榎本心霊調査事務所(修正版)   作:Amber bird

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第69話から第71話

第69話

 

 長年の悲願だった爺さんと両親の魂の解放が出来た。僕ら榎本一族の悲劇は「箱」を祀らなかったから。だから祀られる本人に罰として、直系の1人を残して皆殺しにされた。

 思い出すまで何度も何度も……受け継がれなければ思い出す事は無理。記録が無ければ調べる事も無理。

 今回は偶然にも同じ境遇の丹波の尾黒狐が居たから分かったんだ。

 

 700年も掛けて漸くだ。

 

 何という理不尽で傲慢な理由なんだろう……家族を救えた安堵感と、悲劇の理由に対する憤りで気持ちがグチャグチャだ。

 木にもたれ掛かり小雨を浴びながら、気持ちを落ち着かせる努力をする。満身創痍の体は冷えて寒気がし始めた。でも半分ヤケになり動きたくない。

 

「はぁ……長年の悲願を達成したのに、心の底から喜べないのは何故だ?」

 

 それは理由に納得が出来ないから……動かすのが億劫だが左腕を持ち上げて腕時計を見る。午前2時、草木も眠る丑三つ時か……さて帰るか。

 怠い体に鞭を打ち起き上がる。清めの塩の結界も足で掃って痕跡を無くす。合羽の上着を拾い序でに小原氏の身代わり札を拾うが、手に取るとパラリと砕けてしまった。

 身代わり札が、此処まで痛むなんて小原氏に向かった呪いと言うか……

 

「女好きならエム女も受け入れてくれるかな?見た目はアレだが、生きていた時は美人だったと思うよ」

 

 先程まで敵対していた女幽霊を思い浮かべる。男に捨てられて、何処かに閉じ込められて餓死した様な姿の女。痛みに対して抵抗力が有りそうな感じだったが?

 まぁ僕の趣味じゃないけどさ……震える膝に力を入れて車まで歩道を歩いて行く。雨は止んだみたいだ。

 知らない内に雨雲が消え去り、月の光が僕を照らしている。振り向けば、月明かりに照らされた廃ホテル……

 

 あれ?二階の窓に人影が見えますよ。

 

 それに正面玄関のガラス製の両扉に貼り付いている沢山の手も見える。風邪の悪寒と違う、ゾクゾクとした寒気に襲われた。

 

「ヤバいな。稲荷神が居なくなれば、抑えていたヤツらは自由……さっきは一体ずつ出て来たけど、今度は纏めて来ますってか?」

 

 気のせいか女性の啜り泣き声や、赤ん坊の鳴き声迄聞こえてきた。

 

「はははっ、心霊現象が盛り沢山だな」

 

 逃げよう、てか逃げる!今襲われたら無抵抗でやられかねん。

 ヨタヨタと走りながら車まで辿り着くと、結界のお札を確認。特に問題なさそうなので扉のロックを外して残していたペットボトルを取り出し、清めた塩を車に撒き散らす。

 残りを廃ホテル側に撒いてから運転席に乗り込みエンジンをかける。力強い音と共に唸るエンジン!大丈夫、直ぐにかかった。

 そのまま麓までの道を慎重に走って行く。ルームミラーで後方を確認するも、後部座席に人影やら後方に追跡する人影やらも見えなかった。

 

「ヘックション!ヤバいな風邪でもひいたかな?」

 

 暖房を強にして暖をとるが、どうにも震えが止まらない。麓迄下りたら車を止めて貼り付けたおいたジップロックに入れたお札を剥がす。

 清めの塩で念入りに車及び周辺を清めてから濡れた服を着替える。流石にパンツは脱がないが上着は全て着替えた。脱いだ服にも清めの塩を撒いてからバッグに詰めた。

 

 これで一応は安心だ。

 

 全ての処理を終えて時計を見れば2時40分。ホテルに帰れば3時間位は寝れるだろう……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 部屋に戻り熱いシャワーを浴びる。冷え切った体には熱い位が丁度良い。頭からシャワーを浴びながら、脇腹を触ってみるが痛みは無い。

 弾き飛ばされた時は肋骨の何本かは折れたと思ったが……泥の入った右目も大丈夫だ。

 あの「箱」の、いや胡蝶と名乗った幼女の力なのか?信じられない治癒力だ。

 ガチガチに固まっていた手足を揉み解して、やっと人心地がついた。風邪を拗らせない様に体を良く拭いてドライヤーで髪を乾かす。

 寝酒に冷蔵庫に入っていたウィスキーの小瓶を一気に煽るとベッドにダイブする。目覚ましは6時半にセットした。

 スベスベしたシーツに頬摺りをすると、直ぐに眠気が襲ってきた。念願の肉親の魂を解放し、危険な廃ホテルの稲荷神を祓ったんだ。

 

 何だかんだ言いながらも上手く行ってるよね……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 布団で泥の様に寝こける正明を見詰める。700年振りに漸く本来の勤めを思い出しおって。憎らしくも愛おしい、我の唯一の下僕。

