榎本心霊調査事務所(修正版)   作:Amber bird

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第75話から第77話

第75話

 

「凄い。ライバルをセクハラ野郎に押し付け、自分は警備室を傘下に置いて早期に索敵。

発見後、身内以外の証人が現れるのを待って殲滅。文句の無い一人勝ち」

 

 素直クールの着物少女が現状を解説してくれた。僕の脇に立ち見上げる表情は相変わらず無表情。

 良く見ればボブカットに高級な着物姿は日本人形みたいだ。無表情の中で唇だけが妙に紅色だが、口紅つけてるのかな?今風だとグロス?リップ?

 

「榎本さん、酷い人ね。私達にホステス紛いな事をさせて、自分で解決しちゃって」

 

 メリッサ様だっけ?清楚な筈の修道服を肉感的に着こなしたイケないシスターズが僕を取り囲む。

 彼女達はお金大好きみたいだし、成功報酬独り占めは気に入らないってか?

 

「依頼された仕事をこなす事はプロとして当たり前ですよ。貴女達も承知で小原さんと、お酒を飲んだんでしょ?

逆に小原氏の部屋に直接現れたら僕は間に合わなかった。運が良かったんですよ」

 

 シスターズ包囲網から脱出し、桜岡母娘の隣へ移動する。

 

「まぁ私達は小原さんに張り付いてて迎え撃つつもりでしたからね。榎本さんの読みと準備の勝利だわ」

 

 亀宮さんが常識的な執り成しをしてくれたから、シスターさん達も認めないけど納得はした感じだ。遅れながら高野さんを伴った小原氏が現れた。

 結構酔っ払ってるぞ。顔は真っ赤だしよろけてるし……

 

「あの女の霊は倒したのか?もう安心なんだな?」

 

「榎本さんが一人で退治した。皆の見てる前で。もう安心して平気」

 

 君は説明役か?着物少女の言葉に僕を見詰める小原氏。僕が退治しちゃ、そんなに不思議か?

 

「榎本さんは貴方が飲んだくれている時に監視体制を構築。警備員と協力し早期発見。かなり強い怨霊を一撃で退治した」

 

 振り向いて警備員を見ると彼は小原氏に頷いた。

 

「榎本さんでしたか。有難う御座います。これで安心なんですね?」

 

 漸く僕の事を認めたのか、酒臭い笑顔で握手を求めてきたが……

 

「朝まで警戒しましょう。彼女だけとは限らない。場合によっては一体倒したら本命が現れるとかも有りますから。

明日の朝に今回の報告と相談が有ります。警備には悪いが今晩一晩は警戒して下さい。僕が仮眠室に詰めてますから……」

 

 嫌々だが表情には出さず軽く握手をし、一旦屋敷の中に入ってもらう。女癖の悪い金持ちの手を握る趣味はないが、仕事を貰っているから大人の対応をする。

 社会人としては真っ当な対応だって出来るんだ。勿論、ニ体目なんて居ないだろう。

 でも、それを知っているのは小原氏の身代わり札を誤使用してエム女を此処に送り込んだ僕だけだ……今回の件を絡めて、本格的に八王子の廃ホテルの除霊を勧めよう。

 そうすれば、所有者の責任として予算が貰える。今回良い所の無かった連中にも手伝って貰えれば、独り占めのお詫びになるだろう。

 結衣ちゃんの警備費が赤字だったが補填出来たな。500万円の成功報酬は正直嬉しい……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 翌朝、僕は仮眠室まで来てくれた着物少女によって起こされた。二回目の襲撃は無いと安心して寝てしまっていた。彼女には感謝しないとね。

 警備をしてたのに朝食に寝坊して遅れたとか恥ずかし過ぎる。僕の前をスタスタと歩く彼女の後ろ姿を見ながら思う。今日は平日だが、この子は学校とか行ってるのか?

 まだ高校生位だと思うんだけど……

 

 着物を着ていても分かる丸みを帯びたお尻を見ながら思う。やはり脱ぐと凄いんですよ、な体型だ。

 ロリムチならご馳走だが、彼女は大人び過ぎている。それこそ桜岡さんより精神年齢が高そうだ。

 

「皆、待ってる」

 

 食堂に向かうと小原氏を除き全員が揃っていた。桜岡さん母娘の間が空いているのは、僕はあそこか?

 

「お早う御座います」

 

 桜岡さんに着物少女と一緒なのに不審がられたが、呼びに来てくれただけだからと説明。直ぐに小原氏が来て朝食を食べ始めた。

 珈琲にカリカリベーコン、目玉焼き。レタス・胡瓜・アスパラのサラダ。パンは普通の食パンだ。

 食材自体は高級品なんだろう、ありふれたメニューだが味は良かった。僕と桜岡さんには軽めの食事を済ませてから昨夜の説明をする事となる。

 テーブルの上の食器類が片付けられ、新しい珈琲が配られる。砂糖とミルクをタップリ入れて一口。うん、珈琲がカフェオレになりました……

 

「では榎本さん、昨夜の事を説明して下さい」

 

 小原氏の言葉に、皆が一斉に僕を見詰める。

 

「えー、先ずは僕と桜岡さんが請けていた仕事から説明します。僕らは小原氏が所有する八王子の廃業したホテルの心霊調査をしていました」

 

「私は、そんな調査など頼んでないぞ」

 

 小原氏が不審そうに僕を見る。つまりアレは管理会社の独断か……

 

「発端は、ホテルを管理している会社よりテレビ局に依頼が有りました。巷で噂になって困ってるから調査をして欲しい、と……

でもオーナーが知らないなら管理会社の独断でしたね。僕らも怪しいと思い、正式に請ける前に仮調査を申し込み調査中だったんです」

 

 一旦話すのを止めて小原氏を見る。

 

「あの女の霊は君達がホテルを調べたからやって来たんじゃないのか?」その通りです!

