榎本心霊調査事務所(修正版)   作:Amber bird

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第263話

 ビキニ美女二人と船内のデッキで向かい合う、胡蝶がナニかしたせいか何故か彼女達にドキドキする。

 魅了系術者の一子様は足を組み替えたりして色気攻撃を素でやる、高槻さんは慣れてないのだろう、恥ずかしそうにパーカーの前を閉めているが太股は丸見えだ。

 視線を顔から上に固定する、因みにお付きのモブ巫女達はマリンルック(本当の意味のセーラー服)に身を包み操船している。

 彼女達のスキルの多様さに驚いた、流石は加茂宮家当主の付き人か。

 九子の鬼童衆は戦闘系だったが、加茂宮にはどんな氏族は派閥構成組織が有るのだろう?

 

「先ずは確認だけど残りの当主は何人で何処に居るのか分かってる?」

 

 九子が既に一人食ってたり二子と五郎と七郎を胡蝶が食べた事は内緒だ。

 

「加茂宮分割当主の九人の内、生存者は六人よ。

残りは私と三郎に四子、六郎と八郎、そして九子の六人……だけど誰か一人は既に脱落している、だから正確には五人だと思う」

 

「名古屋で行方不明になった二子達三人の他に、もう既に九子か他の当主の手に落ちたと?」

 

 黙って頷いた、申し訳ないが二子達は胡蝶の腹の中だが教えられない。

 残り五人、だが一子様と九子を抜けば三人、最低でも先に二人を食わないと負ける。

 

「電話での依頼は捕縛か撃退、だが撃退は退ける事になる、九子の手から守るなら捕縛だけだ。もし僕を当主争いに加担させたいなら……」

 

「捕縛または処分、まだ話してませんでしたが私達加茂宮の当主争いは最後に誰かが一人生き残るまで続けます」

 

 言葉を遮られたが真実の七割位は教えてくれた、生き残りが一人になるまで殺し合う、普通なら殺人は犯罪だし断るだろう。

 僕も表向きは法に準じた生き方をしている、契約書を交わすのも普通の個人事業主として仕事をしているから……

 しかし凄い悲しみと憂いを感じる表情が出来るな、大抵の男なら違法だろうが俺が何とかするとか言いそうだ。

 仕草や表情、全体から醸し出す雰囲気が凄い、流石は略奪愛好きで異性を操る術を持つ魔性の美女か……

 

「分かった、現行法では犯罪かも知れないが捕縛して一子様に引き渡すか……余裕が無ければ僕が倒す、それで良いね?」

 

「ええ、有り難う御座います」

 

「榎本さん、それは……」

 

 高槻さんの言葉を言わせる前に手で制す、僕は既に名古屋の洞窟内で一人殺している、正確には餓鬼化した女性を胡蝶に食わせた……

 

「どの道僕は加茂宮九子に命を狙われている、彼女に対して捕縛とか甘い考えは一切持ってない。食うつもりで襲ってくるなら返り討ちで食われる覚悟も有るだろ?

殺人は悪い事だとか命は何よりも大切だとか思わない、自分と仲間の安全と幸せの為に躊躇はしないよ。

僕は加茂宮九子を倒す、一子様は戦闘系術者じゃないから戦いの時は邪魔をしないで欲しい」

 

「つまり捜索等のバックアップに徹する訳ね、確かに戦いに私は邪魔でしかないけど近くで待機はするわよ。全てを押し付けるのは嫌なの、榎本さんに何か有った時は私も共に……」

 

 潤んだ瞳で見詰めて僕の右手を両手で包み込んで来た、私も共に……で止めたのは相手に想像させる為だな。

 共に死ぬ、とは言ってないが雰囲気で思わせている……

 女って怖いな、ドキドキした気持ちが一気に冷めたが顔には出してない。

 やんわりと手を離す、彼女が近くで待機するのは僕が相手を行動不能にしたら直ぐに食う為だろう。

 

「僕が倒れたらか……悪いが負ける気は無い、無用な心配だよ。さて他の当主の情報を教えてくれるかな?」

 

「もぅ!榎本さんって本当に本命以外には連れないわね、桜岡さんが妬ましいわ」

 

 苦笑いを浮かべておく、瞳術は使ってないが男を墜とす手練手管はそれとなく使ってくるな。

 

『胡蝶さん、無闇に彼女の魅力に反応すると判断を誤る可能性が有るから止めて欲しい』

 

『む、確かにそうだな。子は産んで欲しいが腑抜けにされては堪らん、良かろう』

 

