バカとダ・カーポと桜色の学園生活   作:慈信

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第三十六話

 

 12月23日……。あの日から始まった、54年程前の12月22日のループした世界。

 

 色々苦難はあったものの、ようやく脱出が叶った僕らは自分達の世界に帰れる。そう思っていた。

 

「……ん」

 

 そう思ったのだが、目を開けた時はそんな想像を上回る事態にみまわれた。どこかの空き地で僕達は寝ていたようだ。

 

「ん……あれ? ここは?」

 

「目覚めたか、吉井」

 

「へ?」

 

 目が覚めるとすぐ近くで杉並がふむふむと頷きながら辺りを見回していた。

 

「あ、バカなお兄ちゃんお目覚めですかー!」

 

「ぐふっ!?」

 

 こ、この腹部に容赦なくくる、最早Gが込められてるのではないかという衝撃は……。

 

「や、やぁ……葉月ちゃん」

 

「はいです! バカなお兄ちゃんが目覚めてよかったです!」

 

「あ、あはは……そっか。ようやく戻ってきたんだ……」

 

「感激してるとこ申し訳ないのだが、吉井よ、そういうわけではないらしい」

 

「へ?」

 

「ん……お? ここは……」

 

 そこに僕の近くで寝ていた義之が目を覚ました。

 

「ん~……あ、ここは……」

 

「は~……戻って、来たんでしょうか?」

 

 それに釣られてみんながようやく目を覚ました。

 

「どうやら、みんなも起きたようだね」

 

「あれ? 久保君まで?」

 

「く、久保……何でここにいる? って、いや……そもそも俺達が移動したんだっけか?」

 

「いや、坂本よ。その解答は正しくない」

 

「は?」

 

「そういえば、さっきも言ってたけど。僕達は、初音島に戻ったんじゃないの?」

 

「お~! そうじゃねえかよ! ようやくあの無限ループから脱したんだ。ビバ、俺達のクリパへ──」

 

「残念ながら、また俺達は別の世界に来たようだ」

 

『…………』

 

 渉の台詞を遮って杉並君がとんでもないことを言った。

 

「…………は?」

 

 一泊遅れて渉が間抜けな声を出す。

 

「聞こえなかったか? ここは俺達がいた初音島でも、増してや俺達がいた世界ですらない」

 

「はああぁぁぁぁ!?」

 

 渉がこれ以上ないまでの奇声を上げて驚いていた。その気持ちはよくわかる。

 

「ちょ、ちょちょちょどういうことだよ!? 俺達、あの世界から脱出できたんじゃねえのかよ!?」

 

「え、え? ちょ、これ……何かの冗談だよね?」

 

「多分、本当ね。以前と同じように、私達の携帯が使えないもの」

 

「あ、ほんとだ」

 

「また別の世界に来ちゃったんだ」

 

「だからなんでななか達はそんなに落ち着いていられるのぉぉぉ!?」

 

「いや、だって……小恋が慌てるとむしろ落ち着いちゃうんだよね」

 

「右に同じく♪」

 

「以下同文」

 

 小恋ちゃんの慌てぶりに若干落ち着きは取り戻せたけど、これまた別世界だなんて、もうやってられない。

 

「ていうか、今度はどこなのでしょう? 見た感じ、初音島でもないですわね」

 

「多分、本島のどこかだと思うけど。見たことない景色ね」

 

 ムラサキさんと高坂さんが辺りを見回していた。

 

 確かに、どっちかっていうと都会寄りの景色だ。なんていうか、

 

「随分と懐かしい匂いがするのぉ」

 

 秀吉の言う通り、何やら懐かしい雰囲気が漂っている。なんでだろう?

 

「ていうか、明久達……なんか背、伸びてねえか?」

 

「へ?」

 

 義之の言う通り、やけに制服が小さく感じる。一体どうしてだろう。

 

「それも気になるけど……なんで葉月ちゃんと久保君がこの世界に?」

 

「うむ……クリパ当日の、昼頃、君達の姿が見えないので校内を探し回ってたが、どこにもいなくてね。それで、途中で葉月ちゃんを見かけ、一緒に探すことになったのだが、その時に……」

 

「目の前の壁に扉があって、そこをくぐったらお兄ちゃん達が寝ていたです。葉月、びっくりです」

 

「じゃあ、久保君達もあの扉を?」

 

