榎本心霊調査事務所(修正版)   作:Amber bird

16 / 183
第42話から第44話

第42話

 

「八王子市立図書館」

 

 鉄筋コンクリート4階建の立派な建物だ。1階は受付と市民ホール。2〜4階が図書館。

 4階にはカフェを併設している。過去の新聞等は地下1階で閲覧出来るが、これは紙ベースでなくデータ閲覧だ。

 貸出しなければカードは不要の為、そのまま地下へ行きデータ閲覧を申請。モニターで見れるとの事で、個室ブースで調べているが……それらしい事件は結構見つかった。

 

「廃業したホテルで自殺相次ぐ。八王子市内に有る廃墟となったホテルで男性が首を吊って自殺しているのを、廃墟探訪を趣味とする人が見つけ警察に通報。

遺書が有り、警察は自殺と断定」

 

「またもや廃墟ホテルで自殺?また廃業したホテルの敷地内に有るプールで女性の水死体が発見された。通報者は同ホテルの管理会社社員で、巡回中に野外プールで女性が浮いているのを発見。

警察に通報するが既に死後一週間程度が経っていた。遺書らしき物は発見出来ず。

 

 折からの雨でプールの水位が上がっており、点検し水抜きをする為に訪れて発見する」

 

「地元で有名な廃墟ホテルで住民から苦情。廃墟ブームにより都心から近いこの廃業したホテルに若者が集まり、地元住民の迷惑に……」

 

 どうやら事前にネットで調べた情報と少し違う。自殺又は自殺と思われる2人は、共にホテルが廃業後だ。

 子供の霊って話は無いが、プールで女性が死亡している。子供の方だが、此方の事件の変化だろう。

 

「行方不明の小学五年生の女児、八王子山中の池で遺体で発見される」

 

 事件・事故の両方で捜査中だが、見通しは暗い……八王子周辺には池は多い。

 発見場所はあの池とは限らないけどね。ただ水に絡んで二人も女性が死んでいる。偶然とも思うし、偶然じゃないとも思える。

 後は宗教絡みの件だが、此方はサッパリだ。きっと新聞に載る様な事件は、起こしてはいないんだろうな……

 

「もう4時前か……予定をオーバーしちゃったな。結衣ちゃんにメールして帰るか」

 

 彼女が学校に帰る前に戻る予定だったが、気が付けば3時間近く経ってしまったか。

 

「結衣ちゃんへ

八王子の図書館で調べ物が有り、思ったより時間が掛かってしまったよ。

これから帰ります。多分6時前には着くから。何かデザート買って帰るね。 榎本」

 

 メールを送信し図書館を後にする。デザートか……気の利いた店は、この辺には無かったな。

 横浜横須賀高速道路のインターで何か買うか?確か三浦メロンゼリーとか有った筈だ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 お風呂を沸かす時間が無かったのでシャワーで済ます。昨夜も携帯セットでメイク落としやお肌の手入れは行ったけれど、やはりお風呂に入れないのは嫌だわ。

 あの時は、其処までノンビリ出来なかったから仕方無いのだけれど。今度、温泉でも一緒に行きたいわね。

 あの件を請けるなら近くに温泉が有った筈ですし、そこのホテルか旅館をベースにすれば……手の甲でシャワーの温度を確かめてから全身の汚れをお湯で洗い流す。

 

 先ずはシャンプーね。

 

 自慢の黒髪を梳く様にお湯で洗ってからシャンプー。そしてリンスを全体に薄く塗り伸ばす。軽く纏めてタオルを巻き、リンスの成分が行き渡る間に体を洗う。

 不要な毛の処理をしてから、リンスを洗い流し体全体もシャワーで綺麗にする。

 

「ふぅ、サッパリしたわ……」

 

 体を拭いて下着を付けたらガウンを羽織り私室へ行く。途中キッチンを見れば、お母様が朝食の準備をしてくれてる。

 派手な外観の癖に家庭的な料理でお父様のハートを射止め後妻となった。お父様曰わく、ギャップ萌え?だそうだが……私の場合だと、何がギャップ萌えになるのかしら?

 知的で古風、清楚なお嬢様の私だと……雌豹の様なセクシーさかしら?それともお馬鹿なお色気とか?どちらも私には無理だわ。

 

 それに榎本さんってお色気タイプには興味が薄そうな感じがしますし……ムッツリって感じもしないのは、流石は聖職者って事よね?

 結婚しても浮気の心配は低いかしら?髪を乾かしお肌の手入れをしてからキッチンへ……

 テーブルには、肉じゃが・鯖味噌・ほうれん草のお浸し・だし巻き卵・具沢山味噌汁にご飯が盛られているわ。

 まさに男性が求めるお袋の味ね。テーブルの向かいに座る。

 

「昨夜アンタが帰ると思って用意したのよ。それを朝帰りとは……」

 

 日本茶を淹れた湯呑みを渡しながら愚痴を言われたけど、小腹も空いたので黙って頂く。

 

「ねぇ、聞いてるの?お見合い話を断ってるのも筋肉君のせいかしら?

