バカとダ・カーポと桜色の学園生活   作:慈信

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第二十五話

 

『ということで、本日の14時からクリスマスパーティーが開催されます。パーティーには一般のお客さんなど学院外からの来訪者もたくさん訪れます。なので、風見学園の生徒として恥ずかしくない行動をするよう心掛けてください』

 

 本日12月23日。待ちに待ったクリスパスパーティーが本日開催される。

 

 体育館の壇上でさくらさんがクリスマスパーティーの注意事項を述べている。

 

 ようやくクリパが始まろうとしてみんな一気に気持ちが高ぶっているみたいでざわざわと騒いでいる。

 

「おい、お前ら……今日の放課後、どうすんだ?」

 

 僕自身も高揚を覚えていると、渉が声をかけてきた。

 

「放課後?」

 

「んあ……特に決めてはいないけど」

 

「アホかお前らは! せっかく彼女ができるチャンスなんだぞ! 今日頑張んなくていつ頑張るんだ!」

 

 拳を力いっぱい握り締めながら宣言する。なんとなくかっこいいと一瞬思った。

 

 しかしどうしたものか。パーティーの間にやることは少しは考えてるけど、放課後はどうだろう。

 

 アイシアちゃん、今日ちゃんと来れるかな?

 

「ん? あ、そういうことですか? もう余裕ってことなんですね、この明久様と義之様は」

 

「いや、別に余裕ってわけじゃないけどさ」

 

「僕らの場合、生徒会のこともあるし」

 

「そういやお前ら、生徒会に入ったんだったな。ああ……てことはお前ら、始まりから終わりまでずっと音姫先輩や噂の美少女転校生のムラサキと一緒ってわけか」

 

「いや、四六時中一緒ってわけじゃ……」

 

「というか、ムラサキが生徒会に入ってるの知ってたのかよ」

 

「土屋に聞いた」

 

「なるほど」

 

 流石はムッツリーニ。生徒会の美少女メンバーも既にチェック済みということか。

 

 チェックといえば、小恋ちゃんは大丈夫なのだろうか? 練習の時も時々体調が悪い感じだし、少し前にも風邪で倒れそうになって義之が自宅まで送った時もあったし。

 

 今日だって少し調子が悪そうだ。杏ちゃんも無表情のようでどこか落ち着かない感じがする。自分のつくった脚本が人前で演じられるのも少なからず緊張するもんだろうし。

 

「でも、お前らの中には何人か候補がいそうな感じだけどさ」

 

「候補? って何のだよ」

 

「んなもん、決まってんだろ。恋人候補よ」

 

「はぁ?」

 

 渉の言葉に義之は間抜けな声を出した。

 

「アホかお前は。そんなんじゃないって」

 

「そうだよ」

 

「ふ~ん。なんかいやに真剣な顔してたからてっきり誰かの事考えてるかと思ったが」

 

「そういうお前はどうなんだよ?」

 

「俺か? 俺は……まぁ、なんだ」

 

 いつもの渉にしてはえらい歯切れの悪い言い回しだ。

 

「なんつーかさ、今回ばかりはちょっと真面目に決めてみようと思ってさ」

 

 いつもの渉を見る人なら何言ってんだと思うだろうが、今の彼の目は真剣なものだった。

 

「そろそろさ、俺もちゃんとした彼女ほしいわけだしな。ま、お互い頑張ろうぜ」

 

 にやりと笑みを浮かべて手を差し出し、僕達はそれに手を乗せて頷いた。

 

 しかし彼女ねぇ。僕の場合、どうなんだろ。僕と恋人になろうなんて人がいるとは思えないけど。

 

 でも、もし彼女ができるとなれば……例えばそうだな。ななかちゃんとか……?

 

 …………あれ? なんで今真っ先にななかちゃんのことを思いついたんだろう?

