種だ!

 だから僕には彼女が眩しく見えるし、変にスレたり潰れて欲しくない……しかし自分に最悪の秘密が有るから、同業者として馴れ合いは危険なんだ。

 あの他者を巻き込む箱の呪いを考えたら、同罪として粛清されても文句は言えないのだから……

 今回の件は、彼女に引き継ぎをして手伝う。その考えは変わらない。

 

 後は……どれだけ踏み込んで手伝うかだ。

 彼女は生霊と直接対決しか出来ない。つまり生きている相手を探し出す事は難しい。

 相手の生霊を生み出す程の悩みを解決する事も難しい。普通の人間の事を調べる事は、僕だって難しい。

 だから普通なら興信所を使うんだが……彼らだって具体的な事を指示しないと無理だ。

 何か切欠か調べる方向は、僕らが探し出さないと駄目なんだよね……

 

 それと予算!コレ大切!

 

 長瀬社長は、あのマンションのオーナーじゃない。なら何故、僕に依頼が来たかと言えば……

 長瀬社長は、マンションのオーナーと当然ながら面識が有るんだ。曰く付きの物件を解決すれば、高値で販売出来る。

 ならば、長瀬社長は自分の手配で解決しマンションのオーナーに交渉を持ち掛ける筈だ。

 幸い?かは分からないが、僕は除霊自体が目的だから費用は安い。だから立替え払いでも、先行で僕に依頼した。

 解決すれば何割か増しで請求するのだろう……この業界で曰く付き物件を抱えている人は多い。

 長瀬社長程の人脈が有れば、今後も僕に除霊仕事が舞い込むから持ちつ持たれつの関係だ。

 

 さて今回の件は……

 

 そう考えると興信所への依頼は、長瀬社長の独断では許可出来ないだろう。

 興信所とは調査日数が掛かれば費用も莫大だ!

 それにボランティアと言っていたが、責任区分を明確にする為にも桜岡さんには長瀬綜合警備保障と契約を結んで欲しい。

 彼女の為でも有るから。しかし契約には支払いが発生する。

 僕は調査込み実質2日間だし、解決してないから20万円位だ。

 しかし彼女の依頼料は分からないし、同業者が聞く事はマナー違反だろう。ここは長瀬社長に、本来のマンションオーナーと話し合いをして貰うしかない。

 もし費用が見込めなければ、または見合った金額でなければ手を引けば良い。

 

 ヨシ!方針が決まった所で時計を見れば、既に12時前だ……

 

 随分と考え込んでいたんだな。昼飯は外食かコンビニにしている。

 結衣ちゃんが「良かったら、お弁当を作りましょうか?」と言ってくれたが、彼女の負担を増やす訳にはいかない。

 それに私立の中学に通う彼女は、給食が出るので僕の為だけに早起きしてお弁当を作るのは大変だから……

 何故、お金の掛かる私立に通わせているかと言えば。ぶっちゃけ彼女は虐められっ子体質だ!

 大人しく引っ込み思案で、天涯孤独だ。しかも、彼女自身に人に大っぴらに話せない秘密が有る。

 公立の学校の教師は、基本的に虐め対策は消極的だ。相談しても、なんの解決にもならない連中が多い。

 しかし私立は違う。

 常に生徒達を観察し何か有れば……例えば喧嘩でもすれば、直ぐに連絡が入り学校に呼ばれて当事者と担任、それと各々の親を交えた話し合いをする。

 そして解決するまで、学校は責任を負って行動する。

 学校と言えども、高い金を払うだけ有り生徒はお客様なのだ。偏差値の高い私立は、この辺が凄い。

 幸い彼女は真面目な性格故に、頭は良かった!

 更に僕のメインバンクの支店長に紹介して貰い、編入試験を受けたんだ。

 見事合格したのは結衣ちゃんの実力だし、僕はロリっ娘の足長おじさんを気取れただけでも良い。

 最大の理由は、かの学校の制服が可愛かった事。体操服がスパッツだった事。

 そして美少女が多くて有名な女子中学校であり、体育祭や文化祭は親族関係者しか行けない厳しいセキュリティーで有名だった事。

 なんと新体操部とか水泳部とか有るんだぜ!

 初めて文化祭に招待された時は、思わず感動の涙を流したね。レオタードに上着を着ただけの少女達が、普通に廊下を歩いていたんだぜ!

 結衣ちゃんには、是非エスカレーター式で付属高校にも行って貰いたい。

 なんて妄想から我に帰ると、何故か行き着けの鰻屋のカウンターに座っていた……

 

「へい、うなぎの蒲焼き大盛り!それと骨せんべいお待ち!」

 

 顔見知りの板前さんが、ドンっと大盛りの丼を置いてくれた。

 

「あれ?もう頼んでたんだっけ?」

 

 板前さんは、少し呆れた顔で「お客さん。ニヤニヤしながら入って来て、何時もの大盛りね!って言いましたよ」

 

「骨せんべいも?」

 

「へい!ちょうど骨せんべいが揚がりやしたよ!って言ったらソレもって……」

 

 うん……妄想癖は注意しないと、ただの変態として通報されそうだ!

