バカとダ・カーポと桜色の学園生活   作:慈信

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第四十一話

 

 学園長室を出ていき、僕達は義之達と合流に向かっていた。

 

 旧校舎まで行くと秀吉とムッツリーニが先頭のチームと合流した。もちろん、義之達もいる。

 

「よう、明久。そっちは何か……って、どうしたんだその頬は?」

 

「ああ、ちょっとね……」

 

 頬の腫れた僕を見て秀吉達が心配そうに見た。

 

「もしや、島田達かの?」

 

「うん……ちょっとトラブルでね。まあ、そんなことよりちょっと学園長と話しててね」

 

 心配してくれるのはいいんだけど、今は正直あの2人のことは聞きたくないし、口にしたくなかった。

 

「(なあ、杏。何があったんだ? まあ、十中八九あの2人だろうけど……)」

 

「(ええ。正確には白川さんが叩かれそうになったのを吉井が庇ったわけだけど。あの2人、私達の言葉はおろか、吉井の言葉にも全く耳を傾けなかったわ)」

 

「(まったく……本当にあの2人は明久の事が好きなのかよ?)」

 

「(あら……気づいてたの?)」

 

「(ついさっき木下に聞いた。今でも信じられないがな)」

 

「(まあ、普通はそう思うわね。どっちにしろ、私はあの2人を応援する気はないけど)」

 

 義之と杏ちゃんが何か話しているみたいだけど、こっちはこっちで言っておかなくちゃ。

 

「で、話というのは、これのことかの?」

 

 秀吉が廊下に貼ってあったあの貼り紙を見せた。

 

「うん。僕もそれに出ようと思ってるんだ」

 

「目的は3連続トップを取った際の賞品かの?」

 

「うん。これに勝って学園長にどうにか扉のことで協力してもらえないかなって」

 

「う~む……あの扉のことが学園長にわかるかの?」

 

「正直わからないけど、まあオカルト要素満載のアレなら学園長も何も聞かず振り払うことはないと思うし、やってみる価値はあると思う」

 

「ふむ。まあ、お主が言うのであればいいのじゃが……ならば、今日は家に戻って勉強をすべきではないかの?」

 

「うん。そうするつもり」

 

「儂も参加したいところじゃが、得点の低い儂ではあまり見込みはなさそうじゃから今回は観戦といくかの」

 

「そういえば、ななかちゃん……試験どうするんだろ?」

 

「む? 何故白河の名が出るのじゃ?」

 

「ああ、なんかななかちゃんも出るみたいで。その場の流れというか、なんていうか……」

 

「む……白河も出るかの。……まあ、十中八九明久のためじゃろうて」

 

 なんか、最後に何か呟いた気がするけどよく聞こえなかった。

 

「さて、3連続トップを目指して僕も勉強しよう」

 

「ほう……俺を差し置いてトップを取れると思ってるのか?」

 

「雄二…………なんて格好してんの?」

 

「好きでこんな格好してんじゃねえ!」

 

 突然出てきた雄二は上半身裸で下はトランクス一丁、そして何故か途中で切れてる鎖が首輪から垂れ下がっていた。

 

「きゃ──っ! ちょ、坂本君! なんて格好してるの!?」

 

「わ、わわわわ!」

 

 この手の状況に耐性のない音姫さんと小恋ちゃんがオロオロとしていた。

 

「で? どうしてそんな格好なんて?」

 

「翔子の仕業だ! もうちょっとで俺は本気で破滅するところだったぞ! 二重の意味で!」

 

 どうやら霧島さんがまた新たな調教方法を見つけたようだ。

 

 ほとんど素っ裸に鎖で繋いでいるのを見ると、ペットにして遊ぶつもりなのだろうか。

 

「と・に・か・く! 俺は、俺はこの大会でなんとしても自由を勝ち取らなくちゃいけないんだ! 邪魔するなら容赦はしないぜ」

 