 素足で頬を押してみるが、何の反応も無い。疲れているのだろう……

 遠い昔、我と盟約を交わした男を思い出す。強い力を持っていた術者だった。正明は、アレには程遠い力しかない。

 何代も前だからな。七代遡れば他人と変わらないとも言うが……

 

 しかし盟約に捕らわれた我は、かの血を受け継ぐ者にしか興味が湧かない。グリグリと頬を踏みにじるが見事な迄に無反応だな。

 全く、早く沢山の女に子を孕ませぬか!我は盟約によりお前達一族の直系にしか興味も無いし働きかけられぬ。お前は我の為に子孫を増やさねばならぬのだ。

 

「う……ううん……」

 

 苦しそうに寝返りを始めおって。額に足を当てれば、少し熱が有るか?

 

「ふむ、我が下僕は健康管理がなってないな」

 

 高熱は子種を損なう可能性が有ると聞く。熱を冷ます為に裸で下僕に抱き付く。ひんやりとした我が気持ち良いのか、直ぐに抱き付いてきおって。

 踏んだ時は無反応だが、抱き付くと反応するとはな。

 

「正明よ……我を崇め我の力を欲しろ。これからは我と汝は一心同体。我が滅ぶ時、汝も滅ぶ。約束通り、肉親の魂は解放しようぞ……」

 

 盟約の証に正明の左手首に吸いつく。赤黒い蝶を模した痣。これが盟約の証だぞ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 風邪の時の特有の怠さと体の芯から湧き出る熱の気持ち悪さ。全身に汗をかいた時のベタベタした気持ち悪さ。だけど何か、小さくて冷たい何かを抱いている。

 気持ち良いなにか……嗚呼、夢だな。

 良い夢かと思えば、何時の間にか周囲が真っ暗になっている。何時もの悪夢の始まりだ。

 でも、でも爺さんと両親の魂は解放したんだ。胡蝶と約束したんだ。だからもう、この暗闇の悪夢は見なくても……

 

「正明……正明。有難う、正明。やっと解放された……」

 

 頭の中に響く懐かしい爺さんの声。最近は恨み辛みと苦しみしか話し掛けられなかったのに。

 

「爺さん!爺さん、何処だよ」

 

 暗闇の中で首を左右に振って爺さんを探す。本当に首を振ってるか分からない。視界も真っ暗なままだし……

 

「コッチだ、コッチだ正明」

 

 目の前に爺さん、隣には母さんを支える父さんが立っている。前は窶れて幽鬼の様だったが、今は死に装束に身を包んでいる。

 

「爺さん、母さん、父さん。無事だったか?」

 

 駆け寄って抱き締めたいが体が動かない。そもそも、この暗闇の世界では僕に体が有るのか?

 

「お前のお陰だ。辛い責め苦から解放されたよ。母さんは心が少し壊れてしまったがな……」

 

「母さんが?母さん、母さん平気か?」

 

 父さんに支えられた母さんは、無表情で僕を見ていた。一番最初に魂を捕らわれ、僕らみたいに鍛えてなかった母さんには辛い責め苦だったのか……

 

「ごめんよ、母さん。もっと早く助ける事が出来れば……」

 

 涙が溢れる感覚は有る。でも、それを拭おうとしても手の感覚が無い。

 

「良いんだ。これで、これで我々の魂は解放された。有難う、正明」

 

 爺さんの皺だらけの温かい手でワシワシと頭を撫でられる感触を最後に、段々と意識が遠くなっていった……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 目覚まし時計の電子音が鳴り響く。もう朝か……

 大きな欠伸をしながら両手で万歳をする。体がコキコキと鳴るが、風邪の症状は無い。至って爽やかな目覚めだ。

 洗面所に行き鏡で顔を見るが、寝癖でボサボサ髭もジョリジョリの何時もの顔。髭を剃って顔を洗い手櫛で髪を整える。

 途中、左手首に変な痣を見つけた。

 

「はて?こんな痣なんて有ったかな?形も変だし……蝶か?」

 

 今は時間が無いし痣くらい大した問題でも無いだろう?手早くトイレを済ませれば身支度は整った。

 

「ふむ、ハンサムでは無いがダンディーでも無い。普通のオッサンだな……」

 

 自分の容姿に客観的に判断が下せる位に落ち着いたなら大丈夫だ。昨日と態度が違うと桜岡さんが怪しむかも知れないし……

 待ち合わせの時間の7時キッカリに部屋の扉をノックする音がした。

 

「榎本さん、お早う御座いますわ。朝食に行きましょう」

 

 扉を開ければ、朝からキッチリと化粧をした彼女が居た。

 

「良く眠れましたか?僕は中々寝付けなくて、最後に時計を見たのが4時過ぎでしたよ」

 

 はははっと笑いながら寝不足を誤魔化す。

 