確かに丈夫そうだけど、定職についてるんでしょうね?余りお金の稼げる職業には就けなさそうだけど?」

 

 うん、本当のお母様は料理などしなかったから、この料理がお袋の味ね。ありふれた料理なのに、暖かくて美味しいのは何故かしら?

 

「お母様、おかわりを頂けますか?」

 

「ったく、もう。アンタの大食いを相手は知ってるのかい?」

 

 お茶碗に山盛りのご飯を受け取る。

 

「ええ、榎本さんも同じ位食べますわ。最も同じと言うか一度も勝てませんでしたが……」

 

 リベンジはスィーツ!他のジャンルでは勝てそうに無いんですもの。

 

「へぇ……霞の大食いにもドン引きせずに、それ以上に食べるのかい?」

 

 ドン引き?嫌だわ、そんな表情なんてした事も無いわよ。私達にとっては当たり前な事なの!

 

「お母様、おかわりを頂けますか?二人で何度も食事をしてますが、一度も驚いたりしませんわ。寧ろ足りない?と気遣いをされます」

 

 大盛り茶碗を受け取り、残りのオカズに挑む。

 

「霞の話だけ聞いてると、筋肉君がベタぼれって感じだねぇ……色事に疎いアンタが男を手玉に取るとは思えないけどね」

 

 最後のだし巻き卵を口の中に押し込み咀嚼する。日本茶を飲んで一息。

 

「御馳走様でしたわ。では私と榎本さんの関係をお話しますわ。

アレは長瀬綜合警備保障から仕事のオファーが有った時に、初めてお会いしましたの……」

 

 私と榎本さんとの関係をお母様に説明しだした。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 榎本心霊調査事務所、所長榎本正明。30代前半、筋肉質で短髪。残念ながら美男子ではないが、あの子は気にしていない。

 昔は面食いだったのに、見た目よりも中身に惹かれた感じかしら?

 嬉しそうに筋肉君の事を説明しているが、彼氏と言うか男女の関係にはなってないわね。

 

 この子は「躾の行き届いたクマさん」と表現しているけど、中々どうして喰わせ者よ。

 

 一端の経営者らしく契約を重んじるのは感心した。霊能力者って丼勘定ってイメージが有るもの。値段は有って無い様なあやふやな感じだった。

 霞もそうだったわ。そんな怪しい仕事だけど、一般的な常識を教え込んでくれた事には本当に感謝ね。

 このバカ娘の仕事スタイルを今聞いて恐ろしくなったもの……その辺を指導出来るのは筋肉君の仕事スタイルがシッカリしてるから。

 不動産屋や警備会社の専属って事は、確かな実績と能力が有る訳ね。

 

「でね、私が相談に乗って欲しいってお願いしたら、勝ったら話を聞いてやるってフードバトルを挑まれて……

でも結局負けたのに相談に乗ってくれて。テレビ局との交渉にお祖父様まで連れて来てくれたのよ」

 

「お祖父様って?さっきは天涯孤独って言わなかったっけ?」

 

 下心無しで、此処まで面倒をみるかしら?善意だけじゃないわ。何か、何か筋肉君は霞に対して考えが有る筈ね。

 それが恋愛感情かは分からないけど、聖人君子じゃ有るまいし善意の枠を越えているわ。

 

「ご家族の方は既にお亡くなりになっていますが、昔から家族ぐるみでのお付き合いの有る方なんですって。企業関係の個人弁護士事務所をなさっていて……」

 

 弁護士ですって?

 

「霞、アンタ榎本さんにちゃんとお礼したの?幾ら知り合いだからって、現役弁護士を同行させたとなれば、相応の料金が……」

 

 ハッと気付いた様な顔をしたわね。つまりお礼はしていないのか……

 

「でっでも、昨日も調査に同行して貰いましたから一連の費用は全て請求して貰いますから……その……」

 

 社会に出て紛いなりにも仕事をしているから成長したかと思えば……どこか世間知らずなお嬢様の部分が残ってるわね。

 

「筋肉君……いえ、榎本さんね。善人過ぎるでしょ?霞、何か榎本さんに求められているの?」

 

 この子の体が目当てなのか、それとも逆玉狙いか?恋愛感情無しで此処まで面倒を見るなんて、怪し過ぎるわよ。

 

「そんな事は無いわ!身寄りのない結衣ちゃんを引き取れる人だもの。とっても優しい人なのよ」

 

「結衣ちゃん?なに、榎本さんて子連れなの?アンタ、その子に会った事が有るの?」

 

