榎本心霊調査事務所(修正版)   作:Amber bird

19 / 183
第51話から第53話

第51話

 

 郷土史研究家の佐々木氏の自宅を訪ねた。概ね友好的で有り、知りたかった情報の一つである池についての言い伝えを教えて貰えた。

 池でなく鷺沼と言う沼だったけどね。言い伝えを要約すれば、庄屋の息子が遊女を身請けして村に連れて帰ってきた。

 その年に疫病が流行り、医学知識など無い村人は原因が遊女と思い、殺して沼に沈めた。そんな事で疫病が治まる筈もなく、今度は遊女の祟りと恐れ人柱を捧げた。

 なんと救いの無い話なんだ……桜岡さんも悲しそうな顔をしているし。

 

「佐々木さん。このコピーでは1900年代と書かれてますが、この資料の引用と言うか元ネタはなんでしょうか?それと村人と、現在の集落との関係は分かりますか?」

 

 百年前なんて、ちょっと前じゃないか。他に記録が有るかも知れないし……

 

「この話を聞いたのは、地元の古老からだよ。既に亡くなっているが、一時期街の古老に会って色々な話を聞かせて貰った事があってね。

その時の記録だ。もう10年以上前だけどね」

 

 昔語りの出来る古老は亡くなっているのか。

 

「他に話を聞かれて存命な方はいらっしゃいますか?」

 

 同世代の生き残り、つまり若い時に同じ時を歩んだのだから。横の繋がりがないかな?

 

「随分前だからね。連絡を取り合ってなければ分からないが……リストをあげるから、調べてみるかい?」

 

 個人情報の取り扱いの厳しい時代に、すんなりと教えて貰えた。暫く待って古老の一覧を頂いたが、殆ど80歳以上だ。この線は難しいかもしれない……

 

「アナタ、料理の準備が出来ましたよ」

 

 奥さんが声を掛けてくれたので、此処で一旦話を打ち切りになった。

 

「私もお手伝いしますわ」

 

 桜岡さんが奥さんを手伝いに急いで台所へ。何やら一言二言会話をしている。

 

「なぁ榎本さん。あのホテルだが、営業中から良い噂は聞かなかったんだ。オーナーはあの辺一帯の地主の一族だが、周りの住民とは上手く行ってなかったんだよ。

それに国から開発の補助金とかも貰っててな。黒い噂も絶えなかった。桜岡さんは本当にあの廃ホテルで仕事をするのかい?」

 

 新しい情報だ。地主・補助金・黒い噂。典型的な汚職パターンだが、まさか政治家絡みか?

 

「そうしない為の調査です。危険なら、そんな事に関わらせるつもりは有りませんから……」

 

「ふふふ。榎本さんは桜岡さんが大切なんですね。さて、大した物は無いですが行きましょう」

 

 流れ的に僕が車椅子を押してキッチンに向かう。テーブルの上には、ブリの照り焼き・カボチャの煮物・インゲンと卵炒め・麻婆豆腐に中華風サラダとボリュームの品揃えだ。

 小松菜と油揚げの味噌汁と白米をよそって貰う。

 

「「いただきます!」」桜岡さんと二人、遠慮無く頂いた。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 食事を終えて帰る2人を見送る。

 

「アナタ、久し振りに賑やかでしたわね」

 

「そうだな。美女と野獣と思ったが、見た目に反して大食いと人当たりの良い連中だな」

 

「本当に……榎本さんと言いましたか。温泉や珈琲に詳しいし、お話も楽しかったわ」

 

「桜岡さんも、テレビでは高飛車なお嬢様かと思えば随分と優しい感じだったな」

 

 見た目に反して、大食いなお嬢様。見た目に反して、社交的で人当たりの良い筋肉。凸凹コンビが挑むのは、良くない噂の塊の廃墟ホテル……

 

「アナタ、もう少し彼らのお手伝いは出来ませんの?」

 

 子供が独立し寂しい我が家にやって来た、台風みたいな二人を見送りながら思う。もっとお手伝いは出来ないのかと?

 

「そうだな。鷺沼の伝説以外にホテルのオーナーや近隣の集落との関係も知りたがっていたな。老人会で聞き込めば、知ってる奴も居るかもな。もう少し調べてみるか……」

 

 賑やかな二人の為に少しだけ手伝おうと決めた二人だった。

 

「それとアナタ。今晩は店屋物よ。あの二人、お米を8合も食べたの。明日配達を頼まないと、米櫃にお米が無いのよ」

 

 早炊きしてお代わりを用意したのだが、8合で打ち止めだった。普段は二人で1合で足りるのに、一週間分を一食で食べ切る二人……

 

「ああ、まだ余裕が有りそうだったな。少し怖いが彼らと酒を呑んでみたいな。きっとウワバミだぞ」

 

 これっきりで縁を切るには勿体無い二人だ。ボケ防止の為にも、老人の余生には刺激が必要だから……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 佐々木氏の訪問を終えて、タクシーを拾う為に大通りにでる。通過する車は疎らだ……

