榎本心霊調査事務所(修正版)   作:Amber bird

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第57話から第59話

第57話

 

 横浜中華街の華凄楼に集った老若男女……新郎?側は筋肉坊主と老弁護士。新婦?側は濡れ濡れ梓巫女と摩耶山のヤンキー巫女と、その旦那。

 計五人が円卓を囲んでいる。因みに順番は筋肉から時計周りに濡れ濡れ・ヤンキー巫女・その旦那・老弁護士の順番だ。

 重苦しい雰囲気を感じ取ったが、僕が司会進行をしなければならないだろう。桜岡さんの御両親の視線が痛い程に突き刺さります。

 

「えっと、わざわざ大阪から来て頂いて有難う御座います。桜岡さん……いえお嬢さんから聞いていると思いますが、私が榎本です。

此方は子供の頃からお世話になっている松尾さんです。弁護士をしています」

 

 最後の弁護士は正直不要だとも思ったが、敢えて僕の信用問題の為に言いました。

 

「榎本さん、私達みんな桜岡ですから。私の事は霞と呼んで下さい」

 

 隣からキラーパスが来た!迂闊にうんと言えない危険性を孕んでいる。このお嬢様はワザとじゃない天然だから怖い。

 ほら、向かいに座る御両親の表情が怖いぞ。何故、悪い事はしてないのに睨まれるんだ?

 

「いや、それは色々と誤解を招くから駄目だよ」

 

 凄く不機嫌に頬を膨らませている彼女を見て溜め息をつく。長い会食になりそうだ。

 

「榎本君と言ったかな……話は妻と娘から聞いている。先ずはお礼を言わせてくれ。有難う、君のお陰で霞は色々と助かっている」

 

 そう頭を下げてくれた。さっきの殺気は彼女の天然で、僕らが付き合ってるみたいに捉えた為か?誤解されない様に気を付けないと駄目だな。

 

「そうね。私からもお礼を言わせてもらうわ。有難う御座います、霞の為に色々と、ね?」

 

 何故、含みの有る疑問系?僕がそれに応えようとした時、扉の外から声が掛かり店員さんが入ってきた。

 

「失礼致します。前菜をお持ちしました。それと飲み物を伺って宜しいでしょうか?」

 

 中華料理の定番の前菜8種盛りが円卓に並ぶ。大皿の中央に胡瓜の千切りが山盛りで、周りに鶏肉のゴマ和え・赤い焼豚・ザーサイ・木耳・砂肝塩漬け他が山盛りだ。

 ピータンと豆腐の中華ドレッシング和えとかも有るが苦手だ……桜岡さんの食事量を考え多めに頼んでいる。

 

「紹興酒を熱燗で、ザラメとレモンを添えてくれ。桜岡さんも宜しいか?折角だし、酒でも飲みながら話そうじゃないか。正明は麦酒だろ?」

 

 爺さんが皆に酒を勧める。確かに多少のお酒が入った方が、話もし易いだろう。呑みニケーションはコミュニケーションだ!

 結局、爺さんと桜岡さんの親父さんは紹興酒。その他は麦酒となった。甲斐甲斐しく料理を取り分けてくれる桜岡さん。

 しかし四分の一づつが僕と彼女で残りを三等分したぞ……

 

「桜岡さん?足りなければ取るから、最初から飛ばさないでね」

 

 彼女の食欲を考えても序盤から飛ばすと後半がキツい筈だ。魚・肉・炒飯と腹持ちの良い料理が続くから……

 

「勿論ですわ」

 

 行儀良く料理を食べる彼女を優しい目で見る両親。暫くは前菜を食べながら自己紹介と近状報告をする。彼女の親父さんは関西で商社を経営してるらしい。所謂セレブだな。

 二品目と三品目に・アワビときぬがさたけのオイスター風味と和牛フィレと季節の野菜のXO醤炒めが出てきた。五人だが料理は十人前をオーダーしているから、三皿づつ運ばれた。

 当然の様に一皿づつが僕と桜岡さんの前に、残りを三等分して配っている。完全に料理の取り分けは彼女の仕事と化した。

 

「ところで榎本さん」

 

 料理を頬張っている時に、いきなり声を掛けられた。ちょっと咽せそうになったが、何とか堪える。

 

「はっはい、何ですか?」

 

 摩耶山のヤンキー巫女がにこやかに此方を見ている。あの笑顔は怖い部類の笑顔だ……

 

「仕事の話で申し訳無いですが、かの廃ホテルの稲荷神ですが……伏見稲荷から勧請した後、倒産しても御霊は移されてませんでした。丹波の尾黒狐が祀られています」

 

 稲荷神社を祀る場合、伏見稲荷大社に勧請するのだが、名の有る狐神の場合は珍しい……余程の金額を奉納しないと駄目な筈だ。

 その丹波の尾黒狐とは強力な狐様なんだろうか?