 おぃおぃおぃ……身寄りのない子を引き取るって素晴らしい事だけど、ボランティア精神溢れる人と付き合うのは金銭面で苦労するのよ。

 家族へ向ける愛を周りにバラまくだけなの。愛には限りが有るのよ。

 

「榎本さんが素晴らしいのは分かりました。でも貴女は桜岡家の跡取りなのよ。軽はずみな行動は控えなさいな」

 

 恋愛に疎いこの子がズブズブにハマった男は、ボランティア精神溢れる偽善的野郎か……確かに正義感の強い霞には堪らない相手ね。

 全く厄介だわ……でも霊能力者で榎本って、私が現役の時に噂になった男じゃないわよね。

 

 荒んだ狂犬みたいな男。誰も寄せ付けない一匹狼。

 

 金に執着せず霊達に八つ当たりする様に除霊するタイプの男と記憶しているわ。とっても霞の言う躾の行き届いたクマじゃないわ。別人よね?

 

「はいはい、分かりましたわ。でも榎本さんとは別れませんわよ」

 

 アバタもエクボ、箸が転がっても可笑しい年頃。つまり今は何を言ってもダメな時期だわ。

 

「好きになさいな。また来るわ」

 

 榎本心霊調査事務所か……気になるわ。帰ったら早速興信所に調べて貰いましょう。

 

 数日後、彼女は驚愕の調査結果を知る事になる。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 桜岡本家。

 

 関西でソコソコの歴史を持つ名家で有り、事業が成功している金持ちだ。その後妻に収まったのは、商売敵から呪詛をかけられた為に雇った霊能力者だった。

 彼女も霞と同様に梓巫女として活動しており、霞の師は彼女が紹介した者だ。つまり姉妹弟子の関係。

 

「奥様、ご依頼の調査報告です」

 

 幾つか有る客間に通されたのは、馴染みの興信所所長。彼の調査能力は高い。

 

「有難う。確認させてもらうわ」

 

 分厚いファイルを受け取る。何ページか読み進めていけば、やはり記憶に有る狂犬と同一人物だ。

 

「あの狂犬が落ち着いた物ね……」

 

「はい。とある少女との出会いから急激に変わった様です」

 

 とある少女?更に報告書を読み進めると、数枚の写真が。小学校の高学年位と制服を着た中学生位の少女。

 同じ少女に思うけど……彼女の写真を見せる。

 

「報告書に有ります彼女は、細波結衣。榎本氏が引き取り現在同居してます。

性的虐待等は無いと思われます。何故なら彼女は実の母親とその男達に虐待を受けてました。幼い頃の写真がそうです」

 

 手元の写真を見る。確かに幼い頃の写真の表情は、どこか暗く不の気が纏わり付いている。

 

「ですが引き取られた後は各段に明るくなっております。近隣住民や民政員、学校にもそれとなく聞き込みましたが概ね榎本氏に友好的であり彼らの関係は良好ですね」

 

 ふーん、やっぱり丸くなったのか……あら?この資料は?

 

「この横浜と川崎の風俗で有名って何かしら?」

 

「榎本氏は中々の性豪でして、その道の有名人に師事しておりますね」

 

「何だってー!生臭坊主なの?霞とは本当に清い交際なんでしょうね?」

 

 あの子はアレで中々のスタイルだし世間知らず。知らぬ間に変態坊主に調教でもされていたら……

 

 

第43話

 

 私の娘であり妹弟子でも有る霞がズブズブにハマった男……榎本正明。

 調べてみれば、私が現役の頃に狂犬として噂になっていた男だった。何が有ったか随分と丸くなった物だが、霞とお付き合いをさせるのは反対だわ。

 あの子はお人好しで何処か抜け出るから騙されているのよ。こんな筋肉エロ坊主なんて絶対認めない!

 何なのよ、この報告書は。

 

「この横浜と川崎の風俗で有名って何かしら?」

 

 一個人が色街で有名なんて有り得ないわよ。

 

「榎本氏は中々の性豪でして、その道の有名人に師事しておりますね」

 

「何だってー!生臭坊主なの?霞とは本当に清い交際なんでしょうね?」

 

 あの子はアレで中々のスタイルだし世間知らず。知らぬ間に変態坊主に調教でもされていたら……取り返しがつかないじゃないの!

 あの人に何て説明すれば良いのよ?

 

「その心配は無用です」

 

「何が無用よ!エロ坊主が霞に手を出さない訳が無いじゃない。あの子は世間知らずなお嬢様だから、良い様に弄ばれてるわ!」

 

 エロい奴が自分に好意を持つ美人に手を出さない訳が無いわ。特に風俗にまで通って性欲処理する変態なのよ!

