バカとダ・カーポと桜色の学園生活   作:慈信

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第三十九話

 

「……姉さん」

 

「何でしょう? アキ君」

 

「……お願いですから僕の目の前につきだしているその女子用の制服をしまってください!」

 

「それよりもいい加減に明久君をいじめるのをやめてください!」

 

「いじめてませんよ? 私はアキ君に似合う服を厳選して……」

 

「厳選するならまず服を男子用にすべきです!」

 

 現在、俺は白河、渉と共に明久の家に訪れていた。

 

 玲さんの明久への暴力を止めた後、明久が連れていかれそうになるのもこれまた全力で止めた。

 

 明久から聞いた以上にこの人の非常識っぷりには驚かされたので、家で明久がどんな目に合わされるからわからなかったからだ。

 

 しかし、玲さんも家族が一緒に住むのはおかしいですかと真顔で聞いてきたので反論が難しかった。

 

 確かに普通なら家族と一緒にいるのは当然なんだが、この人の場合だとそれが命を左右するのではと思い、なんとしても2人だけにするわけにはいかなかった。

 

 そこで真っ先に白河が明久と吉井家に行くと言い出した。しかし、明久はそれを断固拒否した。

 

 白河が明久の事を思っての行動なのはわかるのだが、あの人はどうやら弟が異性を家に上げようものなら明久を死刑にしてもおかしくないと俺の本能が告げていた。

 

 あのままでは明久はただ死に向かって一直線に進んでいきそうだったので、俺と渉も一緒に行って男子率を上げて明久に向けられる殺気を少しでも抑えられるようにした。

 

 しかし、押さえたところで玲さんは玲さんだ。ご覧の通り非常識の度合いは全く変わらなかった。

 

「ふう……ななかちゃんのおかげでどうにか九死に一生を得た。まったく……相変わらずだな、姉さん。行動と発想が過激だよ」

 

「過激で済ませていいレベルじゃないと思うぞ、アレは」

 

「流石の俺も、あれについていくのは無理だ」

 

 桜公園で放送禁止コードに引っかかりまくってる渉までもが無理となると、あの人の相手をまともにできるのは身内の明久だけではないかと思う。

 

「あはは……ごめんね、みんな。姉さんの非常識っぷりに関しては……あまり考えない方がいいと思うんだ」

 

『アキ君、お風呂の件で少々困ったことがあるのですが。スクール水着(女子用)を着てこちらに来てくださいませんか?』

 

「ま、あんなだから……」

 

「玲さんのことについてはもうツッコみたくないが、そんな風に割り切れる明久が何倍もすごいぜ」

 

 どんなギャグマンガでもあそこまで酷い性格のキャラクターなんかそうはいないだろ。

 

「でも明久君も。困ったら他の人に頼るとかした方がいいよ。普通の人達から見れば酷い有様なんだから、明久君のためにもお姉さんとの中を修繕させたほうが……」

 

「え? 僕、別に姉さんと喧嘩とかはしてないよ? 嫌いってわけでもないし、母さんに比べれば姉さんの素行の方がまだマシだよ」

 

「「「…………」」」

 

 どんだけカオスに満ちているんだよ、お前の一家は。

 

「あ、ごめん。ちょっと姉さんのところ行くね。もちろん、スクール水着は着ないけど」

 

 そう言って明久は玲さんのいる風呂場へと向かっていった。

 

「……えっと……どうしよう? 2人共」

 

 数秒の沈黙の後、白河が口を開いた。何を言わんとしているかはわかっている。

 

「そう、だな……正直、明久をずっとここにいさせるのは、色んな意味でマズイだろうな」

 

「あの姉さんですらマシな方って……後に控えている母親はどんだけなんだよって話だよ」

 

 家の外でもあのFFF団や女子2人に殺されかける日々、家でもあの人によって精神はガリガリ削られる。

 

 そんな環境に明久を置いておけば近い将来、精神が壊れたって不思議じゃない。いや、むしろ今までよく壊れなかったと賞賛を送りたいところだ。

 

「私は……明久君を、初音島に連れて行きたい。このままじゃ、明久君が壊れちゃうよ。本人はいつも通りだと言ってるけど、こんなのが一生続くなんて……」

 