 

「大層ご立派な名前を戴いている狐様ですね。云われは?」

 

 土地等の名前が付いている者は総じて強力だ。

 

「丹波の御山に祀られている狐の総称よ。昔日照りが続き人々が飢えに苦しんだ時に、領主の娘が助けを求めた。

その姫の美しい容姿と心に魅せられた尾黒狐は、飢饉の村々に恵みの雨をもたらせたと言うわ。その時に各地に散らばり雨を降らせた狐達を総じて丹波の尾黒狐と言うの。

全国に万を超える稲荷神社が有るけど、丹波の尾黒狐は500近く勧請されているわよ。そして昭和62年に、あのホテルが勧請したの。まさにバブルの時期ね」

 

 昭和62年か……あのホテルが倒産したのが平成7年だから、かれこれ16年も放置だと!ヤバくね?

 ただ強力な狐様じゃないのは分かった。きっと尾黒狐の総大将は凄いが、配下の狐の一匹なんだろうか……

 

「伏見稲荷大社の方は、何か言ってましたか?対応とか……」

 

 黙って首を振られた。つまり伏見稲荷大社が自主的に対応はしないのか。喋るより食べないと料理が減らないな。一旦話を止めて料理を食べる。

 うん、このアワビときぬがさたけのオイスター風味は、高級感溢れたアワビの風味が素晴らしいと思う。此方の和牛フィレと季節の野菜のXO醤炒めは普通に柔らかくて旨い和牛だ、出来れば山葵醤油でも食べたい。

 取り皿に盛られた二品を食べ終え、お代わりをと思い周りを見れば……彼女の皿には殆ど料理が無い。

 一方僕は最初に取り皿に盛った分しか食べてないのに、既に完食だと!仕方無く桜岡さんの大皿に料理を取り分ける。彼女は嬉しそうに、また上品に食べ始めた。

 僕は麦酒を飲んで喉を湿らせる。霞……恐ろしい娘……

 

「正明、お前霞君と良くフードファイトをするんだって?二人で良く食事をするそうじゃないか」

 

 カッカッカ、とか何を言い出すんだ爺さん!

 

「最近漸く勝てたんです。おでんですが、コンビニのを買い占めて家で食べたんですが……榎本さん、子供みたいに箸に玉子を刺すから具をとれなくて」

 

 嬉しそうにクスクスと笑いながら……そんなに僕に勝ちたかったのか?確かに玉子に固執したのが敗因だけど、今言う事じゃないよね。

 

「ほう?家で、おでんを買い占めて?良く家には来られるのかな、榎本君は?」

 

 そこに食い付くんですか!

 

「えっええ、勿論!仕事の打ち合わせでお邪魔したり、されたりですよ、やましい事は何も……まっまぁ、桜岡さんどうぞ一杯、さぁさぁさぁ」

 

 彼女が変な事を言い出して反応する前に口を封じる。紹興酒を並々とグラスに注ぐ。ご返杯と麦酒を注がれるので、その前に一気飲みをしてグラスを空ける。

 基本的に麦酒は継ぎ足しをしない。麦酒を注いで貰い半分飲んでから、母親の方にも麦酒を勧める。

 

「あら、頂くわ。昔は狂犬と言われたのに随分と丸くなったわね?」

 

 サラッと今、僕の黒歴史をバラされた……

 

「いえいえ、当時話題の金髪ヤンキー巫女に比べたら……」

 

 お返しに彼女の中の若かりし中学二年生を暴露する。良い年をして金髪に染めて巫女服を着るなど、中学二年生全開で恥ずかしいだろ?

 ヤバい、笑顔だが額に井形が浮かんでますよ。そして震える手で麦酒を勧めてくれます。

 

「ふふふ、ご返杯よ。痩せこけた野良犬が躾の行き届いた逞しいクマさんですものね。霞の躾は十分みたいだわ」

 

 手が震えているせいか、周りに零れてますよ!僕の手が麦酒塗れなんですが……

 

「一瞬分かりませんでしたよ。あの金髪ヤンキーが、まるで有閑マダムみたいに変貌したんですね。旦那さんへの愛故ですか?」

 

 旦那さんを見ながら言うが……そう言えば昔、初めて会った時も反目したな。その後は一度も会わなかったから忘れてたけどね。

 

「ふふふ……貴方の事は興信所を使って調べました。勿論、川崎や横浜で有名な事とか、ね。霞に話そうかしら?」

 

「なっ?もしかして僕を調べている奴が居るって話は、敵じゃなくて味方?」

 

 風俗店で僕を調べている奴って彼女の差し金?じゃ神泉会が僕を調べてたんじゃないのか?

