「ええええぇぇぇぇ!?」
ロッジに戻り、ななかちゃんの姿を見た小恋ちゃんが泣きながら抱きつき、感動の再会を眺めた1時間後のこと。
僕達は驚愕の真実を知ることとなった。
「いや、だからね。ぶっちゃけ、今回の合宿って……実戦訓練だったわけよ」
「じ、じじじ実戦?」
「何だ、実戦訓練の意味もわからないのか? 演習などとは違う、実際に起こる事態を想定して──」
「言葉の意味くらいわかってるよ! そうじゃなくて! 一体全体なんで!?」
「あ、その……杉並君や雪村さん達に協力してもらっての訓練だったの。つまり、実際の追いかけっこを想定したもので」
「休みの間に体力が衰えないよう、トレーニングと追いかけっこをやってたってわけ」
「と、そういうことだ」
協力者である杉並君が前に出て頷いた。その後ろでは杉並君に協力していた雄二やムッツリーニ、秀吉やななかちゃん、雪月花の3人や天枷さんに渉もいた。
「え? ってことは、俺達は杉並達を相手に訓練してただけなんですか?」
「ピンポーン♪ ご名答」
「でもって、それ知らなかったの、俺達だけ?」
「そのとおり」
義之の問いにまゆきさんがニヤケ顔で答える。
「な……」
義之が絶句した。わかるよその気持ち。
「そういうのがひとりかふたりいないと、みんな本気になれないでしょ?」
「え? じゃあ、非公式新聞部のメンバーって話は……」
「この件はあくまで俺個人で請け負った仕事。非公式新聞部の面々の手を煩わす必要はないからな」
「結構楽しめたわね」
「義之君達に見つからないよう行動するのって、結構大変だったんだから」
「あはは。結構楽しかったり」
「ごめんね、明久君」
「いや、スマンの。明久」
「……割といいデータを得られた」
「何のデータなのだ?」
「…………マジかよ」
「ごめんね、弟君」
「すまんなぁ、同士桜内に吉井よ。これも司法取引というものだ」
「そうそう。これに協力してくれれば補習に出る必要はなくなるって高坂先輩が言うからついね」
「じゃあ、由夢! 由夢は知ってたのか!?」
「昨日の晩に聞かされました。不本意ながら、私もみんなのやる気を引き出す人材として利用されたわけです」
「のうっ!」
由夢ちゃんの言葉を受けて義之は膝を着いて崩れた落ちた。
ようするに、これまで非公式新聞部の仕業と思われたことは、全て生徒会と杉並君が仕組んでいたものだったというわけか。
「や、やっとれん……」
「ま、まあまあ。でも、そのおかげで本番さながらの訓練ができたんだよ?」
「うん。流石弟君だね。あんなに頑張ってくれたのは正直驚いちゃった。ありがとね」
「「「桜内君、ありがとう!」」」
「嬉しくねぇ! おい明久! お前も何か言えよ!」
「…………」
「おい、明久?」
「そういえば、さっきから黙ってるわね? まあ、おかげでいい訓練できたわけだし。後の時間は何しようと自由だから色々楽しんじゃいなよ」
高坂さんが笑いながら僕の肩をバンバン叩いた。うん、訓練だというのに驚いたし、僕達がマリオネットみたいに利用されたのにもまあ、文句がないわけではないけどそこは百歩譲って許すとしよう。しかし──
「なっにが、楽しんじゃいなさいよですか! 笑い事じゃないですよっ!」
僕が目いっぱい怒鳴るど、場がシン、と静まった。
「そりゃあ、訓練だったっていうならそれはそれでいいですよ! お互い納得してのことならそれはそれで! けど、今回の件! 一歩間違えば遭難の危険があったんですよ! 僕だったらまだ生き残れる自信はありましたけど! そういった知識も何もないななかちゃん達まで巻き込んでおいてそれではいそうですかって納得できるわけないでしょうが!」
「う……」
「その、ごめんなさい」
「まあ、それについては何も言わなかったお姉ちゃん達に非があるわけですから、私からは弁護はできませんね」
「はい……」
由夢ちゃんに言われ、音姫さんはしゅんと落ち込んだ。
「まあ、結果として助かったからこれ以上何も言いませんけど……今度からこんな心臓に悪い事態は勘弁してください」