 

「先程のお話しですが、榎本さんの睨んだ通り管理人が怪しいですわね。それにオーナー一族も」

 

 リアル汚職事件に発展しそうな流れだ。面倒臭くなる可能性が高い。国を相手に心霊騒動は確実に負ける。

 落とし所は……実行犯を潰して手打ちにする事かな。オーナー一族と宗教団体の繋がりにもよるし。

 下手に強固だと手を出すとナンチャラ議員とかが出張ってきそうだし。

 

「明日、興信所の報告を聞いたら、その辺も調べてもらうしかないな。事が議員絡みだと面倒だ。最悪は、僕らに手を出している実行犯を潰して手打ちに出来れば御の字かな……」

 

「あら?鷺沼や宗教団体、廃ホテルの稲荷神社や怪しい神社の件はどうするの?」

 

 うーん、一度関連性を整理しないと大変だな。ある程度、桜岡さんも納得させないとダメだし。「箱」無双で怪しい奴を片っ端から喰っていく、今までの方法は無理か?

 

「敵対しなくて済む連中については考えないとダメだよ。無闇に敵を作れば、それだけ危険なんだ。グレーな相手には放置も考えないと。

明確に敵対するなら潰すよ。どうするの?的な対応かな。

もっとも相手の方が強い場合は、僕らの相手は面倒臭いって思ってくれれば成功だ。汚職絡みだと最悪の最悪は国を相手に争う事になるし。

正攻法でこられたら、幾ら巫女や僧侶の僕達でも心霊騒動を起こして国と対立じゃ100%負けるよ」

 

 丁度前を通るタクシーが捕まったので、乗り込む。

 

「JRの八王子駅まで……」

 

 そう言って後部座席に並んで座り、目を閉じて今後の件を考える。思っていたより敵は強大だ……しかし「箱」の言っていた近くて遠い意味が分からない。

 明日の報告を前にもう少し調べられないかな?

 

「運転手さん。行き先を変更して、八王子市立図書館へ行ってくれるかな」

 

 八王子駅に向かう運転手さんに指示を出し、方向を変えてもらう。八王子市立図書館は、佐々木氏の自宅から駅を挟んで対面に位置する。

 だから駅で止まらずに通過する道のりだ。

 

「榎本さん、図書館で調べものですか?一体何を……」

 

「今日、新しく聞いた情報の裏を取るんだ。八王子市の議員名簿、ホテル開発に携わった連中。

国の補助金が出てるならニュースになるだろう。関係者を洗い出して、興信所に調べなおして貰うんだ。

相手が特定出来れば、相応の対処が出来る。汚職する位なら叩けば埃の一つも出るかも知れないし……」

 

 弱みを掴めれば交渉出来るかも知れない。良くて静観してくれれば、色々楽なんだけどね。

 

「本当に心霊調査をしているのか悩む時が有りますわ。榎本さんって本当に霊能力者に見えませんわ。

脳筋も撤回します。全く何時の間にか政治事件みたいになってますし……」

 

 僕からすれば現地にいきなり乗り込み、その場対応で除霊をする連中の方が凄いと思う。力が弱いから、入念な調査と準備をしないと乗り込む勇気なんて無いからね。

 

「僕は自分が弱いのを知っている。だから万全な準備を整えてから挑むんだ。当然、退路の確保は忘れない。準備万端でも、あっさり負ける事も有るからね」

 

 本物の「箱」と言う化け物を知っているんだ。同程度の連中が居ない訳が無いじゃないか。

 

「自分の弱さを認められるのは本当の強さですわ。弱いと諦めず、それでも足掻く榎本さんは……本当に尊敬していますわ」

 

 そう言って頭を僕の肩にコテンと預けて来た。誉められるのは嬉しいが、恥ずかしい。しかし空気を読んで、暫くそのままの体勢をキープしたよ。

 振り払ったりはしません。間もなくタクシーは目的地に到着し、こちらも空気を読んで無言だった運転手さんが

 

「お客さん。目的地に着きましたよ」と言って不思議な雰囲気はお開きとなった。

 

 漸く桜岡さんは、僕が脳筋じゃないと認めてくれた訳だ。図書館に向かう迄も腕を絡めてくるが、言っても聞かないから好きにさせる。

 全くこんなオジサンに懐いてもしょうがないのにね……一度来て馴れてるから、目的の棚迄移動する。郷土史のコーナーだ。

 

「桜岡さんには此処で鷺沼について調べてくれ。僕は八王子市の議員について調べてくるから」

 

「手分けして探すのですね?分かりましたわ。では……一時間後に此処で中間報告に合流しましょう」

 

 彼女と別れて八王子市の議員について調べる。八王子市が出している書籍になら載っている筈だ。

 議員リストは簡単に見つかった。八王子市の広報が定期的に発行する会報に載っていた。市会議員だけだが、ご丁寧に住所まで掲載されている。

 まぁ地方議員は(建て前上は?)地元住民の声を吸い上げる御用聞きだから、連絡先は公開するのね。後は件のホテルの建設前から潰れた辺り迄の任期の連中をピックアップする。