 

「何故に?」

 

「霞の周りに彷徨く男の身辺調査よ。ねぇ?」

 

 この女……話し合いの前に身辺調査とは結構エグいな。いや、商売で成功している連中とは情報を大切にするからな。

 僕の風俗遊びがバレてる訳か……マズいぞ、桜岡さんは兎も角、結衣ちゃんに話されたらダンディーで優しい僕の築き上げたイメージが崩壊する。

 

「ははははは……さて、話を元に戻しましょうか。稲荷神の方は分かりました。御霊を戻してないとなると、結構厳しい。

本来なら廃ホテルのオーナーに言って対処して欲しいんですが……オーナー一族もイマイチ信用出来ない連中なのです。調査中ですが、迂闊に接触は控えてるんです」

 

「義母様、私を狙っているのは神泉会。そして廃ホテルの管理会社は、その傘下企業。

神泉会と廃ホテルのオーナーの関係が未だ分からないのです。もし繋がっていたら、接触は藪蛇ですし……」

 

 桜岡さんのフォローが入った。確かに彼らが繋がっていたら、ノコノコ相談に行くのは危険だ。

 

「神泉会?霞……貴女は何故、何時も大切な事を先に言わないの?奴らは関西で有名な心霊詐欺団体よ。相手にするのは大変ね。

榎本さん、何故霞が神泉会に狙われていると思うのかしら?」

 

 そう言えば話してなかったっけ?桜岡さんを見れば、真っ赤になって目を逸らすし……さては忘れてたな?

 

「正明よ。何を霞君と見詰め合ってるんだ?彼女が恥ずかしそうじゃないか」

 

 爺さん、無言だと思えば要らんチャチャを入れないで下さい。話が拗れますから……僕は桜岡さんのご両親に、僕らが調べた事を全て説明した。

 

「なるほど……霞の力が通じ難いのは、同じ神道系の術を使う相手だからよ。

使役霊を使えるならば、神泉聖光の力は強力だわ。上位者の術を下位者が干渉するのは難しい。それに霞は生霊が得意。だから力が通じ難いのよ」

 

 確かに同じ系統なら上位者の方が有利だよな。

 

「確かに私は使役霊なんて使えないし、除霊も余り得意ではないですが……事実を突き付けられると凹みますわね」

 

 箸を止めてシュンとする桜岡さん……箸を止める?いや、あれだけの料理を短期間で完食したぞ。コース料理だから、そろそろ次が来る筈だ。

 確かフカヒレの姿煮、それと伊勢海老のマヨネーズ炒めだね。

 

「霊能力者と言っても千差万別。憑きモノ落としや霊媒師、霊視が得意とか沢山居るからね。

桜岡さんは生霊が得意。それは凄い事だ。僕は除霊しか出来ないけど、特化してる訳じゃないから力で言えば君の方が強い」

 

 純粋な霊能力なら、彼女の方が強い。僕には「箱」と言う反則技が有るけど、それも完全じゃない。第一「箱」の命令に逆らえないんだから……

 

「榎本さんの方が素晴らしい霊能力者です!結界も霊具も自分で作れて、経験も豊富。私、私は榎本さんの足手まとい……」

 

「失礼します。フカヒレの姿煮と海老のスパイシーマヨネーズソースレンコン餅添えです。フカヒレはアオ鮫です」

 

 彼女の切実な訴えを邪魔する様に次の料理が運ばれてきた。この二品がメインディッシュだ。フカヒレは特に高価なアオ鮫なので最初から皿に分けられている。

 

「その……桜岡さん、僕のも食べると良いよ。有難う、嬉しかったから……」

 

 彼女にフカヒレの入った皿を差し出す。心に残る言葉もタイミングを外されると気恥ずかしい物だ。暫くはモグモグと料理を食べる音だけが、部屋の中に響く。

 彼女は自分の力に疑問を持ち始めていそうだ。自信を無くす前に何とかしないと駄目だ。この商売は弱気は禁物だから、自信を持たせる事を考えなくては……

 

 落ち込む彼女を見ながら考える。

 

 

 

第58話

 

 横浜中華街、華棲楼。大阪からワザワザ桜岡さんの御両親が上京してきた。現状の説明をして、廃ホテルの稲荷神社について調査報告を聞いた。

 やはり御霊は戻していなかったか……厄介な事に、そこそこ名の有る狐が祀られている。

 

 丹波の尾黒狐……

 

 本来なら廃ホテルのオーナーに処理して欲しい。しかし頼むにも、彼らが神泉会と繋がっているのか・いないのか?それをハッキリしないと駄目だろう。

 それと自信を失いかけている桜岡さん。何か切欠が有れば良いんだけど……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 コース料理を食べ終え、デザートの杏仁豆腐が並べられている。此処の杏仁豆腐はココナッツミルク風味でねっとりとしている。

 

「ところで榎本君」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

 半分空気だった桜岡さんの親父さんが話し掛けてきた。

 

「霞の為に興信所やら弁護士を手配してもらい感謝している。今後も調査は必要だ。気を悪くして欲しくはないが、費用は私に払わせて欲しい。

話を聞く分には君が負担する内容じゃない。全ては妻の過去のヤンチャが原因だ。私は霞の父親として出来る事はしたいんだ」

 

 正直、有り難い申し出だが……僕にも意地もプライドも有るから、支払いをお願いするつもりは無い。

 

「折角の申し出ですが……」

 

「榎本さんと霞の仲は分かっています。だから榎本さんへの依頼料は払いません。しかし、その他の分は負担させて貰いますわ。

そこまで榎本さんに負担させては、親としての面子が立ちません。理解して下さい」

 

 母親からも言われて、深々と頭を下げられてしまった。これは断ると却って失礼なのかな?でも僕らの仲って何だ?