「いや、こっちもこっちで勝たなくちゃいけないからね」

 

 みんなの帰郷がかかってるんだから。

 

 それに、勝っても負けてもいずれは同じ運命辿っちゃうと思うんだけど。

 

 それならこちらとしても最初から遠慮する必要なんてない。

 

「でも……試召戦争ね。……中々面白そうだし、私も出てみようかしら?」

 

「「それはやめて(やめろ)」」

 

 杏ちゃんが相手になれば僕や雄二なんかでは全く相手になるとは思えない。

 

 霧島さんと同等かそれ以上の記憶力を有している彼女なら中学どころか、高校レベルの問題だってスラスラ解けそうで怖い。

 

 そんな娘の召喚獣を僕が相手なんてしたらフィードバックで腕の1本や2本じゃ済まなくなる。

 

「そう……ひどいわね。白河さんの出場は許可しておいて……そんなに2人の世界を作りたいのならまあ、今は出しゃばることはしないわ」

 

「ちょっと待って! 僕はそういうつもりで言ったんじゃないよ! ななかちゃんの出場だって予想外だったし!」

 

「ま、そういうことにしといてあげるわ」

 

「しといてあげるわじゃなくて! 本当に違うからぁ!」

 

「ま、助言くらいはしといてあげるわ。客観的に見た方がわかりやすいゲームもあるだろうし」

 

「まあ、それくらいなら是非お願いしたいけど……あまり助言する隙はないと思うよ」

 

「? 明久君、それってどういうこと?」

 

 僕の言葉に音姫さんが首を傾げて尋ねてくる。

 

「だって、あの妖怪ババアが考えたゲームだもん。絶対にロクなゲームじゃないと思う」

 

「妖怪ババアって……仮にも学園の長になんて暴言を……」

 

「芳乃学園長には普通に接していましたのに……」

 

 高坂さん、ムラサキさん。あのババアとさくらさんを比べるのは失礼というものだ。

 

 さくらさんを天使とするならあのババアは断然悪魔だ。いや、魔神と言ってもいいかもしれない。とにかく光と闇、善と悪、白と黒、月とすっぽんと正反対の2人だ。

 

「まあ、それはともかく、ババアが開発したものにロクなものはないんだよ。本当ならななかちゃんも参加させたくはなかったけど……」

 

「まあ、それに関しては同感だな。ババアの新開発したものでロクなものを見た覚えがねえ」

 

 あの地獄の苦しみは当事者にしかわからないだろう。

 

「お前らがそれほどまでに罵倒するようになった事件って、どんななんだ?」

 

「まあ、それは明日になれば見れるかもね。ともかく、決まったのならとっとと帰って勉強でもしてれば? 吉井なんて中学レベルもキツイじゃない」

 

「うぐ……もちろん、頑張ります」

 

 帰ったらとにかく得意の歴史系を中心にせめて他の科目も中学レベルはスラスラ解けるようにしないと。

 

 僕はみんなに一言挨拶して帰路を駆け、家へと戻って早速勉強に取り掛かった。

 

 …………結局、大半が姉さんに世話と称した邪魔が入ったのは皆の想像に難くないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、明久君。覚悟してください!」

 

「……吉井。手加減はしない」

 

 大会当日、早速一回戦が幕を開き、ランダムで選ばれた結果、対戦者の中に姫路さんと霧島さんがいた。

 

「く……まさか序盤からこの2人が来るなんて。マトモに戦ったらマズイ」

 

「でも、私もいるよ」

 

 ちなみに僕と上記2人を除いて最後の対戦者はななかちゃんだった。

 

「あはは……ルール上、自分以外みんな敵なんだけどね」

 

「でも、明久君がいたから少しだけ気が楽になったかな。困った時は助けてくれるよね?」

 

「あはは、もちろん。ルール関係なく、困ったら言ってよ。試召戦争に関しては結構やってたからそれなりにアドバイスはできるかもしれないし」

 