 その中からある程度の年齢と実績の有る連中は……いや、沢山居るわ。

 八王子市の市会議員定数は40人だが、三割以上が何回も当選している。どちらかと言えば自民党派閥が多いな……定数40人の内に12人が自民党から推薦を受けている。

 後は公明党・共産党・民主党・無所属の順だ。こりゃ興信所に丸投げしようかな。僕じゃ政治的背景とかは理解出来ないし。図書館には有料だがコピー機が有るので、調べたページをコピーする。

 

 次は県会議員だか、これは他で調べた方が早い。此処まで纏めると丁度一時間だ。コピーの束を持ち、待ち合わせの場所に向かった。

 郷土史コーナーの手前で桜岡さんが本を抱えて立っていた。美人さんだから結構目立つ。何人かの若い男がチラチラと様子を伺ってるのが丸分かりだ。

 だって人気の無いコーナーに彼女を中心に、若い男が点在してるんだよ。近くに行くと僕に気付いた彼女が微笑んだ。軽く手を上げて応える。

 

 そして一斉に僕を見る男達……「やはり良い所のお嬢様か。ボディガードが居やがる」「何で筋肉が図書館なんて知的空間に居るんだよ」ヒソヒソと独り言が聞こえるが無視する。

 

「そっちの調べ物は有ったかい?」

 

 名前を出すと拙いと思い敢えて呼ばない。

 

「ええ、鷺沼についての伝承が少し。あと……あの神社についてですが、やはりお寺だったみたいです。この本に周辺の略図が載ってますが、卍のマークが有りました」

 

 僕の袖を引きながら机に誘導する。何故?対面でなく隣に座るんだ?周りの注目度が跳ね上がったのが分かるんだ、雰囲気で。

 

「此処なんです。ほら、榎本さん」

 

 近い、近いよ桜岡さん!腕と腕がくっ付いてますよ!

 

「あっ暑いね、何か?空調効き過ぎかな?」

 

 スーツの上着を脱ぎながら立ち上がり、少し距離を取る。序でに腕捲りをしてムキムキを周りに見せ付けながら、視線を睨み付ける様に周囲に一周させる。

 なる程、知的空間にいらっしゃる方々だけに目を合わせないか……

 

「榎本さん?ちゃんと見て下さい。ほら、この記述です」

 

 腕を掴まれて座らされる。

 

「ちっ!見せ付けやがって……」

 

 捨て台詞や悔しそうな顔をしながら散って行きやがった。何故、結衣ちゃんと一緒の時は親子か兄妹の様にホノボノで桜岡さんだと色事で見るんだよ?

 納得行かないが、年の差を考えるとそうなのか?周りが静かになったので、彼女の調べた報告を聞く為に意識を其方に向けた……

 

 

第52話

 

 八王子山中の鷺沼。1900年頃に悲劇が襲った沼だ。因みに廃仏毀釈は1870年前後だから、この沼の悲劇は怪しい神社が寺から変えられた後の事件だ。

 30年の開きは、鷺沼と神社との関連性が低いと思わせる。しかし桜岡さんの調べた資料では、神社を含む一帯の地主が件の庄屋と思わせるんだな。

 

 庄屋と坊主と神主。

 

 関連性は全く分からないが、廃仏毀釈の前の寺社は荘園と言って敷地外に土地を所有していた。つまり坊主が周辺の土地を持っていたが、廃仏毀釈で庄屋に土地を取られた可能性は有る。

 しかも寺を神社に変えられたとしたら……庄屋の一族を恨む坊主と、お飾りの神主。もし庄屋の末裔が、現代の地主だったら?

 恨み辛みも有るだろう。全くの想像だけどね……地主の過去も調べたいな。

 

 八王子市立図書館を出て、何となく徒歩でJR八王子駅に向かう。二人並んで歩道を歩く……街路樹に葉っぱは無く、冬の日差しを歩道に照らしてくれるので割と暖かい。

 今日の調査は終わり。帰ったら対象の市会議員のHPでも調べてみよう。ある程度の経歴や活動は分かる筈だ。

 

「ねぇ、榎本さん……」

 

 すっかり腕に抱き付く癖がついたのか?桜岡さんが左腕にしがみついて見上げてくる。

 

「何だい?」

 

「ふふふふ。いえ、何でも有りませんわ」

 

 妙にご機嫌だ……彼女と二人で15分も歩けば、JR八王子駅に到着。そのまま横浜まで向かう。

 横浜線は開発途中の場所を通過するので、車窓からは宅地造成の合間に長閑な田園風景が見える。牛舎とか有るんだぜ。有名な濃厚ソフトクリームを食べさせる牧場も有る。

 都会から30分で田舎なんて凄いと思う。JR東神奈川駅に到着し、乗り換えて横浜駅まで。

 帰るには一旦JRの改札を出て京急電鉄に乗り換えるのだが、結衣ちゃんから地下街ポルタに新しいパン屋が出来たのでクロワッサンが食べたいとお願いされている。

 改札を出て左側に進むと、どうやらポルタは改装工事中らしい。地下街に入るエスカレーターの周辺に仮囲いが立ち足場が組んである。

 