 隣の爺さんを見る。この場合の普通の判断はどうなんだろう?

 

「なんだ、正明。桜岡さんの御両親の申し出だ。素直に甘えたまえよ。但し結衣君の護衛費用は君が持てば良い。彼女の保護者はお前さんだからな」

 

 なる程、それなら失礼にはならないのかな……結衣ちゃんに対しても、僕が対処している事になるし。

 

「分かりました。ご好意に甘えさせて頂きます」

 

 そう言って頭を下げる。丁度デザートを食べ終わり、食後のジャスミン茶が配られた。もう追加オーダーも無いだろう。

 

「すみません、トイレへ……」

 

 そう言って席を外し、先に会計を済ませに行く。帰り掛けに支払いをすると、また払う払わないと言い合いになりそうだからな。でも割と普通で常識的な両親で良かったよ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「さてと……正明が席を外したのでな。アレは見た目と違い照れ屋だから、何か聞きたい事は有るかの?」

 

 聞きたい事?有るわよ、対外的には霞と同棲してるんだし。

 

「松尾さん。霞と榎本さんの仲ですが……親族紹介を兼ねての、この会合。つまり結婚前提で宜しいのですよね?」

 

 私達は彼の性癖を知っているから、霞が純潔なのを疑ってないのだけれど……

 

「勿論じゃ!霞君から煮え切らない正明の事の相談をうけてな。しかし同棲してるんだし、今更な話じゃな。ただ、正明には結衣君と言う里子の面倒をみているのだが……」

 

「義母様。結衣ちゃんについては、私の妹として……駄目なら私達の娘として引き取りたいの。あの子は、とても良い子ですわ」

 

 連れ子か……しかし調査では訳有りだけど良い子なのは確か。確か天涯孤独で唯一の生き残りの母親は失踪中。

 失踪後七年で死亡認定が取れるから、あと三~四年も経てば問題無い。万が一、名乗り出ても半ば育児放棄の状態だし、親権者変更調停も有利に進められる筈だわ。

 念の為、弁護士に相談はしておきましょう。丁度目の前にも弁護士が居ますしね。

 

「アナタ、娘が一人増えても構わないわよね?彼女は未だ中学生だし、養子にするなら大阪の実家に引き取るわよ。彼女は納得してる?」

 

 霞が嫁に行って寂しいし可愛い娘なら大歓迎よ。

 

「おいおい、お前……まぁ引き取るのは構わんが、榎本君は……その……霞との結婚は……」

 

 アナタ、何を言い淀んでいますの?アレの性癖なら私が呪いで何とかしますと言って有るでしょ!この顔合わせの機会にアレの毛髪を手に入れれば大丈夫なの。

 最悪は霞に用意させるから平気よ。同居してるなら幾らでもチャンスは有る筈よ。

 

「未だ結衣ちゃんに正式に話はしてないわ。でも姉妹の様に接して欲しいとお願いしたら、快く受けてくれたの。

だから大丈夫。松尾のお爺様も協力して下さいますわよね?」

 

 霞、既に其処まで根回しをしているのね?しっかりしているわ。

 

「桜岡さん。正明は奥手故に中々女性と付き合う事は無かった。それは自身の過去に親族を立て続けに喪うと言う事に原因が有ると思っている。

アレは家族を喪う事を恐れているんじゃ。結衣君を引き取ってから随分と丸くなった。しかし彼女の事を考えてか自身の結婚については消極的だったのじゃ。

儂が見合いを勧めても乗り気じゃ無かったからな。しかし霞君だけは違っていたようだ。彼女からも相談を受けたが、アレは……正明は……

周りがお膳立てをしなければ、結婚には踏み切らないだろう。それこそ結婚式の当日に式場に放り込む位の荒療治が必要だと思うぞ」

 

 松尾さん……貴方はあの変態の本性を知らないから、そんな善意な考えを持つのよ。アレは病的なまでのロリコンよ。

 でも風俗で合法的な遊びをする位だから、更正の余地は有ると思うの。私の呪いで、あのペド野郎を更正させるから……何よ、ペタンペタンなロリが好きって!