『ほら、クソジャリ共。くだらないお喋りはそこまでさね』

 

 僕とななかちゃんの会話に割って入ってきたのはババア長の放送だ。

 

 更に屋上から巨大なディスプレイが見え、その画面にはババア長のドアップが見えた。

 

 うん、こうして見ると本当に妖怪そのものだ。

 

『さて、始める前に簡単にルールの復習だね。まず全員には小さな端末は行き渡ったね?』

 

 ババア長に言われ、僕はポケットからその端末を取り出した。

 

 受付で参加登録をする際、教師達がこれを参加者に一機ずつ配っていた。どうもこの大会に欠かせない物らしい。

 

『その端末で自分の現在の所持金、持ち点数、所持設備、そして自他の現在地を知ることができるさね』

 

 試しに端末を操作すると確かに金貨のようなマークの欄には500ソルという数字があり、菱形のマークがある欄に僕の現在のもち点数が表示されていた。

 

 その下に何か星マークがあるけど、それが多分所持設備の欄だろう。そしてここ、中庭ステージの僕の位置もみんなの位置もしっかりチェックされている。

 

『そして、駒を進める時にはその端末画面にルーレットが表示されるからそれをタッチしてルーレットを回し、再びタッチして止め、出た目の数だけ進める。後は止まったマスに表示された指示に従えばいいだけさ。更にこのゲームには時間制限を設けてある。マスによっちゃあ厄介な指示もあるからいちいちゴールまで待つつもりはないから大体35ターンでキリにするさね。さて、簡単なルールは説明した。順番もルーレットで決められるから、しっかりやんな、クソガキ共』

 

 教師らしからぬ台詞を置いてババア長の映ったディスプレイの電源が切られ、学校中に開始合図のアラームが鳴り響いた。

 

 それから端末からも何かのアラームが響き、見ると4つに分けられたマスに僕達の名前が書いてあり、それが回っていた。

 

 なるほど。ババア長の言う通り、これで順番を決めるってわけか。ちなみに結果は僕がトップバッターとなった。

 

「よし! トップを目指して、頑張るぞ!」

 

 準備は整った。ここから大会の始まりだ。

 

「さあ、ルーレットスタート!」

 

 僕は端末を操作してルーレットを回した。止まった目は……5。まずまずのスタートだ。

 

 方向は……お、いきなり2択に分かれてる。別にどっちに行っても大差はなさそうだから……うん、左から行こう。

 

 僕は左へ進み、表示されているマスを5つ進んだ。

 

 止まったマスは、

 

『このマスでは机を買うことができます。あなたはこの設備を買いますか?』

 

 マスに止まると、端末から音声が流れ、画面に『Yes』、『No』の文字が表示された。

 

 どうやらここで設備を買うや否やを決めるらしい。う~ん……一応安そうだし、ここで買っておこう。僕は『Yes』のボタンを押した。

 

『机を買いました。設備レベルがひとつ上がりました』

 

「設備レベル?」

 

 画面を見ると星マークの欄の数字が0から1になった。

 

『ちなみに設備レベルというのはこのゲームの主な勝利条件さね。この数字が一番大きい奴がこのゲームの勝利者となるのさ。その設備はこうして買い取るなり、試召戦争で奪うなりして自分の設備レベルをあげるんだね。ただし、買い取るなら自分の所持金に常に気を遣いな。設備の画面の下にある星マークの数……それが多ければそれだけ価格も上がるからね』

 

 僕が首を傾げていると、端末からババア長の音声が流れ、設備レベルとやらのことを簡単に説明した。

 

 なるほど。設備を多く所持すればそれだけ勝利に近づくというわけだ。もちろん、所持金のことも常に気にしなくちゃいけない。

 

 もう本当に人生ゲームのようなすごろくだった。

 