「前に桜岡さんと待ち合わせた時は、工事してなかったのに……何が出来るんだろう?」

 

 エスカレーターの前には、「横浜の歌」と言う陶板で出来た壁画が有ったんだが……

 

「ポルタは30周年の大改装らしいですよ。何でも有名なアーティストにモニュメントを頼んでいるらしいですわ」

 

「モニュメントねぇ?横浜に縁のあるテーマか、全く関係ないアート作品か……まぁ楽しみだね。結衣ちゃんを連れて一緒に行くかい?」

 

 無言で絡める腕に力を入れてきた。肯定って事だな。でも、確かに店舗の入れ替えも多いみたいだ……

 三國屋善五郎に東京純豆腐、それにタリーズコーヒーと新店舗が連なる。そしてメインの出入り口に新しいモニュメントね。多分クリスマス商戦の前に御披露目かな?

 などと考えながら、養生された階段を降りる。インフォメーションを左側に曲がると、リトルイタリーゾーン。

 イタリア感溢れたレストラン街に入る。クンクン、あれ?既にパンの焼ける匂いが流れてるぞ?地下街なのに厨房換気を通路に垂れ流して良いのか?

 お腹を直撃する匂いを辿ると目当てのパン屋を発見。

 

「ジャンフランソワ……これか!しかし入り口脇に堂々とオーナーの写真を飾るってどうなんだ?」

 

 レジ前の壁にA1サイズの額に外人のオッサンの腕組みをしたパネルが?

 

「いかにもなイタリアンシェフですわね。恰幅良くて……」

 

 桜岡さんの評価も微妙みたいだ。でも彼女って自分の写真を部屋に飾るんだよな。人気の店らしく何人ものお客さんが出入りしていた。

 

「イートインも有るのか……2〜3個味見してく?」

 

「勿論ですわ!」

 

 輝く笑顔で同意された。二人別々にトレイとトングを持ち、陳列コーナーへ。僕はお土産用、彼女は此処で食べてく用のパンを見繕う。

 頼まれていたクロワッサンを10個、それにミートパイとホカッチャを各10個……もうトレイに乗らないや。

 桜岡さんは2個ずつ色んなパンを乗せている。

 

 レジに並び店員さんに「会計は一緒で。こっちは持ち帰り、こっちはイートインで食べるから。あと紅茶二つホットでね」目を見張る店員が、裏から増員を呼び出し二人掛かりでパンを袋に詰める。

 

「ごっ合計が……17850円になりますが」

 

 クロワッサン一つ400円だしな。それ位になるわな。現金で支払い、先に席をキープしていた桜岡さんの元へ行く。

 直ぐに店員さんが紅茶を運んでくれた。大皿二つに山盛りのパン。周りのお客もビックリして注目しているな。まぁもう馴れたけど……

 

「「いただきます!」」

 

 先ずはナッツ類とドライフルーツを練り込んだパン。フルーツの酸味とナッツの食感が中々の逸品だ。

 次はフレッシュチーズに煮込んだ木苺のジャムを乗せたパン。チーズにベリー系は合うね。これも美味だ。

 

 次は……各自8個ずつのパンを完食。

 

 途中、頼んでないのに珈琲を持ってきてくれた。何でも大量に美味しそうに食べてくれたので、店長からのサービスだそうだ。

 ガラス張りの店内で美人とオッサンがバクバクとパンを食べれば、口コミ位にはなるかって?焼きたてのパンは、どれも美味しかった。

 桜岡さんのチョイスは中々安心出来るな。多分だが、味覚の好みが一緒なのだろう。

 佐々木氏の昼食も食べ過ぎだが、最近彼女と同行してると良く食べるんだ。今夜も筋トレが必要だな……

 最近気になりだしたお腹周りをさすりながら思う。向かいに座る彼女のお腹周りに変動が無いのが、凄く不思議なんだけど……中年太り回避の為にも運動しなくちゃ!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 高田調査事務所。

 

 僕も榎本心霊調査事務所と調査事務所の所長だが、彼は純粋に人間を調べる興信所の所長だ。長身の上に痩せ気味で猫背。

 何時も黒のスーツにノーネクタイ。髪型はボサボサで表情は荒んでいる。所謂チンピラの兄貴分なんだけど、良い大学の法学部を卒業している遣り手だ。

 配下に20人の調査員と4人の事務員を持つ中堅調査事務所の所長だ。因みに調査員はバラエティーに富んでいて、主婦・ニート・サラリーマン・ガテン系職人・冴えない中年オヤジ、それにボディーガード専門の筋肉隊と逆に凄い面子なんだ。

 彼らは調査員とは思えない出で立ちだから、調査対象者が気付かない。メインは浮気調査だが、荒事もOKの頼もしい奴だ。

 知り合ったのは、彼の配下の男が異常な行動をして謎の死を遂げた。真相を調べる為に、伝手を頼りに僕に仕事を頼みに来たんだ……

 

