「ふぅ……ごちそうさまじゃ」
儂は今芳乃家にてひとりっきりの食事をしておった。
今日は明久と義之が例のオンエアコロシアムに出ていったために朝食はレトルトになった。
ちなみに雄二と霧島はというと、朝っぱらから映画に行くと霧島が雄二をスタンガンで気絶させて引っ張って出かけて行った。あれはもはや完全に賤奴じゃの。
普通ならツッコミどころ満載の朝じゃろうが、儂らとしてはこれが日常と化しておるからのぉ。
普段なら音姫先輩あたりが朝食を作ってくれるのじゃが、今日は義之が出かけると言っておったから今日は来ておらん。
音姫先輩や由夢ちゃんがこっちに来るのは決まって義之と過ごしたいがためじゃからの。わかってはおるのじゃが、こうなると些か寂しいものじゃの。
「ふぅ……ひとりっきりというのはやはり暇じゃのう」
ふと呟いたが、儂の言葉に答える者はこの場にはおらんかった。
「……仕方ない。儂もどこか出かけるかの」
このままここにいても暇と持て余すだけじゃからの。儂は部屋に戻って普段着に着替えて軽く身支度を済ませて出かけた。
一応断っておくが、普段着というのは男物じゃからの! 勘違いのないように言っておくぞい!
「しかし、どうしたものかの……」
暇つぶしに外に出たのはいいのじゃが、どこへ行って暇を潰せばよいものじゃかわからんのう。
服屋は演劇用のがないか島中の店は行き尽くしたからのう。
だからというて、桜が枯れてしまった今、桜並木道や桜公園へ足を向けても特に目新しいものはなさそうじゃし、住宅街を散歩する気分でもないのう。
しかし、学園へ行っても今日は部活はないと言うておったし……どこかの娯楽施設にでも行くかの。
そう思って娯楽施設がないか街を歩いていた時じゃった。
「あれ? 秀吉君?」
「む? 花咲ではないか」
街を歩いていたところに偶然花咲と出会った。
「何してるの?」
「何と言われてもの……見たとおり、暇じゃから出かけたものの、洋服巡りも大体回ってしまったし、かと言って他に目新しいものは見当たらなそうじゃったからどこか娯楽にでも興じようとしたところじゃ」
「ふ~ん……でも、気をつけた方がいいよ。この辺りってナンパが多いから」
「花咲よ……儂は男じゃ。ナンパなんぞ──」
「おお、姉ちゃん可愛いね。ちょっと俺と遊びに──」
「すみません、私はこれから大事な仕事がありまして。そう言ったお誘いはまたの機会にということで」
急に声をかけた男に即座に対応してから花咲を連れてその場を離れ、男の姿が見えなくなったところで再び花咲と向き合う。
「とりあえず、ナンパなんぞあるわけがないぞい」
「今思いっきりナンパされてたよね? しかも秀吉君、すごい慣れた感じで断ってたけど……」
「今のは花咲に言っておったのじゃろ」
「ううん。明らかに秀吉君に向けて言ってたよ」
「まさか、そんなはずないじゃろ。儂は男に言い寄られた事なぞ──」
「文月学園で休日以外ほぼ毎日告白されてたって、ムッツリーニ君も言ってたよ」
「…………」
認めたくない現実を叩きつけられたのじゃ。というかムッツリーニ……お主は余計な事を……。
儂は心を砕かれたように膝を着いた。
「えっと……とりあえずだけど、秀吉君って、今暇かな?」
「む? 実際暇しておるから適当にうろうろしておったのじゃが」
「だったら丁度よかったのかな?」
「何の事じゃ?」
「実は、小恋ちゃんから映画のチケットもらったんだ。小恋ちゃん、今日はオンコロでしょ? このチケット、今日の分だから見ないのはもったいないって小恋ちゃんがくれたんだ」
そう言って花咲は映画のチケットらしい紙切れを2枚ヒラヒラさせて見せつける。
「それはわかったのじゃが、それなら雪村と見てもよいのではないか?」
「杏ちゃんは今日は別の用事があるからパスだって。それで、どうかな?」
「むう……暇つぶしにはなるし、ある程度代金が浮くのは嬉しいし……ここはお言葉に甘えてご同伴願おうかの」
「じゃあ、決まりだね♪」
そう言って儂らは近くの映画館へと足を運んだのじゃった。