 

 でも想定済みの質問だから、顔色を変えたりはしない。

 

「小原さんが疑うのも分かります。僕等も貴方達を信じていなかった。何故なら管理会社は、関西の神泉会の系列だ。

そして心霊詐欺を行う悪徳団体。神泉聖浄は桜岡さんのお母さんが心霊詐欺の被害を受けて潰した連中だ。怨みも有るだろう。

だから小原さんと神泉会が繋がってると考えた。今回の依頼のタイミングが良すぎたので……」

 

 調査の最終日に呼び出しなんてストーカーも真っ青なタイミングだったしね。

 

「だから榎本さんは、今回の除霊を独りで行った。私達を疑ってた?」

 

 着物少女が僅かに悲しそうな顔で此方を見ている。なんだ、無表情って訳じゃないじゃん。

 

「ごめんね。正直、罠かと思った。桜岡さん母娘を呼ぶのもおかしいと……」

 

 着物少女の目を見て謝罪する。この子は悪い感じがしない。

 

「私は君達を罠に嵌めるつもりも無いし、そんな心霊団体とも連んでないぞ」

 

 疑われて心底心外だって顔で小原氏も騒ぐ。多分本当に関係無いのだろう。ならば今回の除霊騒ぎの罪は彼らに被って貰おうかな……

 

「あの女の霊。僕等がテレビ局クルーと調査に行った時にホテルから桜岡さんを睨んでいた奴だ。昨夜も桜岡さんを見て怨み事を言っていた。

生前に恨みの有る相手に似ていたんだろう。桜岡さんもホテルに行った時の視線と昨夜の霊の視線。似ていたと思わなかった?」

 

「えっ?確かにホテルに行った時に感じた悪寒と同じ……でも何故、ホテルから小原さんの屋敷に現れたのかしら?」

 

 あの女の霊は、桜岡さんが生前恨んだ相手に似ていたから……だから廃ホテルで睨んでいたんだ。

 

「これは推測だけど、僕等は確かに廃ホテルを調べた。でも中には入ってない。

周囲の鷺沼や集落・桃源の滝を調べたり過去の死亡事故や失踪事件等を図書館で調べていた程度だ。

途中、集落の食堂で管理会社の連中と接触し色々聞かれた。僕等は彼等が神泉会の関係者と知ってるが、彼等は素性がバレてるのを知らない。

そして僕等は小原さんとは直接会った事はないし東京の屋敷も知らない。だから、あの女の霊を寄越す事は出来ない」

 

「榎本さんの仕事運びって興信所みたいね。本命の廃墟に乗り込めば早いじゃないの?」

 

 これだから規格外の力の持ち主は困るんだ。そんな強力な守護霊獣がいるのは亀宮さん、貴女くらいです。

 

「ネットで事前に調べただけでも心霊現象は多かったんだ。しかも稲荷神社が放置されてる。

伏見稲荷に問い合わせれば、名のある狐が勧請されていた。崇められていた神を放置すれば邪悪に変化する可能性は高い。だから慎重に調べていたんだ」

 

 勿論、丹波の尾黒狐は既に居ない。胡蝶が喰ってしまったからね。

 

「うむ、あのホテルは廃業してから結構な年数が経つが……そんな噂は知らなかったな。じゃあ何故、あの女の霊は現れたんだ?」

 

 ここからが正念場だ。小原氏に廃ホテルの除霊を彼女達に依頼させ、管理会社……神泉会と手を切らせる為に!

 

「距離の離れた場所に霊を送り込めるのは……僕は神泉会が使役霊として送り込んだと思う。

彼等の心霊詐欺の手口だ。霊障を起こして、それを祓う。自作自演だから簡単だ。

彼等の東京進出の拠点として選ばれた。それに小原さんは地元の名士だから、恩を売るのに丁度良かったのでは?」

 

 小原さんが顔を真っ赤にして怒ってるな。確かに僕の言葉を信じるなら嵌められた訳だし……

 

「定岡!奴らを調べろ。もし本当だったら思い知らせてやるぞ」

 

「管理会社と神泉会の調査は僕等もしてますから、良かったら調書を渡します。裏を取るだけなら、その方が早いでしょう」

 

 この手の対処は早い方が良い。

 

「何から何まですまない。調書を貰い次第対策をとる。榎本君、君は有能だ。私の専属にならないか?」

 

 何言ってるんだ、嫌です。僕の目的、肉親の魂解放は達成された。

 あとは胡蝶との付き合い方だけだが、自由奔放な彼女の命令に専属では対応出来ない。

 

「残念ですが、僕も得意先が有りますから専属は……それと神泉会の件とは別に廃業したホテルの除霊と稲荷神社の魂抜きは実施した方が良いかと。

彼等が小原さんを狙った理由も、ホテルに集う霊を利用し易いと考えたからです」

 

 とっとと廃業したホテルの対処しないと、何時次が来るか分からないよ?