「その、今回は本当にごめん」
高坂さんからも謝罪の言葉を受け取ったんだ。これ以上僕が言うのもアレだろう。
ここはさっさとこの話は切って、残りの時間を楽しむことにしよう。
「じゃあ、せっかくの年末だし……新年が来るまで何かして遊ぼっか?」
「お! それじゃあ、高坂先輩が持ってきたツイストゲームを──」
「「「却下」」」
「アウチ!」
渉がツイストゲームを提案するも、女子軍に一斉却下されて呆気無く崩れた。
さて、僕も色々楽しむとしますか。
「と、いうわけで」←雄二
「まずは──」←僕
「「第一回年末のお過ごし用お遊び第一弾、Fクラス式ダウトゲームを始めたいと思う!」」←僕と雄二
「「イェー!」」←秀吉とムッツリーニ
僕達Fクラス組、いつもの仲良しグループやそこに更に音姫さん、由夢ちゃん、高坂さん、ムラサキさんを加えたみんなでゲーム大会をすることになった。
「ダウトゲームか」
「えっと、どんなゲーム?」
あらら……小恋ちゃんはダウトを知らないようなのでここらで説明を入れなければ。
「そうだね。ここで説明を入れようか。まず、スペードのAを持ってる人がAと宣言しながらカードを伏せて場に出すんだ」
「ただし、わざわざ本当にAを出す必要もない」
「え? Aを持ってる人が出すんなら、出すのがルールじゃないの?」
「それがダウトゲームで重要な駆け引きじゃな。とにかく、そうやって場に出してから2、3、4、と順番に宣言しながら自分のカードを出すのじゃ」
「そして更にここからが重要。その場に出すカードは宣言通りである必要はないけど、『ダウト』と宣告され、そこに出したカードが嘘だった場合、場のカードが全部嘘をついた人の手札になるんだ」
「そうやって駆け引きして、自分の手札をなくしていくのが本来のルールなんだが……」
「ここからがFクラス、ローカルルール! 本来なら手札がなくなるまでのところを残り2枚のところでゲーム終了とする。こうやると早く終わるんだよね」
「4枚目の駆け引きが重要なポイントじゃな」
「迂闊な数字を言うと、自分の首を締める事になるからな」
「へぇ~……なんか面白そうね」
「というわけで、まずは僕達がお手本を見せることにします」
「じゃあ、始めるぞ」
雄二が持ってきたトランプを切って僕達にカードを配った。さて、いよいよスタートだ。
「では儂からじゃな。A」
まずは秀吉からカードを出した。秀吉が相手だと、自分に特定の数字が4枚揃ってないと確証がつかないんだよな。
秀吉は得意の演技で場に出すカードを本当に見せかけたり、嘘に見せかけたりすることに長けているからな。
秀吉相手には迂闊にダウト宣言はしないほうがいいだろう。
「……2」
次にムッツリーニ。ムッツリーニも表情が堅いから駆け引きでは油断ならない。ここも慎重にいったほうがいいだろう。
次は雄二だけど……前じゃいきなり嘘をついてるし、今回も僕相手に嵌める可能性が高い。いくら枚数が少ないからといって、いきなりダウト宣言がはずれたら
嫌だけど、被害は少ない方がいいからなぁ。いきなり仕掛けてみよう。
「3だ」
「ダウト!」
「残念だな」
「くそぉ!」
ここで正直に来るか、雄二。
「バカが。お前がいきなり仕掛けてくるのは予想済み……というか、顔に出過ぎなんだよ」
「うむ。いきなりいってみるかという考えが丸分かりじゃぞ」
「……やはりトランプに向いてない」
言ってくれるな。くそ……前の連敗続きの僕とは違うというのをすぐに証明してやる。
そう心に決めて場のカードを手札に加える。そしてそのカードの数字は……4、6、3。
「……いい加減思うんだけど、みんな結託して僕を攻撃してない?」
何か今までのことを思い返しても、みんなが寄ってたかってピンポイントで僕に精神的攻撃を加えてる気がするんだよね。
「いいからさっさとカードを出せ」
「わかったよ。ほら、4」
今、場に出たカードを加えて僕の手札には4と6の数字が4枚入っている。
適当なところでダウト宣言をすれば僕の手札は一気に減って勝負を仕掛けやすくなるだろう。