 危なかった、胡蝶は僕の性癖に何かしらの干渉をしていたんだな。

 普通の性癖に戻されたら一子様の魅了術にヤラれてしまうだろう、それ程の女だ加茂宮一子とは……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 あれから色々と情報を聞いた、残りの当主達と取り巻きについて。

 数字が少ない方が強いと聞いたが襲名後に力の変動が有ったみたいだ、つまり分散して受け継いだ奴の力の適合具合に差が有る。

 二子は瞳術、五郎や七郎は部分的な肉体強化だったが胡蝶の宿敵としての力を考えれば適合率は低かったと思う。

 

 何故、彼女達がモータークルーザーに拘ったかと思えば残りの当主の一人が小笠原諸島に逃げ込んだからだ。

 定期便の発着港は既に一子様の配下が見張っている、どうやら奴は本土から離れていれば安全だと考えたんだな。

 サバイバル的に考えれば正解だが負ければ食われて相手の力となる、つまり逃走は長期的には負けと同じだ。

 絶対に勝てない相手から逃げ切れると思ったのだろうか?

 

「小笠原諸島か、小笠原さんとは無関係なんだよな……」

 

 後部デッキで離れていく本州を見詰める、最初の相手は三郎、配下は五十鈴神社の巫女達らしいが奴の愛人も兼ねている。

 神道系が多いのが加茂宮一族の特徴らしいが対人戦、特に霊能力者との戦いには不慣れだろう。

 だが拠点を構築し防御結界を張る事に関しては加茂宮一族の中でも上位らしい……

 

「自分の愛人達と共に引き籠もるか……人としては正しいのかも知れないが現状では悪手でしかない、未来が無いんだよ三郎さんよ」

 

『胡蝶さん、結界を破って強引に押し込むしかないかな?』

 

『む、そうだな。逃げ場の無い狭い島だし我等の接近は直ぐに察知されるだろう、短期決戦で近付かないと面倒な事になるか』

 

 逃げに徹し防御を固めた相手だ、多少強引に攻めないと時間ばかり掛かってしまう。

 最低二人は僕等が倒さねば九子に負ける、だが待ち構えている相手に突撃とは無謀に近い、注意は必要だ。

 

 手摺りに腰掛けて船内側を向く、誰か近付けば分かる様に……

 昨夜はバタバタしてて伊集院さんにメールしてなかった、今の内に作成しておいて圏外から脱したら自動送信の設定をしておくか。

 

 

『お久し振りです、榎本です。

加茂宮一族の九子に襲われなし崩し的に彼等の派閥争いに巻き込まれた。

僕は加茂宮一子と手を組み、残りの当主達を倒す事にした。

加茂宮九子は危険だ、彼女は他の霊能力者を文字通り食う事により自分の力を増している。

今なら勝てるが時間が経てば分からない、加茂宮の勢力下で行動する為に彼等の中でも最大派閥の加茂宮一子と組んだ事に後悔はしていない。

加茂宮一子以外の当主から助力の申し出が有った場合、出来れば敵対したくないので断って欲しい』

 

 

 此処までメールを作成し自動送信設定をして保存する、メールフォルダにはパスワード設定をしたから誰かが見ようとしても無理だ。

 携帯電話を閉じると待っていた様に高槻さんが近付いて来た、流石にビキニから動き易そうなパーカーとパンツに服装に着替えている。

 

「誰かにメールですか?」

 

「ええ、家族に……現状の事や小笠原諸島に向かっているとかには一切触れてないですから安心して下さい」

 

 携帯電話を翳して情報漏洩はしていないアピール、実際は伊集院一族への牽制、阿狐ちゃんは御三家当主として行動する。

 つまり加茂宮一族のゴタゴタを見逃すとは思えない、今の伊集院一族の勢力下は四国と九州。

 直接的な干渉はしなくとも間接的には攻めてくるだろう、中国地方は取られるかもな。

 まぁ僕には関係無いか、それは一族を纏め上げた次期加茂宮一族当主の仕事だろう。

 

「桜岡さんと里子ちゃんかしら?全く熱々ね、羨ましいわ。桜岡さんが言ってましたよ、連れ子も養子縁組して我が子にするとか何とか……」

 

 里子ちゃんって里子制度で引き取ったんだけど桜岡さん、養子縁組まで考えてるって!

 僕等は対外的に……ああ駄目だ、亀宮さんに擦り寄らない証拠として偽物の恋人関係だったのに、当の亀宮さんと婚姻届を用意してしまった。

 端から見れば最低の浮気者で権力の上の女に乗り換えた屑だ、屑男だ!