 

「むぅ……しかし、今回の除霊で2000万円を用意したが実際は600万円も掛からなかった。ならば余った費用で、不安材料を無くすか……」

 

 ブツブツと金勘定を始めた小原氏を放っておいて、亀宮さん達を見る。

 

「貴女達も、ただ来ただけじゃ気持ちもおさまらないでしょ?どうですか、八王子の廃墟ホテルの除霊を請け負っては?勿論、僕はサポートに廻りますよ」

 

 抜け駆けしないし成功報酬を狙ったりもしない。この条件ならどうだ?

 くいくいと引かれた袖を見ると、着物少女が何かを言いたそうだが……

 

 屈んで耳を近付けると、他に聞こえない様にボソボソと「不動産専門の貴方がサポート。つまり普段の手順と手の内を見せない為。それに今回のお詫びも兼ねてる。やはり貴方は酷い人」とか囁いた。

 

「ちょ、君は……毒舌過ぎるぞ」

 

 少しだけ嬉しそうな顔をして「私は小笠原静願(おがさわらしずね)小笠原除霊術の跡継ぎ娘。母は小笠原魅鈴(おがさわらみれ)。此処へは母の代理で来た」と自己紹介をしてくれた。

 

 小笠原除霊術?うーん、聞いた事が無いな。

 

「それで小原さん、どうしますか?」

 

 腕を組んで考えている小原氏に決断をせまる。

 

「八王子のホテルを放置したらどうなる?」

 

「先程の怨霊クラスが居るかは不明ですね。でも周辺での不審死も多く鷺沼でも目撃例も有る。放置された稲荷神社。所有者に呪いが行かない可能性は低いでしょう。

なに、稲荷神社の件は伏見稲荷にお願いすれば良いですしホテル周辺の霊は彼女達なら楽勝でしょう。神泉会については何とも……」

 

 執事さんと高野さんとボソボソ相談してるけど、一寸強引な話では有るよね。どうやら決まったみたいだな。ヨシとかそれでOKとか言ってるし……

 

「皆さん、榎本さんの調書待ちですが八王子に所有するホテルについて除霊をお願いしたい。神泉会については調査後にお願いするかも知れませんか宜しいでしょうか?」

 

 皆さん頷いてますが、どうやら上手く行ったのか?これで解決の目処がついた。後はテレビ局への対処だが、オーナーが認めてない企画だから中止だろう。

 

「桜岡さん、急いで帰って調書を小原さんへ渡そう。忙しくなるね」

 

 急展開に不安顔の彼女に話し掛ける。

 

「榎本さん、帰りにファミレスに寄りませんか?上品過ぎて物足りなかったです」

 

 大食いの僕等では確かに足りないよね。

 

「たまには高速のインターのレストランに行きますか?」

 

 24時間利用可能なインターではレストランも早い時間から営業しているからね。僕等は一旦帰って調書を小原氏へ、他の皆さんは屋敷に滞在するそうです。

 調書の裏は直ぐに取れるだろうし、小原氏もこれで終わりじゃないって言ったから護衛の為に丁度良いのかな?

 

 

第76話

 

 小原氏に八王子の廃ホテルの除霊について許可を取り付けた。それに亀宮さんやメリッサさん達にも協力を取り付けたし。

 小笠原さんは……母親の代理らしいが、このまま残るのかな?

 未成年だし扱いは微妙だ……因みに桜岡さんの母親の方は残るらしい。

 テレビ局には悪いが、この企画は潰れるだろう。管理会社よりも所有者の意向の方が強い。心霊物件なんて不名誉で嫌だろうからね。

 

「で?小笠原さんが付いて来るのは何故?見送りは不要だし帰るなら駅まで送るよ」

 

 屋敷の駐車スペースまで僕らに付いて来た彼女に問い掛ける。

 

「気晴らしにドライブしたい。この屋敷に居るのは嫌」

 

 嫌って言われても……桜岡さんを見るが、ヤバい無表情だ。久し振りに見る迫力の有る無表情……

 

「あの……桜岡さん?怒ってますか?」

 

「いいえ、怒ってなんかいませんわ。でも私達、一旦帰るだけですから同行しても楽しくないですわよ?」

 

 どうみても怒ってるよね?僕を挟み美女と美少女が睨み合ってるのは、僕が二股野郎みたいで嬉しくも有るが両方好みじゃない。

 

「そこっ!ニヤニヤしない」

 

 何時の間にか、高野さんが近くに立ってるし。

 

「いや二股野郎かと思ったけど、榎本さん彼女達を嫌らしい目でみてないし。私は小原さんと仕事が長いので分かるのですが、彼ってドスケベだから目が嫌らしいのよ。

榎本さんは全然違うわ。えっと、ホモ?」

 

「はぁ?僕は健全な(ロリ)女性大好き人間です。仲間と子供に嫌らしい目を向ける訳が無いじゃないですか!」

 

 確かに桜岡さんは美女だし、小笠原さんも美少女だ。だがしかし、両方好みじゃ無いから欲情はしないんだよ。

 

「小原さんが私も同行しろって。まぁ一番頼りになりそうな榎本さんが離れるのが不安なんでしょ」

 

 一番頼りになるねぇ?専属の霊能力者を手元から離しても?