 下手したら淫らで変態的な調教をあの子に……

 

「落ち着いて下さい、奥様。次の資料をお読み下さい」

 

 資料?渡されたファイルを捲り報告書を読み進める。

 

 風俗レポート横浜編……ナニ、コノ報告書ハ?横浜平成女学院、チコちゃん?写真まで貼り付けてあるわね。

 ハマっ子クラブ中等部、レイナちゃん。コッチは写真と名刺まで貼ってあるわよ。

 スーパースキャンダラス、アミちゃん。ご丁寧にプレイのコースまで……

 

 次のページは風俗レポート川崎編?プレイボーイ、夏美嬢。可愛らしいバニーガール姿の女の子ね。

 夢御殿竜宮城、ヒラメちゃん?変わった名前の名刺と、浴衣姿の女の子の写真が……

 プリティーカール川崎店、紅葉嬢。まぁ下着姿じゃないの!ベビードールだっけ?

 

「これ、エロ坊主のお気に入りリストでしょ?汚らわしい!」

 

 こんなに何人もの風俗嬢と淫らな……かっ霞の貞操は無惨にも散らされたわね。あのエロ坊主、呪ってやるわ!

 

「奥様……お気付きになりませんか?」

 

「分かったわよ!あの節操無しのエロ坊主の本性が!霞を連れ戻します。今直ぐによ」

 

 何よ?ヤレヤレ的に首を振ったりして。

 触ってるのも汚らわしい感じがして、思わず机に放り投げたリストを拾い上げてページを示して?

 

「奥様、気付きませんか?榎本氏の趣味の素晴らしさを……彼を知る為に、私は榎本氏が贔屓にしている彼女達と順番にプレイしましたが……

素晴らしい選美眼です。

あの数多有る風俗店の中で、コレだけの合法ロリっ娘をチョイス出来るなんて!皆さんペッタンコでロリロリ。

性格も良く素晴らしいプレイを堪能出来ました。アレほど風俗でハズレの地雷女ばかりを引き当てる私がですよ!

私……私は……榎本氏を尊敬しています。彼にならお金を払ってでも師事して、後悔はしないでしょう」

 

 良い笑顔だけどキチガイペド野郎!こっコイツ、狂ったわね?風俗遊びをし過ぎて、性病が脳味噌に回ったのね……

 

「で、何が言いたいの?」

 

「榎本氏にとって霞お嬢様は、恋愛感情からは対極の存在!だが友人としては、一番近い位置にいらっしゃいます。だからお嬢様は安心なのです」

 

 やっぱお嬢様は育ち過ぎだよね?確認した結衣ちゃんも天使の様な美少女でしたよ。

 ロリ好きだけど犯罪に走らず、合法でこれだけの可愛い娘を探し出せるなんて……ハァハァ、早く週末にならないかな。

 いっそ神奈川県に引っ越したいぜ!ブツブツとキモい独り言を言い始めたわ。

 

「つまり、性欲旺盛だけどロリでペド野郎だから巨乳美人の霞は安全だと?」

 

 元気よく頷きやがって……

 

「そうです!残念ながらお嬢様では榎本氏の寵愛は受けれない。何故から合法ロリが居る限り、霞お嬢様に出番は有りません。ナッシングなんです」

 

 唾を飛ばしながら興奮するな!お前には二度と仕事は頼まないからね。

 

「もう良いわ……お下がりなさい」

 

 行儀良く一礼した下がる変態を見て思う。女として初恋に近い相手に恋愛対象として見られてないなんて!

 これ以上の屈辱は無いわ……

 

「しかし……しかし、あの子の安全の為には有効な相手なのよね」

 

 残された報告書を読み進めれば、エロ坊主の履歴や携わった仕事内容。友好関係から、除霊スタイルまで事細かく調べてあるわ。

 霊能力者として力は並みだけど、用心深さ・用意周到さ・成功率・施主のリストを見ても危なげない。

 資産もそれなりに有りそうだ。取引先の銀行の支店長が、引き取った娘の学校への紹介状を書く位だ。

 個人としては大口預金者なのだろう。性癖だけ目を瞑れば悪くない相手だが、女性として母親としては遠慮したい。

 

 だけど……

 

 何処かのレストランで、嬉しそうに二人で食事をする霞……此方は居酒屋だろうか?

 

 カウンターに並んで楽しそうにオデンを食べている霞……どちらも良い笑顔だわ。

 

 あの子の幸せそうな顔を見れば、大切にされているのは確かなのね。コンプレックスだった大食いを気にしない。尊敬している同業の先輩霊能力者。

 危険な、それこそ命懸けの仕事を一緒にしてくれる。体を張って危険な敵から守り、勝てなくても最後まで共に戦ってくれる。

 強引なナンパも助けてくれたらしいし……これだけ聞けば、自分に気が有ると勘違いするだろう。

しかし相手は友達としてしか見ていない。

 

「霞……私が何とかしてあげるわ。酷いペド野郎だけど、私が調教してあげる。

エロ坊主に呪いをかけて、一定の年齢以上と豊かな胸じゃないとナニが立たなくしてやるわ。

簡単よ、発情のベースをアナタで設定するから。後は外堀を埋めて既成事実をでっち上げれば完璧。

アナタのお父様も私が一服盛って、既成事実を作ったのよ。だからお母さんに任せなさいな」

 

 桜岡家には後継者が必要だから、生殖器官は残してあげる。でもロリっ娘相手には欲情もナニも反応しない様にしてやる!