「あら?寝付けないのなら寝酒くらいはお付き合いしましたのに」

 

 エレベーターホールに行き呼び出しスイッチを押す。バイキング会場は最上階だ。

 

「最後はウィスキーの小瓶を一気飲みしました。流石に眠気が襲ってきましたよ。やはり洋酒は度数がキツいから……」

 

 バイキング会場に到着し、受付孃に朝食券を渡す。

 

「席は自由ですので、お好きな場所で食事をお楽しみ下さい」そう案内された。

 

 勿論、料理の近い四人掛けテーブルを確保。早速トレイを持ち、料理を見回す。残念だが昨日と殆ど変わらないが、今朝は茶粥と小豆粥が有った。

 寝不足で胃腸の調子はイマイチなので丁度良いかな?それぞれ2杯ずつ貰い、適当なオカズを取る。テーブルに戻ると山盛りの料理が!

 それを前に食事に手を付けずに待っている桜岡さん。

 

「お待たせ、じゃ頂きます!」

 

「今日の行動はどうしましょう?」

 

 ん?今日か……小原愛子の墓は見付けた。稲荷神社の件も昨夜で解決だ。何たって丹波の尾黒狐は胡蝶の腹の中だし……

 しかし丹波の尾黒狐が居なくなった為に、アレに抑え付けられていた連中が活発化しだした。昨夜も逃げ出す時に見た霊達は……

 二階の窓際に佇む女性、ホール入口のガラス扉に貼り付いていた掌。僅かに聞こえた女性か赤ん坊の泣き声。

 小原氏の身代わり札を押し付けたエム女の霊も居るよな。全然事前調査と違う内容だ……

 

「どうしましたか?急に黙り込んで……」

 

「いや、今後の方針がイマイチ固まらなくて。愛子さんの墓は見付られた。

供養と共に娘さんの身代わり札を供えようと思う。後……もう一度鷺沼を見に行ってみようか?」

 

 一応は僕らも霊能者だ。丹波の尾黒狐が居なくなった周辺の霊の動き位は探れるだろう。

 愛子さんのさ迷う霊は鷺沼に現れるとオヤジさんは言った。つまりお墓に居ない可能性も有るし、あの祠も気になる。

 遊女お鷺の悲劇が伝わる鷺沼なのに、姫とかの文字が彫って有った。もしかしたら全く見当違いかも知れないし……

 

「私達だけで危険じゃ有りませんか?神泉会の人達とも昨日有ってしまいましたし……」

 

「確かにね。でも愛子さんの目撃情報は鷺沼だよ。最悪はお墓と同じ供養を鷺沼で行わないと駄目かも知れないし。

前回の調査で、あの場所で霊の気配は無かった。でも一回行っただけじゃ分からない場合も有るし」

 

 ホラーハウスでの怪奇現象は、初めての場合は様子見で起こらない事が多い。本来なら彼らの活動が活発な夜に行くのが良いけれど、危険だし。

 

「分かりましたわ。先ずは愛子さんの霊を鎮める事から始めましょう……」

 

 そう神妙な顔で話す彼女のトレイは空っぽだった。僕は未だ2杯目の茶粥を食べ終わっただけなのに……

 いそいそとお代わりに行く彼女を見ながら、会話の途中で食べてたっけ?と、有り得ない早食いについて悩んでいた。

 

 

 

第70話

 

 朝食を終えて桜岡さんとは30分後にロビーで待ち合わせの約束をした。部屋に戻り身支度を整える。

 思った以上に清めの塩やお札を使ってしまった。今日は除霊作業は難しい……

 

「アレ?「箱」が無いぞ!おい、胡蝶何処に行ったんだ?」

 

 テーブルの上やベッドの下やシーツも捲って見るが、それらしい物は見付からない。昨夜はちゃんとサイドテーブルに置いた筈だ。

 その辺をウロウロされたら大騒ぎだぞ!

 

「おい、胡蝶!何処だ?」

 

 突然ベッドが盛り上がり、バサリとシーツを跳ね除けた全裸幼女の胡蝶。ベッドの上で胡座をかいて、万歳しながら欠伸をしてやがる。

 

「ん……体調はどうだ?我を一晩中抱き枕にするとは、困った下僕だな」

 

 朝日の中でニヤリと笑う胡蝶。何故だか禍々しさが少し減っている様な気がする?

 

「おっ、おまっお前なぁ?何だよ抱き枕って……もしかして風邪をひいてないのは胡蝶が?」

 

 僅かに頷く。

 

「高熱は種無しになるらしいからな。早く子を増やせ。我の下僕を増やすんだ」

 

 そのまま横になり投げ遣りな感じで命令する。こら、シーツに潜るな。

 

「これから出掛けるぞ!「箱」に戻れよ」

 

 ホテルの部屋に残して行くのは論外だ!多少の危険は承知してでも持ち歩く方が気分的に安心だから。でもさっきシーツを捲った時には「箱」は無かったぞ。

 

「ああ、あの器か……もう必要無いぞ。そもそもアレは我を封じ込めていた器だ。我には無意味だったがな。正明、お前の手首を見ろ」

 

 手首だと?