 

「まだ信用されてないって事だね。神泉会の事が分かれば違ってくるんだろうけど」

 

「女癖の悪いセクハラ野郎だけど無能じゃないし用心深さは有る。でも専属の霊能力者を差し向けるのは不自然。対応するなら警備員だと思う」

 

 この子、この毒舌は一般社会じゃマズいだろ?高野さんも顔が引き吊ってるし……

 

「小笠原さん。口調より毒舌が周りとの距離を感じさせるんだよ。人は正しく間違いを指摘されるのは嫌なんだ。たとえ美少女でも悪感情を抱く」

 

 ポンポンと頭を軽く叩きながら指摘する。

 

「なる程、私が周りに溶け込み辛い訳が分かった。確かに私自身も悪いと思っていた口調を責められるとイラっときた」

 

 車のドアロックをリモコンキーで開けて「小笠原さんと高野さんは後ろに、桜岡さんは前へ。昼迄には戻ろう」一人乗せるも二人乗せるも一緒だ。

 

 早く出発しよう。小原氏の邸宅を後にした……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 首都高速道路から横浜横須賀道路に乗り継ぎ、横須賀方面に向かう。事務所にも調書の控えが有るから、自宅には行かない。

 結衣ちゃん成分が不足気味なんだから、早く帰りたいんだけど。途中横須賀インターで小休止。

 

 トイレ休憩と……「「オヤツを食べます」」「「それはオヤツとは言いません」」

 

 インターのレストランの一角に陣取り、朝食の不足分を補給する。早く安く多くがモットーだけ有り、チープな美味しさが溢れている。

 

「猿島ワカメうどん・三崎鮪カツ定食・タダのカレー、これがオヤツなら今朝食べた物は何ですか?」

 

 カレーをパクパク食べる僕と桜岡さんを見て、呆れた様に聞いてくる。大分表情が出て来たね。

 

「ん?無表情って言ってたけど、ちゃんと呆れた表情が顔に出てるよ。僕等の霊能力は燃費が悪いんだよ」

 

「嘘!何もしてない桜岡さんが沢山食べる理由が無い」

 

 カレーを平らげ猿島ワカメうどんに挑戦する。シマッタ、時間の経ったワカメが汁を吸って絶賛増殖中だ!山盛りのワカメから切り崩していく。

 

「それは女体の神秘だ。小笠原さんこそ、寒いのにソフトクリームで良いの?」

 

 因みに小笠原さんがソフトクリーム。高野さんはたこ焼きとアイスティーだ。彼女は右手に怪我を負ってるから片手で食べやすい物を選んだ。

 

「甘いものは好き。ケーキよりカロリーが低いから、アイスは好き」

 

 目を逸らせて下を向いてボソボソと喋るが、目元がホンノリ赤くなってるのを見逃さなかった。

 

「今度は照れた感じが出てる。少しずつ表情が現れてるから大丈夫だね」

 

「ばか!」

 

 素直クールからクーデレか?まぁオッサンにデレはしないよな。三崎鮪カツ定食は鮪の醤油漬けの赤身をフライにした物だ。

 それが3枚にポテトサラダとキャベツの千切り。何故か紅ショウガが乗ったご飯と味噌汁。ご飯は勿論、大盛りだ!

 

「榎本さん、罰として1枚貰いますわ」

 

「なっ?何が罰だ!さては桜岡さん、僕が500万円独り占めにしたの恨んでるな?」

 

 桜岡さんの箸使いは高速だ。簡単に僕の対空防御をかい潜り鮪カツを奪っていく。

 

「違います。デレデレしやがって、この野郎です!」

 

 畜生、2枚目の鮪カツまで奪いやがって!これじゃポテトサラダ定食だぞ。最後に残った鮪カツを口に放り込む。

 後は虚しいポテトサラダと紅ショウガだけ定食だ。

 

「覚えていろよ、桜岡霞。食い物の恨みは忘れない」

 

 ポテトサラダでご飯をかき込み、オヤツを終了する。小笠原さんと高野さんは恥ずかしくなったのか、テーブルを移っていた。

 大分表情が豊かになって良かったね?でもね、着物少女と包帯だらけ女性も立派に目立ってますから!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 横須賀市の中央部、京浜急行電鉄横須賀中央駅近くの僕の事務所に到着した。実に5日振りに事務所に来た為に、留守番電話やメールのチェックを手早く行う。

 女性陣は事務所内を家捜し中だ……

 

「防犯カメラに清めの塩とお札を使った結界ね。玄関ドアの鍵は3箇所も有るし窓も2重ロック。

あっ窓枠にも結界を仕込んでるんだ。榎本さんて防御型じゃないのに、結界が凄いわ」

 