映画館に着いた儂らは会館になったばかりなのか、かなりの行列の中にいる。
「ところで、つい誘いに乗ってしまったのじゃが、どのような映画なのじゃ?」
「ああ、これ?」
花咲がバッグから先の映画のチケットを取り出す。
「『
「いや、知らんの。あ、じゃが……確か明久がデートでこれ見ようかなと話しておったのを聞いたの」
「じゃあ、ラブストーリーってことかな?」
「恐らくの」
「なるほど、小恋ちゃんらしいね。でも、ちょっと残念だっただろうなぁ」
「じゃの。恐らく桜内を誘おうと用意しておったのじゃが、まさかオンコロと重なるとは知らんかったのじゃろ」
「そうだね」
花咲からチケットを受け取って見ると、指定席のチケットらしい。
それと、上映時間を見て、自分の時計を確かめると上映時間までまだ時間はあるようじゃ。
「上映時間まで、まだ30分程あるが、何か暇を潰すかの?」
「そうだね……暖房効いてるかどうかもわからないし、ロビーで温かい飲み物と軽食でも買おうか」
「そうじゃの」
「ふっ……お前達が羨ましいぜ」
何やらすごく聞き慣れとる声が聞こえたかと思い、声が聞こえた方向を向くと、そこには見慣れた顔があった。
「雄二、何をやっとるのじゃ?」
「見て、わからないか?」
そう言って雄二の身体を隅々まで見る。
いつものようにライオンの鬣のような赤髪と、少しヤンキー系の服装に、両手に手錠が付けられてるの。
「いつもの光景ではないか?」
「秀吉君、思いっきり手錠をスルーしてる?」
「花咲の言う通り。俺は今手錠で拘束されてるんだよ!」
「雄二……浮気は──」
「これの何処が浮気に見えるんだよ! 俺は今自分の置かれてる状況をこいつらに訴えてるんだよ!」
「あ、霧島さん。こんにちは♪」
「……こんにちは」
雄二が叫んでるところに霧島が割って入ってくると、花咲と霧島は互いに挨拶を交わした。
「もしかして、霧島さん達も映画を?」
「……うん。雄二とデート」
「翔子、何度も言うが……一般的なデートとはこんな風に男の手に手錠をかけて連れ回す事じゃない」
「……雄二、これにする」
「聞けよ! 他人の話! 大体それ、思いっきり血みどろの戦争ものじゃねえか! 更にそれ4時間10分もするじゃねえか! 映画上映時間の規定軽くオーバーしてるだろ!」
「3回見る」
「12時間半も見てられるかぁ!!」
「退屈なら……寝てていい」
そう言って霧島は懐からスタンガンを取り出した。
「って、それは寝るんじゃなくて気絶ってい──ぎゃばばばばばばばばばば!!」
雄二の台詞は最後まで紡ぐことなく、霧島にスタンガンを当てられたことにより、黒焦げになって気絶した。
「……学生2枚。3回分」
「は、はい……学生2枚3枚分ですね。かしこましました」
霧島の注文を受けて店員は苦笑いしながらも接客をしておった。
「あの程度で狼狽えるとは、店員としてはまだまだと言ったところじゃの」
「いや、秀吉君……あんなのを見たら普通は悲鳴をあげたっておかしくないと思うよ」
そうかの。向こうではこんな光景、文月学園じゃなくともそこらじゅうに溢れかえっておったぞ。
「とりあえず、儂らも何か注文をして中で上映を待つとするかの」
「そ、そうだね……」
儂らもカウンターで飲み物とポップコーンを注文して劇場の入口でチケットを見せて中へ入っていった。
劇場に入り、儂らはこれから見る映画に期待に胸を膨らませながら待っていた。
「それにしても、結構どきどきするね」
「じゃの。明久から聞いたところハートフルラブストーリーと言っておったが」
「明久君達、結構映画館とか行ったりするのかな?」
「いや、まだデートでは行ったことなぞないし、向こうでも明久はまず映画館に金を使おうとはせんぞい。こっちに来た時からも映画館には行かんしな。映画と言うと、学園長が借りてきたDVDをみんなで見るくらいかの。主に時代劇を」
「あはは。うちもレンタルが多いかな。でも、たまにはこうやって劇場に来るのもいいかもね」