そうして年末お過ごしのゲームは続いていく。
「ダウト!」
「残念じゃな、明久」
「くっそぉ! また負けた!」
「お前、顔わかりやすすぎなんだよ」
「う~……トレーディングカードゲームなら結構自信あるんだけどなぁ」
「お主はポーカーは絶対に向かんの」
「その手で儲かることは絶対に不可能」
「ちくしょう……」
さっきから連敗はどうにか免れたとこもあるものの、結構負けが続いている僕。
周りの人も僕達に続いてもうひとつ用意していたトランプでダウトをして回数やっていた。
「さて、ここいらで別のゲームで楽しむことにするか」
「あ、そうだね。あとこういった場で楽しめそうなものと言えば……」
「ここはひとつ……王様ゲームなんてどうかしら?」
「お、お、おおおぉぅさまげええええぇぇぇぇむぅ!!」
王様ゲームという単語が出た途端、渉がいつになくハイテンションになった。
「お、おうさまげーむ?」
「何なのだ、それは?」
「おや、月島はともかく、天枷も知らなかったか?」
「うむ。何やら血湧き肉躍る名前のゲームだな。王侯貴族となって民を従え、他の諸侯を蹴散らすゲームか?」
「ふむ、言っていることは無茶苦茶だが、大きくはずれてはいないな」
随分と物騒な方向に勘違いされている模様。
「王様ゲームというものはだな、くじを引いて王様となって者が、他の者に命令できる、という20世紀のパーティーゲームなのだ!」
「こりゃまたオーソドックスなもんを出したな」
「うん。まさに王道なものを出してきたね」
「明久はやったことあるのか? 俺は聞いたことくらいはあるが」
「うん。僕達の間じゃ結構やってたなぁ」
「ギリギリな命令も山盛りじゃったがの」
「……(こくこく)」
「まあ、吉井達がいた世界じゃ私達よりかは王様ゲームが広がった時期に近いから若い集団でやる人も多かったようね」
「そんでそんで! 今、俺達の間でもあの伝説のゲームが蘇っていくううぅぅぅぅ!」
渉は王様ゲームをやると聞いて滅茶苦茶乗り気だった。
「ところで、他に知らない人はいるかしら?」
杏ちゃんが問うて小恋ちゃん、天枷さん、音姫さんにムラサキさんが手を上げた。うん、大体予想通りのメンツだ。
とりあえず今手をあげた4人に王様ゲームのルールを簡単に説明する。
「まあ、聞いた感じじゃなんか楽しそうだし」
「そうね。これなら加減を間違えなければそんなに酷いことにはならないかな?」
「うむ。面白そうだ」
「庶民の間ではこういったゲームもあるのですか」
「ま、小恋みたいに性根の底からエロい人のえっちな命令には注意しなきゃいけないけどね……」
「えぇ!? 私えっちじゃないよぉ……」
「どうかしら? ねえ、茜」
「うんうん。小恋ちゃんの命令には注意が必要だね。何されるかわかったもんじゃないし」
「なんでそーゆーこというのぉ? も~」
雪月花3人はいつも通りに盛り上がっていた。まあ、盛り上がればそれに伴って命令のレベルも上がってくる場合もあるから確かに注意は必要だね。
特に雄二の命令には要注意だ。下手をすれば一生の恥になりかねない命令も飛ぶかもしれないし。
「特に異存はなさそうね。それじゃあ、すぐに始めましょう」
「だが、この人数は些か多すぎるな。即席のくじをつくって人員を二分割して交互にゲームをしてみようではないか」
杉並君が紙でつくったくじを床に置いて指示する。
「よっしゃー! 女子と、是非女子と!」
渉がはりきってくじを引き、それに続いてみんながくじを引く。僕は……1と書かれているな。
「それでは、1と書かれている番号のくじを持ってる者は手をあげよ!」
杉並君の言葉に僕を含め、雄二、霧島さん、ななかちゃん、音姫さん、高坂さん、ムッツリーニ、ムラサキさんだった。
「じゃあ、残りの私達は後でね。じゃ、早速始めましょう」
そう言って杏ちゃんは何本もの割り箸が入ったカップを取り出した。最初から王様ゲームを計画してたっぽいね。
「さ、早い者勝ちよ」
「おっしゃー! 来い、王様ー!」
「絶対に当ててやらぁ」
「……私が王様」