 結界は胡蝶が未だ「箱」入り娘だった頃に、他の連中にバレない様にする為に頑張って学んだんだ。

 

「高野さんは西洋系の結界を得意としてるよね。小原さんの屋敷には、水晶を使った結界が張ってあったし。アレって素材が高価な分、効き目も凄いよね」

 

 重要そうなメールのみ、開いて確認する。特に興信所の両所長からも報告は無しか。

 

「そうなんですよ。小原さんも自宅の結界で必要っていっても渋るんですよ。

やはり海外製より国内産の方が私には馴染むのに。榎本さんもお札や清めの塩とか出費が大変では?」

 

 同じ地球から産出されるのに国によって効果が違うのか、水晶って?

 

「ん?お札も清めの塩も自作。ちゃんと僧籍も持ってるから自分の祭壇で清めてるから……僧階は12級権小僧都」

 

「「ええ?榎本さんって本物のお坊様なの?」」

 

 幾らムキムキだからって、そんなに驚く事か?

 

「在家僧侶だけどね。実家の寺はダムの底、肉親は既に居ないから継ぐ寺も無いんだ」

 

 メールのチェックを終えてパソコンを閉じる。FAXは入って無かったし留守番電話も緊急じゃない。

 

「さて、戻ろうか?桜岡さん、調書持ったかい?」

 

 何時の間にか、僕の事務所なのに桜岡さんの机が有るんだ。

 

「ええ、紙ベースと念の為にPDFに落としたディスクも用意したわ」

 

 パソコンからディスクを取り出し、ケースに入れていた。何となくメールで送れば良いかなって思ったが、彼女達を送って行かなければならないから……

 やはり手渡しの方が有り難みが有るだろう。

 

「榎本さん、天涯孤独?」

 

「そうだよ。大学生の時に両親と祖父を亡くしてね。それ以来独りだけど、気にしないで良いよ」

 

 皆の辛そうな顔を見ると何とも言えない気持ちになる。僕の生涯の目的、肉親の魂は解放出来た。だから気にしなくて良いんだ。

 

「さて、戻ろうか!話をつけて今日の夕方には家に帰りたいんだ」

 

 結衣ちゃん成分を補給したいんだよ!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 何故か助手席に誰が乗るかで争っていた。何でも聞きたい事が有るらしい。熾烈なじゃんけん大会を行い小笠原さんが勝ち抜けしたみたいだ。

 別に狭い車内だから、何処に乗っても話は出来るのにね。横須賀中央駅前通りを抜けて国道に合流、汐入のダイエーを通過して横須賀インターから高速に乗る。

 

 暫くは70キロで巡航だ……

 

「で?じゃんけん大会までして聞きたい事って何だい?」

 

 途中で買ってあげた、焦がし砂糖入りカルピスを弄ぶ彼女に聞く。それ、冷めると不味いんだよ。

 

「小笠原除霊術は元々、霊媒師の家系。でも今の世は霊媒の需要は少ない。除霊もしないと駄目だ。だから色々調べた。

その中で堅実な仕事をする榎本さんを知った。何人か教えて貰いたい候補は居る。でも偶然ここで一緒になれて昨夜の除霊の運び方をみて思った。

霊能力だけでなく色々な方法で除霊する方法なら、私達にも出来るかなって?貴男から仕事の手順や方法を教えて欲しいって。

確かに段取りも堅実だったし一回だけの除霊でも学ぶ事は多かった。希望を持てたのに……あんな強力な隠し技を持ってるなんて真似出来ない」

 

 霊媒師?イタコさんみたいに他人の霊を自分に憑依させる人達だっけ?

 確かに悪霊とかと戦うには不向きな能力だな。霊力は有るんだから、浄霊は出来なくても除霊は出来るか。

 でも一から始めるのは大変だ。誰かに師事するとか……

 

「もしかして僕に除霊手順とかを教わりたいの?」コクンと頷く。

 

「色んな人達を調べたけど、堅実で実績と信用は榎本さんが一番。後の人達は、高い除霊料金とか悪い話も多い。

最初は基本に忠実で堅実な方法を学んだ方が良い。だから見習いで雇って欲しい」

 

 見習い?雇う?僕には秘密が多いから人を雇うのは無理だ。

 

「うーん、雇うのは無理」

 

「「「何で即答なの?」」」

 

アレ?女性陣から総突っ込みが来たけど何故?

 

「だって小笠原さんは未成年だろ?見習いと言えども除霊手順を学びたいなら夜も一緒に行動するんだよ?」

 

 建て前上は無理だよ。

 

「榎本さんが私に欲情するから?確かに人気の無い場所に男女二人、間違いが起こる可能性は高い。私も操を捧げる気は無い」

 

「榎本さん?私の時は全然大丈夫だったのに何故、小笠原さんだと夜が駄目なんです?」

 

「うわぁ!榎本さんってロリコンなんだ」

 

 酷い言われようだが、高野さんは真実を突いてるなぁ……

 

「君達は労働基準法を知ってる。未成年の雇用には親の承諾が居るし、夜間に就労させるのは大変なんだ。

工場や事務所での夜間勤務ならまだしもフィールドワークなんか許可されないよ」

 

「まさかの法律の壁」

 

「もっ勿論、私は榎本さんを信じてました。ええ、信じてましたわ」

 

「榎本さん、固いわね。でも霊能力者が労働基準法って私達は法の枠の外って感じなのに」

 

 個人事務所を構えてる時点で、最寄りの労働基準監督署に書類出してるんだよ。違法行為は出来ないし、したく無いの!