 馬鹿にしているわね、本当にさ。でもその点も安心して私達に任せて下さいな。

 

「そうですわね。彼の性格からして、そうなのでしょう。この件については私達だけで進めましょう。

それが榎本さんと霞の幸せになるのだから。松尾さん、宜しくお願いします」

 

 そう言って深々と頭を下げる。快く了承してくれたから、これで外堀は完全に埋まったわ。内堀を埋める為に、彼の毛髪を入手しなければ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 トイレと会計を済ませて戻ると、少し不思議な雰囲気になっていた。皆が一斉に生暖かい目で見てくる様な……何だろう、この疎外感は!

 僕だけ取り残されているみたいなんだけど?未だ少し時間が有るので今後の方針と対策を相談し、互いの連絡先を交換する。

 桜岡さん夫妻には関西での神泉会の行動と、教祖兄弟の事を重点的に。僕らはオーナー一族と周辺の言い伝えについて。周辺集落や祠、鷺沼と怪しい神社について。

 補助金の関係や元従業員の聞き込み、こっくりさんを行い行方不明になった子と生き残りの子について。当時の事をより細かく調べる事。

 それぞれ興信所に頼み費用は桜岡さん夫妻が受け持つ。定期的な連絡のやり取りと会合。これらを互いに確認しあい解散する事となった。

 

「さて、お開きにしましょう」

 

 結果としては有意義な会合だったな……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 夜の九時過ぎの横浜中華街だが、まだまだ人は多い。中国独特の原色ケバケバしい外観の料理店の間を飲んでお腹も膨れている為か、ゆっくりとJR関内駅へと歩いて行く。

 

「桜岡さん達は、ホテルか何かを予約してるんですか?」

 

 まさか大阪に日帰りじゃないよな?余り時間を気にしていなかったし、近くのホテルを取ってるよね。

 

「ええ、インターコンチネンタルホテルを予約しているわよ。アナタ達は電車で帰るの?」

 

 松尾の爺さんは途中でタクシーを捕まえて先に帰った。僕らは……

 

「はい、義母様。未だ早いですし私達は電車で帰りますわ」

 

 気を抜くと直ぐに腕を組んでくる彼女をいなしながら、電車で帰ると言った桜岡さんの言葉に頷く。ここからタクシーだと高速を使ったら18000円は掛かるから……

 桜岡さん夫妻は僕らの方を振り向き、頭を下げた?

 

「榎本さん、霞の事を本当に宜しくお願いします」

 

 人通りは少ないとは言え、御両親に頭を下げさせるとは……

 

「勿論、責任を持って対処しますから。頭を上げて下さい」

 

「霞、榎本さんとしっかりヤルのよ。では、此処で失礼します」

 

 そう言ってタクシーを止めて帰って行った。ヤルの発音が可笑しくなかったか?僕の腕にしがみつきながら見送る桜岡さんは、とても嬉しそうな笑顔でタクシーが見えなくなるまで見送っていた……

 さて、僕らの帰宅ルートは二通り有る。JRで横浜駅迄行って、京急線に乗り換えて帰る。もう一つは市営地下鉄で上大岡駅迄行って、同じく京急線に乗り換えて帰る。

 

「桜岡さん、横浜駅迄出るかい?それとも地下鉄で上大岡駅迄行こうか?」

 

 どちらも大差は無いが、地下鉄を利用した方が空いているだろう……

 

「横浜でお茶を飲んでから帰りませんか?」

 

 お茶?この時間だとドトールかプロントとかのチェーン店しか開いてないぞ。

 

「この時間だと喫茶店はドトール位だよ?」

 

「この先に珈琲の大学院って不思議な店名の喫茶店が有りますわ。前から気になってまして……」

 

コーヒーの大学院ってベルバラの宮殿みたいな個室でも珈琲が飲めるアレな店だよね?

 

 この辺では結構有名なんだよね、色々な意味で……

 

「桜岡さん……あの店って、どんな店か理解して誘ってる?オッサンには辛い店なんだけど……」

 

 煌びやか過ぎて気後れしちゃうんだよ、本当にインパクトが有り過ぎるんだよ。

 

「口コミではブルーマウンテンが美味しいって、それにサンドウィッチもボリューム満点でお勧めって書いてました。きっと気に入りますわ」

 

 僕の腕に縋り付いて上目遣いにお願いしてくる……周りの人も「なんだよイチャつきやがって」的な目線が痛いです。

 

「分かりました、いきましょう……」

 

 ドナドナ気分でコーヒーの大学院に向かった。安っぽい赤いテント木地の庇にデカデカと書かれた「ルミエール・ド・パリ」の看板……

 何ていう異質な外観だ、チープさと中から溢れる照明の煌びやかさが何とも入店を怯ませる店なんだ。

 

「榎本さん、ラストオーダーが近いですよ、ギリギリですよ」

 

 強引に腕を掴まれて店内に連行された。

 

「いらっしゃいませ、そろそろラストオーダーなので宜しくお願いします」

 

 普通の二人掛けテーブルに案内されたが、目の前にビオニー御予約席という、舞台セットみたいな貴賓室が?あれが噂のベルバラのセットか……

 桜岡さんも最初は驚いたが、目をキラキラさせながら周りをキョロキョロと見ている。もしかして、こういう内装が好きなのか?