 あれは浮気調査として依頼を受けたのだが、調査対象の旦那の様子がおかしい。何故か電気の点いてないアパートの一室に、毎週定期的に訪れては帰る。

 しかし部屋の電気を点けないらしい。その部屋に出入りしている写真と、相手の女性の写真を撮れれば調査完了。

 しかし、その部屋には人の気配が無い。電気のメーターも動いてなければ、洗濯物も無い。周りの住人に聞けば、確かに女子大生が住んでいる筈なんだが……

 業を煮やした調査員は、その部屋を直接訪ねてみた。ドアをノックしても返事が無い。

 ダメ元でドアノブを回すと……鍵が掛かっていなかったそうだ。

 扉を開くと中が薄ぼんやりと見えるが、確かに若い女性が住む様な感じの部屋だった。若い女性独特の甘い匂いが鼻腔を擽る……

 匂いに釣られ魔が差した調査員は、部屋の中に入ってしまった。ビデオカメラを構えて、せめて証拠となりそうな物を物色する。

 ワンルームのその部屋は、玄関から入ると右側にミニキッチン、左側にバス・トイレ。そして奥が8畳程の洋間になっていた。

 ミニキッチンには食器類が綺麗に片付けられている。バスルームは半透明の扉が閉まっており中は伺えない。

 電気を点けると外から侵入がバレる為に、薄暗い室内をゆっくりと観察しながら歩いて行く。

 

 時刻は17時過ぎ……そろそろ日没だ。

 

 奥の洋間を調べる。箪笥を開けると女性の下着類が綺麗に畳んで仕舞われている。思わず手に取って確認するが、派手な下着は無く大人し目な物ばかりだ。

 小物入れにも化粧品やCD等が整理整頓されている。CDはクラッシックや女性ボーカルの物が多い。とうやら彼女は几帳面で控え目な性格の様だ。

 ふっとテーブルを見ると、写真立てが有った。薄暗い中で目を凝らして見ると、両親らしき年配の男女に挟まれて写る若い女が写っていた。

 

 彼女が浮気相手か?

 

 ふっくらとしてお世辞にも可愛いとも美人とも言えないが、独特な愛嬌の有る顔立ち。次にベッドの周りを調べる。

 避妊具とかが用意してあれば浮気は濃厚なんだが、何もない。調査対象者は、一体この部屋で何をしているんだろう?

 一通り調べ終わり、ふとカーテンを開けて窓の外を見ると調査対象の夫が歩いて来ている。

 

 おぃおぃおぃ何故だよ、今日は部屋を訪れない日の筈だろ?しかも勤め先から此処に来るのも早過ぎる。

 

 動悸が激しくなり、冷や汗が全身から噴き出す。不味い不味い不味い。今から部屋を出ても鉢合わせだ!

 不法侵入なんて警察沙汰だし、浮気調査自体が失敗に終わる。とっさにバスルームに入り、扉を閉めて身を潜める。直ぐに玄関を開ける音がして、男の気配を感じた。

 鍵を掛けず、靴を脱ぎ真っ直ぐ部屋の方向へ歩いて行った。

 

「ああ、今晩は!また来たよ」

 

 誰も居ない筈なのに、何かに話し掛けている?まさか、ね。独り言の様な会話が、一方的に続く。このまま隠れていても埒があかない。

 ダッシュで逃げるしかあるまい。覚悟を決めてユックリと扉を開けて、音がしないように細心の注意をしながらバスルームを出た。

 あの男は部屋の中に居るのに、電気も点けずに何か話している。電話でもしているのか?不思議に思い声に意識を集中すると、やはり電話みたいな一方的な会話だ。

 

 シメタ!電話に夢中なら逃げ出す時に此方を気付くのが遅れる筈だ。

 

「うん、呼びに来てくれて有難う。これからは時間を気にせず来れるよ」

 

「そうだよ。ずっと一緒だ。邪魔なアイツは処分してきたから……」

 

 随分と物騒な会話だぞ!もしかして、あの男は犯罪者でこの部屋は犯罪に関係の有る連中のアジトか?

 これは急いで逃げないとヤバい。意を決してバスルームから飛び出し、靴を履かずに手に持ってから玄関扉を開けた。

 一瞬、室内の様子を伺うと……こんなに音を立ててるのに、男は後ろを向いて座ったままだ。

 まだ電話の相手と話している……電話?いや、アイツは携帯電話を持っていない。

 ただ部屋の真ん中に向かって話し掛けているだけだ。

 

「ああ、妻はさ。金鎚でブッ叩いてきたよ。もう邪魔はさせないさ。誰にもね……」

 

 嬉しそうに話し掛ける相手は、部屋の中央にボンヤリと浮かぶ「何か解らないモノ」だった。複数の女の体が溶けて混じり合ったみたいな、顔が4つ以上くっ付いている不気味なモノ……

 さっき写真で見た女の腹と右肩と左腕、それに頭にそれぞれ別の女の顔が付いている。

 

 ナンダ……アレハ?