「そうじゃの。家で見る時とは違った楽しみがあるのぉ」
「私ね、映画館で見る予告編とか好きなんだ」
「うむ、予告が好きとは珍しいのぉ」
「うん。結構楽しみにしてるんだよ」
「しかし、予告で出る映画は楽しみなものもあるじゃろうが、上映期間がかなり先のものが多いからあまり好きではないの」
それに、予告で期待していた場面を楽しみにしてても中身が大した事がなかったり、全く予告通りでない時も少なくはない。
じゃから儂からすればこういった時の予告はあまり信用できんのぉ。
そんな事を考えると劇場内が薄暗くなっていった。
「あ、予告始まるよ」
「うむ」
儂は意識をスクリーンに移し、姿勢をなおして集中した。
予告編も割と面白そうな映画もあったし、楽しみじゃった本編も明久がデートの為にチェックしていただけあった中々の完成度じゃった。
新しい1年が始まってそんなに経ってないが、もしかしたらこれは相当人気になりそうじゃ。
儂は映画の先が気になって少し前かがみになって集中していた時じゃった。肩に何かが当たるような感触がしたかと思うと、
「すう……」
「うむ? 花咲……寝ておるのか?」
中盤辺りで花咲が寝てしまいおった。
「むにゃ……」
「……どうしたものかの」
儂は迷った。今は特に大した進展はないが、ここらで花咲を起こしてやった方が良いのか否か。
寝不足だというのならこのまま寝かした方が良い気もするが、折角楽しみにしておった映画なのじゃからこのまま寝かせるのも勿体無い気もするしのぉ。
……やはりここらで起こしてやった方が良いのかもしれん。
「おい、花咲。起きるのじゃ」
「ん~……はれ? 秀吉君?」
「うむ。起きたか……まだ特に進展はないが、そろそろ起こした方がよいと思っての」
「……あ、ごめんね。つい」
「ふぅ……眠気覚まし用にコーヒーでも買うべきじゃったかの。……ん?」
「どうしたの、秀吉君?」
「……いや、なんでもないのじゃ」
「ん?」
気の所為じゃろうか? 一瞬、花咲の様子が何処か変わった気がするのじゃが。
改めて花咲を見るが、特に変わった所はなく、儂も気の所為じゃと思ってそのまま映画に没頭した。
「いや~……あの映画、すっごく面白かったね~。最後、思わず泣いちゃった……」
映画が終わった後、近くの喫茶店で花咲が終了後に買ったパンフレットを開いて溜息混じりに感想を述べた。
よほどあの映画が気に入ったと見える。
「うむ、内容は面白かったのじゃが、抱きつかれた主人公の演じ方が少々堅く感じたの。流石に演技とはいえ、あれだけの美女に抱きつかれれば中々集中ができないのかの」
「あはは……秀吉君はストーリーよりも演技の方を重視してたんだ」
「うむ。映画じゃろうと演劇じゃろうと、儂はまず演じ方を見るからの。まあ、あの映画は本当によかったとは思っておる」
「うんうん。あの2人がいつお互いを想ってるのがわかるのかドキドキしてて待ってたんだよ~」
「の、割には花咲は寝ておったようじゃが?」
「あぁ、うん。今日が楽しみで、昨日小恋ちゃんにチケット渡された時からあの映画見るのが楽しみで眠れなかったんだよね。だから、暗くなったら途端に眠気が……」
「それで途中で遂に力尽きたというわけじゃな。して、眠れたのがどれくらいなのじゃ?」
「う~ん、一応2時間くらいは寝たと思うけど~」
「それでは眠くなるのも無理はないのぉ」
流石にその時間帯では大して疲れは取れなかろう。
「まあ、花咲が寝とる間は大きな進展はなかったが」
「そう。でも、細かい所は後でちゃんと教えてね。できれば図解入りで」
「大体の展開はパンフレットを見ればわかろうに」
「秀吉君の口から教えてもらいたいの!」
「まあ、別に良いのじゃが」
相当1シーン1シーンの展開が気になるようじゃの。
「うんうん。はぁ、もう一度見てみたいな~」
「今度はキチンと睡眠を取っての」
「は~い」
「……ん?」
「……な~に?」
「いや、なんでもない……と思うのじゃが」
はて……時々花咲の様子が一瞬だけ変わるような気がするのじゃが。何故かの?