 

「桜岡さん、急いでオーダーしよう。僕はブレンドとお勧めのアメリカンクラブハウスサンドを」

 

「私は……ブルーマウンテンと同じくアメリカンクラブハウスサンドにしますわ」

 

 店員を呼んで急いでオーダーする。

 

「しかし……凄い内装だね、何て言うか成金趣味?でも何となく落ち着くから不思議だな、なんでだろ?」

 

 フカフカのソファーに仰け反る様に座りながら周りを観察する。

 

「そうですわね。確かに不思議と落ち着くのは何故かしら?」

 

 暫くはソファーの座り心地と店の雰囲気を堪能する。多分落ち着くのは昭和の香りが漂う店内と、微妙なチープさが気後れしない原因なのかな……

 

「お待たせ致しました。ブレンドとブルーマウンテン、それにアメリカンクラブハウスサンドです」

 

 テーブルに乗せられたクラブハウスサンドを見て、その大きさに満足する。うむうむ、中々のボリュームだな。

 妙に豪華な内装の喫茶店で食べたクラブハウスサンドは大変美味しかった。付合わせのピクルスが甘いのにはビックリしたが、十分合格点だろう。

 

 しかし……何故、ルミエール・ド・パリって謳ってるのにアメリカンクラブハウスサンドなんだ?普通にアメリカンコーヒーも有るし……

 

 

 

第59話

 

 ヨコハマグランドインターコンチネンタルホテル。

 

 横浜港を見下ろす国際ホテルだ。夜景が素晴らしくカップルに大人気。そのホテルのスィートルームに宿泊する中年の夫妻。

 桜岡霞の両親だ。ボーっと夜景を見ながら、今夜の会合を思い出す。

 目の前には暗い海と、それに掛かるライトアップされたベイブリッジが見事だ……関西にも夜景が綺麗な場所は多いが、港の夜景は神戸港と甲乙つけ難いな。

 さて、今日初めて会った愛娘の危機を共に戦ってくれる漢。筋肉を纏った坊さんだ。

 年は30代前半、短髪で厳つい顔立ちだが話すと意外にも気さくで社交的だ。流石は僧侶と言う事か……霞は彼にゾッコンだが、彼が霞の事を恋愛対象に見てないのも分かった。

 節度有る関係なのは一目瞭然の気の遣い方だ。アレは霞を大切にしてくれているが、友愛の範疇を越えていない。

 妙に世話を焼きスキンシップを求める霞をちゃんと注意していた。ロリコンだからムチムチ美人は苦手なんだろうか?本当に彼が呪いで霞にメロメロになるのか?

 

「なぁオマエ……」

 

 シャワーから上がりお肌の手入れを始めようとしている妻に話し掛ける。バスタオル一枚とあられもない格好の彼女に気遣い、カーテンを閉める。

 まさか高層階まで覗きは居ないと思うが、念の為だ。若々しい妻の肢体を見ながら昔の事に思いを馳せる……後妻として迎えた妻は一回り以上も年が離れている。

 思えば怪しい宗教団体から変な壷が贈られてから、自宅に異変が起こった。

 

「神の罰だ、我が信仰する神が怒っている!この異変を収める為に入信せよ」

 

 そもそも何故、素性も分からない相手から贈られた壷を自宅に飾ったのか?その時点で呪われていたのかも知れない。

 そんな時に、噂で金髪の巫女が霊障を祓っている噂を聞いて頼んだんだ。私はコスプレが趣味で有り……勿論、自分がで無くパートナーに着せる方だが。

 兎に角、本物の巫女さん。それも金髪美人の巫女さんを見たくて堪らなかった。なので不純な動機で自宅に招いたのだが……

 

 金髪美人は美人でもヤンチャなヤンキーガールだったのだ!

 

 巫女は清純でなければならない。そう思った時期も確かに有ったが、事件解決と共に何故か彼女にプロポーズをして再婚していたんだ。まぁ後悔はしてないが……

 

「何ですか、アナタ?」

 

 手入れを終えてベッドに来る妻の為にスペースを開ける。

 

「どう思う?あの榎本と言う男。ハンサムでもないし、とても霞の好みとは思えないのだが……勿論、丈夫そうだし人柄は良さそうだし霞を大切にしているのも分かるよ」

 

 何やら怪しい笑みを浮かべているが……

 

「確かに霞は面食いでしたが、アレはアイドルとかに憧れるのと一緒。実際の恋愛とは別物よ。

それに私達霊能力者にとってパートナーは理解が無いと駄目なの。その点、あの筋肉なら文句は無いわね」

 