 性欲旺盛なペド野郎には拷問よね。そして有り余る性欲を霞に向けて欲情する様に仕向けてあげれば……

 後は結婚まで最短距離で進めて、完全に尻に敷く様に調教する。完璧ね、男なんてチョロいわよ!

 

「アーッハッハァー!霞、お母さんに任せなさーい」

 

 榎本は男としての存在の意義を考えさせられる呪いをかけられようとしていた……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 その呪い対象は、久し振り?のロリ成分の補給に勤しんでいた……出来る限りの安全運転で自宅に帰れば、既に6時を大きく過ぎている。

 

「あちゃ……予定より大分遅れたな。ただいま、結衣ちゃん」

 

「お帰りなさい。正明さん……あの、大丈夫でしたか?」

 

 キッチンからエプロンで手を拭きながら出迎えてくれるのは、男の夢100の内の上位に入る仕草だ!自分的ベスト20だが、上位10位は18禁に属するから秘密だ。

 

「うん、大丈夫だよ。お腹空いたな。今晩のご飯は何だい?」

 

 昨日のお昼以来、彼女の作った物を食べてないな。キッチンから漂う匂いは、醤油ベースなんだが……

 

「今日は土鍋で鯛の炊き込み御飯に挑戦しました。後は白菜とバラ肉の煮物にカボチャのスープです」

 

「ああ、オコゲの匂いか……急いでお風呂に入ってくるね」

 

 先ずは汚れを落とさなければ……私室に向かい荷物を下ろして着替えを出す。

 一人暮らしの時は、風呂からフルチンで出歩いていたが結衣ちゃんを引き取ってから気を付けている。

 あと、忘れずに「箱」を祭壇に祀る……コイツ、何時でも何処でも現れる。しかも必ず真っ裸だ……嬉し、いや困るんだよ。

 

「さて、さっぱりしますか……」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 男の入浴シーンはカットし、夕食を始める。土鍋で作った鯛の炊き込み御飯は、中々本格的だ。

 真剣な表情で鍋の中央に配された真鯛の身を箸で解している結衣ちゃん。屈み込んでいる為に胸元が見えて……ロリはペッタンコだから服の胸の部分に余裕が有るから、屈むと奥が見える。

 神秘のゾーンが!

 

「嗚呼……神様仏様、ご褒美を感謝します」

 

「……?あの、何か?」

 

 結衣ちゃんと目が合う。「うん、美味しそうだなって思ってね」本当に美味しそうです、結衣ちゃんが!

 

「あっ有難う御座います。今回は自信作なんです。鯛は一度圧力鍋で煮込んで柔らかくして、臭みを抜いた物を乗せて……」

 

 うん、柔らかそうだよね……臭み?いや結衣ちゃんは良い匂いだよ……

 変態的思考で彼女をガン見するけど、結衣ちゃんは気付いてない。僕も頬がニヤけるのをグッと我慢して、自分的に誠実そうな表情をする。

 見ているだけで幸せ。これがロリを愛でる真骨頂だ!

 身が剥がされ、頭と骨だけになった鯛を御飯に軽く混ぜて茶碗に大盛りによそってくれた。オコゲの部分も有り、非常に美味でした!

 手料理で餌付けされる男の気持ちが、今なら理解出来る。胃袋を抑えられるって食欲・性欲・睡眠欲の1/3を抑えられる事だから。

 これで性欲まで加わったら抵抗出来ないや。全てのオカズも完食する。

 

「「御馳走様でした」」

 

 洗い物をする彼女の後ろ姿を見ながらお茶を飲む。美少女が機敏に動きながら食器を洗う姿は、どんな名画より絵になる。

 しかもTシャツにホットパンツにエプロンだし……太股に巻かれた包帯を見て、イヤラシく見ていた自分を戒める。

 彼女は実の母親と、その情夫達に虐待されていた。その自傷の跡が太股の包帯なんだ。

 最初は長ズボンか丈の長いスカートしか履かなかった。最近漸く家の中だけだが、ラフな格好をしてくれる様になったんだ。

 ヤツらみたいな視線を……でもフリフリと動くお尻とホットパンツから覗くカモシカみたいな太股は……イヤイヤイヤ駄目だ!