 

「兎に角、雇用は無理だよ。ウチも余裕が有る訳でもないし、基本は夜がメインの仕事だ。誰かに師事するのは確かに早く確実だけどね」

 

「むぅ、正論だけに反撃出来ない。泣き落としや色仕掛けも通用しない気がするし。八方塞がり……」

 

 かなり落ち込み振りを表現してるな。もう少し口調が女の子らしくなれば平気かな?

 

「でも小笠原さん、八王子の除霊どうするの?やるなら僕らは小原氏と契約を結ぶけど、昨日みたいに自宅警備じゃないから大変だよ」

 

「大変?」

 

「昨日は年齢に触れなかったけど何か有れば未成年就労で大変だったよ。僕もウッカリしてたけど。

今回のは長期になるし、学生さんだから放課後の昼間のみとか条件付くかも。てか学校から八王子まで通えるの?」

 

「あぅ!」

 

 駄目なんだな……

 

 

第77話

 

 小笠原さんが家業の霊媒師を除霊中心へとシフトチェンジする為に、除霊方法を学びたいと言ってきた。

 しかし、僕には胡蝶と言う切り札と秘密が有る。左腕に全裸幼女が居ますとか大騒ぎだ。下手したら変態幼女マスターとか……

 

 幼女マスターか、良い響きだな。

 

 同好の紳士達には自慢出来るが、社会的には死だ!築き上げた信用・信頼・社会的名声は最安値まで落ち込む、所謂ストップ安だ。

 他人からはクダラナイ、本人にとっては深刻な事を考えていると料金所が見えてきた。横浜横須賀道路から首都高速道路に乗り継ぐ。

 小笠原さんは何かブツブツと言っているが、僕が力になるのは難しいだろう。昼間の調査手順位なら教えても良いけど、そこから先が大切なんだよね。

 実際に除霊する手順が重要なんだと思う。

 

 そもそも僕は正式な修行により愛染明王の力を身に付けた僧侶なんだ。

 

 基本的に霊媒師は自身の力で霊と向き合い、僕は愛染明王の力を借りている。次いでに胡蝶と言う反則技が有るから、参考にはならない。

 小笠原さんの除霊手段とは何だろう?

 

「小笠原さんの除霊手段って何?」

 

 余りにも突っ跳ねるのも大人気ないのでアドバイス出来る事はしよう。

 

「除霊手段?私はこれ」

 

 手に取った物をチラリと見れば、古い鈴に組紐を結わいた物。青銅製で古そうだ。彼女は鈴と言っているが、お寺とかの軒先に吊るしてある鰐口(わにぐち)に似ている。

 鐘鼓をふたつ合わせた形状で鈴を扁平にしたような形状の仏具だ。だが彼女が鈴と言えば鈴なんだ。

 

「霊具だね……多分霊力を纏わせて振り回すのかな?鈴の音にも威力が有りそうだね」

 

 金属はそれ自体に魔を祓う力が有る。鈴や鐘は音色に霊力を乗せやすいそうだ。組紐が結わいて有るのは、振り回してぶつけるのだろう。

 お札の様に接近せず、清めの塩みたいに消費も無い。

 

「そう。振り回して直接相手にぶつける。又は鈴を鳴らして広範囲に霊力を広げる」

 

 少し自慢気な、誇らしそうな顔だ。霊具は代々伝わるとか母から貰ったとか自慢の品なんだろう。

 

「中々の逸品だね。お札や清めの塩は使えるかい?結界とか張れる?」

 

 他に除霊方法は有るのかな?

 

「お札は使えない。清めの塩は取り寄せた物を使うくらい。結界も張れない」

 

 うーん、霊媒師って口寄せだから方向性が違うよね。特化型だから汎用性が乏しいのは、応用が必要な現場では厳しいか?

 

「清めの塩って高いじゃないですか?あれ、坊主丸儲けじゃないですか?」

 

 高野さんも清めの塩は使うんだ。西洋系だから聖水とかかと思ったよ。

 

「そうですわ!榎本さんはキロ単位で使いますけど、本来は自作出来ないと散財しますわ」

 

 いや、僧侶として護摩焚き出来なきゃ問題が有りますよね?

 

「キロ単位!何て贅沢な使い方」

 

 女性陣からクレーム?僕はボッてないぞ!

 

「祭壇に祀り護摩焚きすれば清めの塩は出来る。別に10キロとか一緒に作っても効果は有る。威力が弱ければ量で補えば良いからね」

 

 それなりに霊力も消費するし疲労も有るし大量に作れる訳でも無いし。

 

「私は榎本さんから1キロを10000円で譲って貰ってますの、おほほほっ!」

 

 おほほほって、何で自慢気なんだ?