 確かに彼女を後妻に迎える時も親族が煩かったな。自称霊能力者とは一般的には胡散臭い連中なんだろう。私も彼女に出会う前なら、そう考えていたし……

 しかし、どうしても彼女と結婚したくなり半ばごり押しで結婚したんだ。後悔はしていないが、あんなに彼女に対して愛情が短期間で膨れ上がったのは不思議だ。

 私の性格では自分でも考えられない積極性だったし……だから既成事実が出来てしまいプロポーズしたんだ。

 

 まぁ自分の事は良いかな。

 

 後妻に迎えるに辺り霞に引き合わせたが、まさか霞には霊能力が有るとは!妻の妹弟子として修業をし、梓巫女になってしまった……

 清純な霞の巫女服姿は、私の理想でも有ったから反対はしなかった。

 

「帰り際に榎本さんの毛髪も手に入れたわ。後は事件解決後に呪うだけ……あのロリコンも霞にしかナニが反応しなければ、ね?

男なんてチョロいわ。任せてね霞。私がちゃんと結婚まで進めて上げますからね」

 

 何か榎本君が可哀想になってきたぞ。

 

「ははははは……お手柔らかに頼むよ」

 

 榎本君……済まないが霞の為に漢として死んでくれ。結婚後は悪い様にはしないから……アレが義理の息子になるのか。

 暑苦しくなるが、愛娘の幸せの為だからな。彼の自宅の方に向かって合掌する。

 

「南無~」

 

「アナタ、何を拝んでいるの?早く寝ますよ」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 桜岡さんの御両親と初めて会った。若い頃は摩耶山のヤンキー巫女と呼ばれていた色物女傑だったが、セレブと結婚したせいか有閑マダムとなっていて吃驚だ!

 親父さんの援助で興信所の費用負担が減った。これなら色々な事が調べられて有利だ。

 今日は僕が元々頼んでいる高田所長と、桜岡さんが頼んでいた興信所の所長との顔合わせが有る。共同戦線を張るなら、双方と意志疎通をしておかないとね。

 

 しかし……

 

 昨夜から僕の霊感が疼くんだ。何だろう、危険が迫っている感じがするんだけど。僕も神泉会に狙われているのだろうか?

 

 まさかな……

 

 先方の興信所は僕の風俗遊びを調べている。つまり、桜岡さんには会わせられない。少なくとも口止めをしてからじゃないと駄目だ。

 なので彼女は結衣ちゃんと共に自宅待機。僕は横須賀中央にある自分の事務所で彼らを待っている。桜岡さんを自宅待機させるのは大変だった。

 あのお嬢様は何かと僕の後を付いて来たがる。確かに仕事を覚える為には、一緒の方が良い。でも僕は困る。

 桜岡さんから結衣ちゃんに、有る事無い事言われてはマズいからだ。今回は興信所の両所長と会う事は伏せてある。

 あくまでも事務所の帳簿付けと確定申告の為に税理士と打合せと誤魔化した。流石に他人の事務所の台所事情についてだから、ある程度は納得してくれたみたいだが……

 自分のデスクに座り「プレミアムカルピスあまおう」を飲みながら考える。自宅から送り出してくれた時の顔……

 

 アレは絶対に何か企んでいる時の顔だ。念の為に持ってきた「箱」を弄びながら、何を彼女が企んでいるか?を考えてみても……

 

「分からないな。そもそも彼女には色々とバレてないからな……つまり何について企んでいるか選択肢が有りすぎて絞れない」

 

 風俗遊び・「箱」・本来の目的、どれを取ってもバレれば一悶着有るぞ。んーっと背筋を伸ばしてから目薬を垂らす。

 肩こりと眼精疲労が酷いな……睡眠時間を削ってのゲームが響いているのかな?今日は早めに寝よう。そう心に決めたら呼び鈴が鳴った。

 

 時計を見れば2時55分……予定時刻より少しだけ早く来たみたいだ。返事をしながら玄関に迎えに行った……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 玄関を開ければ見知らぬ男が居た……痩せ形・長身・七三分けの髪型にピシッとしたスーツ姿、しかし視線は鋭いし武道の嗜みが有りそうな雰囲気を纏っている。

 彼が桜岡さん側が頼んでいる興信所の所長だろう。流石はセレブ御用達の人物だな。

 

「初めまして、榎本さん。桜岡さんから紹介を受けた斎藤です」

 

 高田所長と違い礼儀正しい人物だ。挨拶と共に名刺を頂いた。

 

「斎藤探偵事務所・所長 斎藤創(さいとうはじめ)」

 

 何故か新撰組の斎藤一を連想させる。牙突とかやらないよね?