「はっ! そうだ! あの扉は何処にあるんだ!? 今度はどうやって出現させればいいんだああぁぁぁぁ!」

 

「落ち着け、板橋。扉ならそこにあるではないか」

 

「へ?」

 

 見ると、杉並君の正面の壁には例の扉があった。

 

「な、何だ……あったんじゃねえか。それならすぐに……」

 

 渉が脅かすなよと言いながら扉に手をかけ、ノブを回したのだが、

 

「あ、あれ? 扉、開かねえぞ?」

 

「つい先程俺も試してみたが、扉は一向に開かない。鍵穴もないのに鍵がかかったように開かない……実にミステリーだ」

 

「ななな、何でえええぇぇぇぇ!?」

 

「けど、前の世界のように消えたりはないみたいだぞ」

 

 義之の言う通り、この扉は前と違って消える気配がない。試しに雄二がそこらに落ちてあった鉄パイプで殴ってもビクともしなかった。

 

「うむ。お前達が目覚める1時間も前からここで張り込みを続けていたが、以前と違い、この扉が消える様子はない。しかし、同時に開く気配もない」

 

「つまり、何かの条件を揃わないと開かないってか……たくっ、面倒臭いぜ」

 

 雄二がもううんざりだという風に頭をかいた。

 

 まあ、以前のようにあてもなく彷徨うよりはずっといいかもしれないけど。

 

「う~、今度こそ絶望的だ~。知り合いもいなければ風見学園すらもないなんて、どうやって1日を過ごせば……」

 

 そうだ。そっちも問題だ。扉が開く条件ともなれば前と同じように情報を集める必要がある。それも、今度は1日2日で手掛かりを見つけられるかどうかも怪しい。

 

 その上こっちは更に未知の世界。知り合いがいない限り、僕達が1日を乗り越えるのは困難だ。そんな時だった。

 

 ピリリりりり!

 

 僕、そして雄二の携帯がその場に鳴り響いた。

 

「お、悪い。俺の携帯が」

 

「あ、僕にも」

 

「ん? ちょっと待て、何でお前らの携帯が鳴るんだ? 俺達のは繋がらないままだぞ?」

 

 あれ? そういえばそうだ。しかし、このまま切るのもどうかと思うし、うまくすればこの世界で1日を過ごすための助けになるかもしれない。

 

 そう思った僕は通話ボタンを押して携帯を耳に当てる。その瞬間、僕の携帯がなったのは何故かという疑問が一瞬にして打ち砕かれた。

 

「はい、もしもし?」

 

『アキ君、今どこに──』

 

「「人違いですっ!!」」

 

 ブツッ!

 

 僕と雄二、数コンマ1秒もたがわず、同時に通話を切った。

 

「おい、今明久の名前呼んでなかったか?」

 

「マ、マサカ……キノセイデスヨ~」

 

「何でカタコトなの?」

 

「ていうか、今坂本のことも名指ししてなかったか? しかも、割と綺麗な女の声がしたような」

 

「い、いや……そんな筈はねえ。この世界に、アイツがいるなんて……」

 

「坂本君、すごい震えなんだけど……」

 

「ていうか雄二……さっきから僕、すごい嫌な予感がするんだけど……」

 

「き、奇遇だな、明久。実は、俺もなんだ……」

 

 僕と雄二が最悪の予想を頭に浮かべていた矢先だった。

 

「はい! バカなお兄ちゃん達も一緒です!」

 

 そんなところに葉月ちゃんの陽気な声が聞こえた。見たところ、葉月ちゃんも誰かから電話があったみたいだ。

 

「は、葉月ちゃん? 今のは……」

 

「はい! お姉ちゃんです! ぬいぐるみのお姉さんと綺麗なお姉さんと一緒にこちらに来るそうです!」

 

「「よりにもよって最悪の展開だああああぁぁぁぁ!!」」

 

「おわっ!? どうしたんだ、2人共!?」

 

 さ、最悪すぎる……まさか、ここが……ここがよりにもよって……駄目だ、ここから先は口にしたくない!

 

 しかし、これは現実だ。現に僕の胸に渦巻くこのどす黒い感覚。

 

 これは僕達の世界では当たり前のものだ。そう、これが渦巻いている時といえば決まって僕の命が危険にさらされている時に限る。

 

 つまり、もうこの近辺に敵が潜んでいるということだ。何処だ? 何処にいる?