 

「違う左手首だ。我との盟約の印が有るな。我は汝と共に……」

 

 そう言うとグニャリと形が崩れ、モノトーンとなった流動体が左手首に這って来た。蝶の痣の中に吸い込まれていく胡蝶……

 

「ちょ、おい!僕自身が「箱」の代わりだと?おい、待てよ!出て来いって胡蝶さん」

 

 左手首の蝶の痣を叩くが自分が痛いだけだ。

 

「ヤバッもう待ち合わせの時間だ」

 

 バタバタと財布に携帯、小銭入れにハンカチ等をポケットに詰め込み上着を持って部屋を出る。胡蝶の言った「我と汝は共に」とは、僕の肉体が取り込まれたのか?

 一族の呪いを解いた代償は、器として胡蝶に使われるって事かよ?容積的にも腕の中にアレが収まるなんて無理だ。

 だが左手を握ったり開いたりするが異常は無い。全く次から次へと問題が多過ぎるだろ!

 

「実は僕の左腕は実は喰われて胡蝶の擬態って事はないよな?」

 

 昔、映画で見た「遊星からの物体○」とか漫画で読んだ「寄生○」を思い出しながら、自分のプライバシーが無くなった事を痛感した。だって一心同体って事は常に見られてるって事だ。

 露出狂じゃないんだからさ、全然嬉しくないぞ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ロビーで待ち合わせをした桜岡さんと車で廃ホテルへ向かう。勿論、廃ホテルに直接乗り込む訳でなく先ずは鷺沼。

 それから様子を見ながら廃ホテルの近く迄行く予定だ。昨晩の霊現象のオンパレードの後だから、今がどんな状態か確認したい。

 上手くすれば各個撃破が出来るかも知れないし……最大の障害たる丹波の尾黒狐は居ないから、少しだけ気が楽だ。

 愛子さんのお墓には、鷺沼の様子次第だ。身代わり札を試してみて反応が無ければ、お墓にお札を供えてみようと思う。

 

「榎本さん、鷺沼ですが前回は何も感じませんでしたわ。今回も同じではないでしょうか?危険ですが夜中に行った方が……」

 

 確かに霊の出現は夜!そんな風潮も有りますが、実際は24時間のべつまくなしに出ます。昼間だから安心とは限らないんだ。

 

「オヤジさんが言ってたよね。女の子が行くと愛子さんの霊が出ると……でも女の子って子供だよ。

夜に子供が行くとは考えられない。幾らキャンプ場とは言え、あの寂れ様だし。だから昼間の方が多かった筈。

今回は娘さんの身代わり札を用意した。これを使ってみようと思う」

 

 エム女に小原氏の身代わり札は効果が有った。だから娘さんの札を使えば、或いは愛子さんの霊が現れるかも知れない。

 でも本音は、昨夜の騒ぎの後の周りの様子を確認したいんだ。丹波の尾黒狐を胡蝶が食べた後に廃ホテルの怪奇現象は起こった。

 ならば鷺沼だって異変が有るかも知れない。彼女をそれらしい嘘で騙すのは気が引けるが、本当の事は言えない。

 しかも自分の左手首には霊獣をも喰らうバケモノが入ってます!とか話せば狂気の沙汰だ。

 そのまま心配されて精神病院に連行されるだろう……

 

 アレ?左手首にバケモノのってアレか?「鎮まれ俺の左腕!」とか僕の中の中学二年生が大暴れなアレか?なぁんて恥ずかしいんだ!思わず頭を掻き毟ってしまった。

 

「どっとうしました榎本さん。信号で停まるなり頭を抱え込んで?」

 

「いや、一寸……その、今更キャラの路線変更はどうかと思って」

 

 大人の知恵と思慮深さ、それと筋肉と科学技術で立ち向かう肉体派霊能者の僕が!全裸幼女使役霊を操る式神使いみたいな術者なんて笑えないぞ。

 いや全裸幼女の霊に使役される下僕みたいな術者?

 

「キャラですか?路線変更ってルートを変えてホテルに行くのですか?あっ、信号が青に変わりましたわ」

 

 胡蝶が現れる時の決め事をしておかないと駄目だ。左腕を掴み苦しみながら前に突き出し「いでよ、胡蝶!」とか寒すぎる。

 

 それとか勝手に出られて「キャーッ!全裸の幼女を連れてる変態が居ますわー」とか変態性欲者扱いで通報されるだろ?

