杉並君の罠を見事くぐり抜け、桜の林を駆け抜けてあの枯れない桜のもとに辿り着いた。
風が吹き抜け、桜の花びらが舞い、暗闇に僅かに桜の木の枝から漏れる月光が注がれ、幻想的な光景が浮かんでいた。
そして……そこには眠っているさくらさんと、この時代の芳乃さくらがいた。
僕達の存在に気づくと、静かに振り返った。
「また来たんだね。無駄だって言ってるのに」
「無駄じゃねえよ。俺達はさくらさんを起こして、正しい世界へと帰るんだ」
「もう、どうして君達は楽しい時間を終わらせようとするのかな? どうして君達にはこの世界の楽しさがわからないのかな? 本当に残念だな。君達が一緒なら、もっともっと楽しい時間になっただろうに」
さくらさんは本当に残念そうに、困ったような表情をして首を振る。
「眠っている僕だって、きっと喜んでくれるよ。君達とずっと一緒にいたいって思ってるよ」
「そうだな。でも、それはこの世界でのことじゃない。同じ日は二度と来ない。楽しい時間だって、いつかは終わる。それが俺達の生きていく世界だ」
「駄目だよ。この世界は終わらせない。楽しい毎日がこれからも続いていくんだ。ずっと、このままさよならのない世界が続いていくんだ。これは、誰にも邪魔はさせない」
「悪いけど、邪魔をさせてもらいます。このループ世界は今日でおしまいです」
「どうして、そんな意地悪なことを言うのかな?」
「だって、さくらさん自身がそれを望んでいるんですから」
「え?」
「君も同じさくらさんだっていうなら、もう気づいているんだろ? このままじゃいけないことに」
「ぼ、僕は……」
「俺達がこの世界に呼ばれた。ループを認識できてしまう俺達をさくらさんがこの世界に招いた。それってつまり、さくらさん自身がこのループを止めてほしいと願ったから」
うん。そうじゃなかったら認識できる僕達はとっくの昔にこの世界から排除されてたはずだ。
「そ、そんなことない! だって、この世界が終わっちゃったら……」
「辛い未来が待ってるのかもしれない」
「そうだよ! 辛くて、悲しくて……胸が痛くて」
彼女は、この時代のさくらさんは僕達の知るさくらさんのどこまでを知っているのか。
僕達にはそれを知ることはできない。だけど、
「でも、楽しくもあるはずなんだ。辛くて、悲しいだけだなんて、そんなことは絶対にない。だって、さくらさん……笑ってたから。そりゃ、無理して笑った時もあったかもしれないけど……でも、さくらさんが俺達と一緒に過ごした時に見せてくれた笑顔が全部嘘だなんて、絶対に思えないから」
「…………」
「だから、さくらさんを連れて帰ります。俺達の、さくらさんのいるべき世界へと」
「それが僕の……芳乃さくらの、幸せだっていうの?」
「はい」
「辛い事がいっぱいあるのに?」
「はい。それ以上に、楽しい時間をいっぱい作りますから。この世界にいるよりも、ずっと楽しい時間を、たくさん作りますから」
「本当に?」
「ああ、約束しますよ。さくらさんは、俺達が幸せにしてみせるよ」
これが義之の、僕達の気持ち。それを全て聞いたこの時代のさくらさんは、
「そっか」
ふっとその顔に微笑みが浮かんだ。
そして、強い風が吹き荒れ、僕の視界にたくさんの桜の花びらが舞った。
それが晴れた時には、もうそこに彼女の姿はなかった。ただ、当たり前のように枯れない桜が佇んでいた。
「消えた……あの子、どこに?」
「さあな。でも、これでよかったんだと思う」
「ねえ、こっちのさくらさん……わかってくれたかな? 僕達の気持ち」