 

 僕は警戒態勢バッチリの状態で辺りを見回した。くそ、前は気配でバカ共が何処にいるかなんて把握できたのに、これも平和な世界に入り浸った結果か。

 

 とにかく、僕は辺りを見回す。周りには特に不自然なものは見当たらない。

 

 周囲には普通の家が並んでおり、時々だが人が通っている。時折電車の音が耳に入り、空には小鳥達が飛んでおり、あの子達が止まった電柱の影からは鎌の切っ先と思われる部分がキラリと──不自然すぎるもの発見。

 

「「全員、ダッシュで逃げろおおおおぉぉぉぉ!!」」

 

『は?』

 

 僕達の大声に全員が一瞬呆けた時だった。

 

「逃がすと思うかあああぁぁぁぁ!」

 

『『『殺っ! 殺っ! 殺っ!』』』

 

「って、何か出たぁ!?」

 

 やはり出てきたか、FFF団め。

 

「捜索を始めて数ヶ月、ようやくターゲット見つけました!」

 

「捕らえろ! 我らが異端者を──っ!」

 

「くったばれぇ──っ!」

 

『『『くったばれぇ──っ!』』』

 

 須川君と横溝君の号令でFFF団が僕達に向かって駆け出してきた。

 

「何なんだああぁぁぁぁ!?」

 

「いいから、みんな逃げてええぇぇぇぇ!!」

 

 僕の声にようやく我に返ったみんなが踵を返して僕達についてくる。

 

「逃がすかああぁぁぁぁ! 我らが異端者、吉井明久と坂本雄二を捕らえろぉぉぉぉ! ついでにそこの美少女達と戯れてる男共も死刑だああぁぁぁぁ!!」

 

『『『異端者には死を!!』』』

 

「って、何か関係のない俺達まで標的になってないかぁ!?」

 

「ていうか、何なのアレ!?」

 

「新手の宗教か何かですか!?」

 

「残念ながらただのバカ達です!」

 

 色々言いたい事はあるだろうが、残念ながら説明している暇はない。

 

「ていうか、あいつら一体何なんだ!? なんか鎌なんて物騒なもの持ってんですけど! あれ本物!?」

 

「本物だ! だが、これだけで驚いたらあいつらに捕まった後なんかお前ら絶対に死ぬぞ! 物理的に!」

 

「一体捕まったら俺達の身にどんな不幸が!?」

 

「ふむ……できるならあの者達のことを詳しく知りたいものだ」

 

「残念だけど杉並君、命が危ないから馬鹿な真似はやめるんだ」

 

「ていうか喋ってる時間はねえ! どうにかしてあいつらを突き放せぇ!」

 

 雄二の言う通り、ここであいつらを引き離さない事には落ち着いて話もできない。

 

「こうなったら……ムッツリーニ! 今の手持ちは!?」

 

「……残念ながら殆どがまだバックアップを取っていない。あるのは、念の為に持っていた風見学園のミスコン有力候補の女子の写真と、アキちゃんの──」

 

「オッケー。なんで念のためと称して僕の女装写真も持っているかどうかはこの際置いておくとして、その写真であいつらを!」

 

「……貸しひとつ」

 

「わかった! この件が終わったら聖典をひとつ譲ってあげるよ!」

 

「……ふっ!」

 

 ムッツリーニが素早い手つきで写真を四方八方へと飛ばした。

 

「そ、そんなものであの輩達が引っかかるなんて──」

 

「ふおおおおぉぉぉぉ! なんじゃこれはああぁぁぁ!?」

 

「み、見たこともないけど……なんて可愛らしいお嬢さん達なんだ!」

 

「どけぇ! この娘は俺のものだ!」

 

「俺だ!」

 

「テメェら邪魔くせえんだよ!」

 

 目の前に広がるのはローブに身を包んだ集団の醜い争い。戦争って、この延長戦のようなものなのかな。

 

「ほ、本当に引っかかってますわ……」

 

「なんていうか、馬鹿ばっかりね……」

 

「あんなんですみません……」

 

 とりあえずは奴らの気を引くことはできた。今のうちにこの場を去ろう。

 

 僕達はどうにかFFF団のみんなを撒いて安全な場所まで走った。

 

 

 

 

 

 

 

「はあ……はあ……ど、どうにか逃げ切れたみたいだね……」

 

