第90話
最近僕は調子に乗っていたみたいだ。元々イケメンでも何でもない、筋肉坊主が桜岡さんみたいな美人お嬢様に懐かれたからか?
静願ちゃんと言う美少女に懐かれたからか?結衣ちゃん一筋だったが、桜岡さんと言うマブダチと静願ちゃんと言う娘が出来たんだ。
これ以上、望む事自体が異常だろ?エロゲの主人公じゃ無いんだし、八方美人の必要も無い。大切にしなきゃいけない人を忘れちゃ駄目だ。
モブなお供達にはダメ出しされたが、本来の僕は女性受けなんてしなかったんだ。彼女達にチヤホヤして欲しいなんて馬鹿な考えが、頭の隅にでも有ったんだろう。
猛省しなきゃ駄目だ!
◇◇◇◇◇◇
今夜の〆はホテル1階を除霊する事だ。明日は建物全体を廻りたいから、拠点作りに必要だからね。
照明確保の為に、初めて一緒に行動する。愛車を入口に横付けして、ランタンの入った段ボール箱を下ろす。
愛車は元の位置、何か有っても脱出出来る場所まで移動する。愛車の影には、折り畳み式自転車を用意。
最悪の場合、車に無理矢理女性陣だけ乗せて走らせ僕は自転車で逃げる。道は下り坂だけだし、車も自転車も変わらないだろう。
「ねぇ、何で折り畳み式自転車を用意してるの?」
女性陣の中で、亀宮さんだけが僕にマトモに接してくれる。残りの方々は気まずそうな雰囲気で遠巻きにしているが気にしない。
「うん。最悪の場合、僕の車に全員は乗れないが女性陣ならトランクスペースも含めれば何とか全員乗れるでしょ。
僕は自転車で逃げる。坂道だし車も自転車もさほど変わらないよ」
場合によっては小回りの効く自転車の方が有利だったりする。初動で考えれば、乗り込む時間は圧倒的に自転車が有利だ。
「まぁ脱出方法まで考えているのね!でも、良く車が動かないとか携帯電話が使えないとか……アレって本当なのかしら?」
事例としては良く聞くが、検証なんて出来ないからな……
「僕は磁場の乱れとか理由が有って電子機器が使えないと思うんだ。良く磁場の悪い所には霊障も多いから。または霊自身が磁場を発しているのかもね。
車だって基板を積んでるし磁場には弱い。だから自転車、これ最強!動力源は自分の鍛え抜いた肉体だから信頼出来る」
右腕に力瘤を作り肉体を誇示する。
「じゃ今回もし最悪の事態になって車が動かなくなったら?」
力瘤を触りながら聞いてくるが、答えは簡単だ。
「折り畳み式の自転車だけど二人乗りは出来る。問題は何も無い」
右腕にぶら下がりながら、懸垂の要領で体を持ち上げようとするが、彼女の細腕では無理だった。両足をジタバタしているので、腕を下げて足を地面に付けてあげる。
「あらあら、誰が後ろに乗れるのかしら?」
「さぁ?でも当世最強の亀宮さんが居れば、大抵の悪霊は大丈夫でしょ?もしもの時は僕も力を貸すから平気だよ」
少なくとも亀宮さんと亀ちゃん、僕と胡蝶が組めば問題無いと思う。逃走準備が出来たので、ホテルの正面玄関に向かう。
前の時は、この両開きのガラス扉に掌が沢山付いていた。マスターキーで扉の鍵を開ける。
ガチャリと開錠し扉を開くと、湿った空気とカビ臭さが漂ってくる。密閉された空間独特の臭いだ……
開いたままで用意していたドアストッパーを挟んで扉を固定。
「閉じ込められる心配が有る。寒いけど扉は開けた状態でドアストッパーを挟むと良い」
扉を固定したが、まだ中には入らない。マグライトで見える範囲を照らして確認するが……
「ふむ、見える範囲では霊は感じられないな」
固定した扉の両脇にランタンを灯して2個を置き点灯する。月の光が入らない室内は真っ暗だが、この周辺だけが仄かに明るくなる。
広いロビーにフロントのカウンター。客溜まり用のソファーセットの奥にエレベーターホールが見える。
その先にはラウンジかな?一階だけでも、かなり広いな。
「さぁどうぞ。除霊を開始して下さい」
僕の後ろに屯(たむろ)する女性陣に声を掛ける。彼女達の仕事を奪う訳にはいかないからね……
「榎本さん、不動産と警備会社の専門でしょ?こういう建物の除霊は慣れてるよね」
高野さんが聞いてくるが、最初の紹介の時に静願ちゃんが補足で説明をしてたからな。
「そうですね。賃貸ビルや建設中の建物とかの調査・除霊が専門ですよ」
此処まで規模のデカい廃墟は初めてだけどね。
「じゃあ……」