 まあいい。ゲームはまだ始まったばかりだ。一丁やるか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達は明久と白河の対戦を見ていた。

 

 いや、見てるだけなら結構面白そうなゲームだなと思う。

 

 ちなみに現在、各々が設備を買い取って星マークを増やしていた。しかし、もう8ターン目。

 

 そろそろ仮想の金の残高が切れる奴も出てくるかもしれない。

 

「よし……姫路さん! この設備を賭けて勝負だ!」

 

「負けません!」

 

「む……どうやら明久の奴、姫路の設備を奪うために勝負する気じゃな」

 

「……いよいよ本当の試召戦争」

 

 どうやらいよいよ生の試召戦争が始まるようだ。

 

『ちなみに、このゲームで行われる試召戦争の教科はランダムで決められるさね。ちなみに、今回あんたらは数学さね』

 

「よし。では吉井と姫路! 数学承認!」

 

 始まる直前、ディスプレイで学園長が説明するとそれを受けて西村先生が合図を出すと先生の周囲に妙な空間が発現した。

 

「「召喚(サモン)」」

 

 明久と姫路さんが同時に掛け声を発すると2人の目の前に数字と記号の並んだ幾何学模様が描かれ、その中心からおよそ3頭身の2人をキャラクター化させたようなものが出現した。

 

「あれが召喚獣って奴か……」

 

「なんか可愛い~」

 

「なんだか、あの2人がゲームキャラクターになった感じですね」

 

「見た目はああじゃが、召喚獣は人間の何倍もパワーがあるからの。そして、今回は姫路とじゃ。明久の奴、かなりキツイ戦いになるじゃろうな」

 

 木下が説明しながら2人の召喚獣を指差すと、各召喚獣の頭上で数字が表示されていた。

 

『 科目:数学  Fクラス 吉井明久 93 VS Fクラス 姫路瑞希 413』

 

「って、413!?」

 

「えっと……あれは、この学園の人達から見ればどんな感じ?」

 

「一応、明久も勉強しておるから少しは上がっとるようじゃが……姫路も本来ならAクラス上位の学力を持っておるからの。Aクラスでも200取れればいい方じゃが、姫路のは驚異的じゃからの」

 

「……それに、姫路の恐ろしさはそれだけじゃない」

 

「え? それだけじゃないって?」

 

「……吉井のは普通だけど、姫路さんの召喚獣は腕輪をしてるわ」

 

「うむ」

 

 杏の言う通り、確かに姫路さんの方の召喚獣は妙な腕輪をしていた。

 

「あれは点数が400点を越えた者のみが有する特別な能力が込められた腕輪での。ある程度点数を消費することで特殊な能力を発揮できるのじゃ」

 

「……ちなみに俺も腕輪持ち。保健体育で」

 

「それで、姫路さんの腕輪の能力っていうのは?」

 

「それは見ればすぐわかるはずじゃ。……っと、もう始まったの」

 

「勝負です!」

 

 姫路さんが先制して召喚獣を走らせた。同時に召喚獣が腕を前に突き出すと、そこから炎が放射された。

 

「こ、光波熱線!?」

 

「なるほど。姫路さんの召喚獣の腕輪の能力は『熱線』というわけね」

 

「なんだか、本当にゲームが実体化したような感じ」

 

「見た目は可愛いんだけど」

 

「ていうか、アレを相手にして吉井、大丈夫か?」

 

「なんの!」

 

 明久は放射された熱線を召喚獣をサイドステップで大きく躱させ、すぐに体勢を整えて前進させた。

 

 そして、互いの剣による鍔迫り合いが始まった。いや、互いの剣というのは違うか。何故か明久の召喚獣の装備は木刀だし。

 

 それでも、点数に大差のある姫路さんと互角に渡り合っている。

 

「すげえな、明久。点数に大差があるっていうのに、互角だぞ」

 