 僕達は近くの公園の穴あきのドームの中に避難した。

 

「て、ていうか明久……あいつらは、一体何なんだ?」

 

「ああ、あれは異端審問会。通称FFF団」

 

「な、何なの? その異端審問会って……」

 

 小恋ちゃんがガクガクと震えながら尋ねてくる。震えるのは無理もないだろう。

 

 あんなそこらの犯罪者も脱兎の如く逃げ出すだろう邪悪な雰囲気を醸し出す集団に追いかけられたのだから。

 

「えっと……なんていうか、男は愛を捨てて哀に生きるという心情を掲げて……その、可愛い女子と一緒にいる男達を滅殺する、というか……」

 

「要するに、自分達に女子が近づかないからいい思いをしている男子を嫉妬に狂って殺すような連中だ」

 

 身も蓋もない言い方だけど、悲しきかなこれ事実。

 

「な、何それ……」

 

 ここにいる女子メンバー全員が絶句した。まあ、常識的に考えてあんな集団がいるとは思うまい。

 

「とにかく、奴らがいるってことは、間違いなくここ……僕達の故郷だよね」

 

「ああ……となるとやはりあの翔子からの電話は幻聴じゃなかったか……」

 

「てか、ちょっと待て。ここかお前達の故郷って……ひょっとしてお前ら、異世界人だってのか?」

 

「え……その……うん。もうこうなっちゃ、ぶっちゃけるしかないけど、そういうこと」

 

 僕の告白に全員が驚いた表情をした。いや、杉並君と、ななかちゃんはあまり驚いた様子はないね。

 

「はああぁぁぁぁ!? ちょっと待て! えっと、過去の人間に会ったり、全く別の世界に行ったり、吉井達が異世界人だったり……何がどうなってるんだああぁぁぁぁ!?」

 

 渉が許容量オーバーしたのか、頭から煙が出てるように見える。

 

「ほう……まさか、最高級ミステリーの結晶がこんな身近にいるとは。水臭いではないか、同志土屋」

 

「……説明がややこしかったから」

 

「そ、それで……吉井達はどうやってこの世界に来たのですか?」

 

「吉井達もあの扉を通って帰れなくなったってやつ?」

 

 高坂さんが過去の世界のこともあってか、そういう予想をした。

 

「えっと……いや、違いますね。僕の場合はさっきのFFF団や姉さん達に追われてもういよいよ殺されるかって時に初音島に飛んじゃってたって感じで……そういえば、雄二達は?」

 

「俺達も似たようなもんだな」

 

「うむ、気がついたらあの島にポツリ状態じゃったぞ」

 

「ふむ……吉井達が異世界から来たというのも、あの扉が今度はこの世界に繋がったのも……無関係ではあるまい」

 

「それはそうと、これからどうしようか?」

 

 ここが僕達のいた世界だとわかっても、結局崖っぷちだというのは変わらない。

 

「何言ってんだよ。ここがお前達のいた世界なら、お前達の家に何人か泊めれば住む話だろ」

 

「「う……」」

 

 やっぱ、普通はそういう話になるんだろうな。でも……

 

「「やめてくれ。渉(お前)は僕(俺)達に死ねというのか」」

 

「なんでそんな話になるの?」

 

 小恋ちゃんが首を傾げて聞いてくる。何でって、そりゃあ……

 

「僕の家には、姉さんがいるから……」

 

「明久の姉さん? 姉さんがいるからって……あ、そういや明久の姉さんって、確か……」

 

「うん。義之達には以前言ったけど、姉さんって、かなり珍妙っていうか常識がないっていうか……」

 

 最大の理由は女子をひとりでも連れて来ようなら僕の命は確実に海の藻屑だ。

 

「俺の家は、駄目だ。お袋のこともそうだが、これが翔子にバレた日には……」

 

「うわ、坂本君がすごい震えてる~」

 

「珍しい絵ね」

 

 雄二も雄二で霧島さんにバレれば同じく海の藻屑……いや、下手をすれば火山口に投げ捨てられるなんて事態も考えられる。

 

「儂の方はなんとかなる……と、言いたいところじゃが、姉上に説明するのが難しいの」

 

「……こっちも。ワケありと言えばなんとかなるだろうが、人数が入りきらない」

 

「僕の方も、薄情というわけではありませんが、流石にこの特殊な事態となると……」

 

 残念ながらみんなの家もこの人数を泊めるには足りなさすぎるようだ。

 

「あ、それじゃあお姉ちゃんに……」

 

「葉月ちゃん、気持ちは嬉しいけど、やっぱりこの人数はちょっと無理があると思うんだ」

 

 携帯に伸ばそうとした葉月ちゃんの手を止めてやんわりと断っておいた。

 

 危なかった。このまま美波にみんなの事がバレてたら姉さんにも情報が直行して僕は死よりも恐ろしい目に会っただろ……っ!?