「だといいな。ていうか、もしかしたら最初からわかってたのかもしれない。さくらさんが本当に望んでる世界がどっちなのか……ただ、それを誰かに言ってほしかったのかもしれない」
「そっか……」
僕もそうだといいなと思った。
「弟君、もう時間がないよ!」
「さくらさんを起こさないと」
「そうだった」
「じゃあ義之、頼むよ」
「ああ」
それから義之はさくらさんの傍へ歩み寄った。
枯れない桜の根元で、さくらさんは今も尚深い眠りについていた。
「さくらさん……」
さくらさんの耳元で、義之が静かに口を開いた。
「聞こえますか? 義之です」
しかし、まだ反応はない。
「そろそろ起きてください、さくらさん。夢は、いつか覚めるものですよ。楽しい時間も、いつかは終わってしまうんです。でも、終わりがあるからこそ楽しいと思うんです」
それでも義之は、彼女に呼びかける。
「俺だって、お祭りを待ちわびる気持ちはよくわかります。だって、好きで、楽しいから。賑やかで、バカ騒ぎできて、仲間とはしゃぐ。そんな時間が待ち遠しいです。もちろん、終わってしまうのは寂しいですよ。だけど……それでもいいと思えるんです」
義之はそっとさくらさんの手に自分の手を重ねる。
「だって、次はもっと楽しいことが待ってると、そう思えば……さくらさんもよく知ってるでしょう。うちの学園って、やたらとイベントが多いんですよ。そのせいか、お祭り好きな連中ばっかです。このクリパが終わっても、イベントはたくさん待っています。それに、イベントじゃなくたって、楽しい時間はいくらでも作れます。俺なんか、毎日が楽しいくらいです。それは……さくらさんが、いるからです。それに、音姉や由夢、純一さんも……明久や、みんなだって……みんながいるあの場所が、あの世界が楽しいんです」
義之の言葉に、音姫さんが続いた。
「そうですよ、さくらさん。私も同じです。賑やかで、暖かくて、心から落ち着ける……あの時間が楽しいです。あの場所が好きです」
そして由夢ちゃんが続く。
「寝るなら、あったかいお布団がいいですよ。それかコタツに入りましょう。テレビを見ながらゴロゴロするのもいいですし」
「うん。みんなで食卓囲んじゃって、鍋とか作ったりして、さくらさんの好きな時代劇とか見たりしてさ……」
「正直、あの空気はかったるいが、まあ翔子のあの部屋よりはずっといいもんじゃねえの」
「うむ。明久や桜内、音姫先輩の料理は絶品ばかりじゃぞ」
「ああ、いつかのカレーパーティーは楽しかったわねぇ」
「あのような料理があるのは、驚きました」
「うんうん。明久君のお弁当だって、すごい美味しかったもんね」
「女の子のプライドに傷をつけるくらい……」
「でも、それがわかってもつい食べたくなる時があるよね~」
「ええ」
「そうそう。楽しいことを食い物に生きてるみたいな俺らにかかりゃ、嫌でも笑えますって。こっちより向こうの方が断然面白いって、俺らが証明してみせますよ」
それからみんなも思い思いにさくらさんに語りかける。
「だから、さくらさん……賑やかで、楽しいあの場所に……楽しい毎日へ、帰りましょう。俺達の世界に」
みんなで待っていた。じっと見守りながら、大事な人が目覚めるその時を。
「…………ん…………義之……くん……?」
そして、さくらさんの目が覚めた。
「おはようございます、さくらさん」
「……ああ……そうか……きて、くれたんだね……」
さくらさんが僕達を見て、微笑んだ。
「俺達の世界で、待ってますから」
「ありがとう……みんな……」
その一言を残すと、さっきの子と同じように、突然桜の花びらが舞い、晴れるとさくらさんの姿はこの場から消えていた。