 

「ばっ……バケモノ……」

 

 無我夢中で部屋を飛び出して気がついたら公園のベンチに座っていた。カバンもビデオカメラも無く、裸足で走ったから靴下は破けて血が滲んでいる。

 幸い靴は手に握っていた。上着のポケットに財布は有ったので、事務所までタクシーで帰ってきて所長に今見た全てを報告した。

 調査対象者はバケモノに魅入られていた、と。複数の女が交じり合った何かが、部屋の中心に浮かんでいたんだ!

 最初は笑ったそうだ。馬鹿な事を言うなって。今日は真っ直ぐ帰って酒を飲んで寝ろ。

 

 そう言って送り返したんだ……馬鹿みたいだろ?

 

 調査事務所の所長がさ、部下の言葉を信じないで調べもしなかったんだぜ。ソイツは翌日から会社に来なくなった。自宅に行っても不在。

 携帯に電話しても繋がらない。しかし数日後、警察から連絡が有った。

 彼の担当した浮気調査を依頼した奥さんが、自宅で頭を鈍器で殴られて死亡。旦那は、例のアパートで変死体で見つかったそうだ。

 そこには担当者の彼も変死体で発見された。日本の警察は優秀だ。家宅調査で浮気調査の依頼を調べ上げて連絡をしてきたらしい。

 しかも浮気相手と思われるアパートも直ぐに見つけ出した。死因は不明。高田所長は後悔した。

 

 何故、あの時もっと親身に聞いてやらなかったのか?

 

 何故、信じてやらなかったのか?

 

 真相を調べる為に僕に調査を依頼してきたんだ。それ以来の付き合いだ。だから彼は心霊を信じている心強い協力者なんだ。

 

 

第53話

 

「office sakuraoka」

 

 京急電鉄上大岡駅近くに有る桜岡さんの事務所だ。僕らが狙われているのが分かってから、バイトの子達は休ませている。

 しかし仕事をしている訳だから、何時までも不在と言う訳にはいかない。だから桜岡さんは一週間振りに出勤した。僕を同伴で……

 彼女が留守電やメール、FAXを手際良く処理している中、僕の仕事は結界を張る事。それと怪しい郵便物の処理だ。

 

「ねぇ?何で捺印済みの婚姻届とか送ってくるの?馬鹿なの?」

 

 本人らしき写真と熱烈なラブレターが同封の婚姻届が何通か……結構なイケメンからオタっぽい人とかいる。

 

「さぁ?燃やして下さい。安心してね、一度も会った事有りませんから浮気の心配は有りませんわ」

 

 会った事もないのに結婚したいの?

 

「この妙に手作り感満載のお菓子とか小物は?ヤバい気配するよ、コレ。念が籠もり過ぎてる……」

 

 何か呪詛みたいな物に昇華しそうな念だな。特に、この小物入れとか……

 

「基本的に知らない人からの食べ物類は破棄。手作りの品物は返品してますわ。宅配便の不在通知を連絡したので、その時に序でに返品して下さい」

 

 郵便受けに入りきらない宅配便は、これから来るのか?自分のデスクでパソコンで文字をカタカタ打っている彼女が、此方を見ずに応える。

 毎度の事なんだ……流石はお茶の間で有名な梓巫女だな。ディープなファンが居るのか。

 確かに返事が欲しいコイツ等は名前も住所もバッチリだ。

 

「榎本さん、その引き出しに着払いの伝票が有りますから記入お願いします」

 

 送り返すけど、代金は相手持ちは当たり前だな。ちゃんと桜岡さんの名前と住所が予め印刷されている伝票の束を取り出し溜め息をつく……

 

「たまに有る名前しかないヤツは?」

 

「破棄して下さいな。気持ち悪いですわ」

 

 はいはいと、相手の住所・名前を伝票に記入していく。一週間分だから結構有るなぁ……書き終わった頃に不在通知の連絡で来た追加の荷物を受け取り、返品の荷物を渡す。

 宅配ボックスに収まらない荷物だが、何でカート一杯有るの?ガサガサと包みを開けていく。一応、金属探知機も使ってるけどヤバい気配は霊能力者として何となく分かる。

 

「ねぇ?高そうなブランド品の財布とかバッグが出てきたよ。コレも返品するの?」

 

 GUCCIとか僕でも知ってる有名なブランドだ。

 

「捨てて下さいな。そんな物は使えませんから……あの子達はリサイクルショップに売ってましたけど、私は要りませんわ」

 

 捨てる?コレを?贈り主は哀れだな……でも勿体無いかな?