 此処に居ると僕の中のイケないパトスが溢れてしまう。結衣ちゃんに労いの声を掛けてから私室に戻る。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 少し早いけど布団を敷いてゴロリと横になる。慌ただしい一日だったが、最後にご褒美が頂けた。

 これを糧に、暫くは生きていけるだろう……天井の模様を眺めながら考える。

 これからの進め方だけど、「箱」の命令により廃ホテルの調査は進めなくてはならない。

 桜岡さんの扱いについては巻き込むしかないけど……正直テレビ局がウザい。

 放送が決まってしまうと自然に除霊のリミットが決まる。ケツの決まった仕事は、それだけ無理をする事になるからね。

 しかも素人を同行させるなんて問題が大有りだ!

 

「どうするかな……僕達の仕事が終わる迄は関わるな!そんな都合の良い交渉は無理だ。成功報酬で良いから好きにさせろ!

除霊自体しなかったろ?とか言われそうだ」

 

 どう足掻いても何度かはテレビ局を同行させないと納得しないな。

 僕だって報告書だけで実際の活動は見せないって言われたら、疑うからね……しかし連絡は入れなければなるまい。

 携帯に手を伸ばし、短縮ダイヤルから桜岡さんの携帯を検索する。通話ボタンを押すとコール音が……

 そして3コール目で繋がり、彼女の声が聞こえた。

 

「はい、桜岡ですわ。榎本さん、今晩は。何か用でしょうか?」

 

 相変わらずお嬢様言葉だが、中々馴れない。

 

「こんばんは、桜岡さん。遅くにごめんね。実は……」

 

 説明は長くなりそうだ。

 

 

第44話

 

 お母様が帰った後、私でも出来る事をしようと思いパソコンで検索したけど……

 

「ネットは情報の腐海……どれが本当なのか良く分からないのよね」

 

 焼酎の抹茶割りを片手にパソコンを弄るけど、色んな書き込みや体験談。果ては廃業探索のサイトでは中の写真が公開されているし……

 

「榎本さん、良くこの中から抜粋出来たわよね。私だと、どれが嘘か本当か分からないもの……」

 

 ノートに片っ端から書いていくが纏まりがない。廃仏毀釈を検索しても特定の物件はヒットしない。

 抹茶ハイを煽り、お代わりを作る。調べ物が一段落したら、少しお昼寝をしましょう。

 酔いと睡魔がタッグを組んで襲いかかるのを酢昆布をカジって防ぐ。

 

「すっぱーい、ですわ」

 

 検索出来るのは、歴史的に有名な所だけだ。

 

「伊勢神宮系の知り合いは居ないのよね。伏見稲荷系もそう。どちらかと言えば熊野信仰系が多いし……私って業界の横の繋がりが乏しいわ。

お母様に聞いてみれば良かったわね」

 

 試しに携帯にかけてみる。時計を見れば2時を過ぎた辺りだ。

 

「もしもし霞?何よ、さっき会ったばかりなのに電話なんて」

 

 受話器から聞こえてくる声の他に、ザワザワと繁華街から聞こえてくる様な音がするわ。まだ外なのね……

 

「今、電話平気かしら?」

 

 移動中とかマナー違反になってないわよね?

 

「平気よ。丁度大阪駅に付いたから……」

 

 どうやら寄り道せずに真っ直ぐ帰ったのだろう。新幹線で大阪駅まで着けば、あとは在来線で10分程度で自宅の最寄り駅だ。

 

「あのね……お母様は伊勢神宮系か伏見稲荷系にコネあるかしら?今回の事件は両方か片方か分からないけど、関係しそうなのよ」

 

「アンタ……なんで大事な話を直接しないのよ?伊勢神宮と伏見稲荷ね。少し時間を頂戴。伏見稲荷なら近いしなんとかなるわ」

 

 良かった。これで廃ホテル内の稲荷神社が調べられる。

 

「うん、有難う。メールで送るから、その廃ホテルにある稲荷神社を調べて欲しいの。潰れて放置されてたら大変だし……」

 

 確か全国のお稲荷様のリストが有る筈だから、場所が特定出来れば分かる筈よね。

 

「廃墟にお稲荷様が残ってるの?危険なんてモンじゃないわよ!曲がりなりにも神様として祀っていたのよ。それを……」

 

「危険な事は理解してるわ。だから調べてから挑もうと思ってる。大丈夫ですわ。榎本さんも最初から稲荷神が怪しいって予測してましたし」

 

「はいはい。兎に角、榎本さんと良く相談してから行動なさい。近々またソッチに行くから榎本さんに会わせなさいよ。良いわね?」

 

 ガチャリと電話を切られたわ。近々?会わせる?もっもう親族と引き合わせ?