「…………」
「何だか、ドキドキしますわ」
「……引き当てる」
「う~、王様きますように~」
僕もみんなと一緒に何も考えずにくじを引く。
「じゃあ、行くぜ。せ~の!」
「「王様だーれだ!」」
「な、何!?」
「いきなり何を叫んでおりますの?」
「あ? 王様ゲームと言ったらこれが普通だろ?」
「うん。大体こうやってくじを引くんだけどね」
「……(こくこく)」
「それは知らなかったわね。それで、誰が王様なのかしら?」
「へへっ。俺だ」
「げっ! 雄二か!」
いきなり厄介な奴に王様くじが回ったもんだ。
「じゃあ、そうだな……5番と!」
「う……」
「6番が!」
「む……」
「杉並に! 『好きです、付き合ってください』と、告ってこい!」
「「貴様ああぁぁぁぁ!!」」
僕とムッツリーニが同時に叫んだ。どうやら僕は5番でムッツリーニが6番のようだ。
「何て命令出してくれるんだ! もう少し加減てものを考えろよ! ていうか、僕にはもうななかちゃんという恋人がいるのに!」
「不名誉な!」
「駄目よ吉井……」
「「「王様の命令は!」」」
高坂さんに続いてギャラリーが一斉に王様ゲームの最大のルールを口にする。そうだ、王様の命令は……
「「ぜ、絶対…………ちくしょう──っ!!」」
僕とムッツリーニは意を決して杉並君のところへと駆け寄った。
「くっ……2回戦! 行くぞぉ!」
「イェエエェェェェ!」
「相当必死じゃのう」
「まあ、あの告白場面は、見るに耐えなかったからな」
さっきの明久と土屋の告白場面は……いや、あいつらのために何も言うまい。
一言いえば、杉並が悪乗りしてとんでもない場面に切り替わってしまった。あれは見てるこっちも酷いと思えるほどだった。
明久と土屋が血涙を流してるよ。
「行くぞ! せぇのぉ!」
「「「王様だーれだ!」」」
明久の号令と共に、全員がくじを引いた。
「あ、あたしね」
今度はまゆきさんが王様か。なんだか、厄介な人に王様が行きやすいな。
「じゃあ、3番と、5番が……30秒間抱き合うってことで」
「また僕ぅ!? えっと、5番は……?」
また明久が当たったっぽい。今日はとことん厄日だな、明久。ちなみに相手は……。
「あ、私♪」
「そ、そう……よかったぁ」
白河だった。よかったな、明久。今回は恋人で。
「なんだ白河さんか。ちょっとつまんない」
対してまゆきさんはちょっとつまらなそうに言う。もしこれが男同士だったらどうするんですか。
そして明久と白河がまゆきさんの命令を実行して抱きつきあった。
「うわぁ……」
「なんか、すごい……」
音姉と小恋が口を開いたまま2人の抱き合う姿を見つめていた。なんだか、見てるこっちが恥ずかしくなるな。
「そこまで! 2人共、いいものを見せてもらったぞ!」
「っはぁ! き、緊張したぁ……」
「あはは! 明久君、すっごいドキドキしてた! 心臓バクバクだったのこっちにも伝わったよ!」
「そ、そりゃあ……いくら恋人だからって、緊張するものはするんだし……」
緊張したのはこっちだっつうの。これみよがしに見せつけやがって。
「んじゃあ、3回戦いくか。せぇの!」
「「「王様だーれだ!」」」
色々と緊張感を抱いたまま3回戦が始まった。
「王様は、誰だ?」
坂本が問うが、中々答える者がいなかった。一体誰なんだと緊張感が漂う中、霧島さんがそっと立ち上がり、自分のくじを見せる。
そこには王という文字が──
「スマンが急用が──」
「「逃がすかぁ!」」
霧島さんのくじを見た瞬間、坂本が逃げようとしたところを明久と土屋が取り押さえる。お前ら、すごい反射神経だな。
「さあ、王様。ご命令を」
「は、放せ! 俺は、俺はまだ死にたくねえ!」
明久が坂本を取り押さえながら霧島さんに命令を促す。さっきの相当根に持ってるな。
「……じゃあ、雄二は私に何をされても抵抗しない」
「ちょっと待て! お前、俺に何をするつもりなんだ!?」
「……そんなの、恥ずかしくて言えない」
霧島さんが赤い顔して俯きながら呟く。一体何をするつもりなんだ?