「それは俺も同感だ。恐らく、説得なんて通じないだろうから、強奪じみたやり方になろうと明久を連れていった方がいい気がする。別にこっちは何も悪いことはしてないしな」

 

「ああ……。家族のことに口を出すべきじゃない……とは思うが、こればっかりはあいつの命事態危険だからなぁ。いくら美人でもあんなもの見せられちゃ、黙ってるわけにもいかねえしな」

 

「まあ、問題はまずあの扉をなんとかしなくちゃいけないんだが」

 

「そういや、今度はどんな条件で開くんだ? こっちでは別に何も異常事態が起こってる気配はねえし」

 

「以前の無限ループがあるわけでもなさそうだな。そうなると、原因を見つけるのもかなり難しくなる」

 

 どっちにしろ、まずあの扉を開けるために何をすべきかというのを探すのが先だ。

 

 明久に対しての暴力を止めるのも全力を尽くすつもりだが、こっちも大事なことだからな。

 

「ん? みんな、何の話をしてるの?」

 

「え? ああ、あの扉のこと、これからどうしようかなって話し合ってたところ」

 

 白河が明久の登場に一瞬同様したが、すぐにいつも通りの笑顔で誤魔化した。まあ、扉の事を話してたのは本当だが。

 

「ああ、扉のことかぁ……結局、今度はどんな条件があるんだろうね?」

 

「まあ、その辺はひとまず杉並に情報収集を任せよう。どんなところでも好き勝手動ける奴だからな」

 

「まあ、そうだね。わかんないところとかあったら言ってよ。僕の故郷だから」

 

「本当にお前、異世界から来たんだなぁ」

 

「まあね」

 

「そういえばずっと疑問だったんだけど……なんでこっちに来て明久君は大きくなったの?」

 

 白河の質問で思い出した。そういえばこっちに来てから明久がやけに年上に思える。

 

「あ、ああ……実を言うとこっちが本来の年齢。こっちじゃ僕は17歳なんだ」

 

「17!? え、なに? お前、俺達より年上だったのかよ!?」

 

「う、うん。あ、別に年齢は気にしなくていいから。こっちがどうだろうがあっちでどうだろうが、僕と君達は友達。今まで通りでいいから」

 

「あ、そうか……じゃあ、このまま明久ってことで」

 

「うん。そうしてもらえると幸い。あ、このことは他のみんなにも伝えて、その上で年齢に関する話はタブーってことにしといて。こっちの人達に説明してもややこしいことになるだけだから」

 

「そうだな。一応後で音姉達にも電話で伝えとくか」

 

 明久の衝撃の事実がまたひとつ転がってきたところで用事が済んだのか、玲さんが戻ってきた。

 

「ああ、お待たせしました。そろそろ夕飯の時間帯ですし……今日は私が──」

 

「姉さんは座ってて! 今日の夕飯は僕が作るから!」

 

 玲さんが台所に入ろうとしたところで明久が大声を上げて阻止する。

 

「何ですかアキ君。今日はお客様もいることですし、ここは私が……」

 

「客がいるからこそ僕が作りたいんだ。今まで心配かけた侘びも含めてさ」

 

「……アキ君、あなたはまだ姉さんの腕を疑ってますね。私もこの数ヶ月でまた一歩成長しましたよ」

 

「……そうか。そこまで言うならまた料理クイズを出そう」

 

 まるで死闘を繰り広げようというような雰囲気を醸し出して明久が玲さんと対峙する。

 

「じゃあ、問題。『きんぴらごぼう』を作るためにはまず何をすべきでしょうか?」

 

 きんぴらごぼうか。どちらかといえば基本の料理だな。最近の由夢の作れる料理のトップ3に入る料理だ。

 

 明久がいて本当によかったと思った。おかげで由夢が殺人犯にならずに済んだのだから。

 

「明久君……あなたは姉さんを侮ってますか?」

 

「決して侮ってない!」

 

「全く……何でいちいちそんな初級の問題ばかり出すのやら」

 