「僕のやり方だと建物の中に入る前に色々調べる。でも今回は短期勝負で突撃除霊ですから、僕のやり方は参考にならない。
皆さんの方法でお願いします。ただ除霊後のメイン通路の照明確保はします。明日は発電機や投光器も手配しましょう」
手伝え雰囲気の高野さんの提案をピシャリと跳ね返す。本来なら外部から暗視カメラや集音機等で調べてから、一区画ずつ除霊し安全圏を広めていく。
だが、短期勝負の今回は無理だ。
「まだ怒ってます?」
少し上目使いに此方の様子を伺ってくる。
「いいえ、自分に割り当てられた仕事をするだけですし、して欲しいです。高野さんは今回の除霊を小原さんに報告する義務が有る。
僕はサポートだから、最低限の事はしましょう。ほら、やはり本命はホテルの中ですね。聞こえませんか?」
耳を澄ますと、無人の筈のホテル内部から微かに音が聞こえる。
「泣き声かしら……」
女性の泣き声か、赤ん坊の泣き声か?深夜の廃ホテルでは有り得ない音だ……しかし流石は本職集団。
直ぐに陣形を組むと、霊の存在を探り始めた。しかしマグライトで周囲を確認しても、それらしきモノは見付からない。
「先に進むしかないわね?亀宮さん、フロントから調べましょう」
十字架を構えて聖水の入った小瓶を持ったメリッサ様がフロントのカウンターに近付く。残りのシスターズも左右からカウンターに近付く。
「榎本さんもサポートお願いしますね」
亀宮さんは普通に歩いて行くが、亀ちゃんが具現化している。亀宮さんの両脇をモブな二人が固める。三人一組ってフォーメーションも三角なんだな。
突出した力を持つリーダーを先頭に左右を仲間が固めながら警戒するのか……彼女達はフロントのカウンターを乗り越えて、奥のスタッフルームに入っていった。
取り残される僕と高野さん。
僕は周囲を警戒しつつ、清めの塩の入ったペットボトルを取り出す。霊感がビンビンと危険を伝えてくる。
「榎本さん、怖い顔して……ごめんなさい。からかい過ぎたわ」
外から吹いてくる風が緊張の為の脂汗を冷やして寒気がするな。
「違う、ヤバい感じがする。高野さんも警戒しろ!」
微かに聞こえていた泣き声が、少しハッキリとしだした。つまり音の発生源が近付いてるんだ。
「確かに……泣き声が近いわね」
亀宮さん達は、フロントの奥のスタッフルームに行ってしまった。しかし声を掛けて呼び戻す事は出来ない。
「女性の泣き声かと思ったが、赤ん坊の泣き声だな……」
「本当ね……嫌だわ、何処からかしら?」
音源を探す為に集中するが、中々分からない。一カ所かと思えば違う感じもするし……開けっ放しの扉ギリギリまで下がり、高野さんと並んで警戒する。
マグライトで照らして探すが、それらしきモノは……
「しまった、上だ!てっきり床をハイハイしてると思った」
ホテルのフロントは普通より天井が高い。その床から4m近い高さの天井面にソイツ等は居た。
「そんな……そんな事が……」とマグライトに照らされ天井に貼り付いている赤ん坊を見て呆然とする。
赤ん坊と思い込み、床をハイハイして近付いてくるとばかり思ったが……奴ら天井をハイハイして直ぐ近くまで来てやがった。
青白い顔をした赤ん坊の霊が3体、ゆっくりと這いずりながら近付いてくる。その顔は蒼白で本来の愛らしさは無く、酷く歪な表情だ。
「くっ……清めの塩は届かない。僕は接近戦専門だが、高野さんの除霊方法は?」
「同じよ。普通なら結界で罠を張るけど、今は無理よ」
つまり二人共、遠距離への攻撃手段は無い。目が離せないが、見ているだけだ。ヤツらは直上まで這ってきた。
「おん まからぎゃ ばぞろ しゅにしゃ ばざら さとば じゃく うん ばん こく」
愛染明王の真言を唱え、ペットボトルの中の清めの塩に霊力を送る。
「まま……ま……まま……ままぁ!」
天井から叫びながら手を伸ばし、高野さん目掛けて落ちてくる!
「ちょ、いやー!」
固まっている高野さんを左腕で掴んで後ろに引っ張り、落ちてくる赤ん坊に清めの塩をブチ撒ける!
三体の内、二体は清めの塩で祓えた。霧散する様に滲んで消える……しかし清めの塩が当たらなかった際奥の一体は無事だ。
某有名メーカーの子供服を着た赤ん坊は、あろう事か立ち上がる。
「まま……まま……ままぁ……」
ヨタヨタと手を伸ばしながら高野さんに近付いて行く。彼等は女性に何らかの用が有るのかな?