「こいつ、変態だぁ!」
「ムッツリーニ! まだ具体的な方法言ってるわけじゃないのに鼻血を出すのは早すぎる! 大丈夫だ! まだ傷は浅い!」
土屋は霧島さんの言葉に何を想像したのか、既に鼻血でダウンしている。
「あの、霧島さん……その命令は無効じゃないかな。だって、きちんと番号を宣言しないとルール違反になっちゃうでしょ?」
「そ、そうだ……。番号さえ外れていれば……」
音姉の注意に坂本が若干落ち着きを取り戻したが、
「じゃあ、4番」
「……………………」
一瞬で静まった。マジで4番だったのか。ていうか、何で霧島さんは坂本の番号が正確にわかるんだ?
「……くそぉ!」
「「逃がすかぁ!」」
再び坂本が逃走を試みるが、明久と土屋の連携であっさり捕まり、その後で霧島が別室に坂本を連れて消えた。
「む~! むむ~っ!」
「何だか拷問の跡みたいね……」
「一体、どのような目に会ったのですか?」
「何だかすげえ光景だ……」
「まさに、女王様の躾ね」
霧島さんが戻ってきたと思ったら、何故か坂本はロープで縛られ、猿轡を噛まされていた。一体別室で何があったんだ?
「それじゃあ、僕らのグループはこれでラストにして、そろそろ義之達のグループに回すか。じゃ、せぇの!」
「「「王様だーれだ!」」」
そして、明久達のグループの最後の王様ゲームが開幕した。
「よし、僕だ!」
最後に明久が王様になった。
「さて、1番から7番全員……足りなくなったお菓子と飲み物を買っておいてね!」
「最後の最後で無難な命令が来たな」
「ま、この人数ですし……そろそろお菓子も足りなくなったところですからね。ちょうどいいタイミングだったんじゃないですか?」
「確かに、このままゲームして待つだけってのも味気ないものだし。ちょうどよかったんじゃないか」
「く……王様ゲームを使ってパシリとはやるわね……」
「まあ、過激な命令じゃなくてよかったかな」
と、明久以外のみんなが不足した菓子と飲み物を買うという形で王様ゲーム第一弾は終わった。
「じゃあ、次は私達ね」
そう言って早速杏がくじの入ったカップを差し出した。いよいよ俺達の番だ。
「よっしゃ、いよいよ来たぁ。テメェら、覚悟はいいな? 行くぞ……せぇの!」
「「「王様ダーレだ!」」」
渉の号令に合わせ、俺達はくじを引いた。
「ふむ……最初は俺のようだ」
「早速かよ!」
杉並が王様とわかると同時に渉が膝を着いた。
ていうか、本当に厄介な奴に王様くじが回りやすいな。
「ふっふっふ……安心しろ皆の衆。この杉並、空気を読む男。こういうのは徐々にエスカレートしていくからこそ面白い、ということは重々承知している。今後の盛り上がりに期待しるる、控えめな指令を出してやろうではないか」
「さて、どんな命令が来るのやら」
「ドキドキするね~♪」
杏と茜は楽しそうに言うが、俺としては杉並の命令がどんななのかわからなくて緊張している。杉並の最初の命令は何だ?