 

 こういったのは身近な友達から考える事なのに何故か真っ先にななかちゃんのことを思い浮かべた。

 

 なんでだと思ってる間にクリパの開会式は終わりまでいっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 開会式が終わってから僕達は午後の本番に向けて午前中も練習を重ねていた。

 

 かなり遅めに決めて配役もついこの間決まったばかりでハードなのは必須だったが、どうにかみんな形になったようでよかった。

 

「ふぃ~……喉カラカラだぜ」

 

「お疲れ様。ほい、スポドリでいいなら」

 

「サンキュ」

 

 義之にスポーツドリンクを手渡して休憩がてら廊下を歩く。中ではまだ杏ちゃんや沢井さんが相談してるのが見える。

 

 どうやらまだ何か気になる点とか色々あるのだろう。監督役としては。

 

 さて、気分転換で廊下に出てみたけど、やっぱりどこもクリパ同日だからか、すごい賑わってるな。

 

 午後から一般の来客もあるのだからその時の騒がしさはこれの何倍になるのやら。そう思って僕は窓の外を見た。

 

 そういえばアイシアちゃん、今日はちゃんと来てくれるかな?

 

「どうした明久? 何か気になるか?」

 

「ん? ああ、昨日ちょっと綺麗な人と会ってね」

 

「綺麗な?」

 

「うん。銀色の髪にルビーのような瞳の、北欧系の女の人だった。確かこの学校に1年くらいいたことがあるみたいでね。そしてここに戻ってフリマやってたところを見かけて色々話してるうちにここを案内することにして」

 

「なんだ。渉じゃないが、お前は既に予定埋めてあったってか?」

 

「そんなんじゃないよ。なんとなくそうした方がクリスマス楽しめるかなって思って」

 

「正確には今日はイヴイヴなんだが」

 

「それは言わない約束ってことで」

 

「とりあえず注意しとけよ。生徒会としての見回りだってあるし、渉に見られた日にはお前だって俺と同じ地獄を味わうことになるぞ」

 

「怖いこと言わないでよ」

 

 そんな会話を繰り広げている時だった。スピーカーから校内放送の合図が鳴り、スピーカーからさくらさんの声が流れ始める。

 

『付属3年3組の桜内義之君、付属3年3組の桜内義之君。至急、学園長室まで来てください。繰り返します。付属3年3組の桜内義之君、付属3年3組の桜内義之君。至急、学園長室まで来てください』

 

「ん? さくらさん?」

 

「どうしたんだろう? 呼び出しだなんて。それもこんな忙しい時に」

 

「よくはわからんが、さくらさんからの呼び出しなら行くか。ひとまず俺はさくらさんのところ行くっていうから、委員長に言っておいてくれ」

 

「了解」

 

 そう言い残して義之はさくらさんのいる学園長室へと向かっていった。さて、義之が来るまでとりあえず教室で時間潰すか。

 

 僕を混ぜての生徒会の見回りは午後からだし。高坂さんの意見でも杉並君達が本格的に動き出すのは午後だと予想したようだ。

 

 なので午前中は思いっきり練習に打ち込むとするか。見回りの時は僕の代わりに照明やってくれる人も小恋ちゃんが確保したみたいだから。

 

 だからと言ってサボるのはよくないので練習は続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 教室に戻り、僕は再び台本の方に目を通し始めた。

 

 自分の担当する照明を当てる場所とタイミングはしっかり覚えておかないと。

 

「あれ、桜内はどこかしら? まだ注意してほしい部分があるんだけど」

 

 あ、そうだ。義之の伝言すっかり忘れてたよ。

 

「あ、沢井さん。義之なら今用事で出てるよ」

 

「用事って、この忙しい時に何処行ってんのよあいつは」

 

「学園長室だよ。さっき放送で流れてたでしょ?」

 

「放送? そんなの流れてたかしら?」

 

「へ?」

 

 沢井さん、あの放送聞いてないのかな? 僕も義之も同時に聞こえたのだから聞き間違いはないと思うんだけど。

 

「とりあえず、義之がさくらさんのところで用事済ませるまでは練習しておこう」

 

 僕の言葉に沢井さんが溜息をついてその場を離れ、みんなと同じように台本を読み始めた。

 

 他のみんなも必死に台本を読んで自分の役割を頭に叩き込んでいるようだ。

 

 それが20分くらい続いた時だった。

 

「よ、よう……」

 

「あ、戻ったんだ。義之」

 

「遅いっ! 何やってたのよ!」

 

 義之が戻ってくると沢井さんは冠状態になって怒鳴りかかってきた。

 