「おん まからぎゃ ばぞろ しゅにしゃ ばざら さとば じゃく うん ばん こく」
愛染明王の真言を唱えながら、頭の上に清めの塩を振り掛ける。見た目のインパクトは強いが、霊力自体は弱い。慌てなければ問題無く祓えるだろう……
「落ち着け!単体での力は弱いぞ。だが……こんなに沢山の赤ん坊は、此処では亡くなってない。何故、ホテルの中に居るんだ」
未だ居るかも分からないから、今度は床・壁・天井と念入りにマグライトを照らして確認する。
「高野さん、ボサッとしてないで結界を張ってくれ!簡易結界でも構わない。取り敢えず安全圏を作るんだ」
「はっはい!えっと……四方に何か……椅子、椅子を置いて」
待っているお客様用だろうソファーを高野さんの指示の場所に置く。彼女はその上にコップを置いて水を満たした中に小指程の水晶を入れた。
何か呪文の様な言葉を紡ぐと、点の結界が線の結界に変わる。
「うん、凄いな。簡易結界で、この威力か……どれ位保つかな?」
「強いヤツが触れば簡単に抜かれるわ。今回は数は用意したけど質がイマイチなの。屋敷の結界強化に使ってしまったのよ」
結界の中に入れたソファーに彼女を座らせて、僕は周囲の確認をする。この騒ぎなら亀宮さんも気付いたと思うが、向こうからも争う音が聞こえてる。
「一旦全員集めた方が良いかな?ほら、廊下の突き当たりを見てみなよ」
700ルーメンのマグライトは30m先まで光が届く。正面エレベーターホールの右隣の廊下、案内図だとレストランだが途中に人影が見える。
「子供……かしら?背が低いわね、いや老人かな?」
数だけが問題なら、相手が弱いので凌げるかも知れない。だが前に単独で除霊に来た時は、強い奴も居たから甘い考えは禁物だ。
胡蝶を呼ぶのは、どうにもならなくなってからだ!
「シルエットから判断すれば、女性・子供だな。事前調査では自殺は男性、それも地下。ネットでは赤ん坊と女性の目撃例が載ってた。
どちらも正解だが、数が違いすぎる。このホテルには女性・子供を呼び寄せる何かが有るのかもね……」
マグライトに照らされた霊は、真っ直ぐ此方に歩いて来る。既に10m手前まで来ているが、僕は彼女に見覚えが有った。
最近見た調書に載っていた女の子。
「近藤好美ちゃんだ。やはり彼女も此処に囚われていたのか……」
失踪当時の写真の通り大人し目なワンピース姿。見た目に酷い外傷は無いが、不自然に左側に傾き右足を引き摺っている。
髪の毛はボサボサ、肌は白く俯き加減だけど……
「近藤好美ちゃんかい?」呼び掛けると顔を上げた。
「オジチャン……ママ……ガ……おこっ……怒って……ル……よ……」
無表情で「お兄さんママが怒ってる」って言った。つまり黒幕にママなる何かが居るんだ。
第91話
八王子の廃ホテルの調査でリストに挙がった死者達。今回初めて、そのリストに載っていた人物と会えた。
勿論、死者故に霊として会えたのだが……
彼女は近藤好美。享年11歳の女の子だ!
◇◇◇◇◇◇
霊体だが、攻撃的な意志が無いと思われる彼女。写真で見た通りの服装で、結界の外で立ち尽くしている。
「好美ちゃん、ママって誰だい?お兄さん達はママを怒らせたんだね。謝るから何処に居るか教えて欲しいな」
会話が出来れば情報も得られる。既に事前に調べた調書は当てにならない。
丹波の尾黒狐が居なくなった後で、この廃ホテルを支配しているのはナニか?それが知りたいんだ。
「オジチャンって呼んでたのに、お兄さんね……榎本さん何で彼女を知ってるのよ?」
落ち着いたのか、高野さんの突っ込みは無視する。霊体を目の前にして突っ込み入れられるのは、流石は同業者。
普通ならパニックだろう……少し屈んで彼女と目線を近くして、再度聞いてみる。
「お兄さんに教えて欲しいな。そのママにちゃんと謝るからさ」
先程の赤ちゃん霊とは違い自我も思考力も有るのだろうか?首を傾げる仕草をする。
「ママ……寒い……所……皆……そこに……いる……」
寒い所?皆?複数か?廃墟で寒い所だって?地下室・裏庭・冷凍庫・日の当たらない場所……候補が絞り切れない。
「地下室かな?寒いよね?他にも沢山居るの?友達かい?」
コクンと頷いた。でも地下室は首を吊って自殺した男性だった筈。ママなら女性だし、別口か?