 

『妾に迎えるのだから浮気じゃないぞ、今風に言えばハーレムだ!なに、平等に愛を注げば当人達も納得するだろう、だから問題無いな』

 

『大有りです、どう見ても最低の浮気者です。折角回復しだした噂も実は本当の事だったと言われてしまいます、ああ欝だ……』

 

「あの、そんなに反省しなくても嫌味を言った訳ではないので気を確り持って下さい」

 

 何故か高槻さんがオロオロしている、その程度の嫌味は大丈夫なのですが亀宮さんが婚姻届を公表した瞬間に屑男確定なのが心配なんです。

 

「有り難う御座います。いや、色々と考えなければならない事が多くて……」

 

「そうですか?しかし安心確実路線が信条かと思っていましたが、他の当主達との戦いを全て任せろとは大丈夫なのですか?」

 

 何と無く流れで二人して並んで手摺りに捕まりクルーザーの後ろを眺める、白い波を立てて真っ直ぐ進むモータークルーザーは時速何キロメートル、いや何ノット?出てるのか……

 

「犯罪行為を進んでヤル気なのが不思議かい?」

 

 黙って頷いた、確かに僕には裏が有る、一子様より先に他の当主達を胡蝶の贄にしたいんだ。

 

「あの加茂宮九子だが、危険過ぎる。

他の霊能力者を食って力を増すなんて我々の天敵だな、自分の目で見てなければ慎重だったと思う。

そして彼女は僕を食うと笑って言った、まさに狂気に取り憑かれた微笑みを向けてね。僕はアレが怖い、だから使える手立ては全て使う。

普通の霊能力者より加茂宮の他の当主を食った方が相当パワーアップするんだろ?

彼女は教えてくれたよ、一子様は最後に食う、そして僕、その後に亀宮さん……そうはさせない、だから僕が速やかに殺す」

 

「やはり羨ましい、榎本さんにそこ迄させる桜岡さんが妬ましい」

 

 ヤバい、桜岡さんの株が上がり過ぎてバレたら急落、いや暴落する僕の評価が辛い。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 小笠原諸島……東京都特別区、太平洋上にある30余りの島々。

 父島と母島以外に公共交通機関は存在しない、基本的には東京港から出る貨客船が唯一の移動手段で殆ど丸一日掛かる。

 昔はテクノスーパーライナーなる高速船が時速70㎞で運航していたが燃費効率が悪く就航中止となった、先ずは父島に行き其処から船で周辺の母島等に移動する。

 この島の何処かに潜伏する三郎はアクセスの悪さも有利と思い選んだのだろうが、同時に逃げ場も無いんだぜ。

 何故東京の僻地に隠れていてバレたか、理由は三つ。

 

 一つ目はネットで小笠原では珍しい美人巫女さんを見たと言う書き込みが少数有った事、小笠原諸島は近年海底光ケーブルによりインターネットが利用可能になった。

 だが便利さの為にはプライバシー等が軽視されるのが問題だな。

 

 二つ目は巧妙に隠していたが名義を変更したカードで七島信用組合やゆうちょ銀行のATMから現金を何度か引き落とした事。

 一週間おきの定期便が来る度に大人数分の物資を購入すれば目立つのは必然だ、買い物リストで大体の人数も予想出来る。

 避妊具や生理用品まで購入してれば目立つだろう。

 情報だと三郎の他に五十鈴神社の巫女さんは十人、その他にも二十人程の取り巻きが居るそうだ。

 

 三つ目の、もっとも信憑性が高かったのが密告。

 父島には海上自衛隊横須賀地方隊の父島基地分遺隊が常駐していて、一子様の信奉者が居た訳だ。

 彼女には日本中にその魅了術で虜にした男達が居るらしい、気を付けなければ亀宮一族の中にも紛れてるかもしれないな。

 

 此等の情報から既に三郎が潜伏してる場所も大体特定されている、奴は父島の北西部の山岳地帯に潜伏中。

 一子様の配下は発見を恐れて凡その場所しか調べてないが胡蝶が近付けば正確な場所が分かるだろう。

 

 僕等のモータークルーザーは目立つので父島の近く迄行ったらゴムボートを利用し夜間に上陸する、そのまま夜襲し三郎を倒す。

 




今日で今年最後の更新となります。
今年一年の感謝を込めて来年は1月1日(木)から1月7日(水)まで連続一週間更新をします。
本当に今年一年間有難う御座いました、来年も宜しくお願い致します。

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