 

「まだ早いですわ。せめて今回の件が片付いてから……」

 

 4杯目の抹茶ハイを飲み干しながら、両親と会わせる事をどうやって説明するか悩む。

 

「榎本さんって、照れ屋さんだから……絶対逃げ出しそうよね。松尾のお爺様に相談しましょう」

 

 確かバッグに先日貰った名刺が有ったわね。名刺を見ながら松尾のお爺様の会社に電話をする。

 

「はい、松尾法律相談所です」

 

 矍鑠(かくしゃく)とした声が聞こえた。

 

「あの……私、桜岡霞です。先日はお世話になりました」

 

「おお、桜岡さんか!どうしたんだ?正明にセクハラでもされて訴えるのかい?」

 

 カッカッカ、とか高笑いされたわ。

 

「いえ、榎本さんは必要以上に私に触れませんから……それでご相談が有りまして」

 

 あのシャイな脳筋には、スキンシップの精神が無いのです。

 

「ふむ、真面目な話かの?電話で大丈夫か?何なら直接会って話を聞いても良いぞ」

 

「いえ、その様なお手間は……実は近々私の両親と榎本さんを引き合わせたいのですが、彼は照れ屋なので素直に会ってはくれないと思うのです」

 

 お母様の事だわ。必ずお父様も連れて来る筈よ。いきなり慌てるより、準備万端で迎え撃った方が良いもの……

 

「何と!そこまで進んでいたんか、アンタらは?」

 

 進んでいた?いえ、進展がないから何とかしたいのです。

 

「あの、お母様がどうしてもお会いして話したいと……でも榎本さんには言い辛くて」

 

 絶対嫌がりますもん!

 

「儂に任せろ!日程が決まれば設定は此方でする。都内のホテルで会食形式が良いじゃろ?アイツには両親が居ないから、儂が同行するけど良いな?」

 

 ヨシ!松尾のお爺様はこちら側に引き込めましたわ。何か、漸くアイツに顔向けが出来る。とか、孫の顔が見れるのも直ぐじゃ。

 とかブツブツ言ってますが、概ねその通りですから良いですわよね?

 

「有難う御座いますわ。では日程が決まり次第、調整させて下さい」

 

 これで私の両親と榎本さんと松尾のお爺様の面会は、確実に設定出来ますわ!祝杯用に濃いめの抹茶ハイを作る。

 

「ふふふ……」

 

 心の底から嬉しさが込み上げてくる。そうだわ!結衣ちゃんだけど、私達の養子にした方が良いかしら?

 それともお母様にお願いして、私の妹として?榎本さんと結婚するなら、彼女の事も考えなければ駄目よね。

 一度会ってお話ししようかしら?あの控え目だけど優しい子となら、上手くやっていけそうだし……ヤダ、ニヤニヤが止まらないわ。

 かなり長い時間妄想の海に漂っていると、携帯電話の呼び出し音で現実に引き戻された。

 ディスプレイを見れば……榎本さんね。

 

「はい、桜岡です」

 

 何故か緊張して喉がカラカラなので、抹茶ハイを飲もうとしたら……空だわ。焼酎のボトルもピッチャーで用意した抹茶も空ね。

 あら、部屋の中が真っ暗だわ?えっ?もう夜になってるじゃない?可笑しいわね?

 

「ああ、桜岡さん。今平気かい?」

 

「ふふふ、平気ですわ」

 

 何故かしら、ニヤニヤが止まらないわ。

 

「……?何だか楽しそうだね。えっと、仕事の話だけどさ。

今日車を取りに行くがてら地元の図書館で地方紙を調べたけど、ネットと違う事件が有ったんだ」

 

 ネットと違う?じゃ私が調べたのって無駄だったのかな?

 

「確か事前情報では、二人お亡くなりになってると……ホテルの閉鎖前と後に」

 

「そうだね。でも新聞に載っていたのは閉鎖後だけだ。一人目は自殺した男性。二人目はプールで溺死した女性。

自殺とは断定出来ていない。しかも発見者は管理会社の連中だ」

 

 大分違うわね……あれ?子供の霊は?

 

「確か噂では子供の泣き声か……」

 

「うん。これはホテルの敷地外だけど、周辺の山中の池で行方不明だった子供が水死してるんだ。多分だが、あの池だと思う」

 

 子供が独りで、あんな山の中に?

 

「怪し過ぎますわね……でも半日で良く調べられましたね?」

 

 私がお母様の手料理を食べて、ネットで調べて気が付いたら夜だったのよ。それを其処まで事実を調べられるなんて……

 

「ん?大抵の事は最寄りの図書館の地方紙のバックナンバーを調べれば分かる。それでも分からなければ、周辺の老人とか郷土史研究家とか……」

 

 この辺の手際の良さは何時も関心させられますわ。

 

「祠や稲荷神社、例の変な神社の方はどうですか?私の方は伏見稲荷神社の伝手が何とかなりそうです」

 

「凄いな!流石は梓巫女だね。稲荷神社への対策がたてられるのはデカい。最悪は其方に丸投げ依頼出来るからね」

 

 そんなに誉められると恥ずかしいわ。お母様に頼んだだけですのに……

 

「榎本さん。この件について西川さんに報告するのですが……どうしましょう?」

 

「……桜岡さんはどうしたい?それによっては色々動かなきゃ駄目だし」

 

 私の希望で良いの?仕事を請けたいって言ったら、大変だけど手伝ってくれるの?私を見捨てないの?