 

 そもそも胡蝶の事がバレたら……いや、この業界にはトンでもない使役霊や霊獣を操る連中も居る。

 同世代には亀の神獣を纏わり憑かせてる女も居るし……自身の教団とかを立ち上げられそうだが、碌な事にならない自信が有る。

 胡蝶の由来が怨霊か邪神みたいだから、危険なカルト集団として排斥される危険性の方が高いだろ?などと悩んでいると先日来たばかりの鷺沼に着いた。

 一度来てるから迷わないしね……車をキャンプ場の駐車場に停めたら、お札と清めの塩での結界は忘れない。

 霊もそうだが神泉会の連中も心配だ。昨晩降った雨が草木の葉っぱの上に溜まり、午前中の日差しを浴びてキラキラ輝いている。

 岸部に立ち沼全体を見回してみるが、特に怪しい感じはしない。逆に爽やかでさえある。なので深呼吸をしてみた……

 

「すぅーはぁーすぅーはー!呪われた沼って感じはしないね。どっちかと言えば爽やかだ」

 

 水面は風による波紋が広がっている。覗き込めば透明度皆無の緑色だが光が反射して眩しい位だ。

 

「やはり夜に来ないと駄目かしら?昼と夜では見せる顔が違うのは人間と同じなのかしら……」

 

 何故か桜岡さんが難しい事を言ってるぞ。その元ネタは昼は淑女、夜は娼婦のように、か?

 

「先ずは前回同様、沼の周りを一周してみよう。何か感じる所が有れば調べてみれば良いよね」

 

 遊歩道は前回伐採したから、人が歩けるだけのスペースは出来ている。管理事務所は相変わらず鍵が閉まってるし、陸に上げられたボートにも変わりは無さそうだ。

 先ずは近くに行って鷺沼を覗き込む。岸から直ぐに30センチ位の水深が有り、徐々に深くなってるのだろう。日の光が差して辛うじて沼の底が見える。

 ヘドロと藻が漂ってるな。何となく座り込んで左手を水に浸けてみる……

 

「結構冷たいな……でも霊的な感じはしない。だが、この沼では人が亡くなっているんだよな」

 

 立ち上がって手を振り水気を飛ばす。隣で桜岡さんも同じ様に屈み込んで水に手を入れている。

 

「確かに冷たいわ。こんなに浅くて日の光が差しているのに……」

 

 確かに沼の水はアイスコーヒー位の冷たさだった。幾ら冬でも浅瀬の部分が、こんなに冷たいかな?

 

「風邪をひくよ。さぁ沼の周りの歩道を調べてみよう」

 

「そうですわね。では榎本さん、行きましょう」

 

 ナチュラルに僕の左腕に絡み付く桜岡さん。

 

「ちょ、歩道は狭いから並んでは無理……」

 

「誰も見てませんし、寒いから良いでは有りませんか……あら?何かしら、左腕に違和感が……」

 

 ヤバッ、流石は霊能者だ。胡蝶の事に気が付いたのか?

 

「なっ何だい違和感って?」

 

 僕の左腕をジッと見詰める彼女、ドキドキする僕。

 

「こう……霊力が漲(みなぎ)ってると言いますか……普段より強い力を感じますの。榎本さんは普段は右手で印を組んで祓いますよね?」

 

 確かに僕は愛染明王の印を組み真言を唱えてから右手に霊力をこめて祓う。良く僕を見ているな桜岡さんは……

 

「車の結界を張った残滓じゃないかな?両手を使ってお札を貼ったし……自分では分からないんだけどさ?」

 

 彼女から左腕を抜き取り、ブラブラと振ってみせる。本当は胡蝶の力が漏れているのか?これは漏れ出す力を封じる霊具が必要だな。

 結衣ちゃんの獣化を封じている数珠を僕も作って貰おうかな……

 

「兎に角、歩道を調べてみよう」そう言って先に歩き出す。

 

 彼女は不思議そうな顔をしていたが、改めて左腕にしがみついついた。違和感は感じても不信感は無さそうだ。

 

「ふふふっ、こうすれば暖かいですわ」

 

 何で本物のお嬢様が、こんなオッサンに懐いたんだか?ロリ道を貫く僕としては美人と腕を組んでも……いえ、街中では嫉妬に狂った野郎の目線は快感ですよ。

 ただ嬉しくても情欲は湧かないというか……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 特に歩道を調べても不審な感じはしない。暫く歩くと例の祠に到着した。

 

「お供え物が新しくなってますわ。やはり誰かが信仰してるのですね」

 

 小さな祠に手を合わせている彼女を見て思う。確かにお供えの花と饅頭が新しい。前回はお酒と玉子を模した団子だった筈だ。

 御神体の石を改めて調べる。やはり部分的な漢字しか読めない。

 

「大蛇……姫……領主……遊女お鷺の名前も庄屋の息子の名前も無いな。そもそも時代が違うのか別の言い伝えなのか……」

 

 デジカメで文字を撮影する。佐々木氏に調べて貰おうかな?