「では……3番が5番をビンタする!」
「何処が控えめなの!?」
杉並の命令に外野から明久がツッコミを入れた。全くもって同感だった。
「うわ~ん、5番だぁ~!」
危ねぇ……7番に回ってこなくて助かった。流石に女子は殴れねえよ。ちなみにビンタする側の3番はというと、
「お、俺が、3番……」
渉が恐る恐る挙手をした。どちら側も災難だな。
「おお、なんだかバイオレンスな展開だな!」
「だが、ちょっと物足りなくねえか?」
「そうね。もう少しキツめにしてもよかったんじゃない?」
天枷、坂本、まゆきさんはバイオレンス展開大歓迎のようで。後半2人はもっとキツめをご希望らしいだ、こんなところでそんな血なまぐさいことは勘弁してくれ。
「ふえ~、女の子じゃないのぉ?」
「ふっふっふ、俺は手なんか抜かないぜぇ、月島ぁ」
「ううぅ~、怖いよぉ」
渉が手をパキポキ鳴らしながら小恋に近づいていく。まるで蛇に睨まれたカエル、美女と野獣という言葉が頭に浮かんだ。
「いくぜ、とりゃああぁぁぁぁ!!」
そして渉は小恋に向かって思い切り手を振り上げ、
──ペチン。
滅茶苦茶ソフトに頬に手をつけた。
「……はれ? これで終わり?」
「……ちっ、手元が狂ったぜ。命拾いしたな、月島」
「ふう、ドキドキした~……」
渉から来たのが超ソフトなビンタだったことに安堵して小恋はほっと胸をなで下ろした。
「ふん……意気地のない男ね」
「ヘタレめ……」
「つまらねぇな」
「板橋、あんた真面目にやりなさいよ」
「な、殴れるかぁ! 勘弁してくれよ!」
まあ、渉に小恋を殴れるはずもないわな。
「まあいいわ。次、行きましょう」
杏がくじを元に戻してみんなで引き直す。
「じゃあ、次行くぜ。せぇの!」
「「「王様だーれだ!」」」
「あら、今度は私ね」
マジでさっきから危険人物ばかりに王がいくなぁ。誰か細工してるんじゃねえのかって疑いたくなる。
「じゃあ、行くわよ……」
「杏先輩! ここは一発、盛り上がるヤツを頼む!」
「そうね……じゃあ、1番が2番と、3番が4番と、5番が6番と……」
7番を除いた全員に命令が行くようだ。一体何を命令するんだ。
「見つめ合い、抱き合いながら愛の言葉を囁きあう」
「ぶはっ!」
と、とんでもない命令をしやがった、こいつ……。
「ほう、俺は6番か」
「ぶはっ! お、男と!?」
どうやら渉は運悪く杉並と当たってしまったようだ。
「わ、私……1番」
「あ、じゃあ俺とか」
「よ、義之と!?」
「美夏は……当たらなかったか」
「ということは儂は、花咲とじゃな」
「よろしくね~、秀吉君♪」
「お互い、パートナーが誰かわかったようだし、早速始めなさい」
「ま、まままま、待て杏! おま、男同士だぞ!?」
渉が杏に抗議した。
「仕方ないでしょ。適当に番号言ったらそうなったんだから。ま、大丈夫よ。一部の人には需要あるから」
「ここにその一部なんていねえよ!」
渉の言葉に明久、坂本、土屋が強く頷いたのが横目で見えた。
「うるさいわね。王様の命令は絶対よ」
杏にキッパリと言われ、渉は命令に従う他なかった。そして……
「で、この距離でいいのか?」
俺は杏の命令に従って小恋を軽く抱きながら尋ねる。はあ、ゲームの命令とはいえ、やっぱり恥ずかしいな。
「ほらほら、まだよ。もう少しくっつきなさい」
「たく……」
杏の奴、カメラまで持ち出しやがって。絶対楽しんでるな。
とりあえず、俺は小恋を胸元まで抱き寄せる。同時に音姉や由夢からキツイ視線が飛んできてるような気がするが、何でだ?