 

「ご丁寧に有難う御座います。桜岡さんから聞いています。私が榎本です。どうぞ中へ……」

 

「はい、有難う御座います」

 

 ……?妙に丁寧な態度だけど、何でだろう?応接セットに案内し暫くは世間話で時間を潰す。10分遅れで高田所長も来たので仕事の話を進める。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 男所帯故に適当に缶コーヒーを出した。

 

「先ずは自己紹介を……僕は榎本心霊調査事務所、所長の榎本です。今回の件では両所長にご協力を願いますので、宜しくお願いします」

 

 そう言って頭を下げる。そして次の自己紹介を進める為に高田所長を見る。

 

「ああ、高田だ。榎本とは心霊絡みの事件で知り合って以来の付き合いだ」

 

 愛想が無いのは何時も通り過ぎだな。だから少し補足する。

 

「彼は無愛想だが、イメクラの達人だ。何たって自分でシナリオを書いて持ち込みプレイをする程だ。最近は魔法使いのお姉さんにハマっているそうだ」

 

 彼の書いたシナリオは、実際にお店で用意している基本プレイにも利用されている。僕は兄弟になりたくないから行かないケド。

 

「ばっ馬鹿を言うなロリコン野郎。貴様こそツルペタストンにしか欲情しない変態の癖に!」

 

 ハッハッハ、ロリムチなら平気だよ僕は。それに無理強いもしないが、合意なら年齢の壁も粉砕するぜ!桜岡さん?彼女はマブダチだぜ。

 

「いやいやいや……自分でシナリオ書いて役に成りきる高田さんには負けますよ。色々と勉強なさってますよね、プリプリキュアとか?」

 

「ふざけんな!知識の探求に作品の年齢制限なんてないんだ」

 

 大人気ないな、高田所長は……

 

「ははははは、お二方の関係は面白いですね」

 

 ニコニコとしながら、僕らの会話を聞いていた斎藤さんが話し掛けてきた。大人気ない僕らに呆れたかな?いや……忘れちゃ駄目だが、彼も聖地巡礼とか言って風俗店をハシゴした猛者だったな。

 

「遅れましたが、私が斎藤です。斎藤探偵事務所の所長をしています。

私も風俗には人並み以上に興味が有り、失礼ながら榎本さんの素行調査の際に行き着けのお店も調べました。

いや素晴らしい選美眼でした。地雷ばかり踏む私にとって榎本さんは尊敬に値します。しかも高田さんのイメージプレイですか!

それはそれで新境地ですね。是非ともお薦めの店を紹介して頂きたい」

 

 しょーも無い話に、凄い食い付いてきたぞ!しかも本気と書いてマジな目だし、何時の間にかメモ帳を開いてるし……

 

「分かるか、斎藤さん?イメクラとはコイツみたいに外見的な特徴に欲情するのではなく、姫(風俗嬢)と二人で楽しむ物なんだ。

セットがチャチかろうが、衣装がテロテロの化学繊維で安っぽかろうが、己のイメージと役にのめり込む事で何とでもなるんだ!

究極のエコでも有る。何たって最悪の姫(風俗嬢)が相手でもイメージで乗り切れるんだ……」

 

 どこがエコだ?単にチェンジが言えない小心者か、事前調査を怠っただけだろ?

 

「それは違う!仮に地雷な姫(風俗嬢)に当たっても、己のイメージで乗り切るなんて可笑しい。

迷わずチェンジか退店だ。そうならない為の事前調査が大切なんだ!アンタも興信所の所長なら事前にもっと調べろよ」

 

「ふん!」

 

 おぃおぃ、鼻で笑われたぞ。しかもヤレヤレ的な表情で缶コーヒーを飲んでるし……

 

「常在戦場。風俗とは常に客と姫(風俗嬢)との戦いなんだ。貴様はチェンジや退店と言うが、それは逃げだ。

与えられた戦力で最大限の効果を発揮出来ねば勝てないんだよ。マダマダひよっこだな……」

 

 より良い風俗嬢を探し出す事が大切なんだよ。何でも良い悪食なんて願い下げだ!

 

「いや金払って楽しむなら、より質の高いサービスを求めるべきだろ?」

 

「資本主義の犬め!」

 

 貴様こそ負け犬め。向上心を忘れ、与えられた物で満足なのか!

 

「何を経済談義で盛り上がっているのですか?榎本さん、今日は確定申告の為に税理士と打合せの筈では?」

 

 白熱した議論の最中に、何故か桜岡さんの声が聞こえたが……幻聴?振り向くとコージーコーナーの袋を持った桜岡さんと結衣ちゃんが居た!

 何時からだ?何処まで聞かれたんだ?心臓がバクバクいって止まらないぞ。

 

「さささささ、桜岡さん?それに結衣ちゃんまで……

 何時から其処に?」

 

 彼女達の表情は笑顔だが、何処から聞いていたによれば、その笑顔の下が恐ろしい。暫し彼女達を見詰めて体が硬直してしまった……

 


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