「あ、また……」
「消えましたね」
「いや、帰ったんだよ」
「そうだね……。あ、そうだ! 日付は!?」
「もうすぐ変わるよ!」
全員が緊張して携帯の画面を見つめる。
「い、いよいよだね……」
「もう無限ループなんて冗談じゃねえからな」
「叶うとよいがのぅ」
「あと5秒……」
「4……」
「3……」
「に、2……」
「1……」
「……0」
途端に全員が目を閉じた。それから恐る恐る目を開いた。
さっきまでと同じ光景は続いている。ならば、時間は。
「……12月……23日」
ディスプレイには、確かに12月23日と表示されていた。更には僕たちもいまだにこの世界に戴天している。
「か、変わった……」
「ということは……」
「無限ループから脱することに成功したということじゃな」
「ひゃっほ~~う! やったぜ──っ!」
渉のテンションの高さに同調して全員がその場で大慶し、舞い上がった。
ようやく終わった。この無限ループを。ようやくクリパの当日になったんだ。
「あう~、よかったねぇ、みんな~!」
「やったよ! 兄さん!」
「わ、わかったから、抱きつくな!」
もうみんな手放しで喜んでいる。当然だ。待ち焦がれたクリパの日がようやく来たのだから。
「それではみなさん、無限ループ脱出を祝して!」
「そうね、ちょっと早い気もするけど……」
「うん!」
「それじゃあみなさん、せ~の!」
『メリークリスマス!』
『ただいまより、クリスマスパーティーを開催します!』
瞳々とした朝日を浴びる学園の中、クリパの始まりを告げる放送が流れる。それと同時に校内に響き渡る歓声とクリスマス定番のBGM。
学園は一気にお祭りモードに突入。
「わあ、まさに始まったって感じだね~」
「いやあ、盛り上がってまっせ~」
「何か、本当この学園って、お祭り好きだよね」
「学園にイベントが多いから生徒は自然とお祭り好きになったのでは?」
「え? お祭り好きだからイベントが多くなったんじゃなくて?」
「なんだか、鶏が先か卵が先か論みたいだね~♪」
「で、実際はどうなんです?」
「え? あたしに聞かれても知らないわよ」
「生徒会長の私もそこまでは~……」
「まあ、どうでもいいだろそんなもん」
「そうだね。ところで雄二、その口に咥えているものは?」
「あ? ああ、これならクリパを手伝った礼だって言って俺らが手伝った出し物売ってる奴らからもらったもんだ」
「何っ!? おお、それなら俺もちょっくらもらってくわ!」
「渉、そんなことしてる暇はないわよ」
「ちぇ、少しくらいは楽しんでいこうぜ~」
気持ちはわからないでもないけど、雪村さんの言う通り僕達にそんな余裕はない。
クリパの雰囲気をその身に受けながら僕達はある方向へ向かっていた。
「お、ここじゃねえか?」
「うむ、間違いない。始まりの地だ」
そこには僕達未来組がこの世界に降り立った場所。
そして元の世界へ帰るための場所でもある。その出入り口も、しっかりある。
「おおっ! 例の扉だぜ! 復活してらぁ!」
「これで帰れますわ」
「ようやくって感じですね……」
「こっちで色々濃い体験したもんね」
「うんうん。何回も同じ日を繰り返したから余計にね」
「そういえば、ここで暮らしてたの、何日間だっけ?」
「5日間よ」
「長いようで短かったな」
「さて……これで不思議の世界ともお別れ、だな」
「……この時代の女子の姿は丁重に保存せねば」
「では諸君、心残りはないか?」
「そういうお前が一番名残惜しそうにしてる気がするんだが」