「ほら、さっさとする」
「えっと……小恋、俺は──」
「む、無理! いくらなんでも無理!」
俺が杏の命令通り愛の囁きを始めようとしたところで小恋から拒絶された。まあ、流石にこのゲームは恥ずかしすぎるだろうけど。
「ちっ……」
なんだか杏が舌打ちしていたが、気にしないことにした。とりあえず、他はどうなってるかちょっと気になるな。
俺はまず渉の方に視線を送るが、
「…………」
既にグロッキー状態だった。
「わ、渉君!?」
渉の状態に小恋が驚いて声をかけると反応して渉が杉並から逃れようと必死にもがいていた。
「は、放してくれ杉並っ! 月島の、月島の声が……!」
「幻聴だ。そうツレないことを言うな板橋よ。夜は長いのだから、ゆっくり楽しもうではないか」
「嫌だぁ! だ、誰か助けて! 犯され……」
渉がどんどん遠い存在になっていく気がする。渉が杉並に全てを奪われるかもしれないと思った時だった。
「あらら~、秀吉君ってば本当に男の子なのかな~?」
「は、花咲よ!? 何処を触っておるのじゃ!?」
「こんなに肌すべすべで、ほっそりしてて、羨ましいな~」
「ちょ、ちょっと待つのじゃ! 何だかお主、少々悪乗りが過ぎるのではないか!? というより、少々人格が──」
「ところで下半身はどうなってるのかな~?」
「何をするのじゃあああぁぁぁぁ!!」
あっちはあっちで綺麗な百合が咲き乱れていた。いや、木下は男だから百合ではないのだが、ああいうのを見ていると木下が本当に男なのかどうか疑いたくなるなぁ。
見ててすごい絵になってるし。
「おぉ……」
その光景をみて渉は目をギラギラさせながらガン見していた。復活早いな。
「ほぉ、ああいうのがいいというわけだな」
「へ? ちょ、杉並、何を……? 何を──あぁ!」
そして渉は杉並に連れ去られ、ベッドの上で…………いや、これ以上は何もいうまい。
「……そういえば、みんながアレコレやってる間にそろそろ新年を迎えるよ?」
ゴォ~ン!
明久が時刻を言うと同時にどこからか除夜の鐘が鳴り響いてきた。
「そういえば、そろそろだな」
「そろそろカウントダウンでもするかの」
「……準備は万全」
「あの、渉は?」
「……放っておいてやれ、明久。アイツのことは……今はひとりにしてやるんだ」
「……そうだね」
部屋の隅では渉が完全に枯れ果てていた。まあ、あんだけやられりゃそりゃ枯れるわ。杉並、お前やりすぎだ。
「では、カウントダウンに入るぞ!」
「カウント10秒前!」
「10!」
「9!」
「8!」
「7!」
「6!」
「5!」
「4!」
「3!」
「2!」
「1!」
「「「0! 明けましておめでとうございまーす!」」」
カウントダウンを終え、俺達は新年の挨拶を交わしあった。
こんな人数でこんなに賑わって大丈夫なのかと思ったが、よく耳を済ましてみれば他の場所でも同じように賑わってる所も多いようだ。
まあ、新年を迎えたのだし、当たり前と言えば当たり前か。
ドォーン!