「地下室か。ママは何時も居るの?」
「ママは……皆を……連れて来る……いや、私もう……戻りたく……ない」
ヤバいか?両手で自分を抱き締める様にして、小刻みに震えだした……目が黒目に変わりつつある。
ママとは彼女を完全に支配下においてないのかもしれないが、今は影響を受け始めたのかな?話を聞けるのも、これまでか……
「おん まからぎゃ ばぞろ しゅにしゃ ばざら さとば じゃく うん ばん こく。
好美ちゃん、明るい所に行こうか。此処に留まる必要は無いよ……」
愛染明王の真言を唱えて、彼女の頭をクシャクシャと撫でる。感触は雲みたいだが……
「オジチャン……温かいね……ありがとう。ママは……沢山の……子供を……集め……守り……」
途中、何か大切な事を言っていたが成仏させる事が出来たみたいだ。
「高野さん、亀宮さん達を呼び戻そう。予想より相手は凶悪かも知れないぞ」
彼女を成仏させたが、ママなるモノの使役霊だった。赤ん坊を含め何人かの使役霊を祓ったからには、ママなる本体が出て来る可能性が高い。
ただ……胡蝶が喰った丹波の尾黒狐に抑えられていた筈だから、胡蝶なら勝てる。でも組織的に数の暴力で来られたらヤバい。
「でっでも……携帯は圏外だし、あんなの見た後で呼びに行くのは嫌よ!」
それはそうか、結界専門だからな。落ち着いたみたいだが、単独行動には尻込みするのも当然か。
「亀宮さーん!一旦戻ってくれー!状況が変わったんだー!」
呼びに行くにしても時間が勿体無い。大声でフロントの奥に呼び掛ける。シンとした建物内に僕の声が響き渡った。
肺活量には自信が有るぞ!高野さんは耳を塞いで、此方を睨んでいる。いきなり大声を出すなってか?
「分かったわー……」
か細いが亀宮さんの声が聞こえた。ヨシ、返事が来たぞ。
「高野さん、亀宮さんが戻ったら一旦引き上げだ!小原さんと打合せしないと駄目だ。大分想定と違う!
バスを呼ぶ時間も無いから、僕の車を使ってくれ。僕は自転車で追い掛けるから麓で一旦合流しよう」
そう言って車のキーを渡す。
「荷物は?テントとかどうするのよ?」
鍵を受け取りポケットにしまう彼女。今は荷物の心配なんて不要だろ?
「逃げる時間が惜しいんだよ。周りを見て不思議に思わないか?幾ら真冬の深夜でも室温の下がり方が異常だ。
屋敷に現れた霊もそうだが、気温が氷点下になってるよ」
吐く息は白く、結界用に移動したレザーのソファーの表面が薄く凍り初めてる。
ママ本体か、使役してる霊でも強力なヤツが出て来るぞ。
「榎本さん、聞いて!女の子ばかりの霊が現れるわ。何か変だわ、このホテル。あら、寒いわね」
フロントの奥から亀宮さん達が現れた。気温低下は、この周辺だけらしい。
他の部屋から来た彼女達にも、異常が分かっただろう。人数を数えたが全員居るので安心だ。
「コッチにヤバいのが現れそうだ。一旦引き上げよう。準備と小原さんに相談だ……って扉が?」
ドアストッパーを掛けていたのに、バタンと大きな音がして両開きの扉が閉まってしまった!
「閉じ込める気かよ?」
僕の叫び声にモブの方が扉の取っ手をガチャガチャと捻るが、動く気配が無い。
「ちょちょっと?なになに、何よ。閉じ込められたの?」
テンパる女性陣だが、この程度なら初めてじゃない。だが触れずに物を動かせるとは強力なヤツだ。
一応、高野さんの結界範囲だったのに。つまり簡易結界が効かない相手だ!
「落ち着け!亀宮さん、迎撃お願い。1分で良いから時間稼いで!それと扉から離れてくれるか!」
既に扉の硝子部分に氷は張り初めている。鉄製のフレームの扉は確かに強固。それを全体的に氷でコーティングされたら大変だ。
だが、この手の硝子は安全上割れるとバラバラに砕けるんだ。完全に凍る前に、ブチ破る!
「おん まからぎゃ ばぞろ しゅにしゃ ばざら さとば じゃく うん ばん こく」
愛染明王の真言を唱えながら硝子面の真ん中にお札を貼る。ジプロックと共に愛用しているガムテープでだ。
お札に霊力を送り込み、硝子に干渉しているナニかの力を抑える。
「オラァ!」
渾身のヤクザキックを硝子に叩き付ける!バラバラに砕ける硝子!