 

「じゃヤバい念が無い物は分けておくから、バイトの子が来たら安全な方は売りなよ。流石に勿体無いし……」

 

 手に取ってヤバい念が無いか確認しながらより分ける。途中、割と高そうな革製のバッグを手に取り……

 

「ん?コレは……何だ?」思わず落としてしまう。全身に警戒の為かサブイボが……コレ、呪詛が仕込まれている。

 直ぐに落としたバッグを中心に清めた塩で円を描く。次は贈り主だが、送り状を確認すると名前も住所も書いてある。

 

 鈴木一郎、市内在住。

 

 あからさまに偽名だ。包装紙ごと折り畳んでクリアファイルにしまう。手書きだし筆跡鑑定か指紋は取れるかもしれない。

 

「さて、桜岡さん。呪詛の籠もった品物が来たよ。対処するからコッチを注意してね」

 

 愛染明王の札をバッグに貼り付けから、清めの塩の結界円を2m程広める。結界の中に入りバッグを手に取る。先ずは蓋を開けたりポケットを開けて内容物を調べるが……

 何も入ってない。桜岡さんからハサミを受け取り、バッグを分解していく。高そうで勿体無いが、大抵は底に仕込んで有る筈だが何も無いな。

 側面の内張りの布を剥がすが、特に何も仕込まれてない。しかし嫌な感じは……

 

「ん?何だ、この皮の内側は……」

 

 内張りを剥がした革の内側には、茶色の革に目立たない様に薄い墨でビッシリと呪詛が書かれている。桜岡さんに、その部分を見せる。

 

「何て事を……」

 

 それを見た彼女が息を呑む。梵字で書いてある内容は女性・当年25歳、そして梵字で桜岡霞。つまりピンポイントで彼女を狙っている訳だ。

 知らずに彼女が手に取ってしまったら、呪詛が発動してしまったかもしれない。

 

「心配いらないよ。子供騙しの呪詛だ……返すのは難しいが無効にするのは簡単だ」

 

 梵字の呪詛なら解除は簡単だ。梵字の内容や配置で効果を発動する呪いなら、効果を無効にするには……ハサミで梵字の書かれた部分を細切れにすれば良い。

 バラバラにされた梵字は、意味を成さないからね。これで呪いは発動しない。清めた塩を大量に入れたビニール袋にバッグの残骸を入れて口を縛る。

 後は燃やして灰を川に流せば良い。残りの宅配便の荷物を確認すると、同様の仕込みをした財布が見付かった。

 これも細切れにして同じ袋に突っ込む。

 

 コッチの送り状には、山田一郎か。住所も書かれているが、筆跡は同じに見えるな。

 

「桜岡さん。こいつを処理するから出掛けるよ。大岡川か平作川に灰は流すとして、何処で燃やすかな……」

 

 横浜市も横須賀市も野焼きは認められてない。つまり焚き火は違法行為なんだよね、ダイオキシンとかの問題で……

 

「桜岡さん、危ないから独りに出来ないな。仕事は終わった?まだなら待つから」

 

「あと30分待って下さい。転送手続きが済みますから……」

 

 彼女の仕事が終わるのを待ち三浦の隠れ家に寄ってバッグを燃やしてから、灰を平作川に流した。奴らは着実に僕らを追い詰めている。敵の特定を急がないと危険だ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 高田調査事務所との打ち合わせは、横須賀の僕の事務所にて行う。自宅は結衣ちゃんに、要らぬ心配を与えるからね。

 呪いとか、そんな単語を聞いたら不安になるから。午後5時丁度、高田所長が分厚いファイルを小脇に抱えて訪ねてきた。

 

「おう!榎本、久し振りだな」

 

 独特の猫背で暗く低いボイスで挨拶をされた。不思議と良く聞き取れるんだよな。

 

「おう!良く来たな、まぁ入れよ」

 

「初めまして、高田さん。桜岡です」

 

 取り敢えず応接セットに通す。桜岡さんが日本茶の準備をしてるので、本題には入らないで雑談をする。

 

「最近は忙しいのか?」

 

「いや、浮気調査ばっかりだな……全く世の男共は情報秘匿能力が低過ぎだな」

 

 確かに浮気をしてる気配が有るから調べられるんだ。上手く誤魔化していれば問題無いか?

 

「まぁ、それだけじゃないだろ?僕らの知り合った切欠とかさ」

 

 僕に仕事を依頼してきたのは、彼の配下の調査員が不審な死を遂げたからだ……単なる浮気調査だと思っていた。

 しかし結末は最悪。依頼者の奥さんは、旦那に撲殺された。調査対象者の旦那は、既に亡くなっていた女の部屋で不審死。

 調査員も何故か同じ部屋で不審死。警察沙汰になったが、証拠不十分で不起訴。そもそも部屋の持ち主は病死していて、両親が遺品の整理に取り掛かる直前だった。

 死んだ女と調査対象者も調査員も接点は見つからなかった。

 

 真相は……あの部屋には問題が有った。

 