「いや、学院長に放送で呼ばれてたから……」

 

「本当にそんな放送流れてたかしら?」

 

「んあ? 聞こえなかったのか? ちゃんと流れてたはずだけど、集中してて聞こえなかったんじゃねえのか?」

 

「もう、そういうことにするわ。それで、何? また何か悪さでもしたの? 呼び出しなんて受けて」

 

「俺が呼ばれたイコール俺が悪事を働いたって方式を成立させないでくれ。これでも善良な一般市民を自負している身だぞ」

 

「どの口が言うのかしら。それで、結局何だったわけ?」

 

「いや、それが呼び出した本人であるさくらさんが不在でさ」

 

「はぁ? 何それ? だって呼ばれたんでしょ?」

 

 変だな。呼び出した本人が不在だったなんて。悪戯? まさか学園長であるさくらさんが悪戯なんて……ないとも言い切れないか? さくらさんだし。

 

「ああ、もういいわ。さっさとスタンばってくれないかしら。ちょっと色々言いたいことあるし」

 

「悪ぃ。まだ他にも用事があるんでな。明久も一緒で」

 

「あ、もうそんな時間──って本当に急がないと遅れちゃうし!」

 

 時計を見て時間に遅れそうなのに気づき、僕と義之はダッシュで教室から走り去っていく。

 

「あ、ちょっと待ちなさい桜内! 話はまだ残ってる──」

 

 走り際に沢井さんの引き止める声が聞こえたけど、こっちも本当に忙しいから構っていられない。

 

 僕らはそのままある所へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

「2人共遅いっ!」

 

 生徒会室へ足を運び、扉を開けると同時に高坂さんの一喝が飛んできた。

 

「午後からいよいよクリパ本番だって時に最終対策会議に遅れるなんて気合が入ってない証拠だぞ」

 

「「すいません」」

 

 高坂さんから叱咤を受け、僕と義之は同時に頭を下げた。

 

 しかし、流石というかなんというか、高坂さんは他の人の倍は気合入っているな。

 

「全く。だから吉井なんか当てにするのは不安と申したのです。今からこれでは先が思いやられますわ」

 

「随分だな、ムラサキ。こっちだって色々あるんだよ」

 

 ムラサキさんにも駄目出しされる始末だし。

 

「すみません。実は来る途中で不思議なことに巻き込まれてしまいまして」

 

 僕がちょっと落ち込んでいるところに義之が不可解な事を言った。不思議な事って何?

 

「はいはい。言い訳は後にして席につく。時間もほとんとないし、会議を始めるから」

 

「って、もう少しくらい興味を持ってくださいよ!」

 

 あっさりと流す高坂さんに義之が全力でツッコミを入れた。

 

「高坂先輩の言葉が聞こえませんでしたの? 今の私達にはあなた方の言い訳を聞いている時間はないのです」

 

「達って、僕言い訳するつもりはないけど」

 

 いや、練習の方に熱中しすぎたってのは本当なんだよ。それは決して言い訳じゃない。断じて。

 

「あの……生徒会としてはアレのことは知っておいた方がいいと思うんですけど」

 

「生徒会として知っておいた方がいい事?」

 

 義之の言葉にようやく興味を示したのか高坂さんは義之の方を見つめた。

 

「ええ。アレをあのまま放置しておいていいものかどうか、俺にはちょっとばかり判断がつきかねますので」

 

「アレって、一体何ですの?」

 

 ムラサキさんも義之の言うアレなるものに興味を示したのか、首をかしげる。

 

「何があったの? 弟君」

 

 そこに音姫さんも加わってきた。そして周囲のみんなも義之の話に興味があるようで耳を傾けてきた。

 

 それから義之は苦い顔をしながらも話を始めた。

 

 そして、10分ばかり義之の話を聞いてみんなが怪訝な顔になった。

 

 それからすぐに高坂さんがうんうんと頷いて携帯を取り出してプッシュボタンを数回押して耳に当てた。

 

「あー、もしもし?  救急車、一人前。大至急で」

 

「気が狂ってるわけじゃありませんからね!」

 

 高坂さんが電話で呼びかけたのは救急車だった。いや、アレを聞いたら普通だったらそうなるだろうけど。

 