「なんて力業……」
関心してないで早く出て欲しい。
「亀宮さん、出口を確保した。一旦逃げるよ!高野さん、皆を車に乗せて先に麓まで下りろ。そこで合流だ、早く行け!」
「わっ分かったわ!皆さん、逃げるわよ」
高野さんを先頭に、メリッサ様達が外に出る。結構素早いぞ。
「亀宮さん、悪い。僕と殿(しんがり)を頼むね……てか来やがった」
ソレは前触れも無く、僕らの前に立っていた。まるで床からせり上がってきたみたいに、俯き加減で両手を前にダラリと下げて……
ソレの周囲にはモヤモヤしたモノが渦巻いており、良く見れば混ざり合った子供達だ。
「どうやらママって呼ばれてるヤツらしいな。周りのモヤモヤは、呼び寄せられた霊の集合体か……」
半端無い冷気が吹き付けられる。まるで雪山に居るみたいだ!
「どうします?亀ちゃんに食べて貰いましょうか?」
流石は亀宮さん。こんな異常事態でも肝が据わってるな。具現化した亀ちゃんが前面に立ちふさがり、彼女自身に冷気は届いて無いみたいだな。
亀ちゃんスゲーな……
「そうだね、僕も……」
此処でケリをつけるのも良いか?そう思い左手首の数珠を外し胡蝶を呼ぼうとした時……ソレは顔を上げた。
聖母の様な穏やかな笑みを浮かべ、周りのモヤモヤを撫でている。だが、撫でられたモヤモヤは……混じり合った霊体は苦悶に表情をしかめている。
「何だと……小原愛子……君が……」
ソレは調書でも見たしオヤジさんの家でも見せて貰った写真と同じ顔だ。何度も見たんだ、間違いようは無い。
「小原愛子?榎本さん、知り合いなの?」
不審気に僕を見る亀宮さん……確かにどう見てもラスボスな悪霊を知ってるなんて不審者丸出しだ!
「亀宮さん、一旦退こう!彼女は、小原さんの前妻なんだ。祓うのは、彼に報告してからだ!」
せめて元旦那に報告し、対応を相談しないと。オヤジさんにも頼まれてるし、此処で亀ちゃんと胡蝶に食べさせる訳にはいかない。
「まぁ!色々知ってるのね、後でゆっくり聞かせて貰いますわ」
言葉に少し非難が混じっている感じがするが、秘密にしてた訳じゃないよ。
「亀宮さん、先に折り畳み式自転車の所まで走って!時間稼ぎするから……
おん まからぎゃ ばぞろ しゅにしゃ ばざら さとば じゃく うん ばん こく……」
愛染明王の真言を唱え、手に持つペットボトルの中の清めの塩に霊力を満たしていく……ゆっくりと後退りながら、割れたドアの外に出る。
小原愛子は動かない。彼女には僕らは必要無いんだろう。女の子じゃないから、子供じゃないから関心も薄い。そんな気がする。
後ろを見れば既に愛車は無く、亀宮さんが自転車に辿り着いていた。清めの塩で入口に一本線の結界を張る。
気休めだが、やらないよりは良い。そのまま前を見ながら後退し、10m程離れてから走り出す。
「亀宮さん待たせた!一旦下がろう」
自転車に跨り後ろに彼女を乗せる。
「あら、乗り難いわ……」
巨漢の僕の背中にしがみ付くのは無理か?下手に乗せると途中で落ちそうだよな。
「亀宮さん、ごめん。前に乗ってくれ」
サドルに乗せていた尻を後ろにズラし、前に亀宮さんを乗せる。後ろから抱きかかえる様だが仕方ない。
「ハンドル握って、走り出すよ」
ライトを点灯しペダルを力一杯漕ぐ。下り坂だ、直ぐに加速してペダルを漕ぐ必要が無くなる。後はハンドルとブレーキ操作だけだ……
「速いわ……ジェットコースターみたいね」
「舌を噛むから喋らない方が良い。この道は余り整備されてないから、路面状態が悪いんだ」
そう言いながらも落石を避ける。楽しそうにしている亀宮さんは、やはり何処かズレてるのかも知れない。
「ねぇ榎本さん?」
「ん?」
「映画のワンシーンみたいね、私達……」
映画?ワンシーン?ホラー映画で最初に逃げ惑い殺されるカップルってか?
「いや……それは……」
死亡フラグっぽくてヤダぞ!
「愛の逃避行?」
「命懸けの大脱走?」
二人同時にチンプンカンプンな回答だったので、思わず笑ってしまう。ガチガチの緊張感が良い意味で解れたみたいだ。
サイドミラーで後ろを確認しても、何も異変は無い。どうやら小原愛子さんは、拠点から動く気も追っ手を差し向ける気も無いみたいだな……
10分間の自転車二人乗りも麓に着けば終了。先に僕らを置いて逃げた連中と合流出来た。
路肩でハザードを点灯し停まっている。
近くに自転車を停めて亀宮さんを下ろす。直ぐに車内から全員が出て来た。
「無事みたいね?アレ何よ?聞いてないわよ?」
「屋敷に現れた奴と同じ位に強力じゃない?