 

「ん? どうしたの、明久君? 何か、すごく震えてるけど……」

 

 こ、この強烈にヤバ気な気配は……。恐る恐るドームの穴から顔を出して外の様子を見た。するとそこには、

 

「アキ……知らない土地で知らない女の子と仲良くなった上にウチの妹にまで手を出すなんて……オシオキガヒツヨウネ」

 

「落ち着いてください、美波ちゃん。お仕置きはひとまず置いて……オハナシヲシナケレバイケマセンネ」

 

「雄二、見つけたら……今度こそ徹底した調教を」

 

 何か、既に話し合いがどうとかの次元を超越している。というか、やはり美波と姫路さん、そして霧島さんだった。

 

「あ、おね──むぐっ」

 

「は、葉月ちゃん、お願い。僕は……僕はまだ死にたくないよ……」

 

「頼む、ちびっこ。俺も……まだ平和を満喫してねえんだ……」

 

「あ、明久、坂本……どうしたんだ、そんなマジ泣きして。そんなにあの3人は恐ろしいのか?」

 

「ていうか、2人の震え方が尋常じゃないし……」

 

「軽く地震が起きそうなほど震えてますね」

 

 だ、駄目だ。今見つかったら、間違いなく僕らの命はない。

 

「おい、吉井。別に女の子から嫉妬されるなんて、ちょっと怖いかもしれないけど、男としちゃあ嬉しい限りじゃ──」

 

「アキったら、何処行っちゃったのかしら? 見つけたらロープで全身を縛って屋上から落とさなきゃ……」

 

「…………」

 

「なんだって?」

 

「スマン……俺が間違ってたぜ」

 

 渉も自分の発言の愚かさに気づいたのか、それっきり黙った。

 

「で、結局どうするんだ? お前らの家もダメとなると、俺たちは本格的にやばいぞ?」

 

「そ、そうは言っても……」

 

 話の途中で僕の携帯が震えた。念のためマナーモードにしてあったのだ。

 

「えっと、メールか……姉さんからだ」

 

 姉さんからのメール……こりゃあ冗談抜きでやばいかもしれないな。

 

「とりあえず見た方がいいんじゃないか?」

 

「そ、そうだね……」

 

 恐ろしいけど、義之に促され、僕はメールの中身を見た。

 

『アキ君……。この数ヶ月、何の連絡もなしに姉さんはとても心配しておりました』

 

 何の連絡もなかった点についてはこっちとしてもしょうがなかったんだけどね。

 

『これ以上、家を空けるようなら、メールに添付してある画像をネットにばら撒きます』

 

 ……嫌な予感しかしない。震える手で、僕は恐る恐るとメールに添付されている画像を開いた。

 

 僕の……睡眠時の……姉さんに着せられたのか、ものすごく際どい女物の水着を着用していた画像。

 

「それだけはいやああぁぁぁぁ!!」

 

「バカ、明久!」

 

「いたわアキィィィィ!!」

 

「吉井君──っ!!」

 

「……雄二、見つけた」

 

「うわぁ! 来たよ!」

 

「明久ぁ! テメェの所為で見つかったろうが!」

 

「マジでごめんなさい! 今回ばかりは僕の所為だ!」

 

「て、こんなことしてる場合じゃねえ! 全員逃げるぞ!」

 

 義之の言う通り、今は逃げることに専念だ!

 

「待ちなさいアキ! その女子達は誰なのよ!」

 

「明久君……ジジョウヲキカセテクレマスヨネ?」

 

「雄二……結婚と調教、好きな方を」

 

「ひいいぃぃぃぃ! 姫路さんと美波の目が完全にイッちゃってるよ!」

 

「ていうか、翔子! それどっちも俺に未来はねえだろ!」

 

「……なんていうか、俺達……生きて帰れるか?」

 

 義之の呟きに答える者は誰もいなかった。

 

 


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