「以前お米を研ぐのに『砥石』を用するなんて言った人の腕を信じられる人なんていないと思うけど……」

 

 お米を研ぐのに砥石!? 俺たちは明久の言葉にいっそう驚いた。

 

 いや、確かに研ぐ石で『砥石』と書くが、あれは包丁用の道具だった筈だ。

 

「とにかく、答えてよ。はい、まず何をする?」

 

「最初にやると言ったら下ごしらえですね。必要な材料は金鋏にヒラメとごぼう……」

 

「金鋏を入れてる時点でアウトだあああぁぁぁぁ!!」

 

 うん、駄目だ。こんな人を台所に入れるのは危険すぎる。

 

「あ、玲さん……ちょっと色々話をしませんか? ほら、明久の昔のこととか」

 

「そ、そうだね! みんな僕のこっちでの暮らしを気にしてたみたいだから。僕はある程度話したけど、客観的な部分も聞きたいって言ってたから! それじゃあ、夕飯は僕がやるね!」

 

 俺はすぐに玲さんを台所から遠ざけようと適当な事を言った。明久も俺の真意に気づいて乗っかってすぐに台所に逃げた。

 

「アキ君の話ですか……そうですね。言葉では足りないところもあるでしょうから、アルバムを見ながらお話しましょうか?」

 

「アルバムですか? 楽しみ~」

 

 白河が真っ先に乗り出した。しかし、明久の昔かぁ。俺もちょっと気になるな。

 

「えっと……まず、こっちが2歳の時お風呂に入って遊んでいた時の写真ですね」

 

「うわ~、ちっちゃ~い。可愛い~」

 

「へぇ……今と比べるとかなり女に近い容姿だな」

 

「渉、それは明久に失礼だぞ」

 

 確かに体育祭の時の女装も妙にピッタリだったが、本人にとっては溜まったものじゃないだろう。

 

「それで、こっちは4歳の時のお風呂の写真ですね」

 

「あはは! 明久君、溺れてる~」

 

「結構間抜けなんだな」

 

「そうだな……ん?」

 

 何やらちょっと違和感を感じるんだが。

 

「そして、こっちがアキ君の7歳の時のお風呂の写真ですね」

 

「小学生入りたてか~」

 

「3年も間を取ったからかなり大きく見えるな~」

 

「……さっきから思ったんだが、なんで風呂ばかりなんだ?」

 

「それで、こっちがアキ君の10歳のお風呂の写真です」

 

「え?」

 

「おい、さっきから風呂ばかりじゃね?」

 

「今頃気づいたのか?」

 

「待つんだ姉さん! またそれか! また僕の風呂づくしのアルバムか!」

 

「それで、こちらは私が帰郷した当時のお風呂の写真です」

 

「こ、これが……」

 

「てか、どっから撮ったんだ?」

 

「この馬鹿姉がああぁぁぁぁ! またその写真を! いい加減それを焼き捨てるんだ姉さん!」

 

「ちょっと待て明久っ! フライパンを取ってどうするんだ!?」

 

「離すんだ渉! 僕はこの姉の頭をかち割って綺麗に洗わなくちゃいけないんだ!」

 

「待て待て! お前染まってる! 染まってきてるぞ!」

 

「……駄目だこりゃ」

 

 これは本気で明久をこの家から……いや、この世界から切り離してあげるべきだと思った。

 

 この世界は明久に厳しすぎる。とりあえず、俺は明久が途中で放棄した料理を作るとするか。

 

 お、これ確か……パエリアって奴か。結構マニアックな料理をするなぁ。レシピあったか?