室温を下げたりポルターガイストを起こしたり、350万円じゃ安過ぎよ!」
高野さんとメリッサ様に詰め寄られる。てか、僕が何でも知ってると思わないで欲しい。僕は責任者でも何でも無いんだぞ!
「この先にコインパーキングが有るから、其処まで移動しよう。車を乗り換えるから、高野さんはバスを呼んで。追跡されない様に清めてからバスで帰ろう」
桜岡さんみたいに自宅に使役霊を送られるのは嫌だ。ふと愛車を見れば、バンパーの左側が酷く凹んでいる。
「あっ?バンパー凹んでるじゃないか!誰だよ運転したの?高野さん?弁償してよね、コレ気に入ってたのに」
良く見れば右側も擦り傷が有るじゃん!どんな運転したんだよ?
「なっナニよ!私だって馴れない車を……しかもギチギチに満員なのを頑張って運転したのよ。前に三人も乗るなんて無茶したんだから!」
ああ、この車も買い替えを検討しなきゃ駄目かな?スピードとか積載量とか不安が有るし……
いや今までみたいに一人なら問題無いんだけどね。どうにも社員が増えそうな気がするんだ。
静願ちゃんとか桜岡さんとか、そのまま居座りそうな予感がね。
第92話
愛車を傷付けられた事は腹立たしいが、基本契約書には物損項目も有る。単独事故だし最悪でも修理費は請求出来るだろう。
前回と同じコインパーキングまで車を移動し、送迎バスを待っている。亀宮さんは自転車の二人乗りが、いたく気に入ったみたいだ。
二回目は後ろに乗って貰ったが、前の方が安定して良いと言われた。だが世間的には大変宜しくない……
◇◇◇◇◇◇
深夜3時……
予定より大分早い引き上げ時間だ。折り畳み式自転車を荷台に積んでいると、高野さん達から詰め寄られた。
「榎本さん、今夜の霊達の事を随分知ってたわね!何を隠してるの?」
「最後の奴……直接見れなかったけど、物を動かしたり気温を下げたりってかなり強力な霊よ。350万円じゃ安過ぎよ!」
メリッサ様は本当にお金が大好きなんだな……凄い力説なんだが、賃上げ交渉は僕に言われても何も出来ない。
取り敢えず愛車の内側、外から見えない天井やトランクの扉にお札を貼る。それと清めの塩を自分に振り撒く。
「説明は後だよ。先ずは清めの塩を撒いて、最悪アレに追跡される事を防ぐよ。民宿まで連れて帰る訳にはいかないしね」
隣に居た亀宮さんにも軽く清めの塩を撒く。それからメリッサ様・高野さん・モブなお供さん達を清めてたら送迎バスが来た。
送迎バスは普通の観光バスで40人位乗れる奴だ。無駄にデカい。しかも大型バスだから、席に余裕が有る。
僕等は8人しか居ないんだぜ!
二人シートに一人ずつ座っても余裕綽々だ。僕は最初に乗り込んだから、一番後ろのシートの真ん中に座る。その他の女性陣も各々好きな席へ。
「ちょっと道を空けて下さいな」
何故か亀宮さんだけが僕の右隣に潜り込んだ。
「いや他にも席は……ああ太股に座らないで、退きますから」
強引に右の窓側に座る。最後まで殿(しんがり)を勤めてくれた亀宮さんだ。色々と聞きたい事が有るんだろう。
此方を見る目がね、何かを聞きたいって訴えてるんだ。
「榎本さん、何故最後の悪霊を祓わなかったのかしら?確かに強力な相手だったけど……
私と貴方なら、あの程度なら何とかなったわ。亀ちゃんだけでも油断しなければ食べれた筈よ」
あの時、僕は脱出を優先させた。亀ちゃんと胡蝶なら、楽勝とは言わないが問題無く祓えただろう。
いや、祓うじゃなく喰うだが……何と答えようか迷っていると、他の皆さんが聞き耳を立てているのが分かる。
無関心を装っていても、通路側に座り誰も喋らないんだから……
「うん……最後に現れた女性。僕は彼女を知っていた。だから、祓うのを躊躇したんだ。雇用者の個人情報をペラペラと話せないから、詳細は言えない」
「雇用者って時点で小原さん絡みじゃん!やっぱ怨恨?あの調書に載ってた人?」
高野さんから突っ込みが入った!何時の間にか近くの席に移動し、体ごと後ろを向いている。
「そうだね。だから祓うのを躊躇したんだよ。もしかしら祓った事が僕達にとって不利益かも知れないし……」
捨てた元妻とは言え、他人に知らない所で祓われたら嫌だろう。逆恨みとか勘弁して欲しいし、連絡して指示を仰ぐべきだ。
「この件は朝になったら小原さんに連絡するよ。予定より強力な霊も出たし、料金交渉も出来るかもよ?」
冗談ぽく言ってみるが、笑いは起こらなかった。暫くすると送迎バスは民宿「岱明館(たいめいかん)」に到着。僕達を下ろして走り去って行った……
◇◇◇◇◇◇
予定より1時間以上も早い帰宅となってしまった。悪いと思いながらも携帯で晶ちゃんに電話する。数回のコールの後、彼女は電話に出てくれた。
「お疲れ様、榎本さん。今鍵を開けに行くよ」
「うん、予定より早くてごめんね」
簡単な会話だけで携帯電話を切る。
「ふーん、もう携帯番号をゲットしてるのね。本当は手が早いプレイボーイなんじゃない?」
プレイボーイ?古い言い回しだよね。今風だとナンパ野郎?いや、これも古いよね。チャラ男かな?