 

「榎本さん、前に見た獣道が随分と拓けてますわ。最近拡張したみたいに……」

 

「ん?確かに前は草を踏み固めた位だったが、伐採されてるね」

 

 切られた枝を見れば、切り口は新しい。渇かずに樹液が滲んでる部分も有るから、精々ここ1〜2日位だと思う。

 

「行ってみよう」

 

「昨日の集落に繋がっているのかしら?」

 

 拓かれた道を歩く事15分位かな。見慣れた集落に突き当たった……此処は集落の外れ辺りだと思う。

 

「やはり集落に繋がってたね。今日は集落に行かずに戻ろう……」

 

 地理的な確認が出来ただけでも良しとしよう。

 

「オヤジさんにお会いしませんの?」

 

「愛子さんのお墓に行く前に訪ねよう。今は探索中だし、向こうだって自分の周りを調べられてるのは嫌だろ?」

 

 そう言って彼女の手を取り、来た道を戻る。黙って付いて来る彼女には悪いが、あの排他的な集落は信用出来ない。

 オヤジさんは娘さんの事も有るから比較的友好的だったが、その他の連中は分からない。僕等が調べ廻ってる事は余り知られない方が良いから。

 そう言えば手を繋いで歩くのは初めてだっけ?急に恥ずかしくなり不自然にならない様に手を離す。

 

「さて、一周して何も感じなければ最初の場所で身代わり札を使ってみようか?」

 

「もう、急に手を離さなくても……そうですわね。愛子さんの霊を呼んでみましょう」

 

 少し拗ね気味な彼女だが、身代わり札の使用については問題無いみたいだ。手持ちの霊具の残りを考えながら、何とかなるかなと判断する。

 娘さんの札の他に小原氏のお札も残っている。最悪の場合は元旦那に責任を持って貰おう。などと結構鬼畜な事を考えていた……

 

 

第71話

 

 小原愛子さんの霊を呼び出す為に、沼の畔で娘さんの身代わり札を取り出す。勿論、清めの塩で簡易結界を張っている。円形は無理なので四方に盛り塩をした。

 

「おん まからぎゃ ばぞろ しゅにしゃ ばざら さとば じゃく うん ばん こく」

 

 愛染明王の真言を唱え、お札に霊力を注いでいく……念の為、お札を持つ手は右腕だ。

 

「小原七海(おばらななみ)の霊よ。母、小原愛子に語りかけよ……」

 

 霊力を徐々に注ぎながら周囲を確認する。しかし、特に異常は無さそうだ……

 

「小原七海(おばらななみ)の霊よ。母、小原愛子に語りかけよ……」

 

 その後、10分程の時間を掛けたが彼女は現れなかった。

 

「榎本さん。愛子さんは鷺沼には居ないのでしょうか?」

 

「うーん、どうだろう?時間帯か場所が違うのか分からない。もしかしたら既に成仏してるのか……」

 

 既に誰かに祓われているか、昨夜の廃ホテルに現れた人影なのか……しかし他のお札と違い一度霊力を込めた身代わり札を持ち歩くのは危険だ。

 そこに当人が居る様に見せ掛けるのだから……処分する必要が有る。

 身代わり札の右上を持ち、下からライターで火をつける。メラメラと燃え出すお札。火が上の方にまで来たら地面に置いて燃やし残りが無い様にする。

 完全に灰になり火が消えたのを確認したら、その灰を鷺沼に流す。

 

「何故、お札を燃したのですか?お墓の方に供えても……」

 

「一度身代わり札として霊力を注いだからね。変に暴発したり、他の霊を呼び寄せてしまうのが嫌だったんだ。

手持ちの除霊道具は殆ど無くなった。今回の調査は終了だ。後は両所長の調査報告を待ってから、方向性を決めようか?」

 

 思ったより除霊道具を使ってしまった。帰ったら作成しないと手持ちが殆ど無い。

 

「お墓の方には行きませんの?あと廃ホテルの近く迄……」

 

 少し不満が有りそうな口振りだ。当初の予定より早い店仕舞いだからか?

 

「うん、ここらが潮時だ。勿論、調査は続けるけど、今日はお終い。また準備をしてからね」

 

 無理はしないで安全第一!最近、このモットーが怪しくなってるから気を付けないと駄目かも。もう一度鷺沼全体を見回すが禍々しい感じはしないし霊感も反応しない。

 小原愛子さんは、この場所には居ないのかな?「さぁ帰ろう……」彼女を促し鷺沼をあとにする。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 駐車場に停めてあった車に戻り、結界を確認する。特に問題は無さそうだ。最後に残った清めた塩を自分達の体に振りかけてから車に乗り込む。

 エンジンも問題無く掛かり、安全運転で出発。途中ルームミラーで後部座席及び後方を確認するが異常は無し。

 昨夜は容易く結界を抜かれたが、アレは丹波の尾黒狐の助力が有ったからと思いたい。

 

「榎本さん……今回の調査ですが、成果は有ったのでしょうか?」

 

 前を向きながら両手を軽く握り膝の上に置いた格好で質問をしてくる。彼女的には不満な内容なのだろうか?