「いや、過去に通じている扉が学園長室にあるなんて……ねぇ。いや、弟君を疑ってるつもりはないけど」

 

 まあ。確かに普通だったら過去に通じる扉が学園長室にあるなんて話、誰も信じないだろうけど。

 

「で、どう思う? お三方は」

 

「ふ~ん、過去に繋がる謎の扉かぁ」

 

「そういう現象が全くないとも言い切れない……ですけど」

 

「空間を繋げる扉って、どこにでも出るものなのかぁ」

 

「ありゃ? 音姉や明久はともかく、ムラサキも信じるのか?」

 

「別に何から何まで他人の言葉を否定するつもりはありませんわ。根拠もなく物事をYES、NOで片付けるのは科学的ではないと思っただけ」

 

 義之の言葉を意外にもムラサキさんが信じたことに僕もちょっと驚いた。

 

「吉井も弟君の言葉が本当だと思ってる?」

 

「まあ、あってもおかしくないんじゃないかってくらいには」

 

 過去ってわけじゃないけど、僕だって世界の壁を越えてきた人間なんだし。過去に通じる扉があったってもう驚きはしない。

 

「まあ、弟君の言うことが本当だったとしたら、放っておくのもマズイわね」

 

「午後からクリパも始まるし、生徒会としてはできるだけ不安材料は残したくないしね」

 

「では、調査に向かいますか?」

 

「百聞は一見にしかずって言うし、こういうのは自分の目で確認するのが一番ね」

 

 そんなことで僕達は義之の言う過去へ通じる扉を調べに学園長室へ向かうことになった。

 

 それから生徒会の事はもうひとりの副会長に任せて義之を先頭に僕、音姫さん、高坂さん、ムラサキさんの5人が生徒会室を出て廊下を歩く。

 

 そんな時に見知った顔が出てきた。

 

「あれ、兄さん……それにお姉ちゃん達も」

 

「あ、由夢ちゃん」

 

「お、由夢。お前もサボりか?」

 

「『も』ってのが誰を指すのか気になるにゃ~」

 

 義之の言葉に反応した高坂さんが拳を作って尋ねてきた。

 

 義之の言ったサボリ魔も見つけたらその拳で殴りつけるのだろうか? だとしたらそのサボリ魔、ご愁傷様。

 

「私を兄さんと一緒にしないでください。こう見えても忙しいんですから」

 

「それは保健委員の仕事でってこと?」

 

 由夢ちゃんは保健委員だし。こういうお祭りでは怪我人だって少なくないだろうし、色々準備も必要だろう。

 

「それもありますし、クラスのお手伝いも色々と。いよいよ本番なんですから」

 

「お~、感心感心。姉妹揃って働き者だねぇ」

 

「本当です」

 

「ところで、こんな大人数でどうしたのですか? 巡回か何かで?」

 

「うん。そんなところかな?」

 

「実はさっき俺……」

 

「うむ? 明久ではないか。どうしたのじゃ? こんな大勢で」

 

「あ~、義之君もいる~。やっほ~」

 

「ちゃお」

 

「お、大人数じゃねえか。どうした? 揃いも揃って」

 

 後ろの方から声が聞こえて振り向くと、秀吉に雄二、杏ちゃんと茜ちゃんがいた。

 

「そっちもその人数でどうしたの?」

 

「うむ。雪村からちょっとばかり人形劇のことについてアドバイスがほしいというての。演劇部として少しは役にたつかと相談に乗っておったのじゃ」

 

「俺はまあ、出し物が出し物だから後は連中に任せてちょっと他が何やるのか見て回ってただけだ」

 

 秀吉の言葉には納得がいく。何百通りの声を真似ることができ、演技はもはやプロ並みと言っても過言ではないほどの腕前を持つ秀吉なら人形劇でもその演技力は発揮されるだろう。

 

 なので杏ちゃん達が秀吉に相談に行くのは納得がいく。

 

「ほ~、坂本ぉ。みんなが忙しい時にひとりサボリとはいい度胸だにゃ~」

 

「げっ……。生徒会まで連れてたのかよ」

 

 義之の言ってたサボリ魔を見つけ、高坂さんが獲物を見つけた猛獣のようなオーラを出してジリジリと雄二に近づいていく。

 