 過去5人の女性が亡くなっている。病死に事故死に自殺等、入居一年以内にだ。普通は、こんな部屋には入居したくないだろう。

 しかし彼女の前に二人の男性が住み、問題無く引っ越していった。不動産屋が事故物件として報告する義務は直前に住んでいた人についてだけ。

 三人前の女性が自殺した事の報告の義務は無い。そして今回入居した女性は病死。

 流石に六人もの女性が亡くなったんだ。不自然だと感じた大家は、その部屋を封印した。

 僕はその部屋で亡くなった遺族から、最後の場所で読経をして欲しいと依頼された。彼は勤め先の所長で同席させて欲しいと説明し、部屋の鍵を借りた。

 既に荷物は無く封印された部屋なので、問題無く貸してくれたんだ。大家さんも坊さんが読経してくれるならと言う気持ちも有ったんだろう。

 そして問題の部屋に入り、結界を敷いて読経を開始した。結界は四方に清めた塩を配し、お神酒を部屋の四隅に軽く撒く。

 お札を壁面全部に貼り付け、洋間の中心に向かい読経を開始する。暫くすると煙が立つ様に「ナニカ?」が揺らめきながら現れた……コイツが女性達を死に追いやり、調査員を取り殺した元凶だ!

 

 最初に自殺した女の怨念が、後から部屋に住んだ女達を殺して取り込んだんだ。僕には奴らに対抗する牙が有る。

 

 怨念を無事に祓う事が出来た。まぁ高田所長は腰を抜かしていたけどね。失禁しないだけマシだったのだろう……アレは僕でもグロテスクだったからな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「何だ?ニヤニヤしやがって……」

 

「いや、初めて会った時の事をね。うん、頑張ったよな」

 

「でめぇ?まだあの時の事を……」

 

「粗茶ですが……何ですか?榎本さん、からかっては駄目ですわ」

 

 タイミング良く彼女がお茶を配り、僕の隣に座った。

 

「何か妙に馴染んでるな……アンタら付き合ってるのか?」

 

 ニヤニヤしながら、トンでも無い誤解をしやがって!仕返しのつもりかよ?

 

「ええ、そうですわ」

 

「何を馬鹿な事を言うんだよ。桜岡さんが困ってるだろ?」

 

 アレ?順番ガ逆ダヨネ?困ッテルダロ?ハイ、ソウデスワダロ?隣の彼女を見ると、済まして日本茶を飲んでいる。

 

「クックック……あのロリコンの榎本が、お嬢様とだと?グハッ、笑えねぇ冗談だよな」

 

 腹を抱えて本気で笑いやがったな!しかも目尻に涙を浮かべて呼吸困難気味じゃないか?ソファーから立ち上がり、この無礼者を肉体言語で分からせて……

 

「はい、榎本さん。駄目ですよ、座りましょう。高田さんも真面目に報告をして下さいな」

 

 手を掴まれて座らされた。駄目だ、最近の桜岡さんには逆らえない感じだ。

 

「こほん……報告を聞こうか?」

 

 黙って分厚いファイルを二冊手渡される。報告書な正副二部が基本だからな。黙って一冊を桜岡さんに手渡す。

 

「まぁ、読みながら聞いてくれ。先ずは宗教団体の件だが、神泉聖浄(しんせんせいじょう)って神道系の奴を教祖にした関西系の団体だ。

勿論、良い噂は聞かないな……」

 

 神泉?聞いた名前だな……確か僕が駆け出しの頃に壷だか判子だかを脅して買わせる、質の悪い団体の教祖と同じ名前だ。

 しかも霊の取り憑いた壷を買わせて霊障を引き起こし、それを教祖が祓い金を巻き上げる奴だったな。確か除霊を頼まれた他の霊能力者に叩きのめされたと聞いたが……

 

「なぁ、ソイツは悪どい霊感商法で話題になり同業者に叩きのめされた奴か?」

 

「10年前に霊感商法で詐欺紛いな事をしたのは、兄の聖光(せいこう)の方だ。摩耶のヤンキー巫女に完膚無きまでに叩きのめされたんだよな」

 

 兄?摩耶のヤンキー巫女って、ケバい金髪巫女の事か?噂では関西の摩耶山に縁の有る巫女だと聞いていたが……

 

「そうか、兄弟揃って問題児かよ」

 

「弟の聖浄は遣り手だぞ。信者を確実に増やし、潰れた教団を立て直したんだ。やり方も巧妙だぞ。

若手信者を兎に角団体でボランティアや町内会等のイベントに参加させるんだ。継続して参加していれば、相手もアテにする。

そこから布教を始めるんだが、それも巧妙だ。友達になってから、少しずつ教団の教えを仕込む。

ボランティアに参加する教団のイメージは良いよな。しかもボランティア団体も既に貴重な人材だから無碍には出来ない。だから引っ掛かる奴が多いそうだ……」

 

 何て巧妙な手口だ。これはチンケな連中どころか、相当ヤバいな。しかし何故?奴らは桜岡さんを狙うんだ?

 




 皆さんメリークリスマスです。今年も後僅かですがお互い体調に注意して年を越しましょう。
 沢山の復活祝いコメント有難う御座います。
 未だ誤字脱字等が多く未修正ですが、再投稿物なので修正は時間が取れたら順次直しますが投稿スピードの方を優先させて頂きます。
 年内は3話づつ3回(計27話分)位を目処に頑張ります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。