「うむ。明久は学年でトップレベルであろう操作技術を持っておるからの。いくら点数に差があれど、簡単にあやつが倒れることはなかろう」

 

「学年トップクラスか」

 

 確かにゲームに強いからなのか、操作に関してはまさに自由自在といった感じだ。

 

「せい!」

 

 回避に専念しながら、小さな隙を狙って一発一発慎重に攻撃を当てていた。

 

『 科目:数学  Fクラス 吉井明久 93 VS Fクラス 姫路瑞希 306』

 

 姫路さんの召喚獣は徐々に点数を失っていく。ヒット&アウェイのスタイルを通す明久に対して姫路さんは召喚獣を見ての通り、特攻型のパワー系だ。

 

 姫路さんの召喚獣攻撃が一直線的で明久の召喚獣はそれを紙一重で躱しながら攻撃を当てていく。

 

 明久の召喚獣の点数では大したパワーが出ないのか、姫路さんの消費する点数は少ないが、そんなものが気にならないくらい明久の召喚獣を操る技術はすごいと素人の目でもわかる。

 

『 科目:数学  Fクラス 吉井明久 93 VS Fクラス 姫路瑞希 241』

 

 姫路さんの召喚獣の点数が半分近くまで下がっていった。このままいけば明久が勝利するかもしれない。

 

「よっしゃあ! そこよ、行けぇ吉井!」

 

「うおおぉぉぉぉ! 見てるこっちまで燃えてくるぜぇ!」

 

 体育会系のまゆきさんやこういった祭り事に燃える渉が召喚獣同士の戦いを見てかなり興奮し、気づけば大声で明久を応援していた。

 

 俺も声には出さないが、胸の内はかなり高揚しており、手には汗を握っていた。

 

 よし、勝てる。そう思っていた時だった。

 

「そこまで! 両者引き分け!」

 

「「「え!?」」」

 

 突然試召戦争を中断させられ、俺達は一斉に疑問の声を上げた。

 

 何故だ。確か、試召戦争はどちらかの点数が0になるか、降参などをするか、敵前逃亡でもない限りは止まることはないと聞いた。

 

「何でですか鉄人! 折角ここから大逆転できるかと思ったのに!」

 

「西村先生と呼べと言ってるだろうが! ちなみにこの試召戦争は時間制限があるんだ。ルール説明の欄にも載ってるだろうが」

 

「え?」

 

 明久は自分の端末を操作して確認をした。

 

「……本当だ」

 

 確認を終えて明久は膝を着いた。漫画に出るような不完全燃焼の様だな。

 

「わかったなら次に備えて作戦でも立てておくんだな」

 

「は~い……」

 

 西村先生に言われ、明久は持ち場に戻って次の自分の出番を待つ。

 

「しかし、これはちょっと危ないのう。今ので姫路の点数はかなり減っておる。霧島が姫路の設備を奪いに戦争を起こせば確実に姫路は負けるの」

 

「……断然、霧島が有利になった」

 

「せめて、何か状況を一変させるような条件のあるマスに止まればわからないけどね」

 

 杏の言う通り。ちょっとルールを確認してみると、各ステージの何処かには特殊なマスがあって、そこに止まると時に自分に有利な展開になるものもあれば、相手にもチャンスが与えられるような条件もある。

 

 そういったマスに止まれば展開はわからなくなるだろうが。

 

  ♪♪♪~~ ??♪~ ♪~~

 

 急に何か妙なメロディーが流れた。ステージを見ると、どうやら白河が例のマスに引っかかったようだ。

 

 一体どんな展開が起こるか、ちょっとわくわくした。

 

 いざ辺りに視線を配ると、屋上のディスプレイの画面内に『学園長降臨』の文字が浮かんでいた。そして、すぐに画面が学園長に切り替わった。

 

『うむ。ようやくそのマスに来たかい』

 

「ババア! 一体何しにきたんだ!」

 