 

「僅か三日間だからね。でも佐々木氏から情報を得られたし小原愛子さんの肉親にも会えた。

祠の写真も撮れたし近くの集落の場所も確認。神泉会の行動も確認出来たし、彼等は集落に溶け込んでないのも分かったし……

それをオヤジさんに彼等の事を忠告も出来た。成果は有ったよね」

 

 それに最大の敵だった丹波の尾黒狐は胡蝶が喰らってしまった。一族の悲劇も止められたし肉親の魂も解放出来た。僕としては大満足だ!

 勿論左手首の痣に胡蝶が入り込んだ事は大問題だが、少なくとも爺さんと両親の魂は救えたんだ。僕の目的の半分以上は達成された……

 

「何ですか?穏やかな笑みなど浮かべて……榎本さん、今日は少し変ですわよ?」

 

 ぷーっと頬を膨らませる彼女。

 

「そうかい?普段と変わらないと思うけど……」

 

 麓まで降りてきたので一安心だ。県道に合流し八王子駅方面に車を走らせる。暫く車内は無言になる……

 県道を走らせていると焼き肉チェーン店の看板を発見、安楽亭だ!此処は豚足とかもメニューに有るし安くて味はそれなりでお勧めだ。

 

「桜岡さん、お昼は焼き肉にしようか?あのチェーン店で良いかな?」

 

「安楽亭ですわね。ネギカルビが好きですわ!あと豚足を酢味噌で食べさせてくれるんですよね」

 

 あのぷりぷり感が良いですわ!とか言っているが女性で豚足好きは珍しいかな。やはり食の好みが近いのは嬉しいものだ。

 結局二人で30人前を完食し、お店の方から引かれてしまったが……二度と来ないかも知れないから問題無いかな?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 今夜が八王子滞在の最後の夜。佐々木さんのお礼を兼ねて夕食に招待した。場所は滞在しているホテルに有る「割烹相模湾」。

 名前の通り相模湾で採れた魚介類を食べさせる店だ。ホテル自体がバリアフリー対応になっており、必然的にテナントも対応してる。

 つまり車椅子でも安心だ。最近は車椅子対応のタクシーが有り、桜岡さんが同乗し迎えに行って貰った。

 車椅子+四人は無理だし、お酒も飲む予定だからね。帰りも送る為に同じタクシーは手配済み。

 18時開始で20時終了、迎えを20時15分にしておいた。送迎で30分は掛かるので、その間に胡蝶と話す事にする。

 ベッドに腰掛け、ドアをロックしカーテンを閉める。左手首の痣に話し掛ける。

 

「おい、胡蝶……出て来てくれ」

 

 すると蝶の痣が滲みモノトーンの流動体が流れ出す。何故、僕の膝の上に?流動体が盛り上がり人体を形成する。

 何時もと同じ全裸幼女の胡蝶だ。首に手を回し膝の上に座っている。

 

「何だ、正明。まだ夜でもないのに伽でもさせる気か?」

 

 ちろりと舌で唇を舐める姿は妖艶だ。

 

「いや、何か対応が急にエロくなったけど……何故だ?」

 

 こら、人の首筋を舐めるな!

 

「ん?今風に言うとデレ期だな。正明が思い出す前は罰を与えていた時期だからツン期か」

 

 ちょ、おま……思い出すとか知らなかったのをお前の言葉から連想したんだぞ!それに肉親を殺された事をツン期とか言うな。

 

「元々我は正明の祖先に喚ばれた存在。贄を捧げる限りは一族を繁栄させる約束だ。

正明、お前は……我も色々と学んでいるが人殺しが大罪の時代に、我の為に多くの人間の肉体も魂も我に捧げている。

力有る霊獣も昨夜喰えたし、我の下僕としての働きは十分だ。700年待たされたが、お前なら文句は無い。ならば褒美を与えるのは吝かでないぞ」

 

 僕は……そうだった、自分の為に他人を犠牲にしてたんだ。だから騒がれない様に目立たない様にしてたんだ。

 僕も十分に悪人だ、小原氏の事を悪くは言えない。

 

「ははははっ、地獄行き確定の所業だよな。僕は本当に人として最低だ……」

 

 パタンとベッドに倒れ込む。目を逸らしていた事実に直面ってか?自責の念か僅かに残る善意か……胸が苦しくなる。

 そんな僕の腹に馬乗りの胡蝶は、何か考える様に顎に手を当てている。

 

「なんだ?罪の重さに悩んでるのか?人間など生きているだけで罪ではないか!

他の生物の犠牲の上に成り立つ種族よ。気にするな正明。お前を責める奴は我が喰ってやるからな」

 

 多分慰めてくれているのだろう。表現は物騒極まりないが……昔を考えれば有り得ない事だな。

 もっとサディスティックで我が儘で理不尽なバケモノだった。いや、今でも本体はバケモノなんだが……でも今なら共生出来るだろう。

 一心同体・呉越同舟・死なば諸共・一蓮托生、兎にも角にも一緒に生きるしか無いんだ。

 

「それでも僕は意地汚く生きるよ。胡蝶、君を呼ぶ時はどうするんだ?