「いや、玄関の呼び鈴だと聞こえ辛いからって言われてだよ。何だよプレイボーイって?亀宮さんも古い言い回しを知ってるよね。今風ならチャラ男かな?」
そんな世間話をしていたら玄関に照明が灯り、中に人影が見えた。ガチャガチャと鍵が開き引き戸を開けてくれる。
「お疲れ様!寒いよね、早く中に入ってよ」
彼女は七分丈のズボンにセーター、それと褞袍(どてら)を着ている。褞袍なんて久し振りに見たぞ。でも褞袍って綿入れだし、暖かいんだよね。
出迎えてくれるのに、わざわざ着替えてくれたのかな?僕は脇に寄り、先に女性陣を中に入れる。さほど広くない玄関だが、全員が靴を脱いで中に入る。
僕もアーミーブーツを脱ぎながら、この後の事を決めなきゃ駄目だと思った。本当に引率だよな、だがサポートだから雑用は仕事の範疇なんだ。
幸いまだ全員フロントに居るからね。
「晶ちゃん、お風呂入れるのかな?皆さん朝食は6時で良いかな?」
民宿の対応は、晶ちゃんにも聞いておかないと駄目だからね。
「うん、大浴場は直ぐに使えるよ。朝食も6時で平気だけどズラすなら8時までにして欲しいんだ」
仕込みや準備が有るし、余り遅くは無理か。でも朝食抜いて昼食まで我慢はもっと嫌だな。
「皆さん、どうする?6時まで頑張って起きていて朝食たべたら、ゆっくり寝る方が良いかな?」
女性陣を見回しながら聞いてみる。特に反対意見は無さそうだ。
「じゃ解散で!6時に朝食会場で会いましょう」そう言って締めると女性陣は二階へ上がって行った。
「晶ちゃん、ごめん。寸胴だけど置いてきちゃった。漬け物のタッパーも……明日取ってくるか弁償するよ」
背を丸めて拝む様に謝る。あんな場所に放置してきたから、嫌なら弁償しなくちゃね。
「うん?構わないよ、直ぐに使う訳じゃないし寸胴は他にも有るからさ。なんか榎本さんだけが、随分疲れてないか?」
正解です、肉体的にも精神的にも疲れました。フロントのソファーにドカッと座り込む。
女性陣が大浴場を使い終わらないと、僕は入り辛い。壁一枚挟んでキャッキャされたら居辛いんだよ。
朝食後に風呂に入ってから小原氏に連絡すれば、時間的には丁度良いかな?8時、いや9時過ぎが常識的な連絡時間だよね。
後ろから晶ちゃんが肩を揉んでくれた。結構な力を入れてくれてるのか気持ちが良い。
「ほら、肩なんかガチガチだよ。そこにマッサージ機が有るから使いなよ。ホラホラ、早く座って……」
強引に座らされてマッサージ機を始動させられた。晶ちゃんの手揉みが良かったんだが……足の裏も振動でツボが刺激され、太股は空気圧で挟む込む様なマッサージ。
背中から首筋に掛けて、指圧を真似たマッサージが出来る最新式のマッサージ機だ!