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふわぁ~……おはよう、義之」

 

「ああ、おはよう……あ~あぁ……」

 

 翌朝、俺と渉が廊下でバッタリ会って互いにあくびをした。

 

 結局、昨晩は玲さんの暴走がひどく、それを止めるのに思いっきり体力を使った。

 

 誰が何処で寝るかを決める際、玲さんが明久と寝ると言い出し、それを明久が拒否した。

 

 その後で信用できるや否かを問うた時に明久があっさりとノーと答えて玲さんが暴力に走ってそれを止めるのに時間がかかった。

 

 それから白河が一緒と言い出し、それも明久は却下した。そんなことになれば玲さんの暴力性が更にひどくなるからだろう。最悪、命を散らしかねない。

 

 そんなとんでもない悪循環を夜中まで彷徨って俺達は寝不足だった。

 

「あ、おはよ~……」

 

「おっす、白河」

 

「よ~。随分と髪乱れてるぜ?」

 

「ん~……色々あったから」

 

 本当にな。

 

「後は、明久と玲さんだな。後で起こしに──」

 

『って、姉さん!? 何で僕の上に乗っかってるの!?』

 

『あら、起きてしまいましたか。いやですね……これから大人の起こし方を実行しようとしていたのですが。まあ、目を覚ました後でも別のやり方がありますし』

 

『ちょっと待って! どうして僕のシャツを脱がそうとするの!? ていうか、何処に手を伸ばしてるのさ!?』

 

『どうしてと申されても……ただ明久君を大人にするために姉である私が一肌脱ごうとしているだけですが?』

 

『変態だああぁぁぁぁ!! 誰かこの変態姉を止めてえええぇぇぇぇ!!』

 

「……とりあえず、助けに行こう」

 

 俺達は明久の部屋に駆け込んでYシャツ一枚だけの玲さんを無理やり引き剥がしてどうにか最悪の事態はまぬがれた。

 

 

 

 

 

 

 

「はあ……ありがと。おかげで命拾いした」

 

「いや、俺達も油断してた。まさか朝っぱらから明久に仕掛けてくるとは思わなかった」

 

 あの人の本気を甘く見た俺達の失敗だからな。

 

「まったく……姉さん、勉強はできてなんで常識があんなにも欠落しているのやら」

 

「勉強が? 頭はいいのか?」

 

「う、うん……そのはず、なんだけど……」

 

「どれくらいなの?」

 

「うん。確か、ボストンの……ハーバートって大学を卒業するくらい……」

 

「「「ハーバート!?」」」

 

 ハーバートって、確かアメリカの、滅茶苦茶頭いい奴が通ってるって学校だよな?

 

 あの非常識の塊そのものと言ってもいい人がそんな大学を卒業? 言っちゃなんだが、全然そうは思えねえ。

 

「それなのに、なんでお前は勉強できねえんだよ?」

 

「いや、渉。ここは玲さん風に染まらなかっただけ幸いだと思うぞ」

 

 もし明久が頭がよくて一般常識に欠けてたらと思ったら……やめよう。想像するだけで恐ろしい。

 

「いたわアキ!」

 

「明久君!」

 

 ……これまた面倒臭い事態が……。

 

「……姫路さん、美波」

 

 俺達の後ろから大声を上げたのは明久のクラスメートらしい姫路さんと美波さんだった。

 

「さあ、アキ……大人しく腕を差し出しなさい」

 

「既に戦闘態勢に!?」

 

「ちょ、昨日から一体何なんですか!? 明久君が何をしたんですか!」

 

「外野は黙ってなさいよ!」

 

「そうです! これは私達の問題です!」

 

「な、ななかちゃん、落ち着いて。とりあえず、まずは美波の胸のように平静に話し合いをし手がトリックアートのようにいいいぃぃぃぃ!!」

 

 あ、明久の腕が変な方向に捻れてるぞ!?

 

「あ、明久君!?」

 

「吉井!?」

 

「おい、大丈夫か!?」

 

「く……もう何ヶ月も受けてなかったから、かなりくる~……」

 

「そんな問題じゃないよ! 早く病院にいかない、と……」

 

「よっと(ゴキッ! パキン!)」

 

 明久がその場で捻れた腕を元の方向にひねり、外れた関節を嵌めた。

 

「……なんか、慣れてるね、明久君」

 

「まあ、日常茶飯事だったからね」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 今見た光景が日常茶飯事って……普段からどんだけ関節外されて骨折られたんだよ。

 

「……って、そんなことより、何なの急に! 明久君に酷いことして!」

 

「そんなのアキが悪いんじゃない!」

 

「何が!? 急に出てきて人の関節外して、下手をすれば明久君が大変なことになってたんだよ! 大体明久君があなたたちに何をしたの!」

 