人前で左手首から人を生やす訳にはいかないし。桜岡さんも左腕に違和感が有るとか言われたし……」

 

「ふむ、出でよ胡蝶!とでも騒げば出てやるぞ。それとも、我が腕より出でよ胡蝶!でも良いが?」

 

 ああ、僕の中の中学二年生が暴発しそうで嫌だなぁ……

 

「それは嫌だ!そんな恥ずかしい事をする位なら呼ばない、叫ばない、必要ない」

 

「我が儘な下僕だな。我が呼び出しに応じてやろうと言うのに……分かった、ただ胡蝶と呼べば良い」

 

 呼ぶだけ?なら許容範囲内だな。

 

「あと桜岡さんが左腕に違和感が有るとか言ってたが……自分だと分からないんだけど、何か違うのかな?」

 

 左手首を見ながら普通と違う所を探す。毎日見慣れた自分の腕だが、変わったのは蝶の痣くらいだ。これも腕時計でもすれば隠れるだろう。

 

「我がお前と同化してる時に僅かながら力が漏れている。質の違う霊力を纏ってたから気になったのだろう。ほんの僅かな霊力だから違和感と言ったのだろう」

 

 なる程な……性質の異なる二人分の霊力を感知したからか。普段は霊力封じの数珠でもするか?

 でもとっさの対応が出来ないか……いや疑われるよりマシだろう。

 

「我を乗せながら何を考え込んでるのだ?それでヤルのかヤラないのか?」

 

 やはりエロくなっている胡蝶の両脇に手を入れて持ち上げる。そのまま自分も起き上がり、彼女をベッドに座らせる。

 

「取り敢えず胡蝶と呼ぶまでは中にいてくれ。これから恩人の接待が有るから腕に入ってくれるか?」

 

 時計を見れば桜岡さんが迎えに行ってから20分が過ぎている。そろそろロビーで待ってないと駄目だ。

 

「ふん。正明好みの姿なのに我に手を出さんとは、あの乳巫女にでも誑かされたか?まぁ良い、早く子を孕ませろよ」

 

 グニャリと体が崩れたと思えばモノトーンの流動体となり左手首に這ってくる。慣れない光景だ……

 

「さて、佐々木さんを迎えに行きますか」

 

 財布と携帯電話を持ってロビーに向かった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ロビーで待っていると車椅子に乗った佐々木氏と、それを押す奥様。案内する桜岡さんがやって来た。

 

「今晩は、佐々木さん」

 

「ああ榎本さん、ご招待有難う御座います。わざわざお迎え迄手配して頂いて」

 

 社交辞令の後は車椅子を押すのを変わり、ホテルの3階に有る「割烹相模湾」に案内する。テーブルの個室を予約したので、車椅子のまま席に付いて貰う。

 

「今夜は此方でコースを選ばせて頂きました。後はメニューから好きな料理を頼んで下さい。お酒は飲み放題で此方のメニューからです」

 

 コースは一人前で一万円。鮪と地魚をメインにした物で〆はにぎり寿司だ。別で船盛りを用意している。

 

「儂等は老人だし、そんなに呑まないが……そうだな、地酒の箱根山を冷やで頂こうかな」

 

「私は焼酎をお湯割りで……百年の孤独が良いですわ」

 

「僕はアサヒのスーパードライを佐々木さんの奥様はソフトドリンクですか?」

 

「ええ、アイスの烏龍茶をお願いします」

 

 呼び出しボタンを押してファーストドリンクをオーダーする。飲み物が揃う迄は雑談だ。

 

「佐々木さん、例の鷺沼に行ってきました。でも祠の御神体の石碑には遊女お鷺の悲劇ではなく、姫・領主・大蛇の文字が刻んで有りました。他に伝説が有るのでしょうか?」

 

「ふむ、大蛇か……その石碑の文字は写真か何かで記録したかい?」

 

「ええ、写真に撮りました。参考にメールで送ります。あっ飲み物が来ましたね……では、佐々木さんと知り合えた事に感謝をして、乾杯!」

 

「「「乾杯!」」」

 

 調査の話は此処までにして、お礼の宴を楽しんだ。佐々木さん夫妻は僕等の仕事について興味が有るらしく色々と質問責めだ。

 僕等も過去の事件を面白おかしく話した。勿論、依頼人のプライバシーに関する事はボカシながらね。

 今日で僕達の調査は一旦中止で、明日には横須賀に帰るのだが……思いも寄らない展開が僕らを待ち構えていた。

 何と桜岡さんに小原氏から連絡が有ったのだ。相談したい事が有ると伝言と連絡先が留守電に入っていた。

 


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