 

「キロ10000円!ダンピングだわ、価格破壊だわ」

 

「私は100グラムで同じ位で買ってる」

 

 うーむ、お札や清めの塩とかの霊具を販売すれば儲かるかな?でも自分で使う分も半端ないから彼女達に廻すのも大変だし話題を変えよう。

 

「小笠原さんは何処の出身なんだい?亀宮さんは東京だし、メリッサ様は分からないな。そもそも、どんな基準で集められた人達なんだろ?」

 

 小原氏的に女性且つ美人だと思うんだけど……

 

「若い女性の霊能力者を集めたのよ。私の知っていたのが、メリッサってシスター達よ」

 

 あの肉感的なシスター達はイケナイ魅力に溢れてるんだろうな。僕は何にも感じないが、好きな人には堪らないだろう。

 

「一神教ってさ、エクソシストって司祭以上だろ?最近はエクソシストを養成する機関も出来たらしいけど……彼女達は正式なエクソシストでは無いでしょ?」

 

 お金にも五月蠅そうだし聖職者って感じは無い。コスプレ霊能力者みたいなんだが……

 

「でも聖書と十字架、聖水を使って除霊するわよ」

 

 映画のエクソシストの影響が大きくて、シスターが除霊って思い浮かばないや……

 

「んー、ならば正式に学んだのかな?余り一緒に仕事はしたくないタイプだな」

 

 お金に五月蝿い連中と仕事をすると、抜け駆けやら分け前とかで揉めるんだ。

 

「それは宗派が違うから?」

 

「いや、何となく問題が沢山発生しそうだから。宗教の違いは関係無いよ」

 

 宗教と政治、それと野球の話はしちゃ駄目だ。絶対纏まらないから……さて首都高を降りたので、あと20分位で到着かな。途中寄り道したが、お昼前には戻れそうだ。

 

「榎本さん、小笠原さんにお仕事を教えられないのかしら?昼間の調査手順だって私も教えられる事が多かったし……」

 

 基本的に桜岡さんは善人だから、困ってる小笠原さんを見捨てられないのかな?僕だって見捨てる訳じゃないけと……

 

「私は宮城県の仙台に住んでる。高校生だから中々休みは取れない。でも八王子の除霊には携わりたい」

 

 宮城県だって?仙台からワザワザ呼んだの?

 

「でも一旦は解散じゃないかな?小原さんも、この調書の裏を取る迄は動かないだろうし……」

 

 最低でも2〜3日は掛かると思う。

 

「でも本当に神泉会でしたっけ?が、また使役霊を寄越したら?」

 

 高野さんは専属で護りを任されているから気になるよね。

 

「亀宮さんが居れば大抵の連中は撃退出来る。僕は遠慮しないと駄目だよね。メリッサ様の目が怖かったし、独り占めは遠慮するよ……」

 

 首都高を降りて一般道を走る。平日の昼間だし、比較的道は空いている。これなら12時前には着くだろう。

 15分程走り港区高輪に到着。暫く高級住宅街を走り小原邸の前に停車。直ぐにリモコンで門が開いた。防犯カメラで確認してるのだろう……

 

「はい、到着。忘れ物の無いようにね」

 

 車を駐車スペースに停めてエンジンを切る。また運転して帰らないと駄目なんだよな。桜岡さんに変わってもらうにも保険が対象外だし……

 ドアを空けて降りると、助手席から廻って来た小笠原さんが左腕を握ってきた。

 

「ちょ、何?あっ数珠を引っ張っちゃ駄目だって!」

 

 腕を持ち上げると、元々華奢な彼女がぶら下がった。

 

「榎本さん、数珠を外して。静まれ俺の左腕!をやって欲しい」

 

 ブラブラぶら下がりながら、トンでもない事をお願いしてきたぞ!

 

「そんな僕の中の中学二年生を解放させるかー!」

 

 彼女を丁寧に降ろしてから、メッて注意する。

 

「そんな恥ずかしい事はしないよ。君がネコミミ和風メイド尻尾付きをするなら考えるけどね。さぁ小原さんに報告だ」

 

 結衣ちゃんも大人しいけど、方向性が全く違うタイプだ。正直、扱い辛い。でも結衣ちゃんには、ネコミミ和風メイド尻尾付きをやって欲しい。

 自前のミミと尻尾は有るけど、生々しいんだよな。フカフカのモフモフでは有るけど。

 先を歩く僕の後ろから、女性陣の罵詈雑言が聞こえるが無視だ。別に実現しないから問題無いだろうし……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 最初に案内された応接室に全員が集まっている。調書をペラペラと捲りながら読む小原氏。

 執事さんは斜め後ろに立ち、読んでいるみたいだ。本当に読めてるのか?