 

「有難う!頂くよ……」

 

 一口食べれば、脂がのって旨い!この店は天然物を浜名湖から取り寄せている。

 所謂くだり鰻だ!鰻は水温が10℃以下になると泥の中に潜り、冬眠みたいにじっとしている。

 寒い冬を越す為に沢山餌を食べて脂ののった秋から冬が、最も鰻の旨い時期だと個人的に思う。

 モグモグと美味しく食べて、板前さんに声を掛けて店を出る。因みにお値段は、一人前大盛りで3800円だ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 妄想癖の改善を今後の課題として、待ち合わせ場所に向かう為に京急電鉄の快速特急に乗る。

 平日の昼間だけあり混んでない為か、進行方向を向いた二列シートに座れた!ゆったりと座り窓の外を見れば……海の方から暗い雲が此方に向かってくるのが見える。

 この時期は雨が多いが、最近は寒くても雪にはならないな。

 鞄の中に折り畳み傘を入れて有る事を思い出し、自分の準備の良さに少し嬉しくなった……快速特急で約30分、京急横浜駅に到着。

 ホームの先端にLEDが埋め込まれ、電車の到着と共に点滅をする珍しい設備の有る駅だ!

 改札口は地下街に直結している為に、エスカレーターで下に降りる。改札を抜けると、右がダイヤモンド地下街。

 左が地下街ポルタだ。

 待ち合わせはポルタの中の丸善booksだから、左側に歩いて行く。直ぐにポルタの入口の大階段に到着。

 総ガラス張りの大屋根を見上げれば、ポツポツと雨の水滴が見えた。

 

「あちゃー降ってきたか……」

 

「そうね……天気予報通りだけど、雨は嫌だわ」

 

 ボケっと立ち止まり見上げていたら、急に声を掛けられた。

 慌てて振り向けば……昨夜の巫女服とは、随分印象の違う彼女が立っていた。

 シックなグレーのスーツにポンチョ?マント?を羽織りベレー帽をチョコンと乗せている彼女は、間違い無く美人だ!だが、惜しい!

 僕はロリコンだから、感動は半減だ!

 

「こんにちは、榎本さん。どう?」

 

 その場でクルッと回る彼女を通りすがりの野郎共が振り返って見ている。

 

「良く似合ってますよ。一瞬誰だか分からなかったし……」

 

 褒められたのが嬉しかったのか、中々の笑顔を浮かべてくれました。

 

「じゃ打ち合わせをするから、取り敢えず喫茶店に行きましょう。マイアミガーデンって言って、何時も空いてる店が有るんですよ」

 

「なに、その基準?普通はケーキが美味しいとか雰囲気が良い店を知ってるとかじゃないの?」

 

 ちょっとビックリした顔をしたが、素直に付いて来る。

 生霊とか除霊とか、怪しい単語が多い話をするから混んでたり周りの客席が近いのは良くないから……

 その点、この店は味も値段もそれなりで何時も空いているから密談に利用している。やはりお昼過ぎなのに空いている店内の、一番奥の席に座る。

 

「なんか……店内は妙に明るいのに、余りお客が居ないのね……」

 

 女性同伴だし、薄暗い店はNGですから。店員さんにアイスコーヒーを2つ頼む。ケーキ位はと勧めたが、要らないと言われた。

 うん、メニューの写真で見てもどうしても食べたいケーキでは無いかな?

 注文した品物が届くまでは談笑し、店員が下がってから本題に入る。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 私の事務所は京急電鉄の上大岡駅の近くの商業ビルの中に有る。

 昨夜は遅かったから少し朝寝坊してしまったけど、まさか榎本さんから電話を貰う迄熟睡するとは思わなかったわ。

 んー寝酒の焼酎のお湯割り三杯が、思ったより効いたのかしら?目覚ましは掛けていたのに不思議だわ……あの後、二度寝してしまい気が付いたらお昼過ぎ!

 ビックリして起きて、買い置きのカップ焼きそばを食べて……永遠の定番焼きそばの、ペヤングソース焼きそばよ!

 そして歯を磨き、シャワーを浴びて事務所に向かった。

 流石に青海苔が歯に付いていたなんて、女性として終わった感が有るし。

 直接待ち合わせ場所に行きたくても、仕事関係の資料や名刺とか自宅に置いてなかったから……

 一応、大人の女性として恥ずかしくない化粧と服装に気を使ったわ。

 これでもファッションセンスは中々らしく、テレビ局の衣装さんからも私服のコーディネートは褒められた事も有るの。

 事務所に付いたら直ぐに荷物を纏めて待ち合わせ場所に……少し余裕を持って着くと思えば、目の前に大屋根?を見上げている彼を発見。

 何やら天気を気にしていたから、声を掛けたわ。

 

 一瞬、私を見てビックリしていた!

 

 ザマァ!私だってお洒落すれば中々の美人なのよ。

 ほら、笑顔でクルッと回ってあげれば道行く男子が注目してるわ!こんな私を連れて歩けるなんて幸せでしょ?早くエスコートしなさいな。

 連れて来られたのは、妙に店内が明るく客も疎らな喫茶店……ケーキを勧められてメニューを見たけど。

 写真に写っているケーキは、どれも食指が動かない微妙な物……確かに密談には持って来いかも知れないけど、女性同伴としてはどうかしら?

 男として、どうなのよ?それについて、小一時間問い詰めたいわね……全く!


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