 

「危険だからと降板しても企画自体は辞めないと思うの。他の誰かが危険に晒されるなら、私がこの仕事をやりたいの……ダメ?」

 

 私達が辞退したら、誰かにお鉢が回るだけ。その人が私より劣ってるなんて自惚れないけど、この危険な企画を押し付けるのはイヤなの……

 

「良いよ。でも色々条件を見直さないと駄目だ。それに管理人とやらにも会って、稲荷神社の件は正規手順で御霊を移す様に言わないとね。

神様を蔑ろにするのは危険だし、相手は伏見稲荷だから信用も有るだろう」

 

「……うん、有難う御座いますわ」

 

 やっぱり一緒に仕事してくれるって言ってくれた。榎本さんは私を本当に大切にしてくれているわ。

 

「まだまだ問題は有るよ。管理人自体が信用出来ないんだ。現地で会わずに何処かに呼び出して交渉だ。場合によっては管理会社から仕事料を貰わないと成り立たないよ」

 

 そしてリアルに契約とか厳しいわ……

 

「管理会社からも仕事を請けるの?」

 

「当たり前だよ。テレビ局の企画だからタダで除霊出来る訳ないじゃん。ちゃんと実費は取るし、払わなければ仕事しない位は言わないとね」

 

 しっかりしているわ。でも交渉に自信が有るのよね。幾ら貰えるかなー?とか嬉しそうな声で呟いてるし……でも本当に頼りになる番クマね!

 

「分かりました。でもテレビ局や管理会社との交渉は同席して下さいね。私独りだと心細いわ」

 

 私も契約内容や交渉のテクニックを学びたいけど、直ぐは無理だから。出来るだけ一緒に居て学ばなきゃ。

 

「ああ、松尾の爺さんも呼ぶし交渉の場に居れば学ぶ事も多い」

 

 ちゃんと私の成長も考えてくれていたのね。

 

「うん、ありがと……」

 

 これからの仕事の運びを簡単に話し合って電話を切った。明日、会って話し合おうって……明日は何を着て行こうかしら?

 まだ見せていない服が有ったかな?クローゼットの中を探さなきゃ!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 明日の衣装合わせで思わぬ時間が掛かってしまったわ。時刻は既に日付が変更する少し前……

 

「いやだわ。寝不足は美容の大敵なのに」

 

 榎本さんから貰ったお札を確認し、自分が張った盛り塩を確認する。

 

「あら?今日盛った筈なのに……」

 

 小皿に盛った塩が茶色く変色し、山が溶け崩れている。

 

「マズいわ!結界の強化を……」

 

 玄関部分に施した結界が犯されている。強化するなら寝室だ!元々寝室は四隅に盛り塩、出入り口にお札で二重に結界を張った。

 これを残りのお札と清めた塩で強化し籠もるしかない。寝室に携帯電話と固定電話の子機。

 水のペットボトルや財布、車の鍵と巫女服を放り込む。駄目元で崩れた盛り塩を新しくしてから寝室の結界を強化。

 

 メールで榎本さんに「部屋に張った結界に異常が、寝室の結界を強化して籠もります」と送った。

 

 助けて欲しいとは書けなかったけど、必ず助けに来てくれますわ。さて……出来る限りの事をしたわ。

 あと忘れてはいけないのが、玄関の鍵を開けておく事。もし助けに来てくれても、物理的に室内に入れなくては駄目だから……巫女服に着替えて周りに意識を集中する。

 変えた盛り塩が何時まで保つか分からない。寝室の四隅の盛り塩は、まだ平気だ。

 

 警戒して30分ほどだろうか?

 

 寝室の隣の部屋、リビングから音が聞こえだした。気を付けてなければ分からない小さな音が、カタッカタッとし始めた……

 

「ポルターガイストかしら……何か叩く音が聞こえる」

 

 人の気配と言うか、何かしらの気配もし始めた。

 

「きゃ……なに?」

 

 突然の電子音にビックリしたが、携帯がメールの着信を知らせていた。榎本さんからだ……

 

「今向かっている。最後は渡した塩で円を書き中に居るんだ。後30分で着く」

 

 思わず涙で携帯の液晶が滲んで見えたわ。後30分なら保たせてみせる。

 携帯の着メール音で一旦止まった隣の部屋の異変だが、また音がし始めたわ。やだ、何かが這う音に変わった?

 寝室の扉の隙間から差し込む光が揺らいでいるわ……

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。