「それで、何か言いかけてましたけど。一体なんなんですか? こんな大勢で」

 

「ああ、実はさっき学園長室で……」

 

「弟君、弟君。その話、あまり軽々しく話さない方がいいよ。万が一、由夢ちゃんや他の人に危害が及んだら大変だし……」

 

「あ、そうか」

 

 義之が由夢ちゃんに例の扉の事を話そうとしたのを音姫さんが止めた。

 

 確かに過去の扉なんていうのが他の人に知られたらどんなことになるかわかったもんじゃないしね。

 

「確かに、まだ未確認事項だし、タチの悪い悪戯の線もある。もし弟君の言ってた事が事実だとしたら、それはそれで慎重に対処しなきゃだし」

 

「ここから先は生徒会の役目という事ですわね」

 

「その言い方、何か余計に気になるんですけど。兄さん、また何かやらかしたんですか?」

 

「何だ? 何やらおもしろそうな話をしてるじゃねえか?」

 

「学園長室って言ってたわね。何かそこにあるのかしら?」

 

 だがここで話したのがまずかった。ここには好奇心旺盛な人間が知ってるだけで3人いるのだから。

 

 そんな話をここですれば気になって、

 

「「ついていきます(いこうじゃねえか)」」

 

「は?」

 

 当然こうなるわけで。

 

「だから兄さん達についていきます。ここまで気になること言っておいて内緒と言われても納得できません」

 

「オマケにもう場所はわかってるんだ。駄目と言われようが、納得するまで帰るのは性分じゃねえんでな」

 

 もうここまで来たらこの2人は譲るつもりはないだろう。もう何を言っても無駄そうだ。

 

「じゃ、茜。小恋と渉、後は……白河さんを呼んでおいて」

 

「あいさ~」

 

 それに他にも人連れてきちゃうみたいだし。ここはもうこの人達を止めるよりはいっそ戦力増強という形で連れてった方がいいと思う。

 

「ああ、なんかどんどん増えていっちゃうよ」

 

「もうこうなってはここに来る人全員連れていくしかないわね」

 

「下手に突き放してこの話を広げさせるのもマズイですし」

 

「はぁ……」

 

 いつの間にか人が増えていったことに生徒会メンバーは溜息をついた。すみません、こんな友人達で。

 

 で、数分もすると杏ちゃんの予告通り、小恋ちゃんと渉、ななかちゃんが到着して僕達は大勢で学園長室へと向かった。

 

「そういや、学園長室に一体何があるんだ?」

 

「いや何って言われると……」

 

「そういえば、まだ聞いてませんでしたね。結局学園長室に何があるのですか?」

 

 渉の一言に全員が義之に迫っていく。そういえばまだ話してなかったね。

 

「いや、何がっていうと……学園長室で、過去の世界へ繋がる扉を見つけたんだ」

 

「カコ? カコって、あの過去? 時間の前後のうちの前の時間帯の」

 

「その過去で間違いない」

 

「えっと……兄さん、ひょっとして熱とかあります? だったらすぐに保健室で治療してあげますから──」

 

「そのリアクションはもういい」

 

「しかし過去って……なんか嘘くさいんだけど……」

 

「ああ、お前ら……いくら突拍子もないことだからって、端から疑うのはよくねえぞ」

 

「うむ。一年中桜が咲いていることも普通ならありえんことじゃからの。時間の違う場所に繋がったっておかしくはないぞい」

 

「あれ? 木下はともかく、坂本はこの手の話信じねえ奴だと思ったけど」

 

「ああ、まあなんつうか……なぁ」

 

 まあ、雄二も秀吉も僕と同じで異世界から来た人間だし、一年中桜の咲いている島を見たんだし、試験召喚獣に関しても色々あったからもう今更過去未来に行こうとそれくらいじゃもう驚く僕らじゃない。

 

「ま、なんでもいいけどよ。面白ければ」

 

「そういうこと。みんなで楽しめば怖くない♪」

 

「あのねあんた達。一応これ生徒会としての調査だかんね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふっ。遅かったな」

 

「……待ちくたびれた」

 

「うおっ!?」

 