「ふむ、では今一度、この世界で大冒険の第二幕と行こうか? この扉を爆破すれば、しばらくは再び強制的にスペクタクルな時間を約束できるぞ?」
「「やめんかい!!」」
杉並君なら本気でやりかねない。流石にそんな濃い体験は二度とごめんだと思った。
しかし思い残すことか……。あるといえば、結構あったりするなぁ。約束も色々したし。
過去の風見学園の人達も、僕達の時代の人間達に負けないくらいお祭り好きだったし、たくさん友達だってできた。
22日をループさせた大きな力にだって、この時代のみんなの協力があったからこそ乗り越えられた。
「けど、やっぱり自分の世界が一番だと思う」
義之の言う通り。名残惜しいのはみんな一緒だけど、僕達は未来の人間。自分のいるべき時代に戻るべきだ。
って、これは僕が言うことじゃないかな。
「だな。帰る場所があってこそ、夢の世界だ」
「ちょっと寂しいけど、やっぱり自分の時代で生きて、出会って、別れて、でもまた会って騒いで……それが一番だよね」
みんなが頷いた。
「さて、行くか」
義之が最初にこの扉に手をかけようとした時だった。
「できれば、最後にお婆ちゃんに会いたかったな」
そうだ。僕達はこの時代のみんなとまだ会ってない。
できることなら会って、色々お礼を言いたかったけど、元々僕達はこの時代の人間じゃないんだ。
今まではファンタジックな展開で緊急事態なこともあったから仕方なかったけど、ようやく動き出した時間の中ではもう干渉しない方がいいとみんなで決めたことだ。
「あ~あ、これでも一応俺達、この世界を救ったヒーローなんだがな」
「でも、この世界はどうなっちゃうんでしょうか? ここは元々さくらさんが作り出した夢の世界。このまま、消えちゃうのかな?」
「いえ、それはないでしょう。この世界は独立したひとつの世界なのですから。無限に分岐する、可能性の世界のひとつですわ」
「ふむ。我々の住む世界に繋がりはしないだろうが、違う道に向かって進んでいくことだろう。そして、50年後には、同じように我々が誕生しているかもしれん、ということだ」
きっと続く。僕達の世界と同じように、義之達がいた世界のように……違う存在でも、ひとつの世界は無限に続く。
ただ前へ走って、曲がって、時々違うものとすれ違って、また別れ……そんなこんなが無限に続いていく。
「じゃあ、誰が最初に入る?」
「そこは板橋でしょ。最初に飛び込んだ元凶だし」
「いや、俺は杉並に誘われただけだぜ?」
「ていうか、最初に見つけたのは桜内じゃなかったか?」
「いや、調べに行こうと言ったのは生徒会の……」
扉をくぐることに遅疑して、結局誰も最初に行こうと言う人達はいなかった。
それだけみんなこの時代が好きになっちゃったんだ。そんな言い合いが続くと──
「あ~! ターゲットはっけ~ん!」
この元気いっぱいワンコタイプ満開の声は……。
「あ、あれって確か……」
廊下の向こうからものすごい勢いで美春ちゃんが走ってきた。
「現場は押さえました! 全員、動かないでください!」
「みなさん、そこで何をしてるんですか?」
更にその後ろからは音夢さんが来た。
ていうかこの状況は何だろうか?
ひょっとして、繰り返しによる影響がなくなったのと同時に僕達の出会いもなかったことになったのか?
だとしたら、今の彼女達からすれば僕達って、不審者以外の何者でもないじゃん。
「説明していただけます?」
音夢さんの言い知れぬ迫力に全員が若干後退した。
「そ、その……俺達は……」
「どういうことですか? 私達に何も言わずに行ってしまうなんて」
「……え?」
はい?