「な、何っ!?」
「こりゃ、花火か?」
「年越しのイベントでもやっとるのかの?」
「そんな話、聞いてないけど?」
「ハッハッハ! それはこの不肖杉並が新年を祝うためにあちこちに花火をセットしておいたのだ。本来なら宇宙生物との交信を目的としたのだが、みんなのことも考え、今回は花火にしたのだ!」
「ふえ~、杉並君すごい……」
「相変わらず無駄にすげえな」
「ていうか、こっちでもそんな真似してたの?」
「言っておくが、スキー場の運営スタッフの方々からも既に許可はとっている。文句を言われる筋合いはないぞ」
「よくそんな根回しができたな」
まあ、これなら確かに盛り上がるか。窓からゲレンデを見下ろすと花火を見に来た客が何十人もいたのが見えた。
色々あった一年。明久達が来てから色々不思議な体験が目白押しだった去年。
そして、そいつらが今こうして一緒になって新年を迎えた。今年も色々おもしろおかしい一年になりそうだな。
「お姉さまあああぁぁぁぁ! さぁさ! 私と一緒に最高の楽園へ!」
「いやああぁぁぁぁ! いい加減にしなさいよ美春! ウチはあんたと付き合うなんてこれっぽっちも思ってないわよ!」
「嘘です! お姉さまは美春を愛している筈です!」
「なんで人の話を聞かないのよあんたは!」
「お願いです学園長先生! 明久君の居場所を教えてください!」
「知らないよ。退学届を出してからあいつは音信不通さ。今あいつが何処にいるかなんて、あたしは知らないよ」
「そんな!」
「吉井君! 一体何処にいるんだい!? はっ! まさか既に初音島に行ってるのでは? 何故僕に言ってくれないんだ! どうか! どうか枯れない桜よ! もう一度僕を吉井君のもとへ連れていってくれ!」
「はぅ~……バカなお兄ちゃんどこでしょう? 初音島はどこですかと通行人に聞いてもみんな知らないと言ってます」
「吉井いいぃぃぃぃ! 俺達を差し置いて美少女と交際とは、万死に値する!」
「「「YES! サーチ&デス!」」」
「む? 須川会長!」
「何だ!?」
「あれは一体何でしょう?」
「何って、あれはどう見ても桜…………桜?」
「…………あれ? ここ、何処ですか?」
「瑞希!? いつの間に? ていうか、ここ何処!?」
「美波ちゃん? あ、あれ? ここ何処でしょうか?」
「日本の風景ですが、見たことのない土地ですね」
「玲さん!?」
「あ、どうも、姫路さんに島田さん。何故かお料理をしている最中に目の前が真っ白になったと思ったら、ここに」
「あ、お姉ちゃん!」
「葉月!? あんたまで!?」
「む、こ、ここは……初音島ではないか!? 僕は、帰ってきたのか!?」
「久保君まで……」
「おや、あれは吉井君ではないか?」
「あ、本当だ! バカなお兄ちゃんです!」
「アキ!?」
「明久く…………美波ちゃん」
「えぇ……恐らく、ウチも瑞希と同じ考えだわ」
「手伝いましょう、お二人共」
「ありがとうございます、玲さん。では、明久君……オシオキが必要ですね」
「アキぃ~……覚悟はいいわね?」
「アキ君。姉である私に内緒で不純異性交遊とは……死刑ですね」
「見つけたぞ吉井いいぃぃぃぃ!」
「しかもあの女の子と手を繋いで歩いている!」
「いざ! 吉井を殺す!」
「くったばれええぇぇぇ!」
「「「くったばれええぇぇぇぇ!!」」」
「アキイイイィィィィ!」
「明久君!」
「アキ君、おしおきです」
「え? 何? 何でみんなが!? ていうか美波! 僕の関節はそっちには曲がらな……姉さん! その鈍器をどうするの!? そして姫路さん! 君はそんなグロテスクなものを何処から!?」
「「「死ね! 吉井イイィィィィ!!」」」
「ぎゃああああぁぁぁぁぁ!!」
「────ハッ!」
みんなと年越し祝いでワイワイ騒いだ次の日の朝、僕は目が覚めた。
「…………夢だったのか」
そりゃそうだよね。僕達だけならともかく、みんながいっぺんにこっちに来るなんて、ありえないよね。
でも、一言言えば……
「みんなと幸せな年越し後だっていうのに……なんて初夢だ」
ありはしないだろうけど、不吉な予感しか覚えない新年の朝だった。
初夢は正夢になりやすいというが、絶対にならないでほしいなと思う今日この頃だった。