 学園長室に入るとそこには杉並君とムッツリーニがいた。

 

「何してんだよ。しかも土屋まで一緒に……。ひとりで過去の世界に行ってたんじゃなかったのか?」

 

「ひとりで行ってもよかったのだが、ここで待っていれば同志桜内が必ずみんなを連れて戻ってくれると確信していた」

 

「……俺は杉並に呼ばれて来た。面白いことが起こっていると」

 

 どうやらムッツリーニは杉並君に誘われてこちらに来たようだ。

 

「とかなんとか言って、ホントはひとりで行くのが怖かったんじゃねーの?」

 

「ふふ、板橋よ。貴様がどう解釈をしようが、俺がみんなの到来を待っていたという事実は変わらないぞ」

 

「へいへい」

 

 渉のツッコミをいつも通り澄ました態度で軽く流す。

 

「ていうか杉並。学園長室の扉ってのもあんたの仕業なんてことはないでしょうね?」

 

 今まで後ろで控えていた高坂さんが手を鳴らしてジリジリと杉並に近づいていった。

 

「まあ、そう急くな高坂まゆき。その台詞は扉の向こうを見てからでも遅くはないぞ」

 

 杉並君に誘われて全員が視線を移すと掛け軸のある壁に鉄製の扉があった。

 

「これが、兄さんの言ってた例の扉?」

 

「こんなの、いつの間に作ったのかな……」

 

「わ~、本当に扉がある」

 

 みんなが例の扉を前に観察したり直に触って感触を確かめていた。

 

「う~ん……。確かにこれは悪戯レベルで作れる代物じゃなさそうね」

 

「それに、こんな所に扉を作る目的もメリットもよくわかりませんわ」

 

「第一この扉、どこに繋がってるわけでもないぞ。この壁の向こうに隠し部屋が作れるスペースなんてありゃしねえはずだ」

 

「そう。この扉はこの学園の教室、屋根裏、地下……そのどれとも繋がっていない。俺とて、こんな無目的な工作などしない。得られる対価があまりに少なすぎるからな」

 

「……こんな目立つ物を置く理由がない」

 

「杉並でも、土屋でもない。いよいよ厄介ね」

 

 全員まっとうな答えを得られず、四苦八苦していた。

 

「なあなあ、細かい事は置いておいてとにかく入ってみようぜ。扉ってのはくぐるもんだろ?」

 

「うむ……大丈夫なのかの?」

 

「大丈夫だろ。義之が一度くぐったんだから。じゃ、一番乗り! ひゃっほー!」

 

「では、いざ未知なる世界へレッツラゴー!」

 

「……参る」

 

 渉と杉並君、ムッツリーニが先に例の扉をくぐっていった。

 

「あ、こらちょっと、待ちなさ~い!」

 

「高坂先輩! 単独行動は危険です!」

 

 後を追うように高坂さんとムラサキさんが扉をくぐっていく。

 

「何だか面白くなってきたね~♪」

 

「私達も行きましょう」

 

 更に杏ちゃんと茜ちゃんが扉をくぐる。

 

「ど、どうしよう……弟君」

 

「みんな、行っちゃいましたね」

 

「けど、放っておくわけにもいかんし……」

 

「このままこの扉を放置しておいてどうなるかもわからんしの」

 

「まあ、面白そうだし行ってみようぜ」

 

「なんだかワクワクするね~」

 

「そ、そうかな?」

 

「とりあえず……追った方がいいよね」

 

 僕達も扉へ向かっていく。

 

「あ、音姉達は無理しないで戻ってもいいぞ」

 

 扉を潜る前に義之が音姫さんと由夢ちゃんを置いていこうとするが、

 

「だめだめ、一緒に行くって! お姉ちゃんがついていないと、弟君にもしものことがあったら大変でしょ」

 

 義之にとってはむしろ音姫さんの方が心配なんだろうけど、聞かないだろうな。この調子じゃ。

 

「私は、2人が心配だからついていくよ。保健委員だからみんなが怪我した時くらいは役に立つだろうし」

 

 こうしてメンバー全員がこの扉をくぐることになった。

 

 僕も深呼吸してからいざ、過去に通じる扉へと足を踏み入れた。

 


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