「アキがウチらに黙ってどこかに行ったからよ!」

 

「それは全くの偶然で明久君の意思じゃないよ! それに、例え明久君が自分の意思で出て行ったと言っても、それをクラスメート以外の関係もないあなたにどうのこうの言う権利があるの!?」

 

「ふ、2人共、落ち着いて……」

 

「明久君、まだ事情を聞いてません! 一体何処で何をしてたんですか!?」

 

「その説明は後にして! こっちもこっちでこれから大事な話もあるから!」

 

「駄目よアキちゃ──吉井君! 君は女子ばかりの環境じゃなく、坂本君の下に行くべきよ!」

 

 どこからか、いきなり第三者が現れて余計ごちゃごちゃしはじめた。

 

「玉野さんもどうしてこうカオスな時に現れて余計な事しか言わないの!? 君実は狙ってるよね!? 一体何の恨みがあって!?」

 

「……行こう、明久君」

 

「へ? ちょ、ななかちゃん?」

 

 しばしの沈黙の後、白河が明久の手を取って歩き出した。

 

「ちょっと! 待ちなさい!」

 

「まだ話は終わってません!」

 

「いい加減にしてください!」

 

 2人がなおも食い下がろうとしたところで白河が大声を上げた。

 

「人の話も聞かずにいきなり関節外したり暴力振るったり……これ以上明久君に酷いことするなら近づかないでください!」

 

「ちょ、ななかちゃん!?」

 

 言うだけ言って明久を引っ張って白河は去っていく。珍しい光景だった。

 

「な、何なのよあの女……」

 

「明久君……」

 

「は~……あの白河があそこまで怒鳴るとは思わなかったぜ」

 

「俺も、ちょっと意外だったな……」

 

 普段が普段だけにあそこまで怒る白河は新鮮に感じた。

 

「まあ、白河の言うことももっともだと思うぞ。あんたらも少しは明久の事を信用したらどうかな?」

 

「何よ……あんたらにアキの何がわかるって言うのよ!」

 

「なら、逆に聞くけど……君達は明久の何を見てた? あいつは馬鹿だけど、それなりに優しい奴だと思うぞ? それに俺達の学園じゃあ、風紀関連の仕事してるし、仕事だってそれなりにできるぞ」

 

 あくまでこの人達とタメと言った感じで話しかける。向こうでは明久とはクラスメートだが、こっちでは年上になってるからな。

 

「嘘です! 明久君が何も問題を起こさない筈がありません!」

 

 ……これは、いい加減怒ってもいいところじゃないだろうか?

 

「こっちで明久がどれだけ問題を起こしてたのかは知らないけど、少なくともあっちじゃかなり人望はあるぞ。元々根がいい奴だしな」

 

 悪名が広がった原因は主に坂本の厚顔無恥な部分が大きいと俺は見た。

 

「大体、君達もなんで明久に突っかかるんだよ? そりゃあ、明久の言葉の配慮のなさもあるとは思うが、いくらなんでも暴力が過ぎると思うぞ」

 

 昨日のことといい、今回といい、あんなものを常日頃から受けていたとしたら、よく今まで友人という扱いのまま生き残れたな明久は。

 

「だ、だってあれは……」

 

「あれは?」

 

「明久君がエッチなことばかり考えるからです!」

 

 ……もう駄目だ。

 

「だからウチらがお仕置きを──」

 

「ふざけんなよ!」

 

 美波さんが何か言いかけてたが、俺はそれを遮って怒鳴った。

 

「明久はあんたらの何なんだ? 所有物か? ふざけるのも大概にしろよ! あんたらにアイツをどうこう言う権利なんかねえだろ!」

 

「な、何よ! 急に怒鳴って!」

 

「自覚もなしか……ああ、もういい。悪いが、明久をこれ以上あんた達と一緒にさせるつもりはない。あいつの周囲の状況がこれ以上悪化するようならこっちにも考えはある」

 

 俺はそう言い残してその場を去っていった。

 

 途中後ろからあの2人の叫びを聞いた気はするが、それらを無視して明久を追った。

 


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