「どうしたの? もしかして、惚れちゃった?」
「滅多な事を抜かすでない。そうではないのじゃが……花咲よ、お主は本当に花咲かの?」
「……何でそんな事を聞くのかな?」
「いや、スマン。大した事ではないのじゃが、時々お主の雰囲気が一瞬だけ違ったりする気がするのじゃが」
「…………」
「ああ、スマン。今言った事は忘れてほしいのじゃ」
儂の言葉に花咲が思案顔になって何か考え出した。そして数分待つと花咲は少しばかり真剣な顔つきになって、
「……秀吉君、この後予定空いてるかな?」
「うむ? 今日は夕方までは明久達は戻ってこないじゃろうから特にこれといった予定はないぞい」
「そっか。……突然なんだけど、ちょっとだけうちに遊びにこない?」
「花咲の家にか?」
「うん。ちょうど今うち、私以外誰もいないから」
「ふむ」
「寂しくてたまらないのぉ。だから、うちに来てよ。ダメ?」
「まあ、いいのじゃが……」
平静を装って言ったが、儂も男じゃ。異性の家に上がり込むというのは少々緊張するのぉ。
島田の家は存外乙女のものじゃったが、葉月ちゃんもおったし、緊張するほどのものではなかったが。
「じゃあ、決まりだね」
とにもかくにも、こうして儂は花咲の家に行く事になったのじゃ。
商店街からバスでいくつか通り過ぎ、少し遠目の住宅街に花咲の家があった。
「ここが花咲の家じゃな……中々に立派ではないか」
儂の目の前には立派な造りをした家が建っておった。
「お褒めの言葉ど~も。花咲茜のおうちへようこそ♪」
そういえば、雪村もこの辺りに住んでいると言うておったの。いつか機会があったらそっちにも皆でお邪魔してもいいか聞いてみるかの。
「ささ、いつまでもそんな所でぼーっとしてないで、上がって上がって♪」
「うむ」
儂は花咲の家へ足を踏み入れた。
「お邪魔するぞい」
花咲の家へいざ上がってみると、外見と同じように内装も中々上品なものが揃っておった。
雰囲気は儂の家と少し似ておるな。違うのは、ここに住んでいる花咲が大人っぽいという事じゃな。
少々日常でムッツリーニの生命を危うくしてしまう発言を飛ばすが、姉上のぐーたらな生活に比べれば幾分もマシじゃな。
「それで花咲、何ゆえに儂をお主の家まで誘ってくれたのかの?」
儂は家の内装を一通り見ると、花咲へ視線を移して本題に入ろうとした。
あの時の花咲の表情はいつもとは違う真剣なものがあった。何か大事なことじゃと思って今まで深く聞かないでおいた。
じゃが、儂を自分の家へ上げたのはそれ相応の事があるからこそじゃと思っておる。じゃから、一体それが何なのかを儂は知りたいと思っておる。
「…………」
儂が話すと花咲は少し困ったような顔をしてから目を閉じる。
それから何秒かすると、表情が一気に真剣なものに変わった。同時に今度こそ花咲に大して違和感を感じた。
何やら、うまく言葉にはできんが、まるで……魂そのものが入れ替わったかのように。
「……花咲?」
「……秀吉君、聞いていいかな?」
「何じゃ?」
「……茜ちゃんの事、どう思ってる?」
突然の質問に疑問が浮かんだが、すぐに花咲に対する違和感の正体が見えてきた気がした。
「やはり、お主は……」
「ねえ、どうなの?」
儂の言葉を遮って花咲が再び質問を重ねる。真剣な表情で言ってる事から今儂の抱えとる質問は後回しにした方がいいじゃろう。
「儂は、花咲とはそこまで付き合いがあるわけではないが、良き友人だとは思っておる」
「そっか、よかった」
「して、そろそろ聞きたいのじゃが…………お主は誰じゃ?」
儂の言葉に花咲は一瞬驚いた表情を見せるが、すぐに笑みを浮かべた。
「あはは、本当にすごいよね、秀吉君って。喫茶店でもあんな事を言われてどうしようかって2人で迷いながら話し合ったんだけど、あそこまで来たらもう私達の事を知っておいてもらった方がいいんじゃないかって」
「ということは、やはり……」
「うん……今ここでこうしている私は、茜じゃないの。私は、花咲藍。茜ちゃんの……お姉ちゃんの妹だよ」
「い、妹……かの?」
「うん」
いや、花咲の様子が時々違ったりする事があるから、もしやと思ってたが……まさかこういう事とはの。