「そうですよ。おかげで必死に探しちゃいました」
「お土産のバナナも受け取らずに行ってしまうなんて、ひどいですよ~」
「未来の人達はせっかちでよくないですね~」
「未来じゃなくて、別の世界でしょ?」
「あ、そうだったっけ」
この時代の仲間達が勢ぞろいだった。ていうか……
「みんな、僕達のこと覚えてるの?」
「それはそうですよ。こんなに印象深い人達のこと、忘れたくても無理です」
「それに、あれだけのことがあればね」
ことりさんの言葉に感慨深く思い返す音夢さん。ていうか、覚えてたんだ、みんな。
「お帰りの前に、挨拶する時間くらいはありますよね?」
「おかげでこうしてクリパも無事に始まったからね」
「みなさん、本当にありがとうございました」
「あ、いや、僕達はその……」
「ふ、礼には及ばないぜ。なにせ俺達は……」
「当然のことをしたまでだしな」
「って、坂本! お前俺の台詞パクってんじゃねえよ!」
「お礼なら、俺達からも言わせてもらうよ」
「そうそう。みんなのおかげで僕達も無事に帰れるんだから」
「じゃあ、間を取ってお互い様ってことで」
「では、両世界の友好の証に~、はい、拍手拍手~」
美春ちゃんが仲間達の手をとっていった。
その中でそれぞれ関係の深い人達が別れを告げていた。音姫さんと由夢ちゃんが音夢さんと、ななかちゃんがことりさんと。
それぞれが言いたい事を言い合って、最後の会話を広げていた。そんな光景を眺めていた時だった。
「おにいちゃ~ん!」
「ふごぁ!?」
義之の背後から誰かが飛びついてきた(本人はただ抱きついたつもりなのだろう)。
ていうか、あの小さな女の子。
「さ、さくらさん!?」
「うにゃ? さん付けなんて気味が悪いなぁ。お兄ちゃん、何か変なものでも食べた?」
そこにいたのはこの時代のさくらさんだった。頭にはあの時の奇妙な猫が乗っかっていた。
「さくらちゃん、この人は兄さんじゃないわ」
「あれ? ほんとだ。音夢ちゃんと一緒にいるからお兄ちゃんかと思っちゃった。で、こんなところでみなさん大集合して何やってんの?」
「ああ、他の学園から来た人達を案内してたところよ」
「ふ~ん。音夢ちゃんのお仕事も大変だね」
それからさくらさんは僕達に向き直って楽しそうに笑った。
「ども、こんちわ♪ まあ、狭いところですが、ゆっくりしていってくだせぇ。んじゃ、僕は人を待たせてるんで、ばいび~」
時代劇で使うような台詞を残してさくらさんはその場を去っていった。
「うたまる~、お兄ちゃんのクラスはそっちじゃないよ!」
「うにゃ~ん」
さり際に、なんとなくあの猫がこっちを向いてお辞儀したような気がした。
「さて、みんな行くぞ」
義之が扉に手をかけて言った。
「さって、クリパは俺達を待ってるぜ」
「あ、そうだ! 今頃運営が大変なことになってるよ~」
「あっちゃ~、どうしたもんかねこりゃ。混乱は必至だわ」
「生徒会が不在で開催なんて、考えるだけでも恐ろしいですわ」
「わわ、委員会のお仕事、どうしよう……」
「みんな落ち着けよ。まだ向こうの時間が進んでるとは限らないだろ」
「むう、開催と同時に発動する予定だった仕掛けがオシャカになってしまうのは痛い……」
「くそぉ、まだ見ぬ可愛い子にアタック大作戦が遅れてしまったぁ~」
「あはは……もしクリパが進んでいたらどうしよう~?」
「委員長、大激怒間違いないわね」
「きっと、物理的にドカンと来るでしょうね」
「うわ~、ちょっと怖いかも」
「ていうか、そもそもこの扉の先はまた別の時間だったりな」
「もしくは、地球ではない他の場所へ行ってしまうことも……」
「え~!? そうなの!?」
「そ、その可能性は想定していませんでしたわ」
「雄二、杉並君、あまり煽らない!」
雄二と杉並君の言葉に小恋ちゃんとムラサキさんが本気になりかけていた。
「じゃあ、今度こそいくぞ」
義之がいよいよ扉を開いた。
「じゃあ、みんな、ありがとね」
「達者でな~」
「もし向こうで会えて、覚えておったら色々話そうぞ」
「……美少女を見つける自信はある」
「みんな、バイバイ」
「元気でね」
「まったね~」
「元気で」
「みんなの事、忘れねえぜ~」
「皆の者、さらばだ!」
「世話になったわね」
「みなさん、お元気で」
「それじゃあ、さようなら」
「また、未来で会いたいですね」
「お世話になりました」
僕達は一礼して順番に扉へと入っていった。
「さようなら」
「向こうに帰っても、お元気で」
「未来のバナナ、食べたかったです~」
「みんな、またね~」
「渉君、未来でバンドしてるの見たら、応援してるからね~」
去り際に、みんなの別れの声が聞こえた。そして僕達は扉の中をくぐっていき、夢のような空間のトンネルを抜けた。
その先が、まさか地獄の一丁目に繋がってるとも知らずに。