 突然の学園長の登場に明久の慇懃無礼な言葉。明久、よく学園の長に対してそんな言葉が言えるな。

 

 俺だったら多分無理だ。まあ、相手がさくらさんだからというのもあるが。

 

『さて。今回はあたしの出番が来たようだね。時々こうやってあたしが出てくる時もあって、しばらくの間はこのステージをあたしが好きに弄ることができるのさ』

 

「好きに弄る?」

 

 学園長の言葉に白河が首を傾げた。

 

『ま、要するに……誰かの設備をあたしの意思で売り飛ばしたり、あんたらの位置を別の場所に移すことやその他もろもろ、なんでもあたしの思い通りさね』

 

「なんだと!? 人の真剣勝負にそんな横暴が許されるのか!」

 

『生憎と、しばらくの間はあたしがルールさね。さあ、早速いくさね。まずは……吉井、あんたの召喚獣を特別仕様にするさね』

 

「ぐ……今度は何なんだ?」

 

『西村先生。試召戦争直後に悪いが、吉井の周囲に召喚フィールドを張っておくれ』

 

「わかりました。教科はどうしましょう?」

 

『そうさね……ま、適当に現代文にしとこうじゃないか』

 

「はい。では、現代文承認!」

 

 西村先生の合図で再びステージ内の空気が変わった。

 

「吉井、さっさと召喚しろ。でなければ、即退場になるぞ」

 

「くぅ~……ババアのいう仕様って、嫌な予感しかしないんだけどなぁ。でも、みんなのためにも、ここは我慢だ。召喚(サモン)!」

 

 再び明久の足元に幾何学模様が走り、その中心から明久の召喚獣が出てきた。ただ、明久の召喚獣の姿が先程と違っていた。

 

「あれ? 明久の召喚獣の姿、変わってねえか?」

 

「うん。さっきとは違って明久君と同じ制服」

 

「まるで、明久さんをそのまま小さくしたような感じですね」

 

 由夢の言う通り、まるで明久の子供バージョンといった感じだ。

 

「なんか、ちょっと可愛いかも」

 

「うんうん。なんか、小さい頃の明久君って感じだね」

 

「ま、今でも精神年齢はアレと変わらない気もするけど」

 

「杏、お前酷いな」

 

 これが仕様なのか。まあ、見ている分には和むんだがな。

 

「……のう、ムッツリーニ。あれはもしや……」

 

「……恐らく」

 

 しかし、隣の2人は苦い顔をしていた。学園長の言ってた仕様に心当たりがあるのか。

 

『ふう……ババアの奴、今度はどんな厄介な仕様にしたんだろう?』

 

「全くだよ。一体今度は何を…………あれ?」

 

「ん?」

 

 何だ? 今どこからかやけに幼い感じの声が聞こえた気がするんだが。

 

「お姉ちゃん、今のは一体?」

 

「うん、子供の声……だったよね?」

 

「一体何処から?」

 

 俺達は辺りを見回すが、子供の姿など見えないぞ。

 

「う~ん……子供の姿なんて見えないなぁ」

 

「ええ。葉月ちゃんでもなさそうですし……一体何処から?」

 

「……違うわ。明久の召喚獣よ」

 

「え?」

 

 杏が明久の召喚獣を指差して言った。見ると、

 

『あのババアめ。また酷い目に会ったら今度こそしばき倒してやる』

 

 明久の召喚獣の口が動くと同時にそれに合わせて言葉が出てきている。

 

「ていうか、あの召喚獣の言っていること……」

 

「なんか、明久君の生き写しというか、それ以上に……」

 

「すごい本音が……」

 

「ムッツリーニよ、やはりこれは……」

 

「……間違いない」

 

 木下と土屋が互いを見合わると同時に、

 

「本音召喚獣、キちゃったああぁぁぁぁ!?」

 

 明久が頭を抱えて絶叫していた。ていうか、本音召喚獣って何だ?

 


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