普通なら笑いそうな所じゃが、相手が嘘や冗談を言ってるか否かは見ればすぐにわかる。
「うむ……俗に言う二重人格、と思っておったが……妹、とはの」
「あぁ……ある意味そんな感じと言えなくもないと思うけど、でも私はずっと前に死んじゃって……気づいたら茜ちゃんの中にいたから。それからたま~に出てきてお姉ちゃんの身体を使わせてもらってるだけ」
「……ああ、つまり……幽霊が花咲の身体の中に憑依した状態、と言ったところかの?」
「ん~、どうだろ? 少なくとも、幽体離脱とか、そういった経験はないからな~。私の意識は、あくまであかねちゃんの身体にいる時しか感じないし」
「ふむ……」
「……あはは。幽霊だとか二重人格だとか当たり前だって感じで話してるね」
「まあ……儂も何やっとるのじゃろうか感があるが、今までで色々体験してきたからの。これくらいあってもおかしくないと心底思えるようになってきてるぞい」
「あはは、本当に色々あったもんね。過去の風見学園とか、文月学園とか」
「まあ、の……」
文月学園と聞いて、FFF団の事、姉上の折檻の事、そして向こうでの男子からの告白の数々を思い出した。
あれを普段からずっと見続けたからか、この手のドッキリには思いっきり耐性がついていたようじゃ。
「それで、これから儂はどうしてやればよいかの? こうして花咲と──」
「ああ、できれば茜か、藍で呼んでほしいかな? 苗字だとややこしくなりそうだし」
花咲……いや、藍の言葉に一瞬迷ったが、こうして秘密を知ってしまったのじゃし、確かにそうした方がよいのかもしれん。
「うむ、茜と藍の秘密を知ったわけじゃしの。儂は茜にどうしてやればよいか……」
「ああ、別に何かしてほしいってわけじゃないの。ただ、これからお姉ちゃんと一生身体を共有しながら暮らしていくからね。でも、秀吉君は勘が鋭いから、いずれバレそうかなって思って……それで今日思い切って秘密を明かそうって思ったの。後で私の事を騒がれたら色々困った事になっちゃいそうだし……」
確かに……茜の中にもうひとり別の人格があるなどと言ったら、明久達はともかく、他がどんな反応をするかわからんしの。
「うむ、わかった。この事に関しては儂らの秘密という事にしておこう」
「うん、ありがと、秀吉君♪」
「礼には及ばんぞい。しかし……本当に茜にそっくりじゃの。儂でも少し違和感を持つだけで、確信が持てないくらいの似通いっぷりじゃ」
「ん~、それはそうかもね。小さい頃から、一緒に『花咲茜』をやってたからね。私は藍だけど、『花咲茜』の一部でもあるわけだから。茜ちゃんと私の仕草で違うところなんて、ぶっちゃけ……ないと思うな」
「うむ。それもそうか」
「でも、秀吉君なら見分けがつくんじゃないかな?」
「む~……そうかの? 今日この時までほとんど確信が持てなかったしの……」
「きっとすぐに確信持てるようになるって。それじゃあ、私は退散するから、後よろしくね」
そう言って藍は目を閉じ、しばらくすると再び目を開けた。同時に先程の僅かな違和感も消えた。
「……お話は、済んだ?」
「むぅ……茜、かの?」
「うん。花咲茜です」
今目の前にいるのは正真正銘儂の知っとる『花咲茜』じゃった。
「藍ちゃんから、聞いた?」
「うむ。まさか、お主に妹がおったとはの」
「さっきの話なんだけど、信じた?」
「うむ」
儂は演技を人一倍観察する目があるから、他人の嘘には敏感な方じゃと自負しておる。
今目の前にいる少女が嘘を言ってるか否かなど、すぐにわかる。
「さっすが秀吉君、理解が早いね~」
「その手の適応力は鍛えられておるからの」
主に、明久や雄二、ムッツリーニの繰り広げる日常のおかげでの。
「ふふ、それじゃ……」
茜は笑みを浮かべると手を差し伸べて、
「これからもよろしくね、秀吉君♪」
──ドクン……。
「っ!?」
「……秀吉君?」
「い、いや、なんでもないぞい! よ、よろしく頼むぞい!」
そう言って儂はどうにかギリギリで平静を装って茜と握手をした。
むぅ……今の胸の高鳴りは何なのじゃ? なにやら、心臓の鼓動が早くなっておるのじゃが。
こうして、色々困惑する一日を終え、儂の新しい日常が幕を開けたのじゃ。