 

「この調書が本当なら、確かに手口は一緒。私は奴らの関東進出の取っ掛かりとして選ばれた訳か……」

 

 苦虫を噛み潰した様な顔だな。他人に利用されようとしてる訳だから、苦々しくもあるよね。

 

「そうですね……でも法的に訴えるには証拠が無い。まさか使役霊を差し向けられて困ってるとは言えない。完全に受けに廻ってますね」

 

 未だに除霊しますとか壷や印鑑を買いましょうとかの接触が無いから、詐欺で立件とかの対応も出来ない。勿論、あのエム女が僕の所為とは言えない。

 

「何か対応は無いのか?」

 

 対応と言っても、桜岡さんのお母さんはどうやって神泉会を潰したんだ?視線を向けても素知らぬ振りだ。つまり今回は対応しないよって事か?

 

「先ずは利用されている八王子の廃ホテルの除霊をしてはどうですか?除霊すれば、使役霊も居なくなるし呪われていると言い掛かりも付け辛い」

 

 丹波の尾黒狐は胡蝶が喰った。桜岡さんに目を付けていた悪霊も退治した。テレビ局の企画もボツだ。

 ならば小原氏に関わる理由は薄い。でも廃ホテルには丹波の尾黒狐が押さえていた連中が活発になった。これは自分の責任でも有るし何とかしたい。

 

「八王子のホテル。除霊に幾ら掛かるか?何日掛かるかが問題だ」

 

 何故か僕を見詰める小原氏。概算出せってか?

 

「皆さんは廃墟の除霊は経験有りますか?規模は大きいです。客室120、敷地も広い。

勿論、放置してる稲荷神社については別途で。伏見稲荷で対処出来なければ、敵は強大だ」

 

 伏見稲荷で対応出来ないって事は、祀ってある狐が祟り神になったって事だ。普通料金じゃ採算が合わないからね。

 

「有りますわ。亀ちゃんを連れて一通り歩けば完了ですから」

 

「大変だけど、一部屋ずつ清めて行けば平気です」

 

 亀宮さんとメリッサ様は経験が有るのか。てか、メリッサ様の堅実な除霊方法にビックリだ!

 

「私は廃屋の除霊は経験したけど大きい建物は無い」

 

「私は有るわよ」

 

 小笠原さんは、それなりに除霊経験が有るのか。耶麻山のヤンキー巫女は百戦錬磨なんだろう。

 

「僕も元々は不動産を専門にしてますし、まぁ全員が関わらなくても除霊は問題無いと思います。問題なのは、調書の裏を取ってもらったら神泉会の対策ですね」

 

 このメンバーなら丹波の尾黒狐が使役する為に集めた周辺の浮遊霊や地縛霊なら楽勝だろう。

 

「それは本当なら此方で対処する。では明日から八王子のホテルの方は対応して欲しい。それと私の護衛については……榎本さんにお願いしたい」

 

 何言ってんだ?嫌だよ僕は、早く帰って結衣ちゃん成分を補給するんだよ。

 

「僕ですか?いや高野さんも居るし、防御なら亀宮さんが適任ですよ」

 

 建て前で説得を試みるが、駄目なら正直に断ろう。

 

「すまないが榎本さんの事を調べさせて貰った。安定した経験と実績、依頼人の評価も高い。

何より録画で見た昨夜の件は見事だ。高野君の結界と合わせれば、私も安心だ」

 

 実際に目にした実力を信じたのか?でも若く綺麗な女性を侍らせたかったんだろ?

 

「僕は専属契約はしません。それに色々用事も有りますから、今日は自宅に帰りたいのです」

 

 オッサンと顔を突き合わせての護衛なんてお断りだ!

 

「そこを何とかお願いします。私も自分の安全が大切だ。報酬は弾みます」

 

「良いじゃない。やりなさい榎本さん」

 

「おっ義母様!」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 上手い話の誘導だわ。私達の問題で有った事を全て相手に押し付けてる。放置した稲荷神社は勧請した個人なり企業しか御魂抜きを依頼出来ない。

 廃墟ホテルの除霊については、彼女達を巻き込んだが構わない。霞にガンくれた怨霊は祓ったから、あのホテルに関わる必要は薄い。

 何より神泉会の連中と小原さんの敵対を明確にし始めている。もう一息で奴らと敵対するだろう。

 個人で心霊団体に刃向かうのは大変だが、小原さんを巻き込めば心強い。ここは彼の要求を呑むべきよ。

 

「霞……」

 

 不信顔の霞の耳元で囁く。

 

「今夜は私達だけで帰って結衣ちゃんと、これからの事を話しましょう。彼には悪いけど、小原さんが神泉会の対応や廃墟ホテルの除霊をする為にも一緒にいて信用を得ないと駄目でしょ」

 

 目を見開いて私を見るが、アレは納得した顔よ。

 

「小原さん、私と霞は一旦帰るけど榎本さんには残ってもらうから。良く彼と今後の事を詰めて下さい」

 

「榎本さん、私達電車で帰りますから。結衣ちゃんの事は任せて頑張って下さい」

 

 桜岡母娘が勝手に話を進めて、帰って行った。

 

「榎本さん、さぁ昼食にしましょう。高野から聞いてますよ。大変な健啖家だそうで。沢山用意してますよ。さぁさぁ皆さんも食堂へ行きましょう」

 

「榎本さん、行こう」

 

 小笠原さんに袖を引かれて食堂に向かう。彼女に引かれて食堂に行く間中、ドナドナが僕の頭の中で鳴り響いていた……

 


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