「うん、意外と気持ち良いな……凝りが解れるよ……」
グリグリと背骨を刺激されると気持ち良くて癖になりそうだ。結局、三回続けてマッサージ機を使った。途中、大浴場を使いに下りてきた女性陣に
「いやだ榎本さん。オジサンみたいだわ……」
「ふふふっ……本当にクマさんね」
全身の力を抜いてダラリとしてたからか?まぁ言われても気にしないけど。薄目で見た彼女達は、部屋で浴衣に着替えてから大浴場に行くんだな。
結構な美人さんばかりだが、小原氏の選美眼は確かなんだろう。数多いる霊能力者の中から、美人だけを選んだんだから……
摩耶山のヤンキー巫女こと桜岡さんのお母さんも、見た目は美人だ。くだらない事を考えながら、マッサージ機を買おうか考えてしまう。
高くても50万円もしない筈だし、家には置き場も有るし……カタログを請求するか、次の休みにでもヨドバシかヤマダ辺りに見に行ってみようかな。
◇◇◇◇◇◇
余りにマッサージ機が気持ち良くて連続使用してしまったが、晶ちゃんに怒られた。一度に長く使うと揉み返しで逆に凝るそうだ。
確かにあのままだとマッサージ機で座りながら寝ちゃいそうだったな。部屋に帰り携帯の目覚ましを5時45分にセットして眠りについた。
身嗜みに15分は掛かるだろうし、寝癖ボサボサで行く訳にはいかないし。確か布団はセルフサービスだと聞いてたのに、何故か僕の部屋には布団が敷いてあった。
晶ちゃんのサービスかな?洗い立てのシーツはパリッとして肌触りが気持ち良かった。横になると直ぐに意識が遠くなった……
「おやすみなさい……」
◇◇◇◇◇◇
「榎本さん、起きなよ。そろそろ朝食だよ。ほら、榎本さん。起きてくれよ」
誰かが布団を揺すっている……誰だ?誰でも良いから、もう少し寝かせてくれ。
「もう疲れたよ。寝かせてくれよ、パトラッシュ……」
布団の中に頭を潜らせる。これで外界から遮断された……いい加減疲れたから、休んでも良いよね?ほら、天使が迎えに来てるんだよ。
「誰がパトラッシュだ!フランダースの犬ネタは古いって!ほら、榎本さん起きなって」
随分乱暴な天使が、僕の布団を揺すっている。
「僕の天使……お願いだ、もう少し寝かせてくれ」お迎えはまだ早いんだ。
「だっ誰が誰の天使だ!起きないと皆さん集まってくるよ」乱暴な天使は僕の布団を剥ぎ取りやがった。
「あと少しで5時50分だよ。6時から朝食だろ?支度しなって……」
布団の上で胡座をかいて状況の把握に勤める。目の前に腰に手を当てて仁王立ちな晶ちゃんが居る。わざわざ起こしに来たのか?
天使は居なかったが晶ちゃんが居た。
「天使は晶ちゃんか……」
「榎本さん寝ぼけてるのか?ほら、早く支度しなよ」
両手を伸ばし大きく欠伸をする。
「うーん!晶ちゃん、おはよう!起こしてくれって頼んだっけ?」
両目を擦って覚醒を促す。まさかモーニングコールを頼んだのか?でも普通なら内線鳴らして起こすんじゃ?
「何だよ!朝方部屋に押し込んだ時、寝たら起きれないとか言ったぞ。
何時に起きるんだって聞いたら5時50分って。だから起こしに来たんだ。早く顔を洗って支度しなって」
朝食の準備で忙しい中、わざわざ起こしに来てくれたのか!悪い事したなぁ……
先ずは着替えて顔を洗いますか!
◇◇◇◇◇◇
「「「「「いただきます!」」」」」
風呂上がりの美人に囲まれての朝食。普通ならなんて贅沢なんでしょうか……夕食と同じ下座に座ってますが、隣が亀宮さんに変わってました。
高野さんは、その隣に移動してるね。
「はい、沢山食べて下さいね」
女将さんは夕食時と同様に僕の隣で、ご飯と味噌汁をよそってくれる。今回も山盛りだ!
「はい、いただきます」
山盛りご飯の茶碗を受け取る。今朝の献立は……エボ鯛の干物・ナメコと大根おろし・板ワサ・温泉玉子・ほうれん草と油揚げのお浸し・ハムサラダ・漬け物各種。
味噌汁は白味噌で具は、豆腐と油揚げだ。理想的な日本の朝食。
「はい、榎本さんお茶だよ」
今朝も配膳は晶ちゃんの仕事。全員に大きな急須でお茶を入れて廻ってる。
「ああ、ありがとう。朝からコーラは流石にマズいからね。お茶が一番だよ」
「晶ちゃん?榎本さんは女性と仲良くなるのが上手よね。小原さんの所でも小笠原さんに懐かれてたし……何故かしら?」
上品に味噌汁を飲んでいた亀宮さんから、キラーパスが来た?そもそも晶ちゃんが女性って何故知ってるの?
「いや、その……別に変な事を考えてないよ。懐かれたって、ええ?」
しどろもどろになってしまう。だって笑顔の女将さんが怖いんだ。
「クマさんだしハンサムでもないのに、何故かしら?でも私も嫌いではないわよ」
悪気の無い笑顔で言ってくれたけど、今此処で言う事じゃないよね?女将さんだって、自分の娘が男に懐いてるなんて言われたら気になるじゃないか。
女将さんも笑顔だけど、目が笑ってないんだ。
「榎本さん」
「はっはい!」
「節度ある付き合いをして下さいね。あの子はまだ19歳ですから……」
「勿論です。節度ある付き合いをさせて頂きます」
あらあら、とか笑わないで下さい。貴女の所為なんですよ、亀宮さん!